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LibriVOX 04 - Japanese, (11) Suisendukino yokka - 水仙月の四日 (Kenji Miyazawa - 宮沢賢治)

(11) Suisendukino yokka - 水仙月の四日 (Kenji Miyazawa - 宮沢賢治)

雪 婆 ん ご は 、 遠く へ 出かけて 居り ました 。 猫 の ような 耳 を もち 、 ぼやぼや した 灰 いろ の 髪 を した 雪 婆 ん ご は 、 西 の 山脈 の 、 ちぢれた ぎらぎら の 雲 を 越えて 、 遠く へ でかけて いた のです 。 ひと り の 子供 が 、 赤い 毛布 に くるまって 、 しきりに カリメラ の こと を 考え ながら 、 大きな 象 の 頭 の かたち を した 、 雪 丘 の 裾 を 、 せかせか うち の 方 へ 急いで 居り ました 。 を 尖った かたち に 巻いて 、 ふうふう と 吹く と 、 炭 から まるで 青 火 が 燃える 。 ぼく は カリメラ 鍋 に 赤 砂糖 を 一つまみ 入れて 、 それ から ザラメ を 一つまみ 入れる 。 水 を たして 、 あと は くつ くつ くつ と 煮る んだ 。 b ほん とうに もう 一生 けん命 、 こども は カリメラ の こと を 考え ながら うち の 方 へ 急いで い ました 。 お 日 さま は 、 空 の ず う っと 遠く の すきとおった つめたい とこ で 、 まばゆい 白い 火 を 、 どしどし お 焚き なさい ます 。 その 光 は まっすぐに 四方 に 発射 し 、 下 の 方 に 落ちて 来て は 、 ひっそり した 台地 の 雪 を 、 いちめん まばゆい 雪 花 石膏 の 板 に し ました 。 二 疋 の 雪 狼 が 、 べろ べろ まっ 赤 な 舌 を 吐き ながら 、 象 の 頭 の かたち を した 、 雪 丘 の 上 の 方 を あるいて い ました 。 こい つら は 人 の 眼 に は 見え ない のです が 、 一ぺん 風 に 狂い 出す と 、 台地 の はずれ の 雪 の 上 から 、 すぐ ぼやぼや の 雪雲 を ふんで 、 空 を かけまわり も する のです 。 「 しゅ 、 あんまり 行って いけ ない ったら 。」 雪 狼 の うしろ から 白熊 の 毛皮 の 三角 帽子 を あみだ に かぶり 、 顔 を 苹果 の ように かがやかし ながら 、 雪 童 子 が ゆっくり 歩いて 来 ました 。 雪 狼 ども は 頭 を ふって くるり と まわり 、 また まっ 赤 な 舌 を 吐いて 走り ました 。 「 カシオピイア 、 もう 水仙 が 咲き 出す ぞ おまえ の ガラス の 水車 きっ き と まわせ 。」 雪 童 子 は まっ 青 な そら を 見あげて 見え ない 星 に 叫び ました 。 その 空 から は 青 びか り が 波 に なって わくわく と 降り 、 雪 狼 ども は 、 ず う っと 遠く で 焔 の ように 赤い 舌 を べろ べろ 吐いて い ます 。 「 しゅ 、 戻れ ったら 、 しゅ 、」 雪 童 子 が はねあがる ように して 叱り ましたら 、 いま まで 雪 に くっきり 落ちて いた 雪 童 子 の 影法師 は 、 ぎ ら っと 白い ひかり に 変り 、 狼 ども は 耳 を たてて 一 さん に 戻って き ました 。 「 アンドロメダ 、 あぜ みの 花 が もう 咲く ぞ 、 おまえ の ラムプ の アルコホル 、 しゅう しゅと 噴か せ 。」 雪 童 子 は 、 風 の ように 象 の 形 の 丘 に のぼり ました 。 雪 に は 風 で 介 殻 の ような かた が つき 、 その 頂 に は 、 一 本 の 大きな 栗 の 木 が 、 美しい 黄金 いろ の やどりぎ の まり を つけて 立って い ました 。 「 とっと い で 。」 雪 童 子 が 丘 を のぼり ながら 云い ます と 、 一 疋 の 雪 狼 は 、 主人 の 小さな 歯 の ちらっと 光る の を 見る や 、 ご む まり の ように いきなり 木 に はねあがって 、 その 赤い 実 の ついた 小さな 枝 を 、 がちがち 噛 じ り ました 。 木 の 上 で しきりに 頸 を まげて いる 雪 狼 の 影法師 は 、 大きく 長く 丘 の 雪 に 落ち 、 枝 は とうとう 青い 皮 と 、 黄いろ の 心 と を ちぎら れて 、 いま の ぼって きた ばかりの 雪 童 子 の 足 もと に 落ち ました 。 「 ありがとう 。」 雪 童 子 は それ を ひろい ながら 、 白 と 藍 いろ の 野 はら に たって いる 、 美しい 町 を はるかに ながめ ました 。 川 が きらきら 光って 、 停車場 から は 白い 煙 も あがって い ました 。 雪 童 子 は 眼 を 丘 の ふもと に 落し ました 。 その 山裾 の 細い 雪 みち を 、 さっき の 赤 毛布 を 着た 子供 が 、 一しんに 山 の うち の 方 へ 急いで いる のでした 。 「 あいつ は 昨日 、 木炭 の そり を 押して 行った 。 砂糖 を 買って 、 じぶん だけ 帰って きた な 。」 雪 童 子 は わらい ながら 、 手 に もって いた やどりぎ の 枝 を 、 ぷい っと こども に なげ つけ ました 。 枝 は まるで 弾丸 の ように まっすぐに 飛んで 行って 、 たしかに 子供 の 目の前 に 落ち ました 。 子供 は びっくり して 枝 を ひろって 、 きょろきょろ あちこち を 見まわ して い ます 。 雪 童 子 は わらって 革 むち を 一 つ ひ ゅう と 鳴らし ました 。 する と 、 雲 も なく 研 き あげ られた ような 群 青 の 空 から 、 まっ 白 な 雪 が 、 さぎ の 毛 の ように 、 いちめんに 落ちて き ました 。 それ は 下 の 平原 の 雪 や 、 ビール 色 の 日光 、 茶いろ の ひのき で でき あがった 、 しずかな 奇麗な 日曜日 を 、 一そう 美しく した のです 。 子ども は 、 やどりぎ の 枝 を もって 、 一生 けん命に あるき だし ました 。 けれども 、 その 立派な 雪 が 落ち 切って しまった ころ から 、 お 日 さま は なんだか 空 の 遠く の 方 へ お 移り に なって 、 そこ の お 旅 屋 で 、 あの まばゆい 白い 火 を 、 あたらしく お 焚き なされて いる ようでした 。 そして 西北 の 方 から は 、 少し 風 が 吹いて き ました 。 もう よほど 、 そら も 冷たく なって きた のです 。 東 の 遠く の 海 の 方 で は 、 空 の 仕掛け を 外した ような 、 ちいさな カタッ と いう 音 が 聞え 、 いつか まっしろな 鏡 に 変って しまった お 日 さま の 面 を 、 なに か ちいさな もの が どんどん よこ切って 行く ようです 。 雪 童 子 は 革 むち を わき の 下 に はさみ 、 堅く 腕 を 組み 、 唇 を 結んで 、 その 風 の 吹いて 来る 方 を じっと 見て い ました 。 