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或る女 - 有島武郎(アクセス), 7.2 或る女

7.2 或る 女

内田 の 細 君 は 自分 より はるか 年下 の 葉子 の 言葉 を しみじみ と 聞いて いる らしかった 。 葉子 は 葉子 で しみじみ と 細 君 の 身なり を 見 ないで はいら れ なかった 。 一昨日 あたり 結った まま の 束 髪 だった 。 癖 の ない 濃い 髪 に は 薪 の 灰 らしい 灰 が たかって いた 。 糊 気 の ぬけ きった 単 衣 も 物さびしかった 。 その 柄 の 細かい 所 に は 里 の 母 の 着 古し と いう ような 香 いが した 。 由緒 ある 京都 の 士族 に 生まれた その 人 の 皮膚 は 美しかった 。 それ が なおさら その 人 を あわれに して 見せた 。 ・・

「 他人 の 事 なぞ 考えて いられ やしない 」 しばらく する と 葉子 は 捨てばち に こんな 事 を 思った 。 そして 急に はずんだ 調子 に なって 、・・

「 わたし あす アメリカ に 発 ちます の 、 ひと り で 」・・ と 突 拍子 も なく いった 。 あまり の 不意に 細 君 は 目 を 見張って 顔 を あげた 。 ・・

「 まあ ほんとうに 」・・

「 は あ ほんとうに …… しかも 木村 の 所 に 行く ように なりました の 。 木村 、 御存じ でしょう 」・・

細 君 が うなずいて なお 仔細 を 聞こう と する と 、 葉子 は 事もなげに さえぎって 、・・

「 だから きょう は お 暇乞い の つもり でした の 。 それ でも そんな 事 は どうでも よう ございます わ 。 おじさん が お 帰り に なったら よろしく おっしゃって ください まし 、 葉子 は どんな 人間 に なり下がる かも しれませんって …… あなた どうぞ お からだ を お 大事 に 。 太郎 さん は まだ 学校 で ございます か 。 大きく お なり でしょう ね 。 なん ぞ 持って 上がれば よかった のに 、 用 が こんな もの です から 」・・

と いい ながら 両手 で 大きな 輪 を 作って 見せて 、 若々しく ほほえみ ながら 立ち上がった 。 ・・

玄関 に 送って 出た 細 君 の 目 に は 涙 が たまって いた 。 それ を 見る と 、 人 は よく 無意味な 涙 を 流す もの だ と 葉子 は 思った 。 けれども あの 涙 も 内田 が 無理 無 体 に しぼり出さ せる ような もの だ と 思い 直す と 、 心臓 の 鼓動 が 止まる ほど 葉子 の 心 は かっと なった 。 そして 口 び る を 震わし ながら 、・・

「 もう 一言 おじさん に おっしゃって ください まし 、 七 度 を 七十 倍 は なさら ず と も 、 せめて 三 度 ぐらい は 人 の 尤 も 許して 上げて ください ましって 。 …… もっとも これ は 、 あなた の お ため に 申します の 。 わたし は だれ に あやまって いただく の も いやです し 、 だれ に あやまる の も いやな 性分 な んです から 、 おじさん に 許して いただこう と は 頭から 思って など い は しません の 。 それ も ついでに おっしゃって ください まし 」・・

口 の はた に 戯談 らしく 微笑 を 見せ ながら 、 そう いって いる うち に 、 大 濤 が ど す ん ど す ん と 横隔膜 に つきあたる ような 心地 が して 、 鼻血 でも 出 そうに 鼻 の 孔 が ふさがった 。 門 を 出る 時 も 口 び る は なお くやし そうに 震えて いた 。 日 は 植物 園 の 森 の 上 に 舂 いて 、 暮れ がた 近い 空気 の 中 に 、 けさ から 吹き出して いた 風 は なぎ た 。 葉子 は 今 の 心 と 、 けさ 早く 風 の 吹き 始めた ころ に 、 土蔵 わき の 小 部屋 で 荷造り を した 時 の 心 と を くらべて 見て 、 自分 ながら 同じ 心 と は 思い 得 なかった 。 そして 門 を 出て 左 に 曲がろう と して ふと 道ばた の 捨て石 に け つまずいて 、 はっと 目 が さめた ように あたり を 見回した 。 やはり 二十五 の 葉子 である 。 い ゝ え 昔 たしかに 一 度 け つまずいた 事 が あった 。 そう 思って 葉子 は 迷信 家 の ように もう 一 度 振り返って 捨て石 を 見た 。 その 時 に 日 は …… やはり 植物 園 の 森 の あの へんに あった 。 そして 道 の 暗 さ も この くらい だった 。 自分 は その 時 、 内田 の 奥さん に 内田 の 悪 口 を いって 、 ペテロ と キリスト と の 間 に 取りかわさ れた 寛 恕 に 対する 問答 を 例 に 引いた 。 い ゝ え 、 それ は きょうした 事 だった 。 きょう 意味 の ない 涙 を 奥さん が こぼした ように 、 その 時 も 奥さん は 意味 の ない 涙 を こぼした 。 その 時 に も 自分 は 二十五 …… そんな 事 は ない 。 そんな 事 の あろう はず が ない …… 変な ……。 それにしても あの 捨て石 に は 覚え が ある 。 あれ は 昔 から あす こ に ちゃんと あった 。 こう 思い 続けて 来る と 、 葉子 は 、 いつか 母 と 遊び に 来た 時 、 何 か 怒って その 捨て石 に かじり付いて 動か なかった 事 を まざまざ と 心 に 浮かべた 。 その 時 は 大きな 石 だ と 思って いた のに こ れ ん ぼっち の 石 な の か 。 母 が 当惑 して 立った 姿 が はっきり 目先 に 現われた 。 と 思う と やがて その 輪郭 が 輝き 出して 、 目 も 向けられ ない ほど 耀 いた が 、 すっと 惜し げ も なく 消えて しまって 、 葉子 は 自分 の からだ が 中 有 から どっしり 大地 に おり立った ような 感じ を 受けた 。 同時に 鼻血 が ど くどく 口 から 顎 を 伝って 胸 の 合わせ 目 を よごした 。 驚いて ハンケチ を 袂 から 探り 出そう と した 時 、・・

