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人間失格, 人間 失格 1/15

人間 失格 1/15

人間 失格 太宰治

はしがき

私 は 、 その 男 の 写真 を 三葉 、 見た こと が ある 。 一葉 は 、 その 男 の 、 幼年 時代 、 と でも 言う べきであろう か 、 十歳 前後 かと 推定 さ れる 頃 の 写真 であって 、 その 子供 が 大勢 の 女 の ひと に 取りかこま れ 、( それ は 、 その 子供 の 姉 たち 、 妹 たち 、 それ から 、 従姉妹 ( いとこ ) たち か と 想像 さ れる ) 庭園 の 池 の ほとり に 、 荒い 縞 の 袴 ( はかま ) を はいて 立ち 、 首 を 三十 度 ほど 左 に 傾け 、 醜く 笑って いる 写真 である 。 醜く ? けれども 、 鈍い 人 たち ( つまり 、 美醜 など に 関心 を 持た ぬ 人 たち ) は 、 面白く も 何とも 無い ような 顔 を して 、 「 可愛い 坊ちゃん です ね 」 といい 加減な お 世辞 を 言って も 、 まんざら 空 ( から ) お 世辞 に 聞え ない くらい の 、 謂 ( い ) わ ば 通俗 の 「 可愛らし さ 」 みたいな 影 も その 子供 の 笑顔 に 無い わけで は ない のだ が 、 しかし 、 いささか でも 、 美醜 に 就いて の 訓練 を 経て 来た ひと なら 、 ひとめ 見て すぐ 、 「 なんて 、 いやな 子供 だ 」 と 頗 ( す こぶ ) る 不快 そうに 呟 ( つぶ や ) き 、 毛虫 でも 払いのける 時 の ような 手つき で 、 その 写真 を ほうり投げる かも知れない 。 まったく 、 その 子供 の 笑顔 は 、 よく 見れば 見る ほど 、 何とも 知れ ず 、 イヤな 薄気味悪い もの が 感ぜ られて 来る 。 どだい 、 それ は 、 笑顔 で ない 。 この 子 は 、 少し も 笑って は い ない のだ 。 その 証拠 に は 、 この 子 は 、 両方 の こぶし を 固く 握って 立って いる 。 人間 は 、 こぶし を 固く 握り ながら 笑える もの で は 無い のである 。 猿 だ 。 猿 の 笑顔 だ 。 ただ 、 顔 に 醜い 皺 ( しわ ) を 寄せて いる だけ な のである 。 「 皺 く ちゃ 坊ちゃん 」 と でも 言い たく なる くらい の 、 まことに 奇妙な 、 そうして 、 どこ か けがらわしく 、 へんに ひと を ムカムカ さ せる 表情 の 写真 であった 。 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 表情 の 子供 を 見た 事 が 、 いち ども 無かった 。 第 二葉 の 写真 の 顔 は 、 これ は また 、 びっくり する くらい ひどく 変貌 ( へんぼう ) して いた 。 学生 の 姿 である 。 高等 学校 時代 の 写真 か 、 大学 時代 の 写真 か 、 はっきり し ない けれども 、 とにかく 、 おそろしく 美貌 の 学生 である 。 しかし 、 これ も また 、 不思議に も 、 生きて いる 人間 の 感じ は し なかった 。 学生 服 を 着て 、 胸 の ポケット から 白い ハンケチ を 覗 ( の ぞ ) か せ 、 籐椅子 ( とう いす ) に 腰かけて 足 を 組み 、 そうして 、 やはり 、 笑って いる 。 こんど の 笑顔 は 、 皺 く ちゃ の 猿 の 笑い で なく 、 かなり 巧みな 微笑 に なって は いる が 、 しかし 、 人間 の 笑い と 、 どこ やら 違う 。 血 の 重 さ 、 と でも 言おう か 、 生命 ( いのち ) の 渋 さ 、 と でも 言おう か 、 そのような 充実 感 は 少しも 無く 、 それ こそ 、 鳥 の ようで は なく 、 羽毛 の ように 軽く 、 ただ 白紙 一 枚 、 そうして 、 笑って いる 。 つまり 、 一 から 十 まで 造り 物 の 感じ な のである 。 キザ と 言って も 足り ない 。 軽薄 と 言って も 足り ない 。 ニヤケ と 言って も 足り ない 。 おしゃれ と 言って も 、 もちろん 足り な い 。 しかも 、 よく 見て いる と 、 やはり この 美貌 の 学生 に も 、 どこ か 怪談 じみ た 気味 悪い もの が 感ぜ られて 来る のである 。 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 美貌 の 青 年 を 見た 事 が 、 いち ども 無かった 。 もう 一 葉 の 写真 は 、 最も 奇怪な もの である 。 まるで もう 、 とし の 頃 が わから ない 。 頭 は いくぶん 白髪 の ようである 。 それ が 、 ひどく 汚い 部屋 ( 部屋 の 壁 が 三 箇 所 ほど 崩れ落ちて いる の が 、 その 写真 に ハッキリ 写って いる ) の 片隅 で 、 小さい 火鉢 に 両手 を かざし 、 こんど は 笑って い ない 。 どんな 表情 も 無い 。 謂 わ ば 、 坐 っ て 火鉢 に 両手 を かざし ながら 、 自然に 死んで いる ような 、 まことに いまわしい 、 不吉な に おい の する 写真 であった 。 奇怪な の は 、 それ だけ で ない 。 その 写真 に は 、 わりに 顔 が 大きく 写って いた ので 、 私 は 、 つくづく その 顔 の 構造 を 調べる 事 が 出来た のである が 、 額 は 平凡 、 額 の 皺 も 平凡 、 眉 も 平凡 、 眼 も 平凡 、 鼻 も 口 も 顎 ( あご ) も 、 ああ 、 この 顔 に は 表情 が 無い ばかり か 、 印象 さえ 無い 。 特徴 が 無い のだ 。 たとえば 、 私 が この 写真 を 見て 、 眼 を つぶる 。 既に 私 は この 顔 を 忘れて いる 。 部屋 の 壁 や 、 小さい 火鉢 は 思い出す 事 が 出来る けれども 、 その 部屋 の 主人公 の 顔 の 印象 は 、 す っと 霧消して 、 どうしても 、 何と して も 思い出せ ない 。 画 に なら ない 顔 で あ る 。 漫画 に も 何も なら ない 顔 である 。 眼 を ひらく 。 あ 、 こんな 顔 だった の か 、 思い出した 、 と いう ような よろこび さえ 無い 。 極端な 言い 方 を すれば 、 眼 を ひらい て その 写真 を 再び 見て も 、 思い出せ ない 。 そうして 、 ただ もう 不愉快 、 イライラ して 、 つい 眼 を そむけ たく なる 。 所 謂 ( いわゆる )「 死 相 」 と いう もの に だって 、 もっと 何 か 表情 なり 印象 なり が ある もの だろう に 、 人間 の からだ に 駄馬 の 首 でも くっつけた なら 、 こんな 感じ の もの に なる であろう か 、 とにかく 、 どこ と いう 事 なく 、 見る 者 を して 、 ぞっと さ せ 、 いやな 気持 に さ せる のだ 。 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 男 の 顔 を 見た 事 が 、 やはり 、 いち ども 無かった 。

[# 改頁 ]

第 一 の 手記

恥 の 多い 生涯 を 送って 来 ました 。 自分 に は 、 人間 の 生活 と いう もの が 、 見当 つか ない のです 。 自分 は 東北 の 田舎 に 生れ ました ので 、 汽車 を はじめて 見た の は 、 よほど 大きく なって から でした 。 自分 は 停車場 の ブリッジ を 、 上って 、 降りて 、 そうして それ が 線路 を またぎ 越える ため に 造ら れた もの だ と いう 事 に は 全然 気づか ず 、 ただ それ は 停車場 の 構内 を 外国 の 遊 戯場 みたいに 、 複雑に 楽しく 、 ハイカラに する ため に のみ 、 設備 せ られて ある もの だ と ばかり 思って い ました 。 しかも 、 かなり 永い 間そう 思って いた の です 。 ブリッジ の 上ったり 降りたり は 、 自分 に は むしろ 、 ずいぶん 垢 抜 ( あか ぬ ) け の した 遊 戯 で 、 それ は 鉄道 の サーヴィス の 中 でも 、 最も 気 の きいた サーヴィス の 一 つ だ と 思って いた のです が 、 のち に それ は ただ 旅客 が 線路 を またぎ 越える ため の 頗 る 実利 的な 階段 に 過ぎ ない の を 発見 して 、 にわかに 興 が 覚め ました 。 また 、 自分 は 子供 の 頃 、 絵本 で 地下鉄 道 と いう もの を 見て 、 これ も やはり 、 実利 的な 必要 から 案 出せ られた もの で は なく 、 地上 の 車 に 乗る より は 、 地下 の 車 に 乗った ほう が 風がわりで 面白い 遊び だ から 、 と ばかり 思って い ました 。 自分 は 子供 の 頃 から 病弱で 、 よく 寝 込み ました が 、 寝 ながら 、 敷布 、 枕 の カヴァ 、 掛蒲団 の カヴァ を 、 つくづく 、 つまらない 装飾 だ と 思い 、 それ が 案外に 実用 品 だった 事 を 、 二十 歳 ちかく に なって わかって 、 人間 の つまし さ に 暗 然 と し 、 悲しい 思い を し ました 。 また 、 自分 は 、 空腹 と いう 事 を 知り ませ ん でした 。 いや 、 それ は 、 自分 が 衣食住 に 困ら ない 家 に 育った と いう 意味 で は なく 、 そんな 馬鹿な 意味 で は なく 、 自分 に は 「 空腹 」 と いう 感覚 は どんな もの だ か 、 さっぱり わから なかった のです 。 へんな 言い かた です が 、 おなか が 空いて いて も 、 自分 で それ に 気 が つか ない ので す 。 小学校 、 中学校 、 自分 が 学校 から 帰って 来る と 、 周囲 の 人 たち が 、 それ 、 おなか が 空いたろう 、 自分 たち に も 覚え が ある 、 学校 から 帰って 来た 時 の 空腹 は 全 く ひどい から な 、 甘 納豆 は どう ? カステラ も 、 パン も ある よ 、 など と 言って 騒ぎ ます ので 、 自分 は 持ち前 の おべっか 精神 を 発揮 して 、 おなか が 空いた 、 と 呟 い て 、 甘 納豆 を 十 粒 ばかり 口 に ほうり 込む のです が 、 空腹 感 と は 、 どんな もの だ か 、 ちっとも わかって いやし なかった のです 。 自分 だって 、 それ は 勿論 ( もちろん )、 大いに もの を 食べ ます が 、 しかし 、 空腹 感 から 、 もの を 食べた 記憶 は 、 ほとんど あり ませ ん 。 めずらしい と 思わ れた もの を 食べ ます 。 豪華 と 思わ れた もの を 食べ ます 。 また 、 よそ へ 行って 出さ れた もの も 、 無理 を して まで 、 たいてい 食べ ます 。 