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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第十章 新たなる序章 (1)

Ⅰ …… 最終 的な 決戦 場 と なった 星 域 の 名 から 、〝 アムリッツァ 会戦 〟 と 呼称 さ れる こと に なった 一連の 戦闘 は 、 自由 惑星 同盟 フリー ・ プラネッツ 軍 の 全面 的な 敗退 に よって 結 着 を みた 。 同盟 軍 は 銀河 帝国 軍 の 戦略 的 後退 に よって 一時的に 占拠 した 二〇〇 余 の 辺境 恒星 系 を ことごとく 放棄 し 、 かろうじて イゼルローン 要塞 のみ を 確保 する こと と なった 。

同盟 軍 が 動員 した 兵力 は 三〇〇〇万 人 を こえた が 、 イゼルローン を へて 故国 に 生還 し えた 者 は 一〇〇〇万 人 に みた ず 、 未 帰還 率 は 七 割 に 達しよう と いう 惨状 であった 。

この 敗北 は 、 当然 ながら 同盟 の 政治 ・ 経済 ・ 社会 ・ 軍事 の 各 方面 に 巨大な 影 を 投げかけた 。 財政 当局 は 、 すでに 失わ れた 経費 と これ から 失わ れる 経費 ―― 遺族 へ の 一 時 金 や 年金 など ―― を 試算 して 青く なった 。 アスターテ に おける 損害 の 比 で は なかった のである 。

かくも 無謀な 遠征 を 強行 した 政府 と 軍部 にたいして は 、 遺族 や 反戦 派 から 激烈な 非難 と 弾劾 が あびせ られた 。 低次元の 選挙 戦略 や 、 ヒステリー の 参謀 の 出世 欲 に よって 夫 や 息子 を 失った 市民 の 怒り は 、 政府 と 軍部 を たたきのめした 。

「 人命 や 金銭 を 多く 費消 した と 言う が 、 それ 以上 に 尊重 す べき もの が ある のだ 。 感情 的な 厭 戦え ん せ ん 主義 に おちいる べきで は ない 」

主戦 派 の うち 、 なお 、 そう 抗弁 する 者 も いた が 、

「 金銭 は ともかく 、 人命 以上 に 尊重 す べき もの と は なに を 指して 言う の か 。 権力 者 の 保身 や 軍人 の 野心 か 。 二〇〇〇万 も の 将兵 の 血 を 無益に 流し 、 それ に 数 倍する 遺族 の 涙 を 流さ せ ながら 、 それ が 尊重 に 値せ ぬ もの と でも !?」

そう 詰めよら れる と 沈黙 せ ざる を え なかった 。 ごく 一部 の 、 良心 が 欠落 した 者 を のぞいて は 、 誰 でも 、 自分 は 無事に 生きて いる と いう 事実 に 、 忸怩 じくじたる もの を おぼえて いた から である 。

同盟 の 最高 評議 会 メンバー は 全員 、 辞表 を 提出 した 。

主戦 派 の 声望 が さがる と 、 相対 的に 反戦 派 が 脚光 を あびる こと に なる 。 遠征 に 反対 票 を 投じた 三 人 の 評議 員 は 、 その 識見 を たたえ られ 、 翌年 の 選挙 まで 国防 委員 長 トリューニヒト が 暫定 ざんてい 政権 首班 の 座 に 着く こと に なった 。

自宅 の 書斎 で 、 トリューニヒト は 自分 の 先見 を 誇って 祝杯 を あげた 。 彼 の 肩書 から 〝 暫定 〟 の 文字 が 消える まで 長く 待つ 必要 は ないで あろう 。

軍部 で は 、 統合 作戦 本 部長 シトレ 元帥 と 宇宙 艦隊 司令 長官 ロボス 元帥 が 、 ともに 辞任 した 。 ロボス は みずから の 失敗 に よって 競争 者 シトレ の 足 を も ひっぱった のだ と 噂 さ れた 。

勇 戦 して 戦死 した 二 人 の 艦隊 司令 官 、 ウランフ 中将 と ボロディン 中将 は 、 二 階級 特進 して 元帥 の 称号 を うけた 。 同盟 軍 に は 上級 大将 と いう 階級 が なく 、 大将 の 上 が すぐ 元帥 な のである 。

