×

Nous utilisons des cookies pour rendre LingQ meilleur. En visitant le site vous acceptez nos Politique des cookies.


image

人間失格, 人間失格 2/15

人間 失格 2/15

自分 の 父 は 、 東京 に 用事 の 多い ひと でした ので 、 上野 の 桜木 町 に 別荘 を 持って いて 、 月 の 大半 は 東京 の その 別荘 で 暮して いました 。 そうして 帰る 時 に は 家族 の 者 たち 、 また 親戚 ( しんせき ) の 者 たち に まで 、 実に おびただしく お土産 を 買って 来る の が 、 まあ 、 父 の 趣味 みたいな もの でした 。 いつか の 父 の 上京 の 前夜 、 父 は 子供 たち を 客間 に 集め 、 こんど 帰る 時 に は 、 どんな お土産 が いい か 、 一 人 々々 に 笑い ながら 尋ね 、 それ に 対する 子供 たち の 答 を いちいち 手帖 ( てちょう ) に 書きとめる のでした 。 父 が 、 こんなに 子供 たち と 親しく する の は 、 めずらしい 事 でした 。 「 葉 蔵 は ? 」 と 聞かれて 、 自分 は 、 口ごもって しまいました 。 何 が 欲しい と 聞か れる と 、 とたん に 、 何も 欲しく なく なる のでした 。 どうでも いい 、 どうせ 自分 を 楽しく さ せて くれる もの なんか 無い んだ と いう 思い が 、 ちら と 動く のです 。 と 、 同時に 、 人 から 与えられる もの を 、 どんなに 自分 の 好み に 合わ なくて も 、 それ を 拒む 事 も 出来ません でした 。 イヤな 事 を 、 イヤ と 言え ず 、 また 、 好きな 事 も 、 おずおず と 盗む ように 、 極めて にがく 味 ( あじわ ) い 、 そうして 言い 知れ ぬ 恐怖 感 に もだえる のでした 。 つまり 、 自分 に は 、 二 者 選一 の 力 さえ 無かった のです 。 これ が 、 後年 に 到 り 、 いよいよ 自分 の 所 謂 「 恥 の 多い 生涯 」 の 、 重大な 原因 と も なる 性癖 の 一 つ だった ように 思わ れます 。 自分 が 黙って 、 もじもじ して いる ので 、 父 は ちょっと 不機嫌な 顔 に なり 、「 やはり 、 本 か 。 浅草 の 仲 店 に お 正月 の 獅子舞 い の お 獅子 、 子供 が かぶって 遊ぶ の に は 手頃な 大き さ の が 売って いた けど 、 欲しく ない か 」 欲しく ない か 、 と 言わ れる と 、 もう ダメな んです 。 お 道化 た 返事 も 何も 出来 や し ない んです 。 お 道化 役者 は 、 完全に 落第 でした 。 「 本 が 、 いい でしょう 」 長兄 は 、 まじめな 顔 を して 言いました 。 「 そう か 」 父 は 、 興 覚め 顔 に 手帖 に 書きとめ も せ ず 、 パチ と 手帖 を 閉じました 。 何という 失敗 、 自分 は 父 を 怒ら せた 、 父 の 復讐 ( ふくしゅう ) は 、 きっと 、 おそるべき もの に 違いない 、 いま の うち に 何とか して 取りかえし の つか ぬ もの か 、 と その 夜 、 蒲 団 の 中 で がたがた 震え ながら 考え 、 そっと 起きて 客間 に 行き 、 父 が 先刻 、 手帖 を しまい 込んだ 筈 の 机 の 引き出し を あけて 、 手帖 を 取り上げ 、 パラパラ めくって 、 お土産 の 注文 記入 の 個所 を 見つけ 、 手帖 の 鉛筆 を なめて 、 シシマイ 、 と 書いて 寝ました 。 自分 は その 獅子舞 い の お 獅子 を 、 ちっとも 欲しく は 無かった のです 。 かえって 、 本 の ほう が いい くらい でした 。 けれども 、 自分 は 、 父 が その お 獅子 を 自分 に 買って 与えたい のだ と いう 事 に 気 が つき 、 父 の その 意向 に 迎合 して 、 父 の 機嫌 を 直したい ばかりに 、 深夜 、 客間 に 忍び込む と いう 冒険 を 、 敢えて おかした のでした 。 そうして 、 この 自分 の 非 常の 手段 は 、 果して 思いどおりの 大 成功 を 以 て 報いられました 。 やがて 、 父 は 東京 から 帰って 来て 、 母 に 大声 で 言って いる の を 、 自分 は 子供 部屋 で 聞いて いました 。 「 仲 店 の おもちゃ 屋 で 、 この 手帖 を 開いて みたら 、 これ 、 ここ に 、 シシマイ 、 と 書いて ある 。 これ は 、 私 の 字 で は ない 。 はて な ? と 首 を かしげて 、 思い当りました 。 これ は 、 葉 蔵 の いたずらです よ 。 あいつ は 、 私 が 聞いた 時 に は 、 に や にやして 黙って いた が 、 あと で 、 どうしても お 獅子 が 欲しくて たまらなく なった んだ ね 。 何せ 、 どうも 、 あれ は 、 変った 坊主 です から ね 。 知らん振り して 、 ちゃんと 書いて いる 。 そんなに 欲しかった の なら 、 そう 言えば よい のに 。 私 は 、 おもちゃ 屋 の 店先 で 笑いました よ 。 葉 蔵 を 早く ここ へ 呼び なさい 」 また 一方 、 自分 は 、 下 男 や 下 女 たち を 洋室 に 集めて 、 下 男 の ひと り に 滅 茶 苦 茶 ( めちゃくちゃ ) に ピアノ の キイ を たたか せ 、( 田舎 で は ありました が 、 その 家 に は 、たいてい の もの が 、 そろって いました ) 自分 は その 出 鱈 目 ( でたらめ ) の 曲 に 合せて 、 インデヤン の 踊り を 踊って 見せて 、 皆 を 大笑い さ せました 。 