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三姉妹探偵団 1, 三姉妹探偵団01 chapter04 (1)

三 姉妹 探偵 団 01 chapter04 (1)

4 休暇 届 は 遅かった

「 こら 、 会計 ! と 夕 里子 が 言った 。 「 金 よこせ ! 「 何 よ 、 理由 が なきゃ 出して や ん ない 」

珠美 は 、 中学校 へ 行く ところ を 捕まって 、 不機嫌だった 。 「 早く して よ 、 遅刻 する じゃ ない の 」

「 電話 代 」

「 だって ── 片瀬 さん と この を 使う んでしょ 。 だったら 、 いい じゃ ない 。 お 金持 な んだ から 」

「 そんな わけ に は いか ない わ よ 。 市 外 な んだ から 」

「 どこ へ かける の ? 「 札幌 」

「 ええ ? 「 パパ が 本当に 札幌 に 泊って なかった か どう か 、 確かめる の 。 だから 一〇〇 番 でかける から 、 お 金 が いる の よ 」

「 いくら ? 「 二千 円 も ありゃ いい わ 」

「 そんなに ? 「 何 軒 かける か 分 ん ない の よ 」

「 分 った わ よ 」

珠美 は 渋々 、 財布 から 千 円 札 を 二 枚 出した 。

「 余ったら 返して よ 」

何しろ ケチ に 徹して いる のである 。

「 じゃあ ね 」

珠美 が 走って 行く の を 、 夕 里子 は 苦笑 し ながら 見送った 。

綾子 は 、 張切って 出社 して 行った らしい 。 珠美 も 、 めげ ず に したたかに やって いる ようだ 。 ── 一向に 事態 は 良く なって い ない が 、 それ でも 夕 里子 は 奇妙に 心 の 和む の を 感じて いた 。

片瀬 家 へ 戻る と 、 敦子 が 鞄 を 手 に 出て 来る ところ で 、

「 夕 里子 、 行か ない の ? 「 当分 休学 」

「 どうして ? 敦子 は 、 ちょっと 奥 の 方 を 気 に して 、「 ね 、 授業 料 なら 、 うち の パパ に 出さ せる わ よ 」

「 違う の よ 」

と 、 夕 里子 は 友人 の 手 を 握った 。 「 ありがとう 。 感謝 し ます わ 」

「 気味 悪い なあ 、 もう 」

「 何 よ ! ── 私 は 、 パパ の 無実 を 晴らす まで 、 学校 に 行か ない の 」

「 夕 里子 が やる の 、 そんな こと 」

「 姉妹 三 人 、 力 を 合わせて ね 。 警察 は パパ を 犯人 に 仕立てて 満足 して んだ もの 。 私 たち が やる 他 ない じゃ ない 」

「 ね 、 私 も 手伝う ! と 、 敦子 が 目 を 輝か せた 。 「 いい でしょ ? 「 だめ 」

「 どうして よ ? 「 敦子 引 張り込んで 、 もしも の こと が あったら 、 お宅 の ご 両親 に 申し訳ない じゃ ない 。 散々 お 世話に なって ん のに さ 」

「 でも ……」

「 休み の 日 に は 、 何 か 頼む かも しれ ない けど 」

「 分 った 」

敦子 は 渋々 肯 いて 、「 犯人 捕まえる の は 、 日曜 か 祭日 に して ね 」

「 そう 巧 く 行く もん です か ! ── 夕 里子 は 、 居間 へ 行く と 、 掃除 を 終えた 敦子 の 母 へ 、

「 電話 、 お 借り し ます 」

と 頭 を 下げた 。

さて 、 メモ を 取り出し 、 書き抜いて 来た 、 札幌 の 主な ホテル の 番号 を 眺める 。 そう 数 は ない が 、 事件 の あった 日 か 、 その 前 から 、 父 が 泊って いた か どう か 、 調べて もらおう と いう のだ 。

訊 いて も 、 果して 教えて くれる もの か どう か 。 ともかく 当って 砕けろ 、 だ 。

「 さて 始める か 」

と 手 を のばした とたん 、 電話 が 鳴り 出した 。 敦子 の 母親 は 、 二 階 を 掃除 して いる らしい 。 仕方なく 、 夕 里子 は 受話器 を 上げた 。

「 はい 、 片瀬 で ございます 」

夕 里子 は 声 が 死んだ 母 そっくり だ と いう こと に なって いる 。 つまり 大人びた 声 な のである 。 特に 電話 で は 取り 澄ました 声 を 出す ので 、 余計 、 大人っぽく なる 。

「 もしもし 、 奥さん だ ね 」

男 の 、 低く 押し殺した 声 だ 。

「 もしもし ? 「 俺 だ よ 」

向 う は 、 こんな 時間 だ から 、 母親 しか い ない と 思って いる のだろう 。

「 あの ……」

と 言って 、 夕 里子 は 言葉 を 切った 。 何 か 相手 の 話し 方 に 、 まともで ない 印象 を 受けた のである 。

「 会い たい んだ よ 」

男 は 低い 声 で 言った 。 「 この前 の ホテル に 来て くれ 。 二 時 に 。 ── 分 った かい ? 「 え 、 ええ ……」

「 来 ない と 旦那 に しゃべる ぜ 。 いい か 」

電話 は 唐突に 切れて しまった 。

夕 里子 は しばらく 受話器 を 握った まま 、 その 場 に 突っ立って いた 。

敦子 の 母 が 顔 を 出して 、

「 夕 里子 さん 、 今 、 電話 が かかった ? 「 え ? あ ── あの 、 間違い です 」

夕 里子 は 急いで 受話器 を 戻した 。

「 そう 」

敦子 の 母 は 、 疑う 様子 も なく 、 掃除 機 を ガラガラ 引きずり ながら 、 あっ ち へ 行って しまった 。 夕 里子 は 、 動 悸 が 鎮まる の を 待って いた 。

今 の 電話 は ……。 初め 、 夕 里子 は 、 よく 手当り次第 に かけて 来る 、 いたずら 電話 か と 思った のである 。 しかし 、 向こう は 「 この前 の ホテル 」 と いい 、「 二 時 に 」 と 言った 。 しかも 、「 来 ない と 旦那 に しゃべる 」 と も ……。

