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『二百十日』 夏目漱石, 「三」 二百十日 夏目漱石

「三 」 二百十 日 夏目 漱石

「 姉さん 、 この 人 は 肥って る だろう 」 「 だいぶ ん 肥えて い な はります 」 「 肥えて るって 、 おれ は 、 これ で 豆腐 屋 だ もの 」 「 ホホホ 」 「 豆腐 屋 じゃ おかしい かい 」 「 豆腐 屋 の 癖 に 西郷 隆盛 の ような 顔 を して いる から おかしい んだ よ 。 時に こう 、 精進 料理 じゃ 、 あした 、 御 山 へ 登れ そう も ない な 」 「 また 御馳走 を 食い た がる 」 「 食い た がるって 、 これ じゃ 営 養 不良に なる ばかりだ 」 「 なに これほど 御馳走 が あれば たくさんだ 。 ―― 湯 葉 に 、 椎茸 に 、 芋 に 、 豆腐 、 いろいろ ある じゃ ない か 」 「 いろいろ ある 事 は ある が ね 。

ある 事 は 君 の 商売 道具 まで ある んだ が ―― 困った な 。

昨日 は 饂飩 ばかり 食わせられる 。 きょう は 湯 葉 に 椎茸 ばかり か 。

ああ ああ 」 「 君 この 芋 を 食って 見た まえ 。

掘り たて で すこぶる 美味だ 」 「 すこぶる 剛 健 な 味 が しや し ない か ―― おい 姉さん 、 肴 は 何も ない の かい 」 「 あいにく 何も ござ り まっせ ん 」 「 ござ り まっせん は 弱った な 。 じゃ 玉子 が ある だろう 」 「 玉子 なら ござ り まっす 」 「 その 玉子 を 半熟 に して 来て くれ 」 「 何 に 致します 」 「 半熟 に する んだ 」 「 煮て 参じます か 」 「 まあ 煮る んだ が 、 半分 煮る んだ 。 半熟 を 知ら ない か 」 「 いいえ 」 「 知ら ない ?

」 「 知り まっせ ん 」 「 どうも 辟易 だ な 」 「 何で ござ り まっす 」 「 何でも いい から 、 玉子 を 持って 御 出 。 それ から 、 おい 、 ちょっと 待った 。

君 ビール を 飲む か 」 「 飲んで も いい 」 と 圭 さん は 泰 然 たる 返事 を した 。

「 飲んで も いい か 、 それ じゃ 飲ま なくって も いい んだ 。 ―― よす か ね 」 「 よさ なくって も 好 い 。 ともかくも 少し 飲もう 」 「 ともかくも か 、 ハハハ 。

君 ほど 、 ともかくも の 好きな 男 は ない ね 。

それ で 、 あした に なる と 、 ともかくも 饂飩 を 食おう と 云 うんだろう 。

―― 姉さん 、 ビール も ついでに 持ってくる んだ 。

玉子 と ビール だ 。

分ったろう ね 」 「 ビール は ござ り まっせ ん 」 「 ビール が ない ? ―― 君 ビール は ない と さ 。

何だか 日本 の 領地 で ない ような 気 が する 。

情 ない 所 だ 」 「 なければ 、 飲ま なくって も 、 いい さ 」 と 圭 さん は また 泰 然 たる 挨拶 を する 。 「 ビール は ござ りません ばって ん 、 恵比寿 なら ござ ります 」 「 ハハハハ いよいよ 妙に なって 来た 。 おい 君 ビール で ない 恵比寿 が あるって 云 うんだ が 、 その 恵比寿 でも 飲んで 見る か ね 」 「 うん 、 飲んで も いい 。 ―― その 恵比寿 は やっぱり 罎 に 這 入って る んだろう ね 、 姉さん 」 と 圭 さん は この 時 ようやく 下 女 に 話しかけた 。

「 ねえ 」 と 下 女 は 肥後 訛り の 返事 を する 。

「 じゃ 、 ともかくも その 栓 を 抜いて ね 。

罎 ごと 、 ここ へ 持って おいで 」 「 ねえ 」 下 女 は 心得 貌 に 起って 行く 。

幅 の 狭い 唐 縮緬 を ちょき り 結び に 御 臀 の 上 へ 乗せて 、 絣 の 筒 袖 を つ ん つる てん に 着て いる 。

髪 だけ は 一種 異様 の 束 髪 に 、 だいぶ 碌 さん と 圭 さん の 胆 を 寒 から しめた ようだ 。

「 あの 下 女 は 異彩 を 放って る ね 」 と 碌 さん が 云 う と 、 圭 さん は 平気な 顔 を して 、 「 そう さ 」 と 何の 苦 も なく 答えた が 、 「 単純で いい 女 だ 」 と あと へ 、 持って 来て 、 木 に 竹 を 接いだ ように つけた 。

「 剛 健 な 趣味 が ありゃ し ない か 」 「 うん 。

実際 田舎 者 の 精神 に 、 文明 の 教育 を 施す と 、 立派な 人物 が 出来る んだ が な 。

惜しい 事 だ 」 「 そんなに 惜しけりゃ 、 あれ を 東京 へ 連れて 行って 、 仕込んで 見る が いい 」 「 うん 、 それ も 好 かろう 。

しかし それ より 前 に 文明 の 皮 を 剥か なくっちゃ 、 いけない 」 「 皮 が 厚い から なかなか 骨 が 折れる だろう 」 と 碌 さん は 水 瓜 の ような 事 を 云 う 。

「 折れて も 何でも 剥く の さ 。

奇麗な 顔 を して 、 下 卑 た 事 ばかり やって る 。

それ も 金 が ない 奴 だ と 、 自分 だけ で 済む のだ が 、 身分 が いい と 困る 。

下 卑 た 根性 を 社会 全体 に 蔓延 さ せる から ね 。

大変な 害毒 だ 。

しかも 身分 が よかったり 、 金 が あったり する もの に 、 よく こう 云 う 性根 の 悪い 奴 が ある もの だ 」 「 しかも 、 そんな の に 限って 皮 が いよいよ 厚い んだろう 」 「 体裁 だけ は すこぶる 美 事 な もの さ 。

しかし 内心 は あの 下 女 より よっぽど すれて いる んだ から 、 いやに なって しまう 」 「 そう か ね 。

じゃ 、 僕 も これ から 、 ちと 剛 健 党 の 御 仲間 入り を やろう か な 」 「 無論 の 事 さ 。

だから まず 第 一 着 に あした 六 時 に 起きて ……」 「 御 昼 に 饂飩 を 食って か 」 「 阿蘇 の 噴火 口 を 観て ……」 「 癇癪 を 起して 飛び込ま ない ように 要 心 を して か 」 「 もっとも 崇高なる 天地 間 の 活力 現象 に 対して 、 雄大 の 気象 を 養って 、 齷齪 たる 塵 事 を 超越 する んだ 」 「 あんまり 超越 し 過ぎる と あと で 世の中 が 、 いやに なって 、 かえって 困る ぜ 。

