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或る女 - 有島武郎(アクセス), 41.1 或る女

41.1 或る 女

階子 段 の 上がり 口 に は 愛子 が 姉 を 呼び に 行こう か 行く まい か と 思案 する らしく 立って いた 。 そこ を 通り抜けて 自分 の 部屋 に 来て 見る と 、 胸 毛 を あらわに 襟 を ひろげて 、 セル の 両 袖 を 高々 と まくり 上げた 倉地 が 、 あぐら を かいた まま 、 電灯 の 灯 の 下 に 熟 柿 の ように 赤く なって こっち を 向いて 威 丈 高 に なって いた 。 古藤 は 軍服 の 膝 を きちんと 折って まっすぐ に 固く すわって 、 葉子 に は 後ろ を 向けて いた 。 それ を 見る と もう 葉子 の 神経 は びりびり と 逆 立って 自分 ながら どう しよう も ない ほど 荒れ すさんで 来て いた 。 「 何もかも いやだ 、 どうでも 勝手に なる が いい 。」 する と すぐ 頭 が 重く かぶさって 来て 、 腹部 の 鈍痛 が 鉛 の 大きな 球 の ように 腰 を しいたげた 。 それ は 二 重 に 葉子 を いらいら さ せた 。 ・・

「 あなた 方 は いったい 何 を そんなに いい合って いらっしゃる の 」・・

もう そこ に は 葉子 は タクト を 用いる 余裕 さえ 持って い なかった 。 始終 腹 の 底 に 冷静 さ を 失わ ないで 、 あらん限り の 表情 を 勝手に 操縦 して どんな 難関 でも 、 葉子 に 特有な しかた で 切り開いて 行く そんな 余裕 は その 場 に は とても 出て 来 なかった 。 ・・

「 何 を と いって この 古藤 と いう 青年 は あまり 礼儀 を わきまえ ん から よ 。 木村 さん の 親友 親友 と 二 言 目 に は 鼻 に かけた ような 事 を い わる る が 、 わし も わし で 木村 さん から 頼ま れ とる んだ から 、 一 人 よ がり の 事 は い うて もらわ ん でも が いい のだ 。 それ を つべこべ ろくろく あなた の 世話 も 見 ず に おき ながら 、 いい立て なさる ので 、 筋 が 違って いよう と いって 聞か せて 上げた ところ だ 。 古藤 さん 、 あなた 失礼だ が いったい いく つ です 」・・

葉子 に いって 聞か せる でも なくそう いって 、 倉地 は また 古藤 の ほう に 向き直った 。 古藤 は この 侮辱 に 対して 口答え の 言葉 も 出 ない ように 激昂 して 黙って いた 。 ・・

「 答える が 恥ずかしければ しいて も 聞く まい 。 が 、 いずれ 二十 は 過ぎて いられる のだろう 。 二十 過ぎた 男 が あなた の ように 礼儀 を わきまえ ず に 他人 の 生活 の 内輪 に まで 立ち入って 物 を いう は ばか の 証拠 です よ 。 男 が 物 を いう なら 考えて から いう が いい 」・・

そう いって 倉地 は 言葉 の 激昂 して いる 割合 に 、 また 見かけ の いかにも 威 丈 高 な 割合 に 、 充分 の 余裕 を 見せて 、 空 うそぶく ように 打ち水 を した 庭 の ほう を 見 ながら 団 扇 を つかった 。 ・・

古藤 は しばらく 黙って いて から 後ろ を 振り 仰いで 葉子 を 見 やり つつ 、・・

「 葉子 さん …… まあ 、 す 、 すわって ください 」・・

と 少し どもる ように しいて 穏やかに いった 。 葉子 は その 時 始めて 、 われ に も なく それ まで そこ に 突っ立った まま ぼんやり して いた の を 知って 、 自分 に かつて ない ような と ん きょ な 事 を して いた のに 気 が 付いた 。 そして 自分 ながら このごろ は ほんとうに 変だ と 思い ながら 二 人 の 間 に 、 できる だけ 気 を 落ち着けて 座 に ついた 。 古藤 の 顔 を 見る と やや 青ざめて 、 こめかみ の 所 に 太い 筋 を 立てて いた 。 葉子 は その 時分 に なって 始めて 少しずつ 自分 を 回復 して いた 。 ・・

