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坊っちゃん/夏目漱石, 坊っちゃん / 夏目漱石 / 第2章

坊っちゃん / 夏目漱石 / 第2章

ぶう と 云って 汽船 が とまる と 、艀 が 岸 を 離 れて 、 漕 ぎ 寄せて 来た 。 船頭 は 真っ裸 に 赤ふんどし を しめて いる 。 野蛮 な 所 だ 。 尤も この 熱さ では 着物 は きられまい 。 日 が 強い ので 水 が やに 光る 。 見詰めて 居ても 眼 が くらむ 。 事務員 に 聞いて 見る と おれ は ここ へ 降りる のだ そう だ 。 見る 所 では 大森 位 な 漁村 だ 。 人 を 馬鹿 にして いらあ 、こんな 所 に 我慢 が 出来る もの か と 思った が 仕方 が ない 。 威勢よく 一番 に 飛び込んだ 。 続いて 五六人 は 乗ったろう 。 外に 大きな 箱 を 四つ 許り 積み込んで 赤ふん は 岸 へ 漕ぎ戻して 来た 。 陸へ 着いた 時 も 、 いの一番 に 飛び上がって 、 いきなり 、 磯 に 立って 居た 鼻たれ 小僧 を つらまえて 中学校 は どこ だ と 聞いた 。 小僧 は 茫やりして 、 知らん が の 、 と 云った 。 気の利かぬ 田舎 もの だ 。 猫の額程な 町内 の 癖 に 、 中学校 の ありか も 知らぬ 奴 が ある もの か 。 所 へ 妙な 筒っぽう を 着た 男 が きて 、 こっち へ 来い と 云う から 、 ついて 行ったら 、 港屋 と 云う 宿屋 へ 連れて 来た 。 やな 女 が 声 を 揃えて 御上がりなさい と 云う ので 、 上がる のが いや に なった 。 門口 へ 立った なり 中学校 を 教えろ と 云ったら 、 中学校 は これ から 汽車 で 二里 許り 行かなくっちゃいけない と 聞いて 、 猶 上がる のが いや に なった 。 おれ は 、 筒っぽう を 着た 男 から 、 おれ の 革鞄 を 二つ 引きたくって 、 のそのそ あるき 出した 。 宿屋 の もの は 変な 顔 を して 居た 。 停車場 は すぐ 知れた 。 切符 も 訳 なく 買った 。 乗り込んで 見る と マッチ箱 の 様な 汽車 だ 。 ごろごろ と 五分 許り 動いた と 思ったら 、 もう 降りなければならない 。 道理 で 切符 が 安い と 思った 。 たった 三 銭 である 。 それから 車 を 傭って 、 中学校 へ 来たら 、 もう 放課後 で 誰 も 居ない 。 宿直 は 一寸 用達 に 出た と 小使 が 教えた 。 随分 気楽 な 宿直 が いる もの だ 。 校長 でも 尋ねよう か と 思った、草臥れた から 、車 に 乗って 宿屋 へ 連れて 行け と 車夫 に 云い 付けた 。 車夫 は 威勢 よく 山城屋 と云う うち へ 横付 に した 。 山城屋 とは 質屋 の 勘太郎 の 屋号 と 同じ だ から 一寸 面白く 思った 。 何だか 二 階 の 楷子 段 の 下 の 暗い 部屋 へ 案内 した 。 熱くって 居られ やしない 。 こんな 部屋 は いやだ と 云ったら 、 あいにく みんな 塞がって おり ます から と 云い ながら 、 革 鞄 を 抛り出した まま 出て 行った 。 仕方 が ない から 部屋 の 中 へ 這入って 汗 を かいて 我慢 して 居た 。 やがて 湯 に 入れ と 云う から 、 ざぶり と 飛び込んで 、 すぐ 上がった 。 帰りがけ に 覗いて 見る と 涼しそうな 部屋 が 沢山 空いている 。 失敬な 奴 だ 。 嘘 を つきゃ あがった 。 それから 下女 が 膳 を 持って 来た 。 部屋 は 熱つかった が 、 飯 は 下宿 の より も 大分 旨かった 。 給仕 を しながら 下女 が どちら から 御出 に なりました と 聞く から 、 東京 から 来た と 答えた 。 すると 東京 は よい 所 で 御座いましょう と 云った から 当り前 だ と 答えて やった 。 膳 を 下げた 下女 が 台所 へ 行った 時分 、 大きな 笑い声 が 聞えた 。 くだらない から 、 すぐ 寐た が 、 中々 寐られない 。 熱い 許り では ない 。 騒々しい 。 下宿 の 五倍 位 八釜しい 。 うとうと したら 清 の 夢 を 見た 。 清 が 越後 の 笹飴 を 笹 ぐるみ 、 むしゃむしゃ 食って 居る 。 笹 は 毒 だ から 、 よしたら よかろう と 云う と 、 いえ この 笹 が 御薬 で 御座います と 云って 旨そう に 食って 居る 。 おれ が あきれ 返って 大きな 口 を 開いて ハハハハ と 笑ったら 眼 が 覚めた 。 下女 が 雨戸 を 明けて いる 。 相変らず 空 の 底 が 突き抜けた 様 な 天気 だ 。 道中 を したら 茶代 を やる もの だ と 聞いて 居た 。 茶代 を やら ない と 粗末 に 取り扱わ れる と 聞いて いた 。 こんな 、 狭くて 暗い 部屋 へ 押し込める のも 茶代 を やらない 所為 だろう 。 見すぼらしい 服装 を して 、 ズック の 革鞄 と 毛繻子 の 蝙蝠傘 を 提げてる から だろう 。 田舎者 の 癖に 人 を 見括った な 。 一番 茶代 を やって 驚かしてやろう 。 おれ は これ でも 学資 の あまり を 三十 円 ほど 懐 に 入れて 東京 を 出て 来た のだ 汽車 の 汽船 の 切符代 と 雑費 を 差し引いて 、 まだ 十四円程 ある 。 みんな やったって 是からは 月給 を 貰うんだから 構わない 。 田舎者 は しみったれ だから 五円 も やれば 驚いて 眼を廻す に極って 居る 。 どうするか 見ろ と 澄して 顔 を 洗って 、 部屋 へ 帰って 待ってる と 、 夕べ の 下女 が 膳 を 持って 来た 。 盆 を 持って 給仕 を しながら 、 やににやにや 笑っている 。 失敬 な 奴 だ 。 顔 の なか を 御祭り でも 通りゃしまいし 。 是でも 此下女 の 面 より 余っ程 上等だ 。 飯 を 済ましてから にしよう と 思って 居たが 、 癪 に 障った から 、 途中で 五円札 を 一枚 出して 、 あとで 是を 帳場 へ 持って 行け と 云ったら 、 下女 は 変な 顔 を して 居た 。 夫から 飯 を 済まして すぐ 学校 へ 出懸けた 。 靴 は 磨いて なかった 。 学校 は 昨日 車 で 乗りつけた から 、 大概 の 見当 は 分って 居る 。 四つ角 を 二三度 曲がったら すぐ 門 の 前 へ 出た 。 門 から 玄関 迄 は 御影石 で 敷きつめてある 。 きのう この 敷石 の 上 を 車 で がらがら と 通った 時 は 、 無暗 に 仰山 な 音 が する の で 少し 弱った 。 途中 から 小倉 の 制服 を 着た 生徒 に 沢山 逢った が 、 みんな この 門 を 這入って 行く 。 中 に は おれ より 脊 が 高くって 強そう な の が 居る 。 あんな 奴 を 教える のか と 思ったら 何だか 気味 が 悪く なった 。 名刺 を 出したら 校長室 へ 通した 。 校長 は 今 に 職員 に 紹介してやる から 、 一々 其の 人 に この 辞令 を 見せるんだ と 言って 聞かした 。 やに もったいぶって いた 。 まあ 精出して 勉強してくれ と 云って 、 恭しく 大きな 印 の 捺った 、 辞令 を 渡した 。 この 辞令 は 東京 へ 帰る とき 丸めて 海 の 中 へ 抛り込んで 仕舞った 。 校長 は 今 に 職員 に 紹介してやる から 、 一々 其の 人 に この 辞令 を 見せるんだ と 言って 聞かした 。 余計な 手数 だ 。 そんな 面倒な 事 を する より この 辞令 を 三日間 職員室 へ 張り付ける 方 が ましだ 。 教員 が 控所 へ 揃う に は 一 時間 の 喇叭 が 鳴らなくてはならぬ 。 大分 時間 が ある 。 校長 は 時計 を 出して 見て 、 追々 ゆるりと 話す 積 だが 、 先づ 大体 の 事 を 呑み込んで 置いて 貰おう と 云って 、 夫 から 教育 の 精神 について 長い 御談義 を 聞かした 。 おれ は 無論 いゝ 加減 に 聞いて 居た が 、 途中 から 是 は 飛んだ 所 へ 来た と 思った 。 校長 の 云う ように は とても 出来 ない 。 おれ 見た 様 な 無鉄砲 な もの を つらまえて 、 生徒 の 模範 に なれ の 、 一校 の 師表 と 仰がれなくては 行かん の 、 学問 以外 に 個人 の 徳化 を 及ぼさなくては 教育者 に なれない の 、 と 無暗 に 法外 な 注文 を する 。 そんな えらい 人 が 月給 四十 円 で 遥々 こんな 田舎 へ くる もん か 。 人間 は 大概 似た もん だ 。 腹が立てば 喧嘩の一つ位 は 誰でも するだろう と 思ってた が 、 此様子じゃ 滅多に 口も聞けない 。散歩 も 出来ない 。 そんな 六づかしい 役 なら 雇う 前 に これこれ だ と 話す が いゝ 。 おれ は 嘘 を つく の が 嫌 だから 、 仕方 が ない 。だまされて 来た の だ と あきらめて 、 思い切り よく 、 ここ で 断って 帰っち まおう と 思った 。 宿屋 へ 五 円 やった から 財布 の 中 に は 九 円 なにがし しか ない 。 九 円 じゃ 東京 迄 は 帰れない 。 茶代 なんか やらなければ よかった 。 惜しい 事 を した 。 然し 九 円 だって 、 どうか ならない 事 は ない 。 旅費 は 足りなくっても 嘘 を つく より ましだ と 思って 、 到底 あなた の 仰 しゃる 通り にゃ 、 出来ません 、 此 辞令 は 返します と 云ったら 、 校長 は 狸 の 様な 眼 を ぱちつかせて おれ の 顔 を 見て 居た 。 やがて 、 今 の は 只 希望 で ある 、 あなた が 希望 通り 出来ない の は よく 知って 居る から 心配 しなくっても いゝ と 云いながら 笑った。 その 位 よく 知ってる なら 、 始め から 威嚇 さなければ いゝ の に 。 そう、こうする 内 に 喇叭 が 鳴った。 教場 の 方 が 急 に がやがや する。 もう 教員 も 控所 へ 揃いました ろう と 云う から、校長 に 尾 いて 教員 控所 へ 這入った。 広い 細長い 部屋 の 周囲 に 机 を 並 ( なら ) べ て みんな 腰 ( こし ) を かけて いる 。 おれ が 這入った の を 見て、みんな 申し合せた 様 に 俺 の 顔 を 見た。 見世物 じゃある まいし。 夫 から 申し付けられた 通り 一人々々 の 前 へ 行って 辞令 を 出して 挨拶 を した。 大概 は 椅子 を 離れて 腰 を かがめる 許 で あった が、念 の 入った の は 差し出した 辞令 を 受け取って 一応 拝見 を して 夫 を 恭しく 返却した。 丸 で 宮芝居 の 真似 だ。 十五人目 に 体操 の 教師 へ と 廻って 来た 時 に は、同じ 事 を 何返 も やる の で 少々 じれったく なった。 向 は 一度 で 済む。 こっちは 同じ 所作 を 十五返 繰り返して 居る。 少し は ひと の 了 見 ( りょうけん ) も 察して みる が いい 。 挨拶 を した うち に 教頭 の なにがし と 云う の が 居た 。 これ は 文学 士 だ そうだ 。 文学士 と 云えば 大学 の 卒業生 だ から えらい 人 なん だろう 。 妙に 女 の様な 優しい 声 を 出す 人 だった 。 尤も 驚いた の は 此の 暑い の に フランネル の 襯衣 を 着て 居る 。 いくら 薄い 地 に は 相違 なくっても 暑い に は 極ってる 。 文学士 丈に 御苦労千万 な 服装 を した もん だ 。 しかも 夫が 赤 シャツ だ から 人 を 馬鹿 に している 。 あと から 聞いたら 此 の 男 は 年 が 年中 赤 シャツ を 着るん だ そう だ 。 妙な 病気 が あった 者 だ 。 当人 の 説明 で は 赤 は 身体 ( からだ ) に 薬 に なる から 、 衛生 の ため に わざわざ 誂 ( あつ ) ら える んだ そうだ が 、 入ら ざる 心配だ 。 そんなら序に 着物 も 袴 も 赤 に すれば いい 。 夫 から 英語 の 教師 に 古賀 とか 云う 大変 顔色 の 悪い 男 が 居た。 大概 顔 の 蒼い 人 は 痩せて いる もん だ が 此 の 男 は 蒼く ふくれて 居る 。 昔し 小学校 へ 行く 時分 、 浅井 の 民 さん と 云う 子 が 同級生 に あった が 、 この 浅井 の 親父 が 矢張り 、 こんな 色つや だった 。 