だから そこ の ところ は 好 加減 に 超越 して 置く 事 に し ようじゃ ない か 。

僕 の 足 じゃ とうてい そう えらく 超越 出来 そう も ない よ 」 「 弱い 男 だ 」 筒 袖 の 下 女 が 、 盆 の 上 へ 、 麦酒 ( ビール ) を 一 本 、 洋 盃 ( コップ ) を 二 つ 、 玉子 を 四 個 、 並べ つくして 持ってくる 。

「 そら 恵比寿 が 来た 。

この 恵比寿 が ビール で ない んだ から 面白い 。

さあ 一 杯 飲む かい 」 と 碌 さん が 相手 に 洋 盃 を 渡す 。

「 うん 、 ついでに その 玉子 を 二 つ 貰おう か 」 と 圭 さん が 云 う 。

「 だって 玉子 は 僕 が 誂 ら えた んだ ぜ 」 「 しかし 四 つ と も 食う 気 かい 」 「 あした の 饂飩 が 気 に なる から 、 この うち 二 個 は 携帯 して 行こう と 思う んだ 」 「 うん 、 そん なら 、 よ そう 」 と 圭 さん は すぐ 断念 する 。

「 よす と なる と 気の毒だ から 、 まあ 上げよう 。

本来 なら 剛 健 党 が 玉子 な ん ぞ を 食う の は 、 ちと 贅沢 の 沙汰 だ が 、 可哀想で も ある から 、―― さあ 食う が いい 。

―― 姉さん 、 この 恵比寿 は どこ で できる んだ ね 」 「 おおかた 熊本 で ござ り まっしょ 」 「 ふん 、 熊本 製 の 恵比寿 か 、 なかなか 旨 いや 。 君 どう だ 、 熊本 製 の 恵比寿 は 」 「 うん 。

やっぱり 東京 製 と 同じ ようだ 。

―― おい 、 姉さん 、 恵比寿 は いい が 、 この 玉子 は 生 だ ぜ 」 と 玉子 を 割った 圭 さん は ちょっと 眉 を ひそめた 。

「 ねえ 」 「 生 だ と 云 う のに 」 「 ねえ 」 「 何だか 要領 を 得 ない な 。

君 、 半熟 を 命じた んじゃ ない か 。

君 の も 生か 」 と 圭 さん は 下 女 を 捨てて 、 碌 さん に 向って くる 。 「 半熟 を 命じて 不 熟 を 得たり か 。

僕 の を 一 つ 割って 見よう 。

―― おや これ は 駄目だ ……」 「 うで 玉子 か 」 と 圭 さん は 首 を 延 して 相手 の 膳 の 上 を 見る 。

「 全 熟 だ 。

こっち の は どう だ 。

―― うん 、 これ も 全 熟 だ 。

―― 姉さん 、 これ は 、 うで 玉子 じゃ ない か 」 と 今度 は 碌 さん が 下 女 に むかう 。

「 ねえ 」 「 そう な の か 」 「 ねえ 」 「 なんだか 言葉 の 通じ ない 国 へ 来た ようだ な 。

―― 向 う の 御 客 さん の が 生玉 子 で 、 おれ の は 、 うで 玉子 な の かい 」 「 ねえ 」 「 なぜ 、 そんな 事 を した のだ い 」 「 半分 煮て 参じました 」 「 な ある ほど 。 こりゃ 、 よく 出来 てら あ 。

ハハハハ 、 君 、 半熟 の いわれ が 分った か 」 と 碌 さん 横手 を 打つ 。 「 ハハハハ 単純な もの だ 」 「 まるで 落し 噺 し 見た ようだ 」 「 間違いました か 。 そちら の も 煮て 参じます か 」 「 なに これ で いい よ 。 ―― 姉さん 、 ここ から 、 阿蘇 まで 何 里 ある かい 」 と 圭 さん が 玉子 に 関係 の ない 方面 へ 出て 来た 。

「 ここ が 阿蘇 で ござ り まっす 」 「 ここ が 阿蘇 なら 、 あした 六 時 に 起きる が もの は ない 。 もう 二三 日 逗留 して 、 すぐ 熊本 へ 引き返そう じゃ ない か 」 と 碌 さん が すぐ 云 う 。

「 どうぞ 、 いつまでも 御 逗留 なさい まっせ 」 「 せっかく 、 姉さん も 、 ああ 云って 勧める もの だ から 、 どう だろう 、 いっそ 、 そう したら 」 と 碌 さん が 圭 さん の 方 を 向く 。 圭 さん は 相手 に し ない 。

「 ここ も 阿蘇 だって 、 阿蘇 郡 なんだろう 」 と やはり 下 女 を 追 窮して いる 。

「 ねえ 」 「 じゃ 阿蘇 の 御 宮 まで は どの くらい ある かい 」 「 御 宮 まで は 三 里 で ござ り まっす 」 「 山 の 上 まで は 」 「 御 宮 から 二 里 で ござ りますたい 」 「 山 の 上 は えらい だろう ね 」 と 碌 さん が 突然 飛び出して くる 。 「 ねえ 」 「 御前 登った 事 が ある かい 」 「 いいえ 」 「 じゃ 知ら ない んだ ね 」 「 いいえ 、 知り まっせ ん 」 「 知ら なけりゃ 、 しようがない 。 せっかく 話 を 聞こう と 思った のに 」 「 御 山 へ 御 登り なさいます か 」 「 うん 、 早く 登り たくって 、 仕方 が ない んだ 」 と 圭 さん が 云 う と 、 「 僕 は 登り たく なくって 、 仕方 が ない んだ 」 と 碌 さん が 打ち 壊 わした 。 「 ホホホ それ じゃ 、 あなた だけ 、 ここ へ 御 逗留 なさい まっせ 」 「 うん 、 ここ で 寝転んで 、 あの ごうご う 云 う 音 を 聞いて いる 方 が 楽な ようだ 。 ごうご う と 云 や あ 、 さっき より 、 だいぶ 烈 しく なった ようだ ぜ 、 君 」 「 そう さ 、 だいぶ 、 強く なった 。

夜 の せい だろう 」 「 御 山 が 少し 荒れて おりますたい 」 「 荒れる と 烈 しく 鳴る の か ね 」 「 ねえ 。 そうして よ な が たくさんに 降って 参りますたい 」 「 よ なた 何 だい 」 「 灰 で ござ り まっす 」 下 女 は 障子 を あけて 、 椽側 へ 人 指し ゆび を 擦りつけ ながら 、 「 御覧 なさり まっせ 」 と 黒い 指先 を 出す 。 「 なるほど 、 始終 降って る んだ 。