グリーンヒル 大将 は 左遷 されて 国防 委員 会 事務 総局 の 査閲 さ えつ 部長 と なり 、 対 帝国 軍事 行動 の 第一線 から はずさ れた 。 キャゼルヌ 少将 も 左遷 さ れ 、 国 内 の 第 一四 補給 基地 司令 官 と なって 首都 ハイネセン を 離れた 。 アムリッツァ 会戦 に おける 補給 の 失敗 に 、 誰 か が 責任 を とら ねば なら なかった のだ 。 彼 は 家族 を 首都 に 残して 、 五〇〇 光年 を へだてた 辺境 の 地 に 赴任 して いった 。 彼 の 妻 は ふた り の 幼い 娘 を つれて 実家 に 身 を よせた 。

フォーク 准将 は 療養 の のち 、 予備 役 編入 を 命ぜ られ 、 野心 を 絶た れた か に みえる 。

こうして 同盟 軍 の 首脳 部 は 、 人 的 資源 の いちじるしい 欠乏 状態 を しめす こと に なった 。 なん ぴと が その 空席 を 埋める の か 。

統合 作戦 本 部長 の 座 に 着き 、 それ に ともなって 中将 から 大将 に 昇進 した の は 、 それ まで 第 一 艦隊 司令 官 であった クブルスリー である 。

彼 は アスターテ 、 アムリッツァ 、 いずれ の 会戦 に も 参加 して おら ず 、 したがって 敗戦 の 責 を おう こと も なかった 。 彼 は 首都 警備 と 国 内 治安 の 任 に あたり 、 伝統 ある 宇宙 海賊 組織 の 討伐 と 航路 の 安全 確保 に 堅実な 成果 を あげて いた 。 士官 学校 を 優秀な 成績 で 卒業 し 、 いずれ 軍人 と して 最高峰 に のぼる こと は 確実 視 されて いた が 、 本人 も 予想 し なかった スピード で 、 それ が 実現 した わけである 。 クブルスリー の 後任 と して 第 一 艦隊 司令 官 と なった の は 、 アスターテ 会戦 で 負傷 し 療養 生活 を 送って いた パエッタ 中将 だった 。

宇宙 艦隊 司令 長官 に 就任 した の は ビュコック で 、 当然 、 それ に ともなって 大将 に 昇進 した 。 宿 将 しゅくしょう が 宿 将 たる に ふさわしい 地位 に 就いた わけで 、 この 人事 は 軍 の 内外 に 好評 を 博した 。 いかに 声望 の 高い ビュコック でも 、 兵士 あがり である 以上 、 このような 事態 で なければ 、 宇宙 艦隊 司令 長官 の 職 に は 就け なかった だろう 。 その 意味 で は 、 きわめて 皮肉で 、 しかも よい 結果 が 、 惨敗 と いう 不幸 から 生みださ れた こと に なる 。

ヤン ・ ウェンリー の 処遇 は すぐに は 決定 し なかった 。

彼 は 指揮 下 に ある 第 一三 艦隊 将兵 の 七 割 以上 を 生還 さ せ 、 その 生還 率 は 比類 ない 高 さ を しめした 。 彼 が 、 安全な 場所 に 隠れて いた 、 と は な ん ぴと も 非難 でき なかった 。 第 一三 艦隊 は つねに 激戦 の ただなか に あり 、 しかも 最後 まで 戦場 に 残って 味方 の 脱出 に 力 を つくした のだ 。

クブルスリー は 、 ヤン が 統合 作戦 本部 の 幕僚 総監 に 就任 する こと を のぞんだ 。 ビュコック は 、 ヤン に 宇宙 艦隊 総 参謀 長 の 席 を 用意 する と 言明 した 。

いっぽう 、 もはや 第 一三 艦隊 の 兵士 たち に とって 、 ヤン 以外 の 指揮 官 を 頭上 に いただく の は 考え られ ない こと だった 。 いみじくも シェーンコップ が 評した ように 、 兵士 たち は 能力 と 運 の 双方 を 兼備 する 指揮 官 を 欲する もの だ 。 それ が 彼ら に とって 生存 を 可能に する 最善 の 方法 である から 。