「 どうか なさ いました か 」・・ と いう 声 に 驚か されて 、 葉子 は 始めて 自分 の あと に 人力車 が ついて 来て いた のに 気 が 付いた 。 見る と 捨て石 の ある 所 は もう 八九 町 後ろ に なって いた 。 ・・

「 鼻血 な の 」・・

と 応え ながら 葉子 は 初めて の ように あたり を 見た 。 そこ に は 紺 暖簾 を 所 せまく かけ渡した 紙屋 の 小 店 が あった 。 葉子 は 取りあえず そこ に は いって 、 人目 を 避け ながら 顔 を 洗わ して もらおう と した 。 ・・

四十 格好 の 克明 らしい 内 儀 さん が わが 事 の ように 金 盥 に 水 を 移して 持って 来て くれた 。 葉子 は それ で 白 粉 気 の ない 顔 を 思う存分 に 冷やした 。 そして 少し 人心地 が ついた ので 、 帯 の 間 から 懐中 鏡 を 取り出して 顔 を 直そう と する と 、 鏡 が いつのまにか ま 二 つ に 破れて いた 。 先刻 け つまずいた 拍子 に 破れた の か しら ん と 思って みた が 、 それ くらい で 破れる はず は ない 。 怒り に 任せて 胸 が かっと なった 時 、 破れた のだろう か 。 なんだか そう らしく も 思えた 。 それとも あす の 船出 の 不吉 を 告げる 何 か の 業 かも しれ ない 。 木村 と の 行く末 の 破滅 を 知らせる 悪い 辻 占 かも しれ ない 。 また そう 思う と 葉子 は 襟 元 に 凍った 針 でも 刺さ れる ように 、 ぞくぞく と わけ の わから ない 身ぶるい を した 。 いったい 自分 は どう なって 行く のだろう 。 葉子 は これ まで の 見 窮められ ない 不思議な 自分 の 運命 を 思う に つけ 、 これ から 先 の 運命 が 空恐ろしく 心 に 描か れた 。 葉子 は 不安な 悒鬱 な 目つき を して 店 を 見回した 。 帳場 に すわり込んだ 内 儀 さん の 膝 に もたれて 、 七 つ ほど の 少女 が 、 じっと 葉子 の 目 を 迎えて 葉子 を 見つめて いた 。 やせぎす で 、 痛々しい ほど 目 の 大きな 、 そのくせ 黒 目 の 小さな 、 青白い 顔 が 、 薄暗い 店 の 奥 から 、 香料 や 石 鹸 の 香 に つつまれて 、 ぼんやり 浮き出た ように 見える の が 、 何 か 鏡 の 破れた の と 縁 で も ある らしく ながめられた 。 葉子 の 心 は 全く ふだん の 落ち付き を 失って しまった ように わくわく して 、 立って も すわって も いられ ない ように なった 。 ばかな と 思い ながら こわい もの に でも 追いすがら れる ようだった 。 ・・