きのう は 、 こんな じゃ なかった ね 」 と 圭 さん が 感心 する 。

「 ねえ 。

少し 御 山 が 荒れて おりますたい 」 「 おい 君 、 いくら 荒れて も 登る 気 か ね 。 荒れ模様 なら 少々 延ばそう じゃ ない か 」 「 荒れれば なお 愉快だ 。

滅多に 荒れた ところ な ん ぞ が 見られる もの じゃ ない 。 荒れる 時 と 、 荒れ ない 時 は 火 の 出 具合 が 大変 違う んだ そうだ 。

ねえ 、 姉さん 」 「 ねえ 、 今夜 は 大変 赤く 見えます 。 ちょ と 出て 御覧 なさい まっせ 」 どれ と 、 圭 さん は すぐ 椽側 へ 飛び出す 。 「 いや あ 、 こいつ は 熾 だ 。

おい 君 早く 出て 見た まえ 。

大変だ よ 」 「 大変だ ?

大変じゃ 出て 見る か な 。

どれ 。

―― いや あ 、 こいつ は ―― なるほど えらい もの だ ね ―― あれ じゃ とうてい 駄目だ 」 「 何 が 」 「 何 がって 、―― 登る 途中 で 焼き殺さ れ ち まう だろう 」 「 馬鹿 を 云って いら あ 。 夜 だ から 、 ああ 見える んだ 。

実際 昼間 から 、 あの くらい やって る んだ よ 。

ねえ 、 姉さん 」 「 ねえ 」 「 ねえ かも 知れ ない が 危険だ ぜ 。

ここ に こうして いて も 何だか 顔 が 熱い ようだ 」 と 碌 さん は 、 自分 の 頬 ぺた を 撫で 廻す 。

「 大袈裟な 事 ばかり 云 う 男 だ 」 「 だって 君 の 顔 だって 、 赤く 見える ぜ 。

そら そこ の 垣 の 外 に 広い 稲田 が ある だろう 。

あの 青い 葉 が 一面に 、 こう 照らされて いる じゃ ない か 」 「 嘘 ばかり 、 あれ は 星 の ひかり で 見える のだ 」 「 星 の ひかり と 火 の ひかり と は 趣 が 違う さ 」 「 どうも 、 君 も よほど 無 学 だ ね 。 君 、 あの 火 は 五六 里 先 き に ある のだ ぜ 」 「 何 里 先 き だって 、 向 う の 方 の 空 が 一面に 真 赤 に なって る じゃ ない か 」 と 碌 さん は 向 を ゆびさして 大きな 輪 を 指 の 先 で 描いて 見せる 。

「 よる だ もの 」 「 夜 だって ……」 「 君 は 無 学 だ よ 。

荒木 又 右 衛 門 は 知ら なくって も 好 いが 、 この くらい な 事 が 分 ら なくっちゃ 恥 だ ぜ 」 と 圭 さん は 、 横 から 相手 の 顔 を 見た 。 「 人格 に かかわる か ね 。

人格 に かかわる の は 我慢 する が 、 命 に かかわっちゃ 降参 だ 」 「 まだ あんな 事 を 云って いる 。 ―― じゃ 姉さん に 聞いて 見る が いい 。

ねえ 姉さん 。

あの くらい 火 が 出たって 、 御 山 へ は 登れる んだろう 」 「 ねえ い 」 「 大丈夫 かい 」 と 碌 さん は 下 女 の 顔 を 覗き込む 。 「 ねえ い 。

女 で も 登りますたい 」 「 女 でも 登っちゃ 、 男 は 是非 登る 訳 か な 。 飛んだ 事 に なった もん だ 」 「 ともかくも 、 あした は 六 時 に 起きて ……」 「 もう 分った よ 」 言い 棄 て て 、 部屋 の なか に 、 ごろり と 寝転んだ 、 碌 さん の 去った あと に 、 圭 さん は 、 黙 然 と 、 眉 を 軒 げ て 、 奈落 から 半 空 に 向って 、 真 直 に 立つ 火 の 柱 を 見詰めて いた 。

「三 」 二百十 日 夏目 漱石 みっ|にひゃくじゅう|ひ|なつめ|そうせき Three" Two Hundred and Eleven Days, Natsume Soseki

「 姉さん 、 この 人 は 肥って る だろう 」 「 だいぶ ん 肥えて い な はります 」 「 肥えて るって 、 おれ は 、 これ で 豆腐 屋 だ もの 」 「 ホホホ 」 「 豆腐 屋 じゃ おかしい かい 」 「 豆腐 屋 の 癖 に 西郷 隆盛 の ような 顔 を して いる から おかしい んだ よ 。 ねえさん||じん||こえ って|||||こえて|||はり ます|こえて|る って|||||とうふ|や||||とうふ|や||||とうふ|や||くせ||さいごう|りゅうせい|||かお||||||| "Sister, this person will be fat." "It's quite fat." "It's fat, I'm a tofu shop." "Hohoho" "It's funny at a tofu shop." " It's strange because he has a face like Saigo Takamori in the habit of a tofu shop. 時に こう 、 精進 料理 じゃ 、 あした 、 御 山 へ 登れ そう も ない な 」 「 また 御馳走 を 食い た がる 」 「 食い た がるって 、 これ じゃ 営 養 不良に なる ばかりだ 」 「 なに これほど 御馳走 が あれば たくさんだ 。 ときに||しょうじん|りょうり|||ご|やま||のぼれ||||||ごちそう||くい|||くい||がる って|||いとな|やしな|ふりょうに|||||ごちそう||| "If you eat vegetarian food like this, you won't be able to climb the mountain tomorrow," "You're eating too much food," "You're eating too much food, but this will only make you malnourished. ―― 湯 葉 に 、 椎茸 に 、 芋 に 、 豆腐 、 いろいろ ある じゃ ない か 」 「 いろいろ ある 事 は ある が ね 。 ゆ|は||しいたけ||いも||とうふ||||||||こと|||| -- Yuba, shiitake mushrooms, potatoes, tofu, there are all kinds of things, aren't there?

ある 事 は 君 の 商売 道具 まで ある んだ が ―― 困った な 。 |こと||きみ||しょうばい|どうぐ|||||こまった| I mean, some things are your tools of the trade, but...

昨日 は 饂飩 ばかり 食わせられる 。 きのう||うどん||くわせ られる Yesterday, I was fed only udon. きょう は 湯 葉 に 椎茸 ばかり か 。 ||ゆ|は||しいたけ|| Today is all about yuba and shiitake mushrooms.

ああ ああ 」 「 君 この 芋 を 食って 見た まえ 。 ||きみ||いも||くって|みた| You should try this sweet potato.