「 古藤 さん 、 倉地 さん は 少し お 酒 を 召し上がった 所 だ から こんな 時 むずかしい お 話 を なさる の は よく ありません でした わ 。 なん です か 知りません けれども 今夜 は もう その お 話 は きれいに やめましょう 。 いかが ? …… また ゆっくり ね …… あ 、 愛さ ん 、 あなた お 二 階 に 行って 縫い かけ を 大急ぎで 仕上げて 置いて ちょうだい 、 ねえさん が あら かた して しまって ある けれども ……」・・

そう いって 先刻 から 逐一 二 人 の 争 論 を きいて いた らしい 愛子 を 階上 に 追い上げた 。 しばらく して 古藤 は ようやく 落ち着いて 自分 の 言葉 を 見いだした ように 、・・

「 倉地 さん に 物 を いった の は 僕 が 間違って いた かも しれません 。 じゃ 倉地 さん を 前 に 置いて あなた に いわ して ください 。 お世辞 でも なんでもなく 、 僕 は 始め から あなた に は 倉地 さん なんか に は ない 誠実な 所 が 、 どこ か に 隠れて いる ように 思って いた んです 。 僕 の いう 事 を その 誠実な 所 で 判断 して ください 」・・

「 まあ きょう は もう いい じゃ ありません か 、 ね 。 わたし 、 あなた の おっしゃろう と する 事 は よっく わかって います わ 。 わたし 決して 仇 や おろそかに は 思って いません ほんとう に 。 わたし だって 考えて は います わ 。 その うち とっくり わたし の ほう から 伺って いただきたい と 思って いた くらい です から それ まで ……」・・

「 きょう 聞いて ください 。 軍隊 生活 を して いる と 三 人 で こうして お 話し する 機会 は そう あり そうに は ありません 。 もう 帰 営 の 時間 が 逼って います から 、 長く お 話 は でき ない けれども …… それ だ から 我慢 して 聞いて ください 」・・

それ なら なんでも 勝手に いって みる が いい 、 仕儀 に よって は 黙って は いない から と いう 腹 を 、 かすかに 皮肉に 開いた 口 び る に 見せて 葉子 は 古藤 に 耳 を かす 態度 を 見せた 。 倉地 は 知らんふり を して 庭 の ほう を 見 続けて いた 。 古藤 は 倉地 を 全く 度外 視 した ように 葉子 の ほう に 向き直って 、 葉子 の 目 に 自分 の 目 を 定めた 。 卒 直 な 明 ら さま な その 目 に は その 場合 に すら 子供 じみ た 羞恥 の 色 を たたえて いた 。 例 の ごとく 古藤 は 胸 の 金 ぼたん を はめたり はずしたり し ながら 、・・