しばらく の 間 葉子 は この 奇怪な 心 の 動揺 の ため に 店 を 立ち去る 事 も し ないで たたずんで いた が 、 ふと どうにでも なれ と いう 捨てばち な 気 に なって 元気 を 取り 直し ながら 、 いくらか の 礼 を して そこ を 出た 。 出る に は 出た が 、 もう 車 に 乗る 気 に も なれ なかった 。 これ から 定子 に 会い に 行って よそ ながら 別れ を 惜しもう と 思って いた その 心 組み さえ 物 憂 かった 。 定子 に 会った ところ が どう なる もの か 。 自分 の 事 すら 次の 瞬間 に は 取りとめ も ない もの を 、 他人 の 事 ―― それ は よし 自分 の 血 を 分けた 大切な 独 子 であろう と も ―― など を 考える だけ が ばかな 事 だ と 思った 。 そして もう 一 度 そこ の 店 から 巻紙 を 買って 、 硯箱 を 借りて 、 男 恥ずかしい 筆跡 で 、 出発 前 に もう 一 度 乳母 を 訪れる つもりだった が 、 それ が でき なく なった から 、 この後 と も 定子 を よろしく 頼む 。 当座 の 費用 と して 金 を 少し 送って おく と いう 意味 を 簡単に したためて 、 永田 から 送って よこした 為替 の 金 を 封 入 して 、 その 店 を 出た 。 そして いきなり そこ に 待ち 合わして いた 人力車 の 上 の 膝 掛け を はぐって 、 蹴 込み に 打ち付けて ある 鑑札 に しっかり 目 を 通して おいて 、・・ 「 わたし は これ から 歩いて 行く から 、 この 手紙 を ここ へ 届けて おくれ 、 返事 は いら ない のだ から …… お 金 です よ 、 少し どっさり ある から 大事に して ね 」・・ と 車 夫 に いいつけた 。 車 夫 は ろくに 見 知り も ない もの に 大金 を 渡して 平気で いる 女 の 顔 を 今さら の ように きょ と きょ と と 見 やり ながら 空 俥 を 引いて 立ち去った 。 大八車 が 続け さま に 田舎 に 向いて 帰って 行く 小石川 の 夕暮れ の 中 を 、 葉子 は 傘 を 杖 に し ながら 思い に ふけって 歩いて 行った 。 ・・

こもった 哀愁 が 、 発し ない 酒 の ように 、 葉子 の こめかみ を ちか ちか と 痛めた 。 葉子 は 人力車 の 行く え を 見失って いた 。 そして 自分 で は まっすぐに 釘 店 の ほう に 急ぐ つもりで いた 。 ところが 実際 は 目 に 見え ぬ 力 で 人力車 に 結び付けられ でも した ように 、 知らず知らず 人力車 の 通った とおり の 道 を 歩いて 、 はっと 気 が ついた 時 に は いつのまにか 、 乳母 が 住む 下谷 池 の 端 の 或る 曲がり角 に 来て 立って いた 。 ・・

そこ で 葉子 は ぎょっと して 立ちどまって しまった 。 短く なり まさった 日 は 本郷 の 高台 に 隠れて 、 往来 に は 厨 の 煙 と も 夕靄 と も つか ぬ 薄い 霧 が ただよって 、 街頭 の ランプ の 灯 が ことに 赤く ちらほら ちらほら と と もって いた 。 通り 慣れた この 界隈 の 空気 は 特別な 親し みをもって 葉子 の 皮膚 を なでた 。 心 より も 肉体 の ほう が よけいに 定子 の いる 所 に ひき付けられる ように さえ 思えた 。 葉子 の 口 び る は 暖かい 桃 の 皮 の ような 定子 の 頬 の 膚 ざ わりに あこがれた 。 葉子 の 手 は も うめ れ ん す の 弾力 の ある 軟らかい 触 感 を 感じて いた 。 葉子 の 膝 は ふう わりと した 軽い 重み を 覚えて いた 。 耳 に は 子供 の アクセント が 焼き付いた 。 目 に は 、 曲がり角 の 朽ち かかった 黒板 塀 を 透 して 、 木部 から 稟 けた 笑窪 の できる 笑顔 が 否応 なし に 吸い付いて 来た 。 …… 乳房 はくす むったかった 。 葉子 は 思わず 片 頬 に 微笑 を 浮かべて あたり を ぬすむ ように 見回した 。 と ちょうど そこ を 通りかかった 内 儀 さん が 、 何 か を 前掛け の 下 に 隠し ながら じっと 葉子 の 立ち 姿 を 振り返って まで 見て 通る のに 気 が ついた 。 ・・

葉子 は 悪事 でも 働いて いた 人 の ように 、 急に 笑顔 を 引っ込めて しまった 。 そして こそ こそ と そこ を 立ちのいて 不 忍 の 池 に 出た 。 そして 過去 も 未来 も 持た ない 人 の ように 、 池 の 端に つく ねん と 突っ立った まま 、 池 の 中 の 蓮 の 実の 一 つ に 目 を 定めて 、 身動き も せ ず に 小 半時 立ち尽くして いた 。