浅井 は 百姓 だから 、 百姓 に なる と あんな 顔 に なる か と 清 に 聞いて 見たら 、 そう じゃ ありません 、 あの 人 は うらなり の 唐茄子 許り 食べる から 、 蒼く ふくれるん です と 教えて くれた 。 それ 以来 蒼く ふくれた 人 を 見れば 必ず うらなり の 唐茄子 を 食った 酬 だ と 思う 。 この 英語 の 教師 も うらなり 許り 食ってる に 違ない 。 尤も うらなり と は 何 の 事 か 今 以て 知らない 。 清 に 聞いて みた 事 は ある が 、 清 は 笑って 答え なかった 。 大方 清 も 知ら ない んだろう 。 夫 から おれ と 同じ 数学 の 教師 に 掘田 と 云う の が 居た 。 是 は 逞しい 毬栗坊主 で 、 叡山 の 悪僧 と 云うべき 面構 で ある 。 人 が 叮嚀 に 辞令 を 見せたら 見向き も せず 、 やあ 君 が 新任 の 人 か 、 些 と 遊び に 来給え アハヽヽ と 云った 。 何 が アハヽヽだ 。 そんな 礼儀 を 心得ぬ 奴 の 所 へ 誰 が 遊び に 行く もの か 。 おれ は この時 から この 坊主 に 山嵐 と 云う 渾名 を つけて やった 。 漢学 の 先生 は 流石に 堅い もの だ 。 昨日 で 、 嘸 御疲れ で 、 それでもう 授業 を 御始め で 、 大分 御励精 で 、 と のべつ に 弁じた の は 愛嬌 の ある 御爺さんだ 。 画学 の 教師 は 全く 芸人風 だ 。 べらべらした 透綾 の 羽織 を 着て 、 扇子 を ぱちつかせて 、 御国 は どちら で げす 、 え ? 東京 ? それ は 嬉しい 、 御仲間 が 出来て …… 私 も これで 江戸っ子 です と 云った 。 こんなの が 江戸っ子 なら 江戸 に は 生れたくない もんだ と 心中 に 考えた 。 其のほか 一人一人 に 就いて こんな 事 を 書けば いくらでも ある 。 然し 際限 が ない から やめる 。 挨拶 が 一 通り 済んだら 、 校長 が 今日 は もう 引き取って も いい 、 もっとも 授業 上 の 事 は 数学 の 主任 と 打ち合せ を して おいて 、 明後日 ( あさって ) から 課 業 を 始めて くれ と 云った 。 数学 の 主任 は 誰 か と 聞いて みたら 例の 山嵐 であった 。 忌 々 ( いま いま ) しい 、 こいつ の 下 に 働く の か お やおや と 失望 した 。 山嵐 は 「 おい 君 どこ に 宿 ( とま ) って る か 、 山城 屋 か 、 うん 、 今に 行って 相談 する 」 と 云い 残して 白墨 ( はくぼく ) を 持って 教 場 へ 出て 行った 。 主任 の 癖 に 向う から 来て 相談 する なんて 不 見識 な 男 だ 。 しかし 呼び 付ける より は 感心だ 。 それ から 学校 の 門 を 出て 、 すぐ 宿 へ 帰ろう と 思った が 、 帰った って 仕方 が ない から 、 少し 町 を 散歩 して やろう と 思って 、 無 暗に 足 の 向く 方 を あるき 散らした 。 県庁 も 見た 。 古い 前 世紀 の 建築 である 。 兵 営 も 見た 。 麻 布 ( あざ ぶ ) の 聯隊 ( れんたい ) より 立派で ない 。 大通り も 見た 。 神楽 坂 ( かぐら ざ か ) を 半分 に 狭く した ぐらい な 道 幅 ( みち は ば ) で 町並 ( まちなみ ) は あれ より 落ちる 。 二十五万 石 の 城 下 だって 高 の 知れた もの だ 。 こんな 所 に 住んで ご 城 下 だ など と 威張 ( いば ) って る 人間 は 可哀想 ( かわいそう ) な もの だ と 考え ながら くる と 、 いつしか 山城 屋 の 前 に 出た 。 広い ようで も 狭い もの だ 。 これ で 大抵 ( たいてい ) は 見 尽 ( みつ く ) した のだろう 。 帰って 飯 でも 食おう と 門口 を はいった 。 帳場 に 坐 ( す わ ) って いた かみさん が 、 おれ の 顔 を 見る と 急に 飛び出して きて お 帰り …… と 板の間 へ 頭 を つけた 。 靴 ( くつ ) を 脱 ( ぬ ) いで 上がる と 、 お 座敷 ( ざしき ) が あき ました から と 下 女 が 二 階 へ 案内 を した 。 十五 畳 ( じょう ) の 表 二 階 で 大きな 床 ( とこ ) の 間 ( ま ) が ついて いる 。 おれ は 生れて から まだ こんな 立派な 座敷 へ は いった 事 は ない 。 この後 いつ は いれる か 分ら ない から 、 洋服 を 脱いで 浴衣 ( ゆかた ) 一 枚 に なって 座敷 の 真中 ( まんなか ) へ 大の 字 に 寝て みた 。 いい 心持ち である 。 昼 飯 を 食って から 早速 清 へ 手紙 を かいて やった 。 おれ は 文章 が まずい 上 に 字 を 知ら ない から 手紙 を 書く の が 大 嫌 ( だい きら ) い だ 。 また やる 所 も ない 。 しかし 清 は 心配 して いる だろう 。 難船 して 死に や し ない か など と 思っちゃ 困る から 、 奮発 ( ふんぱつ ) して 長い の を 書いて やった 。 その 文句 は こう である 。 「 きのう 着いた 。 つまら ん 所 だ 。 十五 畳 の 座敷 に 寝て いる 。 宿屋 へ 茶 代 を 五 円 やった 。 かみさん が 頭 を 板の間 へ すり つけた 。 夕べ は 寝 られ なかった 。 清 が 笹 飴 を 笹 ごと 食う 夢 を 見た 。 来年 の 夏 は 帰る 。 今日 学校 へ 行って みんな に あだな を つけて やった 。 校長 は 狸 、 教頭 は 赤 シャツ 、 英語 の 教師 は うら なり 、 数学 は 山嵐 、 画 学 は のだ いこ 。 今に いろいろな 事 を 書いて やる 。 さようなら 」 手紙 を かいて しまったら 、 いい 心持ち に なって 眠気 ( ねむけ ) が さした から 、 最 前 の ように 座敷 の 真中 へ のびのび と 大 の 字 に 寝た 。 今度 は 夢 も 何も 見 ないで ぐっすり 寝た 。 この 部屋 かい と 大きな 声 が する ので 目 が 覚めたら 、 山嵐 が はいって 来た 。 最 前 は 失敬 、 君 の 受持ち は …… と 人 が 起き上がる や 否 や 談判 を 開か れた ので 大いに 狼狽 ( ろうばい ) した 。 受持ち を 聞いて みる と 別段 むずかしい 事 も な さ そうだ から 承知 した 。 この くらい の 事 なら 、 明後日 は 愚 ( おろか )、 明日 ( あした ) から 始めろ と 云った って 驚 ろ か ない 。 授業 上 の 打ち合せ が 済んだら 、 君 は いつまで こんな 宿屋 に 居る つもりで も ある まい 、 僕 ( ぼく ) が いい 下宿 を 周旋 ( しゅうせん ) して やる から 移り たまえ 。 外 の もの で は 承知 し ない が 僕 が 話せば すぐ 出来る 。 早い 方 が いい から 、 今日 見て 、 あす 移って 、 あさって から 学校 へ 行けば 極 りがい いと 一 人 で 呑み 込んで いる 。 なるほど 十五 畳敷 に いつまで 居る 訳 に も 行く まい 。 月給 を みんな 宿 料 ( しゅく りょう ) に 払 ( はら ) って も 追っ つ か ない かも しれ ぬ 。 五 円 の 茶 代 を 奮発 ( ふんぱつ ) して すぐ 移る の は ち と 残念だ が 、 どうせ 移る 者 なら 、 早く 引き 越 ( こ ) して 落ち付く 方 が 便利だ から 、 そこ の ところ は よろしく 山嵐 に 頼 ( たの ) む 事 に した 。 すると 山嵐 は ともかくも いっしょに 来て みろ と 云う から 、 行った 。 町 は ずれ の 岡 の 中腹 に ある 家 で 至極 閑静 ( かんせい ) だ 。 主人 は 骨董 ( こっとう ) を 売買 する いか 銀 と 云う 男 で 、 女房 ( にょうぼう ) は 亭主 ( ていしゅ ) より も 四 つ ばかり 年嵩 ( としかさ ) の 女 だ 。 中学校 に 居た 時 ウィッチ と 云う 言葉 を 習った 事 が ある が この 女房 は まさに ウィッチ に 似て いる 。 ウィッチ だって 人 の 女房 だ から 構わ ない 。 とうとう 明日 から 引き 移る 事 に した 。 帰り に 山嵐 は 通 町 ( とおり ちょう ) で 氷 水 を 一杯 奢 ( ぱい おご ) った 。 学校 で 逢った 時 は やに 横風 ( おう ふう ) な 失敬な 奴 だ と 思った が 、 こんなに いろいろ 世話 を して くれる ところ を 見る と 、 わるい 男 でも なさ そうだ 。 ただ おれ と 同じ ように せっかちで 肝 癪持 ( かんしゃく もち ) らしい 。 あと で 聞いたら この 男 が 一 番 生徒 に 人望 が ある のだ そうだ 。

坊っちゃん / 夏目漱石 / 第2章 ぼっちゃん|なつめ そうせき|だい|しょう Botchan / Soseki Natsume / Kapitel 2 Botchan / Soseki Natsume / Κεφάλαιο 2 Botchan / Soseki Natsume / Chapter 2 Botchan / Soseki Natsume / Capítulo 2 Botchan / Soseki Natsume / Chapitre 2 Botchan / Soseki Natsume / Capitolo 2 Botchan / Soseki Natsume / Hoofdstuk 2 Botchan / Soseki Natsume / Capítulo 2 Ботчан / Сосэки Нацумэ / Глава 2 少爷 / 夏目漱石 / 第 2 章 少爺 / 夏目漱石 / 第 2 章

ぶう と 云って 汽船 が とまる と 、艀 が 岸 を 離 れて 、 漕 ぎ 寄せて 来た 。 ぶ う||うんって|きせん||||はしけ||きし||はな||こ||よせて|きた When the steamship came to a stop with a "whoo," a barge left the shore and rowed toward us. 혹려고 구름 (있어)라고 기선이 멈추는 경우 바지선이 해안을 분리 (는 마라)되고, 탱크 (이) 기술 보내왔다. 船頭 は 真っ裸 に 赤ふんどし を しめて いる 。 せんどう||まっはだか||あか ふんどし||| The boatman was almost naked, wearing only a red loincloth. 野蛮 な 所 だ 。 やばん||しょ| What a barbaric place. 尤も この 熱さ では 着物 は きられまい 。 ゆう も||あつ さ||きもの||きら れ まい Although, in this heat, wearing clothes would probably be unbearable. 日 が 強い ので 水 が やに 光る 。 ひ||つよい||すい|||ひかる The sun was so strong that the water shone like molten metal. 見詰めて 居ても 眼 が くらむ 。 みつめて|いて も|がん|| Staring at it would make your eyes go blind. 事務員 に 聞いて 見る と おれ は ここ へ 降りる のだ そう だ 。 じむ いん||きいて|みる||||||おりる||| When I asked the clerk, it seemed I was supposed to disembark here. 見る 所 では 大森 位 な 漁村 だ 。 みる|しょ||おおもり|くらい||ぎょそん| By the looks of it, it was about as big as Ōmori, a fishing village. 人 を 馬鹿 にして いらあ 、こんな 所 に 我慢 が 出来る もの か と 思った が 仕方 が ない 。 じん||ばか|に して|いら あ||しょ||がまん||できる||||おもった||しかた|| I felt like they were making fun of me, asking how I could bear to stay in such a place, but there was no other option. 威勢よく 一番 に 飛び込んだ 。 