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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第八章 死線 (5)

第 八 章 死 線 (5)

彼 の 旗 艦 は 最後 まで 包囲 下 に あって 敵 と 戦って いた が 、 離脱 しよう と した 瞬間 、 ミサイル 発射 孔 に 敵 ビーム の 直撃 を うけ 、 爆発 した のである 。

戦線 の いたるところ で 、 同盟 軍 は 敗北 の 苦汁 を なめ つつ あった 。

第 一二 艦隊 司令 官 の ボロディン 中将 は 、 ルッツ 艦隊 に 急襲 されて 、 旗 艦 の 身辺 わずか 八 隻 の 砲艦 のみ 、 と いう 状況 まで 戦い 、 戦闘 も 脱出 も 不可能 と なった とき 、 みずから ブラスター で 頭部 を 撃ちぬいた 。 指揮 権 を うけついだ コナリー 少将 は 、 動力 を 停止 して 降伏 した 。

第 五 艦隊 は ロイエンタール に 、 第 九 艦隊 は ミッターマイヤー に 、 第 七 艦隊 は すでに 輸送 艦隊 を 全滅 さ せた キルヒアイス に 、 第 三 艦隊 は ワーレン に 、 第 八 艦隊 は メックリンガー に 、 それぞれ 猛攻 を うけ 、 後退 に 後退 を かさねて いる 。

唯一 の 例外 が 、 ヤン の 第 一三 艦隊 だった 。 ケンプ 艦隊 とたいした 彼 は 、 巧みな 半月 陣形 を 使って 敵 の 攻勢 を かわし 、 その 左右 両翼 を 交互に たたいて 出血 を しいた のである 。 意外な 損害 に 驚いた ケンプ は 、 出血 多量 の ぶざまな 衰弱 死 に いたる より も 、 思いきって 抜本 的な 手術 を 断行 す べきだ 、 と 結論 し 、 後退 して 部隊 を 再編 しよう と はかった 。

敵 が 退く の を 見た ヤン は 、 それ に つけこんで 攻勢 に でよう と は し なかった 。 この 戦い は 勝つ こと より も 生きのびる こと に 意義 が ある 、 と ヤン は 考えて いる 。 たとえ ここ で ケンプ に 勝って も 、 どうせ 全体 的に 優勢な 敵 に 最後 は 袋叩き に されて しまう 。 敵 が 退いた 隙 に 、 できる だけ 遠く まで 逃げて しまう こと だ 。

「 よし 、 全 艦隊 、 逃げろ ! 」 おごそかに ヤン は 命じた 。 第 一三 艦隊 は 逃げだした 。 ただし 整然と 。

優勢な 敵 が 自分 たち を 追って くる どころ か 、 逆に 急速 後退 を 開始 した ので 、 ケンプ と して は 驚か ず に い られ なかった 。 追撃 を うけ 、 かなり の 損害 を うける こと を 覚悟 して いた のに 、 肩すかし を 喰 わさ れた のだ 。

「 なぜ 奴 ら は 勝 に 乗じて 攻めて こ ん のだ ? 」 ケンプ は 自問 し 、 幕僚 たち に も 意見 を もとめた 。 部下 の 反応 は 二 通り に 分かれた ―― 同盟 軍 の 他 の 部隊 が 窮地 に おちた ので 救援 に 駆けつけた のだろう 、 と いう 説 と 、 吾々 に 隙 を みせ 、 かるがるしく 攻勢 に でる よう 誘って おいて 、 徹底 的な 打撃 を くわえる こと を 狙って いる のだ 、 と いう 説 と である 。

テオドール ・ フォン ・ リュッケ 少尉 と いう 、 士官 学校 を 卒業 した ばかりの 若い 将校 が 、 おそるおそる 口 を 開いた 。

「 ぼく ―― いえ 、 小 官 に は 、 敵 が 戦意 も なく 、 ただ 逃げて いる ように 思わ れます 」 この 発言 は 完璧に 無視 さ れ 、 リュッケ 少尉 は ひと り 赤面 して ひき 退 がって しまった 。 彼 は 事実 から 最短 の 距離 に いた のだ が 、 当人 も ふくめて 誰ひとり それ に 気づか なかった のである 。