7.2 或る 女 ある|おんな 7.2 A Woman 7.2 Una mujer

内田 の 細 君 は 自分 より はるか 年下 の 葉子 の 言葉 を しみじみ と 聞いて いる らしかった 。 うちた||ほそ|きみ||じぶん|||としした||ようこ||ことば||||きいて|| 葉子 は 葉子 で しみじみ と 細 君 の 身なり を 見 ないで はいら れ なかった 。 ようこ||ようこ||||ほそ|きみ||みなり||み|||| 一昨日 あたり 結った まま の 束 髪 だった 。 いっさくじつ||ゆった|||たば|かみ| 癖 の ない 濃い 髪 に は 薪 の 灰 らしい 灰 が たかって いた 。 くせ|||こい|かみ|||まき||はい||はい||| 糊 気 の ぬけ きった 単 衣 も 物さびしかった 。 のり|き||||ひとえ|ころも||ものさびしかった その 柄 の 細かい 所 に は 里 の 母 の 着 古し と いう ような 香 いが した 。 |え||こまかい|しょ|||さと||はは||ちゃく|ふるし||||かおり|| 由緒 ある 京都 の 士族 に 生まれた その 人 の 皮膚 は 美しかった 。 ゆいしょ||みやこ||しぞく||うまれた||じん||ひふ||うつくしかった それ が なおさら その 人 を あわれに して 見せた 。 ||||じん||||みせた ・・

「 他人 の 事 なぞ 考えて いられ やしない 」 しばらく する と 葉子 は 捨てばち に こんな 事 を 思った 。 たにん||こと||かんがえて|いら れ|||||ようこ||すてばち|||こと||おもった そして 急に はずんだ 調子 に なって 、・・ |きゅうに||ちょうし||

「 わたし あす アメリカ に 発 ちます の 、 ひと り で 」・・  と 突 拍子 も なく いった 。 ||あめりか||はつ|ち ます||||||つ|ひょうし||| あまり の 不意に 細 君 は 目 を 見張って 顔 を あげた 。 ||ふいに|ほそ|きみ||め||みはって|かお|| ・・

「 まあ ほんとうに 」・・

「 は あ ほんとうに …… しかも 木村 の 所 に 行く ように なりました の 。 ||||きむら||しょ||いく||なり ました| 木村 、 御存じ でしょう 」・・ きむら|ごぞんじ|

細 君 が うなずいて なお 仔細 を 聞こう と する と 、 葉子 は 事もなげに さえぎって 、・・ ほそ|きみ||||しさい||きこう||||ようこ||こともなげに|

「 だから きょう は お 暇乞い の つもり でした の 。 ||||いとまごい|||| それ でも そんな 事 は どうでも よう ございます わ 。 |||こと||||| おじさん が お 帰り に なったら よろしく おっしゃって ください まし 、 葉子 は どんな 人間 に なり下がる かも しれませんって …… あなた どうぞ お からだ を お 大事 に 。 |||かえり|||||||ようこ|||にんげん||なりさがる||しれ ませ ん って|||||||だいじ| 太郎 さん は まだ 学校 で ございます か 。 たろう||||がっこう||| 大きく お なり でしょう ね 。 おおきく|||| なん ぞ 持って 上がれば よかった のに 、 用 が こんな もの です から 」・・ ||もって|あがれば|||よう|||||

と いい ながら 両手 で 大きな 輪 を 作って 見せて 、 若々しく ほほえみ ながら 立ち上がった 。 |||りょうて||おおきな|りん||つくって|みせて|わかわかしく|||たちあがった ・・

玄関 に 送って 出た 細 君 の 目 に は 涙 が たまって いた 。 げんかん||おくって|でた|ほそ|きみ||め|||なみだ||| Tears were welling up in the eyes of the wife when she was sent out to the front door. それ を 見る と 、 人 は よく 無意味な 涙 を 流す もの だ と 葉子 は 思った 。 ||みる||じん|||むいみな|なみだ||ながす||||ようこ||おもった Seeing that, Yoko thought, people often shed meaningless tears. けれども あの 涙 も 内田 が 無理 無 体 に しぼり出さ せる ような もの だ と 思い 直す と 、 心臓 の 鼓動 が 止まる ほど 葉子 の 心 は かっと なった 。 ||なみだ||うちた||むり|む|からだ||しぼりださ||||||おもい|なおす||しんぞう||こどう||とまる||ようこ||こころ||か っと| However, when she reconsidered that those tears were something Uchida forced out of her body, Yoko's heart sank into a rage. そして 口 び る を 震わし ながら 、・・ |くち||||ふるわし| And with a trembling mouth...