「 僕 は 今 まで 自分 の 因 循 から あなた に 対して も 木村 に 対して も ほんとうに 友情 らしい 友情 を 現わさ なかった の を 恥ずかしく 思います 。 僕 は とうに もっと どうかしなければ いけなかった んです けれども …… 木村 、 木村って 木村 の 事 ばかり いう ようです けれども 、 木村 の 事 を いう の は あなた の 事 を いう の も 同じだ と 僕 は 思う んです が 、 あなた は 今 でも 木村 と 結婚 する 気 が 確かに ある んです か ない んです か 、 倉地 さん の 前 で それ を はっきり 僕 に 聞か せて ください 。 何事 も そこ から 出発 して 行か なければ この 話 は 畢寛 まわり ばかり 回る 事 に なります から 。 僕 は あなた が 木村 と 結婚 する 気 は ない と いわれて も 決して それ を どう と いう んじゃ ありません 。 木村 は 気の毒です 。 あの 男 は 表面 は あんなに 楽天 的に 見えて いて 、 意志 が 強そうだ けれども 、 ずいぶん 涙っぽい ほう だ から 、 その 失望 は 思いやら れます 。 けれども それ だって しかたがない 。 第 一 始め から 無理だった から …… あなた の お 話 の よう なら ……。 しかし 事情 が 事情 だった と は いえ 、 あなた は なぜ いやな らい や と …… そんな 過去 を いった ところ が 始まら ない から やめましょう 。 …… 葉子 さん 、 あなた は ほんとうに 自分 を 考えて みて 、 どこ か 間違って いる と 思った 事 は ありません か 。 誤解 して は 困ります よ 、 僕 は あなた が 間違って いる と いう つもりじゃ ない んです から 。 他人 の 事 を 他人 が 判断 する 事 なんか は でき ない 事 だ けれども 、 僕 は あなた が どこ か 不自然に 見えて いけ ない んです 。 よく 世の中 で は 人生 の 事 は そう 単純に 行く もん じゃ ない と いいます が 、 そうして あなた の 生活 なん ぞ を 見て いる と 、 それ は ごく 外面 的に 見て いる から そう 見える の かも しれ ない けれども 、 実際 ずいぶん 複雑 らしく 思わ れます が 、 そう あるべき 事 な んでしょう か 。 もっと もっと clear に sun - clear に 自分 の 力 だけ の 事 、 徳 だけ の 事 を して 暮らせ そうな もの だ と 僕 自身 は 思う んです が ね …… 僕 に も そう で なく なる 時代 が 来る かも しら ない けれども 、 今 の 僕 と して は そう より 考えられ ない んです 。 一 時 は 混雑 も 来 、 不和 も 来 、 けんか も 来る か は 知れ ない が 、 結局 は そう する より しかたがない と 思います よ 。 あなた の 事 に ついて も 僕 は 前 から そういうふうに はっきり 片づけて しまいたい と 思って いた んです けれど 、 姑息な 心から それ まで に 行か ず と も いい 結果 が 生まれて 来 は し ない か と 思ったり して きょう まで どっちつかずで 過ごして 来た んです 。 しかし もうこ の 以上 僕 に は 我慢 が でき なく なりました 。 ・・

倉地 さん と あなた と 結婚 なさる なら なさる で 木村 も あきらめる より ほか に 道 は ありません 。 木村 に 取って は 苦しい 事 だろう が 、 僕 から 考える と どっちつかずで 煩 悶 して いる の より どれ だけ いい か わかりません 。 だから 倉地 さん に 意向 を 伺おう と すれば 、 倉地 さん は 頭から 僕 を ばかに して 話 を 真 身 に 受けて は くださら ない んです 」・・

「 ばかに さ れる ほう が 悪い の よ 」・・

倉地 は 庭 の ほう から 顔 を 返して 、「 どこ まで ばかに 出来上がった 男 だろう 」 と いう ように 苦笑い を し ながら 古藤 を 見 やって 、 また 知ら ぬ 顔 に 庭 の ほう を 向いて しまった 。 ・・

「 そりゃ そうだ 。 ばかに さ れる 僕 は ばかだろう 。 しかし あなた に は …… あなた に は 僕ら が 持って る 良心 と いう もの が ない んだ 。 それ だけ は ばかで も 僕 に は わかる 。 あなた が ばか と いわ れる の と 、 僕 が 自分 を ばか と 思って いる それ と は 、 意味 が 違います よ 」・・

「 その とおり 、 あなた は ばかだ と 思い ながら 、 どこ か 心 の すみ で 『 何 ばかな もの か 』 と 思い よる し 、 わたし は あなた を 嘘 本 なし に ばか と いう だけ の 相違 が ある よ 」・・