次兄 は 、 フラッシュ を 焚 ( た ) いて 、 自分 の インデヤン 踊り を 撮影 して 、 その 写真 が 出来た の を 見る と 、 自分 の 腰 布 ( それ は 更紗 ( さらさ ) の 風呂敷 でした ) の 合せ 目 から 、 小さい お チンポ が 見えて いた ので 、 これ が また 家中 の 大笑い でした 。 自分 に とって 、 これ また 意外の 成功 と いう べき もの だった かも 知れません 。 自分 は 毎月 、 新刊 の 少年 雑誌 を 十 冊 以上 も 、 とって いて 、 また その他 ( ほか ) に も 、 さまざまの 本 を 東京 から 取り寄せて 黙って 読んで いました ので 、 メチャラクチャラ 博士 だの 、 また 、 ナンジャモンジャ 博士 など と は 、たいへんな 馴染 ( なじみ ) で 、 また 、 怪談 、 講談 、 落語 、 江戸 小咄 ( こばなし ) など の 類 に も 、 かなり 通じて いました から 、 剽軽 ( ひょうきん ) な 事 を まじめな 顔 を して 言って 、 家 の 者 たち を 笑わ せる の に は 事 を 欠きません でした 。 しかし 、 嗚呼 ( ああ )、 学校 ! 自分 は 、 そこ で は 、 尊敬 さ れ かけて いた のです 。 尊敬 さ れる と いう 観念 も また 、 甚 ( はな は ) だ 自分 を 、 おびえ させました 。 ほとんど 完全に 近く 人 を だまして 、 そうして 、 或る ひと り の 全知全能 の 者 に 見破ら れ 、 木っ葉 みじん に やられて 、 死 ぬる 以上 の 赤 恥 を かかせられる 、 それ が 、「 尊敬 さ れる 」 と いう 状態 の 自分 の 定義 で ありました 。 人間 を だまして 、「 尊敬 さ れ 」 て も 、 誰 か ひと り が 知っている 、 そうして 、 人間 たち も 、 やがて 、 その ひと り から 教えられて 、 だまさ れた 事 に 気づいた 時 、 その 時 の 人間 たち の 怒り 、 復讐 は 、 いったい 、 まあ 、 どんなでしょう か 。 想像 して さえ 、 身 の 毛 が よだつ 心地 が する のです 。 自分 は 、 金持ち の 家 に 生れた と いう 事 より も 、 俗に いう 「 できる 」 事 に 依って 、 学校 中 の 尊敬 を 得 そうに なりました 。 自分 は 、 子供 の 頃 から 病弱で 、 よく 一 つき 二 つき 、 また 一 学年 ちかく も 寝込んで 学校 を 休んだ 事 さえ あった のです が 、 それ でも 、 病み 上り の から だ で 人力車 に 乗って 学校 へ 行き 、 学年 末 の 試験 を 受けて みる と 、 クラス の 誰 より も 所 謂 「 できて 」 いる ようでした 。 からだ 具合 い の よい 時 でも 、 自分 は 、 さっぱり 勉強 せ ず 、 学校 へ 行って も 授業 時間 に 漫画 など を 書き 、 休憩 時間 に は それ を クラス の 者 たち に 説明 して 聞か せて 、 笑わ せて やりました 。 また 、 綴り 方 に は 、 滑稽 噺 ( こっけい ば なし ) ばかり 書き 、 先生 から 注意 されて も 、 しかし 、 自分 は 、 やめません でした 。 先生 は 、 実は こっそり 自分 の その 滑稽 噺 を 楽しみに して いる 事 を 自分 は 、 知っていた から でした 。 或る 日 、 自分 は 、 れい に 依って 、 自分 が 母 に 連れられて 上京 の 途中 の 汽車 で 、 おしっこ を 客車 の 通路 に ある 痰 壺 ( たん つぼ ) に して しまった 失敗 談 ( しかし 、 その 上京 の 時 に 、 自分 は 痰 壺 と 知ら ず に した の では ありません でした 。 子供 の 無邪気 を てらって 、 わざと 、 そうした の でした ) を 、 ことさら に 悲し そうな 筆 致 で 書いて 提出 し 、 先生 は 、 きっと 笑う と いう 自信 が ありました ので 、 職員 室 に 引き揚げて 行く 先生 の あと を 、 そっと つけて 行きましたら 、 先生 は 、 教室 を 出る と すぐ 、 自分 の その 綴り 方 を 、 他の クラス の 者 たち の 綴り 方 の 中 から 選び 出し 、 廊下 を 歩き ながら 読み はじめて 、 クスクス 笑い 、 やがて 職員 室 に は いって 読み 終えた の か 、 顔 を 真 赤 に して 大声 を 挙げて 笑い 、 他の 先生 に 、 さっそく それ を 読ま せて いる の を 見とどけ 、 自分 は 、たいへん 満足でした 。 お 茶目 。 自分 は 、 所 謂 お 茶目に 見られる 事 に 成功 しました 。 尊敬 さ れる 事 から 、 のがれる 事 に 成功 しました 。 通信 簿 は 全 学科 と も 十 点 でした が 、 操 行 と いう もの だけ は 、 七 点 だったり 、 六 点 だったり して 、 それ も また 家中 の 大笑い の 種 でした 。 けれども 自分 の 本性 は 、 そんな お茶 目 さん など と は 、 凡 ( およ ) そ 対 蹠 (たいせき ) 的な もの でした 。 その頃 、 既に 自分 は 、 女 中 や 下 男 から 、 哀 ( かな ) しい 事 を 教えられ 、 犯されて いました 。 幼少 の 者 に 対して 、 そのような 事 を 行う の は 、 人間 の 行い 得る 犯罪 の 中 で 最も 醜悪で 下等で 、 残酷な 犯罪 だ と 、 自分 は いまでは 思って います 。 しかし 、 自分 は 、 忍びました 。 これ で また 一 つ 、 人間 の 特質 を 見た と いう ような 気持 さえ して 、 そうして 、 力無く 笑って いました 。 