そうして 、 子供 の 頃 の 自分 に とって 、 最も 苦痛 な 時刻 は 、 実に 、 自分 の 家 の 食 事 の 時間 でした 。 自分 の 田舎 の 家 で は 、 十 人 くらい の 家族 全部 、 めいめい の お 膳 ( ぜん ) を 二 列 に 向い合 せ に 並べて 、 末っ子 の 自分 は 、 もちろん 一ばん 下 の 座 でした が 、 その 食事 の 部屋 は 薄暗く 、 昼 ごはん の 時 など 、 十 幾 人 の 家族 が 、 ただ 黙々と して めし を 食って いる 有様 に は 、 自分 は いつも 肌寒い 思い を し ました 。 それ に 田舎 の 昔気質 ( かたぎ ) の 家 でした ので 、 おかず も 、 たいてい きまって いて 、 めずらしい もの 、 豪華な もの 、 そんな もの は 望む べく も なかった ので 、 いよいよ 自分 は 食事 の 時刻 を 恐怖 しま した 。 自分 は その 薄暗い 部屋 の 末席 に 、 寒 さ に がたがた 震える 思い で 口 に ごはん を 少量 ずつ 運び 、 押し 込み 、 人間 は 、 どうして 一 日 に 三 度 々々 ごはん を 食べる の だろう 、 実に みな 厳粛な 顔 を して 食べて いる 、 これ も 一種 の 儀式 の ような もの で 、 家族 が 日 に 三 度 々々 、 時刻 を きめて 薄暗い 一 部屋 に 集 り 、 お 膳 を 順序 正しく 並 べ 、 食べ たく なくて も 無言 で ごはん を 噛 ( か ) み ながら 、 うつむき 、 家中 に うごめいて いる 霊 たち に 祈る ため の もの かも 知れ ない 、 と さえ 考えた 事 が ある くらい でした 。 めし を 食べ なければ 死ぬ 、 と いう 言葉 は 、 自分 の 耳 に は 、 ただ イヤな お ど かし と しか 聞え ませ ん でした 。 その 迷信 は 、( いま でも 自分 に は 、 何だか 迷信 の よう に 思わ れて なら ない のです が ) しか し 、 いつも 自分 に 不安 と 恐怖 を 与え ました 。 人間 は 、 めし を 食べ なければ 死ぬ から 、 その ため に 働いて 、 めし を 食べ なければ なら ぬ 、 と いう 言葉 ほど 自分 に とって 難解で 晦渋 ( かいじゅう ) で 、 そうして 脅迫 めいた 響き を 感じ させる 言葉 は 、 無かった のです 。 つまり 自分 に は 、 人間 の 営み と いう もの が 未 ( いま ) だに 何も わかって い ない 、 と いう 事 に なり そうです 。 自分 の 幸福 の 観念 と 、 世 の すべて の 人 たち の 幸福 の 観念 と が 、 まるで 食いちがって いる ような 不安 、 自分 は その 不安 の ため に 夜 々 、 転 輾 ( てんてん ) し 、 呻吟 ( しんぎん ) し 、 発 狂 しかけた 事 さえ あり ます 。 自分 は 、 いったい 幸福な のでしょう か 。 自分 は 小さい 時 から 、 実に しばしば 、 仕合 せ 者 だ と 人 に 言わ れて 来 ました が 、 自分 で はい つ も 地獄 の 思い で 、 かえって 、 自分 を 仕合 せ 者 だ と 言った ひと たち の ほう が 、 比較 に も 何も なら ぬ くらい ずっと ずっと 安楽な ように 自分 に は 見える のです 。 自分 に は 、 禍 ( わざ わ ) いの かたまり が 十 個 あって 、 その 中 の 一 個 でも 、 隣人 が 脊負 ( せお ) ったら 、 その 一 個 だけ でも 充分に 隣人 の 生 命取り に なる ので は ある まい か と 、 思った 事 さえ あり ました 。 つまり 、 わから ない のです 。 隣人 の 苦しみ の 性質 、 程度 が 、 まるで 見当 つか ない のです 。 プラクテカル な 苦しみ 、 ただ 、 めし を 食えたら それ で 解決 できる 苦しみ 、 しかし 、 それ こそ 最も 強い 痛 苦 で 、 自分 の 例の 十 個 の 禍い など 、 吹っ飛んで しまう 程 の 、 凄惨 ( せいさん ) な 阿鼻地獄 な の かも 知れ ない 、 それ は 、 わから ない 、 しかし 、 それ に して は 、 よく 自殺 も せ ず 、 発 狂 も せ ず 、 政党 を 論じ 、 絶望 せ ず 、 屈せ ず 生活 の たたか い を 続け て 行ける 、 苦しく ない んじゃ ない か ? エゴイスト に なりきって 、 しかも それ を 当然の 事 と 確信 し 、 いち ども 自分 を 疑った 事 が 無い んじゃ ない か ? それ なら 、 楽だ 、 しかし 、 人間 と いう もの は 、 皆 そんな もの で 、 また それ で 満点 な ので は ない かしら 、 わから ない 、…… 夜 は ぐっすり 眠り 、 朝 は 爽快 ( そうかい ) な の かしら 、 どんな 夢 を 見て いる のだろう 、 道 を 歩き ながら 何 を 考えて いる のだろう 、 金 ? まさか 、 それ だけ で も 無い だろう 、 人間 は 、 めし を 食う ため に 生きて いる のだ 、 と いう 説 は 聞いた 事 が ある ような 気 が する けれども 、 金 の ため に 生きて いる 、 と いう 言葉 は 、 耳 に した 事 が 無い 、 いや 、 しかし 、 ことに 依る と 、…… いや 、 それ も わから ない 、…… 考えれば 考える ほど 、 自分 に は 、 わから なく なり 、 自分 ひと り 全く 変って いる ような 、 不安 と 恐怖 に 襲わ れる ばかりな のです 。 自 分 は 隣人 と 、 ほとんど 会話 が 出来 ませ ん 。 何 を 、 どう 言ったら いい の か 、 わから ない のです 。 そこ で 考え 出した の は 、 道化 でした 。 それ は 、 自分 の 、 人間 に 対する 最後 の 求愛 でした 。 自分 は 、 人間 を 極度に 恐れて い ながら 、 それでいて 、 人間 を 、 どうしても 思い 切れ なかった らしい のです 。 そうして 自分 は 、 この 道化 の 一線 で わずかに 人間 に つながる 事 が 出来た のでした 。 おもて で は 、 絶えず 笑顔 を つくり ながら も 、 内心 は 必死の 、 それ こそ 千 番 に 一 番 の 兼ね合い と でも いう べき 危機一髪 の 、 油 汗 流して の サーヴィス でした 。 自分 は 子供 の 頃 から 、 自分 の 家族 の 者 たち に 対して さえ 、 彼 等 が どんなに 苦しく 、 また どんな 事 を 考えて 生きて いる の か 、 まるで ちっとも 見当 つか ず 、 ただ お そろ しく 、 その 気まず さ に 堪える 事 が 出来 ず 、 既に 道化 の 上手に なって い ました 。 つまり 、 自分 は 、 いつのまに やら 、 一言 も 本当の 事 を 言わ ない 子 に なって いた のです 。 その頃 の 、 家族 たち と 一緒に うつした 写真 など を 見る と 、 他の 者 たち は 皆 まじめな 顔 を して いる のに 、 自分 ひと り 、 必ず 奇妙に 顔 を ゆがめて 笑って いる のです 。 これ も また 、 自分 の 幼く 悲しい 道化 の 一種 でした 。 また 自分 は 、 肉親 たち に 何 か 言わ れて 、 口 応 ( くち ご た ) え した 事 はいち ども 有り ませ ん でした 。 その わずかな お こごと は 、 自分 に は 霹靂 ( へ きれ き ) の 如く 強く 感ぜ られ 、 狂う みたいに なり 、 口 応え どころ か 、 その お こごと こそ 、 謂 わ ば 万 世 一 系 の 人間 の 「 真理 」 と か いう もの に 違いない 、 自分 に は その 真理 を 行 う 力 が 無い のだ から 、 もはや 人間 と 一緒に 住め ない ので は ない かしら 、 と 思い 込んで しまう のでした 。 だから 自分 に は 、 言い争い も 自己 弁解 も 出来 ない ので し た 。 人 から 悪く 言わ れる と 、 いかにも 、 もっとも 、 自分 が ひどい 思い違い を して いる ような 気 が して 来て 、 いつも その 攻撃 を 黙して 受け 、 内心 、 狂う ほど の 恐怖 を 感じ ました 。 それ は 誰 でも 、 人 から 非難 せ られたり 、 怒ら れたり して い い 気持 が する もの で は 無い かも 知れ ませ ん が 、 自分 は 怒って いる 人間 の 顔 に 、 獅子 ( しし ) より も 鰐 ( わに ) より も 竜 より も 、 もっと おそろしい 動物 の 本性 を 見る のです 。 ふだん は 、 その 本性 を かくして いる ようです けれども 、 何 か の 機会 に 、 たとえば 、 牛 が 草原 で おっとり した 形 で 寝て いて 、 突如 、 尻尾 ( しっぽ ) で ピシッ と 腹 の 虻 ( あぶ ) を 打ち 殺す みたいに 、 不意に 人間 の おそろしい 正体 を 、 怒り に 依って 暴露 する 様子 を 見て 、 自分 は いつも 髪 の 逆 立つ ほど の 戦慄 ( せんりつ ) を 覚え 、 この 本性 も また 人間 の 生きて 行く 資格 の 一 つ な の かも 知れ ない と 思えば 、 ほとんど 自分 に 絶望 を 感じる のでした 。 人間 に 対して 、 いつも 恐怖 に 震 い おののき 、 また 、 人間 と して の 自分 の 言動 に 、 みじんも 自信 を 持て ず 、 そうして 自分 ひと り の 懊悩 ( おう のう ) は 胸 の 中 の 小 箱 に 秘め 、 その 憂鬱 、 ナアヴァスネス を 、 ひたかくし に 隠して 、 ひたすら 無邪気 の 楽天 性 を 装い 、 自分 は お 道化 た お 変人 と して 、 次第に 完成 さ れて 行き ました 。 何でも いい から 、 笑わ せて おれば いい のだ 、 そう する と 、 人間 たち は 、 自分 が 彼 等 の 所謂 「 生活 」 の 外 に いて も 、 あまり それ を 気 に し ない ので は ない かしら 、 とにかく 、 彼 等 人間 たち の 目障りに なって は いけない 、 自分 は 無 だ 、 風 だ 、 空 ( そら ) だ 、 と いう ような 思い ばかり が 募り 、 自分 は お 道化 に 依って 家族 を 笑わ せ 、 また 、 家族 より も 、 もっと 不可解で おそろしい 下 男 や 下 女 に まで 、 必死の お 道化 の サーヴィス を した のです 。 自分 は 夏 に 、 浴衣 の 下 に 赤い 毛糸 の セエター を 着て 廊下 を 歩き 、 家中 の 者 を 笑わ せ ました 。 めったに 笑わ ない 長兄 も 、 それ を 見て 噴き出し 、 「 それ あ 、 葉 ちゃん 、 似合わ ない 」 と 、 可愛くて たまら ない ような 口調 で 言い ました 。 な に 、 自分 だって 、 真 夏 に 毛糸 の セエター を 着て 歩く ほど 、 いくら 何でも 、 そんな 、 暑 さ 寒 さ を 知ら ぬ お 変人 で は あり ませ ん 。 姉 の 脚絆 ( レギンス ) を 両腕 に はめて 、 浴衣 の 袖口 から 覗か せ 、 以 ( も っ ) て セエター を 着て いる ように 見せかけて いた のです