と いう こと は 、 少なくとも 一 度 は 、 あの 男 が 敦子 の 母 と 会って いる と いう こと である 。

「 まさか ! と 、 夕 里子 は 呟いた 。

いや ── 夕 里子 とて 子供 で は ない から 、 いかに 仲 の 良 さ そうな 夫婦 と いえ ども 、 色々 問題 も ある だろう と いう こと は 想像 が つく 。 しかし 、 あの 電話 は 、 どう 見て も まともで は なかった 。 敦子 の 母 が 、 万一 浮気 する に して も 、 あんな 男 に ……。

それにしても 、 どうした もの だろう 、 と 夕 里子 は 考え込んで しまった 。 まさか 敦子 の 母 に 、 今 の 電話 の 内容 を 伝える わけに も いか ない 。

しかし 、 黙って いれば どう なる か ? 当然 敦子 の 母 は 、 ホテル へ 行か ない 。 あの 男 は 、 もし 来 なければ 、 しゃべる 、 と 言って いる のだ 。

夕 里子 が 黙って いる こと で 、 却って 片瀬 家 の 平和 が めちゃくちゃに なる かも しれ ない 。

「 参った なあ ……」

夕 里子 は 頭 を かかえて しまった 。 と たんに また 電話 が 鳴り 出した 。

「 私 が 出る わ 」

今度 は 敦子 の 母 が やって 来た 。 また 今 の 男 だろう か ?

「 はい 。 片瀬 です 。 ── 少々 お 待ち 下さい 」

受話器 を 夕 里子 の 方 へ 差し出して 、「 あなた に よ 」

逆 なら よかった のに 。

「 野上 さん って 女 の 人 」

野上 。 ── 野上 幸代 か 。 父 の 会社 で 親切に して くれた 人 だ 。

「 ああ 、 夕 里子 さん ? 野上 幸代 よ 」

「 昨日 は どうも 」

「 お宅 の 電話 が かかんな いから ── 当り前だ けど ね ── 学校 へ かけて ね 、 担任 の 先生 から そこ を 聞いた の 」

「 どうも ……」

「 昨日 は カッコ良かった じゃ ない ! すっかり 惚れちゃ った わ よ 、 あんた に 。 胸 が スッ と した 。 会社 でも たちまち 大 評判 よ 」

「 そんな こと ──」

「 それ で ね 、 昨日 、 あなた が お 父さん の 休暇 の こと 、 気 に して た でしょ ? 私 、 休暇 届 の つづり を 調べて みた の 」

「 すみません 、 本当に 。 何 か 分 り まして ? 「 ちょっと あんた に 見て ほしい の 。 どうも 佐々 本 さん の 字 と 違う ような の よ ね 」

夕 里子 は 、 胸 が ときめいて 来る の を 感じた 。

「 じゃ 、 そちら へ 行き ます ! 「 うん 、 一 時間 で来 られる ? じゃ 、 会社 の ビル の 前 に 喫茶 店 が ある から 、 そこ へ 」

「 はい ! 元 気 よく 、 夕 里子 は 立ち上り ながら 答えた 。 もう 怪 電話 の こと など 、 どこ か へ 吹っ飛んで いた 。

「── お 仕事 、 いい んです か ? 昨日 、 西川 と 会った 喫茶 店 に 入る と 、 野上 幸代 が 、 まだ 十二 時 前 だ と いう のに 、 サンドイッチ を 食べて いる 。

「 平気 、 平気 」

と モグモグ やり ながら 、「 あんた も ね 、 二十 年 近く も 勤めて ごらん 。 何 やった って 文句 言わ れ なく なる から さ 。 一緒に 食べる ? 「 いいえ 、 結構です 」

夕 里子 は つい 笑って しまった 。 「 それ で 、 休暇 届 の 方 は ──」

「 あ 、 そう か 。 肝心の こと 忘れちゃ いけない ね 」

野上 幸代 は 事務 服 の ポケット から 、 ノート 半分 くらい の 紙 を 取り出した 。 簡易 印刷 と いう の か 、〈 休暇 届 〉 と あって 、 日付 、 理由 を 書く 欄 が あり 、 下 に は 印 を 押す 欄 が 四 つ も 並んで いる 。

「 こんなに ハンコ 押す んです か 」

「 そう 。 上役 は 見 やしない で 、 女の子 が 押す んだ けど ね 。 それ 、 佐々 本 さん の 字 ? 夕 里子 は 、 その 用紙 に 記入 さ れた 〈 氏名 〉 欄 の 〈 佐々 本 周平 〉 と いう 文字 を じっと 見つめた 。 父親 の 字 を 、 そう そう よく 見た こと は ない が ……。

「 似て い ます けど …… でも 、 何 か 違う みたいです 」

「 私 も そう 思った の 。 これ が 他の 伝票 の 字 な の よ 」

野上 幸代 は もう 一 枚 の 伝票 を 取り出した 。

「 これ は 間違い なく 佐々 本 さん の 書いた やつ な の 。 ほら 、 見て 」

夕 里子 は 二 枚 の 伝票 の 字 を 見比べた 。

「 でも 、 そっくり ……」

「 そっくり 過ぎ ない ? 「 え ? 「 どんな 人 だって 、 くせ は ある と して も 、 名前 を 全く 同じに 書く なんて こと 、 ない でしょ ? それ に しちゃ 似 すぎて る ような 気 が する の よ 」

そう 言わ れて みれば 確かに その 通り だ 。

「 それ に 、 ちょっと 変な の は 〈 理由 〉 な の 」

「〈 私用 〉 って なって ます ね 」

「 そう 。 〈 私用 〉 に は 違いない んだ けど ね 。 一 日 ぐらい の 休み なら 〈 私用 〉 で いい けど 、 木 、 金 、 土 と 三 日間 でしょう 。 長い 休み に 〈 私用 〉 と いう 書き 方 を する と 課長 が うるさい の よ ね 」

「 具体 的に 理由 を 書け 、 と いう こと です か 」

「 そう 。 それ に 〈 旅行 〉 なら 、 別に 隠す こと も ない し 、 そう 書いたろう と 思う の よ 」

夕 里子 は 眉 を 寄せて 考え込んだ 。

「 もし …… 誰 か が その 伝票 を 、 父 の 字 を 真似 して 書いた と したら 、〈 旅行 〉 って いう 字 の 見本 が なかった んじゃ ない でしょう か 。 父 は 私 たち を 置いて 旅行 に 出る なんて こと 、 出張 以外 に は あり ませ ん でした から 」

「 そう か ! 〈 私用 〉 なら いくらも ある から ね 。 あんた 頭 が いい ね ! 言わ れ つけ ない こと を 言わ れて 、 夕 里子 は 赤く なった 。