いせい よく|ひと ばん||とびこんだ I jumped off energetically, leading the way. 続いて 五六人 は 乗ったろう 。 つづいて|ごろく り||のったろう Five or six people followed me onto the barge. 外に 大きな 箱 を 四つ 許り 積み込んで 赤ふん は 岸 へ 漕ぎ戻して 来た 。 がい に|おおきな|はこ||よっつ|ゆる り|つみこんで|あか ふん||きし||こぎ もどして|きた In addition to that, about four large boxes were loaded, and the boatman in the red loincloth rowed us back to the shore. 陸へ 着いた 時 も 、 いの一番 に 飛び上がって 、 いきなり 、 磯 に 立って 居た 鼻たれ 小僧 を つらまえて 中学校 は どこ だ と 聞いた 。 りく へ|ついた|じ||いのいちばん||とびあがって||いそ||たって|いた|はな たれ|こぞう||つら ま えて|ちゅうがっこう|||||きいた When we reached land, I was the first to leap off, and I immediately asked a snotty-nosed kid standing on the beach where the middle school was. 小僧 は 茫やりして 、 知らん が の 、 と 云った 。 こぞう||ぼう やり して|しら ん||||うんった The kid looked confused and said he didn't know. 気の利かぬ 田舎 もの だ 。 き の きか ぬ|いなか|| What an unhelpful bumpkin. 猫の額程な 町内 の 癖 に 、 中学校 の ありか も 知らぬ 奴 が ある もの か 。 ねこ の がく ほど な|ちょう ない||くせ||ちゅうがっこう||||しら ぬ|やつ|||| Can you believe that in a town this small, there's someone who doesn't even know where the middle school is? 所 へ 妙な 筒っぽう を 着た 男 が きて 、 こっち へ 来い と 云う から 、 ついて 行ったら 、 港屋 と 云う 宿屋 へ 連れて 来た 。 しょ||みょうな|つつっぽう||きた|おとこ|||||こい||うん う|||おこなったら|こう や||うん う|やどや||つれて|きた Just then, a man wearing an odd tubular outfit approached and told me to follow him, leading me to an inn called Minato-ya. やな 女 が 声 を 揃えて 御上がりなさい と 云う ので 、 上がる のが いや に なった 。 や な|おんな||こえ||そろえて|ご あがり なさい||うん う||あがる|の が||| Unpleasant women were calling in unison for me to come up, so I didn't feel like going in. 門口 へ 立った なり 中学校 を 教えろ と 云ったら 、 中学校 は これ から 汽車 で 二里 許り 行かなくっちゃいけない と 聞いて 、 猶 上がる のが いや に なった 。 かどぐち||たった||ちゅうがっこう||おしえろ||うん ったら|ちゅうがっこう||||きしゃ||ふた さと|ゆる り|いか なくっちゃ いけない||きいて|ゆう|あがる|の が||| Standing at the entrance, I asked for directions to the middle school and was told I'd have to take a train for about two miles; this made me even less inclined to go in. おれ は 、 筒っぽう を 着た 男 から 、 おれ の 革鞄 を 二つ 引きたくって 、 のそのそ あるき 出した 。 ||つつっぽう||きた|おとこ||||かわ かばん||ふた つ|ひき たくって|||だした I grabbed my two leather bags from the man in the tubular outfit and started walking away unhurriedly. 宿屋 の もの は 変な 顔 を して 居た 。 やどや||||へんな|かお|||いた The people at the inn had strange looks on their faces. 停車場 は すぐ 知れた 。 ていしゃば|||しれた I quickly found the train station. 切符 も 訳 なく 買った 。 きっぷ||やく||かった I bought a ticket without any trouble. 乗り込んで 見る と マッチ箱 の 様な 汽車 だ 。 のりこんで|みる||まっち はこ||さま な|きしゃ| When I boarded, I saw that the train was as small as a matchbox. ごろごろ と 五分 許り 動いた と 思ったら 、 もう 降りなければならない 。 ||ご ふん|ばかり|うごいた||おもったら||おり なければ なら ない Just when I thought it had only rumbled on for about five minutes, I already had to get off. 道理 で 切符 が 安い と 思った 。 どうり||きっぷ||やすい||おもった No wonder the ticket was cheap. たった 三 銭 である 。 |みっ|せん| It was only three sen (old currency). それから 車 を 傭って 、 中学校 へ 来たら 、 もう 放課後 で 誰 も 居ない 。 それ から|くるま||ようって|ちゅうがっこう||きたら||ほうかご||だれ||い ない After that, I hired a rickshaw, and when I arrived at the middle school, it was already after school hours and nobody was around. 宿直 は 一寸 用達 に 出た と 小使 が 教えた 。 しゅくちょく||ひと すん|よう たち||でた||こづかい||おしえた The caretaker had stepped out on some errand, a janitor informed me. 随分 気楽 な 宿直 が いる もの だ 。 ずいぶん|きらく||しゅくちょく|||| What a laid-back caretaker! 校長 でも 尋ねよう か と 思った、草臥れた から 、車 に 乗って 宿屋 へ 連れて 行け と 車夫 に 云い 付けた 。 こうちょう||たずねよう|||おもった|くさ がれた||くるま||のって|やどや||つれて|いけ||くるま おっと||うん い|つけた I considered asking for the principal, but since I was tired, I told the rickshaw puller to take me to an inn. 車夫 は 威勢 よく 山城屋 と云う うち へ 横付 に した 。 くるま おっと||いせい||やましろ や|と うん う|||よこ つき|| The rickshaw puller spiritedly took me to a place called "Yamashiroya." 山城屋 とは 質屋 の 勘太郎 の 屋号 と 同じ だ から 一寸 面白く 思った 。 やましろ や|と は|しちや||かん たろう||やごう||おなじ|||ひと すん|おもしろく|おもった I found it amusing that "Yamashiroya" had the same name as that of Kanta, the pawnshop owner. 何だか 二 階 の 楷子 段 の 下 の 暗い 部屋 へ 案内 した 。 なんだか|ふた|かい||かいこ|だん||した||くらい|へや||あんない| For some reason, I was led to a dark room under the ladder that leads to the second floor. 熱くって 居られ やしない 。 あつくって|おら れ| It was so hot that I couldn't bear it. こんな 部屋 は いやだ と 云ったら 、 あいにく みんな 塞がって おり ます から と 云い ながら 、 革 鞄 を 抛り出した まま 出て 行った 。 |へや||||うん ったら|||ふさがって|||||うん い||かわ|かばん||なげう り だした||でて|おこなった When I said I didn't like this kind of room, the person, while saying unfortunately all rooms were occupied, tossed out my leather bag and left as is. 仕方 が ない から 部屋 の 中 へ 這入って 汗 を かいて 我慢 して 居た 。 しかた||||へや||なか||は はいって|あせ|||がまん||いた Having no choice, I entered the room, sweating and enduring it. やがて 湯 に 入れ と 云う から 、 ざぶり と 飛び込んで 、 すぐ 上がった 。 |ゆ||いれ||うん う||ざ ぶり||とびこんで||あがった Eventually, when told to take a bath, I jumped in and quickly got out. 帰りがけ に 覗いて 見る と 涼しそうな 部屋 が 沢山 空いている 。 かえりがけ||のぞいて|みる||すずし そうな|へや||たくさん|あいて いる When I took a peek on my way back, I saw many rooms that seemed cool and vacant. 失敬な 奴 だ 。 しっけいな|やつ| How rude of him. 嘘 を つきゃ あがった 。 うそ||| These people lied to me and got an upper hand. それから 下女 が 膳 を 持って 来た 。 それ から|げ じょ||ぜん||もって|きた After that, a maid brought in a meal. 部屋 は 熱つかった が 、 飯 は 下宿 の より も 大分 旨かった 。 へや||ねつ つかった||めし||げしゅく||||だいぶ|むね かった The room was stuffy, but the food was much better than that of the boarding house. 給仕 を しながら 下女 が どちら から 御出 に なりました と 聞く から 、 東京 から 来た と 答えた 。 きゅうじ||し ながら|した おんな||||ご だ||||きく||とうきょう||きた||こたえた While serving, the maid asked where I was from, so I replied that I came from Tokyo. すると 東京 は よい 所 で 御座いましょう と 云った から 当り前 だ と 答えて やった 。 |とうきょう|||しょ||ございましょう||うん った||あたりまえ|||こたえて| Then, because she said "Tokyo must be a good place," I naturally responded "Of course it is." 膳 を 下げた 下女 が 台所 へ 行った 時分 、 大きな 笑い声 が 聞えた 。 ぜん||さげた|した おんな||だいどころ||おこなった|じぶん|おおきな|わらいごえ||きこえた After the maid took away the dishes and went to the kitchen, I heard a loud laughter. くだらない から 、 すぐ 寐た が 、 中々 寐られない 。 |||び た||なかなか|びられ ない I felt it was silly, so I tried to sleep, but I couldn't fall asleep easily. 熱い 許り では ない 。 あつい|ゆる り|| It wasn't just because it was hot. 騒々しい 。 そうぞうしい It was noisy. 下宿 の 五倍 位 八釜しい 。 げしゅく||いつ ばい|くらい|やっかま しい It was about five times noisier than the boarding house. うとうと したら 清 の 夢 を 見た 。 ||きよし||ゆめ||みた I dozed off and dreamt of Kiyo. 清 が 越後 の 笹飴 を 笹 ぐるみ 、 むしゃむしゃ 食って 居る 。 きよし||えちご||ささ あめ||ささ||むしゃ むしゃ|くって|いる Kiyo was voraciously eating Echigo's bamboo-wrapped candy. 笹 は 毒 だ から 、 よしたら よかろう と 云う と 、 いえ この 笹 が 御薬 で 御座います と 云って 旨そう に 食って 居る 。 ささ||どく||||||うん う||||ささ||ご くすり||ございます||うんって|むね そう||くって|いる When I told her that bamboo was poisonous and she should stop, she replied that this bamboo was actually medicinal and continued to eat it with relish. おれ が あきれ 返って 大きな 口 を 開いて ハハハハ と 笑ったら 眼 が 覚めた 。 |||かえって|おおきな|くち||あいて|||わらったら|がん||さめた I was so shocked that I laughed out loud, and that woke me up. 下女 が 雨戸 を 明けて いる 。 した おんな||あまど||あけて| The maid was opening the storm shutters. 相変らず 空 の 底 が 突き抜けた 様 な 天気 だ 。 あい かわら ず|から||そこ||つきぬけた|さま||てんき| The sky remained as clear as ever, as if its bottom had been pierced through. 道中 を したら 茶代 を やる もの だ と 聞いて 居た 。 どうちゅう|||ちゃ だい||||||きいて|いた I had heard that one should tip during the journey. 茶代 を やら ない と 粗末 に 取り扱わ れる と 聞いて いた 。 ちゃ だい|||||そまつ||とりあつかわ|||きいて| I had heard that if you don't give a tip, you'll be treated poorly. こんな 、 狭くて 暗い 部屋 へ 押し込める のも 茶代 を やらない 所為 だろう 。 |せまくて|くらい|へや||おしこめる|の も|ちゃ だい||やら ない|せい| Perhaps being pushed into such a narrow and dark room is also because I didn’t tip. 見すぼらしい 服装 を して 、 ズック の 革鞄 と 毛繻子 の 蝙蝠傘 を 提げてる から だろう 。 み すぼ らしい|ふくそう|||||かわ かばん||け しゅす||こうもり かさ||さげてる|| Perhaps it's because I'm dressed shabbily, carrying a canvas leather bag and an old-fashioned woolen umbrella 田舎者 の 癖に 人 を 見括った な 。 いなか しゃ||くせ に|じん||み くくった| Despite being from the countryside, he looked down on me. 一番 茶代 を やって 驚かしてやろう 。 ひと ばん|ちゃ だい|||おどろか して やろう I'll give a large tip and surprise him. おれ は これ でも 学資 の あまり を 三十 円 ほど 懐 に 入れて 東京 を 出て 来た のだ ||||がくし||||さんじゅう|えん||ふところ||いれて|とうきょう||でて|きた| After all, I had around thirty yen left from my school fees when I left Tokyo. 汽車 の 汽船 の 切符代 と 雑費 を 差し引いて 、 まだ 十四円程 ある 。 きしゃ||きせん||きっぷ だい||ざっぴ||さしひいて||じゅうよん えん ほど| After deducting train and steamship ticket costs and other expenses, I still have about fourteen yen. みんな やったって 是からは 月給 を 貰うんだから 構わない 。 ||ぜ から は|げっきゅう||もらう ん だから|かまわ ない Even if I spend it all, it doesn’t matter since I'll be getting a monthly salary from now on. 田舎者 は しみったれ だから 五円 も やれば 驚いて 眼を廻す に極って 居る 。 いなか もの||||いつ えん|||おどろいて|がん を まわす|に きょくって|いる Country folks are stingy, so if I give even five yen, they would surely be shocked. どうするか 見ろ と 澄して 顔 を 洗って 、 部屋 へ 帰って 待ってる と 、 夕べ の 下女 が 膳 を 持って 来た 。 どう する か|みろ||きよし して|かお||あらって|へや||かえって|まってる||ゆうべ||した おんな||ぜん||もって|きた After washing my face with a look as if to say, "Watch what I’ll do," I returned to my room to wait, and the maid from last night came with a tray. 盆 を 持って 給仕 を しながら 、 やににやにや 笑っている 。 ぼん||もって|きゅうじ||し ながら|やに に やに や|わらって いる While serving with a tray in hand, she was smiling with a smug look. 失敬 な 奴 だ 。 しっけい||やつ| She's so rude. 顔 の なか を 御祭り でも 通りゃしまいし 。 かお||||おまつり||とおりゃ しまい し It's as if a festival is parading through her face. 是でも 此下女 の 面 より 余っ程 上等だ 。 ぜ でも|これした おんな||つら||よっほど|じょうとうだ Even then, I am much more refined than this maid. 飯 を 済ましてから にしよう と 思って 居たが 、 癪 に 障った から 、 途中で 五円札 を 一枚 出して 、 あとで 是を 帳場 へ 持って 行け と 云ったら 、 下女 は 変な 顔 を して 居た 。 めし||すまして から|に しよう||おもって|いた が|しゃく||さわった||とちゅう で|いつ えん さつ||ひと まい|だして|あと で|ぜ を|ちょうば||もって|いけ||うん ったら|した おんな||へんな|かお|||いた I had planned to settle after finishing my meal, but I was irritated, so I took out a five-yen bill during the meal and told her to bring it to the counter later. The maid looked at me with a strange expression. 夫から 飯 を 済まして すぐ 学校 へ 出懸けた 。 おっと から|めし||すまして||がっこう||で かけた After that, I finished my meal and immediately set out for school. 靴 は 磨いて なかった 。 くつ||みがいて| My shoes were not polished. 学校 は 昨日 車 で 乗りつけた から 、 大概 の 見当 は 分って 居る 。 がっこう||きのう|くるま||のりつけた||たいがい||けんとう||ぶん って|いる I knew roughly where the school was because I had arrived there by rickshaw yesterday. 四つ角 を 二三度 曲がったら すぐ 門 の 前 へ 出た 。 よつかど||にさん ど|まがったら||もん||ぜん||でた After turning at a few crossroads, I soon arrived in front of the school gate. 門 から 玄関 迄 は 御影石 で 敷きつめてある 。 もん||げんかん|まで||みかげいし||しきつめて ある From the gate to the entrance, the path is paved with Mikage stone. きのう この 敷石 の 上 を 車 で がらがら と 通った 時 は 、 無暗 に 仰山 な 音 が する の で 少し 弱った 。 ||しきいし||うえ||くるま||||かよった|じ||む くら||あお やま||おと|||||すこし|よわった When I rode over this stone pavement yesterday, the noisy rumbling made me feel a bit uneasy. 途中 から 小倉 の 制服 を 着た 生徒 に 沢山 逢った が 、 みんな この 門 を 這入って 行く 。 とちゅう||おぐら||せいふく||きた|せいと||たくさん|あった||||もん||は はいって|いく Along the way, I met many students dressed in Kokura uniforms, and they all entered through this gate. 中 に は おれ より 脊 が 高くって 強そう な の が 居る 。 なか|||||せ||たかくって|きょうそう||||いる Among them, some appeared taller and stronger than me. あんな 奴 を 教える のか と 思ったら 何だか 気味 が 悪く なった 。 |やつ||おしえる|の か||おもったら|なんだか|きみ||わるく| The thought of teaching such students made me somewhat uneasy. 名刺 を 出したら 校長室 へ 通した 。 めいし||だしたら|こうちょう しつ||とおした I handed over my business card and was directed to the principal's office. 校長 は 今 に 職員 に 紹介してやる から 、 一々 其の 人 に この 辞令 を 見せるんだ と 言って 聞かした 。 こうちょう||いま||しょくいん||しょうかい して やる||いちいち|その|じん|||じれい||みせる ん だ||いって|きか した The principal was a man with a thin beard, dark complexion, and large eyes, resembling a raccoon dog (tanuki). やに もったいぶって いた 。 He seemed rather pompous. まあ 精出して 勉強してくれ と 云って 、 恭しく 大きな 印 の 捺った 、 辞令 を 渡した 。 |せい だして|べんきょう して くれ||うん って|うやうやしく|おおきな|いん||なつった|じれい||わたした He politely handed me a formal appointment letter with a large stamp, saying, "Do your best in your studies." この 辞令 は 東京 へ 帰る とき 丸めて 海 の 中 へ 抛り込んで 仕舞った 。 |じれい||とうきょう||かえる||まるめて|うみ||なか||なげう り こんで|しまった I later threw this appointment letter into the sea when I returned to Tokyo. 校長 は 今 に 職員 に 紹介してやる から 、 一々 其の 人 に この 辞令 を 見せるんだ と 言って 聞かした 。 こうちょう||いま||しょくいん||しょうかい して やる||ひと 々|その の|じん|||じれい||みせる ん だ||いって|きか した The principal told me that he would introduce me to the staff soon and that I should show this letter to each person. 余計な 手数 だ 。 よけいな|て かず| It's an unnecessary procedure. そんな 面倒な 事 を する より この 辞令 を 三日間 職員室 へ 張り付ける 方 が ましだ 。 |めんどうな|こと|||||じれい||みっかかん|しょくいん しつ||はりつける|かた|| Rather than going through that trouble, it'd be better to just pin this appointment letter in the staff room for three days. 教員 が 控所 へ 揃う に は 一 時間 の 喇叭 が 鳴らなくてはならぬ 。 きょういん||ひかえ じょ||そろう|||ひと|じかん||らっぱ||なら なくて は なら ぬ The trumpet must sound an hour before the teachers gather in the staff room 大分 時間 が ある 。 だいぶ|じかん|| There's quite a bit of time left. 校長 は 時計 を 出して 見て 、 追々 ゆるりと 話す 積 だが 、 先づ 大体 の 事 を 呑み込んで 置いて 貰おう と 云って 、 夫 から 教育 の 精神 について 長い 御談義 を 聞かした 。 こうちょう||とけい||だして|みて|おいおい|ゆる り と|はなす|せき||さき づ|だいたい||こと||のみこんで|おいて|もらおう||うん って|おっと||きょういく||せいしん||ながい|ご だん ただし||きか した The principal took out his watch to check the time, intending to discuss things leisurely. However, he began by wanting me to grasp the general concept, and then gave me a lengthy lecture on the spirit of education. おれ は 無論 いゝ 加減 に 聞いて 居た が 、 途中 から 是 は 飛んだ 所 へ 来た と 思った 。 ||むろん|い ゝ|かげん||きいて|いた||とちゅう||ぜ||とんだ|しょ||きた||おもった I was, of course, listening half-heartedly and started to feel at some point that his talk had gone off the rails. 校長 の 云う ように は とても 出来 ない 。 こうちょう||うん う||||でき| I couldn't possibly do as the principal was saying. おれ 見た 様 な 無鉄砲 な もの を つらまえて 、 生徒 の 模範 に なれ の 、 一校 の 師表 と 仰がれなくては 行かん の 、 学問 以外 に 個人 の 徳化 を 及ぼさなくては 教育者 に なれない の 、 と 無暗 に 法外 な 注文 を する 。 |みた|さま||むてっぽう||||つら ま えて|せいと||もはん||||いっこう||しひょう||あおが れ なくて は|いか ん||がくもん|いがい||こじん||いさお か||およぼさ なくて は|きょういく しゃ||なれ ない|||む くら||ほうがい||ちゅうもん|| He was making outrageous demands, saying that someone reckless like me should become a role model for the students, be regarded as the exemplar for the entire school, and must cultivate personal virtue beyond academic knowledge to be considered an educator. そんな えらい 人 が 月給 四十 円 で 遥々 こんな 田舎 へ くる もん か 。 ||じん||げっきゅう|しじゅう|えん||はるばる||いなか|||| Would someone so outstanding come all the way to this countryside for a monthly salary of forty yen? 人間 は 大概 似た もん だ 。 にんげん||たいがい|にた|| People are mostly similar. 腹が立てば 喧嘩の一つ位 は 誰でも するだろう と 思ってた が 、 此様子じゃ 滅多に 口も聞けない 。散歩 も 出来ない 。 はら が たてば|けんか の ひと つ い||だれ でも|する だろう||おもって た||これさま こ じゃ|めったに|くち も きけ ない|さんぽ||でき ない I used to think that anyone would get into a fight if angered, but with this situation, it would be rare to even speak. I can't even take a walk. そんな 六づかしい 役 なら 雇う 前 に これこれ だ と 話す が いゝ 。 |むっづか し い|やく||やとう|ぜん||これ これ|||はなす||い ゝ If the role was this difficult, it should have been explained so beforehand. おれ は 嘘 を つく の が 嫌 だから 、 仕方 が ない 。だまされて 来た の だ と あきらめて 、 思い切り よく 、 ここ で 断って 帰っち まおう と 思った 。 ||うそ|||||いや||しかた||||きた|||||おもいきり||||たって|かえっち|||おもった I don't like lying, so there's no other way. I resigned myself to the idea that I had been deceived, and with determination, I thought I might as well refuse here and return. 宿屋 へ 五 円 やった から 財布 の 中 に は 九 円 なにがし しか ない 。 やどや||いつ|えん|||さいふ||なか|||ここの|えん||| I had paid five yen to the inn, so I had only about nine yen left in my wallet. 九 円 じゃ 東京 迄 は 帰れない 。 ここの|えん||とうきょう|まで||かえれ ない Nine yen isn't enough to return to Tokyo. 茶代 なんか やらなければ よかった 。 ちゃ だい||やら なければ| It would have been better if I hadn't given the tip. 惜しい 事 を した 。 おしい|こと|| I made a wasteful decision. 然し 九 円 だって 、 どうか ならない 事 は ない 。 ぜん し|ここの|えん|||なら ない|こと|| But even with nine yen, it's not like I can't do something. 旅費 は 足りなくっても 嘘 を つく より ましだ と 思って 、 到底 あなた の 仰 しゃる 通り にゃ 、 出来ません 、 此 辞令 は 返します と 云ったら 、 校長 は 狸 の 様な 眼 を ぱちつかせて おれ の 顔 を 見て 居た 。 りょひ||たりなくって も|うそ||||||おもって|とうてい|||あお|し ゃる|とおり|に ゃ|できません|これ|じれい||かえします||うん ったら|こうちょう||たぬき||さま な|がん||ぱち つか せて|||かお||みて|いた Thinking it was better to be short on travel money than to lie, I told him, "I absolutely can't do as you ask, so I'll return this appointment." The principal, with eyes like a tanuki, stared at me. やがて 、 今 の は 只 希望 で ある 、 あなた が 希望 通り 出来ない の は よく 知って 居る から 心配 しなくっても いゝ と 云いながら 笑った。 |いま|||ただ|きぼう|||||きぼう|とおり|でき ない||||しって|いる||しんぱい|し なくって も|い ゝ||うん いながら|わらった After a while, he laughed and said, "That was just a hope. I know well that you can't do as I wish, so don't worry." その 位 よく 知ってる なら 、 始め から 威嚇 さなければ いゝ の に 。 |くらい||しってる||はじめ||いかく|さ なければ|い ゝ|| If he knew that well, he shouldn't have threatened me from the start. そう、こうする 内 に 喇叭 が 鳴った。 |こう する|うち||らっぱ||なった So, while I was doing this, the trumpet sounded. 教場 の 方 が 急 に がやがや する。 きょう じょう||かた||きゅう||| The training ground suddenly became noisy. もう 教員 も 控所 へ 揃いました ろう と 云う から、校長 に 尾 いて 教員 控所 へ 這入った。 |きょういん||ひかえところ||そろいました|||うん う||こうちょう||お||きょういん|ひかえところ||は はいった Assuming that all the teachers had already gathered in the staff room, I followed the principal into it. 広い 細長い 部屋 の 周囲 に 机 を 並 ( なら ) べ て みんな 腰 ( こし ) を かけて いる 。 ひろい|ほそながい|へや||しゅうい||つくえ||なみ|||||こし|||| In the long, narrow room, desks were arranged around the perimeter, and everyone was seated. おれ が 這入った の を 見て、みんな 申し合せた 様 に 俺 の 顔 を 見た。 ||は はいった|||みて||もうしあわせた|さま||おれ||かお||みた When I entered, everyone seemed to look at my face as if by agreement. 見世物 じゃある まいし。 みせもの|じゃ ある|まい し It's not like I'm a spectacle. 夫 から 申し付けられた 通り 一人々々 の 前 へ 行って 辞令 を 出して 挨拶 を した。 おっと||もうしつけられた|とおり|ひとり 々々||ぜん||おこなって|じれい||だして|あいさつ|| As instructed, I went to each individual and presented my appointment letter and greeted them. 