狼 ども も 、 まっすぐに 首 を のばして 、 しきりに そっち を 望み ました 。 風 は だんだん 強く なり 、 足 もと の 雪 は 、 さらさら さらさら うしろ へ 流れ 、 間もなく 向う の 山脈 の 頂 に 、 ぱっと 白い けむり の ような もの が 立った と おもう と 、 もう 西 の 方 は 、 すっかり 灰 いろ に 暗く なり ました 。 雪 童 子 の 眼 は 、 鋭く 燃える ように 光り ました 。 そら は すっかり 白く なり 、 風 は まるで 引き裂く よう 、 早くも 乾いた こまかな 雪 が やって 来 ました 。 そこら は まるで 灰 いろ の 雪 で いっぱいです 。 雪 だ か 雲 だ かも わから ない のです 。 丘 の 稜 は 、 もう あっち も こっち も 、 みんな 一度に 、 軋 る ように 切る ように 鳴り 出し ました 。 地平 線 も 町 も 、 みんな 暗い 烟 の 向う に なって しまい 、 雪 童 子 の 白い 影 ばかり 、 ぼんやり まっすぐに 立って い ます 。 その 裂く ような 吼える ような 風 の 音 の 中 から 、 「 ひ ゅう 、 なに を ぐずぐず して いる の 。 さあ 降ら す んだ よ 。 降ら す んだ よ 。 ひ ゅう ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 、 降ら す んだ よ 、 飛ばす んだ よ 、 なに を ぐずぐず して いる の 。 こんなに 急 が しい のに さ 。 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 向う から さえ わざと 三 人 連れて きた じゃ ない か 。 さあ 、 降ら す んだ よ 。 ひ ゅう 。」 あやしい 声 が きこえて き ました 。 雪 童 子 は まるで 電気 に かかった ように 飛び たち ました 。 雪 婆 ん ご が やってきた のです 。 ぱ ちっ 、 雪 童 子 の 革 むち が 鳴り ました 。 狼 ども は 一ぺん に はねあがり ました 。 雪 わら す は 顔 いろ も 青ざめ 、 唇 も 結ば れ 、 帽子 も 飛んで しまい ました 。 「 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 さあ しっかり やる んだ よ 。 なまけちゃ いけない よ 。 ひ ゅう 、 ひ ゅう 。 さあ しっかり やって お 呉れ 。 今日 は ここ ら は 水仙 月 の 四 日 だ よ 。 さあ しっかり さ 。 ひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご の 、 ぼやぼや つめたい 白髪 は 、 雪 と 風 と の なか で 渦 に なり ました 。 どんどん かける 黒 雲 の 間 から 、 その 尖った 耳 と 、 ぎらぎら 光る 黄金 の 眼 も 見え ます 。 西 の 方 の 野原 から 連れて 来 られた 三 人 の 雪 童 子 も 、 みんな 顔 いろ に 血の気 も なく 、 きちっと 唇 を 噛んで 、 お 互 挨拶 さえ も 交わさ ず に 、 もう つづけざま せわしく 革 むち を 鳴らし 行ったり 来たり し ました 。 もう どこ が 丘 だ か 雪けむり だ か 空 だ か さえ も わから なかった のです 。 聞える もの は 雪 婆 ん ご の あちこち 行ったり 来たり して 叫ぶ 声 、 お 互 の 革 鞭 の 音 、 それ から いま は 雪 の 中 を かけ あるく 九 疋 の 雪 狼 ども の 息 の 音 ばかり 、 その なか から 雪 童 子 は ふと 、 風 に けさ れて 泣いて いる さっき の 子供 の 声 を きき ました 。 雪 童 子 の 瞳 は ちょっと おかしく 燃え ました 。 しばらく たちどまって 考えて い ました が いきなり 烈 しく 鞭 を ふって そっち へ 走った のです 。 けれども それ は 方角 が ちがって いた らしく 雪 童 子 はず う っと 南 の 方 の 黒い 松山 に ぶっ つかり ました 。 雪 童 子 は 革 むち を わき に はさんで 耳 を すまし ました 。 「 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 なまけちゃ 承知 し ない よ 。 降ら す んだ よ 、 降ら す んだ よ 。 さあ 、 ひ ゅう 。 今日 は 水仙 月 の 四 日 だ よ 。 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 ひ ゅう ひ ゅう 。」 そんな はげしい 風 や 雪 の 声 の 間 から すきとおる ような 泣声 が ちらっと また 聞えて き ました 。 雪 童 子 は まっすぐに そっち へ かけて 行き ました 。 雪 婆 ん ご の ふりみだした 髪 が 、 その 顔 に 気 み わるく さわり ました 。 峠 の 雪 の 中 に 、 赤い 毛布 を かぶった さっき の 子 が 、 風 に かこま れて 、 もう 足 を 雪 から 抜け なく なって よ ろ よろ 倒れ 、 雪 に 手 を ついて 、 起きあがろう と して 泣いて いた のです 。 「 毛布 を かぶって 、 うつ 向け に なって おい で 。 毛布 を かぶって 、 うつむけ に なって おい で 。 ひ ゅう 。」 雪 童 子 は 走り ながら 叫び ました 。 けれども それ は 子ども に は ただ 風 の 声 と きこえ 、 その かたち は 眼 に 見え なかった のです 。 「 うつむけ に 倒れて おい で 。 ひ ゅう 。 動いちゃ いけない 。 じき やむ から け っと を かぶって 倒れ ておい で 。」 雪 わら す は かけ 戻り ながら 又 叫び ました 。 子ども は やっぱり 起きあがろう と して もがいて い ました 。 「 倒れ ておい で 、 ひ ゅう 、 だまって うつ むけ に 倒れて おい で 、 今日 は そんなに 寒く ない んだ から 凍え やしない 。」 雪 童 子 は 、 も 一 ど 走り 抜け ながら 叫び ました 。 子ども は 口 を びくびく まげて 泣き ながら また 起きあがろう と し ました 。 「 倒れて いる んだ よ 。 だめだ ねえ 。」 雪 童 子 は 向う から わざと ひどく つきあたって 子ども を 倒し ました 。 「 ひ ゅう 、 もっと しっかり やって おくれ 、 なまけちゃ いけない 。 さあ 、 ひ ゅう 」 雪 婆 ん ご が やってき ました 。 その 裂けた ように 紫 な 口 も 尖った 歯 も ぼんやり 見え ました 。 「 おや 、 おかしな 子 が いる ね 、 そう そう 、 こっち へ とって おしまい 。 水仙 月 の 四 日 だ もの 、 一 人 や 二 人 とった って いい んだ よ 。」 「 ええ 、 そうです 。 さあ 、 死んで しまえ 。」 雪 童 子 は わざと ひどく ぶっ つかり ながら また そっと 云い ました 。 「 倒れて いる んだ よ 。 動いちゃ いけない 。 動いちゃ いけない ったら 。」 