「 もう 一言 おじさん に おっしゃって ください まし 、 七 度 を 七十 倍 は なさら ず と も 、 せめて 三 度 ぐらい は 人 の 尤 も 許して 上げて ください ましって 。 |いちげん||||||なな|たび||しちじゅう|ばい|||||||みっ|たび|||じん||ゆう||ゆるして|あげて||まし って "Please say one more thing to your uncle. Even if you don't do seven times seventy times, please forgive people at least three times. …… もっとも これ は 、 あなた の お ため に 申します の 。 ||||||||もうし ます| ... but this is for your sake. わたし は だれ に あやまって いただく の も いやです し 、 だれ に あやまる の も いやな 性分 な んです から 、 おじさん に 許して いただこう と は 頭から 思って など い は しません の 。 ||||||||||||||||しょうぶん||||||ゆるして||||あたまから|おもって||||し ませ ん| I don't like to apologize to anyone, and I don't like to apologize to anyone, so I don't really want to ask my uncle to forgive me. それ も ついでに おっしゃって ください まし 」・・ Please tell me about that as well."

口 の はた に 戯談 らしく 微笑 を 見せ ながら 、 そう いって いる うち に 、 大 濤 が ど す ん ど す ん と 横隔膜 に つきあたる ような 心地 が して 、 鼻血 でも 出 そうに 鼻 の 孔 が ふさがった 。 くち||||ぎだん||びしょう||みせ|||||||だい|とう|||||||||おうかくまく||||ここち|||はなぢ||だ|そう に|はな||あな|| 門 を 出る 時 も 口 び る は なお くやし そうに 震えて いた 。 もん||でる|じ||くち||||||そう に|ふるえて| 日 は 植物 園 の 森 の 上 に 舂 いて 、 暮れ がた 近い 空気 の 中 に 、 けさ から 吹き出して いた 風 は なぎ た 。 ひ||しょくぶつ|えん||しげる||うえ||しょう||くれ||ちかい|くうき||なか||||ふきだして||かぜ||| 葉子 は 今 の 心 と 、 けさ 早く 風 の 吹き 始めた ころ に 、 土蔵 わき の 小 部屋 で 荷造り を した 時 の 心 と を くらべて 見て 、 自分 ながら 同じ 心 と は 思い 得 なかった 。 ようこ||いま||こころ|||はやく|かぜ||ふき|はじめた|||どぞう|||しょう|へや||にづくり|||じ||こころ||||みて|じぶん||おなじ|こころ|||おもい|とく| そして 門 を 出て 左 に 曲がろう と して ふと 道ばた の 捨て石 に け つまずいて 、 はっと 目 が さめた ように あたり を 見回した 。 |もん||でて|ひだり||まがろう||||みちばた||すていし|||||め||||||みまわした やはり 二十五 の 葉子 である 。 |にじゅうご||ようこ| い ゝ え 昔 たしかに 一 度 け つまずいた 事 が あった 。 |||むかし||ひと|たび|||こと|| そう 思って 葉子 は 迷信 家 の ように もう 一 度 振り返って 捨て石 を 見た 。 |おもって|ようこ||めいしん|いえ||||ひと|たび|ふりかえって|すていし||みた その 時 に 日 は …… やはり 植物 園 の 森 の あの へんに あった 。 |じ||ひ|||しょくぶつ|えん||しげる|||| そして 道 の 暗 さ も この くらい だった 。 |どう||あん||||| 自分 は その 時 、 内田 の 奥さん に 内田 の 悪 口 を いって 、 ペテロ と キリスト と の 間 に 取りかわさ れた 寛 恕 に 対する 問答 を 例 に 引いた 。 じぶん|||じ|うちた||おくさん||うちた||あく|くち|||||きりすと|||あいだ||とりかわさ||ひろし|じょ||たいする|もんどう||れい||ひいた い ゝ え 、 それ は きょうした 事 だった 。 ||||||こと| きょう 意味 の ない 涙 を 奥さん が こぼした ように 、 その 時 も 奥さん は 意味 の ない 涙 を こぼした 。 |いみ|||なみだ||おくさん|||||じ||おくさん||いみ|||なみだ|| その 時 に も 自分 は 二十五 …… そんな 事 は ない 。 |じ|||じぶん||にじゅうご||こと|| そんな 事 の あろう はず が ない …… 変な ……。 |こと||||||へんな それにしても あの 捨て石 に は 覚え が ある 。 ||すていし|||おぼえ|| あれ は 昔 から あす こ に ちゃんと あった 。 ||むかし|||||| こう 思い 続けて 来る と 、 葉子 は 、 いつか 母 と 遊び に 来た 時 、 何 か 怒って その 捨て石 に かじり付いて 動か なかった 事 を まざまざ と 心 に 浮かべた 。 |おもい|つづけて|くる||ようこ|||はは||あそび||きた|じ|なん||いかって||すていし||かじりついて|うごか||こと||||こころ||うかべた その 時 は 大きな 石 だ と 思って いた のに こ れ ん ぼっち の 石 な の か 。 |じ||おおきな|いし|||おもって||||||ぼ っち||いし||| 母 が 当惑 して 立った 姿 が はっきり 目先 に 現われた 。 はは||とうわく||たった|すがた|||めさき||あらわれた と 思う と やがて その 輪郭 が 輝き 出して 、 目 も 向けられ ない ほど 耀 いた が 、 すっと 惜し げ も なく 消えて しまって 、 葉子 は 自分 の からだ が 中 有 から どっしり 大地 に おり立った ような 感じ を 受けた 。 |おもう||||りんかく||かがやき|だして|め||むけ られ|||よう|||す っと|おし||||きえて||ようこ||じぶん||||なか|ゆう|||だいち||おりたった||かんじ||うけた 同時に 鼻血 が ど くどく 口 から 顎 を 伝って 胸 の 合わせ 目 を よごした 。 どうじに|はなぢ||||くち||あご||つたって|むね||あわせ|め|| 驚いて ハンケチ を 袂 から 探り 出そう と した 時 、・・ おどろいて|||たもと||さぐり|だそう|||じ