掘り たて で すこぶる 美味だ 」 「 すこぶる 剛 健 な 味 が しや し ない か ―― おい 姉さん 、 肴 は 何も ない の かい 」 「 あいにく 何も ござ り まっせ ん 」 「 ござ り まっせん は 弱った な 。 ほり||||びみだ||かたし|けん||あじ|||||||ねえさん|さかな||なにも|||||なにも|||まっ せ||||まっ せ ん||よわった| "It's freshly dug and tastes very good" "It tastes very robust - hey sis, do you have anything to snack on? じゃ 玉子 が ある だろう 」 「 玉子 なら ござ り まっす 」 「 その 玉子 を 半熟 に して 来て くれ 」 「 何 に 致します 」 「 半熟 に する んだ 」 「 煮て 参じます か 」 「 まあ 煮る んだ が 、 半分 煮る んだ 。 |たまご||||たまご||||まっ す||たまご||はんじゅく|||きて||なん||いたし ます|はんじゅく||||にて|さんじ ます|||にる|||はんぶん|にる| You have an egg, right?" "I have an egg, yes, sir." "Go and half-cook that egg." "What do you want?" "Half-cook it, sir." "Well, I'll cook it, but half-cook it. 半熟 を 知ら ない か 」 「 いいえ 」 「 知ら ない ? はんじゅく||しら||||しら| Do you know half-boiled rice?

」 「 知り まっせ ん 」 「 どうも 辟易 だ な 」 「 何で ござ り まっす 」 「 何でも いい から 、 玉子 を 持って 御 出 。 しり|まっ せ|||へきえき|||なんで|||まっ す|なんでも|||たまご||もって|ご|だ I don't know, I don't know, I'm fed up, I'm fed up, I don't care what you have to do, just bring me an egg and I'll go. それ から 、 おい 、 ちょっと 待った 。 ||||まった And, hey, wait a minute.

君 ビール を 飲む か 」 「 飲んで も いい 」 と 圭 さん は 泰 然 たる 返事 を した 。 きみ|びーる||のむ||のんで||||けい|||ひろし|ぜん||へんじ|| Kei replied calmly, "You want a beer?

「 飲んで も いい か 、 それ じゃ 飲ま なくって も いい んだ 。 のんで||||||のま|なく って||| "Can I have a drink? Then you don't have to drink it. ―― よす か ね 」 「 よさ なくって も 好 い 。 |||よ さ|なく って||よしみ| -- Do you want it?" "No, I don't need it. ともかくも 少し 飲もう 」 「 ともかくも か 、 ハハハ 。 |すこし|のもう||| "Anyway, let's have a little drink." "Anyway?

君 ほど 、 ともかくも の 好きな 男 は ない ね 。 きみ||||すきな|おとこ||| I don't think I've ever met a man who loves anything as much as you do.

それ で 、 あした に なる と 、 ともかくも 饂飩 を 食おう と 云 うんだろう 。 |||||||うどん||くおう||うん| So, tomorrow, they'll probably say, "Let's eat udon anyway.

―― 姉さん 、 ビール も ついでに 持ってくる んだ 。 ねえさん|びーる|||もってくる| -- Sister, bring some beer with you.

玉子 と ビール だ 。 たまご||びーる| Eggs and beer.

分ったろう ね 」 「 ビール は ござ り まっせ ん 」 「 ビール が ない ? ぶん ったろう||びーる||||まっ せ||びーる|| You know what I mean." "No beer." "No beer? ―― 君 ビール は ない と さ 。 きみ|びーる|||| -- You don't have beer.

何だか 日本 の 領地 で ない ような 気 が する 。 なんだか|にっぽん||りょうち||||き|| I have a feeling that this is not Japanese territory.

情 ない 所 だ 」 「 なければ 、 飲ま なくって も 、 いい さ 」 と 圭 さん は また 泰 然 たる 挨拶 を する 。 じょう||しょ|||のま|なく って|||||けい||||ひろし|ぜん||あいさつ|| If you don't have it, you don't have to drink it," Kei-san said calmly again. 「 ビール は ござ りません ばって ん 、 恵比寿 なら ござ ります 」 「 ハハハハ いよいよ 妙に なって 来た 。 びーる|||り ませ ん|ば って||えびす|||り ます|||みょうに||きた "We don't have beer, but we do have Ebisu." "Hahahaha, this is getting weird at last. おい 君 ビール で ない 恵比寿 が あるって 云 うんだ が 、 その 恵比寿 でも 飲んで 見る か ね 」 「 うん 、 飲んで も いい 。 |きみ|びーる|||えびす||ある って|うん||||えびす||のんで|みる||||のんで|| Hey, you said there is a non-beer Ebisu, would you like to try it? ―― その 恵比寿 は やっぱり 罎 に 這 入って る んだろう ね 、 姉さん 」 と 圭 さん は この 時 ようやく 下 女 に 話しかけた 。 |えびす|||びん||は|はいって||||ねえさん||けい||||じ||した|おんな||はなしかけた -- I'm sure that Ebisu is crawling into your bottle, sis," Kei finally spoke to the servant at this time.

「 ねえ 」 と 下 女 は 肥後 訛り の 返事 を する 。 ||した|おんな||ひご|なまり||へんじ|| The servant replies in a Higo accent, "Hey.

「 じゃ 、 ともかくも その 栓 を 抜いて ね 。 |||せん||ぬいて| Well, you're going to have to pull the plug anyway.

罎 ごと 、 ここ へ 持って おいで 」 「 ねえ 」 下 女 は 心得 貌 に 起って 行く 。 びん||||もって|||した|おんな||こころえ|ぼう||おこって|いく Bring your bottle here." "Hey," the servant said knowingly as she got up to go.

幅 の 狭い 唐 縮緬 を ちょき り 結び に 御 臀 の 上 へ 乗せて 、 絣 の 筒 袖 を つ ん つる てん に 着て いる 。 はば||せまい|とう|ちりめん||||むすび||ご|でん||うえ||のせて|かすり||つつ|そで|||||||きて| A narrow piece of Karashi crepe is tied in a short knot over the buttocks, and a kasuri sleeve is worn over the top of the buttocks.

髪 だけ は 一種 異様 の 束 髪 に 、 だいぶ 碌 さん と 圭 さん の 胆 を 寒 から しめた ようだ 。 かみ|||いっしゅ|いよう||たば|かみ|||ろく|||けい|||たん||さむ||| The hair, but only the hair in a kind of unusual bunches, seems to have greatly chilled Roku-san and Kei-san's bile.