人間 失格 1/15 にんげん|しっかく Menschliche Disqualifikation 1/15 Human disqualification 1/15 Descalificación humana 1/15 Disqualification humaine 1/15 Squalifica umana 1/15. 人間 失格 1/15 인간 실격 1/15 Menselijke diskwalificatie 1/15 Dyskwalifikacja człowieka 1/15 desqualificação humana 1/15 Дисквалификация человека 1/15 Diskvalificering av människor 1/15 人类失格 1/15 人类取消资格 1/15。 人類取消資格 1/15 人類取消資格1/15

人間 失格 太宰治 にんげん|しっかく|ふとし おさむ ち Human disqualification Ya no es humano Osamu Dazai Desqualificação Humana Osamu Dazai Không còn con người Osamu Dazai 人类失格 太宰治

はしがき Postcard 서문 Prefácio Lời tựa 前言

私 は 、 その 男 の 写真 を 三葉 、 見た こと が ある 。 わたくし|||おとこ||しゃしん||みつば|みた||| I have seen the three leaf photos of the man. 나는 그 사람의 사진을 세잎 본적이있다. Mitsuha, eu vi uma foto daquele homem. Я видел его фотографию на трех листах. Tôi đã thấy một bức ảnh của người đàn ông, Mitsuha. 三叶,我看过那个男人的照片。 一葉 は 、 その 男 の 、 幼年 時代 、 と でも 言う べきであろう か 、 十歳 前後 かと 推定 さ れる 頃 の 写真 であって 、 その 子供 が 大勢 の 女 の ひと に 取りかこま れ 、( それ は 、 その 子供 の 姉 たち 、 妹 たち 、 それ から 、 従姉妹 ( いとこ ) たち か と 想像 さ れる ) 庭園 の 池 の ほとり に 、 荒い 縞 の 袴 ( はかま ) を はいて 立ち 、 首 を 三十 度 ほど 左 に 傾け 、 醜く 笑って いる 写真 である 。 ひと は|||おとこ||ようねん|じだい|||いう|||じゅう さい|ぜんご|か と|すいてい|||ころ||しゃしん|||こども||おおぜい||おんな||||とりかこま|||||こども||あね||いもうと||||いとこ|||||そうぞう|||ていえん||いけ||||あらい|しま||はかま||||たち|くび||さんじゅう|たび||ひだり||かたむけ|みにくく|わらって||しゃしん| A leaf is a photograph of the time when it is presumed that it is estimated to be around 10 years old whether it should be said that of a man, childhood, that child was taken in by a large number of women, It is imagined that the sister of the child, the younger sister, and the cousin (cousin)) On the side of the garden pond, standing with a rough striped hakama (hakama), the neck is about 30 degrees It is a picture that is tilted to the left and ugly smiling. 이치요는 그 남자의 어린 시절라고 할 수 있을까 십 세 전후라고 추정된다 시절 사진이며, 그 아이가 많은 여성의 사람에게 가지고 둘러싸인 (그 그 아이의 누나들, 동생들, 그리고, 사촌 (사촌)들이라고 생각된다) 정원의 연못가에 거친 줄무늬 하카 (하 카마)를 입고 서서 목을 서른 번 정도 왼쪽으로 기울 추악 웃고있는 사진이다. Ichiyo było fotografią mężczyzny w jego dzieciństwie, kiedy miał około 10 lat, a dziecko zostało przejęte przez dużą liczbę kobiet. Wyobraża się sobie, że siostry, siostry i kuzyni dzieci stoją na brzegu stawu w ogrodzie, z szorstką hakamą w paski i około trzydziestoma szyjami. To zdjęcie jest przechylone w lewo i brzydkie z uśmiechem. Uma folha é uma fotografia do homem em sua primeira infância, quando se estima que ele tinha cerca de dez anos. Imagina-se que as irmãs mais velhas, irmãs mais novas e primos da criança estejam de pé ao lado da lagoa no jardim , vestindo hakama listrado áspero, com seus pescoços dobrados cerca de 30 graus. É uma foto dele inclinado para a esquerda e sorrindo feio. Ichiyo là hình ảnh về thời thơ ấu của một người đàn ông, hoặc được cho là khoảng mười tuổi, và đứa trẻ được một số lượng lớn phụ nữ chụp ảnh (nó). Hãy tưởng tượng các chị em, em gái và anh em họ của bọn trẻ.) Đứng trên bờ của một cái ao trong vườn, với một chiếc hakama sọc thô, khoảng ba mươi độ quanh cổ. Đây là hình ảnh một người cười xấu xí nghiêng về bên trái. 一片叶子是男人襁褓中的照片,当时估计十岁左右。孩子的姐姐,妹妹,然后是堂兄弟,想象是)站在花园里的池塘边,穿着粗条纹的袴,脖子弯曲约30度。这是他向左倾斜,笑得很丑的照片。 醜く ? みにくく Ugly? 추악? Brzydki? Xấu xí? 丑陋的? けれども 、 鈍い 人 たち ( つまり 、 美醜 など に 関心 を 持た ぬ 人 たち ) は 、 面白く も 何とも 無い ような 顔 を して 、 「 可愛い 坊ちゃん です ね 」   といい 加減な お 世辞 を 言って も 、 まんざら 空 ( から ) お 世辞 に 聞え ない くらい の 、 謂 ( い ) わ ば 通俗 の 「 可愛らし さ 」 みたいな 影 も その 子供 の 笑顔 に 無い わけで は ない のだ が 、 しかし 、 いささか でも 、 美醜 に 就いて の 訓練 を 経て 来た ひと なら 、 ひとめ 見て すぐ 、 「 なんて 、 いやな 子供 だ 」   と 頗 ( す こぶ ) る 不快 そうに 呟 ( つぶ や ) き 、 毛虫 でも 払いのける 時 の ような 手つき で 、 その 写真 を ほうり投げる かも知れない 。 |にぶい|じん|||びしゅう|||かんしん||もた||じん|||おもしろく||なんとも|ない||かお|||かわいい|ぼっちゃん|||と いい|かげん な||せじ||いって|||から|||せじ||きこえ||||い||||つうぞく||かわいらし|||かげ|||こども||えがお||ない|||||||||びしゅう||ついて||くんれん||へて|きた||||みて||||こども|||すこぶる||||ふかい|そう に|つぶや||||けむし||はらいのける|じ|||てつき|||しゃしん||ほうりなげる|かも しれ ない However, the dull people (that is, those who are not interested in beauty and the like) have funny and nothing-looking faces, and even if they say a flattering flattery like "a cute little boy," it is empty ( Because of that, the shadow of the so-called “cuteness”, which is so popular that I can't listen to compliments, is not the smile of the child's smile. For those who have come through training, at first glance, immediately, "What a nasty child," he said, "I'm a nasty child." , I might throw that picture. 然而,迟钝的人(即对美丑不感兴趣的人)看起来对任何事情都不感兴趣,即使他们说“你是一个可爱的小男孩”,这一切都是徒劳的。不是说孩子的笑容里没有所谓流行的“可爱”的影子,听不出来是讨人喜欢的,但是,哪怕只有一点点,也是关于美丑的。任何受过训练的人会立刻嘟囔着“真恶心的孩子”,就像刷毛毛虫一样,我可能会把照片扔掉。 まったく 、 その 子供 の 笑顔 は 、 よく 見れば 見る ほど 、 何とも 知れ ず 、 イヤな 薄気味悪い もの が 感ぜ られて 来る 。 ||こども||えがお|||みれば|みる||なんとも|しれ||いやな|うすきみわるい|||かんぜ||くる At all, the more you look at the child's smile, the more you will feel the unpleasant and creepy. どだい 、 それ は 、 笑顔 で ない 。 |||えがお|| It's not a smile. この 子 は 、 少し も 笑って は い ない のだ 。 |こ||すこし||わらって|||| This kid isn't laughing at all. その 証拠 に は 、 この 子 は 、 両方 の こぶし を 固く 握って 立って いる 。 |しょうこ||||こ||りょうほう||||かたく|にぎって|たって| The proof is that this child stands with both fists firmly held. 人間 は 、 こぶし を 固く 握り ながら 笑える もの で は 無い のである 。 にんげん||||かたく|にぎり||わらえる||||ない| Humans are not the ones who can laugh while holding their fists tightly. 猿 だ 。 さる| It's a monkey. 猿 の 笑顔 だ 。 さる||えがお| It's a monkey's smile. ただ 、 顔 に 醜い 皺 ( しわ ) を 寄せて いる だけ な のである 。 |かお||みにくい|しわ|||よせて|||| It just has ugly wrinkles on its face. 「 皺 く ちゃ 坊ちゃん 」 と でも 言い たく なる くらい の 、 まことに 奇妙な 、 そうして 、 どこ か けがらわしく 、 へんに ひと を ムカムカ さ せる 表情 の 写真 であった 。 しわ|||ぼっちゃん|||いい||||||きみょうな||||||||むかむか|||ひょうじょう||しゃしん| It was a picture of a wrinkled cha-bo-chan, which was so strange that I couldn't help but make people feel sick. 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 表情 の 子供 を 見た 事 が 、 いち ども 無かった 。 わたくし|||||ふしぎな|ひょうじょう||こども||みた|こと||||なかった I have never seen a child with such a mysterious expression before. 第 二葉 の 写真 の 顔 は 、 これ は また 、 びっくり する くらい ひどく 変貌 ( へんぼう ) して いた 。 だい|ふたば||しゃしん||かお|||||||||へんぼう||| The face in the photo of the second leaf, which was also surprisingly terrible, was transformed. 学生 の 姿 である 。 がくせい||すがた| It is the appearance of a student. 高等 学校 時代 の 写真 か 、 大学 時代 の 写真 か 、 はっきり し ない けれども 、 とにかく 、 おそろしく 美貌 の 学生 である 。 こうとう|がっこう|じだい||しゃしん||だいがく|じだい||しゃしん||||||||びぼう||がくせい| Whether it is a high school photograph or a university photograph, it is unclear, but anyway, it is an awesome beautiful student. 高等 学校 時代 の 写真 か 、 大学 時代 の 写真 か 、 はっきり し ない けれども 、 とにかく 、 おそろしく 美貌 の 学生 である 。 しかし 、 これ も また 、 不思議に も 、 生きて いる 人間 の 感じ は し なかった 。 ||||ふしぎに||いきて||にんげん||かんじ||| But again, strangely enough, I didn't feel like a living human being. 学生 服 を 着て 、 胸 の ポケット から 白い ハンケチ を 覗 ( の ぞ ) か せ 、 籐椅子 ( とう いす ) に 腰かけて 足 を 組み 、 そうして 、 やはり 、 笑って いる 。 がくせい|ふく||きて|むね||ぽけっと||しろい|||のぞ|||||とうい こ||||こしかけて|あし||くみ|||わらって| Wearing a school uniform, peeking out a white handkerchief from his chest pocket, he sat on a wicker chair with his legs crossed, and was still smiling. こんど の 笑顔 は 、 皺 く ちゃ の 猿 の 笑い で なく 、 かなり 巧みな 微笑 に なって は いる が 、 しかし 、 人間 の 笑い と 、 どこ やら 違う 。 ||えがお||しわ||||さる||わらい||||たくみな|びしょう|||||||にんげん||わらい||||ちがう This time the smile is not that of a wrinkled monkey, but rather a skillful smile, but it is somewhat different from the laughter of a human being. 血 の 重 さ 、 と でも 言おう か 、 生命 ( いのち ) の 渋 さ 、 と でも 言おう か 、 そのような 充実 感 は 少しも 無く 、 それ こそ 、 鳥 の ようで は なく 、 羽毛 の ように 軽く 、 ただ 白紙 一 枚 、 そうして 、 笑って いる 。 ち||おも||||いおう||せいめい|||しぶ||||いおう|||じゅうじつ|かん||すこしも|なく|||ちょう|||||うもう|||かるく||はくし|ひと|まい||わらって| Whether we say the weight of the blood, or the astringency of life (life), I do not have such a sense of fulfillment at all, it is not like a bird but as lightly as a feather , I just laughed a piece of blank paper, and then. つまり 、 一 から 十 まで 造り 物 の 感じ な のである 。 |ひと||じゅう||つくり|ぶつ||かんじ|| In other words, from 1 to 10 it feels like a fake. キザ と 言って も 足り ない 。 ||いって||たり| It's not enough to say Kiza. 軽薄 と 言って も 足り ない 。 けいはく||いって||たり| It is not enough to say that it is frivolous. ニヤケ と 言って も 足り ない 。 ||いって||たり| A grin is not enough. おしゃれ と 言って も 、 もちろん 足り な い 。 ||いって|||たり|| Of course, being fashionable is not enough. しかも 、 よく 見て いる と 、 やはり この 美貌 の 学生 に も 、 どこ か 怪談 じみ た 気味 悪い もの が 感ぜ られて 来る のである 。 ||みて|||||びぼう||がくせい|||||かいだん|||きみ|わるい|||かんぜ||くる| What's more, if you look closely, you can sense that even this handsome student has something creepy, like a ghost story. 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 美貌 の 青 年 を 見た 事 が 、 いち ども 無かった 。 わたくし|||||ふしぎな|びぼう||あお|とし||みた|こと||||なかった I had never before seen a young man of such strange beauty. もう 一 葉 の 写真 は 、 最も 奇怪な もの である 。 |ひと|は||しゃしん||もっとも|きかいな|| まるで もう 、 とし の 頃 が わから ない 。 ||||ころ||| It's like I don't remember when I was. 頭 は いくぶん 白髪 の ようである 。 あたま|||しらが|| The head is somewhat like gray hair. それ が 、 ひどく 汚い 部屋 ( 部屋 の 壁 が 三 箇 所 ほど 崩れ落ちて いる の が 、 その 写真 に ハッキリ 写って いる ) の 片隅 で 、 小さい 火鉢 に 両手 を かざし 、 こんど は 笑って い ない 。 |||きたない|へや|へや||かべ||みっ|か|しょ||くずれおちて|||||しゃしん||はっきり|うつって|||かたすみ||ちいさい|ひばち||りょうて|||||わらって|| In the corner of a terribly dirty room (the photo clearly shows that the walls of the room have collapsed in about three places), he held his hands over a small brazier, and this time he was not smiling. どんな 表情 も 無い 。 |ひょうじょう||ない No expression of any kind. 謂 わ ば 、 坐 っ て 火鉢 に 両手 を かざし ながら 、 自然に 死んで いる ような 、 まことに いまわしい 、 不吉な に おい の する 写真 であった 。 い|||すわ|||ひばち||りょうて||||しぜんに|しんで|||||ふきつな|||||しゃしん| It was a truly hideous, sinister-smelling photograph of a person sitting with both hands over a brazier, as if to say, dying naturally. 奇怪な の は 、 それ だけ で ない 。 きかいな|||||| That's not the only strange thing. その 写真 に は 、 わりに 顔 が 大きく 写って いた ので 、 私 は 、 つくづく その 顔 の 構造 を 調べる 事 が 出来た のである が 、 額 は 平凡 、 額 の 皺 も 平凡 、 眉 も 平凡 、 眼 も 平凡 、 鼻 も 口 も 顎 ( あご ) も 、 ああ 、 この 顔 に は 表情 が 無い ばかり か 、 印象 さえ 無い 。 |しゃしん||||かお||おおきく|うつって|||わたくし||||かお||こうぞう||しらべる|こと||できた|||がく||へいぼん|がく||しわ||へいぼん|まゆ||へいぼん|がん||へいぼん|はな||くち||あご|||||かお|||ひょうじょう||ない|||いんしょう||ない The photograph showed a relatively large face, so I was able to closely examine the structure of the face. Nose, mouth, chin, ah, this face has no expression, not even an impression. 特徴 が 無い のだ 。 とくちょう||ない| It has no features. たとえば 、 私 が この 写真 を 見て 、 眼 を つぶる 。 |わたくし|||しゃしん||みて|がん|| For example, when I see this picture, I close my eyes. 既に 私 は この 顔 を 忘れて いる 。 すでに|わたくし|||かお||わすれて| I have already forgotten this face. 部屋 の 壁 や 、 小さい 火鉢 は 思い出す 事 が 出来る けれども 、 その 部屋 の 主人公 の 顔 の 印象 は 、 す っと 霧消して 、 どうしても 、 何と して も 思い出せ ない 。 へや||かべ||ちいさい|ひばち||おもいだす|こと||できる|||へや||しゅじんこう||かお||いんしょう||||きり けして||なんと|||おもいだせ| I can remember the walls of the room and the small brazier, but the impression of the main character's face in that room has faded away and I can't remember anything. 画 に なら ない 顔 で あ る 。 が||||かお||| It's a face that doesn't make a picture. 漫画 に も 何も なら ない 顔 である 。 まんが|||なにも|||かお| It's a face that wouldn't make it into a cartoon. 眼 を ひらく 。 がん|| Open your eyes. あ 、 こんな 顔 だった の か 、 思い出した 、 と いう ような よろこび さえ 無い 。 ||かお||||おもいだした||||||ない Oh, I don't even have the joy of remembering that I had such a face. 極端な 言い 方 を すれば 、 眼 を ひらい て その 写真 を 再び 見て も 、 思い出せ ない 。 きょくたんな|いい|かた|||がん|||||しゃしん||ふたたび|みて||おもいだせ| To put it in an extreme way, I can't remember even if I open my eyes and look at the picture again. そうして 、 ただ もう 不愉快 、 イライラ して 、 つい 眼 を そむけ たく なる 。 |||ふゆかい|いらいら|||がん|||| Then I just feel uncomfortable and irritated, and I can't help but turn my eyes away. 所 謂 ( いわゆる )「 死 相 」 と いう もの に だって 、 もっと 何 か 表情 なり 印象 なり が ある もの だろう に 、 人間 の からだ に 駄馬 の 首 でも くっつけた なら 、 こんな 感じ の もの に なる であろう か 、 とにかく 、 どこ と いう 事 なく 、 見る 者 を して 、 ぞっと さ せ 、 いやな 気持 に さ せる のだ 。 しょ|い||し|そう|||||||なん||ひょうじょう||いんしょう|||||||にんげん||||だうま||くび|||||かんじ|||||||||||こと||みる|もの|||||||きもち|||| Even the so-called ``death face'' should have some kind of facial expression or impression, and if a pack horse's neck were attached to a human body, it would look something like this. Or, at any rate, for some reason, it makes the viewer feel horrified and disgusted. 私 は これ まで 、 こんな 不思議な 男 の 顔 を 見た 事 が 、 やはり 、 いち ども 無かった 。 わたくし|||||ふしぎな|おとこ||かお||みた|こと|||||なかった I have never seen such a mysterious man's face before.

[# 改頁 ] かいぺいじ

第 一 の 手記 だい|ひと||しゅき first note

恥 の 多い 生涯 を 送って 来 ました 。 はじ||おおい|しょうがい||おくって|らい| I have lived a shameful life. 自分 に は 、 人間 の 生活 と いう もの が 、 見当 つか ない のです 。 じぶん|||にんげん||せいかつ|||||けんとう||| I have no idea what human life is like. 自分 は 東北 の 田舎 に 生れ ました ので 、 汽車 を はじめて 見た の は 、 よほど 大きく なって から でした 。 じぶん||とうほく||いなか||うまれ|||きしゃ|||みた||||おおきく||| I was born in the countryside of Tohoku, so it wasn't until I grew up that I saw a train for the first time. 自分 は 停車場 の ブリッジ を 、 上って 、 降りて 、 そうして それ が 線路 を またぎ 越える ため に 造ら れた もの だ と いう 事 に は 全然 気づか ず 、 ただ それ は 停車場 の 構内 を 外国 の 遊 戯場 みたいに 、 複雑に 楽しく 、 ハイカラに する ため に のみ 、 設備 せ られて ある もの だ と ばかり 思って い ました 。 じぶん||ていしゃば||ぶりっじ||のぼって|おりて||||せんろ|||こえる|||つくら||||||こと|||ぜんぜん|きづか|||||ていしゃば||こうない||がいこく||あそ|ぎば||ふくざつに|たのしく|はいからに|||||せつび||||||||おもって|| しかも 、 かなり 永い 間そう 思って いた の です 。 ||ながい|かんそう|おもって||| Moreover, I thought so for quite a long time. ブリッジ の 上ったり 降りたり は 、 自分 に は むしろ 、 ずいぶん 垢 抜 ( あか ぬ ) け の した 遊 戯 で 、 それ は 鉄道 の サーヴィス の 中 でも 、 最も 気 の きいた サーヴィス の 一 つ だ と 思って いた のです が 、 のち に それ は ただ 旅客 が 線路 を またぎ 越える ため の 頗 る 実利 的な 階段 に 過ぎ ない の を 発見 して 、 にわかに 興 が 覚め ました 。 ぶりっじ||のぼったり|おりたり||じぶん|||||あか|ぬき||||||あそ|ぎ||||てつどう||||なか||もっとも|き|||||ひと||||おもって|||||||||りょかく||せんろ|||こえる|||すこぶる||じつり|てきな|かいだん||すぎ||||はっけん|||きょう||さめ| Climbing up and down the bridge is rather a sophisticated pastime for me, and I think it's one of the most thoughtful railway services. However, when I later discovered that it was nothing more than a very practical stairway for passengers to cross the tracks, my interest suddenly faded. また 、 自分 は 子供 の 頃 、 絵本 で 地下鉄 道 と いう もの を 見て 、 これ も やはり 、 実利 的な 必要 から 案 出せ られた もの で は なく 、 地上 の 車 に 乗る より は 、 地下 の 車 に 乗った ほう が 風がわりで 面白い 遊び だ から 、 と ばかり 思って い ました 。 |じぶん||こども||ころ|えほん||ちかてつ|どう|||||みて||||じつり|てきな|ひつよう||あん|だせ||||||ちじょう||くるま||のる|||ちか||くるま||のった|||ふうがわりで|おもしろい|あそび|||||おもって|| 自分 は 子供 の 頃 から 病弱で 、 よく 寝 込み ました が 、 寝 ながら 、 敷布 、 枕 の カヴァ 、 掛蒲団 の カヴァ を 、 つくづく 、 つまらない 装飾 だ と 思い 、 それ が 案外に 実用 品 だった 事 を 、 二十 歳 ちかく に なって わかって 、 人間 の つまし さ に 暗 然 と し 、 悲しい 思い を し ました 。 じぶん||こども||ころ||びょうじゃくで||ね|こみ|||ね||しきふ|まくら|||かかり がま だん||||||そうしょく|||おもい|||あんがいに|じつよう|しな||こと||にじゅう|さい|||||にんげん|||||あん|ぜん|||かなしい|おもい||| Ever since I was a child, I have been sickly and often fell asleep, but while I was sleeping, I kept thinking that the mattresses, pillow covers, and quilt covers were boring decorations, and that they were unexpectedly useful items. When I turned 20, I realized that I was saddened by the frugality of human beings. また 、 自分 は 、 空腹 と いう 事 を 知り ませ ん でした 。 |じぶん||くうふく|||こと||しり||| Also, I didn't know I was hungry. いや 、 それ は 、 自分 が 衣食住 に 困ら ない 家 に 育った と いう 意味 で は なく 、 そんな 馬鹿な 意味 で は なく 、 自分 に は 「 空腹 」 と いう 感覚 は どんな もの だ か 、 さっぱり わから なかった のです 。 |||じぶん||いしょくじゅう||こまら||いえ||そだった|||いみ|||||ばかな|いみ||||じぶん|||くうふく|||かんかく||||||||| No, that does not mean that I grew up in a house that is not troubled with food, clothing, shelter and living, it is not such a foolish meaning, I did not understand exactly what I felt like "hungry" is . へんな 言い かた です が 、 おなか が 空いて いて も 、 自分 で それ に 気 が つか ない ので す 。 |いい||||||あいて|||じぶん||||き||||| It's a strange way of putting it, but even if I'm hungry, I don't even know it. 小学校 、 中学校 、 自分 が 学校 から 帰って 来る と 、 周囲 の 人 たち が 、 それ 、 おなか が 空いたろう 、 自分 たち に も 覚え が ある 、 学校 から 帰って 来た 時 の 空腹 は 全 く ひどい から な 、 甘 納豆 は どう ? しょうがっこう|ちゅうがっこう|じぶん||がっこう||かえって|くる||しゅうい||じん||||||あいたろう|じぶん||||おぼえ|||がっこう||かえって|きた|じ||くうふく||ぜん|||||あま|なっとう|| Elementary school, junior high school, when I came home from school, the people around me would say, well, I'm hungry. How about sweet natto? カステラ も 、 パン も ある よ 、 など と 言って 騒ぎ ます ので 、 自分 は 持ち前 の おべっか 精神 を 発揮 して 、 おなか が 空いた 、 と 呟 い て 、 甘 納豆 を 十 粒 ばかり 口 に ほうり 込む のです が 、 空腹 感 と は 、 どんな もの だ か 、 ちっとも わかって いやし なかった のです 。 かすてら||ぱん||||||いって|さわぎ|||じぶん||もちまえ|||せいしん||はっき||||あいた||つぶや|||あま|なっとう||じゅう|つぶ||くち|||こむ|||くうふく|かん||||||||||| They make a fuss by saying that they have castella, bread, and so on, so I display my innate flattering spirit, muttering that I'm hungry and throwing about ten grains of amanatto into my mouth. I had no idea what it was like to be hungry. 自分 だって 、 それ は 勿論 ( もちろん )、 大いに もの を 食べ ます が 、 しかし 、 空腹 感 から 、 もの を 食べた 記憶 は 、 ほとんど あり ませ ん 。 じぶん||||もちろん||おおいに|||たべ||||くうふく|かん||||たべた|きおく||||| Of course, I also eat a lot of food, but I have almost no memory of eating food out of hunger. めずらしい と 思わ れた もの を 食べ ます 。 ||おもわ||||たべ| I eat something that I thought was rare. 豪華 と 思わ れた もの を 食べ ます 。 ごうか||おもわ||||たべ| We eat what we consider luxurious. また 、 よそ へ 行って 出さ れた もの も 、 無理 を して まで 、 たいてい 食べ ます 。 |||おこなって|ださ||||むり|||||たべ| そうして 、 子供 の 頃 の 自分 に とって 、 最も 苦痛 な 時刻 は 、 実に 、 自分 の 家 の 食 事 の 時間 でした 。 |こども||ころ||じぶん|||もっとも|くつう||じこく||じつに|じぶん||いえ||しょく|こと||じかん| As a child, the most painful time for me was actually mealtime at home. 自分 の 田舎 の 家 で は 、 十 人 くらい の 家族 全部 、 めいめい の お 膳 ( ぜん ) を 二 列 に 向い合 せ に 並べて 、 末っ子 の 自分 は 、 もちろん 一ばん 下 の 座 でした が 、 その 食事 の 部屋 は 薄暗く 、 昼 ごはん の 時 など 、 十 幾 人 の 家族 が 、 ただ 黙々と して めし を 食って いる 有様 に は 、 自分 は いつも 肌寒い 思い を し ました 。 じぶん||いなか||いえ|||じゅう|じん|||かぞく|ぜんぶ||||ぜん|||ふた|れつ||むかいあ|||ならべて|すえっこ||じぶん|||ひとばん|した||ざ||||しょくじ||へや||うすぐらく|ひる|||じ||じゅう|いく|じん||かぞく|||もくもくと||||くって||ありさま|||じぶん|||はださむい|おもい||| In my rural house, all the family members of about ten people, every other meal of each group was aligned facing two rows, and the youngest child of course was the one below the course, but of that meal The room was dim, and as many as a dozen family members just silently eaten, such as during lunch, I always felt chilly. それ に 田舎 の 昔気質 ( かたぎ ) の 家 でした ので 、 おかず も 、 たいてい きまって いて 、 めずらしい もの 、 豪華な もの 、 そんな もの は 望む べく も なかった ので 、 いよいよ 自分 は 食事 の 時刻 を 恐怖 しま した 。 ||いなか||むかしかたぎ|||いえ||||||||||ごうかな|||||のぞむ||||||じぶん||しょくじ||じこく||きょうふ|| 自分 は その 薄暗い 部屋 の 末席 に 、 寒 さ に がたがた 震える 思い で 口 に ごはん を 少量 ずつ 運び 、 押し 込み 、 人間 は 、 どうして 一 日 に 三 度 々々 ごはん を 食べる の だろう 、 実に みな 厳粛な 顔 を して 食べて いる 、 これ も 一種 の 儀式 の ような もの で 、 家族 が 日 に 三 度 々々 、 時刻 を きめて 薄暗い 一 部屋 に 集 り 、 お 膳 を 順序 正しく 並 べ 、 食べ たく なくて も 無言 で ごはん を 噛 ( か ) み ながら 、 うつむき 、 家中 に うごめいて いる 霊 たち に 祈る ため の もの かも 知れ ない 、 と さえ 考えた 事 が ある くらい でした 。 じぶん|||うすぐらい|へや||まっせき||さむ||||ふるえる|おもい||くち||||しょうりょう||はこび|おし|こみ|にんげん|||ひと|ひ||みっ|たび||||たべる|||じつに||げんしゅくな|かお|||たべて||||いっしゅ||ぎしき|||||かぞく||ひ||みっ|たび||じこく|||うすぐらい|ひと|へや||しゅう|||ぜん||じゅんじょ|まさしく|なみ||たべ||||むごん||||か|||||うちじゅう||||れい|||いのる|||||しれ||||かんがえた|こと|||| I sat in the last seat of the dimly lit room, shivering from the cold, and shoved a small amount of rice into my mouth, wondering why humans eat three times a day. This is also a kind of ritual, where the family gathers three times a day at a set time in a dimly lit room, arranges the table in the correct order, and eats when they don't want to eat. I have even thought that it might be a way to pray to the spirits that are wriggling around the house while chewing on the rice in silence. めし を 食べ なければ 死ぬ 、 と いう 言葉 は 、 自分 の 耳 に は 、 ただ イヤな お ど かし と しか 聞え ませ ん でした 。 ||たべ||しぬ|||ことば||じぶん||みみ||||いやな||||||きこえ||| The words "If you don't eat rice, you will die," to my ears, I could only hear it as a disgusting threat. その 迷信 は 、( いま でも 自分 に は 、 何だか 迷信 の よう に 思わ れて なら ない のです が ) しか し 、 いつも 自分 に 不安 と 恐怖 を 与え ました 。 |めいしん||||じぶん|||なんだか|めいしん||||おもわ|||||||||じぶん||ふあん||きょうふ||あたえ| That superstition (even now, I can't help but think it's superstitious), but it always gave me anxiety and fear. 人間 は 、 めし を 食べ なければ 死ぬ から 、 その ため に 働いて 、 めし を 食べ なければ なら ぬ 、 と いう 言葉 ほど 自分 に とって 難解で 晦渋 ( かいじゅう ) で 、 そうして 脅迫 めいた 響き を 感じ させる 言葉 は 、 無かった のです 。 にんげん||||たべ||しぬ|||||はたらいて|||たべ||||||ことば||じぶん|||なんかいで|かいじゅう||||きょうはく||ひびき||かんじ|さ せる|ことば||なかった| People will die if they don't eat rice, so for that reason they must work and eat rice. I didn't have the words to make you do it. つまり 自分 に は 、 人間 の 営み と いう もの が 未 ( いま ) だに 何も わかって い ない 、 と いう 事 に なり そうです 。 |じぶん|||にんげん||いとなみ|||||み|||なにも||||||こと|||そう です In other words, it seems that I still don't understand anything about human behavior. 