「 どうか なさ いました か 」・・  と いう 声 に 驚か されて 、 葉子 は 始めて 自分 の あと に 人力車 が ついて 来て いた のに 気 が 付いた 。 |な さ|い ました||||こえ||おどろか|さ れて|ようこ||はじめて|じぶん||||じんりきしゃ|||きて|||き||ついた 見る と 捨て石 の ある 所 は もう 八九 町 後ろ に なって いた 。 みる||すていし|||しょ|||はっく|まち|うしろ||| ・・

「 鼻血 な の 」・・ はなぢ||

と 応え ながら 葉子 は 初めて の ように あたり を 見た 。 |こたえ||ようこ||はじめて|||||みた そこ に は 紺 暖簾 を 所 せまく かけ渡した 紙屋 の 小 店 が あった 。 |||こん|のれん||しょ||かけわたした|かみや||しょう|てん|| 葉子 は 取りあえず そこ に は いって 、 人目 を 避け ながら 顔 を 洗わ して もらおう と した 。 ようこ||とりあえず|||||ひとめ||さけ||かお||あらわ|||| ・・

四十 格好 の 克明 らしい 内 儀 さん が わが 事 の ように 金 盥 に 水 を 移して 持って 来て くれた 。 しじゅう|かっこう||こくめい||うち|ぎ||||こと|||きむ|たらい||すい||うつして|もって|きて| 葉子 は それ で 白 粉 気 の ない 顔 を 思う存分 に 冷やした 。 ようこ||||しろ|こな|き|||かお||おもうぞんぶん||ひやした そして 少し 人心地 が ついた ので 、 帯 の 間 から 懐中 鏡 を 取り出して 顔 を 直そう と する と 、 鏡 が いつのまにか ま 二 つ に 破れて いた 。 |すこし|ひとごこち||||おび||あいだ||かいちゅう|きよう||とりだして|かお||なおそう||||きよう||||ふた|||やぶれて| 先刻 け つまずいた 拍子 に 破れた の か しら ん と 思って みた が 、 それ くらい で 破れる はず は ない 。 せんこく|||ひょうし||やぶれた||||||おもって||||||やぶれる||| 怒り に 任せて 胸 が かっと なった 時 、 破れた のだろう か 。 いかり||まかせて|むね||か っと||じ|やぶれた|| なんだか そう らしく も 思えた 。 ||||おもえた それとも あす の 船出 の 不吉 を 告げる 何 か の 業 かも しれ ない 。 |||ふなで||ふきつ||つげる|なん|||ぎょう||| 木村 と の 行く末 の 破滅 を 知らせる 悪い 辻 占 かも しれ ない 。 きむら|||ゆくすえ||はめつ||しらせる|わるい|つじ|うらな||| また そう 思う と 葉子 は 襟 元 に 凍った 針 でも 刺さ れる ように 、 ぞくぞく と わけ の わから ない 身ぶるい を した 。 ||おもう||ようこ||えり|もと||こおった|はり||ささ|||||||||みぶるい|| いったい 自分 は どう なって 行く のだろう 。 |じぶん||||いく| 葉子 は これ まで の 見 窮められ ない 不思議な 自分 の 運命 を 思う に つけ 、 これ から 先 の 運命 が 空恐ろしく 心 に 描か れた 。 ようこ|||||み|きわめ られ||ふしぎな|じぶん||うんめい||おもう|||||さき||うんめい||そらおそろしく|こころ||えがか| 葉子 は 不安な 悒鬱 な 目つき を して 店 を 見回した 。 ようこ||ふあんな|ゆううつ||めつき|||てん||みまわした 帳場 に すわり込んだ 内 儀 さん の 膝 に もたれて 、 七 つ ほど の 少女 が 、 じっと 葉子 の 目 を 迎えて 葉子 を 見つめて いた 。 ちょうば||すわりこんだ|うち|ぎ|||ひざ||もた れて|なな||||しょうじょ|||ようこ||め||むかえて|ようこ||みつめて| やせぎす で 、 痛々しい ほど 目 の 大きな 、 そのくせ 黒 目 の 小さな 、 青白い 顔 が 、 薄暗い 店 の 奥 から 、 香料 や 石 鹸 の 香 に つつまれて 、 ぼんやり 浮き出た ように 見える の が 、 何 か 鏡 の 破れた の と 縁 で も ある らしく ながめられた 。 ||いたいたしい||め||おおきな||くろ|め||ちいさな|あおじろい|かお||うすぐらい|てん||おく||こうりょう||いし|けん||かおり||つつま れて||うきでた||みえる|||なん||きよう||やぶれた|||えん|||||ながめ られた 葉子 の 心 は 全く ふだん の 落ち付き を 失って しまった ように わくわく して 、 立って も すわって も いられ ない ように なった 。 ようこ||こころ||まったく|||おちつき||うしなって|||||たって||||いら れ||| ばかな と 思い ながら こわい もの に でも 追いすがら れる ようだった 。 ||おもい||||||おいすがら|| ・・