処遇 が さだまら ない あいだ 、 ヤン は 長期 休暇 を とって 惑星 ミトラ に おもむいた 。 ハイネセン の 官舎 に いる と 、 不敗 の 英雄 に 会いたい と おしかける 市民 や ジャーナリスト で 外出 も ままならない 状態 であり 、 TV 電話 ヴィジホン も 鳴りっぱなし で 、 休める もの で は なかった のだ 。 文章 電送 機 は 秒 単位 で 手紙 を 吐きだした 。 その なか に あった 憂国 騎士 団 本部 から の 「 愛国 の 名将 を たたえる 」 と いう 一 文 は ヤン を 失笑 さ せた が 、 第 一三 艦隊 の 戦死 した 兵士 の 母親 から 送りつけ られた 一 文 ――「 あなた も しょせん は 殺人 者 の 仲間 だ 」―― は 彼 の 気 を くじか せた 。 実際 、 五十 歩 百 歩 な のだ 。 名誉 も 栄光 も 、 無名 の 兵士 たち の 累 々 るい るい たる 死 屍 しし の うえ に のみ 、 きずかれて ゆく ……。 ユリアン が 休暇 旅行 を 提案 した の は 、〝 落ちこんだ 〟 うえ に 酒量 が いちだん と ふえた ヤン を 、 見かねた から であろう 。 酔って 騒いだり からんだり する ヤン で は ない が 、 楽しんで 飲む 酒 で は ない から 身体 に よかろう はず は ない 。

ユリアン の 提案 に 、 ヤン は 多少 は 自覚 が あった の か 、 素直に 応じた 。 三 週間 を 緑 したたる 自然の なか で すごし 、 アルコール の 気 を ぬいて 首都 に 帰る と 、 辞令 が 彼 を 待って いた 。

イゼルローン 要塞 司令 官 ・ 兼 ・ イゼルローン 駐留 艦隊 司令 官 ・ 兼 ・ 同盟 軍 最高 幕僚 会議 議員 。

それ が ヤン ・ ウェンリー に あたえ られた あらたな 身分 だった 。 階級 も 大将 に 昇進 した 。 二〇 代 の 大将 は いく つ か の 前例 が あった が 、 将官 の 年間 三 階級 昇進 は 初めて の こと である 。

イゼルローン 駐留 艦隊 は 、 旧 第 一〇・ 第 一三 の 両 艦隊 を 合した もの で 、〝 ヤン 艦隊 〟 と いう 通称 を 公式 に 認められる こと に なった 。 若い 国家 的 英雄 にたいして 、 同盟 軍 は 最 上級 の 好意 を しめした と 言って よい 。 ただ 、 それ は どこまでも ヤン の 本意 と は ことなって いた 。 彼 は 出世 より 引退 を 、 武人 と して の 名誉 より 民間 人 と して の 平和 を のぞんで いた のだ から 。

とにかく 、 ヤン は イゼルローン に 赴任 し 、 国防 の 第一線 に おける 総 指揮 を とる こと と なった 。

当然 、 ハイネセン で の 生活 は 終わる が 、 ユリアン 少年 を どう する か 、 が 、 ヤン の 思案 の 種 に なった 。 キャゼルヌ 夫人 の 実家 に あずかって もらう こと も 考えた が 、 ユリアン に は 、 ヤン の 傍 を 離れる 意思 は まったく なかった 。

最初 から ついていく つもりで 準備 を すすめる ユリアン を 見て 、 ためらい ながら も ヤン は けっきょく 、 つれて いく こと に した 。 いずれ 身辺 の 世話 を する ため に 従 卒 が つけられる のだ から 、 それ なら ユリアン に まかせた ほう が なにかと 気楽 と いう もの だ 。 自分 と おなじ 道 を 歩ま せ たく ない と 思い ながら も 、 ヤン は ユリアン を 手放し たく なかった のである 。 ユリアン は 兵 長 待遇 軍属 と いう 身分 を 軍 から あたえ られ 、 給料 も 支払わ れる こと に なった 。

むろん 、 ユリアン だけ が ヤン に したがった わけで は ない 。

副 官 は フレデリカ ・ グリーンヒル 。 駐留 艦隊 副 司令 官 は フィッシャー 。 そして 要塞 防御 指揮 官 と して シェーンコップ 。 参謀 に ムライ と パトリチェフ 、 そして アスターテ 会戦 で ヤン を 補佐 した ラオ 。 要塞 第 一 空 戦 隊長 に ポプラン 。 そのほか 、 旧 第 一〇 艦隊 から 参加 した 幕僚 も おり 、〝 ヤン 艦隊 〟 は 陣容 を ととのえ つつ あった 。

これ で キャゼルヌ が 事務 面 を 担当 して くれたら 、 と 、 ヤン は 思い 、 可能な かぎり 早く 彼 を 呼ぶ こと に しよう と 考える のだった 。

