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LibriVOX 04 - Japanese, (9) Yuubinkyoku - 郵便局 (Sakutarō Hagiwara - 萩原朔太郎)

(9) Yuubinkyoku - 郵便 局 ( Sakutarō Hagiwara - 萩原 朔 太郎 )

郵便 局 と いふ もの は 、 港 や 停車場 や と 同じく 、 人生 の 遠い 旅情 を 思 は す ところ の 、 悲しい の すたる ぢや [#「 の すたる ぢや 」 に 傍点 ] の 存在 である 。 局員 は あわただし げ に スタンプ を 捺 し 、 人人 は 窓口 に 群 が つて ゐる 。 わけても 貧しい 女工 の 群 ( むれ ) が 、 日給 の 貯金 通帳 を 手 に し ながら 、 窓口 に 列 を つく つて 押し 合って ゐる 。 或る 人人 は 為替 ( かわせ ) を 組み入れ 、 或る 人人 は 遠 国 へ の 、 かなしい 電報 を 打た う と して ゐる 。 いつも 急 が しく 、 あわただしく 、 群衆 に よ つて もまれて ゐる 、 不思議な 物悲しい 郵便 局 よ 。 私 は そこ に 来て 手紙 を 書き 、 そこ に 来て 人生 の 郷愁 を 見る の が 好きだ 。 田舎 の 粗野な 老婦 が 居て 、 側 の 人 に たのみ 、 手紙 の 代筆 を 懇願 して ゐる 。 彼女 の 貧しい 村 の 郷里 で 、 孤独に 暮して ゐる 娘 の 許 ( もと ) へ 、 秋 の 袷 ( あわせ ) や 襦袢 ( じ ゆ ばん ) や を 、 小包 で 送 つた と いふ 通知 である 。 郵便 局 ! 私 は その 郷愁 を 見る の が 好きだ 。 生活 の さまざまな 悲哀 を 抱き ながら 、 そこ の 薄暗い 壁 の 隅 で 、 故郷 へ の 手紙 を 書いて ゐる 若い 女 よ ! 鉛筆 の 心 も 折れ 、 文字 も 涙 に よごれて 乱れて ゐる 。 何 を この 人生 から 、 若い 娘 たち が 苦し むだ ら う 。 我我 も また 君 等 と 同じく 、 絶望 の すり切れた 靴 を はいて 、 生活 ( ライフ ) の 港 港 を 漂泊 して ゐる 。 永遠に 、 永遠に 、 我我 の 家 なき 魂 は 凍えて ゐる のだ 。 郵便 局 と いふ もの は 、 港 や 停車場 と 同じ や うに 、 人生 の 遠い 旅情 を 思 は す ところ の 、 魂 の 永遠の の すたる ぢや [#「 の すたる ぢや 」 に 傍点 ] だ 。 (『 若草 』1929 年 3 月 号 )


(9) Yuubinkyoku - 郵便 局 ( Sakutarō Hagiwara - 萩原 朔 太郎 ) |ゆうびん|きょく|||はぎはら|さく|たろう (9) Yuubinkyoku - Postamt (Sakutarō Hagiwara - Hagiwara Sakutaro) (9) Yuubinkyoku - Correios (Sakutarō Hagiwara - Hagiwara Sakutaro)

郵便 局 と いふ もの は 、 港 や 停車場 や と 同じく 、 人生 の 遠い 旅情 を 思 は す ところ の 、 悲しい の すたる ぢや [#「 の すたる ぢや 」 に 傍点 ] の 存在 である 。 ゆうびん|きょく|||||こう||ていしゃば|||おなじく|じんせい||とおい|りょじょう||おも|||||かなしい||||||||ぼうてん||そんざい| 局員 は あわただし げ に スタンプ を 捺 し 、 人人 は 窓口 に 群 が つて ゐる 。 きょくいん|||||すたんぷ||なつ||ひとびと||まどぐち||ぐん||| わけても 貧しい 女工 の 群 ( むれ ) が 、 日給 の 貯金 通帳 を 手 に し ながら 、 窓口 に 列 を つく つて 押し 合って ゐる 。 |まずしい|じょこう||ぐん|||にっきゅう||ちょきん|つうちょう||て||||まどぐち||れつ||||おし|あって| 或る 人人 は 為替 ( かわせ ) を 組み入れ 、 或る 人人 は 遠 国 へ の 、 かなしい 電報 を 打た う と して ゐる 。 ある|ひとびと||かわせ|||くみいれ|ある|ひとびと||とお|くに||||でんぽう||うた|||| いつも 急 が しく 、 あわただしく 、 群衆 に よ つて もまれて ゐる 、 不思議な 物悲しい 郵便 局 よ 。 |きゅう||||ぐんしゅう||||||ふしぎな|ものがなしい|ゆうびん|きょく| 私 は そこ に 来て 手紙 を 書き 、 そこ に 来て 人生 の 郷愁 を 見る の が 好きだ 。 わたくし||||きて|てがみ||かき|||きて|じんせい||きょうしゅう||みる|||すきだ 田舎 の 粗野な 老婦 が 居て 、 側 の 人 に たのみ 、 手紙 の 代筆 を 懇願 して ゐる 。 いなか||そやな|ろうふ||いて|がわ||じん|||てがみ||だいひつ||こんがん|| 彼女 の 貧しい 村 の 郷里 で 、 孤独に 暮して ゐる 娘 の 許 ( もと ) へ 、 秋 の 袷 ( あわせ ) や 襦袢 ( じ ゆ ばん ) や を 、 小包 で 送 つた と いふ 通知 である 。 かのじょ||まずしい|むら||きょうり||こどくに|くらして||むすめ||ゆる|||あき||あわせ|||じゅばん||||||こづつみ||おく||||つうち| 郵便 局 ! ゆうびん|きょく 私 は その 郷愁 を 見る の が 好きだ 。 わたくし|||きょうしゅう||みる|||すきだ 生活 の さまざまな 悲哀 を 抱き ながら 、 そこ の 薄暗い 壁 の 隅 で 、 故郷 へ の 手紙 を 書いて ゐる 若い 女 よ ! せいかつ|||ひあい||いだき||||うすぐらい|かべ||すみ||こきょう|||てがみ||かいて||わかい|おんな| 鉛筆 の 心 も 折れ 、 文字 も 涙 に よごれて 乱れて ゐる 。 えんぴつ||こころ||おれ|もじ||なみだ|||みだれて| 何 を この 人生 から 、 若い 娘 たち が 苦し むだ ら う 。 なん|||じんせい||わかい|むすめ|||にがし||| 我我 も また 君 等 と 同じく 、 絶望 の すり切れた 靴 を はいて 、 生活 ( ライフ ) の 港 港 を 漂泊 して ゐる 。 われわれ|||きみ|とう||おなじく|ぜつぼう||すりきれた|くつ|||せいかつ|らいふ||こう|こう||ひょうはく|| 永遠に 、 永遠に 、 我我 の 家 なき 魂 は 凍えて ゐる のだ 。 えいえんに|えいえんに|われわれ||いえ||たましい||こごえて|| 郵便 局 と いふ もの は 、 港 や 停車場 と 同じ や うに 、 人生 の 遠い 旅情 を 思 は す ところ の 、 魂 の 永遠の の すたる ぢや [#「 の すたる ぢや 」 に 傍点 ] だ 。 ゆうびん|きょく|||||こう||ていしゃば||おなじ|||じんせい||とおい|りょじょう||おも|||||たましい||えいえんの||||||||ぼうてん| (『 若草 』1929 年 3 月 号 ) わかくさ|とし|つき|ごう