戦術 家 と して の 常識 に 富んだ ケンプ は 、 熟考 の すえ 、 敵 の 退却 は 罠 だ と の 結論 に 達し 、 再 反撃 を 断念 して 、 艦隊 の 再編 作業 に とりかかった 。

その 間 に ヤン ・ ウェンリー と その 軍隊 は 遁走 を つづけ 、 帝国 軍 が 〝 C 戦 区 〟 と 名づけた 宙 域 に 達した が 、 そこ で 帝国 軍 に 捕 捉 さ れ 、 あらたな 戦闘 を 展開 する こと に なった 。

いっぽう 、 アル ・ サレム 提督 の 指揮 する 同盟 軍 第 九 艦隊 は 、 帝国 軍 ミッターマイヤー 艦隊 の 猛攻 を うけ 、 敗走 を かさねて いた 。 サレム 提督 は 指揮 体系 の 崩壊 を 防ぐ の に 必死だった 。

この とき ミッターマイヤー の 追撃 が 迅速 を きわめた ので 、 追う 帝国 軍 の 先頭 集団 と 追わ れる 同盟 軍 の 後 尾 集団 が 混じりあい 、 両軍 の 艦艇 が 舷側 を ならべて 並走 する と いう 事態 が 生じた 。 肉 視 窓 から 敵 艦 の マーク を 間近に 見て 、 仰天 する 兵士 が 続出 した 。

また 、 狭い 宙 域 に 高 密度 の 物質 反応 が 生じた ため 、 各 艦 の 衝突 回避 システム が 全 能力 を あげて 作動 する こと に なった が 、 あらゆる 方向 を 敵 や 味方 に 遮断 さ れ 、 ぐるぐる 回転 する 艦 も あった 。

戦闘 は まじえ られ なかった 。 このような 高 密度 の なか で 膨大な エネルギー を 開放 したら 、 制 御 不能の エネルギー ・ サイクロン が 生じて 共倒れ に なる こと が 明白だった から である 。

ただ 、 接触 や 衝突 は おこった 。 安全な 進行 方向 を 見いだし え ず 、 二律背反 の 窮状 に おいこま れた 衝突 回避 システム の 〝 発 狂 〟 を 防ぐ ため 、 操縦 を 手動 に きりかえた 艦 が あった から だ 。

航 宙 士 たち は 汗 を 流した 。 これ は 戦闘 服 の 温度 調節 機能 に は 関係ない こと だった 。 操縦 盤 に しがみついた 彼ら は 、 衝突 を 回避 しよう と いう 共通の 目的 の ため に 努力 する 敵 の 姿 を 、 眼前 に 見る こと に なった 。

この 混乱 は 、 ミッターマイヤー が 部下 に 命じて スピード を おとさ せ 、 たがい の 距離 を おく ように した ため 、 ようやく 収拾 さ れた 。 もっとも 同盟 軍 に とって 、 これ は 敵 の 追撃 の 再 組織 化 を 意味 した に すぎ ず 、 安全な 距離 を おいて あびせ かけられる 帝国 軍 の 砲火 に 、 つぎつぎ と 艦艇 や 人命 を 失って いった 。 旗 艦 パラミデュース も 艦 体 の 七 カ所 を 破損 し 、 司令 官 アル ・ サレム 中将 も 肋骨 を 折る 重傷 を おった 。 副 司令 官 モートン 少将 が 指揮 権 を ひきつぎ 、 残 兵 を かろうじて 統率 し つつ 長い 敗北 の 道 を たどった 。

敗 残 行 の 困苦 は 、 もちろん 彼ら ばかり で は なかった 。

同盟 軍 の 各 艦隊 が 、 いずれ も おなじ 悲哀 を かこわ なくて は なら なかった 。 ヤン ・ ウェンリー の 第 一三 艦隊 すら も 例外 で は なく なって いた 。

この とき 、 最初の 戦場 から 六 光 時 ( 約 六五億 キロ ) 後退 した ヤン の 第 一三 艦隊 は 、 四 倍 の 敵 と 対抗 する こと を 余儀なく さ れる 状況 に あった 。 しかも 、 この 方面 、 C 戦 区 の 帝国 軍 指揮 官 キルヒアイス は 、 すでに 第 七 艦隊 を 敗走 さ せて いた が 、 兵力 と 物資 を 連続 して 最 前線 に 投入 し 、 間断 ない 戦闘 に よって 同盟 軍 を 消耗 さ せよう と して いる 。