「 それ に 〈 旅 〉 って 字 は 、 ちょっと 真似 する の に 面倒だ よ ね 。 〈 私用 〉 なら 、 そう くせ の ない 字 だし ……」

「 この 二 枚 の 伝票 、 拝借 でき ませ ん か 」

「 いい わ よ 、 どう する の 」

「 警察 で 筆 蹟 を 見て もらおう と 思う んです 」

「 探偵 さん 、 頑張って ね 」

と 、 サンドイッチ に ガブリ と かみつき ながら 、 野上 幸代 は 言った 。

夕 里子 は 、 入り組んだ 住宅 密集 地 を 、 もう 一 時間 以上 も 歩き回って いた 。

「 や だ 、 また 同じ 所 に 出て 来ちゃ った 」

もう 、 この 方向 音痴 ! ── 自分 を ののしって みて も 、 事態 は 一向に よく なら ない のである 。

夕 里子 は 、 水口 淳子 の 家 を 捜して いた 。 被害 者 の 親 に 、 容疑 者 の 娘 が 会う と いう の は 、 どんな もん かしら 、 と 思わ ないで も なかった が 、 なに 、 構 やしない 。 その 点 、 まだ 高校 生 である と いう の が 逃げ道 に なる 。

高校 生 と いう の は 便利である 。 場合 に 応じて 子供 に なったり 、 大人 に なったり できる から だ 。

さて 、 水口 淳子 の 家 だ が ……。 電話 帳 で 住所 を 調べて やって 来た のだ が 、 何しろ 分 ら ない 。 交番 で 訊 こう に も 交番 は ない し 、 通り が かった 人 や 、 その辺 の 店 で 訊 いて も 分 ら ない のだ 。

「 ああ 、 お腹 空いた 」

と 、 夕 里子 は グチ った 。 さっき 野上 幸代 と 一緒に 食べて おけば 良かった な 、 と 後悔 した 。 そう すれば 、 あっ ち が 払って くれた だろう し 。 ── もっとも 、 珠美 から 電話 代 と して 預かった 二千 円 が ある から 、 そう ケチケチ し なく たって いい のだ が 。

しかし 、 これ じゃ どうどう巡り で 、 一向に 辿り着か ない 。 先方 へ 電話 して も いい が 、 自分 が 今 どこ に いる の か 分 ら ない ので は 、 道順 の 訊 きよう も ない 。

夕 里子 は 仕方なく 、 また 歩き 出した 。 ともかく 立ち止まって いて も 目的 地 へ 着か ない こと は 確かである 。

尾 けら れて いる 。 ── 突然 、 夕 里子 は 気付いた 。

足音 が 、 ついて 来る のだ 。

昼 下り 。 住宅 地 は 、 静かだった 。 どこ から か 、 ピアノ の 音 が する 他 は 、 音 らしい 音 も ない 。

よく 晴れて 、 暖 い 日 である 。 こんな 気持 の いい 昼間 に 、 誰 かに 後 を 尾 けら れる なんて 、 と 夕 里子 は 思った 。 大体 美女 が 怪しい 影 に 尾 けら れる の は 、 夜ふけ と 決 って る じゃ ない の !

夕 里子 は 足 を 止めた 。 尾 け て 来る 足音 が ピタリ と 止まる 。 それ は ごく わずかの 差 で 、 自分 の 足音 の エコー かしら 、 と 思う ほど だ が 、 そんな はず は ない 。

また 歩き だす と 、 もう 一 つ の 足音 も それ に 続く 。 歩調 が 違う 。 エコー で は ない のだ 。


三 姉妹 探偵 団 01 chapter04 (1) みっ|しまい|たんてい|だん| Three Sisters Detective Agency 01 chapter04 (1)

4  休暇 届 は 遅かった きゅうか|とどけ||おそかった 4 Vacation notice was late

「 こら 、 会計 ! |かいけい "Hey, accounting! と 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった 「 金 よこせ ! きむ| "Give money! 「 何 よ 、 理由 が なきゃ 出して や ん ない 」 なん||りゆう|||だして||| "What, I will give out without a reason"

珠美 は 、 中学校 へ 行く ところ を 捕まって 、 不機嫌だった 。 たまみ||ちゅうがっこう||いく|||つかまって|ふきげんだった Tomomi was cranky, capturing the place to go to junior high school. 「 早く して よ 、 遅刻 する じゃ ない の 」 はやく|||ちこく|||| "Do it early, not late."

「 電話 代 」 でんわ|だい " Telephone bill "

「 だって ── 片瀬 さん と この を 使う んでしょ 。 |かたせ|||||つかう| "Because ──-you use this with Katase-san. だったら 、 いい じゃ ない 。 If so, it is not good. お 金持 な んだ から 」 |かねもち||| We are rich. "

「 そんな わけ に は いか ない わ よ 。 "That is not the case. 市 外 な んだ から 」 し|がい||| It's out of town. "

「 どこ へ かける の ? "Where are you going?" 「 札幌 」 さっぽろ

「 ええ ? 「 パパ が 本当に 札幌 に 泊って なかった か どう か 、 確かめる の 。 ぱぱ||ほんとうに|さっぽろ||とまって|||||たしかめる| "Make sure that Dad really did not stay in Sapporo. だから 一〇〇 番 でかける から 、 お 金 が いる の よ 」 |ひと|ばん||||きむ|||| That is why I have to pay at number one, so I have money. "

「 いくら ? 「 二千 円 も ありゃ いい わ 」 にせん|えん|||| "I wish there were two thousand yen too!"

「 そんなに ? " so much ? 「 何 軒 かける か 分 ん ない の よ 」 なん|のき|||ぶん|||| "I do not know how much it costs to spend."

「 分 った わ よ 」 ぶん||| "I got it."

珠美 は 渋々 、 財布 から 千 円 札 を 二 枚 出した 。 たまみ||しぶしぶ|さいふ||せん|えん|さつ||ふた|まい|だした Shumi reluctantly put out two 1,000-yen bills from his wallet.

「 余ったら 返して よ 」 あまったら|かえして| "If it's over, return it."

何しろ ケチ に 徹して いる のである 。 なにしろ|||てっして|| I am devoted to poor quality anyhow.

「 じゃあ ね 」 " See ya "

珠美 が 走って 行く の を 、 夕 里子 は 苦笑 し ながら 見送った 。 たまみ||はしって|いく|||ゆう|さとご||くしょう|||みおくった Yuko Riko watched with wry smile that Tamami was running.