しばらく の 間 葉子 は この 奇怪な 心 の 動揺 の ため に 店 を 立ち去る 事 も し ないで たたずんで いた が 、 ふと どうにでも なれ と いう 捨てばち な 気 に なって 元気 を 取り 直し ながら 、 いくらか の 礼 を して そこ を 出た 。 ||あいだ|ようこ|||きかいな|こころ||どうよう||||てん||たちさる|こと||||||||||||すてばち||き|||げんき||とり|なおし||||れい|||||でた 出る に は 出た が 、 もう 車 に 乗る 気 に も なれ なかった 。 でる|||でた|||くるま||のる|き|||| これ から 定子 に 会い に 行って よそ ながら 別れ を 惜しもう と 思って いた その 心 組み さえ 物 憂 かった 。 ||さだこ||あい||おこなって|||わかれ||おしもう||おもって|||こころ|くみ||ぶつ|ゆう| 定子 に 会った ところ が どう なる もの か 。 さだこ||あった|||||| 自分 の 事 すら 次の 瞬間 に は 取りとめ も ない もの を 、 他人 の 事 ―― それ は よし 自分 の 血 を 分けた 大切な 独 子 であろう と も ―― など を 考える だけ が ばかな 事 だ と 思った 。 じぶん||こと||つぎの|しゅんかん|||とりとめ|||||たにん||こと||||じぶん||ち||わけた|たいせつな|どく|こ||||||かんがえる||||こと|||おもった そして もう 一 度 そこ の 店 から 巻紙 を 買って 、 硯箱 を 借りて 、 男 恥ずかしい 筆跡 で 、 出発 前 に もう 一 度 乳母 を 訪れる つもりだった が 、 それ が でき なく なった から 、 この後 と も 定子 を よろしく 頼む 。 ||ひと|たび|||てん||まきがみ||かって|すずりばこ||かりて|おとこ|はずかしい|ひっせき||しゅっぱつ|ぜん|||ひと|たび|うば||おとずれる|||||||||このあと|||さだこ|||たのむ 当座 の 費用 と して 金 を 少し 送って おく と いう 意味 を 簡単に したためて 、 永田 から 送って よこした 為替 の 金 を 封 入 して 、 その 店 を 出た 。 とうざ||ひよう|||きむ||すこし|おくって||||いみ||かんたんに||ながた||おくって||かわせ||きむ||ふう|はい|||てん||でた そして いきなり そこ に 待ち 合わして いた 人力車 の 上 の 膝 掛け を はぐって 、 蹴 込み に 打ち付けて ある 鑑札 に しっかり 目 を 通して おいて 、・・ 「 わたし は これ から 歩いて 行く から 、 この 手紙 を ここ へ 届けて おくれ 、 返事 は いら ない のだ から …… お 金 です よ 、 少し どっさり ある から 大事に して ね 」・・ ||||まち|あわして||じんりきしゃ||うえ||ひざ|かけ||はぐ って|け|こみ||うちつけて||かんさつ|||め||とおして||||||あるいて|いく|||てがみ||||とどけて||へんじ|||||||きむ|||すこし||||だいじに|| と 車 夫 に いいつけた 。 |くるま|おっと|| 車 夫 は ろくに 見 知り も ない もの に 大金 を 渡して 平気で いる 女 の 顔 を 今さら の ように きょ と きょ と と 見 やり ながら 空 俥 を 引いて 立ち去った 。 くるま|おっと|||み|しり|||||たいきん||わたして|へいきで||おんな||かお||いまさら||||||||み|||から|くるま||ひいて|たちさった 大八車 が 続け さま に 田舎 に 向いて 帰って 行く 小石川 の 夕暮れ の 中 を 、 葉子 は 傘 を 杖 に し ながら 思い に ふけって 歩いて 行った 。 だいはちぐるま||つづけ|||いなか||むいて|かえって|いく|こいしかわ||ゆうぐれ||なか||ようこ||かさ||つえ||||おもい||ふけ って|あるいて|おこなった ・・