この 戦法 は 奇 略 の 産物 で は なく 、 正統 的な もの であり 、 運用 に おいて 堅実 を きわめて いた ので 、

「 つけこむ 隙 も 逃げだす 隙 も ない 」

と ヤン に ため息 を つか せた 。

「 ローエングラム 伯 は 優秀な 部下 を もって いる ようだ 。 けれ ん 味 の ない 、 いい 用 兵 を する ……」

感心 ばかり は して い られ なかった 。 正攻法 で 戦って いた ので は 、 数 的に 劣勢な 同盟 軍 が 敗北 に おいこま れる こと は あきらかだった から だ 。

考えた すえ に 、 ヤン は とる べき 戦法 を 決定 した 。 確保 した 宙 域 を 捨てて 敵 の 手 に ゆだねる 。 しかし 整然と 後退 して 敵 を U 字 陣形 の なか へ 誘いこみ 、 この 隊形 と 補給 が 伸び きった 時機 に 、 総力 を あげて 三方 から 反撃 する 。

「 これ しか ない 。 もっとも 、 敵 が これ に のって くれれば 、 だが ……」

ヤン の 戦法 は 、 兵力 を 蓄積 する 時間 と 、 完全な 指揮 権 の 独立 と が あれば 、 ある ていど の 成功 を おさめ 、 帝国 軍 の 前進 を 阻止 する こと が できた かも しれ ない 。

しかし 、 彼 は 、 その どちら も 手 に いれる こと が でき なかった 。 圧倒 的な 量 感 を もって 迫る 帝国 軍 の 猛攻 に たえ ながら 、 苦心 して 艦隊 を U 字 型 に 再編 し つつ ある ヤン の もと に 、 イゼルローン から の 命令 が とどけ られた のである 。

「 本 月 一四 日 を 期して アムリッツァ 恒星 系 A 宙 点 に 集結 す べく 、 即時 、 戦闘 を 中止 して 転進 せよ 」

それ を 聞いた とき 、 ヤン の 顔 に にがい 失望 の 影 が さす の を 、 フレデリカ は 見た 。 一瞬 で それ は 消えさった が 、 かわって ため 息 が 洩 れた 。

「 簡単に 言って くれる もの だ な 」

それ だけ しか 言わ なかった が 、 この 状態 で 敵 前 から 退く こと の 困難 が フレデリカ に は 理解 できる 。 まして 無能な 敵 で は ない 。 ケンプ の 場合 と 同様 、 退いて も よい もの なら 、 最初 から 退いて いた 。 そう は いか ない 相手 だ から 戦って いた のだ 。

ヤン は 命令 に したがった 。 しかし 彼 の 艦隊 は 、 この 困難な 退却 戦 に おいて 、 それ まで に 数 倍する 犠牲 者 を だした のだった 。

帝国 軍 の 総 旗 艦 ブリュンヒルト の 艦 橋 で 、 ラインハルト は オーベルシュタイン の 報告 を うけて いた 。

「 敵 は 敗走 し つつ も 、 それなり の 秩序 を たもって 、 どうやら アムリッツァ 星 系 を めざして いる ようです 」

「 イゼルローン 回廊 へ の 入口 に ちかい な 。 しかし ただ 逃げこむ だけ と も 思え ん 。 卿 は どう 思う か ? 」 「 集結 して 再 攻勢 に でる つもりでしょう 。 遅まき ながら 兵力 分散 の 愚 に 気づいた と みえます 」 「 たしかに 遅い な 」

額 から 眉 へ おち かかる 金髪 を かたち の いい 指 で かきあげ ながら 、 ラインハルト は 冷たく 微笑 した 。

「 どう 対応 なさいます か 、 閣下 ? 」 「 当然 、 わが 軍 も アムリッツァ に 集結 する 。 敵 が アムリッツァ を 墓 所 と したい のであれば 、 その 希望 を かなえて やろう で は ない か 」

第 八 章 死 線 (5) だい|やっ|しょう|し|せん Chapter 8 Dead Line (5)