綾子 は 、 張切って 出社 して 行った らしい 。 あやこ||はりきって|しゅっしゃ||おこなった| Ayako seems to have taken off after hanging out. 珠美 も 、 めげ ず に したたかに やって いる ようだ 。 たまみ|||||||| Suzumi seems to be doing it without hesitation. ── 一向に 事態 は 良く なって い ない が 、 それ でも 夕 里子 は 奇妙に 心 の 和む の を 感じて いた 。 いっこうに|じたい||よく|||||||ゆう|さとご||きみょうに|こころ||なごむ|||かんじて| 一 Although things are not getting better in the meantime, Yuuriko felt strangely calming.

片瀬 家 へ 戻る と 、 敦子 が 鞄 を 手 に 出て 来る ところ で 、 かたせ|いえ||もどる||あつこ||かばん||て||でて|くる|| Returning to Katase family, where Atsuko comes out with a bag,

「 夕 里子 、 行か ない の ? ゆう|さとご|いか|| "Yuuriko, don't you go? 「 当分 休学 」 とうぶん|きゅうがく "Study for a while"

「 どうして ? 敦子 は 、 ちょっと 奥 の 方 を 気 に して 、「 ね 、 授業 料 なら 、 うち の パパ に 出さ せる わ よ 」 あつこ|||おく||かた||き||||じゅぎょう|りょう||||ぱぱ||ださ||| Yuko was concerned about the back of her mind a little and said, "Hey, let 's give it to my dad if it' s the tuition fee."

「 違う の よ 」 ちがう|| "No."

と 、 夕 里子 は 友人 の 手 を 握った 。 |ゆう|さとご||ゆうじん||て||にぎった Yuriko held hands of his friend. 「 ありがとう 。 感謝 し ます わ 」 かんしゃ||| I am grateful "

「 気味 悪い なあ 、 もう 」 きみ|わるい|| "I feel weird, I already do it"

「 何 よ ! なん| " What ! ── 私 は 、 パパ の 無実 を 晴らす まで 、 学校 に 行か ない の 」 わたくし||ぱぱ||むじつ||はらす||がっこう||いか|| -I will not go to school until I clear up my dad 's innocence. "

「 夕 里子 が やる の 、 そんな こと 」 ゆう|さとご||||| "Evening Riko does it, such a thing"

「 姉妹 三 人 、 力 を 合わせて ね 。 しまい|みっ|じん|ちから||あわせて| "The three sisters put their strength together. 警察 は パパ を 犯人 に 仕立てて 満足 して んだ もの 。 けいさつ||ぱぱ||はんにん||したてて|まんぞく||| The police are satisfied by tailoring Dad to the criminal. 私 たち が やる 他 ない じゃ ない 」 わたくし||||た||| We do not have anything else to do "

「 ね 、 私 も 手伝う ! |わたくし||てつだう "Hey, help me too! と 、 敦子 が 目 を 輝か せた 。 |あつこ||め||かがやか| And Reiko made her eyes shine. 「 いい でしょ ? 「 だめ 」

「 どうして よ ? 「 敦子 引 張り込んで 、 もしも の こと が あったら 、 お宅 の ご 両親 に 申し訳ない じゃ ない 。 あつこ|ひ|はりこんで||||||おたく|||りょうしん||もうしわけない|| "If you have drawn me down, I would be sorry to my parents at home. 散々 お 世話に なって ん のに さ 」 さんざん||せわに|||| You are taking care of you carelessly "

「 でも ……」

「 休み の 日 に は 、 何 か 頼む かも しれ ない けど 」 やすみ||ひ|||なん||たのむ|||| "On a day off, I might ask you something."

「 分 った 」 ぶん|

敦子 は 渋々 肯 いて 、「 犯人 捕まえる の は 、 日曜 か 祭日 に して ね 」 あつこ||しぶしぶ|こう||はんにん|つかまえる|||にちよう||さいじつ||| Reiko confessed, "Make it a Sunday or a holiday to catch the criminal"

「 そう 巧 く 行く もん です か ! |こう||いく||| "Is it going to work so well! ── 夕 里子 は 、 居間 へ 行く と 、 掃除 を 終えた 敦子 の 母 へ 、 ゆう|さとご||いま||いく||そうじ||おえた|あつこ||はは| ─ ─ After returning to the living room, Riko Yurimo to Atsuko's mother who finished cleaning,

「 電話 、 お 借り し ます 」 でんわ||かり|| "I'll borrow you by phone"

と 頭 を 下げた 。 |あたま||さげた I lowered my head.

さて 、 メモ を 取り出し 、 書き抜いて 来た 、 札幌 の 主な ホテル の 番号 を 眺める 。 |めも||とりだし|かきぬいて|きた|さっぽろ||おもな|ほてる||ばんごう||ながめる Well, I took out the memo, wrote it out, and looked at the numbers of the main hotels in Sapporo. そう 数 は ない が 、 事件 の あった 日 か 、 その 前 から 、 父 が 泊って いた か どう か 、 調べて もらおう と いう のだ 。 |すう||||じけん|||ひ|||ぜん||ちち||とまって|||||しらべて|||| There is no such number, but I would like to ask him if he had been staying since the day the incident occurred or before that.

訊 いて も 、 果して 教えて くれる もの か どう か 。 じん|||はたして|おしえて||||| Even if you ask, will it be something that will tell you in the end? ともかく 当って 砕けろ 、 だ 。 |あたって|くだけろ| In any case hit it and break it.

「 さて 始める か 」 |はじめる| "Well now?"

と 手 を のばした とたん 、 電話 が 鳴り 出した 。 |て||||でんわ||なり|だした As soon as I lifted my hand, the phone rang. 敦子 の 母親 は 、 二 階 を 掃除 して いる らしい 。 あつこ||ははおや||ふた|かい||そうじ||| Reiko's mother seems to be cleaning the second floor. 仕方なく 、 夕 里子 は 受話器 を 上げた 。 しかたなく|ゆう|さとご||じゅわき||あげた Reluctantly, Yuuriko raised the handset.

「 はい 、 片瀬 で ございます 」 |かたせ|| "Yes, it's Katase."

夕 里子 は 声 が 死んだ 母 そっくり だ と いう こと に なって いる 。 ゆう|さとご||こえ||しんだ|はは|||||||| Riko Yuriko is supposed to be like a mother whose voice died. つまり 大人びた 声 な のである 。 |おとなびた|こえ|| In other words, it is a mature voice. 特に 電話 で は 取り 澄ました 声 を 出す ので 、 余計 、 大人っぽく なる 。 とくに|でんわ|||とり|すました|こえ||だす||よけい|おとなっぽく| Especially on the phone, I have a clear voice, which makes me more mature.