もし 自分 に 、 本当の 事 を 言う 習慣 が ついて いた なら 、 悪びれ ず 、 彼等 の 犯罪 を 父 や 母 に 訴える 事 が 出来た の かも 知れません が 、 しかし 、 自分 は 、 その 父 や 母 を も 全部 は 理解 する 事 が 出来 なかった のです 。 人間 に 訴える 、 自分 は 、 その 手段 に は 少しも 期待 できません でした 。 父 に 訴えて も 、 母 に 訴えて も 、 お 巡 ( まわ ) り に 訴えて も 、 政府 に 訴えて も 、 結局 は 世渡り に 強い 人 の 、 世間 に 通り の いい 言い ぶん に 言いまくら れる だけ の 事 で は 無い かしら 。 必ず 片手 落 の ある の が 、 わかり切って いる 、 所詮 ( しょせん )、 人間 に 訴える の は 無駄である 、 自分 は やはり 、 本当の 事 は 何も 言わ ず 、 忍んで 、 そうして お 道化 を つづけて いる より 他 、 無い 気持 な のでした 。 なんだ 、 人間 へ の 不信 を 言って いる の か ? へえ ? お前 は いつ クリスチャン に なった ん だい 、 と 嘲笑 ( ちょうしょう ) する 人 も 或いは ある かも 知れません が 、 しかし 、 人間 へ の 不信 は 、 必ずしも すぐに 宗教 の 道 に 通じて いる と は 限ら ない と 、 自分 に は 思わ れる のです けど 。 現に その 嘲笑 する 人 を も 含めて 、 人間 は 、 お互い の 不信 の 中 で 、 エホバ も 何も 念頭 に 置か ず 、 平気で 生きて いる では ありません か 。 やはり 、 自分 の 幼少 の 頃 の 事 で ありました が 、 父 の 属して いた 或る 政党 の 有名 人 が 、 この 町 に 演説 に 来て 、 自分 は 下 男 たち に 連れられて 劇場 に 聞き に 行きました 。 満員 で 、 そうして 、 この 町 の 特に 父 と 親しく して いる 人 たち の 顔 は 皆 、 見えて 、 大いに 拍手 など して いました 。 演説 が すんで 、 聴衆 は 雪 の 夜道 を 三々五々 かたまって 家路 に 就き 、 クソ ミソ に 今夜 の 演説 会 の 悪 口 を 言って いる のでした 。 中 に は 、 父 と 特に 親しい 人 の 声 も まじって いました 。 父 の 開会 の 辞 も 下手 、 れいの 有名 人 の 演説 も 何 が 何やら 、 わけ が わから ぬ 、 と その 所 謂父 の 「 同志 たち 」 が 怒声 に 似た 口調 で 言って いる のです 。 そうして その ひと たち は 、 自分 の 家 に 立ち寄って 客間 に 上り 込み 、 今夜 の 演説 会 は 大 成功 だった と 、 しん から 嬉し そうな 顔 を して 父 に 言って いました 。 下 男 たち まで 、 今夜 の 演説 会 は どう だった と 母 に 聞か れ 、 とても 面白かった 、 と 言って けろりと して いる のです 。 演説 会 ほど 面白く ない もの は ない 、 と 帰る 途 々 ( みちみち )、 下 男 たち が 嘆き 合って いた のです 。 しかし 、 こんな の は 、 ほんの ささやかな 一例 に 過ぎません 。 互いに あざむき 合って 、 しかも いずれ も 不思議に 何の 傷 も つか ず 、 あざむき 合って いる 事 に さえ 気 が ついて いない みたいな 、 実に あざやかな 、 それ こそ 清く 明るく ほがらかな 不信 の 例 が 、 人間 の 生活 に 充満 して いる ように 思わ れます 。 けれども 、 自分 に は 、 あざむき 合って いる と いう 事 に は 、 さして 特別の 興味 も ありません 。 自分 だって 、 お 道化 に 依って 、 朝 から 晩 まで 人間 を あざむいて いる のです 。 自分 は 、 修身 教科 書 的な 正義 と か 何とか いう 道徳 に は 、 あまり 関心 を 持て ない のです 。 自分 に は 、 あざむき 合って い ながら 、 清く 明るく 朗らかに 生きて いる 、 或いは 生き 得る 自信 を 持って いる みたいな 人間 が 難解な のです 。 人間 は 、 ついに 自分 に その 妙 諦 ( みょう てい ) を 教えて は くれません でした 。 それ さえ わかったら 、 自分 は 、 人間 を こんなに 恐怖 し 、 また 、 必死の サーヴィス など し なくて 、 すんだ のでしょう 。 人間 の 生活 と 対立 して しまって 、 夜 々 の 地獄 の これ ほど の 苦し み を 嘗 ( な ) め ず に すんだ のでしょう 。 つまり 、 自分 が 下 男 下 女 たち の 憎む べき あの 犯罪 を さえ 、 誰 に も 訴え なかった の は 、 人間 へ の 不信 から で は なく 、 また 勿論 クリスト 主義 の ため でも なく 、 人間 が 、 葉 蔵 と いう 自分 に 対して 信用 の 殻 を 固く 閉じて いた から だった と 思います 。 父母 で さえ 、 自分 に とって 難解な もの を 、 時折 、 見せる 事 が あった のです から 。 そうして 、 その 、 誰 に も 訴え ない 、 自分 の 孤独 の 匂い が 、 多く の 女性 に 、 本能 に 依って 嗅 ( か ) ぎ 当てられ 、 後年 さまざま 、 自分 が つけ込ま れる 誘因 の 一 つ に なった ような 気 も する のです 。 つまり 、 自分 は 、 女性 に とって 、 恋 の 秘密 を 守れる 男 であった と いう わけな のでした 。


人間 失格 2/15 にんげん|しっかく Menschliche Disqualifikation 2/15. Human Disqualification 2/15 Descalificación humana 2/15. Squalifica umana 2/15. Desqualificação humana 2/15.