彼 の 旗 艦 は 最後 まで 包囲 下 に あって 敵 と 戦って いた が 、 離脱 しよう と した 瞬間 、 ミサイル 発射 孔 に 敵 ビーム の 直撃 を うけ 、 爆発 した のである 。 かれ||き|かん||さいご||ほうい|した|||てき||たたかって|||りだつ||||しゅんかん|みさいる|はっしゃ|あな||てき|||ちょくげき|||ばくはつ||

戦線 の いたるところ で 、 同盟 軍 は 敗北 の 苦汁 を なめ つつ あった 。 せんせん||||どうめい|ぐん||はいぼく||くじゅう||な め||

第 一二 艦隊 司令 官 の ボロディン 中将 は 、 ルッツ 艦隊 に 急襲 されて 、 旗 艦 の 身辺 わずか 八 隻 の 砲艦 のみ 、 と いう 状況 まで 戦い 、 戦闘 も 脱出 も 不可能 と なった とき 、 みずから ブラスター で 頭部 を 撃ちぬいた 。 だい|いちに|かんたい|しれい|かん|||ちゅうじょう|||かんたい||きゅうしゅう||き|かん||しんぺん||やっ|せき||ほうかん||||じょうきょう||たたかい|せんとう||だっしゅつ||ふかのう|||||||とうぶ||うちぬいた 指揮 権 を うけついだ コナリー 少将 は 、 動力 を 停止 して 降伏 した 。 しき|けん||||しょうしょう||どうりょく||ていし||こうふく|

第 五 艦隊 は ロイエンタール に 、 第 九 艦隊 は ミッターマイヤー に 、 第 七 艦隊 は すでに 輸送 艦隊 を 全滅 さ せた キルヒアイス に 、 第 三 艦隊 は ワーレン に 、 第 八 艦隊 は メックリンガー に 、 それぞれ 猛攻 を うけ 、 後退 に 後退 を かさねて いる 。 だい|いつ|かんたい||||だい|ここの|かんたい||||だい|なな|かんたい|||ゆそう|かんたい||ぜんめつ|||||だい|みっ|かんたい||||だい|やっ|かんたい|||||もうこう|||こうたい||こうたい|||

唯一 の 例外 が 、 ヤン の 第 一三 艦隊 だった 。 ゆいいつ||れいがい||||だい|かずみ|かんたい| ケンプ 艦隊 とたいした 彼 は 、 巧みな 半月 陣形 を 使って 敵 の 攻勢 を かわし 、 その 左右 両翼 を 交互に たたいて 出血 を しいた のである 。 |かんたい||かれ||たくみな|はんつき|じんけい||つかって|てき||こうせい||||さゆう|りょうよく||こうごに||しゅっけつ||| 意外な 損害 に 驚いた ケンプ は 、 出血 多量 の ぶざまな 衰弱 死 に いたる より も 、 思いきって 抜本 的な 手術 を 断行 す べきだ 、 と 結論 し 、 後退 して 部隊 を 再編 しよう と はかった 。 いがいな|そんがい||おどろいた|||しゅっけつ|たりょう|||すいじゃく|し|||||おもいきって|ばっぽん|てきな|しゅじゅつ||だんこう||||けつろん||こうたい||ぶたい||さいへん|||

敵 が 退く の を 見た ヤン は 、 それ に つけこんで 攻勢 に でよう と は し なかった 。 てき||しりぞく|||みた||||||こうせい|||||| この 戦い は 勝つ こと より も 生きのびる こと に 意義 が ある 、 と ヤン は 考えて いる 。 |たたかい||かつ||||いきのびる|||いぎ||||||かんがえて| たとえ ここ で ケンプ に 勝って も 、 どうせ 全体 的に 優勢な 敵 に 最後 は 袋叩き に されて しまう 。 |||||かって|||ぜんたい|てきに|ゆうせいな|てき||さいご||ふくろだたき||| 敵 が 退いた 隙 に 、 できる だけ 遠く まで 逃げて しまう こと だ 。 てき||しりぞいた|すき||||とおく||にげて|||

「 よし 、 全 艦隊 、 逃げろ ! |ぜん|かんたい|にげろ 」 おごそかに ヤン は 命じた 。 |||めいじた 第 一三 艦隊 は 逃げだした 。 だい|かずみ|かんたい||にげだした ただし 整然と 。 |せいぜんと