狼 ども が 気 ちがい の ように かけめぐり 、 黒い 足 は 雪雲 の 間 から ちらちら し ました 。 「 そう そう 、 それ で いい よ 。 さあ 、 降ら し ておくれ 。 なまけちゃ 承知 し ない よ 。 ひ ゅう ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご は 、 また 向う へ 飛んで 行き ました 。 子供 は また 起きあがろう と し ました 。 雪 童 子 は 笑い ながら 、 も 一 度 ひどく つきあたり ました 。 もう そのころ は 、 ぼんやり 暗く なって 、 まだ 三 時 に も なら ない に 、 日 が 暮れる ように 思わ れた のです 。 こども は 力 も つきて 、 もう 起きあがろう と し ませ ん でした 。 雪 童 子 は 笑い ながら 、 手 を のばして 、 その 赤い 毛布 を 上 から すっかり かけて やり ました 。 「 そうして 睡 って おい で 。 布団 を たくさん かけて あげる から 。 そう すれば 凍え ない んだ よ 。 あした の 朝 まで =" BLACK _ CIRCLE " カリメラ の 夢 を 見て おい で 。」 雪 わら す は 同じ とこ を 何べん も かけて 、 雪 を たくさん こども の 上 に かぶせ ました 。 まもなく 赤い 毛布 も 見え なく なり 、 あたり と の 高 さ も 同じに なって しまい ました 。 「 あのこ ども は 、 ぼく の やった やどりぎ を もって いた 。」 雪 童 子 は つぶやいて 、 ちょっと 泣く ように し ました 。 「 さあ 、 しっかり 、 今日 は 夜 の 二 時 まで やすみ なし だ よ 。 ここ ら は 水仙 月 の 四 日 な んだ から 、 やすんじゃ いけない 。 さあ 、 降ら し ておくれ 。 ひ ゅう 、 ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご は また 遠く の 風 の 中 で 叫び ました 。 そして 、 風 と 雪 と 、 ぼ さ ぼ さ の 灰 の ような 雲 の なか で 、 ほんとうに 日 は 暮れ 雪 は 夜 じゅう 降って 降って 降った のです 。 やっと 夜明け に 近い ころ 、 雪 婆 ん ご は も 一 度 、 南 から 北 へ まっすぐに 馳せ ながら 云い ました 。 「 さあ 、 もう そろそろ やすんで い い よ 。 あたし は これ から また 海 の 方 へ 行く から ね 、 だれ も ついて 来 ないで いい よ 。 ゆっくり やすんで この 次の 仕度 を して 置い ておくれ 。 ああ まあい いあん ばい だった 。 水仙 月 の 四 日 が うまく 済んで 。」 その 眼 は 闇 の なか で おかしく 青く 光り 、 ば さば さ の 髪 を 渦巻か せ 口 を びくびく し ながら 、 東 の 方 へ かけて 行き ました 。 野 はら も 丘 も ほっと した ように なって 、 雪 は 青じろく ひかり ました 。 空 も いつか すっかり 霽れ て 、 桔梗 いろ の 天球 に は 、 いちめんの 星座 が またたき ました 。 雪 童 子 ら は 、 めいめい 自分 の 狼 を つれて 、 はじめて お 互 挨拶 し ました 。 「 ずいぶん ひどかった ね 。」 「 ああ 、」 「 こんど は いつ 会う だろう 。」 「 いつ だろう ねえ 、 しかし 今年 中 に 、 もう 二 へ ん ぐらい の もん だろう 。」 「 早く いっしょに 北 へ 帰り たい ね 。」 「 ああ 。」 「 さっき こども が ひと り 死んだ な 。」 「 大丈夫だ よ 。 眠って る んだ 。 あした あす こ へ ぼく しるし を つけて おく から 。」 「 ああ 、 もう 帰ろう 。 夜明け まで に 向う へ 行か なくちゃ 。」 「 まあ いい だろう 。 ぼく ね 、 どうしても わから ない 。 あいつ は カシオペーア の 三 つ 星 だろう 。 みんな 青い 火 な んだろう 。 それなのに 、 どうして 火 が よく 燃えれば 、 雪 を よこす んだろう 。」 「 それ は ね 、 電気 菓子 と おなじだ よ 。 そら 、 ぐる ぐるぐる まわって いる だろう 。 ザラメ が みんな 、 ふわふわ の お 菓子 に なる ねえ 、 だから 火 が よく 燃えれば いい んだ よ 。」 「 ああ 。」 「 じゃ 、 さよなら 。」 「 さよなら 。」 三 人 の 雪 童 子 は 、 九 疋 の 雪 狼 を つれて 、 西 の 方 へ 帰って 行き ました 。 まもなく 東 の そら が 黄 ばら の ように 光り 、 琥珀 いろ に かがやき 、 黄金 に 燃え だし ました 。 丘 も 野原 も あたらしい 雪 で いっぱいです 。 雪 狼 ども は つかれて ぐったり 座って い ます 。 雪 童 子 も 雪 に 座って わらい ました 。 その 頬 は 林檎 の よう 、 その 息 は 百 合 の ように かおり ました 。 ギラギラ の お 日 さま が お 登り に なり ました 。 今朝 は 青 味 が かって 一そう 立派です 。 日光 は 桃 いろ に いっぱいに 流れ ました 。 雪 狼 は 起きあがって 大きく 口 を あき 、 その 口 から は 青い 焔 が ゆらゆら と 燃え ました 。 「 さあ 、 おまえ たち は ぼく に ついて おい で 。 夜 が あけた から 、 あの 子ども を 起さ なけ あ いけない 。」 雪 童 子 は 走って 、 あの 昨日 の 子供 の 埋まって いる とこ へ 行き ました 。 「 さあ 、 ここ ら の 雪 を ちらし ておくれ 。」 雪 狼 ども は 、 たちまち 後足 で 、 そこら の 雪 を け たて ました 。 風 が それ を けむり の ように 飛ばし ました 。 かんじき を はき 毛皮 を 着た 人 が 、 村 の 方 から 急いで やってき ました 。 「 もう いい よ 。」 雪 童 子 は 子供 の 赤い 毛布 の はじ が 、 ちらっと 雪 から 出た の を みて 叫び ました 。 「 お 父さん が 来た よ 。 もう 眼 を お さまし 。」 雪 わら す は うしろ の 丘 に かけあがって 一 本 の 雪けむり を たて ながら 叫び ました 。 子ども は ちらっと うごいた ようでした 。 そして 毛皮 の 人 は 一 生け ん 命 走って き ました 。


(11) Suisendukino yokka - 水仙月の四日 (Kenji Miyazawa - 宮沢賢治) suisendukino||すいせん つき の よっ にち|kenji|miyazawa|みやさわ けんじ (11) Suisendukino yokka - Vier Tage des Narzissenmondes (Kenji Miyazawa - Kenji Miyazawa) (11) Suisendukino yokka - Quatro dias da lua de Narciso (Kenji Miyazawa - Kenji Miyazawa)