それにしても 、 気 に かかる の は 帝国 軍 の 動向 である 。 ローエングラム 伯 ラインハルト は ともかく 、 彼 の 武 勲 に 刺激 さ れた 大 貴族 出身 の 提督 たち が 、 同盟 軍 の 抵抗 力 が 弱まった この 時機 を 狙って 、 侵攻 を たくらむ ので は ない だろう か 。

…… しかし 、 その 不安 は さいわいに して 現実 の もの と は なら なかった 。 銀河 帝国 の 国 内 に 容易 なら ざる 事態 が 生じ 、 外 征 を おこなう 余裕 など なくなって しまった のである 。

それ は 皇帝 フリードリヒ 四 世 の 急死 であった 。

Ⅱ アムリッツァ で 大 捷たいしょう を えて 帰還 した ラインハルト を 迎えた もの は 、 帝国 首都 オーディン の 地表 を 埋めつくす か に 見える 弔 旗 ちょうき の 群 であった 。 皇帝 崩御 ほうぎょ !

死因 は 急性 の 心臓 疾患 と さ れた 。 遊 蕩 ゆうとう と 不摂生に よって 皇帝 個人 の 肉体 が 衰弱 して いた だけ で なく 、 ゴールデンバウム 皇家 の 血統 それ じたい が 濁り はて 、 生命 体 と して 劣 弱 な もの に なって いる こと を しめす か の ような 、 突然 すぎる 死 であった 。

「 皇帝 が 死んだ ? 」 さすが に 呆然と した 表情 を 浮かべて 配下 の 諸 将 を ながめ ながら 、 ラインハルト は 心 の 奥 で つぶやいた 。 「 心臓 疾患 だ と …… 自然 死 か 。 あの 男 に は もったいない 」

あと 五 年 、 否 、 二 年 長く 生きて いれば 、 おかした 罪悪 に ふさわしい 死 に ざま を さ せて やった のに 、 と 思う 。

視線 を キルヒアイス に むける と 、 共通の 心情 を こめた 彼 の 瞳 に であった ―― それ は ラインハルト ほど 激しく は ない が 、 あるいは より 深かった かも しれ ない 。


…… 最終 的な 決戦 場 と なった 星 域 の 名 から 、〝 アムリッツァ 会戦 〟 と 呼称 さ れる こと に なった 一連の 戦闘 は 、 自由 惑星 同盟 フリー ・ プラネッツ 軍 の 全面 的な 敗退 に よって 結 着 を みた 。 同盟 軍 は 銀河 帝国 軍 の 戦略 的 後退 に よって 一時的に 占拠 した 二〇〇 余 の 辺境 恒星 系 を ことごとく 放棄 し 、 かろうじて イゼルローン 要塞 のみ を 確保 する こと と なった 。

同盟 軍 が 動員 した 兵力 は 三〇〇〇万 人 を こえた が 、 イゼルローン を へて 故国 に 生還 し えた 者 は 一〇〇〇万 人 に みた ず 、 未 帰還 率 は 七 割 に 達しよう と いう 惨状 であった 。

この 敗北 は 、 当然 ながら 同盟 の 政治 ・ 経済 ・ 社会 ・ 軍事 の 各 方面 に 巨大な 影 を 投げかけた 。 財政 当局 は 、 すでに 失わ れた 経費 と これ から 失わ れる 経費 ―― 遺族 へ の 一 時 金 や 年金 など ―― を 試算 して 青く なった 。 アスターテ に おける 損害 の 比 で は なかった のである 。

かくも 無謀な 遠征 を 強行 した 政府 と 軍部 にたいして は 、 遺族 や 反戦 派 から 激烈な 非難 と 弾劾 が あびせ られた 。 低次元の 選挙 戦略 や 、 ヒステリー の 参謀 の 出世 欲 に よって 夫 や 息子 を 失った 市民 の 怒り は 、 政府 と 軍部 を たたきのめした 。

「 人命 や 金銭 を 多く 費消 した と 言う が 、 それ 以上 に 尊重 す べき もの が ある のだ 。 感情 的な 厭 戦え ん せ ん 主義 に おちいる べきで は ない 」