優勢な 敵 が 自分 たち を 追って くる どころ か 、 逆に 急速 後退 を 開始 した ので 、 ケンプ と して は 驚か ず に い られ なかった 。 ゆうせいな|てき||じぶん|||おって||||ぎゃくに|きゅうそく|こうたい||かいし|||||||おどろか||||| 追撃 を うけ 、 かなり の 損害 を うける こと を 覚悟 して いた のに 、 肩すかし を 喰 わさ れた のだ 。 ついげき|||||そんがい|||||かくご||||かたすかし||しょく|||

「 なぜ 奴 ら は 勝 に 乗じて 攻めて こ ん のだ ? |やつ|||か||じょうじて|せめて||| 」 ケンプ は 自問 し 、 幕僚 たち に も 意見 を もとめた 。 ||じもん||ばくりょう||||いけん|| 部下 の 反応 は 二 通り に 分かれた ―― 同盟 軍 の 他 の 部隊 が 窮地 に おちた ので 救援 に 駆けつけた のだろう 、 と いう 説 と 、 吾々 に 隙 を みせ 、 かるがるしく 攻勢 に でる よう 誘って おいて 、 徹底 的な 打撃 を くわえる こと を 狙って いる のだ 、 と いう 説 と である 。 ぶか||はんのう||ふた|とおり||わかれた|どうめい|ぐん||た||ぶたい||きゅうち||||きゅうえん||かけつけた||||せつ||われ々||すき||||こうせい||||さそって||てってい|てきな|だげき|||||ねらって|||||せつ||

テオドール ・ フォン ・ リュッケ 少尉 と いう 、 士官 学校 を 卒業 した ばかりの 若い 将校 が 、 おそるおそる 口 を 開いた 。 |||しょうい|||しかん|がっこう||そつぎょう|||わかい|しょうこう|||くち||あいた

「 ぼく ―― いえ 、 小 官 に は 、 敵 が 戦意 も なく 、 ただ 逃げて いる ように 思わ れます 」 ||しょう|かん|||てき||せんい||||にげて||よう に|おもわ| この 発言 は 完璧に 無視 さ れ 、 リュッケ 少尉 は ひと り 赤面 して ひき 退 がって しまった 。 |はつげん||かんぺきに|むし||||しょうい||||せきめん|||しりぞ|| 彼 は 事実 から 最短 の 距離 に いた のだ が 、 当人 も ふくめて 誰ひとり それ に 気づか なかった のである 。 かれ||じじつ||さいたん||きょり|||||とうにん|||だれひとり|||きづか||

戦術 家 と して の 常識 に 富んだ ケンプ は 、 熟考 の すえ 、 敵 の 退却 は 罠 だ と の 結論 に 達し 、 再 反撃 を 断念 して 、 艦隊 の 再編 作業 に とりかかった 。 せんじゅつ|いえ||||じょうしき||とんだ|||じゅっこう|||てき||たいきゃく||わな||||けつろん||たっし|さい|はんげき||だんねん||かんたい||さいへん|さぎょう||

その 間 に ヤン ・ ウェンリー と その 軍隊 は 遁走 を つづけ 、 帝国 軍 が 〝 C 戦 区 〟 と 名づけた 宙 域 に 達した が 、 そこ で 帝国 軍 に 捕 捉 さ れ 、 あらたな 戦闘 を 展開 する こと に なった 。 |あいだ||||||ぐんたい||とんそう|||ていこく|ぐん|||いくさ|く||なづけた|ちゅう|いき||たっした||||ていこく|ぐん||ほ|そく||||せんとう||てんかい||||

いっぽう 、 アル ・ サレム 提督 の 指揮 する 同盟 軍 第 九 艦隊 は 、 帝国 軍 ミッターマイヤー 艦隊 の 猛攻 を うけ 、 敗走 を かさねて いた 。 |||ていとく||しき||どうめい|ぐん|だい|ここの|かんたい||ていこく|ぐん||かんたい||もうこう|||はいそう||| サレム 提督 は 指揮 体系 の 崩壊 を 防ぐ の に 必死だった 。 |ていとく||しき|たいけい||ほうかい||ふせぐ|||ひっしだった