自分 の 父 は 、 東京 に 用事 の 多い ひと でした ので 、 上野 の 桜木 町 に 別荘 を 持って いて 、 月 の 大半 は 東京 の その 別荘 で 暮して いました 。 じぶん||ちち||とうきょう||ようじ||おおい||||うえの||さくらぎ|まち||べっそう||もって||つき||たいはん||とうきょう|||べっそう||くらして|い ました My father had a lot of business in Tokyo, so he had a villa in Sakuragicho, Ueno, and lived most of the month in that villa in Tokyo. そうして 帰る 時 に は 家族 の 者 たち 、 また 親戚 ( しんせき ) の 者 たち に まで 、 実に おびただしく お土産 を 買って 来る の が 、 まあ 、 父 の 趣味 みたいな もの でした 。 |かえる|じ|||かぞく||もの|||しんせき|||もの||||じつに||おみやげ||かって|くる||||ちち||しゅみ||| Then, when I returned, it was like my father's hobby to buy souvenirs in abundance, even to my family members and relatives. いつか の 父 の 上京 の 前夜 、 父 は 子供 たち を 客間 に 集め 、 こんど 帰る 時 に は 、 どんな お土産 が いい か 、 一 人 々々 に 笑い ながら 尋ね 、 それ に 対する 子供 たち の 答 を いちいち 手帖 ( てちょう ) に 書きとめる のでした 。 ||ちち||じょうきょう||ぜんや|ちち||こども|||きゃくま||あつめ||かえる|じ||||おみやげ||||ひと|じん|||わらい||たずね|||たいする|こども|||こたえ|||てちょう|||かきとめる| On the eve of some father's trip to Tokyo, the father gathered the children in the guest room, and when he was coming home, he asked each one laughing, what kind of souvenir he should have, and asked each of the children their answers. I wrote it down. 父 が 、 こんなに 子供 たち と 親しく する の は 、 めずらしい 事 でした 。 ちち|||こども|||したしく|||||こと| It was rare for my father to be so close to my children. 「 葉 蔵 は ? は|くら| "What about Hazo? 」 と 聞かれて 、 自分 は 、 口ごもって しまいました 。 |きか れて|じぶん||くちごもって|しまい ました I was confused. 何 が 欲しい と 聞か れる と 、 とたん に 、 何も 欲しく なく なる のでした 。 なん||ほしい||きか|||||なにも|ほしく||| As soon as I was asked what I wanted, I soon stopped wanting anything. どうでも いい 、 どうせ 自分 を 楽しく さ せて くれる もの なんか 無い んだ と いう 思い が 、 ちら と 動く のです 。 |||じぶん||たのしく||||||ない||||おもい||||うごく| It doesn't matter, I feel that there isn't anything that makes me happy, but it works. と 、 同時に 、 人 から 与えられる もの を 、 どんなに 自分 の 好み に 合わ なくて も 、 それ を 拒む 事 も 出来ません でした 。 |どうじに|じん||あたえ られる||||じぶん||よしみ||あわ|||||こばむ|こと||でき ませ ん| At the same time, I could not refuse what people gave me, no matter how I wanted it to be. イヤな 事 を 、 イヤ と 言え ず 、 また 、 好きな 事 も 、 おずおず と 盗む ように 、 極めて にがく 味 ( あじわ ) い 、 そうして 言い 知れ ぬ 恐怖 感 に もだえる のでした 。 いやな|こと||いや||いえ|||すきな|こと||||ぬすむ||きわめて||あじ||||いい|しれ||きょうふ|かん||| I couldn't say that I didn't like it, and I couldn't say that I liked it, and that I could steal my favorite things, and I could feel an indescribable fear. つまり 、 自分 に は 、 二 者 選一 の 力 さえ 無かった のです 。 |じぶん|||ふた|もの|せんいつ||ちから||なかった| In other words, I didn't even have the power to choose between the two. これ が 、 後年 に 到 り 、 いよいよ 自分 の 所 謂 「 恥 の 多い 生涯 」 の 、 重大な 原因 と も なる 性癖 の 一 つ だった ように 思わ れます 。 ||こうねん||とう|||じぶん||しょ|い|はじ||おおい|しょうがい||じゅうだいな|げんいん||||せいへき||ひと||||おもわ|れ ます This seems to have been one of the propensity for my so-called “shameful life” to become a serious cause in my later years. 自分 が 黙って 、 もじもじ して いる ので 、 父 は ちょっと 不機嫌な 顔 に なり 、「 やはり 、 本 か 。 じぶん||だまって|||||ちち|||ふきげんな|かお||||ほん| Since I was silent and muddy, my father had a slightly displeased face and asked, "Are they books? 浅草 の 仲 店 に お 正月 の 獅子舞 い の お 獅子 、 子供 が かぶって 遊ぶ の に は 手頃な 大き さ の が 売って いた けど 、 欲しく ない か 」 欲しく ない か 、 と 言わ れる と 、 もう ダメな んです 。 あさくさ||なか|てん|||しょうがつ||ししまい||||しし|こども|||あそぶ||||てごろな|おおき||||うって|||ほしく|||ほしく||||いわ||||だめな| I found a reasonably sized lion for the New Year's lion dance at a middle store in Asakusa, but I was asked if I wanted one. お 道化 た 返事 も 何も 出来 や し ない んです 。 |どうけ||へんじ||なにも|でき|||| I can't even give you a clownish reply. お 道化 役者 は 、 完全に 落第 でした 。 |どうけ|やくしゃ||かんぜんに|らくだい| 「 本 が 、 いい でしょう 」 長兄 は 、 まじめな 顔 を して 言いました 。 ほん||||ちょうけい|||かお|||いい ました 「 そう か 」 父 は 、 興 覚め 顔 に 手帖 に 書きとめ も せ ず 、 パチ と 手帖 を 閉じました 。 ||ちち||きょう|さめ|かお||てちょう||かきとめ||||||てちょう||とじ ました 何という 失敗 、 自分 は 父 を 怒ら せた 、 父 の 復讐 ( ふくしゅう ) は 、 きっと 、 おそるべき もの に 違いない 、 いま の うち に 何とか して 取りかえし の つか ぬ もの か 、 と その 夜 、 蒲 団 の 中 で がたがた 震え ながら 考え 、 そっと 起きて 客間 に 行き 、 父 が 先刻 、 手帖 を しまい 込んだ 筈 の 机 の 引き出し を あけて 、 手帖 を 取り上げ 、 パラパラ めくって 、 お土産 の 注文 記入 の 個所 を 見つけ 、 手帖 の 鉛筆 を なめて 、 シシマイ 、 と 書いて 寝ました 。 なんという|しっぱい|じぶん||ちち||いから||ちち||ふくしゅう|||||||ちがいない|||||なんとか||とりかえし||||||||よ|がま|だん||なか|||ふるえ||かんがえ||おきて|きゃくま||いき|ちち||せんこく|てちょう|||こんだ|はず||つくえ||ひきだし|||てちょう||とりあげ|ぱらぱら||おみやげ||ちゅうもん|きにゅう||かしょ||みつけ|てちょう||えんぴつ|||しし まい||かいて|ね ました I thought to myself, "What a mistake, I have offended my father, his revenge must be terrible, and I must do something to make up for it while I still can. I picked up the notebook, flipped through it, found the place to fill in the souvenir order, licked the pencil on the notebook, wrote "Shishimai," and went to bed. 自分 は その 獅子舞 い の お 獅子 を 、 ちっとも 欲しく は 無かった のです 。 じぶん|||ししまい||||しし|||ほしく||なかった| かえって 、 本 の ほう が いい くらい でした 。 |ほん|||||| けれども 、 自分 は 、 父 が その お 獅子 を 自分 に 買って 与えたい のだ と いう 事 に 気 が つき 、 父 の その 意向 に 迎合 して 、 父 の 機嫌 を 直したい ばかりに 、 深夜 、 客間 に 忍び込む と いう 冒険 を 、 敢えて おかした のでした 。 |じぶん||ちち||||しし||じぶん||かって|あたえ たい||||こと||き|||ちち|||いこう||げいごう||ちち||きげん||なおし たい||しんや|きゃくま||しのびこむ|||ぼうけん||あえて|| そうして 、 この 自分 の 非 常の 手段 は 、 果して 思いどおりの 大 成功 を 以 て 報いられました 。 ||じぶん||ひ|とわの|しゅだん||はたして|おもいどおりの|だい|せいこう||い||むくい られ ました やがて 、 父 は 東京 から 帰って 来て 、 母 に 大声 で 言って いる の を 、 自分 は 子供 部屋 で 聞いて いました 。 |ちち||とうきょう||かえって|きて|はは||おおごえ||いって||||じぶん||こども|へや||きいて|い ました 「 仲 店 の おもちゃ 屋 で 、 この 手帖 を 開いて みたら 、 これ 、 ここ に 、 シシマイ 、 と 書いて ある 。 なか|てん|||や|||てちょう||あいて|||||しし まい||かいて| これ は 、 私 の 字 で は ない 。 ||わたくし||あざ||| はて な ? What is it? と 首 を かしげて 、 思い当りました 。 |くび|||おもいあたり ました これ は 、 葉 蔵 の いたずらです よ 。 ||は|くら||| あいつ は 、 私 が 聞いた 時 に は 、 に や にやして 黙って いた が 、 あと で 、 どうしても お 獅子 が 欲しくて たまらなく なった んだ ね 。 ||わたくし||きいた|じ||||||だまって|||||||しし||ほしくて|||| 何せ 、 どうも 、 あれ は 、 変った 坊主 です から ね 。 なにせ||||かわった|ぼうず||| After all, thanks, he is a strange monk. 知らん振り して 、 ちゃんと 書いて いる 。 しらんふり|||かいて| そんなに 欲しかった の なら 、 そう 言えば よい のに 。 |ほしかった||||いえば|| 私 は 、 おもちゃ 屋 の 店先 で 笑いました よ 。 わたくし|||や||みせさき||わらい ました| 葉 蔵 を 早く ここ へ 呼び なさい 」 また 一方 、 自分 は 、 下 男 や 下 女 たち を 洋室 に 集めて 、 下 男 の ひと り に 滅 茶 苦 茶 ( めちゃくちゃ ) に ピアノ の キイ を たたか せ 、( 田舎 で は ありました が 、 その 家 に は 、たいてい の もの が 、 そろって いました ) 自分 は その 出 鱈 目 ( でたらめ ) の 曲 に 合せて 、 インデヤン の 踊り を 踊って 見せて 、 皆 を 大笑い さ せました 。 は|くら||はやく|||よび|||いっぽう|じぶん||した|おとこ||した|おんな|||ようしつ||あつめて|した|おとこ|||||めつ|ちゃ|く|ちゃ|||ぴあの||きい||たた か||いなか|||あり ました|||いえ||||||||い ました|じぶん|||だ|たら|め|||きょく||あわせて|||おどり||おどって|みせて|みな||おおわらい||せま した Follow me." On the other hand, I gathered the servants and women in the western room and had one of them beat the piano to death (even though it was in the countryside, the house had everything in place) to a bullshit tune, I showed them the dance of the Indians to the tune of a silly song, which made them all laugh out loud. 