主戦 派 の うち 、 なお 、 そう 抗弁 する 者 も いた が 、

「 金銭 は ともかく 、 人命 以上 に 尊重 す べき もの と は なに を 指して 言う の か 。 権力 者 の 保身 や 軍人 の 野心 か 。 二〇〇〇万 も の 将兵 の 血 を 無益に 流し 、 それ に 数 倍する 遺族 の 涙 を 流さ せ ながら 、 それ が 尊重 に 値せ ぬ もの と でも !?」

そう 詰めよら れる と 沈黙 せ ざる を え なかった 。 ごく 一部 の 、 良心 が 欠落 した 者 を のぞいて は 、 誰 でも 、 自分 は 無事に 生きて いる と いう 事実 に 、 忸怩 じくじたる もの を おぼえて いた から である 。

同盟 の 最高 評議 会 メンバー は 全員 、 辞表 を 提出 した 。

主戦 派 の 声望 が さがる と 、 相対 的に 反戦 派 が 脚光 を あびる こと に なる 。 遠征 に 反対 票 を 投じた 三 人 の 評議 員 は 、 その 識見 を たたえ られ 、 翌年 の 選挙 まで 国防 委員 長 トリューニヒト が 暫定 ざんてい 政権 首班 の 座 に 着く こと に なった 。

自宅 の 書斎 で 、 トリューニヒト は 自分 の 先見 を 誇って 祝杯 を あげた 。 彼 の 肩書 から 〝 暫定 〟 の 文字 が 消える まで 長く 待つ 必要 は ないで あろう 。

軍部 で は 、 統合 作戦 本 部長 シトレ 元帥 と 宇宙 艦隊 司令 長官 ロボス 元帥 が 、 ともに 辞任 した 。 ロボス は みずから の 失敗 に よって 競争 者 シトレ の 足 を も ひっぱった のだ と 噂 さ れた 。

勇 戦 して 戦死 した 二 人 の 艦隊 司令 官 、 ウランフ 中将 と ボロディン 中将 は 、 二 階級 特進 して 元帥 の 称号 を うけた 。 同盟 軍 に は 上級 大将 と いう 階級 が なく 、 大将 の 上 が すぐ 元帥 な のである 。

グリーンヒル 大将 は 左遷 されて 国防 委員 会 事務 総局 の 査閲 さ えつ 部長 と なり 、 対 帝国 軍事 行動 の 第一線 から はずさ れた 。 キャゼルヌ 少将 も 左遷 さ れ 、 国 内 の 第 一四 補給 基地 司令 官 と なって 首都 ハイネセン を 離れた 。 アムリッツァ 会戦 に おける 補給 の 失敗 に 、 誰 か が 責任 を とら ねば なら なかった のだ 。 彼 は 家族 を 首都 に 残して 、 五〇〇 光年 を へだてた 辺境 の 地 に 赴任 して いった 。 彼 の 妻 は ふた り の 幼い 娘 を つれて 実家 に 身 を よせた 。

フォーク 准将 は 療養 の のち 、 予備 役 編入 を 命ぜ られ 、 野心 を 絶た れた か に みえる 。

こうして 同盟 軍 の 首脳 部 は 、 人 的 資源 の いちじるしい 欠乏 状態 を しめす こと に なった 。 なん ぴと が その 空席 を 埋める の か 。

統合 作戦 本 部長 の 座 に 着き 、 それ に ともなって 中将 から 大将 に 昇進 した の は 、 それ まで 第 一 艦隊 司令 官 であった クブルスリー である 。

彼 は アスターテ 、 アムリッツァ 、 いずれ の 会戦 に も 参加 して おら ず 、 したがって 敗戦 の 責 を おう こと も なかった 。 彼 は 首都 警備 と 国 内 治安 の 任 に あたり 、 伝統 ある 宇宙 海賊 組織 の 討伐 と 航路 の 安全 確保 に 堅実な 成果 を あげて いた 。 士官 学校 を 優秀な 成績 で 卒業 し 、 いずれ 軍人 と して 最高峰 に のぼる こと は 確実 視 されて いた が 、 本人 も 予想 し なかった スピード で 、 それ が 実現 した わけである 。 クブルスリー の 後任 と して 第 一 艦隊 司令 官 と なった の は 、 アスターテ 会戦 で 負傷 し 療養 生活 を 送って いた パエッタ 中将 だった 。