「 もしもし 、 奥さん だ ね 」 |おくさん|| "Hello, you're a wife."

男 の 、 低く 押し殺した 声 だ 。 おとこ||ひくく|おしころした|こえ| It is the voice of the man who killed him low.

「 もしもし ? 「 俺 だ よ 」 おれ|| " It's me "

向 う は 、 こんな 時間 だ から 、 母親 しか い ない と 思って いる のだろう 。 むかい||||じかん|||ははおや|||||おもって|| Because it is such a time, it seems that there is only a mother.

「 あの ……」

と 言って 、 夕 里子 は 言葉 を 切った 。 |いって|ゆう|さとご||ことば||きった Saying that, Yuuriko cut off the word. 何 か 相手 の 話し 方 に 、 まともで ない 印象 を 受けた のである 。 なん||あいて||はなし|かた||||いんしょう||うけた| I got a decent impression on how someone talked.

「 会い たい んだ よ 」 あい||| "I want to meet you"

男 は 低い 声 で 言った 。 おとこ||ひくい|こえ||いった The man said in a low voice. 「 この前 の ホテル に 来て くれ 。 この まえ||ほてる||きて| "Please come to the hotel last time. 二 時 に 。 ふた|じ| ── 分 った かい ? ぶん|| ─ ─ Do you understand? 「 え 、 ええ ……」

「 来 ない と 旦那 に しゃべる ぜ 。 らい|||だんな||| "I will talk to my husband if I don't come. いい か 」 Is that okay?

電話 は 唐突に 切れて しまった 。 でんわ||とうとつに|きれて| The phone was suddenly cut off.

夕 里子 は しばらく 受話器 を 握った まま 、 その 場 に 突っ立って いた 。 ゆう|さとご|||じゅわき||にぎった|||じょう||つったって| Yuriko stood on the spot holding the handset for a while.

敦子 の 母 が 顔 を 出して 、 あつこ||はは||かお||だして A dumpling 's mother came out with a face,

「 夕 里子 さん 、 今 、 電話 が かかった ? ゆう|さとご||いま|でんわ|| "Yuuriko-san, have you called now? 「 え ? あ ── あの 、 間違い です 」 ||まちがい| Oh yeah, that 's a mistake. "

夕 里子 は 急いで 受話器 を 戻した 。 ゆう|さとご||いそいで|じゅわき||もどした Yuriko hurriedly returned the handset.

「 そう 」

敦子 の 母 は 、 疑う 様子 も なく 、 掃除 機 を ガラガラ 引きずり ながら 、 あっ ち へ 行って しまった 。 あつこ||はは||うたがう|ようす|||そうじ|き|||ひきずり|||||おこなって| Sadako's mother went to there while dragging a vacuum cleaner without any doubts. 夕 里子 は 、 動 悸 が 鎮まる の を 待って いた 。 ゆう|さとご||どう|き||しずまる|||まって| Yuuriko was waiting for her to settle down.

今 の 電話 は ……。 いま||でんわ| 初め 、 夕 里子 は 、 よく 手当り次第 に かけて 来る 、 いたずら 電話 か と 思った のである 。 はじめ|ゆう|さとご|||てあたりしだい|||くる||でんわ|||おもった| At first, Yuuriko thought that it was a prank call that often came upon her arrival. しかし 、 向こう は 「 この前 の ホテル 」 と いい 、「 二 時 に 」 と 言った 。 |むこう||この まえ||ほてる|||ふた|じ|||いった However, the other side said "Hotel at the last time" and said "at two o'clock". しかも 、「 来 ない と 旦那 に しゃべる 」 と も ……。 |らい|||だんな|||| Moreover, "I will talk to my husband if I don't come."

と いう こと は 、 少なくとも 一 度 は 、 あの 男 が 敦子 の 母 と 会って いる と いう こと である 。 ||||すくなくとも|ひと|たび|||おとこ||あつこ||はは||あって||||| That means that at least once, that man is meeting with Ms. Ayako's mother.

「 まさか ! "No way! と 、 夕 里子 は 呟いた 。 |ゆう|さとご||つぶやいた And, Yuuriko roared.

いや ── 夕 里子 とて 子供 で は ない から 、 いかに 仲 の 良 さ そうな 夫婦 と いえ ども 、 色々 問題 も ある だろう と いう こと は 想像 が つく 。 |ゆう|さとご||こども||||||なか||よ||そう な|ふうふ||||いろいろ|もんだい||||||||そうぞう|| No-Yu Riko is not a child, so it is imaginable that even a couple who might be good friends may have various problems. しかし 、 あの 電話 は 、 どう 見て も まともで は なかった 。 ||でんわ|||みて|||| However, that telephone was not decent at all. 敦子 の 母 が 、 万一 浮気 する に して も 、 あんな 男 に ……。 あつこ||はは||まんいち|うわき||||||おとこ| Even if your mother's mother cheated by any chance, to such a man ....

それにしても 、 どうした もの だろう 、 と 夕 里子 は 考え込んで しまった 。 |||||ゆう|さとご||かんがえこんで| Even so, Yuriko thought that would be the case. まさか 敦子 の 母 に 、 今 の 電話 の 内容 を 伝える わけに も いか ない 。 |あつこ||はは||いま||でんわ||ないよう||つたえる|||| I can not tell you the contents of the present telephone to Ms. Ayako's mother.

しかし 、 黙って いれば どう なる か ? |だまって|||| But what if it keeps silent? 当然 敦子 の 母 は 、 ホテル へ 行か ない 。 とうぜん|あつこ||はは||ほてる||いか| Naturally, Ms.'s mother does not go to the hotel. あの 男 は 、 もし 来 なければ 、 しゃべる 、 と 言って いる のだ 。 |おとこ|||らい||||いって|| That man is saying if he doesn't come, he speaks.

夕 里子 が 黙って いる こと で 、 却って 片瀬 家 の 平和 が めちゃくちゃに なる かも しれ ない 。 ゆう|さとご||だまって||||かえって|かたせ|いえ||へいわ|||||| The fact that Yuuriko is silent may, on the contrary, destroy the Katase family's peace.

「 参った なあ ……」 まいった| "I'm here ..."

夕 里子 は 頭 を かかえて しまった 。 ゆう|さとご||あたま||| Riko had a head. と たんに また 電話 が 鳴り 出した 。 |||でんわ||なり|だした The phone rang again as soon as possible.