「 あの 下 女 は 異彩 を 放って る ね 」 と 碌 さん が 云 う と 、 圭 さん は 平気な 顔 を して 、 「 そう さ 」 と 何の 苦 も なく 答えた が 、 「 単純で いい 女 だ 」 と あと へ 、 持って 来て 、 木 に 竹 を 接いだ ように つけた 。 |した|おんな||いさい||はなって||||ろく|||うん|||けい|||へいきな|かお||||||なんの|く|||こたえた||たんじゅんで||おんな|||||もって|きて|き||たけ||ついだ|| When Roku-san said, "That servant is very unique," Kei-san looked unconcerned and answered, "Yes, she is," without any difficulty, but then said, "She is simple and nice," and brought it back and attached it to the tree as if it were a bamboo stick.

「 剛 健 な 趣味 が ありゃ し ない か 」 「 うん 。 かたし|けん||しゅみ|||||| What kind of a hobby is that?

実際 田舎 者 の 精神 に 、 文明 の 教育 を 施す と 、 立派な 人物 が 出来る んだ が な 。 じっさい|いなか|もの||せいしん||ぶんめい||きょういく||ほどこす||りっぱな|じんぶつ||できる||| In fact, if you educate the mind of a countryman in the ways of civilization, you will make a fine man.

惜しい 事 だ 」 「 そんなに 惜しけりゃ 、 あれ を 東京 へ 連れて 行って 、 仕込んで 見る が いい 」 「 うん 、 それ も 好 かろう 。 おしい|こと|||おしけりゃ|||とうきょう||つれて|おこなって|しこんで|みる||||||よしみ| If it is so regrettable, you should take him to Tokyo and work on him.

しかし それ より 前 に 文明 の 皮 を 剥か なくっちゃ 、 いけない 」 「 皮 が 厚い から なかなか 骨 が 折れる だろう 」 と 碌 さん は 水 瓜 の ような 事 を 云 う 。 |||ぜん||ぶんめい||かわ||むか|||かわ||あつい|||こつ||おれる|||ろく|||すい|うり|||こと||うん| But before that, we have to peel off the skin of civilization," Roku-san said like a water melon, "It will take a lot of work because the skin is so thick.

「 折れて も 何でも 剥く の さ 。 おれて||なんでも|むく|| "If it breaks, I'll peel it off.

奇麗な 顔 を して 、 下 卑 た 事 ばかり やって る 。 きれいな|かお|||した|ひ||こと||| They put on a pretty face and do all kinds of dirty things.

それ も 金 が ない 奴 だ と 、 自分 だけ で 済む のだ が 、 身分 が いい と 困る 。 ||きむ|||やつ|||じぶん|||すむ|||みぶん||||こまる If he has no money, he can get by on his own, but if he's well off, he's in trouble.

下 卑 た 根性 を 社会 全体 に 蔓延 さ せる から ね 。 した|ひ||こんじょう||しゃかい|ぜんたい||まんえん|||| It's because they spread their lowly guts throughout society.

大変な 害毒 だ 。 たいへんな|がいどく| It's very toxic.

しかも 身分 が よかったり 、 金 が あったり する もの に 、 よく こう 云 う 性根 の 悪い 奴 が ある もの だ 」 「 しかも 、 そんな の に 限って 皮 が いよいよ 厚い んだろう 」 「 体裁 だけ は すこぶる 美 事 な もの さ 。 |みぶん|||きむ||||||||うん||しょうね||わるい|やつ|||||||||かぎって|かわ|||あつい||ていさい||||び|こと||| I'm sure that the people who have good name and money often have such a bad character.

しかし 内心 は あの 下 女 より よっぽど すれて いる んだ から 、 いやに なって しまう 」 「 そう か ね 。 |ないしん|||した|おんな|||||||||||| But inside, she's so much more sophisticated than that lass that it makes me sick.

じゃ 、 僕 も これ から 、 ちと 剛 健 党 の 御 仲間 入り を やろう か な 」 「 無論 の 事 さ 。 |ぼく|||||かたし|けん|とう||ご|なかま|はいり|||||むろん||こと| I'm going to join the Rigid Party for a while now, of course.

だから まず 第 一 着 に あした 六 時 に 起きて ……」 「 御 昼 に 饂飩 を 食って か 」 「 阿蘇 の 噴火 口 を 観て ……」 「 癇癪 を 起して 飛び込ま ない ように 要 心 を して か 」 「 もっとも 崇高なる 天地 間 の 活力 現象 に 対して 、 雄大 の 気象 を 養って 、 齷齪 たる 塵 事 を 超越 する んだ 」 「 あんまり 超越 し 過ぎる と あと で 世の中 が 、 いやに なって 、 かえって 困る ぜ 。 ||だい|ひと|ちゃく|||むっ|じ||おきて|ご|ひる||うどん||くって||あそ||ふんか|くち||みて|かんしゃく||おこして|とびこま|||かなめ|こころ|||||すうこうなる|てんち|あいだ||かつりょく|げんしょう||たいして|ゆうだい||きしょう||やしなって|あくさく||ちり|こと||ちょうえつ||||ちょうえつ||すぎる||||よのなか|||||こまる| So, first things first, get up at six o'clock tomorrow ......, have some udon for lunch, watch the crater of Aso ......, and be careful not to throw a tantrum and jump into it, or cultivate a magnificent atmosphere for the most sublime phenomena of vitality between heaven and earth, and sedulously transcend the trivialities.

だから そこ の ところ は 好 加減 に 超越 して 置く 事 に し ようじゃ ない か 。 |||||よしみ|かげん||ちょうえつ||おく|こと||||| So, let's just try to transcend the positive and the negative in this area.

僕 の 足 じゃ とうてい そう えらく 超越 出来 そう も ない よ 」 「 弱い 男 だ 」 筒 袖 の 下 女 が 、 盆 の 上 へ 、 麦酒 ( ビール ) を 一 本 、 洋 盃 ( コップ ) を 二 つ 、 玉子 を 四 個 、 並べ つくして 持ってくる 。 ぼく||あし|||||ちょうえつ|でき|||||よわい|おとこ||つつ|そで||した|おんな||ぼん||うえ||ばくしゅ|びーる||ひと|ほん|よう|さかずき|こっぷ||ふた||たまご||よっ|こ|ならべ||もってくる The woman in the sleeves brings a bottle of beer, two cups, and four eggs on a tray.

「 そら 恵比寿 が 来た 。 |えびす||きた SORA Ebisu is here.

この 恵比寿 が ビール で ない んだ から 面白い 。 |えびす||びーる|||||おもしろい It is interesting that Ebisu is not a beer.

さあ 一 杯 飲む かい 」 と 碌 さん が 相手 に 洋 盃 を 渡す 。 |ひと|さかずき|のむ|||ろく|||あいて||よう|さかずき||わたす Roku-san handed the Western-style sake cup to his partner and said, "Come on, let's have a drink.