宇宙 艦隊 司令 長官 に 就任 した の は ビュコック で 、 当然 、 それ に ともなって 大将 に 昇進 した 。 宿 将 しゅくしょう が 宿 将 たる に ふさわしい 地位 に 就いた わけで 、 この 人事 は 軍 の 内外 に 好評 を 博した 。 いかに 声望 の 高い ビュコック でも 、 兵士 あがり である 以上 、 このような 事態 で なければ 、 宇宙 艦隊 司令 長官 の 職 に は 就け なかった だろう 。 その 意味 で は 、 きわめて 皮肉で 、 しかも よい 結果 が 、 惨敗 と いう 不幸 から 生みださ れた こと に なる 。

ヤン ・ ウェンリー の 処遇 は すぐに は 決定 し なかった 。

彼 は 指揮 下 に ある 第 一三 艦隊 将兵 の 七 割 以上 を 生還 さ せ 、 その 生還 率 は 比類 ない 高 さ を しめした 。 彼 が 、 安全な 場所 に 隠れて いた 、 と は な ん ぴと も 非難 でき なかった 。 第 一三 艦隊 は つねに 激戦 の ただなか に あり 、 しかも 最後 まで 戦場 に 残って 味方 の 脱出 に 力 を つくした のだ 。

クブルスリー は 、 ヤン が 統合 作戦 本部 の 幕僚 総監 に 就任 する こと を のぞんだ 。 ビュコック は 、 ヤン に 宇宙 艦隊 総 参謀 長 の 席 を 用意 する と 言明 した 。

いっぽう 、 もはや 第 一三 艦隊 の 兵士 たち に とって 、 ヤン 以外 の 指揮 官 を 頭上 に いただく の は 考え られ ない こと だった 。 いみじくも シェーンコップ が 評した ように 、 兵士 たち は 能力 と 運 の 双方 を 兼備 する 指揮 官 を 欲する もの だ 。 それ が 彼ら に とって 生存 を 可能に する 最善 の 方法 である から 。

処遇 が さだまら ない あいだ 、 ヤン は 長期 休暇 を とって 惑星 ミトラ に おもむいた 。 ハイネセン の 官舎 に いる と 、 不敗 の 英雄 に 会いたい と おしかける 市民 や ジャーナリスト で 外出 も ままならない 状態 であり 、 TV 電話 ヴィジホン も 鳴りっぱなし で 、 休める もの で は なかった のだ 。 文章 電送 機 は 秒 単位 で 手紙 を 吐きだした 。 その なか に あった 憂国 騎士 団 本部 から の 「 愛国 の 名将 を たたえる 」 と いう 一 文 は ヤン を 失笑 さ せた が 、 第 一三 艦隊 の 戦死 した 兵士 の 母親 から 送りつけ られた 一 文 ――「 あなた も しょせん は 殺人 者 の 仲間 だ 」―― は 彼 の 気 を くじか せた 。 実際 、 五十 歩 百 歩 な のだ 。 名誉 も 栄光 も 、 無名 の 兵士 たち の 累 々 るい るい たる 死 屍 しし の うえ に のみ 、 きずかれて ゆく ……。 ユリアン が 休暇 旅行 を 提案 した の は 、〝 落ちこんだ 〟 うえ に 酒量 が いちだん と ふえた ヤン を 、 見かねた から であろう 。 酔って 騒いだり からんだり する ヤン で は ない が 、 楽しんで 飲む 酒 で は ない から 身体 に よかろう はず は ない 。

ユリアン の 提案 に 、 ヤン は 多少 は 自覚 が あった の か 、 素直に 応じた 。 三 週間 を 緑 したたる 自然の なか で すごし 、 アルコール の 気 を ぬいて 首都 に 帰る と 、 辞令 が 彼 を 待って いた 。

イゼルローン 要塞 司令 官 ・ 兼 ・ イゼルローン 駐留 艦隊 司令 官 ・ 兼 ・ 同盟 軍 最高 幕僚 会議 議員 。

それ が ヤン ・ ウェンリー に あたえ られた あらたな 身分 だった 。 階級 も 大将 に 昇進 した 。 二〇 代 の 大将 は いく つ か の 前例 が あった が 、 将官 の 年間 三 階級 昇進 は 初めて の こと である 。

イゼルローン 駐留 艦隊 は 、 旧 第 一〇・ 第 一三 の 両 艦隊 を 合した もの で 、〝 ヤン 艦隊 〟 と いう 通称 を 公式 に 認められる こと に なった 。 若い 国家 的 英雄 にたいして 、 同盟 軍 は 最 上級 の 好意 を しめした と 言って よい 。 ただ 、 それ は どこまでも ヤン の 本意 と は ことなって いた 。 彼 は 出世 より 引退 を 、 武人 と して の 名誉 より 民間 人 と して の 平和 を のぞんで いた のだ から 。