雪 婆 ん ご は 、 遠く へ 出かけて 居り ました 。 ゆき|ばあ||||とおく||でかけて|おり| The snowman went out to a distance. 猫 の ような 耳 を もち 、 ぼやぼや した 灰 いろ の 髪 を した 雪 婆 ん ご は 、 西 の 山脈 の 、 ちぢれた ぎらぎら の 雲 を 越えて 、 遠く へ でかけて いた のです 。 ねこ|||みみ|||||はい|||かみ|||ゆき|ばあ||||にし||さんみゃく|||||くも||こえて|とおく|||| A snowflake with a cat-like ear and a hazy, gray-haired hair was traveling far beyond the glistening, misty clouds of the western mountain range. ひと り の 子供 が 、 赤い 毛布 に くるまって 、 しきりに カリメラ の こと を 考え ながら 、 大きな 象 の 頭 の かたち を した 、 雪 丘 の 裾 を 、 せかせか うち の 方 へ 急いで 居り ました 。 |||こども||あかい|もうふ||||||||かんがえ||おおきな|ぞう||あたま|||||ゆき|おか||すそ|||||かた||いそいで|おり| One of the children was wrapped in a red blanket, and rushed to the side of a snow hill, with the shape of a large elephant head, while thinking about Carimera. を 尖った かたち に 巻いて 、 ふうふう と 吹く と 、 炭 から まるで 青 火 が 燃える 。 |とがった|||まいて|||ふく||すみ|||あお|ひ||もえる Roll it into a pointed shape and blow it, and the blue fire burns from the charcoal. ぼく は カリメラ 鍋 に 赤 砂糖 を 一つまみ 入れて 、 それ から ザラメ を 一つまみ 入れる 。 |||なべ||あか|さとう||ひとつまみ|いれて|||||ひとつまみ|いれる I put a pinch of red sugar in a pot of kalimera and then a pinch of salt. 水 を たして 、 あと は くつ くつ くつ と 煮る んだ 。 すい|||||||||にる| I'm going to simmer water and then simmer. b ほん とうに もう 一生 けん命 、 こども は カリメラ の こと を 考え ながら うち の 方 へ 急いで い ました 。 ||||いっしょう|けんめい|||||||かんがえ||||かた||いそいで|| b Really for the rest of my life, the child was rushing to our house thinking about Kalimera. お 日 さま は 、 空 の ず う っと 遠く の すきとおった つめたい とこ で 、 まばゆい 白い 火 を 、 どしどし お 焚き なさい ます 。 |ひ|||から|||||とおく|||||||しろい|ひ||||ふん き|| At the end of the day, let's look through the dazzling white fire, with its deep-speared claws. その 光 は まっすぐに 四方 に 発射 し 、 下 の 方 に 落ちて 来て は 、 ひっそり した 台地 の 雪 を 、 いちめん まばゆい 雪 花 石膏 の 板 に し ました 。 |ひかり|||しほう||はっしゃ||した||かた||おちて|きて||||だいち||ゆき||||ゆき|か|せっこう||いた||| The light was shot straight in all directions, and when it fell down, it turned the snow on the quiet terrace into a board of snow flower plaster. 二 疋 の 雪 狼 が 、 べろ べろ まっ 赤 な 舌 を 吐き ながら 、 象 の 頭 の かたち を した 、 雪 丘 の 上 の 方 を あるいて い ました 。 ふた|ひき||ゆき|おおかみ|||||あか||した||はき||ぞう||あたま|||||ゆき|おか||うえ||かた|||| A two-in-a-don's slyvade was lying on the top of a snowy hill, in the shape of an elephant's head, spitting his tongue with a red tongue. こい つら は 人 の 眼 に は 見え ない のです が 、 一ぺん 風 に 狂い 出す と 、 台地 の はずれ の 雪 の 上 から 、 すぐ ぼやぼや の 雪雲 を ふんで 、 空 を かけまわり も する のです 。 |||じん||がん|||みえ||||いっぺん|かぜ||くるい|だす||だいち||||ゆき||うえ|||||ゆきぐも|||から||||| They are invisible to people's eyes, but if they go crazy in a single wind, they will cover the sky from the top of the snow on the edge of the terrace, and immediately cover the sky and the snow clouds. 「 しゅ 、 あんまり 行って いけ ない ったら 。」 ||おこなって||| "Shu, I can't go there much." 雪 狼 の うしろ から 白熊 の 毛皮 の 三角 帽子 を あみだ に かぶり 、 顔 を 苹果 の ように かがやかし ながら 、 雪 童 子 が ゆっくり 歩いて 来 ました 。 ゆき|おおかみ||||しろくま||けがわ||さんかく|ぼうし|||||かお||苹か|||||ゆき|わらべ|こ|||あるいて|らい| From the back of the snow cape, wearing a triangle bear hat with a polar bear's fur on his head, and with a bright face like an effect, Yuki Doji slowly came to walk. 雪 狼 ども は 頭 を ふって くるり と まわり 、 また まっ 赤 な 舌 を 吐いて 走り ました 。 ゆき|おおかみ|||あたま||||||||あか||した||はいて|はしり| The snowmen shook their heads and ran around, again spitting their red tongues. 「 カシオピイア 、     もう 水仙 が 咲き 出す ぞ     おまえ の ガラス の 水車     きっ き と まわせ 。」 ||すいせん||さき|だす||||がらす||すいしゃ|||| "Cassiopia, there's already a narcissus coming to bloom. Let your glass of water shine with it." 