「 うん 、 ついでに その 玉子 を 二 つ 貰おう か 」 と 圭 さん が 云 う 。 |||たまご||ふた||もらおう|||けい|||うん| Kei says, "Yeah, let's get two of those eggs while we're at it.

「 だって 玉子 は 僕 が 誂 ら えた んだ ぜ 」 「 しかし 四 つ と も 食う 気 かい 」 「 あした の 饂飩 が 気 に なる から 、 この うち 二 個 は 携帯 して 行こう と 思う んだ 」 「 うん 、 そん なら 、 よ そう 」 と 圭 さん は すぐ 断念 する 。 |たまご||ぼく||ちょう||||||よっ||||くう|き||||うどん||き||||||ふた|こ||けいたい||いこう||おもう||||||||けい||||だんねん| I'm not sure if I'm going to eat all four, but I'm going to carry two of them with me because I'm worried about my udon tomorrow.

「 よす と なる と 気の毒だ から 、 まあ 上げよう 。 ||||きのどくだ|||あげよう I'm sorry you have to do this, so let's just take it up.

本来 なら 剛 健 党 が 玉子 な ん ぞ を 食う の は 、 ちと 贅沢 の 沙汰 だ が 、 可哀想で も ある から 、―― さあ 食う が いい 。 ほんらい||かたし|けん|とう||たまご|||||くう||||ぜいたく||さた|||かわいそうで|||||くう|| Normally it would be a bit extravagant for a stalwart to eat an egg, but since you feel sorry for him, go ahead and have it.

―― 姉さん 、 この 恵比寿 は どこ で できる んだ ね 」 「 おおかた 熊本 で ござ り まっしょ 」 「 ふん 、 熊本 製 の 恵比寿 か 、 なかなか 旨 いや 。 ねえさん||えびす||||||||くまもと||||まっ しょ||くまもと|せい||えびす|||むね| -- Where does this Ebisu come from?" "Most likely Kumamoto" "Hmm, Kumamoto Ebisu, that's pretty good. 君 どう だ 、 熊本 製 の 恵比寿 は 」 「 うん 。 きみ|||くまもと|せい||えびす|| What do you think of Kumamoto Ebisu?

やっぱり 東京 製 と 同じ ようだ 。 |とうきょう|せい||おなじ| It seems to be the same as in Tokyo after all.

―― おい 、 姉さん 、 恵比寿 は いい が 、 この 玉子 は 生 だ ぜ 」 と 玉子 を 割った 圭 さん は ちょっと 眉 を ひそめた 。 |ねえさん|えびす|||||たまご||せい||||たまご||わった|けい||||まゆ|| -- Hey, sis, Ebisu is good, but this egg is raw," said Kei, raising his eyebrows a little as he cracked the egg.

「 ねえ 」 「 生 だ と 云 う のに 」 「 ねえ 」 「 何だか 要領 を 得 ない な 。 |せい|||うん||||なんだか|ようりょう||とく|| Hey, I told you I'm raw, but hey, you're kind of missing the point.

君 、 半熟 を 命じた んじゃ ない か 。 きみ|はんじゅく||めいじた||| You ordered them to be half-ripe.

君 の も 生か 」 と 圭 さん は 下 女 を 捨てて 、 碌 さん に 向って くる 。 きみ|||いか||けい|||した|おんな||すてて|ろく|||むかい って| Kei-san abandoned the servant and turned to Roku-san, saying, "Is yours alive, too? 「 半熟 を 命じて 不 熟 を 得たり か 。 はんじゅく||めいじて|ふ|じゅく||えたり| "I have ordered half-ripeness and got unripeness..." (The same thing can be said about the "half-ripeness" of a book.)

僕 の を 一 つ 割って 見よう 。 ぼく|||ひと||わって|みよう Let's crack one of mine open and see.

―― おや これ は 駄目だ ……」 「 うで 玉子 か 」 と 圭 さん は 首 を 延 して 相手 の 膳 の 上 を 見る 。 |||だめだ||たまご|||けい|||くび||のぶ||あいて||ぜん||うえ||みる -- Kei-san extends his head and looks at the top of the other person's table.

「 全 熟 だ 。 ぜん|じゅく| "I'm fully mature.

こっち の は どう だ 。 How about this one?

―― うん 、 これ も 全 熟 だ 。 |||ぜん|じゅく| -- Yes, it's all ripe.

―― 姉さん 、 これ は 、 うで 玉子 じゃ ない か 」 と 今度 は 碌 さん が 下 女 に むかう 。 ねえさん||||たまご|||||こんど||ろく|||した|おんな|| -- Roku-san turns to the servant this time and says, "Sister, isn't this a boiled egg?

「 ねえ 」 「 そう な の か 」 「 ねえ 」 「 なんだか 言葉 の 通じ ない 国 へ 来た ようだ な 。 |||||||ことば||つうじ||くに||きた|| I feel like I've come to a country where I don't understand a word you're saying.

―― 向 う の 御 客 さん の が 生玉 子 で 、 おれ の は 、 うで 玉子 な の かい 」 「 ねえ 」 「 なぜ 、 そんな 事 を した のだ い 」 「 半分 煮て 参じました 」 「 な ある ほど 。 むかい|||ご|きゃく||||いくたま|こ||||||たまご|||||||こと|||||はんぶん|にて|さんじ ました||| -- I'm not sure why you did that. I boiled it halfway through. こりゃ 、 よく 出来 てら あ 。 ||でき|| This is very well done.

ハハハハ 、 君 、 半熟 の いわれ が 分った か 」 と 碌 さん 横手 を 打つ 。 |きみ|はんじゅく||いわ れ||ぶん った|||ろく||よこて||うつ Roku-san slapped his hand to the side and said, "Hahahaha, you know what half-boiled rice is? 「 ハハハハ 単純な もの だ 」 「 まるで 落し 噺 し 見た ようだ 」 「 間違いました か 。 |たんじゅんな||||おとし|はなし||みた||まちがい ました| "Hahahaha, it's so simple," "It's just like watching a comedy story," "Is there a mistake, or... そちら の も 煮て 参じます か 」 「 なに これ で いい よ 。 |||にて|さんじ ます|||||| I'll boil yours, too. ―― 姉さん 、 ここ から 、 阿蘇 まで 何 里 ある かい 」 と 圭 さん が 玉子 に 関係 の ない 方面 へ 出て 来た 。 ねえさん|||あそ||なん|さと||||けい|||たまご||かんけい|||ほうめん||でて|きた -- Kei-san came out in a direction unrelated to the tamago, saying, "Sister, how many miles are there from here to Aso?