「 私 が 出る わ 」 わたくし||でる| "I'm leaving"

今度 は 敦子 の 母 が やって 来た 。 こんど||あつこ||はは|||きた This time the mother of Reiko came. また 今 の 男 だろう か ? |いま||おとこ|| Will he be a man now?

「 はい 。 片瀬 です 。 かたせ| ── 少々 お 待ち 下さい 」 しょうしょう||まち|ください 待 ち Please wait a bit.

受話器 を 夕 里子 の 方 へ 差し出して 、「 あなた に よ 」 じゅわき||ゆう|さとご||かた||さしだして||| I presented the handset to Yuuriko and said, "I am you."

逆 なら よかった のに 。 ぎゃく||| You should have done it in the reverse.

「 野上 さん って 女 の 人 」 のかみ|||おんな||じん "Mr. Nogami is a woman"

野上 。 のかみ ── 野上 幸代 か 。 のかみ|さちよ| 幸 Yukie Nogami? 父 の 会社 で 親切に して くれた 人 だ 。 ちち||かいしゃ||しんせつに|||じん| He was kind to me at my father's company.

「 ああ 、 夕 里子 さん ? |ゆう|さとご| 野上 幸代 よ 」 のかみ|さちよ| Yukie Nogami "

「 昨日 は どうも 」 きのう|| "Thank you for yesterday"

「 お宅 の 電話 が かかんな いから ── 当り前だ けど ね ── 学校 へ かけて ね 、 担任 の 先生 から そこ を 聞いた の 」 おたく||でんわ||||あたりまえだ|||がっこう||||たんにん||せんせい||||きいた| "I can't call your home phone-but it 's obvious-I went to school, I heard it from my homeroom teacher"

「 どうも ……」

「 昨日 は カッコ良かった じゃ ない ! きのう||かっこいかった|| "Yesterday was cool! すっかり 惚れちゃ った わ よ 、 あんた に 。 |ほれちゃ||||| I was completely in love with you. 胸 が スッ と した 。 むね|||| My chest tired. 会社 でも たちまち 大 評判 よ 」 かいしゃ|||だい|ひょうばん| It's a big reputation right away from the company. "

「 そんな こと ──」 "That's ──"

「 それ で ね 、 昨日 、 あなた が お 父さん の 休暇 の こと 、 気 に して た でしょ ? |||きのう||||とうさん||きゅうか|||き|||| "Well then, did you care about your father 's vacation yesterday? 私 、 休暇 届 の つづり を 調べて みた の 」 わたくし|きゅうか|とどけ||||しらべて|| I examined the spelling of the vacation notice.

「 すみません 、 本当に 。 |ほんとうに "Excuse me, really. 何 か 分 り まして ? なん||ぶん|| Do you understand something? 「 ちょっと あんた に 見て ほしい の 。 |||みて|| "I want you to look at it for a moment. どうも 佐々 本 さん の 字 と 違う ような の よ ね 」 |ささ|ほん|||あざ||ちがう|||| It seems that it is different from Sasamoto's letter, is not it? "

夕 里子 は 、 胸 が ときめいて 来る の を 感じた 。 ゆう|さとご||むね|||くる|||かんじた Yuuriko felt that her chest was coming up.

「 じゃ 、 そちら へ 行き ます ! |||いき| "Well then I will go there! 「 うん 、 一 時間 で来 られる ? |ひと|じかん|でき| "Yeah, can you come in an hour? じゃ 、 会社 の ビル の 前 に 喫茶 店 が ある から 、 そこ へ 」 |かいしゃ||びる||ぜん||きっさ|てん||||| Well, there is a cafe in front of the building of the company so go there "

「 はい ! 元 気 よく 、 夕 里子 は 立ち上り ながら 答えた 。 もと|き||ゆう|さとご||たちのぼり||こたえた Excitingly, Yuuriko answered while rising. もう 怪 電話 の こと など 、 どこ か へ 吹っ飛んで いた 。 |かい|でんわ|||||||ふっとんで| It was already blowing away somewhere, such as a phantom phone.

「── お 仕事 、 いい んです か ? |しごと||| "-Are you good at work? 昨日 、 西川 と 会った 喫茶 店 に 入る と 、 野上 幸代 が 、 まだ 十二 時 前 だ と いう のに 、 サンドイッチ を 食べて いる 。 きのう|にしかわ||あった|きっさ|てん||はいる||のかみ|さちよ|||じゅうに|じ|ぜん|||||さんどいっち||たべて| When I entered a coffee shop meeting with Nishikawa yesterday, although Yukiyo Nogami is still before 12 o'clock, I am eating a sandwich.

「 平気 、 平気 」 へいき|へいき "Happiness, calmness"

と モグモグ やり ながら 、「 あんた も ね 、 二十 年 近く も 勤めて ごらん 。 |もぐもぐ||||||にじゅう|とし|ちかく||つとめて| Mogmogu while doing, "I hope you have been working for nearly two decades. 何 やった って 文句 言わ れ なく なる から さ 。 なん|||もんく|いわ||||| Because I will not be complaining about what I did. 一緒に 食べる ? いっしょに|たべる 「 いいえ 、 結構です 」 |けっこうです

夕 里子 は つい 笑って しまった 。 ゆう|さとご|||わらって| Yuriko just laughed. 「 それ で 、 休暇 届 の 方 は ──」 ||きゅうか|とどけ||かた| "So, if you have a vacation notice ..."

「 あ 、 そう か 。 肝心の こと 忘れちゃ いけない ね 」 かんじんの||わすれちゃ|| I can not forget the important thing "

野上 幸代 は 事務 服 の ポケット から 、 ノート 半分 くらい の 紙 を 取り出した 。 のかみ|さちよ||じむ|ふく||ぽけっと||のーと|はんぶん|||かみ||とりだした Nogami Yukiyo took out half of his notebook paper from his office clothes pocket. 簡易 印刷 と いう の か 、〈 休暇 届 〉 と あって 、 日付 、 理由 を 書く 欄 が あり 、 下 に は 印 を 押す 欄 が 四 つ も 並んで いる 。 かんい|いんさつ|||||きゅうか|とどけ|||ひづけ|りゆう||かく|らん|||した|||いん||おす|らん||よっ|||ならんで| There is a report on vacation, and there is a field for writing the date and reason. There are also four fields for pressing the mark below.

「 こんなに ハンコ 押す んです か 」 ||おす|| "Would you like to press it like this?"