この とき ミッターマイヤー の 追撃 が 迅速 を きわめた ので 、 追う 帝国 軍 の 先頭 集団 と 追わ れる 同盟 軍 の 後 尾 集団 が 混じりあい 、 両軍 の 艦艇 が 舷側 を ならべて 並走 する と いう 事態 が 生じた 。 ||||ついげき||じんそく||||おう|ていこく|ぐん||せんとう|しゅうだん||おわ||どうめい|ぐん||あと|お|しゅうだん||まじりあい|りょうぐん||かんてい||げんがわ|||へいそう||||じたい||しょうじた 肉 視 窓 から 敵 艦 の マーク を 間近に 見て 、 仰天 する 兵士 が 続出 した 。 にく|し|まど||てき|かん||||まぢかに|みて|ぎょうてん||へいし||ぞくしゅつ|

また 、 狭い 宙 域 に 高 密度 の 物質 反応 が 生じた ため 、 各 艦 の 衝突 回避 システム が 全 能力 を あげて 作動 する こと に なった が 、 あらゆる 方向 を 敵 や 味方 に 遮断 さ れ 、 ぐるぐる 回転 する 艦 も あった 。 |せまい|ちゅう|いき||たか|みつど||ぶっしつ|はんのう||しょうじた||かく|かん||しょうとつ|かいひ|しすてむ||ぜん|のうりょく|||さどう|||||||ほうこう||てき||みかた||しゃだん||||かいてん||かん||

戦闘 は まじえ られ なかった 。 せんとう|||| このような 高 密度 の なか で 膨大な エネルギー を 開放 したら 、 制 御 不能の エネルギー ・ サイクロン が 生じて 共倒れ に なる こと が 明白だった から である 。 |たか|みつど||||ぼうだいな|えねるぎー||かいほう||せい|ご|ふのうの|えねるぎー|さいくろん||しょうじて|ともだおれ|||||めいはくだった||

ただ 、 接触 や 衝突 は おこった 。 |せっしょく||しょうとつ|| 安全な 進行 方向 を 見いだし え ず 、 二律背反 の 窮状 に おいこま れた 衝突 回避 システム の 〝 発 狂 〟 を 防ぐ ため 、 操縦 を 手動 に きりかえた 艦 が あった から だ 。 あんぜんな|しんこう|ほうこう||みいだし|||にりつはいはん||きゅうじょう||||しょうとつ|かいひ|しすてむ||はつ|くる||ふせぐ||そうじゅう||しゅどう|||かん||||

航 宙 士 たち は 汗 を 流した 。 わたる|ちゅう|し|||あせ||ながした これ は 戦闘 服 の 温度 調節 機能 に は 関係ない こと だった 。 ||せんとう|ふく||おんど|ちょうせつ|きのう|||かんけいない|| 操縦 盤 に しがみついた 彼ら は 、 衝突 を 回避 しよう と いう 共通の 目的 の ため に 努力 する 敵 の 姿 を 、 眼前 に 見る こと に なった 。 そうじゅう|ばん|||かれら||しょうとつ||かいひ||||きょうつうの|もくてき||||どりょく||てき||すがた||がんぜん||みる|||

この 混乱 は 、 ミッターマイヤー が 部下 に 命じて スピード を おとさ せ 、 たがい の 距離 を おく ように した ため 、 ようやく 収拾 さ れた 。 |こんらん||||ぶか||めいじて|すぴーど||||||きょり|||よう に||||しゅうしゅう|| もっとも 同盟 軍 に とって 、 これ は 敵 の 追撃 の 再 組織 化 を 意味 した に すぎ ず 、 安全な 距離 を おいて あびせ かけられる 帝国 軍 の 砲火 に 、 つぎつぎ と 艦艇 や 人命 を 失って いった 。 |どうめい|ぐん|||||てき||ついげき||さい|そしき|か||いみ|||||あんぜんな|きょり|||||ていこく|ぐん||ほうか||||かんてい||じんめい||うしなって| 旗 艦 パラミデュース も 艦 体 の 七 カ所 を 破損 し 、 司令 官 アル ・ サレム 中将 も 肋骨 を 折る 重傷 を おった 。 き|かん|||かん|からだ||なな|かしょ||はそん||しれい|かん|||ちゅうじょう||あばらぼね||おる|じゅうしょう|| 副 司令 官 モートン 少将 が 指揮 権 を ひきつぎ 、 残 兵 を かろうじて 統率 し つつ 長い 敗北 の 道 を たどった 。 ふく|しれい|かん||しょうしょう||しき|けん|||ざん|つわもの|||とうそつ|||ながい|はいぼく||どう||