大概 は 椅子 を 離れて 腰 を かがめる 許 で あった が、念 の 入った の は 差し出した 辞令 を 受け取って 一応 拝見 を して 夫 を 恭しく 返却した。 たいがい||いす||はなれて|こし|||ゆる||||ねん||はいった|||さしだした|じれい||うけとって|いちおう|はいけん|||おっと||うやうやしく|へんきゃく した Most of them just nodded slightly from their chairs, but those who were more thorough took the letter I offered, gave it a quick glance, and respectfully returned it. 丸 で 宮芝居 の 真似 だ。 まる||みや しばい||まね| It was just like a palace play. 十五人目 に 体操 の 教師 へ と 廻って 来た 時 に は、同じ 事 を 何返 も やる の で 少々 じれったく なった。 じゅうご り め||たいそう||きょうし|||まわって|きた|じ|||おなじ|こと||なに かえ|||||しょうしょう|| By the time I reached the fifteenth person, the physical education teacher, I became a bit irritated from repeating the same procedure over and over. 向 は 一度 で 済む。 むかい||ひと ど||すむ Others get it done in one go. こっちは 同じ 所作 を 十五返 繰り返して 居る。 こっち は|おなじ|しょさ||じゅうご かえ|くりかえして|いる I had to repeat the same act fifteen times. 少し は ひと の 了 見 ( りょうけん ) も 察して みる が いい 。 すこし||||さとる|み|||さっして||| It would be good if people showed a bit of understanding. 挨拶 を した うち に 教頭 の なにがし と 云う の が 居た 。 あいさつ|||||きょうとう||||うん う|||いた During the greetings, there was someone named the head teacher or something. これ は 文学 士 だ そうだ 。 ||ぶんがく|し||そう だ Apparently, he is a Bachelor of Arts. 文学士 と 云えば 大学 の 卒業生 だ から えらい 人 なん だろう 。 ぶんがく し||うん えば|だいがく||そつぎょう せい||||じん|| Being a Bachelor of Arts means he's a university graduate, so he must be a respectable person. 妙に 女 の様な 優しい 声 を 出す 人 だった 。 みょうに|おんな|の よう な|やさしい|こえ||だす|じん| He had a strangely gentle voice, like that of a woman. 尤も 驚いた の は 此の 暑い の に フランネル の 襯衣 を 着て 居る 。 ゆう も|おどろいた|||この|あつい|||||しんい||きて|いる The thing that surprised me the most is that despite this heat, he is wearing a flannel undershirt. いくら 薄い 地 に は 相違 なくっても 暑い に は 極ってる 。 |うすい|ち|||そうい|な くって も|あつい|||ごくってる No matter how thin the material, it must be terribly hot. 文学士 丈に 御苦労千万 な 服装 を した もん だ 。 ぶんがく し|たけ に|ご くろう せんまん||ふくそう|||| He wear such a cumbersome outfit (as though he had gone through immense hardships), even though he was just a Bachelor of Arts. しかも 夫が 赤 シャツ だ から 人 を 馬鹿 に している 。 |おっと が|あか|しゃつ|||じん||ばか||して いる Moreover, because it's a red shirt, he seems to be making a fool of himself. あと から 聞いたら 此 の 男 は 年 が 年中 赤 シャツ を 着るん だ そう だ 。 ||きいたら|これ||おとこ||とし||ねんじゅう|あか|しゃつ||きる ん||| I later heard that this man wears a red shirt all year round. 妙な 病気 が あった 者 だ 。 みょうな|びょうき|||もの| He must have some strange illness. 当人 の 説明 で は 赤 は 身体 ( からだ ) に 薬 に なる から 、 衛生 の ため に わざわざ 誂 ( あつ ) ら える んだ そうだ が 、 入ら ざる 心配だ 。 とうにん||せつめい|||あか||からだ|||くすり||||えいせい|||||ちょう|||||そう だ||はいら||しんぱいだ According to him, red acts as a medicine for the body, so he had it specially made for health reasons, but I doubt its necessity. そんなら序に 着物 も 袴 も 赤 に すれば いい 。 そん なら じょ に|きもの||はかま||あか||| If that's the case, then he might as well make both his kimono and hakama red. 夫 から 英語 の 教師 に 古賀 とか 云う 大変 顔色 の 悪い 男 が 居た。 おっと||えいご||きょうし||こが|と か|うん う|たいへん|がん しょく||わるい|おとこ||いた Next, there was an English teacher named Koga, who had a particularly poor complexion. 大概 顔 の 蒼い 人 は 痩せて いる もん だ が 此 の 男 は 蒼く ふくれて 居る 。 たいがい|かお||あおい|じん||やせて|||||これ||おとこ||あお く||いる Most people with pale faces tend to be thin, but this man was pale and puffy. 昔し 小学校 へ 行く 時分 、 浅井 の 民 さん と 云う 子 が 同級生 に あった が 、 この 浅井 の 親父 が 矢張り 、 こんな 色つや だった 。 むかし し|しょうがっこう||いく|じぶん|あさい||たみ|||うん う|こ||どうきゅう せい|||||あさい||おやじ||やはり||いろつや| When I was going to elementary school, there was a classmate named Min of the Asai family, and the father of this Asai had such a complexion. 浅井 は 百姓 だから 、 百姓 に なる と あんな 顔 に なる か と 清 に 聞いて 見たら 、 そう じゃ ありません 、 あの 人 は うらなり の 唐茄子 許り 食べる から 、 蒼く ふくれるん です と 教えて くれた 。 あさい||ひゃくしょう||ひゃくしょう|||||かお|||||きよし||きいて|みたら|||||じん||||とう なす|ゆる り|たべる||あお く|ふくれる ん|||おしえて| I asked Kiyo if people became farmers, would they end up with a face like Asai's. She replied, "No, that man turns blue because he eats too many eggplants from うらなり." それ 以来 蒼く ふくれた 人 を 見れば 必ず うらなり の 唐茄子 を 食った 酬 だ と 思う 。 |いらい|あお く||じん||みれば|かならず|||とう なす||くった|しゅう|||おもう Ever since then, whenever I see someone with a swollen, blue complexion, I assume they've eaten eggplants from うらなり. この 英語 の 教師 も うらなり 許り 食ってる に 違ない 。 |えいご||きょうし|||ゆる り|くってる||ちが ない This English teacher must also be eating too many うらなり. 尤も うらなり と は 何 の 事 か 今 以て 知らない 。 ゆう も||||なん||こと||いま|い て|しら ない However, to this day, I still don't know what うらなり is. 清 に 聞いて みた 事 は ある が 、 清 は 笑って 答え なかった 。 きよし||きいて||こと||||きよし||わらって|こたえ| I once asked Kiyo about it, but she just laughed and didn't answer. 大方 清 も 知ら ない んだろう 。 おおかた|きよし||しら|| Kiyo probably doesn't know either. 夫 から おれ と 同じ 数学 の 教師 に 掘田 と 云う の が 居た 。 おっと||||おなじ|すうがく||きょうし||ほ た||うん う|||いた Among the teachers, there was one teaching the same subject as me, mathematics, named Hotta. 是 は 逞しい 毬栗坊主 で 、 叡山 の 悪僧 と 云うべき 面構 で ある 。 ぜ||てい しい|いが くり ぼうず||えいざん||あく そう||うん う べき|おもて かま|| He was a sturdy, round-headed fellow, with a face that could be described as a wicked monk from Eizan. 人 が 叮嚀 に 辞令 を 見せたら 見向き も せず 、 やあ 君 が 新任 の 人 か 、 些 と 遊び に 来給え アハヽヽ と 云った 。 じん||ていねい||じれい||みせたら|みむき||せ ず|や あ|きみ||しんにん||じん||さ||あそび||らい たまえ|||うん った When I showed him the formal introduction, he didn't even look and just said, "Ah, you're the new guy? Come and visit sometime, haha!" 何 が アハヽヽだ 。 なん||アハヽヽ だ What's with the "haha?" そんな 礼儀 を 心得ぬ 奴 の 所 へ 誰 が 遊び に 行く もの か 。 |れいぎ||こころえ ぬ|やつ||しょ||だれ||あそび||いく|| Who would visit someone with such a lack of manners? おれ は この時 から この 坊主 に 山嵐 と 云う 渾名 を つけて やった 。 ||この とき|||ぼうず||やまあらし||うん う|こんめい||| Since then, I gave him the nickname "Mountain Storm." 漢学 の 先生 は 流石に 堅い もの だ 。 かんがく||せんせい||さすが に|かたい|| The teacher of Chinese studies, as expected, is a serious person. 昨日 で 、 嘸 御疲れ で 、 それでもう 授業 を 御始め で 、 大分 御励精 で 、 と のべつ に 弁じた の は 愛嬌 の ある 御爺さんだ 。 