「 あなた は 気の毒な 人 です 」・・

古藤 の 目 に は 怒り と いう より も 、 ある 激しい 感情 の 涙 が 薄く 宿って いた 。 古藤 の 心 の 中 の いちばん 奥深い 所 が 汚さ れ ない まま で 、 ふと 目 から のぞき 出した か と 思わ れる ほど 、 その 涙 を ためた 目 は 一種 の 力 と 清 さ と を 持って いた 。 さすが の 倉地 も その 一言 に は 言葉 を 返す 事 なく 、 不思議 そうに 古藤 の 顔 を 見た 。 葉子 も 思わず 一種 改まった 気分 に なった 。 そこ に は これ まで 見慣れて いた 古藤 は い なく なって 、 その 代わり に ごまかし の きか ない 強い 力 を 持った 一 人 の 純潔な 青年 が ひょっこり 現われ 出た ように 見えた 。 何 を いう か 、 また いつも の ような ありきたりの 道徳 論 を 振り回す と 思い ながら 、 一種 の 軽侮 を もって 黙って 聞いて いた 葉子 は 、 この 一言 で 、 いわば 古藤 を 壁 ぎ わ に 思い 存分 押し付けて いた 倉地 が 手 も なく は じき 返さ れた の を 見た 。 言葉 の 上 や 仕打ち の 上 や で いかに 高圧 的に 出て みて も 、 どう する 事 も でき ない ような 真実 さ が 古藤 から あふれ出て いた 。 それ に 歯 向かう に は 真実で 歯 向かう ほか は ない 。 倉地 は それ を 持ち 合わして いる か どう か 葉子 に は 想像 が つか なかった 。 その 場合 倉地 は しばらく 古藤 の 顔 を 不思議 そうに 見 やった 後 、 平気な 顔 を して 膳 から 杯 を 取り上げて 、 飲み 残して 冷えた 酒 を てれかくし の ように あおり つけた 。 葉子 は この 時 古藤 と こんな 調子 で 向かい合って いる の が 恐ろしくって なら なく なった 。 古藤 の 目の前 で ひょっとすると 今 まで 築いて 来た 生活 が くずれて しまい そうな 危惧 を さえ 感じた 。 で 、 そのまま 黙って 倉地 の まね を する ようだ が 、 平気 を 装い つつ 煙 管 を 取り上げた 。 その 場 の 仕打ち と して は 拙 いや り かた である の を 歯がゆく は 思い ながら 。 ・・

古藤 は しばらく 言葉 を 途 切らして いた が 、 また 改まって 葉子 の ほう に 話しかけた 。 ・・

「 そう 改まら ないで ください 。 その代わり 思った だけ の 事 を いいかげんに して おか ず に 話し合わ せて みて ください 。 いい です か 。 あなた と 倉地 さん と の これ まで の 生活 は 、 僕 みたいな 無 経験 な もの に も 、 疑問 と して 片づけて おく 事 の でき ない ような 事実 を 感じ させる んです 。 それ に 対する あなた の 弁解 は 詭弁 と より 僕 に は 響か なく なりました 。 僕 の 鈍い 直 覚 で すら が そう 考える のです 。 だから この際 あなた と 倉地 さん と の 関係 を 明らかに して 、 あなた から 木村 に 偽り の ない 告白 を して いただきたい んです 。 木村 が 一 人 で 生活 に 苦しみ ながら たとえよう の ない 疑惑 の 中 に もがいて いる の を 少し でも 想像 して みたら …… 今 の あなた に は それ を 要求 する の は 無理 かも しれ ない けれども ……。 第 一 こんな 不安定な 状態 から あなた は 愛子 さん や 貞 世 さん を 救う 義務 が ある と 思います よ 僕 は 。 あなた だけ に 限ら れ ず に 、 四方八方 の 人 の 心 に 響く と いう の は 恐ろしい 事 だ と は ほんとうに あなた に は 思えません か ねえ 。 僕 に は そば で 見て いる だけ でも 恐ろしい が なあ 。 人 に は いつか 総 勘定 を しなければ なら ない 時 が 来る んだ 。 いくら 借り に なって いて も びくとも し ない と いう 自信 も なくって 、 ずるずる べったり に 無 反省 に 借り ばかり 作って いる の は 考えて みる と 不安じゃ ない でしょう か 。 葉子 さん 、 あなた に は 美しい 誠実 が ある んだ 。 僕 は それ を 知っています 。 木村 に だけ は どうした わけ か 別だ けれども 、 あなた は びた一文 でも 借り を して いる と 思う と 寝心地 が 悪い と いう ような 気象 を 持って いる じゃ ありません か 。 それ に 心 の 借金 なら いくら 借金 を して いて も 平気で いられる わけ は ない と 思います よ 。 なぜ あなた は 好んで それ を 踏みにじろう と ばかり して いる んです 。 そんな 情けない 事 ばかり して いて は だめじゃ ありません か 。 …… 僕 は はっきり 思う とおり を いい 現わし 得 ない けれども …… いおう と して いる 事 は わかって くださる でしょう 」