「 ここ が 阿蘇 で ござ り まっす 」 「 ここ が 阿蘇 なら 、 あした 六 時 に 起きる が もの は ない 。 ||あそ||||まっ す|||あそ|||むっ|じ||おきる|||| If this is Aso, I'll get up at six o'clock tomorrow, but I don't have anything. もう 二三 日 逗留 して 、 すぐ 熊本 へ 引き返そう じゃ ない か 」 と 碌 さん が すぐ 云 う 。 |ふみ|ひ|とうりゅう|||くまもと||ひきかえそう|||||ろく||||うん| Let's stay a few more days and go back to Kumamoto right away," Roku-san immediately said.

「 どうぞ 、 いつまでも 御 逗留 なさい まっせ 」 「 せっかく 、 姉さん も 、 ああ 云って 勧める もの だ から 、 どう だろう 、 いっそ 、 そう したら 」 と 碌 さん が 圭 さん の 方 を 向く 。 ||ご|とうりゅう||まっ せ||ねえさん|||うん って|すすめる||||||||||ろく|||けい|||かた||むく The first time I went to the store, I saw a man who had been there for a long time and who had been there for a long time, and I thought to myself, "I've got to go. 圭 さん は 相手 に し ない 。 けい|||あいて||| Kei is not a partner.

「 ここ も 阿蘇 だって 、 阿蘇 郡 なんだろう 」 と やはり 下 女 を 追 窮して いる 。 ||あそ||あそ|ぐん||||した|おんな||つい|きゅうして| He is still in pursuit of the servant, saying, "This is Aso, too, isn't it?

「 ねえ 」 「 じゃ 阿蘇 の 御 宮 まで は どの くらい ある かい 」 「 御 宮 まで は 三 里 で ござ り まっす 」 「 山 の 上 まで は 」 「 御 宮 から 二 里 で ござ りますたい 」 「 山 の 上 は えらい だろう ね 」 と 碌 さん が 突然 飛び出して くる 。 ||あそ||ご|みや|||||||ご|みや|||みっ|さと||||まっ す|やま||うえ|||ご|みや||ふた|さと|||り ます たい|やま||うえ||||||ろく|||とつぜん|とびだして| The "Aso Shrine" is 3 ri, "to the top of the mountain" is 2 ri, "to the top of the mountain" is 2 ri, "the top of the mountain must be terrible," Roku-san said as he suddenly jumped out of the car. 「 ねえ 」 「 御前 登った 事 が ある かい 」 「 いいえ 」 「 じゃ 知ら ない んだ ね 」 「 いいえ 、 知り まっせ ん 」 「 知ら なけりゃ 、 しようがない 。 |おまえ|のぼった|こと||||||しら|||||しり|まっ せ||しら|| "Hey, have you ever been up there before?" "No." "So you don't know?" "No, I don't know." "If you don't know, you don't know..." "I don't know..." "I don't know. せっかく 話 を 聞こう と 思った のに 」 「 御 山 へ 御 登り なさいます か 」 「 うん 、 早く 登り たくって 、 仕方 が ない んだ 」 と 圭 さん が 云 う と 、 「 僕 は 登り たく なくって 、 仕方 が ない んだ 」 と 碌 さん が 打ち 壊 わした 。 |はなし||きこう||おもった||ご|やま||ご|のぼり|なさい ます|||はやく|のぼり|たく って|しかた|||||けい|||うん|||ぼく||のぼり||なく って|しかた|||||ろく|||うち|こわ| I was just about to listen to you." "Follow me to the mountain?" "Yes, I want to climb it as soon as possible, I can't help it," said Kei, to which Roku replied, "I don't want to climb it, I can't help it," breaking the silence. 「 ホホホ それ じゃ 、 あなた だけ 、 ここ へ 御 逗留 なさい まっせ 」 「 うん 、 ここ で 寝転んで 、 あの ごうご う 云 う 音 を 聞いて いる 方 が 楽な ようだ 。 |||||||ご|とうりゅう||まっ せ||||ねころんで||||うん||おと||きいて||かた||らくな| "Well, then, you just stay here." "Yes, I think I'll be more comfortable just lying here and listening to that humming noise. ごうご う と 云 や あ 、 さっき より 、 だいぶ 烈 しく なった ようだ ぜ 、 君 」 「 そう さ 、 だいぶ 、 強く なった 。 |||うん||||||れつ|||||きみ||||つよく| "Yes, you have become much more intense, you know.

夜 の せい だろう 」 「 御 山 が 少し 荒れて おりますたい 」 「 荒れる と 烈 しく 鳴る の か ね 」 「 ねえ 。 よ||||ご|やま||すこし|あれて|おり ます たい|あれる||れつ||なる|||| It must be the night." "The mountains are a little rough, sir." "When they are rough, they make a fierce noise, don't they?" "Hey..." "It's the night, isn't it? そうして よ な が たくさんに 降って 参りますたい 」 「 よ なた 何 だい 」 「 灰 で ござ り まっす 」 下 女 は 障子 を あけて 、 椽側 へ 人 指し ゆび を 擦りつけ ながら 、 「 御覧 なさり まっせ 」 と 黒い 指先 を 出す 。 |||||ふって|まいり ます たい|||なん||はい||||まっ す|した|おんな||しょうじ|||たるきがわ||じん|さし|||なすりつけ||ごらん||まっ せ||くろい|ゆびさき||だす The woman opens the door, rubs her fingertips against the balcony, and releases her black fingertips, "Look at this. 「 なるほど 、 始終 降って る んだ 。 |しじゅう|ふって|| "I see, it's raining all the time.

きのう は 、 こんな じゃ なかった ね 」 と 圭 さん が 感心 する 。 |||||||けい|||かんしん| Kei was impressed, saying, "It wasn't like this yesterday.

「 ねえ 。

少し 御 山 が 荒れて おりますたい 」 「 おい 君 、 いくら 荒れて も 登る 気 か ね 。 すこし|ご|やま||あれて|おり ます たい||きみ||あれて||のぼる|き|| The mountain is a little rough, sir." "Hey, you, are you going to climb it no matter how rough it gets? 荒れ模様 なら 少々 延ばそう じゃ ない か 」 「 荒れれば なお 愉快だ 。 あれもよう||しょうしょう|のばそう||||あれれば||ゆかいだ If it's going to be rough, why don't we postpone it a bit?

滅多に 荒れた ところ な ん ぞ が 見られる もの じゃ ない 。 めったに|あれた||||||み られる||| It's not often you see a place that's so rough. 荒れる 時 と 、 荒れ ない 時 は 火 の 出 具合 が 大変 違う んだ そうだ 。 あれる|じ||あれ||じ||ひ||だ|ぐあい||たいへん|ちがう||そう だ When it's stormy and when it's not, the fire is very different, they say.