次兄 は 、 フラッシュ を 焚 ( た ) いて 、 自分 の インデヤン 踊り を 撮影 して 、 その 写真 が 出来た の を 見る と 、 自分 の 腰 布 ( それ は 更紗 ( さらさ ) の 風呂敷 でした ) の 合せ 目 から 、 小さい お チンポ が 見えて いた ので 、 これ が また 家中 の 大笑い でした 。 じけい||ふらっしゅ||ふん|||じぶん|||おどり||さつえい|||しゃしん||できた|||みる||じぶん||こし|ぬの|||さらさ|||ふろしき|||あわせ|め||ちいさい||||みえて||||||うちじゅう||おおわらい| 自分 に とって 、 これ また 意外の 成功 と いう べき もの だった かも 知れません 。 じぶん|||||いがいの|せいこう|||||||しれ ませ ん 自分 は 毎月 、 新刊 の 少年 雑誌 を 十 冊 以上 も 、 とって いて 、 また その他 ( ほか ) に も 、 さまざまの 本 を 東京 から 取り寄せて 黙って 読んで いました ので 、 メチャラクチャラ 博士 だの 、 また 、 ナンジャモンジャ 博士 など と は 、たいへんな 馴染 ( なじみ ) で 、 また 、 怪談 、 講談 、 落語 、 江戸 小咄 ( こばなし ) など の 類 に も 、 かなり 通じて いました から 、 剽軽 ( ひょうきん ) な 事 を まじめな 顔 を して 言って 、 家 の 者 たち を 笑わ せる の に は 事 を 欠きません でした 。 じぶん||まいつき|しんかん||しょうねん|ざっし||じゅう|さつ|いじょう|||||そのほか|||||ほん||とうきょう||とりよせて|だまって|よんで|い ました|||はかせ||||はかせ|||||なじみ||||かいだん|こうだん|らくご|えど|こばなし||||るい||||つうじて|い ました||ひょうきん|||こと|||かお|||いって|いえ||もの|||わらわ|||||こと||かき ませ ん| しかし 、 嗚呼 ( ああ )、 学校 ! |ああ||がっこう 自分 は 、 そこ で は 、 尊敬 さ れ かけて いた のです 。 じぶん|||||そんけい||||| I was almost respected there. 尊敬 さ れる と いう 観念 も また 、 甚 ( はな は ) だ 自分 を 、 おびえ させました 。 そんけい|||||かんねん|||じん||||じぶん|||さ せ ました ほとんど 完全に 近く 人 を だまして 、 そうして 、 或る ひと り の 全知全能 の 者 に 見破ら れ 、 木っ葉 みじん に やられて 、 死 ぬる 以上 の 赤 恥 を かかせられる 、 それ が 、「 尊敬 さ れる 」 と いう 状態 の 自分 の 定義 で ありました 。 |かんぜんに|ちかく|じん||||ある||||ぜんちぜんのう||もの||みやぶら||き っ は||||し||いじょう||あか|はじ||かかせ られる|||そんけい|||||じょうたい||じぶん||ていぎ||あり ました To deceive someone in the neighborhood almost completely, to be discovered by some omniscient being, to be reduced to dust, and to be humiliated beyond death, was my definition of being "respected. 人間 を だまして 、「 尊敬 さ れ 」 て も 、 誰 か ひと り が 知っている 、 そうして 、 人間 たち も 、 やがて 、 その ひと り から 教えられて 、 だまさ れた 事 に 気づいた 時 、 その 時 の 人間 たち の 怒り 、 復讐 は 、 いったい 、 まあ 、 どんなでしょう か 。 にんげん|||そんけい|||||だれ|||||しっている||にんげん||||||||おしえ られて|||こと||きづいた|じ||じ||にんげん|||いかり|ふくしゅう||||| 想像 して さえ 、 身 の 毛 が よだつ 心地 が する のです 。 そうぞう|||み||け|||ここち||| 自分 は 、 金持ち の 家 に 生れた と いう 事 より も 、 俗に いう 「 できる 」 事 に 依って 、 学校 中 の 尊敬 を 得 そうに なりました 。 じぶん||かねもち||いえ||うまれた|||こと|||ぞくに|||こと||よって|がっこう|なか||そんけい||とく|そう に|なり ました 自分 は 、 子供 の 頃 から 病弱で 、 よく 一 つき 二 つき 、 また 一 学年 ちかく も 寝込んで 学校 を 休んだ 事 さえ あった のです が 、 それ でも 、 病み 上り の から だ で 人力車 に 乗って 学校 へ 行き 、 学年 末 の 試験 を 受けて みる と 、 クラス の 誰 より も 所 謂 「 できて 」 いる ようでした 。 じぶん||こども||ころ||びょうじゃくで||ひと||ふた|||ひと|がくねん|||ねこんで|がっこう||やすんだ|こと|||||||やみ|のぼり|||||じんりきしゃ||のって|がっこう||いき|がくねん|すえ||しけん||うけて|||くらす||だれ|||しょ|い||| I was sickly as a child and often missed a day or two of school or even a whole school year because I fell asleep, but even so, when I rode a rickshaw to school on my sick body and took the end-of-year exam, I seemed to do better than anyone else in my class. からだ 具合 い の よい 時 でも 、 自分 は 、 さっぱり 勉強 せ ず 、 学校 へ 行って も 授業 時間 に 漫画 など を 書き 、 休憩 時間 に は それ を クラス の 者 たち に 説明 して 聞か せて 、 笑わ せて やりました 。 |ぐあい||||じ||じぶん|||べんきょう|||がっこう||おこなって||じゅぎょう|じかん||まんが|||かき|きゅうけい|じかん|||||くらす||もの|||せつめい||きか||わらわ||やり ました また 、 綴り 方 に は 、 滑稽 噺 ( こっけい ば なし ) ばかり 書き 、 先生 から 注意 されて も 、 しかし 、 自分 は 、 やめません でした 。 |つづり|かた|||こっけい|はなし|||||かき|せんせい||ちゅうい|さ れて|||じぶん||やめ ませ ん| 先生 は 、 実は こっそり 自分 の その 滑稽 噺 を 楽しみに して いる 事 を 自分 は 、 知っていた から でした 。 