きのう||ぶ|ご つかれ||それ で もう|じゅぎょう||ご はじめ||だいぶ|ご はげ せい|||||べんじた|||あいきょう|||ご じいさん だ The kind old man continuously said, "Yesterday was tiring, yet you began your lessons, you've been working hard..." 画学 の 教師 は 全く 芸人風 だ 。 が がく||きょうし||まったく|げいにん かぜ| The art teacher is entirely like an entertainer. べらべらした 透綾 の 羽織 を 着て 、 扇子 を ぱちつかせて 、 御国 は どちら で げす 、 え ? べらべら した|とおる あや||はおり||きて|せんす||ぱち つか せて|おくに||||げ す| Wearing a flashy transparent haori, snapping a folding fan, he asked, "Where are you from? 東京 ? とうきょう Ah, Tokyo? それ は 嬉しい 、 御仲間 が 出来て …… 私 も これで 江戸っ子 です と 云った 。 ||うれしい|ご なかま||できて|わたくし||これ で|えどっこ|||うん った That's wonderful! We're fellow Edoites now... I'm an Edoite as well." こんなの が 江戸っ子 なら 江戸 に は 生れたくない もんだ と 心中 に 考えた 。 こんな の||えどっこ||えど|||うまれ たく ない|||しんじゅう||かんがえた If this is what an Edo native is like, I thought to myself that I wouldn't want to be born in Edo. 其のほか 一人一人 に 就いて こんな 事 を 書けば いくらでも ある 。 その の ほか|ひとりひとり||ついて||こと||かけば|いくら でも| There are many more things to write about each and every individual. 然し 際限 が ない から やめる 。 ぜん し|さいげん|||| However, there's no end to it, so I'll stop. 挨拶 が 一 通り 済んだら 、 校長 が 今日 は もう 引き取って も いい 、 もっとも 授業 上 の 事 は 数学 の 主任 と 打ち合せ を して おいて 、 明後日 ( あさって ) から 課 業 を 始めて くれ と 云った 。 あいさつ||ひと|とおり|すんだら|こうちょう||きょう|||ひきとって||||じゅぎょう|うえ||こと||すうがく||しゅにん||うちあわせ||||みょうごにち|||か|ぎょう||はじめて|||うん った After the greetings were over, the principal told me that I could leave for the day, but that I should discuss class matters with the head of mathematics and start my class the day after tomorrow. 数学 の 主任 は 誰 か と 聞いて みたら 例の 山嵐 であった 。 すうがく||しゅにん||だれ|||きいて||れいの|やまあらし| 忌 々 ( いま いま ) しい 、 こいつ の 下 に 働く の か お やおや と 失望 した 。 い|||||||した||はたらく||||||しつぼう| I was disappointed that I would be working for him. 山嵐 は 「 おい 君 どこ に 宿 ( とま ) って る か 、 山城 屋 か 、 うん 、 今に 行って 相談 する 」 と 云い 残して 白墨 ( はくぼく ) を 持って 教 場 へ 出て 行った 。 やまあらし|||きみ|||やど|||||やましろ|や|||いまに|おこなって|そうだん|||うん い|のこして|はくぼく|||もって|きょう|じょう||でて|おこなった Yamarashi said, "Hey, where do you stay, Yamashiroya or Yamashiroya? He left the classroom with a piece of white ink. 主任 の 癖 に 向う から 来て 相談 する なんて 不 見識 な 男 だ 。 しゅにん||くせ||むかう||きて|そうだん|||ふ|けんしき||おとこ| He is an inconsiderate man who comes from the other side of the country to consult with us, as is his habit as a chief executive officer. しかし 呼び 付ける より は 感心だ 。 |よび|つける|||かんしんだ But it's more impressive than calling them. それ から 学校 の 門 を 出て 、 すぐ 宿 へ 帰ろう と 思った が 、 帰った って 仕方 が ない から 、 少し 町 を 散歩 して やろう と 思って 、 無 暗に 足 の 向く 方 を あるき 散らした 。 ||がっこう||もん||でて||やど||かえろう||おもった||かえった||しかた||||すこし|まち||さんぽ||||おもって|む|あんに|あし||むく|かた|||ちらした After that, I left the school gate and thought I would go right back to the inn, but since I had no choice but to go home, I decided to take a short walk around town and walked around in the direction of my feet without thinking. 県庁 も 見た 。 けんちょう||みた I also saw the prefectural government office. 古い 前 世紀 の 建築 である 。 ふるい|ぜん|せいき||けんちく| It is an old pre-century building. 兵 営 も 見た 。 つわもの|いとな||みた 麻 布 ( あざ ぶ ) の 聯隊 ( れんたい ) より 立派で ない 。 あさ|ぬの||||れんたい|||りっぱで| It is no more splendid than the Azabu Yontai. 大通り も 見た 。 おおどおり||みた I also saw the main street. 神楽 坂 ( かぐら ざ か ) を 半分 に 狭く した ぐらい な 道 幅 ( みち は ば ) で 町並 ( まちなみ ) は あれ より 落ちる 。 かぐら|さか|||||はんぶん||せまく||||どう|はば|||||まちなみ|||||おちる The street width is about half the width of Kagurazaka, and the townscape is even narrower. 二十五万 石 の 城 下 だって 高 の 知れた もの だ 。 にじゅうごまん|いし||しろ|した||たか||しれた|| The castle was a well-known one with a castle of 250,000 koku. こんな 所 に 住んで ご 城 下 だ など と 威張 ( いば ) って る 人間 は 可哀想 ( かわいそう ) な もの だ と 考え ながら くる と 、 いつしか 山城 屋 の 前 に 出た 。 |しょ||すんで||しろ|した||||いば||||にんげん||かわいそう||||||かんがえ|||||やましろ|や||ぜん||でた I thought about how pitiful it must be to live in a place like this, and to be so arrogant as to claim to be a lord of a castle, and before I knew it, I was in front of the Yamashiroya house. 広い ようで も 狭い もの だ 。 ひろい|||せまい|| It may seem wide, but it is narrow. これ で 大抵 ( たいてい ) は 見 尽 ( みつ く ) した のだろう 。 ||たいてい|||み|つく|||| I guess most of them have run out of places to look. 帰って 飯 でも 食おう と 門口 を はいった 。 かえって|めし||くおう||かどぐち|| 帳場 に 坐 ( す わ ) って いた かみさん が 、 おれ の 顔 を 見る と 急に 飛び出して きて お 帰り …… と 板の間 へ 頭 を つけた 。 ちょうば||すわ|||||かみ さん||||かお||みる||きゅうに|とびだして|||かえり||いたのま||あたま|| When the wife, who was sitting in the ledger, saw me, she suddenly jumped out and put her head down on the wooden floor, saying "Welcome home ......". 靴 ( くつ ) を 脱 ( ぬ ) いで 上がる と 、 お 座敷 ( ざしき ) が あき ました から と 下 女 が 二 階 へ 案内 を した 。 くつ|||だつ||い で|あがる|||ざしき|||||||した|おんな||ふた|かい||あんない|| After taking off her shoes, the servant led the way to the second floor, saying that the tatami room had been cleared. 十五 畳 ( じょう ) の 表 二 階 で 大きな 床 ( とこ ) の 間 ( ま ) が ついて いる 。 じゅうご|たたみ|||ひょう|ふた|かい||おおきな|とこ|||あいだ|||| The second floor has 15 tatami mats and a large floor space. おれ は 生れて から まだ こんな 立派な 座敷 へ は いった 事 は ない 。 ||うまれて||||りっぱな|ざしき||||こと|| I have never been in such a magnificent tatami room since I was born. この後 いつ は いれる か 分ら ない から 、 洋服 を 脱いで 浴衣 ( ゆかた ) 一 枚 に なって 座敷 の 真中 ( まんなか ) へ 大の 字 に 寝て みた 。 このあと|||い れる||ぶん ら|||ようふく||ぬいで|ゆかた||ひと|まい|||ざしき||まんなか|||だいの|あざ||ねて| Not knowing when I would be able to come back, I took off my clothes, put on a yukata, and lay down in the middle of the tatami room in a large position. いい 心持ち である 。 |こころもち| 昼 飯 を 食って から 早速 清 へ 手紙 を かいて やった 。 ひる|めし||くって||さっそく|きよし||てがみ||| おれ は 文章 が まずい 上 に 字 を 知ら ない から 手紙 を 書く の が 大 嫌 ( だい きら ) い だ 。 ||ぶんしょう|||うえ||あざ||しら|||てがみ||かく|||だい|いや|||| I hate writing letters because my writing is bad and I don't know how to write. また やる 所 も ない 。 ||しょ|| There is no place to do it again. しかし 清 は 心配 して いる だろう 。 |きよし||しんぱい||| But Kiyoshi must be worried. 難船 して 死に や し ない か など と 思っちゃ 困る から 、 奮発 ( ふんぱつ ) して 長い の を 書いて やった 。 