敗 残 行 の 困苦 は 、 もちろん 彼ら ばかり で は なかった 。 はい|ざん|ぎょう||こんく|||かれら||||

同盟 軍 の 各 艦隊 が 、 いずれ も おなじ 悲哀 を かこわ なくて は なら なかった 。 どうめい|ぐん||かく|かんたい|||||ひあい|||||| ヤン ・ ウェンリー の 第 一三 艦隊 すら も 例外 で は なく なって いた 。 |||だい|かずみ|かんたい|||れいがい|||||

この とき 、 最初の 戦場 から 六 光 時 ( 約 六五億 キロ ) 後退 した ヤン の 第 一三 艦隊 は 、 四 倍 の 敵 と 対抗 する こと を 余儀なく さ れる 状況 に あった 。 ||さいしょの|せんじょう||むっ|ひかり|じ|やく|ろくごおく|きろ|こうたい||||だい|かずみ|かんたい||よっ|ばい||てき||たいこう||||よぎなく|||じょうきょう|| しかも 、 この 方面 、 C 戦 区 の 帝国 軍 指揮 官 キルヒアイス は 、 すでに 第 七 艦隊 を 敗走 さ せて いた が 、 兵力 と 物資 を 連続 して 最 前線 に 投入 し 、 間断 ない 戦闘 に よって 同盟 軍 を 消耗 さ せよう と して いる 。 ||ほうめん||いくさ|く||ていこく|ぐん|しき|かん||||だい|なな|かんたい||はいそう|||||へいりょく||ぶっし||れんぞく||さい|ぜんせん||とうにゅう||かんだん||せんとう|||どうめい|ぐん||しょうもう|||||

この 戦法 は 奇 略 の 産物 で は なく 、 正統 的な もの であり 、 運用 に おいて 堅実 を きわめて いた ので 、 |せんぽう||き|りゃく||さんぶつ||||せいとう|てきな|||うんよう|||けんじつ||||

「 つけこむ 隙 も 逃げだす 隙 も ない 」 |すき||にげだす|すき||

と ヤン に ため息 を つか せた 。 |||ためいき|||

「 ローエングラム 伯 は 優秀な 部下 を もって いる ようだ 。 |はく||ゆうしゅうな|ぶか|||| けれ ん 味 の ない 、 いい 用 兵 を する ……」 ||あじ||||よう|つわもの||

感心 ばかり は して い られ なかった 。 かんしん|||||| 正攻法 で 戦って いた ので は 、 数 的に 劣勢な 同盟 軍 が 敗北 に おいこま れる こと は あきらかだった から だ 。 せいこうほう||たたかって||||すう|てきに|れっせいな|どうめい|ぐん||はいぼく||||||||

考えた すえ に 、 ヤン は とる べき 戦法 を 決定 した 。 かんがえた|||||||せんぽう||けってい| 確保 した 宙 域 を 捨てて 敵 の 手 に ゆだねる 。 かくほ||ちゅう|いき||すてて|てき||て|| しかし 整然と 後退 して 敵 を U 字 陣形 の なか へ 誘いこみ 、 この 隊形 と 補給 が 伸び きった 時機 に 、 総力 を あげて 三方 から 反撃 する 。 |せいぜんと|こうたい||てき|||あざ|じんけい||||さそいこみ||たいけい||ほきゅう||のび||じき||そうりょく|||さんぼう||はんげき|

「 これ しか ない 。 もっとも 、 敵 が これ に のって くれれば 、 だが ……」 |てき||||||

ヤン の 戦法 は 、 兵力 を 蓄積 する 時間 と 、 完全な 指揮 権 の 独立 と が あれば 、 ある ていど の 成功 を おさめ 、 帝国 軍 の 前進 を 阻止 する こと が できた かも しれ ない 。 ||せんぽう||へいりょく||ちくせき||じかん||かんぜんな|しき|けん||どくりつ|||||||せいこう|||ていこく|ぐん||ぜんしん||そし|||||||