41.1 或る 女 ある|おんな 41.1 Una mujer

階子 段 の 上がり 口 に は 愛子 が 姉 を 呼び に 行こう か 行く まい か と 思案 する らしく 立って いた 。 はしご|だん||あがり|くち|||あいこ||あね||よび||いこう||いく||||しあん|||たって| そこ を 通り抜けて 自分 の 部屋 に 来て 見る と 、 胸 毛 を あらわに 襟 を ひろげて 、 セル の 両 袖 を 高々 と まくり 上げた 倉地 が 、 あぐら を かいた まま 、 電灯 の 灯 の 下 に 熟 柿 の ように 赤く なって こっち を 向いて 威 丈 高 に なって いた 。 ||とおりぬけて|じぶん||へや||きて|みる||むね|け|||えり|||||りょう|そで||たかだか|||あげた|くらち||||||でんとう||とう||した||じゅく|かき|||あかく||||むいて|たけし|たけ|たか||| When I passed through it and came to my room, I saw Kurachi, with his chest hair exposed, his collar wide open, and the sleeves of his cell shirt rolled up high, sitting cross-legged under the light of an electric light, holding ripe persimmons. It turned red like this and looked at me with dignity. 古藤 は 軍服 の 膝 を きちんと 折って まっすぐ に 固く すわって 、 葉子 に は 後ろ を 向けて いた 。 ことう||ぐんぷく||ひざ|||おって|||かたく||ようこ|||うしろ||むけて| それ を 見る と もう 葉子 の 神経 は びりびり と 逆 立って 自分 ながら どう しよう も ない ほど 荒れ すさんで 来て いた 。 ||みる|||ようこ||しんけい||||ぎゃく|たって|じぶん|||||||あれ||きて| 「 何もかも いやだ 、 どうでも 勝手に なる が いい 。」 なにもかも|||かってに||| "I don't want anything, just be yourself." する と すぐ 頭 が 重く かぶさって 来て 、 腹部 の 鈍痛 が 鉛 の 大きな 球 の ように 腰 を しいたげた 。 |||あたま||おもく||きて|ふくぶ||どんつう||なまり||おおきな|たま|||こし|| Immediately, my head felt heavy on me, and a dull pain in my abdomen weighed down my lower back like a big ball of lead. それ は 二 重 に 葉子 を いらいら さ せた 。 ||ふた|おも||ようこ|||| ・・

「 あなた 方 は いったい 何 を そんなに いい合って いらっしゃる の 」・・ |かた|||なん|||いいあって||

もう そこ に は 葉子 は タクト を 用いる 余裕 さえ 持って い なかった 。 ||||ようこ||たくと||もちいる|よゆう||もって|| 始終 腹 の 底 に 冷静 さ を 失わ ないで 、 あらん限り の 表情 を 勝手に 操縦 して どんな 難関 でも 、 葉子 に 特有な しかた で 切り開いて 行く そんな 余裕 は その 場 に は とても 出て 来 なかった 。 しじゅう|はら||そこ||れいせい|||うしなわ||あらんかぎり||ひょうじょう||かってに|そうじゅう|||なんかん||ようこ||とくゆうな|||きりひらいて|いく||よゆう|||じょう||||でて|らい| I didn't have the leeway to open up any obstacle in a way that was peculiar to Yoko, without losing my composure to the depths of my stomach and using as many facial expressions as I could. ・・