「 そう 。 上役 は 見 やしない で 、 女の子 が 押す んだ けど ね 。 うわやく||み|||おんなのこ||おす||| Do not look at your boss, but girls are pushing. それ 、 佐々 本 さん の 字 ? |ささ|ほん|||あざ That 's Sasamoto' s character? 夕 里子 は 、 その 用紙 に 記入 さ れた 〈 氏名 〉 欄 の 〈 佐々 本 周平 〉 と いう 文字 を じっと 見つめた 。 ゆう|さとご|||ようし||きにゅう|||しめい|らん||ささ|ほん|しゅうへい|||もじ|||みつめた Yuuriko stared at the letter "Sasamoto Shuhei" in the <Name> field on the form. 父親 の 字 を 、 そう そう よく 見た こと は ない が ……。 ちちおや||あざ|||||みた|||| I have never seen the character of my father so well ... ....

「 似て い ます けど …… でも 、 何 か 違う みたいです 」 にて|||||なん||ちがう| "It looks similar but ... but it looks like something is different."

「 私 も そう 思った の 。 わたくし|||おもった| これ が 他の 伝票 の 字 な の よ 」 ||たの|でんぴょう||あざ||| This is the letter of another slip. "

野上 幸代 は もう 一 枚 の 伝票 を 取り出した 。 のかみ|さちよ|||ひと|まい||でんぴょう||とりだした Nojo Yukiyo took out another slip.

「 これ は 間違い なく 佐々 本 さん の 書いた やつ な の 。 ||まちがい||ささ|ほん|||かいた||| "This is definitely the guy Sasamoto-san wrote. ほら 、 見て 」 |みて

夕 里子 は 二 枚 の 伝票 の 字 を 見比べた 。 ゆう|さとご||ふた|まい||でんぴょう||あざ||みくらべた Yuuriko compared the letters of the two slips.

「 でも 、 そっくり ……」 "But, it's exactly ......"

「 そっくり 過ぎ ない ? |すぎ| "Do not you look exactly?" 「 え ? 「 どんな 人 だって 、 くせ は ある と して も 、 名前 を 全く 同じに 書く なんて こと 、 ない でしょ ? |じん||||||||なまえ||まったく|どうじに|かく|||| "Every person, even if there is a habit, do not you write your name exactly the same, do not you? それ に しちゃ 似 すぎて る ような 気 が する の よ 」 |||に||||き|||| I feel like it 's too similar to it. "

そう 言わ れて みれば 確かに その 通り だ 。 |いわ|||たしかに||とおり| If you say so, it is true.

「 それ に 、 ちょっと 変な の は 〈 理由 〉 な の 」 |||へんな|||りゆう|| "And that 's why it' s the reason why it 's a bit strange."

「〈 私用 〉 って なって ます ね 」 しよう|||| "I am supposed to be" for private use "

「 そう 。 〈 私用 〉 に は 違いない んだ けど ね 。 しよう|||ちがいない||| It must be <private> though. 一 日 ぐらい の 休み なら 〈 私用 〉 で いい けど 、 木 、 金 、 土 と 三 日間 でしょう 。 ひと|ひ|||やすみ||しよう||||き|きむ|つち||みっ|にち かん| If it is a day off, it is fine to use it for private use, but it will be three days with trees, money, and soil. 長い 休み に 〈 私用 〉 と いう 書き 方 を する と 課長 が うるさい の よ ね 」 ながい|やすみ||しよう|||かき|かた||||かちょう||||| The section chief is noisy when doing a writing called "private" on a long break. "

「 具体 的に 理由 を 書け 、 と いう こと です か 」 ぐたい|てきに|りゆう||かけ||||| "Can you specifically say why?"

「 そう 。 それ に 〈 旅行 〉 なら 、 別に 隠す こと も ない し 、 そう 書いたろう と 思う の よ 」 ||りょこう||べつに|かくす||||||かいたろう||おもう|| Also if it is a "travel", I will not hide it separately, I think I will write it so.

夕 里子 は 眉 を 寄せて 考え込んだ 。 ゆう|さとご||まゆ||よせて|かんがえこんだ Yuuriko drew her mind and thought.

「 もし …… 誰 か が その 伝票 を 、 父 の 字 を 真似 して 書いた と したら 、〈 旅行 〉 って いう 字 の 見本 が なかった んじゃ ない でしょう か 。 |だれ||||でんぴょう||ちち||あざ||まね||かいた|||りょこう|||あざ||みほん|||||| "If ... ... If someone imitated the fetish by imitating the father's letter, there would have been no sample of the word" travel ". 父 は 私 たち を 置いて 旅行 に 出る なんて こと 、 出張 以外 に は あり ませ ん でした から 」 ちち||わたくし|||おいて|りょこう||でる|||しゅっちょう|いがい||||||| My father had no choice but to travel except for leaving us. "

「 そう か ! 〈 私用 〉 なら いくらも ある から ね 。 しよう||||| In the case of <private use>, there are many. あんた 頭 が いい ね ! |あたま||| You have a good head! 言わ れ つけ ない こと を 言わ れて 、 夕 里子 は 赤く なった 。 いわ||||||いわ||ゆう|さとご||あかく| Evening child became red after being told what I could not say.

「 それ に 〈 旅 〉 って 字 は 、 ちょっと 真似 する の に 面倒だ よ ね 。 ||たび||あざ|||まね||||めんどうだ|| "And the word" travel "is a bother to imitate a bit. 〈 私用 〉 なら 、 そう くせ の ない 字 だし ……」 しよう||||||あざ| In the case of <private use>, it is a unique character ......

「 この 二 枚 の 伝票 、 拝借 でき ませ ん か 」 |ふた|まい||でんぴょう|はいしゃく|||| "Can you borrow this two sheets of documents?"

「 いい わ よ 、 どう する の 」 "Good, what do you do?"

「 警察 で 筆 蹟 を 見て もらおう と 思う んです 」 けいさつ||ふで|あと||みて|||おもう| "I'm going to get a look at a brush at the police station."

「 探偵 さん 、 頑張って ね 」 たんてい||がんばって| "Detective, good luck"

と 、 サンドイッチ に ガブリ と かみつき ながら 、 野上 幸代 は 言った 。 |さんどいっち||||||のかみ|さちよ||いった And, while biting in a sandwich with Gabri, Yukiyo Nogami said.

夕 里子 は 、 入り組んだ 住宅 密集 地 を 、 もう 一 時間 以上 も 歩き回って いた 。 ゆう|さとご||いりくんだ|じゅうたく|みっしゅう|ち|||ひと|じかん|いじょう||あるきまわって| Yuriko was walking around a densely populated residential area for more than an hour.