せんせい||じつは||じぶん|||こっけい|はなし||たのしみに|||こと||じぶん||しっていた|| 或る 日 、 自分 は 、 れい に 依って 、 自分 が 母 に 連れられて 上京 の 途中 の 汽車 で 、 おしっこ を 客車 の 通路 に ある 痰 壺 ( たん つぼ ) に して しまった 失敗 談 ( しかし 、 その 上京 の 時 に 、 自分 は 痰 壺 と 知ら ず に した の では ありません でした 。 ある|ひ|じぶん||||よって|じぶん||はは||つれ られて|じょうきょう||とちゅう||きしゃ||おし っこ||きゃくしゃ||つうろ|||たん|つぼ||||||しっぱい|だん|||じょうきょう||じ||じぶん||たん|つぼ||しら||||||あり ませ ん| 子供 の 無邪気 を てらって 、 わざと 、 そうした の でした ) を 、 ことさら に 悲し そうな 筆 致 で 書いて 提出 し 、 先生 は 、 きっと 笑う と いう 自信 が ありました ので 、 職員 室 に 引き揚げて 行く 先生 の あと を 、 そっと つけて 行きましたら 、 先生 は 、 教室 を 出る と すぐ 、 自分 の その 綴り 方 を 、 他の クラス の 者 たち の 綴り 方 の 中 から 選び 出し 、 廊下 を 歩き ながら 読み はじめて 、 クスクス 笑い 、 やがて 職員 室 に は いって 読み 終えた の か 、 顔 を 真 赤 に して 大声 を 挙げて 笑い 、 他の 先生 に 、 さっそく それ を 読ま せて いる の を 見とどけ 、 自分 は 、たいへん 満足でした 。 こども||むじゃき||てら って||||||||かなし|そう な|ふで|いた||かいて|ていしゅつ||せんせい|||わらう|||じしん||あり ました||しょくいん|しつ||ひきあげて|いく|せんせい||||||いき ましたら|せんせい||きょうしつ||でる|||じぶん|||つづり|かた||たの|くらす||もの|||つづり|かた||なか||えらび|だし|ろうか||あるき||よみ||くすくす|わらい||しょくいん|しつ||||よみ|おえた|||かお||まこと|あか|||おおごえ||あげて|わらい|たの|せんせい|||||よま|||||みとどけ|じぶん|||まんぞくでした お 茶目 。 |ちゃめ 自分 は 、 所 謂 お 茶目に 見られる 事 に 成功 しました 。 じぶん||しょ|い||ちゃめに|み られる|こと||せいこう|し ました 尊敬 さ れる 事 から 、 のがれる 事 に 成功 しました 。 そんけい|||こと|||こと||せいこう|し ました 通信 簿 は 全 学科 と も 十 点 でした が 、 操 行 と いう もの だけ は 、 七 点 だったり 、 六 点 だったり して 、 それ も また 家中 の 大笑い の 種 でした 。 つうしん|ぼ||ぜん|がっか|||じゅう|てん|||みさお|ぎょう||||||なな|てん||むっ|てん||||||うちじゅう||おおわらい||しゅ| けれども 自分 の 本性 は 、 そんな お茶 目 さん など と は 、 凡 ( およ ) そ 対 蹠 (たいせき ) 的な もの でした 。 |じぶん||ほんしょう|||おちゃ|め|||||ぼん|||たい|せき||てきな|| その頃 、 既に 自分 は 、 女 中 や 下 男 から 、 哀 ( かな ) しい 事 を 教えられ 、 犯されて いました 。 そのころ|すでに|じぶん||おんな|なか||した|おとこ||あい|||こと||おしえ られ|おかさ れて|い ました 幼少 の 者 に 対して 、 そのような 事 を 行う の は 、 人間 の 行い 得る 犯罪 の 中 で 最も 醜悪で 下等で 、 残酷な 犯罪 だ と 、 自分 は いまでは 思って います 。 ようしょう||もの||たいして||こと||おこなう|||にんげん||おこない|える|はんざい||なか||もっとも|しゅうあくで|かとうで|ざんこくな|はんざい|||じぶん|||おもって|い ます しかし 、 自分 は 、 忍びました 。 |じぶん||しのび ました これ で また 一 つ 、 人間 の 特質 を 見た と いう ような 気持 さえ して 、 そうして 、 力無く 笑って いました 。 |||ひと||にんげん||とくしつ||みた||||きもち||||ちからなく|わらって|い ました もし 自分 に 、 本当の 事 を 言う 習慣 が ついて いた なら 、 悪びれ ず 、 彼等 の 犯罪 を 父 や 母 に 訴える 事 が 出来た の かも 知れません が 、 しかし 、 自分 は 、 その 父 や 母 を も 全部 は 理解 する 事 が 出来 なかった のです 。 |じぶん||ほんとうの|こと||いう|しゅうかん|||||わるびれ||かれら||はんざい||ちち||はは||うったえる|こと||できた|||しれ ませ ん|||じぶん|||ちち||はは|||ぜんぶ||りかい||こと||でき|| 人間 に 訴える 、 自分 は 、 その 手段 に は 少しも 期待 できません でした 。 にんげん||うったえる|じぶん|||しゅだん|||すこしも|きたい|でき ませ ん| 父 に 訴えて も 、 母 に 訴えて も 、 お 巡 ( まわ ) り に 訴えて も 、 政府 に 訴えて も 、 結局 は 世渡り に 強い 人 の 、 世間 に 通り の いい 言い ぶん に 言いまくら れる だけ の 事 で は 無い かしら 。 ちち||うったえて||はは||うったえて|||めぐり||||うったえて||せいふ||うったえて||けっきょく||よわたり||つよい|じん||せけん||とおり|||いい|||いいまくら||||こと|||ない| 必ず 片手 落 の ある の が 、 わかり切って いる 、 所詮 ( しょせん )、 人間 に 訴える の は 無駄である 、 自分 は やはり 、 本当の 事 は 何も 言わ ず 、 忍んで 、 そうして お 道化 を つづけて いる より 他 、 無い 気持 な のでした 。 かならず|かたて|おと|||||わかりきって||しょせん||にんげん||うったえる|||むだである|じぶん|||ほんとうの|こと||なにも|いわ||しのんで|||どうけ|||||た|ない|きもち|| なんだ 、 人間 へ の 不信 を 言って いる の か ? |にんげん|||ふしん||いって||| へえ ? お前 は いつ クリスチャン に なった ん だい 、 と 嘲笑 ( ちょうしょう ) する 人 も 或いは ある かも 知れません が 、 しかし 、 人間 へ の 不信 は 、 必ずしも すぐに 宗教 の 道 に 通じて いる と は 限ら ない と 、 自分 に は 思わ れる のです けど 。 おまえ|||くりすちゃん||||||ちょうしょう|||じん||あるいは|||しれ ませ ん|||にんげん|||ふしん||かならずしも||しゅうきょう||どう||つうじて||||かぎら|||じぶん|||おもわ||| 現に その 嘲笑 する 人 を も 含めて 、 人間 は 、 お互い の 不信 の 中 で 、 エホバ も 何も 念頭 に 置か ず 、 平気で 生きて いる では ありません か 。 