自分 の 幸福 の 観念 と 、 世 の すべて の 人 たち の 幸福 の 観念 と が 、 まるで 食いちがって いる ような 不安 、 自分 は その 不安 の ため に 夜 々 、 転 輾 ( てんてん ) し 、 呻吟 ( しんぎん ) し 、 発 狂 しかけた 事 さえ あり ます 。 じぶん||こうふく||かんねん||よ||||じん|||こうふく||かんねん||||くいちがって|||ふあん|じぶん|||ふあん||||よ||てん|てん|||しんぎん|||はつ|くる||こと||| Anxiety, as if my idea of happiness and the idea of everyone else's happiness were at odds with each other. And there have even been times when I almost went insane. 自分 は 、 いったい 幸福な のでしょう か 。 じぶん|||こうふくな|| 自分 は 小さい 時 から 、 実に しばしば 、 仕合 せ 者 だ と 人 に 言わ れて 来 ました が 、 自分 で はい つ も 地獄 の 思い で 、 かえって 、 自分 を 仕合 せ 者 だ と 言った ひと たち の ほう が 、 比較 に も 何も なら ぬ くらい ずっと ずっと 安楽な ように 自分 に は 見える のです 。 じぶん||ちいさい|じ||じつに||しあい||もの|||じん||いわ||らい|||じぶん|||||じごく||おもい|||じぶん||しあい||もの|||いった||||||ひかく|||なにも||||||あんらくな||じぶん|||みえる| 自分 に は 、 禍 ( わざ わ ) いの かたまり が 十 個 あって 、 その 中 の 一 個 でも 、 隣人 が 脊負 ( せお ) ったら 、 その 一 個 だけ でも 充分に 隣人 の 生 命取り に なる ので は ある まい か と 、 思った 事 さえ あり ました 。 じぶん|||か||||||じゅう|こ|||なか||ひと|こ||りんじん||せきふ||||ひと|こ|||じゅうぶんに|りんじん||せい|いのちとり|||||||||おもった|こと||| つまり 、 わから ない のです 。 In other words, we don't know. 隣人 の 苦しみ の 性質 、 程度 が 、 まるで 見当 つか ない のです 。 りんじん||くるしみ||せいしつ|ていど|||けんとう||| The nature and extent of his neighbor's suffering are utterly incomprehensible. プラクテカル な 苦しみ 、 ただ 、 めし を 食えたら それ で 解決 できる 苦しみ 、 しかし 、 それ こそ 最も 強い 痛 苦 で 、 自分 の 例の 十 個 の 禍い など 、 吹っ飛んで しまう 程 の 、 凄惨 ( せいさん ) な 阿鼻地獄 な の かも 知れ ない 、 それ は 、 わから ない 、 しかし 、 それ に して は 、 よく 自殺 も せ ず 、 発 狂 も せ ず 、 政党 を 論じ 、 絶望 せ ず 、 屈せ ず 生活 の たたか い を 続け て 行ける 、 苦しく ない んじゃ ない か ? ||くるしみ||||くえたら|||かいけつ||くるしみ||||もっとも|つよい|つう|く||じぶん||れいの|じゅう|こ||か い||ふっとんで||ほど||すご さん|||おもね はな じごく||||しれ||||||||||||じさつ||||はつ|くる||||せいとう||ろんじ|ぜつぼう|||くっせ||せいかつ||たた か|||つづけ||いける|くるしく|||| Practical suffering, the kind that can be solved by simply eating a meal, but it is the most intense kind of suffering, the kind that blows away your own ten ills, a hell so gruesome that you may never know, but how can you not kill yourself, not go insane, discuss political parties, not despair, not give in, continue to insult life? But, how can they continue to argue about political parties, not despair, not give in, and continue to fight for their lives, and not suffer? エゴイスト に なりきって 、 しかも それ を 当然の 事 と 確信 し 、 いち ども 自分 を 疑った 事 が 無い んじゃ ない か ? ||||||とうぜんの|こと||かくしん||||じぶん||うたがった|こと||ない||| Becoming an egoist and believing it to be a matter of course, have you never once doubted yourself? それ なら 、 楽だ 、 しかし 、 人間 と いう もの は 、 皆 そんな もの で 、 また それ で 満点 な ので は ない かしら 、 わから ない 、…… 夜 は ぐっすり 眠り 、 朝 は 爽快 ( そうかい ) な の かしら 、 どんな 夢 を 見て いる のだろう 、 道 を 歩き ながら 何 を 考えて いる のだろう 、 金 ? ||らくだ||にんげん|||||みな|||||||まんてん||||||||よ|||ねむり|あさ||そうかい||||||ゆめ||みて|||どう||あるき||なん||かんがえて|||きむ It's easy then, but I don't know if humans are all like that, or if it's a perfect score, I don't know. ...... I wonder if he sleeps well at night and is refreshed in the morning, what he dreams about, what he thinks about while walking down the street, money? Money? まさか 、 それ だけ で も 無い だろう 、 人間 は 、 めし を 食う ため に 生きて いる のだ 、 と いう 説 は 聞いた 事 が ある ような 気 が する けれども 、 金 の ため に 生きて いる 、 と いう 言葉 は 、 耳 に した 事 が 無い 、 いや 、 しかし 、 ことに 依る と 、…… いや 、 それ も わから ない 、…… 考えれば 考える ほど 、 自分 に は 、 わから なく なり 、 自分 ひと り 全く 変って いる ような 、 不安 と 恐怖 に 襲わ れる ばかりな のです 。 |||||ない||にんげん||||くう|||いきて|||||せつ||きいた|こと||||き||||きむ||||いきて||||ことば||みみ|||こと||ない||||よる|||||||かんがえれば|かんがえる||じぶん||||||じぶん|||まったく|かわって|||ふあん||きょうふ||おそわ||| No, not only that, I think I've heard the theory that man lives for food, but I've never heard the phrase "lives for money," though I've heard the theory that man lives for food, The more I think about it, the more I am unsure and fearful, as if I am the only one who has changed at all. ...... 自 分 は 隣人 と 、 ほとんど 会話 が 出来 ませ ん 。 じ|ぶん||りんじん|||かいわ||でき|| 何 を 、 どう 言ったら いい の か 、 わから ない のです 。 なん|||いったら|||||| そこ で 考え 出した の は 、 道化 でした 。 ||かんがえ|だした|||どうけ| The idea was to clown around. それ は 、 自分 の 、 人間 に 対する 最後 の 求愛 でした 。 ||じぶん||にんげん||たいする|さいご||きゅうあい| It was his final courtship to humans. 自分 は 、 人間 を 極度に 恐れて い ながら 、 それでいて 、 人間 を 、 どうしても 思い 切れ なかった らしい のです 。 じぶん||にんげん||きょくどに|おそれて||||にんげん|||おもい|きれ||| He was extremely afraid of humans, and yet, he could not seem to give up on them. そうして 自分 は 、 この 道化 の 一線 で わずかに 人間 に つながる 事 が 出来た のでした 。 |じぶん|||どうけ||いっせん|||にんげん|||こと||できた| In this way, I was able to connect with a human being, if only briefly, through this line of clowns. おもて で は 、 絶えず 笑顔 を つくり ながら も 、 内心 は 必死の 、 それ こそ 千 番 に 一 番 の 兼ね合い と でも いう べき 危機一髪 の 、 油 汗 流して の サーヴィス でした 。 |||たえず|えがお|||||ないしん||ひっしの|||せん|ばん||ひと|ばん||かねあい|||||ききいっぱつ||あぶら|あせ|ながして||| We constantly put on a smile, but inwardly we were frantic, and it was the most critical moment in our service. 自分 は 子供 の 頃 から 、 自分 の 家族 の 者 たち に 対して さえ 、 彼 等 が どんなに 苦しく 、 また どんな 事 を 考えて 生きて いる の か 、 まるで ちっとも 見当 つか ず 、 ただ お そろ しく 、 その 気まず さ に 堪える 事 が 出来 ず 、 既に 道化 の 上手に なって い ました 。 じぶん||こども||ころ||じぶん||かぞく||もの|||たいして||かれ|とう|||くるしく|||こと||かんがえて|いきて||||||けんとう||||||||きまず|||こらえる|こと||でき||すでに|どうけ||じょうずに||| つまり 、 自分 は 、 いつのまに やら 、 一言 も 本当の 事 を 言わ ない 子 に なって いた のです 。 |じぶん||||いちげん||ほんとうの|こと||いわ||こ|||| その頃 の 、 家族 たち と 一緒に うつした 写真 など を 見る と 、 他の 者 たち は 皆 まじめな 顔 を して いる のに 、 自分 ひと り 、 必ず 奇妙に 顔 を ゆがめて 笑って いる のです 。 そのころ||かぞく|||いっしょに||しゃしん|||みる||たの|もの|||みな||かお|||||じぶん|||かならず|きみょうに|かお|||わらって|| これ も また 、 自分 の 幼く 悲しい 道化 の 一種 でした 。 |||じぶん||おさなく|かなしい|どうけ||いっしゅ| また 自分 は 、 肉親 たち に 何 か 言わ れて 、 口 応 ( くち ご た ) え した 事 はいち ども 有り ませ ん でした 。 |じぶん||にくしん|||なん||いわ||くち|おう||||||こと|||あり||| その わずかな お こごと は 、 自分 に は 霹靂 ( へ きれ き ) の 如く 強く 感ぜ られ 、 狂う みたいに なり 、 口 応え どころ か 、 その お こごと こそ 、 謂 わ ば 万 世 一 系 の 人間 の 「 真理 」 と か いう もの に 違いない 、 自分 に は その 真理 を 行 う 力 が 無い のだ から 、 もはや 人間 と 一緒に 住め ない ので は ない かしら 、 と 思い 込んで しまう のでした 。 |||||じぶん|||へきれき|||||ごとく|つよく|かんぜ||くるう|||くち|こたえ|||||||い|||よろず|よ|ひと|けい||にんげん||しんり||||||ちがいない|じぶん||||しんり||ぎょう||ちから||ない||||にんげん||いっしょに|すめ|||||||おもい|こんで|| だから 自分 に は 、 言い争い も 自己 弁解 も 出来 ない ので し た 。 |じぶん|||いいあらそい||じこ|べんかい||でき|||| 人 から 悪く 言わ れる と 、 いかにも 、 もっとも 、 自分 が ひどい 思い違い を して いる ような 気 が して 来て 、 いつも その 攻撃 を 黙して 受け 、 内心 、 狂う ほど の 恐怖 を 感じ ました 。 じん||わるく|いわ|||||じぶん|||おもいちがい|||||き|||きて|||こうげき||もくして|うけ|ないしん|くるう|||きょうふ||かんじ| それ は 誰 でも 、 人 から 非難 せ られたり 、 怒ら れたり して い い 気持 が する もの で は 無い かも 知れ ませ ん が 、 自分 は 怒って いる 人間 の 顔 に 、 獅子 ( しし ) より も 鰐 ( わに ) より も 竜 より も 、 もっと おそろしい 動物 の 本性 を 見る のです 。 ||だれ||じん||ひなん|||いから|||||きもち||||||ない||しれ||||じぶん||いかって||にんげん||かお||しし||||わに||||りゅう|||||どうぶつ||ほんしょう||みる| ふだん は 、 その 本性 を かくして いる ようです けれども 、 何 か の 機会 に 、 たとえば 、 牛 が 草原 で おっとり した 形 で 寝て いて 、 突如 、 尻尾 ( しっぽ ) で ピシッ と 腹 の 虻 ( あぶ ) を 打ち 殺す みたいに 、 不意に 人間 の おそろしい 正体 を 、 怒り に 依って 暴露 する 様子 を 見て 、 自分 は いつも 髪 の 逆 立つ ほど の 戦慄 ( せんりつ ) を 覚え 、 この 本性 も また 人間 の 生きて 行く 資格 の 一 つ な の かも 知れ ない と 思えば 、 ほとんど 自分 に 絶望 を 感じる のでした 。 |||ほんしょう||||||なん|||きかい|||うし||そうげん||||かた||ねて||とつじょ|しっぽ|||||はら||あぶ|||うち|ころす||ふいに|にんげん|||しょうたい||いかり||よって|ばくろ||ようす||みて|じぶん|||かみ||ぎゃく|たつ|||せんりつ|||おぼえ||ほんしょう|||にんげん||いきて|いく|しかく||ひと|||||しれ|||おもえば||じぶん||ぜつぼう||かんじる| Usually seems to have its own nature, but on some occasion, for example, a cow is sleeping in a grassy background and suddenly kills the abdomen with a tail (tail) As you look at how unexpectedly exposing the fearsome identity of human beings, depending on their anger, I always remember the shivering stroke of my hair, this nature is also one of the qualifications of human beings to live If you think that it may be one of them, you almost felt desperation for yourself. 人間 に 対して 、 いつも 恐怖 に 震 い おののき 、 また 、 人間 と して の 自分 の 言動 に 、 みじんも 自信 を 持て ず 、 そうして 自分 ひと り の 懊悩 ( おう のう ) は 胸 の 中 の 小 箱 に 秘め 、 その 憂鬱 、 ナアヴァスネス を 、 ひたかくし に 隠して 、 ひたすら 無邪気 の 楽天 性 を 装い 、 自分 は お 道化 た お 変人 と して 、 次第に 完成 さ れて 行き ました 。 にんげん||たいして||きょうふ||ふる||||にんげん||||じぶん||げんどう|||じしん||もて|||じぶん||||おうのう||||むね||なか||しょう|はこ||ひめ||ゆううつ|||||かくして||むじゃき||らくてん|せい||よそおい|じぶん|||どうけ|||へんじん|||しだいに|かんせい|||いき| For humans, I always tremble in fear, and for my behavior as a human, I don't feel confident, and so my own anxiety is small in my chest. Hiding in a box, its melancholy, Naavassnes, hiding in a secret way, pretending to be an innocent optimism, I gradually became a complete weird freak. 何でも いい から 、 笑わ せて おれば いい のだ 、 そう する と 、 人間 たち は 、 自分 が 彼 等 の 所謂 「 生活 」 の 外 に いて も 、 あまり それ を 気 に し ない ので は ない かしら 、 とにかく 、 彼 等 人間 たち の 目障りに なって は いけない 、 自分 は 無 だ 、 風 だ 、 空 ( そら ) だ 、 と いう ような 思い ばかり が 募り 、 自分 は お 道化 に 依って 家族 を 笑わ せ 、 また 、 家族 より も 、 もっと 不可解で おそろしい 下 男 や 下 女 に まで 、 必死の お 道化 の サーヴィス を した のです 。 なんでも|||わらわ||||||||にんげん|||じぶん||かれ|とう||しょ い|せいかつ||がい|||||||き|||||||||かれ|とう|にんげん|||めざわりに||||じぶん||む||かぜ||から||||||おもい|||つのり|じぶん|||どうけ||よって|かぞく||わらわ|||かぞく||||ふかかいで||した|おとこ||した|おんな|||ひっしの||どうけ||||| I was so busy thinking that I must not be an eyesore to them, that I was nothing, the wind, the sky, and that I should not be a distraction to them. I only made my family laugh by clowning around, and I even performed desperate clowning services for the servants and women, who were even more inexplicable and frightening than my family. 自分 は 夏 に 、 浴衣 の 下 に 赤い 毛糸 の セエター を 着て 廊下 を 歩き 、 家中 の 者 を 笑わ せ ました 。 じぶん||なつ||ゆかた||した||あかい|けいと||||きて|ろうか||あるき|うちじゅう||もの||わらわ|| In the summer, I would walk down the hall wearing a red woolen sweater under my yukata, making everyone in the house laugh. めったに 笑わ ない 長兄 も 、 それ を 見て 噴き出し 、 「 それ あ 、 葉 ちゃん 、 似合わ ない 」   と 、 可愛くて たまら ない ような 口調 で 言い ました 。 |わらわ||ちょうけい||||みて|ふきだし|||は||にあわ|||かわいくて||||くちょう||いい| My eldest brother, who rarely laughs, gushed when he saw it and said in an adorable, can't-miss tone, "That doesn't suit you, Ip-chan. な に 、 自分 だって 、 真 夏 に 毛糸 の セエター を 着て 歩く ほど 、 いくら 何でも 、 そんな 、 暑 さ 寒 さ を 知ら ぬ お 変人 で は あり ませ ん 。 ||じぶん||まこと|なつ||けいと||||きて|あるく|||なんでも||あつ||さむ|||しら|||へんじん||||| You see, I am not such a hot and cold weather freak that I would walk around in a woolen sweater in the middle of summer. 姉 の 脚絆 ( レギンス ) を 両腕 に はめて 、 浴衣 の 袖口 から 覗か せ 、 以 ( も っ ) て セエター を 着て いる ように 見せかけて いた のです あね||あし きずな|||りょううで|||ゆかた||そでぐち||のぞか||い||||||きて|||みせかけて|| I put my older sister's leg bonds (leggings) in his arms and peered in from the cuffs of the yukata, and he was pretending to be wearing a cetter all the time