こもった 哀愁 が 、 発し ない 酒 の ように 、 葉子 の こめかみ を ちか ちか と 痛めた 。 |あいしゅう||はっし||さけ|||ようこ|||||||いためた 葉子 は 人力車 の 行く え を 見失って いた 。 ようこ||じんりきしゃ||いく|||みうしなって| そして 自分 で は まっすぐに 釘 店 の ほう に 急ぐ つもりで いた 。 |じぶん||||くぎ|てん||||いそぐ|| ところが 実際 は 目 に 見え ぬ 力 で 人力車 に 結び付けられ でも した ように 、 知らず知らず 人力車 の 通った とおり の 道 を 歩いて 、 はっと 気 が ついた 時 に は いつのまにか 、 乳母 が 住む 下谷 池 の 端 の 或る 曲がり角 に 来て 立って いた 。 |じっさい||め||みえ||ちから||じんりきしゃ||むすびつけ られ||||しらずしらず|じんりきしゃ||かよった|||どう||あるいて||き|||じ||||うば||すむ|したや|いけ||はし||ある|まがりかど||きて|たって| ・・

そこ で 葉子 は ぎょっと して 立ちどまって しまった 。 ||ようこ||||たちどまって| 短く なり まさった 日 は 本郷 の 高台 に 隠れて 、 往来 に は 厨 の 煙 と も 夕靄 と も つか ぬ 薄い 霧 が ただよって 、 街頭 の ランプ の 灯 が ことに 赤く ちらほら ちらほら と と もって いた 。 みじかく|||ひ||ほんごう||たかだい||かくれて|おうらい|||ず||けむり|||ゆうもや|||||うすい|きり|||がいとう||らんぷ||とう|||あかく|||||| 通り 慣れた この 界隈 の 空気 は 特別な 親し みをもって 葉子 の 皮膚 を なでた 。 とおり|なれた||かいわい||くうき||とくべつな|したし||ようこ||ひふ|| 心 より も 肉体 の ほう が よけいに 定子 の いる 所 に ひき付けられる ように さえ 思えた 。 こころ|||にくたい|||||さだこ|||しょ||ひきつけ られる|||おもえた 葉子 の 口 び る は 暖かい 桃 の 皮 の ような 定子 の 頬 の 膚 ざ わりに あこがれた 。 ようこ||くち||||あたたかい|もも||かわ|||さだこ||ほお||はだ||| 葉子 の 手 は も うめ れ ん す の 弾力 の ある 軟らかい 触 感 を 感じて いた 。 ようこ||て||||||||だんりょく|||やわらかい|さわ|かん||かんじて| 葉子 の 膝 は ふう わりと した 軽い 重み を 覚えて いた 。 ようこ||ひざ|||||かるい|おもみ||おぼえて| 耳 に は 子供 の アクセント が 焼き付いた 。 みみ|||こども||あくせんと||やきついた 目 に は 、 曲がり角 の 朽ち かかった 黒板 塀 を 透 して 、 木部 から 稟 けた 笑窪 の できる 笑顔 が 否応 なし に 吸い付いて 来た 。 め|||まがりかど||くち||こくばん|へい||とおる||きべ||りん||えくぼ|||えがお||いやおう|||すいついて|きた …… 乳房 はくす むったかった 。 ちぶさ||むっ たかった 葉子 は 思わず 片 頬 に 微笑 を 浮かべて あたり を ぬすむ ように 見回した 。 ようこ||おもわず|かた|ほお||びしょう||うかべて|||||みまわした と ちょうど そこ を 通りかかった 内 儀 さん が 、 何 か を 前掛け の 下 に 隠し ながら じっと 葉子 の 立ち 姿 を 振り返って まで 見て 通る のに 気 が ついた 。 ||||とおりかかった|うち|ぎ|||なん|||まえかけ||した||かくし|||ようこ||たち|すがた||ふりかえって||みて|とおる||き|| ・・

葉子 は 悪事 でも 働いて いた 人 の ように 、 急に 笑顔 を 引っ込めて しまった 。 ようこ||あくじ||はたらいて||じん|||きゅうに|えがお||ひっこめて| そして こそ こそ と そこ を 立ちのいて 不 忍 の 池 に 出た 。 ||||||たちのいて|ふ|おし||いけ||でた そして 過去 も 未来 も 持た ない 人 の ように 、 池 の 端に つく ねん と 突っ立った まま 、 池 の 中 の 蓮 の 実の 一 つ に 目 を 定めて 、 身動き も せ ず に 小 半時 立ち尽くして いた 。 |かこ||みらい||もた||じん|||いけ||はしたに||||つったった||いけ||なか||はす||じつの|ひと|||め||さだめて|みうごき|||||しょう|はんとき|たちつくして|