とにかく 、 ヤン は イゼルローン に 赴任 し 、 国防 の 第一線 に おける 総 指揮 を とる こと と なった 。

当然 、 ハイネセン で の 生活 は 終わる が 、 ユリアン 少年 を どう する か 、 が 、 ヤン の 思案 の 種 に なった 。 キャゼルヌ 夫人 の 実家 に あずかって もらう こと も 考えた が 、 ユリアン に は 、 ヤン の 傍 を 離れる 意思 は まったく なかった 。

最初 から ついていく つもりで 準備 を すすめる ユリアン を 見て 、 ためらい ながら も ヤン は けっきょく 、 つれて いく こと に した 。 いずれ 身辺 の 世話 を する ため に 従 卒 が つけられる のだ から 、 それ なら ユリアン に まかせた ほう が なにかと 気楽 と いう もの だ 。 自分 と おなじ 道 を 歩ま せ たく ない と 思い ながら も 、 ヤン は ユリアン を 手放し たく なかった のである 。 ユリアン は 兵 長 待遇 軍属 と いう 身分 を 軍 から あたえ られ 、 給料 も 支払わ れる こと に なった 。

むろん 、 ユリアン だけ が ヤン に したがった わけで は ない 。

副 官 は フレデリカ ・ グリーンヒル 。 駐留 艦隊 副 司令 官 は フィッシャー 。 そして 要塞 防御 指揮 官 と して シェーンコップ 。 参謀 に ムライ と パトリチェフ 、 そして アスターテ 会戦 で ヤン を 補佐 した ラオ 。 要塞 第 一 空 戦 隊長 に ポプラン 。 そのほか 、 旧 第 一〇 艦隊 から 参加 した 幕僚 も おり 、〝 ヤン 艦隊 〟 は 陣容 を ととのえ つつ あった 。

これ で キャゼルヌ が 事務 面 を 担当 して くれたら 、 と 、 ヤン は 思い 、 可能な かぎり 早く 彼 を 呼ぶ こと に しよう と 考える のだった 。

それにしても 、 気 に かかる の は 帝国 軍 の 動向 である 。 ローエングラム 伯 ラインハルト は ともかく 、 彼 の 武 勲 に 刺激 さ れた 大 貴族 出身 の 提督 たち が 、 同盟 軍 の 抵抗 力 が 弱まった この 時機 を 狙って 、 侵攻 を たくらむ ので は ない だろう か 。

…… しかし 、 その 不安 は さいわいに して 現実 の もの と は なら なかった 。 銀河 帝国 の 国 内 に 容易 なら ざる 事態 が 生じ 、 外 征 を おこなう 余裕 など なくなって しまった のである 。

それ は 皇帝 フリードリヒ 四 世 の 急死 であった 。

アムリッツァ で 大 捷たいしょう を えて 帰還 した ラインハルト を 迎えた もの は 、 帝国 首都 オーディン の 地表 を 埋めつくす か に 見える 弔 旗 ちょうき の 群 であった 。 皇帝 崩御 ほうぎょ !

死因 は 急性 の 心臓 疾患 と さ れた 。 遊 蕩 ゆうとう と 不摂生に よって 皇帝 個人 の 肉体 が 衰弱 して いた だけ で なく 、 ゴールデンバウム 皇家 の 血統 それ じたい が 濁り はて 、 生命 体 と して 劣 弱 な もの に なって いる こと を しめす か の ような 、 突然 すぎる 死 であった 。

「 皇帝 が 死んだ ? 」

さすが に 呆然と した 表情 を 浮かべて 配下 の 諸 将 を ながめ ながら 、 ラインハルト は 心 の 奥 で つぶやいた 。

「 心臓 疾患 だ と …… 自然 死 か 。 あの 男 に は もったいない 」

あと 五 年 、 否 、 二 年 長く 生きて いれば 、 おかした 罪悪 に ふさわしい 死 に ざま を さ せて やった のに 、 と 思う 。

視線 を キルヒアイス に むける と 、 共通の 心情 を こめた 彼 の 瞳 に であった ―― それ は ラインハルト ほど 激しく は ない が 、 あるいは より 深かった かも しれ ない 。