なんせん||しに|||||||おもっちゃ|こまる||ふんぱつ|||ながい|||かいて| I didn't want him to think that he might die in a shipwreck, so I got inspired and wrote a long piece. その 文句 は こう である 。 |もんく||| The complaint goes like this. 「 きのう 着いた 。 |ついた つまら ん 所 だ 。 ||しょ| It's a boring place. 十五 畳 の 座敷 に 寝て いる 。 じゅうご|たたみ||ざしき||ねて| 宿屋 へ 茶 代 を 五 円 やった 。 やどや||ちゃ|だい||いつ|えん| I gave the innkeeper five yen for tea. かみさん が 頭 を 板の間 へ すり つけた 。 かみ さん||あたま||いたのま||| The wife rubbed her head against the board. 夕べ は 寝 られ なかった 。 ゆうべ||ね|| I couldn't sleep last night. 清 が 笹 飴 を 笹 ごと 食う 夢 を 見た 。 きよし||ささ|あめ||ささ||くう|ゆめ||みた Kiyoshi dreamed that he ate bamboo grass candy with bamboo grass. 来年 の 夏 は 帰る 。 らいねん||なつ||かえる I will return next summer. 今日 学校 へ 行って みんな に あだな を つけて やった 。 きょう|がっこう||おこなって|||||| I went to school today and gave them all nicknames. 校長 は 狸 、 教頭 は 赤 シャツ 、 英語 の 教師 は うら なり 、 数学 は 山嵐 、 画 学 は のだ いこ 。 こうちょう||たぬき|きょうとう||あか|しゃつ|えいご||きょうし||||すうがく||やまあらし|が|まな||| The principal is a raccoon, the vice principal is a red shirt, the English teacher is a Uranari, the math teacher is a Yamarashi, and the art teacher is a Nodainko. 今に いろいろな 事 を 書いて やる 。 いまに||こと||かいて| I'm going to write about a lot of things now. さようなら 」   手紙 を かいて しまったら 、 いい 心持ち に なって 眠気 ( ねむけ ) が さした から 、 最 前 の ように 座敷 の 真中 へ のびのび と 大 の 字 に 寝た 。 |てがみ|||||こころもち|||ねむけ|||||さい|ぜん|||ざしき||まんなか||||だい||あざ||ねた Goodbye." After I had written the letter, I felt good and sleepy, so I stretched out in the middle of the tatami room like I had done before. 今度 は 夢 も 何も 見 ないで ぐっすり 寝た 。 こんど||ゆめ||なにも|み|||ねた This time, I slept soundly without dreaming or seeing anything. この 部屋 かい と 大きな 声 が する ので 目 が 覚めたら 、 山嵐 が はいって 来た 。 |へや|||おおきな|こえ||||め||さめたら|やまあらし|||きた I was awakened by a loud voice saying, "This room is here," and a mountain storm came in. 最 前 は 失敬 、 君 の 受持ち は …… と 人 が 起き上がる や 否 や 談判 を 開か れた ので 大いに 狼狽 ( ろうばい ) した 。 さい|ぜん||しっけい|きみ||うけもち|||じん||おきあがる||いな||だんぱん||あか|||おおいに|ろうばい|| I'm sorry for the last time, but I was very upset when I was asked to discuss your receipt of ...... as soon as the person woke up. 受持ち を 聞いて みる と 別段 むずかしい 事 も な さ そうだ から 承知 した 。 うけもち||きいて|||べつだん||こと||||そう だ||しょうち| After listening to what they had to say, it didn't sound too difficult, so I agreed. この くらい の 事 なら 、 明後日 は 愚 ( おろか )、 明日 ( あした ) から 始めろ と 云った って 驚 ろ か ない 。 |||こと||みょうごにち||ぐ||あした|||はじめろ||うん った||おどろ||| I wouldn't be surprised if he told them to start tomorrow, rather than the day after tomorrow, if that's the case. 授業 上 の 打ち合せ が 済んだら 、 君 は いつまで こんな 宿屋 に 居る つもりで も ある まい 、 僕 ( ぼく ) が いい 下宿 を 周旋 ( しゅうせん ) して やる から 移り たまえ 。 じゅぎょう|うえ||うちあわせ||すんだら|きみ||||やどや||いる|||||ぼく||||げしゅく||しゅうせん|||||うつり| After the class meeting is over, you don't have any intention of staying at this kind of inn any longer, I'll find you a good place to stay, so please move in. 外 の もの で は 承知 し ない が 僕 が 話せば すぐ 出来る 。 がい|||||しょうち||||ぼく||はなせば||できる I don't know what you're talking about, but I can do it. 早い 方 が いい から 、 今日 見て 、 あす 移って 、 あさって から 学校 へ 行けば 極 りがい いと 一 人 で 呑み 込んで いる 。 はやい|かた||||きょう|みて||うつって|||がっこう||いけば|ごく|||ひと|じん||のみ|こんで| I thought to myself, "The sooner I see it, the better, so I'll look at it today, move on tomorrow, and go to school the day after tomorrow, the better. なるほど 十五 畳敷 に いつまで 居る 訳 に も 行く まい 。 |じゅうご|じょうしき|||いる|やく|||いく| I see. I can't stay in the 15 tatami mats for much longer. 月給 を みんな 宿 料 ( しゅく りょう ) に 払 ( はら ) って も 追っ つ か ない かも しれ ぬ 。 げっきゅう|||やど|りょう||||はら||||つい っ|||||| Even if they were to pay their monthly wages, they might not be able to keep up with the monthly wage. 五 円 の 茶 代 を 奮発 ( ふんぱつ ) して すぐ 移る の は ち と 残念だ が 、 どうせ 移る 者 なら 、 早く 引き 越 ( こ ) して 落ち付く 方 が 便利だ から 、 そこ の ところ は よろしく 山嵐 に 頼 ( たの ) む 事 に した 。 いつ|えん||ちゃ|だい||ふんぱつ||||うつる|||||ざんねんだ|||うつる|もの||はやく|ひき|こ|||おちつく|かた||べんりだ|||||||やまあらし||たの|||こと|| It would be a shame to move so soon after faking a five-yen tea fee, but if one is going to move, it would be more convenient to move in and settle down quickly, so I decided to ask Yamaarashi to take care of that for me. すると 山嵐 は ともかくも いっしょに 来て みろ と 云う から 、 行った 。 |やまあらし||||きて|||うん う||おこなった Then YAMARASHI said, "Come with me anyway," and so I went. 町 は ずれ の 岡 の 中腹 に ある 家 で 至極 閑静 ( かんせい ) だ 。 まち||||おか||ちゅうふく|||いえ||しごく|かんせい|| The house is located in the middle of a hillside on the outskirts of town and is extremely quiet. 主人 は 骨董 ( こっとう ) を 売買 する いか 銀 と 云う 男 で 、 女房 ( にょうぼう ) は 亭主 ( ていしゅ ) より も 四 つ ばかり 年嵩 ( としかさ ) の 女 だ 。 しゅじん||こっとう|||ばいばい|||ぎん||うん う|おとこ||にょうぼう|||ていしゅ||||よっ|||としかさ|||おんな| The owner was an antique dealer named Ika Gin, and his wife was a woman about four years older than her husband. 中学校 に 居た 時 ウィッチ と 云う 言葉 を 習った 事 が ある が この 女房 は まさに ウィッチ に 似て いる 。 ちゅうがっこう||いた|じ|||うん う|ことば||ならった|こと|||||にょうぼう|||||にて| When I was in junior high school, I learned the word "witch," and this woman is exactly like a witch. ウィッチ だって 人 の 女房 だ から 構わ ない 。 ||じん||にょうぼう|||かまわ| Witches are people's wives, so it doesn't matter. とうとう 明日 から 引き 移る 事 に した 。 |あした||ひき|うつる|こと|| 帰り に 山嵐 は 通 町 ( とおり ちょう ) で 氷 水 を 一杯 奢 ( ぱい おご ) った 。 かえり||やまあらし||つう|まち||||こおり|すい||いっぱい|しゃ||| On the way home, Yamaarashi bought him a glass of ice water in the street. 学校 で 逢った 時 は やに 横風 ( おう ふう ) な 失敬な 奴 だ と 思った が 、 こんなに いろいろ 世話 を して くれる ところ を 見る と 、 わるい 男 でも なさ そうだ 。 がっこう||あった|じ|||おう ふう||||しっけいな|やつ|||おもった||||せわ||||||みる|||おとこ||な さ|そう だ When I first met him at school, I thought he was a bit arrogant and disrespectful, but seeing how he took such good care of me, he didn't seem like a bad guy at all. ただ おれ と 同じ ように せっかちで 肝 癪持 ( かんしゃく もち ) らしい 。 |||おなじ|||かん|しゃくじ||| He seems to be just as impetuous and irritable as I am. あと で 聞いたら この 男 が 一 番 生徒 に 人望 が ある のだ そうだ 。 ||きいたら||おとこ||ひと|ばん|せいと||じんぼう||||そう だ I was later told that this man was the most popular among the students.