雪 童 子 は まっ 青 な そら を 見あげて 見え ない 星 に 叫び ました 。 ゆき|わらべ|こ|||あお||||みあげて|みえ||ほし||さけび| Snow child looked up at the blue sky and screamed to an invisible star. その 空 から は 青 びか り が 波 に なって わくわく と 降り 、 雪 狼 ども は 、 ず う っと 遠く で 焔 の ように 赤い 舌 を べろ べろ 吐いて い ます 。 |から|||あお||||なみ|||||ふり|ゆき|おおかみ||||||とおく||ほのお|||あかい|した||||はいて|| From the sky, the blue waves became waves, and the waves fell, and the snowmen squeezed their red tongue out like a rose at a distance far away. 「 しゅ 、 戻れ ったら 、 しゅ 、」 雪 童 子 が はねあがる ように して 叱り ましたら 、 いま まで 雪 に くっきり 落ちて いた 雪 童 子 の 影法師 は 、 ぎ ら っと 白い ひかり に 変り 、 狼 ども は 耳 を たてて 一 さん に 戻って き ました 。 |もどれ|||ゆき|わらべ|こ|||||しかり||||ゆき|||おちて||ゆき|わらべ|こ||かげぼうし|||||しろい|||かわり|おおかみ|||みみ|||ひと|||もどって|| "When I got back, I got it," Snow kid 's jumping up and down, Snow' s shadow 's shadow teacher, who had fallen into the snow until now, turned into a white light, The boys returned to their homes after hearing their ears. 「 アンドロメダ 、     あぜ みの 花 が もう 咲く ぞ 、     おまえ の ラムプ の アルコホル 、     しゅう しゅと 噴か せ 。」 |||か|||さく|||||||||ふか| 雪 童 子 は 、 風 の ように 象 の 形 の 丘 に のぼり ました 。 ゆき|わらべ|こ||かぜ|||ぞう||かた||おか||| 雪 に は 風 で 介 殻 の ような かた が つき 、 その 頂 に は 、 一 本 の 大きな 栗 の 木 が 、 美しい 黄金 いろ の やどりぎ の まり を つけて 立って い ました 。 ゆき|||かぜ||かい|から|||||||いただ|||ひと|ほん||おおきな|くり||き||うつくしい|おうごん||||||||たって|| 「 とっと い で 。」 と っと|| 雪 童 子 が 丘 を のぼり ながら 云い ます と 、 一 疋 の 雪 狼 は 、 主人 の 小さな 歯 の ちらっと 光る の を 見る や 、 ご む まり の ように いきなり 木 に はねあがって 、 その 赤い 実 の ついた 小さな 枝 を 、 がちがち 噛 じ り ました 。 ゆき|わらべ|こ||おか||||うん い|||ひと|ひき||ゆき|おおかみ||あるじ||ちいさな|は|||ひかる|||みる||||||||き||||あかい|み|||ちいさな|えだ|||か||| 木 の 上 で しきりに 頸 を まげて いる 雪 狼 の 影法師 は 、 大きく 長く 丘 の 雪 に 落ち 、 枝 は とうとう 青い 皮 と 、 黄いろ の 心 と を ちぎら れて 、 いま の ぼって きた ばかりの 雪 童 子 の 足 もと に 落ち ました 。 き||うえ|||けい||||ゆき|おおかみ||かげぼうし||おおきく|ながく|おか||ゆき||おち|えだ|||あおい|かわ||きいろ||こころ|||||||ぼ って|||ゆき|わらべ|こ||あし|||おち| 「 ありがとう 。」 雪 童 子 は それ を ひろい ながら 、 白 と 藍 いろ の 野 はら に たって いる 、 美しい 町 を はるかに ながめ ました 。 ゆき|わらべ|こ||||||しろ||あい|||の|||||うつくしい|まち|||| 川 が きらきら 光って 、 停車場 から は 白い 煙 も あがって い ました 。 かわ|||ひかって|ていしゃば|||しろい|けむり|||| 雪 童 子 は 眼 を 丘 の ふもと に 落し ました 。 ゆき|わらべ|こ||がん||おか||||おとし| その 山裾 の 細い 雪 みち を 、 さっき の 赤 毛布 を 着た 子供 が 、 一しんに 山 の うち の 方 へ 急いで いる のでした 。 |やますそ||ほそい|ゆき|||||あか|もうふ||きた|こども||いっしんに|やま||||かた||いそいで|| 「 あいつ は 昨日 、 木炭 の そり を 押して 行った 。 ||きのう|もくたん||||おして|おこなった 砂糖 を 買って 、 じぶん だけ 帰って きた な 。」 さとう||かって|||かえって|| 雪 童 子 は わらい ながら 、 手 に もって いた やどりぎ の 枝 を 、 ぷい っと こども に なげ つけ ました 。 ゆき|わらべ|こ||||て||||||えだ|||||||| 枝 は まるで 弾丸 の ように まっすぐに 飛んで 行って 、 たしかに 子供 の 目の前 に 落ち ました 。 えだ|||だんがん||||とんで|おこなって||こども||めのまえ||おち| 子供 は びっくり して 枝 を ひろって 、 きょろきょろ あちこち を 見まわ して い ます 。 こども||||えだ||||||みまわ||| 雪 童 子 は わらって 革 むち を 一 つ ひ ゅう と 鳴らし ました 。 ゆき|わらべ|こ|||かわ|||ひと|||||ならし| する と 、 雲 も なく 研 き あげ られた ような 群 青 の 空 から 、 まっ 白 な 雪 が 、 さぎ の 毛 の ように 、 いちめんに 落ちて き ました 。 ||くも|||けん|||||ぐん|あお||から|||しろ||ゆき||||け||||おちて|| それ は 下 の 平原 の 雪 や 、 ビール 色 の 日光 、 茶いろ の ひのき で でき あがった 、 しずかな 奇麗な 日曜日 を 、 一そう 美しく した のです 。 ||した||へいげん||ゆき||びーる|いろ||にっこう|ちゃいろ|||||||きれいな|にちようび||いっそう|うつくしく|| 子ども は 、 やどりぎ の 枝 を もって 、 一生 けん命に あるき だし ました 。 こども||||えだ|||いっしょう|けんめいに||| けれども 、 その 立派な 雪 が 落ち 切って しまった ころ から 、 お 日 さま は なんだか 空 の 遠く の 方 へ お 移り に なって 、 そこ の お 旅 屋 で 、 あの まばゆい 白い 火 を 、 あたらしく お 焚き なされて いる ようでした 。 ||りっぱな|ゆき||おち|きって|||||ひ||||から||とおく||かた|||うつり||||||たび|や||||しろい|ひ||||ふん き||| そして 西北 の 方 から は 、 少し 風 が 吹いて き ました 。 |せいほく||かた|||すこし|かぜ||ふいて|| もう よほど 、 そら も 冷たく なって きた のです 。 ||||つめたく||| 東 の 遠く の 海 の 方 で は 、 空 の 仕掛け を 外した ような 、 ちいさな カタッ と いう 音 が 聞え 、 いつか まっしろな 鏡 に 変って しまった お 日 さま の 面 を 、 なに か ちいさな もの が どんどん よこ切って 行く ようです 。 ひがし||とおく||うみ||かた|||から||しかけ||はずした||||||おと||きこえ|||きよう||かわって|||ひ|||おもて||||||||よこぎって|いく| 雪 童 子 は 革 むち を わき の 下 に はさみ 、 堅く 腕 を 組み 、 唇 を 結んで 、 その 風 の 吹いて 来る 方 を じっと 見て い ました 。 ゆき|わらべ|こ||かわ|||||した|||かたく|うで||くみ|くちびる||むすんで||かぜ||ふいて|くる|かた|||みて|| 狼 ども も 、 まっすぐに 首 を のばして 、 しきりに そっち を 望み ました 。 おおかみ||||くび||||||のぞみ| 風 は だんだん 強く なり 、 足 もと の 雪 は 、 さらさら さらさら うしろ へ 流れ 、 間もなく 向う の 山脈 の 頂 に 、 ぱっと 白い けむり の ような もの が 立った と おもう と 、 もう 西 の 方 は 、 すっかり 灰 いろ に 暗く なり ました 。 かぜ|||つよく||あし|||ゆき||||||ながれ|まもなく|むかい う||さんみゃく||いただ|||しろい||||||たった|||||にし||かた|||はい|||くらく|| 雪 童 子 の 眼 は 、 鋭く 燃える ように 光り ました 。 ゆき|わらべ|こ||がん||するどく|もえる||ひかり| そら は すっかり 白く なり 、 風 は まるで 引き裂く よう 、 早くも 乾いた こまかな 雪 が やって 来 ました 。 |||しろく||かぜ|||ひきさく||はやくも|かわいた||ゆき|||らい| そこら は まるで 灰 いろ の 雪 で いっぱいです 。 |||はい|||ゆき|| 雪 だ か 雲 だ かも わから ない のです 。 ゆき|||くも||||| 丘 の 稜 は 、 もう あっち も こっち も 、 みんな 一度に 、 軋 る ように 切る ように 鳴り 出し ました 。 おか||りょう|||あっ ち|||||いちどに|きし|||きる||なり|だし| 地平 線 も 町 も 、 みんな 暗い 烟 の 向う に なって しまい 、 雪 童 子 の 白い 影 ばかり 、 ぼんやり まっすぐに 立って い ます 。 ちへい|せん||まち|||くらい|けむり||むかい う||||ゆき|わらべ|こ||しろい|かげ||||たって|| その 裂く ような 吼える ような 風 の 音 の 中 から 、   「 ひ ゅう 、 なに を ぐずぐず して いる の 。 |さく||こう える||かぜ||おと||なか||||||||| さあ 降ら す んだ よ 。 |ふら||| 降ら す んだ よ 。 ふら||| ひ ゅう ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 、 降ら す んだ よ 、 飛ばす んだ よ 、 なに を ぐずぐず して いる の 。 |||||||||ふら||||とばす|||||||| こんなに 急 が しい のに さ 。 |きゅう|||| ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 向う から さえ わざと 三 人 連れて きた じゃ ない か 。 ||||むかい う||||みっ|じん|つれて|||| さあ 、 降ら す んだ よ 。 |ふら||| ひ ゅう 。」 あやしい 声 が きこえて き ました 。 |こえ|||| 雪 童 子 は まるで 電気 に かかった ように 飛び たち ました 。 ゆき|わらべ|こ|||でんき||||とび|| 雪 婆 ん ご が やってきた のです 。 ゆき|ばあ||||| ぱ ちっ 、 雪 童 子 の 革 むち が 鳴り ました 。 |ち っ|ゆき|わらべ|こ||かわ|||なり| 狼 ども は 一ぺん に はねあがり ました 。 おおかみ|||いっぺん||| 雪 わら す は 顔 いろ も 青ざめ 、 唇 も 結ば れ 、 帽子 も 飛んで しまい ました 。 ゆき||||かお|||あおざめ|くちびる||むすば||ぼうし||とんで|| 「 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 さあ しっかり やる んだ よ 。 なまけちゃ いけない よ 。 ひ ゅう 、 ひ ゅう 。 さあ しっかり やって お 呉れ 。 ||||くれ れ 今日 は ここ ら は 水仙 月 の 四 日 だ よ 。 きょう|||||すいせん|つき||よっ|ひ|| さあ しっかり さ 。 ひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご の 、 ぼやぼや つめたい 白髪 は 、 雪 と 風 と の なか で 渦 に なり ました 。 ゆき|ばあ||||||しらが||ゆき||かぜ|||||うず||| どんどん かける 黒 雲 の 間 から 、 その 尖った 耳 と 、 ぎらぎら 光る 黄金 の 眼 も 見え ます 。 ||くろ|くも||あいだ|||とがった|みみ|||ひかる|おうごん||がん||みえ| 西 の 方 の 野原 から 連れて 来 られた 三 人 の 雪 童 子 も 、 みんな 顔 いろ に 血の気 も なく 、 きちっと 唇 を 噛んで 、 お 互 挨拶 さえ も 交わさ ず に 、 もう つづけざま せわしく 革 むち を 鳴らし 行ったり 来たり し ました 。 にし||かた||のはら||つれて|らい||みっ|じん||ゆき|わらべ|こ|||かお|||ちのけ||||くちびる||かんで||ご|あいさつ|||かわさ||||||かわ|||ならし|おこなったり|きたり|| もう どこ が 丘 だ か 雪けむり だ か 空 だ か さえ も わから なかった のです 。 |||おか|||ゆきけむり|||から||||||| 聞える もの は 雪 婆 ん ご の あちこち 行ったり 来たり して 叫ぶ 声 、 お 互 の 革 鞭 の 音 、 それ から いま は 雪 の 中 を かけ あるく 九 疋 の 雪 狼 ども の 息 の 音 ばかり 、 その なか から 雪 童 子 は ふと 、 風 に けさ れて 泣いて いる さっき の 子供 の 声 を きき ました 。 きこえる|||ゆき|ばあ|||||おこなったり|きたり||さけぶ|こえ||ご||かわ|むち||おと|||||ゆき||なか||||ここの|ひき||ゆき|おおかみ|||いき||おと|||||ゆき|わらべ|こ|||かぜ||||ないて||||こども||こえ||| 雪 童 子 の 瞳 は ちょっと おかしく 燃え ました 。 ゆき|わらべ|こ||ひとみ||||もえ| しばらく たちどまって 考えて い ました が いきなり 烈 しく 鞭 を ふって そっち へ 走った のです 。 ||かんがえて|||||れつ||むち|||||はしった| けれども それ は 方角 が ちがって いた らしく 雪 童 子 はず う っと 南 の 方 の 黒い 松山 に ぶっ つかり ました 。 |||ほうがく|||||ゆき|わらべ|こ||||みなみ||かた||くろい|まつやま||ぶ っ|| 雪 童 子 は 革 むち を わき に はさんで 耳 を すまし ました 。 ゆき|わらべ|こ||かわ||||||みみ||| 「 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 なまけちゃ 承知 し ない よ 。 |||||しょうち||| 降ら す んだ よ 、 降ら す んだ よ 。 ふら||||ふら||| さあ 、 ひ ゅう 。 今日 は 水仙 月 の 四 日 だ よ 。 きょう||すいせん|つき||よっ|ひ|| ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 ひ ゅう 、 ひ ゅう ひ ゅう 。」 そんな はげしい 風 や 雪 の 声 の 間 から すきとおる ような 泣声 が ちらっと また 聞えて き ました 。 ||かぜ||ゆき||こえ||あいだ||||なきごえ||||きこえて|| 雪 童 子 は まっすぐに そっち へ かけて 行き ました 。 ゆき|わらべ|こ||||||いき| 雪 婆 ん ご の ふりみだした 髪 が 、 その 顔 に 気 み わるく さわり ました 。 ゆき|ばあ|||||かみ|||かお||き|||| 峠 の 雪 の 中 に 、 赤い 毛布 を かぶった さっき の 子 が 、 風 に かこま れて 、 もう 足 を 雪 から 抜け なく なって よ ろ よろ 倒れ 、 雪 に 手 を ついて 、 起きあがろう と して 泣いて いた のです 。 とうげ||ゆき||なか||あかい|もうふ|||||こ||かぜ|||||あし||ゆき||ぬけ|||||よ ろ|たおれ|ゆき||て|||おきあがろう|||ないて|| 「 毛布 を かぶって 、 うつ 向け に なって おい で 。 もうふ||||むけ|||| 毛布 を かぶって 、 うつむけ に なって おい で 。 もうふ||||||| ひ ゅう 。」 雪 童 子 は 走り ながら 叫び ました 。 ゆき|わらべ|こ||はしり||さけび| けれども それ は 子ども に は ただ 風 の 声 と きこえ 、 その かたち は 眼 に 見え なかった のです 。 |||こども||||かぜ||こえ||||||がん||みえ|| 「 うつむけ に 倒れて おい で 。 ||たおれて|| ひ ゅう 。 動いちゃ いけない 。 うごいちゃ| じき やむ から け っと を かぶって 倒れ ておい で 。」 |||||||たおれ|| 雪 わら す は かけ 戻り ながら 又 叫び ました 。 ゆき|||||もどり||また|さけび| 子ども は やっぱり 起きあがろう と して もがいて い ました 。 こども|||おきあがろう||||| 「 倒れ ておい で 、 ひ ゅう 、 だまって うつ むけ に 倒れて おい で 、 今日 は そんなに 寒く ない んだ から 凍え やしない 。」 たおれ|||||||||たおれて|||きょう|||さむく||||こごえ| 雪 童 子 は 、 も 一 ど 走り 抜け ながら 叫び ました 。 ゆき|わらべ|こ|||ひと||はしり|ぬけ||さけび| 子ども は 口 を びくびく まげて 泣き ながら また 起きあがろう と し ました 。 こども||くち||||なき|||おきあがろう||| 「 倒れて いる んだ よ 。 たおれて||| だめだ ねえ 。」 雪 童 子 は 向う から わざと ひどく つきあたって 子ども を 倒し ました 。 ゆき|わらべ|こ||むかい う|||||こども||たおし| 「 ひ ゅう 、 もっと しっかり やって おくれ 、 なまけちゃ いけない 。 さあ 、 ひ ゅう 」     雪 婆 ん ご が やってき ました 。 |||ゆき|ばあ||||| その 裂けた ように 紫 な 口 も 尖った 歯 も ぼんやり 見え ました 。 |さけた||むらさき||くち||とがった|は|||みえ| 「 おや 、 おかしな 子 が いる ね 、 そう そう 、 こっち へ とって おしまい 。 ||こ||||||||| 水仙 月 の 四 日 だ もの 、 一 人 や 二 人 とった って いい んだ よ 。」 すいせん|つき||よっ|ひ|||ひと|じん||ふた|じん||||| 「 ええ 、 そうです 。 |そう です さあ 、 死んで しまえ 。」 |しんで| 雪 童 子 は わざと ひどく ぶっ つかり ながら また そっと 云い ました 。 ゆき|わらべ|こ||||ぶ っ|||||うん い| 「 倒れて いる んだ よ 。 たおれて||| 動いちゃ いけない 。 うごいちゃ| 動いちゃ いけない ったら 。」 うごいちゃ|| 狼 ども が 気 ちがい の ように かけめぐり 、 黒い 足 は 雪雲 の 間 から ちらちら し ました 。 おおかみ|||き|||||くろい|あし||ゆきぐも||あいだ|||| 「 そう そう 、 それ で いい よ 。 さあ 、 降ら し ておくれ 。 |ふら|| なまけちゃ 承知 し ない よ 。 |しょうち||| ひ ゅう ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご は 、 また 向う へ 飛んで 行き ました 。 ゆき|ばあ|||||むかい う||とんで|いき| 子供 は また 起きあがろう と し ました 。 こども|||おきあがろう||| 雪 童 子 は 笑い ながら 、 も 一 度 ひどく つきあたり ました 。 ゆき|わらべ|こ||わらい|||ひと|たび||| もう そのころ は 、 ぼんやり 暗く なって 、 まだ 三 時 に も なら ない に 、 日 が 暮れる ように 思わ れた のです 。 ||||くらく|||みっ|じ||||||ひ||くれる||おもわ|| こども は 力 も つきて 、 もう 起きあがろう と し ませ ん でした 。 ||ちから||||おきあがろう||||| 雪 童 子 は 笑い ながら 、 手 を のばして 、 その 赤い 毛布 を 上 から すっかり かけて やり ました 。 ゆき|わらべ|こ||わらい||て||||あかい|もうふ||うえ||||| 「 そうして 睡 って おい で 。 |すい||| 布団 を たくさん かけて あげる から 。 ふとん||||| そう すれば 凍え ない んだ よ 。 ||こごえ||| あした の 朝 まで =" BLACK _ CIRCLE " カリメラ の 夢 を 見て おい で 。」 ||あさ||black|circle|||ゆめ||みて|| 雪 わら す は 同じ とこ を 何べん も かけて 、 雪 を たくさん こども の 上 に かぶせ ました 。 ゆき||||おなじ|||なんべん|||ゆき|||||うえ||| まもなく 赤い 毛布 も 見え なく なり 、 あたり と の 高 さ も 同じに なって しまい ました 。 |あかい|もうふ||みえ||||||たか|||どうじに||| 「 あのこ ども は 、 ぼく の やった やどりぎ を もって いた 。」 あの こ||||||||| 雪 童 子 は つぶやいて 、 ちょっと 泣く ように し ました 。 ゆき|わらべ|こ||||なく||| 「 さあ 、 しっかり 、 今日 は 夜 の 二 時 まで やすみ なし だ よ 。 ||きょう||よ||ふた|じ||||| ここ ら は 水仙 月 の 四 日 な んだ から 、 やすんじゃ いけない 。 |||すいせん|つき||よっ|ひ||||| さあ 、 降ら し ておくれ 。 |ふら|| ひ ゅう 、 ひ ゅう ひ ゅう 、 ひ ゅひ ゅう 。」 雪 婆 ん ご は また 遠く の 風 の 中 で 叫び ました 。 ゆき|ばあ|||||とおく||かぜ||なか||さけび| そして 、 風 と 雪 と 、 ぼ さ ぼ さ の 灰 の ような 雲 の なか で 、 ほんとうに 日 は 暮れ 雪 は 夜 じゅう 降って 降って 降った のです 。 |かぜ||ゆき|||||||はい|||くも|||||ひ||くれ|ゆき||よ||ふって|ふって|ふった| やっと 夜明け に 近い ころ 、 雪 婆 ん ご は も 一 度 、 南 から 北 へ まっすぐに 馳せ ながら 云い ました 。 |よあけ||ちかい||ゆき|ばあ|||||ひと|たび|みなみ||きた|||はせ||うん い| 「 さあ 、 もう そろそろ やすんで い い よ 。 あたし は これ から また 海 の 方 へ 行く から ね 、 だれ も ついて 来 ないで いい よ 。 |||||うみ||かた||いく||||||らい||| ゆっくり やすんで この 次の 仕度 を して 置い ておくれ 。 |||つぎの|したく|||お い| ああ まあい いあん ばい だった 。 水仙 月 の 四 日 が うまく 済んで 。」 すいせん|つき||よっ|ひ|||すんで その 眼 は 闇 の なか で おかしく 青く 光り 、 ば さば さ の 髪 を 渦巻か せ 口 を びくびく し ながら 、 東 の 方 へ かけて 行き ました 。 |がん||やみ|||||あおく|ひかり|||||かみ||うずまか||くち|||||ひがし||かた|||いき| 野 はら も 丘 も ほっと した ように なって 、 雪 は 青じろく ひかり ました 。 の|||おか||||||ゆき||あおじろく|| 空 も いつか すっかり 霽れ て 、 桔梗 いろ の 天球 に は 、 いちめんの 星座 が またたき ました 。 から||||さい れ||ききょう|||てんきゅう||||せいざ||| 雪 童 子 ら は 、 めいめい 自分 の 狼 を つれて 、 はじめて お 互 挨拶 し ました 。 ゆき|わらべ|こ||||じぶん||おおかみ|||||ご|あいさつ|| 「 ずいぶん ひどかった ね 。」 「 ああ 、」   「 こんど は いつ 会う だろう 。」 ||||あう| 「 いつ だろう ねえ 、 しかし 今年 中 に 、 もう 二 へ ん ぐらい の もん だろう 。」 ||||ことし|なか|||ふた|||||| 「 早く いっしょに 北 へ 帰り たい ね 。」 はやく||きた||かえり|| 「 ああ 。」 「 さっき こども が ひと り 死んだ な 。」 |||||しんだ| 「 大丈夫だ よ 。 だいじょうぶだ| 眠って る んだ 。 ねむって|| あした あす こ へ ぼく しるし を つけて おく から 。」 「 ああ 、 もう 帰ろう 。 ||かえろう 夜明け まで に 向う へ 行か なくちゃ 。」 よあけ|||むかい う||いか| 「 まあ いい だろう 。 ぼく ね 、 どうしても わから ない 。 あいつ は カシオペーア の 三 つ 星 だろう 。 ||||みっ||ほし| みんな 青い 火 な んだろう 。 |あおい|ひ|| それなのに 、 どうして 火 が よく 燃えれば 、 雪 を よこす んだろう 。」 ||ひ|||もえれば|ゆき||| 「 それ は ね 、 電気 菓子 と おなじだ よ 。 |||でんき|かし||| そら 、 ぐる ぐるぐる まわって いる だろう 。 |ぐ る|||| ザラメ が みんな 、 ふわふわ の お 菓子 に なる ねえ 、 だから 火 が よく 燃えれば いい んだ よ 。」 ||||||かし|||||ひ|||もえれば||| 「 ああ 。」 「 じゃ 、 さよなら 。」 「 さよなら 。」 三 人 の 雪 童 子 は 、 九 疋 の 雪 狼 を つれて 、 西 の 方 へ 帰って 行き ました 。 みっ|じん||ゆき|わらべ|こ||ここの|ひき||ゆき|おおかみ|||にし||かた||かえって|いき| まもなく 東 の そら が 黄 ばら の ように 光り 、 琥珀 いろ に かがやき 、 黄金 に 燃え だし ました 。 |ひがし||||き||||ひかり|こはく||||おうごん||もえ|| 丘 も 野原 も あたらしい 雪 で いっぱいです 。 おか||のはら|||ゆき|| 雪 狼 ども は つかれて ぐったり 座って い ます 。 ゆき|おおかみ|||つか れて||すわって|| 雪 童 子 も 雪 に 座って わらい ました 。 ゆき|わらべ|こ||ゆき||すわって|| その 頬 は 林檎 の よう 、 その 息 は 百 合 の ように かおり ました 。 |ほお||りんご||||いき||ひゃく|ごう|||| ギラギラ の お 日 さま が お 登り に なり ました 。 ぎらぎら|||ひ||||のぼり||| 今朝 は 青 味 が かって 一そう 立派です 。 けさ||あお|あじ|||いっそう|りっぱです 日光 は 桃 いろ に いっぱいに 流れ ました 。 にっこう||もも||||ながれ| 雪 狼 は 起きあがって 大きく 口 を あき 、 その 口 から は 青い 焔 が ゆらゆら と 燃え ました 。 ゆき|おおかみ||おきあがって|おおきく|くち||||くち|||あおい|ほのお||||もえ| 「 さあ 、 おまえ たち は ぼく に ついて おい で 。 夜 が あけた から 、 あの 子ども を 起さ なけ あ いけない 。」 よ|||||こども||おこさ||| 雪 童 子 は 走って 、 あの 昨日 の 子供 の 埋まって いる とこ へ 行き ました 。 ゆき|わらべ|こ||はしって||きのう||こども||うずまって||||いき| 「 さあ 、 ここ ら の 雪 を ちらし ておくれ 。」 ||||ゆき||| 雪 狼 ども は 、 たちまち 後足 で 、 そこら の 雪 を け たて ました 。 ゆき|おおかみ||||あとあし||||ゆき|||| 風 が それ を けむり の ように 飛ばし ました 。 かぜ|||||||とばし| かんじき を はき 毛皮 を 着た 人 が 、 村 の 方 から 急いで やってき ました 。 |||けがわ||きた|じん||むら||かた||いそいで|| 「 もう いい よ 。」 雪 童 子 は 子供 の 赤い 毛布 の はじ が 、 ちらっと 雪 から 出た の を みて 叫び ました 。 ゆき|わらべ|こ||こども||あかい|もうふ|||||ゆき||でた||||さけび| 「 お 父さん が 来た よ 。 |とうさん||きた| もう 眼 を お さまし 。」 |がん||| 雪 わら す は うしろ の 丘 に かけあがって 一 本 の 雪けむり を たて ながら 叫び ました 。 ゆき||||||おか|||ひと|ほん||ゆきけむり||||さけび| 子ども は ちらっと うごいた ようでした 。 こども|||| そして 毛皮 の 人 は 一 生け ん 命 走って き ました 。 |けがわ||じん||ひと|いけ||いのち|はしって||