しかし 、 彼 は 、 その どちら も 手 に いれる こと が でき なかった 。 |かれ|||||て||い れる|||| 圧倒 的な 量 感 を もって 迫る 帝国 軍 の 猛攻 に たえ ながら 、 苦心 して 艦隊 を U 字 型 に 再編 し つつ ある ヤン の もと に 、 イゼルローン から の 命令 が とどけ られた のである 。 あっとう|てきな|りょう|かん|||せまる|ていこく|ぐん||もうこう||||くしん||かんたい|||あざ|かた||さいへん|||||||||||めいれい||||

「 本 月 一四 日 を 期して アムリッツァ 恒星 系 A 宙 点 に 集結 す べく 、 即時 、 戦闘 を 中止 して 転進 せよ 」 ほん|つき|いちし|ひ||きして||こうせい|けい||ちゅう|てん||しゅうけつ|||そくじ|せんとう||ちゅうし||てんしん|

それ を 聞いた とき 、 ヤン の 顔 に にがい 失望 の 影 が さす の を 、 フレデリカ は 見た 。 ||きいた||||かお|||しつぼう||かげ|||||||みた 一瞬 で それ は 消えさった が 、 かわって ため 息 が 洩 れた 。 いっしゅん||||きえさった||||いき||えい|

「 簡単に 言って くれる もの だ な 」 かんたんに|いって||||

それ だけ しか 言わ なかった が 、 この 状態 で 敵 前 から 退く こと の 困難 が フレデリカ に は 理解 できる 。 |||いわ||||じょうたい||てき|ぜん||しりぞく|||こんなん|||||りかい| まして 無能な 敵 で は ない 。 |むのうな|てき||| ケンプ の 場合 と 同様 、 退いて も よい もの なら 、 最初 から 退いて いた 。 ||ばあい||どうよう|しりぞいて|||||さいしょ||しりぞいて| そう は いか ない 相手 だ から 戦って いた のだ 。 ||||あいて|||たたかって||

ヤン は 命令 に したがった 。 ||めいれい|| しかし 彼 の 艦隊 は 、 この 困難な 退却 戦 に おいて 、 それ まで に 数 倍する 犠牲 者 を だした のだった 。 |かれ||かんたい|||こんなんな|たいきゃく|いくさ||||||すう|ばいする|ぎせい|もの|||

帝国 軍 の 総 旗 艦 ブリュンヒルト の 艦 橋 で 、 ラインハルト は オーベルシュタイン の 報告 を うけて いた 。 ていこく|ぐん||そう|き|かん|||かん|きょう||||||ほうこく|||

「 敵 は 敗走 し つつ も 、 それなり の 秩序 を たもって 、 どうやら アムリッツァ 星 系 を めざして いる ようです 」 てき||はいそう||||||ちつじょ|||||ほし|けい||||よう です

「 イゼルローン 回廊 へ の 入口 に ちかい な 。 |かいろう|||いりぐち||| しかし ただ 逃げこむ だけ と も 思え ん 。 ||にげこむ||||おもえ| 卿 は どう 思う か ? きょう|||おもう| 」 「 集結 して 再 攻勢 に でる つもりでしょう 。 しゅうけつ||さい|こうせい||| 遅まき ながら 兵力 分散 の 愚 に 気づいた と みえます 」 おそまき||へいりょく|ぶんさん||ぐ||きづいた|| 「 たしかに 遅い な 」 |おそい|

額 から 眉 へ おち かかる 金髪 を かたち の いい 指 で かきあげ ながら 、 ラインハルト は 冷たく 微笑 した 。 がく||まゆ||||きんぱつ|||||ゆび||||||つめたく|びしょう|

「 どう 対応 なさいます か 、 閣下 ? |たいおう|||かっか 」 「 当然 、 わが 軍 も アムリッツァ に 集結 する 。 とうぜん||ぐん||||しゅうけつ| 敵 が アムリッツァ を 墓 所 と したい のであれば 、 その 希望 を かなえて やろう で は ない か 」 てき||||はか|しょ|||||きぼう|||||||