げんに||ちょうしょう||じん|||ふくめて|にんげん||おたがい||ふしん||なか||||なにも|ねんとう||おか||へいきで|いきて|||あり ませ ん| やはり 、 自分 の 幼少 の 頃 の 事 で ありました が 、 父 の 属して いた 或る 政党 の 有名 人 が 、 この 町 に 演説 に 来て 、 自分 は 下 男 たち に 連れられて 劇場 に 聞き に 行きました 。 |じぶん||ようしょう||ころ||こと||あり ました||ちち||ぞくして||ある|せいとう||ゆうめい|じん|||まち||えんぜつ||きて|じぶん||した|おとこ|||つれ られて|げきじょう||きき||いき ました 満員 で 、 そうして 、 この 町 の 特に 父 と 親しく して いる 人 たち の 顔 は 皆 、 見えて 、 大いに 拍手 など して いました 。 まんいん||||まち||とくに|ちち||したしく|||じん|||かお||みな|みえて|おおいに|はくしゅ|||い ました 演説 が すんで 、 聴衆 は 雪 の 夜道 を 三々五々 かたまって 家路 に 就き 、 クソ ミソ に 今夜 の 演説 会 の 悪 口 を 言って いる のでした 。 えんぜつ|||ちょうしゅう||ゆき||よみち||さんさんごご||いえじ||つき|くそ|みそ||こんや||えんぜつ|かい||あく|くち||いって|| 中 に は 、 父 と 特に 親しい 人 の 声 も まじって いました 。 なか|||ちち||とくに|したしい|じん||こえ|||い ました 父 の 開会 の 辞 も 下手 、 れいの 有名 人 の 演説 も 何 が 何やら 、 わけ が わから ぬ 、 と その 所 謂父 の 「 同志 たち 」 が 怒声 に 似た 口調 で 言って いる のです 。 ちち||かいかい||じ||へた||ゆうめい|じん||えんぜつ||なん||なにやら|||||||しょ|いちち||どうし|||どせい||にた|くちょう||いって|| そうして その ひと たち は 、 自分 の 家 に 立ち寄って 客間 に 上り 込み 、 今夜 の 演説 会 は 大 成功 だった と 、 しん から 嬉し そうな 顔 を して 父 に 言って いました 。 |||||じぶん||いえ||たちよって|きゃくま||のぼり|こみ|こんや||えんぜつ|かい||だい|せいこう|||||うれし|そう な|かお|||ちち||いって|い ました 下 男 たち まで 、 今夜 の 演説 会 は どう だった と 母 に 聞か れ 、 とても 面白かった 、 と 言って けろりと して いる のです 。 した|おとこ|||こんや||えんぜつ|かい|||||はは||きか|||おもしろかった||いって|||| 演説 会 ほど 面白く ない もの は ない 、 と 帰る 途 々 ( みちみち )、 下 男 たち が 嘆き 合って いた のです 。 えんぜつ|かい||おもしろく||||||かえる|と|||した|おとこ|||なげき|あって|| しかし 、 こんな の は 、 ほんの ささやかな 一例 に 過ぎません 。 ||||||いちれい||すぎ ませ ん 互いに あざむき 合って 、 しかも いずれ も 不思議に 何の 傷 も つか ず 、 あざむき 合って いる 事 に さえ 気 が ついて いない みたいな 、 実に あざやかな 、 それ こそ 清く 明るく ほがらかな 不信 の 例 が 、 人間 の 生活 に 充満 して いる ように 思わ れます 。 たがいに||あって||||ふしぎに|なんの|きず|||||あって||こと|||き|||||じつに||||きよく|あかるく||ふしん||れい||にんげん||せいかつ||じゅうまん||||おもわ|れ ます けれども 、 自分 に は 、 あざむき 合って いる と いう 事 に は 、 さして 特別の 興味 も ありません 。 |じぶん||||あって||||こと||||とくべつの|きょうみ||あり ませ ん 自分 だって 、 お 道化 に 依って 、 朝 から 晩 まで 人間 を あざむいて いる のです 。 じぶん|||どうけ||よって|あさ||ばん||にんげん|||| 自分 は 、 修身 教科 書 的な 正義 と か 何とか いう 道徳 に は 、 あまり 関心 を 持て ない のです 。 じぶん||しゅうしん|きょうか|しょ|てきな|せいぎ|||なんとか||どうとく||||かんしん||もて|| 自分 に は 、 あざむき 合って い ながら 、 清く 明るく 朗らかに 生きて いる 、 或いは 生き 得る 自信 を 持って いる みたいな 人間 が 難解な のです 。 じぶん||||あって|||きよく|あかるく|ほがらかに|いきて||あるいは|いき|える|じしん||もって|||にんげん||なんかいな| 人間 は 、 ついに 自分 に その 妙 諦 ( みょう てい ) を 教えて は くれません でした 。 にんげん|||じぶん|||たえ|てい||||おしえて||くれ ませ ん| それ さえ わかったら 、 自分 は 、 人間 を こんなに 恐怖 し 、 また 、 必死の サーヴィス など し なくて 、 すんだ のでしょう 。 |||じぶん||にんげん|||きょうふ|||ひっしの|||||| 人間 の 生活 と 対立 して しまって 、 夜 々 の 地獄 の これ ほど の 苦し み を 嘗 ( な ) め ず に すんだ のでしょう 。 にんげん||せいかつ||たいりつ|||よ|||じごく|||||にがし|||しょう|||||| つまり 、 自分 が 下 男 下 女 たち の 憎む べき あの 犯罪 を さえ 、 誰 に も 訴え なかった の は 、 人間 へ の 不信 から で は なく 、 また 勿論 クリスト 主義 の ため でも なく 、 人間 が 、 葉 蔵 と いう 自分 に 対して 信用 の 殻 を 固く 閉じて いた から だった と 思います 。 |じぶん||した|おとこ|した|おんな|||にくむ|||はんざい|||だれ|||うったえ||||にんげん|||ふしん||||||もちろん||しゅぎ|||||にんげん||は|くら|||じぶん||たいして|しんよう||から||かたく|とじて|||||おもい ます 父母 で さえ 、 自分 に とって 難解な もの を 、 時折 、 見せる 事 が あった のです から 。 ふぼ|||じぶん|||なんかいな|||ときおり|みせる|こと|||| そうして 、 その 、 誰 に も 訴え ない 、 自分 の 孤独 の 匂い が 、 多く の 女性 に 、 本能 に 依って 嗅 ( か ) ぎ 当てられ 、 後年 さまざま 、 自分 が つけ込ま れる 誘因 の 一 つ に なった ような 気 も する のです 。 ||だれ|||うったえ||じぶん||こどく||におい||おおく||じょせい||ほんのう||よって|か|||あてられ|こうねん||じぶん||つけこま||ゆういん||ひと|||||き||| つまり 、 自分 は 、 女性 に とって 、 恋 の 秘密 を 守れる 男 であった と いう わけな のでした 。 |じぶん||じょせい|||こい||ひみつ||まもれる|おとこ|||||