ねえ 、 姉さん 」 「 ねえ 、 今夜 は 大変 赤く 見えます 。 |ねえさん||こんや||たいへん|あかく|みえ ます Hey, sis." "Hey, you look very red tonight. ちょ と 出て 御覧 なさい まっせ 」 どれ と 、 圭 さん は すぐ 椽側 へ 飛び出す 。 ||でて|ごらん||まっ せ|||けい||||たるきがわ||とびだす Please step out for a moment, sir," and Kei immediately jumps out to the balcony. 「 いや あ 、 こいつ は 熾 だ 。 ||||し| "Oh, no, he's fierce.

おい 君 早く 出て 見た まえ 。 |きみ|はやく|でて|みた| Hey, you, get out of here. Come on, get out and look at this.

大変だ よ 」 「 大変だ ? たいへんだ||たいへんだ It's hard." "Hard?

大変じゃ 出て 見る か な 。 たいへんじゃ|でて|みる|| Oh, my God. You want to get out of here?

どれ 。

―― いや あ 、 こいつ は ―― なるほど えらい もの だ ね ―― あれ じゃ とうてい 駄目だ 」 「 何 が 」 「 何 がって 、―― 登る 途中 で 焼き殺さ れ ち まう だろう 」 「 馬鹿 を 云って いら あ 。 ||||||||||||だめだ|なん||なん||のぼる|とちゅう||やきころさ|||||ばか||うん って|| -- I'm not sure what you mean by that, but I'm sure you'll get burned to death on the way up. 夜 だ から 、 ああ 見える んだ 。 よ||||みえる| It's nighttime. That's why you see it like that.

実際 昼間 から 、 あの くらい やって る んだ よ 。 じっさい|ひるま||||||| In fact, I've been doing that much work since daylight.

ねえ 、 姉さん 」 「 ねえ 」 「 ねえ かも 知れ ない が 危険だ ぜ 。 |ねえさん||||しれ|||きけんだ| Hey, sis. - Hey. - Hey, maybe, but it's not safe.

ここ に こうして いて も 何だか 顔 が 熱い ようだ 」 と 碌 さん は 、 自分 の 頬 ぺた を 撫で 廻す 。 |||||なんだか|かお||あつい|||ろく|||じぶん||ほお|||なで|まわす Even here, my face seems to be hot somehow," Roku-san said, patting his cheek.

「 大袈裟な 事 ばかり 云 う 男 だ 」 「 だって 君 の 顔 だって 、 赤く 見える ぜ 。 おおげさな|こと||うん||おとこ|||きみ||かお||あかく|みえる| He's a man who always exaggerates." "Because your face looks so red.

そら そこ の 垣 の 外 に 広い 稲田 が ある だろう 。 |||かき||がい||ひろい|いなだ||| There's a wide expanse of rice field just outside that fence.

あの 青い 葉 が 一面に 、 こう 照らされて いる じゃ ない か 」 「 嘘 ばかり 、 あれ は 星 の ひかり で 見える のだ 」 「 星 の ひかり と 火 の ひかり と は 趣 が 違う さ 」 「 どうも 、 君 も よほど 無 学 だ ね 。 |あおい|は||いちめんに||てらさ れて|||||うそ||||ほし||||みえる||ほし||||ひ|||||おもむき||ちがう|||きみ|||む|まな|| You see those blue leaves all lit up like this?" "No, it's not true, they are seen by the light of the stars. 君 、 あの 火 は 五六 里 先 き に ある のだ ぜ 」 「 何 里 先 き だって 、 向 う の 方 の 空 が 一面に 真 赤 に なって る じゃ ない か 」 と 碌 さん は 向 を ゆびさして 大きな 輪 を 指 の 先 で 描いて 見せる 。 きみ||ひ||ごろく|さと|さき||||||なん|さと|さき|||むかい|||かた||から||いちめんに|まこと|あか||||||||ろく|||むかい|||おおきな|りん||ゆび||さき||えがいて|みせる Roku-san pointed in the direction of the fire and drew a large circle with the tip of his finger.

「 よる だ もの 」 「 夜 だって ……」 「 君 は 無 学 だ よ 。 |||よ||きみ||む|まな|| Because it's nighttime ...... and you're uneducated.

荒木 又 右 衛 門 は 知ら なくって も 好 いが 、 この くらい な 事 が 分 ら なくっちゃ 恥 だ ぜ 」 と 圭 さん は 、 横 から 相手 の 顔 を 見た 。 あらき|また|みぎ|まもる|もん||しら|なく って||よしみ|||||こと||ぶん|||はじ||||けい|||よこ||あいて||かお||みた You don't have to know Araki Mataemon, but it's a shame if you don't know this much," said Keizan, looking at the other man's face from the side. 「 人格 に かかわる か ね 。 じんかく|||| "Does it depend on personality?

人格 に かかわる の は 我慢 する が 、 命 に かかわっちゃ 降参 だ 」 「 まだ あんな 事 を 云って いる 。 じんかく|||||がまん|||いのち|||こうさん||||こと||うん って| I'll put up with it when it comes to my character, but I'll give up when it comes to my life. ―― じゃ 姉さん に 聞いて 見る が いい 。 |ねえさん||きいて|みる|| -- Then you should ask your sister.

ねえ 姉さん 。 |ねえさん

あの くらい 火 が 出たって 、 御 山 へ は 登れる んだろう 」 「 ねえ い 」 「 大丈夫 かい 」 と 碌 さん は 下 女 の 顔 を 覗き込む 。 ||ひ||でた って|ご|やま|||のぼれる||||だいじょうぶ|||ろく|||した|おんな||かお||のぞきこむ The first time I went to the store, I saw the woman's face and asked her if she was okay. 「 ねえ い 。

女 で も 登りますたい 」 「 女 でも 登っちゃ 、 男 は 是非 登る 訳 か な 。 おんな|||のぼり ます たい|おんな||のぼっちゃ|おとこ||ぜひ|のぼる|やく|| Even if a woman climbs, a man climbs by all means. 飛んだ 事 に なった もん だ 」 「 ともかくも 、 あした は 六 時 に 起きて ……」 「 もう 分った よ 」 言い 棄 て て 、 部屋 の なか に 、 ごろり と 寝転んだ 、 碌 さん の 去った あと に 、 圭 さん は 、 黙 然 と 、 眉 を 軒 げ て 、 奈落 から 半 空 に 向って 、 真 直 に 立つ 火 の 柱 を 見詰めて いた 。 とんだ|こと||||||||むっ|じ||おきて||ぶん った||いい|き|||へや||||||ねころんだ|ろく|||さった|||けい|||もく|ぜん||まゆ||のき|||ならく||はん|から||むかい って|まこと|なお||たつ|ひ||ちゅう||みつめて| After Roku-san left, Kei-san silently stared at the pillar of fire standing straight up from the abyss to the half-empty sky with his eyebrows raised.