「 や だ 、 また 同じ 所 に 出て 来ちゃ った 」 |||おなじ|しょ||でて|きちゃ| "Yes, I came to the same place again"

もう 、 この 方向 音痴 ! ||ほうこう|おんち Another direction deaf this direction! ── 自分 を ののしって みて も 、 事態 は 一向に よく なら ない のである 。 じぶん|||||じたい||いっこうに|||| ─ ─ I did not feel well at all, even if I looked in on himself.

夕 里子 は 、 水口 淳子 の 家 を 捜して いた 。 ゆう|さとご||みずぐち|あつこ||いえ||さがして| Yuuriko was searching for the house of Mizuguchi Ayako. 被害 者 の 親 に 、 容疑 者 の 娘 が 会う と いう の は 、 どんな もん かしら 、 と 思わ ないで も なかった が 、 なに 、 構 やしない 。 ひがい|もの||おや||ようぎ|もの||むすめ||あう|||||||||おもわ||||||かま| It didn't seem like that the victim's parents would see the suspect's daughter meet, but I didn't think anything about it. その 点 、 まだ 高校 生 である と いう の が 逃げ道 に なる 。 |てん||こうこう|せい||||||にげみち|| In that respect, being a high school student is still an escape.

高校 生 と いう の は 便利である 。 こうこう|せい|||||べんりである It is convenient to say high school students. 場合 に 応じて 子供 に なったり 、 大人 に なったり できる から だ 。 ばあい||おうじて|こども|||おとな||||| It can be a child or become an adult according to the case.

さて 、 水口 淳子 の 家 だ が ……。 |みずぐち|あつこ||いえ|| Well, it's Juko Mizuguchi's house .... 電話 帳 で 住所 を 調べて やって 来た のだ が 、 何しろ 分 ら ない 。 でんわ|ちょう||じゅうしょ||しらべて||きた|||なにしろ|ぶん|| I came to look up the address in the phonebook, but I can't tell anything. 交番 で 訊 こう に も 交番 は ない し 、 通り が かった 人 や 、 その辺 の 店 で 訊 いて も 分 ら ない のだ 。 こうばん||じん||||こうばん||||とおり|||じん||そのへん||てん||じん|||ぶん||| There is no police box in the police box, nor is it possible to see in the people who walk along the street or in the shops nearby.

「 ああ 、 お腹 空いた 」 |おなか|あいた "Oh, I was hungry."

と 、 夕 里子 は グチ った 。 |ゆう|さとご||| And, Yuuriko was nervous. さっき 野上 幸代 と 一緒に 食べて おけば 良かった な 、 と 後悔 した 。 |のかみ|さちよ||いっしょに|たべて||よかった|||こうかい| I regretted that it would be nice if I had eaten with Yukie Nogami. そう すれば 、 あっ ち が 払って くれた だろう し 。 |||||はらって||| Then I would have paid for it. ── もっとも 、 珠美 から 電話 代 と して 預かった 二千 円 が ある から 、 そう ケチケチ し なく たって いい のだ が 。 |たまみ||でんわ|だい|||あずかった|にせん|えん||||||||||| も っ と も However, because there is a thousand yen that I have deposited as a telephone bill from Suzumi, I wish I had not done so much.

しかし 、 これ じゃ どうどう巡り で 、 一向に 辿り着か ない 。 |||どうどうめぐり||いっこうに|たどりつか| However, this is how I went around and I could not arrive at the other end. 先方 へ 電話 して も いい が 、 自分 が 今 どこ に いる の か 分 ら ない ので は 、 道順 の 訊 きよう も ない 。 せんぽう||でんわ|||||じぶん||いま||||||ぶん|||||みちじゅん||じん||| You may call the other party, but if you do not know where you are now, you will not be able to get directions.

夕 里子 は 仕方なく 、 また 歩き 出した 。 ゆう|さとご||しかたなく||あるき|だした Yuriko walked out again without help. ともかく 立ち止まって いて も 目的 地 へ 着か ない こと は 確かである 。 |たちどまって|||もくてき|ち||つか||||たしかである At any rate, it is true that you can not reach the destination even if you stop.

尾 けら れて いる 。 お||| I have been scolded. ── 突然 、 夕 里子 は 気付いた 。 とつぜん|ゆう|さとご||きづいた 突然 Suddenly, Yuriko noticed.

足音 が 、 ついて 来る のだ 。 あしおと|||くる| The footsteps are coming.

昼 下り 。 ひる|くだり Afternoon. 住宅 地 は 、 静かだった 。 じゅうたく|ち||しずかだった The residential area was quiet. どこ から か 、 ピアノ の 音 が する 他 は 、 音 らしい 音 も ない 。 |||ぴあの||おと|||た||おと||おと|| From anywhere, there are no sounds that sound like sounds other than the sound of the piano.

よく 晴れて 、 暖 い 日 である 。 |はれて|だん||ひ| It is sunny and warm day. こんな 気持 の いい 昼間 に 、 誰 かに 後 を 尾 けら れる なんて 、 と 夕 里子 は 思った 。 |きもち|||ひるま||だれ||あと||お|||||ゆう|さとご||おもった Yuriko thought that this kind of pleasant daytime could be followed by someone. 大体 美女 が 怪しい 影 に 尾 けら れる の は 、 夜ふけ と 決 って る じゃ ない の ! だいたい|びじょ||あやしい|かげ||お|||||よふけ||けっ||||| The fact that a beautiful woman is caught by a suspicious shadow is determined to be a night shoot!

夕 里子 は 足 を 止めた 。 ゆう|さとご||あし||とどめた Yuriko stopped her leg. 尾 け て 来る 足音 が ピタリ と 止まる 。 お|||くる|あしおと||ぴたり||とまる The footsteps coming from the tail stop right away. それ は ごく わずかの 差 で 、 自分 の 足音 の エコー かしら 、 と 思う ほど だ が 、 そんな はず は ない 。 ||||さ||じぶん||あしおと|||||おもう||||||| It's a slight difference, and I think it's an echo of my footsteps, but that's not the case.

また 歩き だす と 、 もう 一 つ の 足音 も それ に 続く 。 |あるき||||ひと|||あしおと||||つづく If you start walking again, another footsteps will follow. 歩調 が 違う 。 ほちょう||ちがう My pace is different. エコー で は ない のだ 。 It is not an echo.