「 何 を と いって この 古藤 と いう 青年 は あまり 礼儀 を わきまえ ん から よ 。 なん|||||ことう|||せいねん|||れいぎ||||| "What can I say, this young man named Furuto doesn't know much about etiquette. 木村 さん の 親友 親友 と 二 言 目 に は 鼻 に かけた ような 事 を い わる る が 、 わし も わし で 木村 さん から 頼ま れ とる んだ から 、 一 人 よ がり の 事 は い うて もらわ ん でも が いい のだ 。 きむら|||しんゆう|しんゆう||ふた|げん|め|||はな||||こと||||||||||きむら|||たのま|||||ひと|じん||||こと||||||||| Mr. Kimura's best friend, my best friend, is a second word, but I'm the one who asked Mr. Kimura to do it for me, so I won't ask him to say anything on his own. But it's good. それ を つべこべ ろくろく あなた の 世話 も 見 ず に おき ながら 、 いい立て なさる ので 、 筋 が 違って いよう と いって 聞か せて 上げた ところ だ 。 ||||||せわ||み|||||いいたて|||すじ||ちがって||||きか||あげた|| I've just let you know that I'm on a different line, because you're making a point about it all the time without even looking at your care. 古藤 さん 、 あなた 失礼だ が いったい いく つ です 」・・ ことう|||しつれいだ|||||

葉子 に いって 聞か せる でも なくそう いって 、 倉地 は また 古藤 の ほう に 向き直った 。 ようこ|||きか|||||くらち|||ことう||||むきなおった 古藤 は この 侮辱 に 対して 口答え の 言葉 も 出 ない ように 激昂 して 黙って いた 。 ことう|||ぶじょく||たいして|くちごたえ||ことば||だ|||げきこう||だまって| ・・

「 答える が 恥ずかしければ しいて も 聞く まい 。 こたえる||はずかしければ|||きく| が 、 いずれ 二十 は 過ぎて いられる のだろう 。 ||にじゅう||すぎて|いら れる| 二十 過ぎた 男 が あなた の ように 礼儀 を わきまえ ず に 他人 の 生活 の 内輪 に まで 立ち入って 物 を いう は ばか の 証拠 です よ 。 にじゅう|すぎた|おとこ|||||れいぎ|||||たにん||せいかつ||うちわ|||たちいって|ぶつ||||||しょうこ|| It's proof that you're a fool for a man past twenty to be so disrespectful as you are and to get into the inner circles of other people's lives. 男 が 物 を いう なら 考えて から いう が いい 」・・ おとこ||ぶつ||||かんがえて||||

そう いって 倉地 は 言葉 の 激昂 して いる 割合 に 、 また 見かけ の いかにも 威 丈 高 な 割合 に 、 充分 の 余裕 を 見せて 、 空 うそぶく ように 打ち水 を した 庭 の ほう を 見 ながら 団 扇 を つかった 。 ||くらち||ことば||げきこう|||わりあい|||みかけ|||たけし|たけ|たか||わりあい||じゅうぶん||よゆう||みせて|から|||うちみず|||にわ||||み||だん|おうぎ|| ・・

古藤 は しばらく 黙って いて から 後ろ を 振り 仰いで 葉子 を 見 やり つつ 、・・ ことう|||だまって|||うしろ||ふり|あおいで|ようこ||み||

「 葉子 さん …… まあ 、 す 、 すわって ください 」・・ ようこ|||||

と 少し どもる ように しいて 穏やかに いった 。 |すこし||||おだやかに| 葉子 は その 時 始めて 、 われ に も なく それ まで そこ に 突っ立った まま ぼんやり して いた の を 知って 、 自分 に かつて ない ような と ん きょ な 事 を して いた のに 気 が 付いた 。 ようこ|||じ|はじめて|||||||||つったった|||||||しって|じぶん|||||||||こと|||||き||ついた そして 自分 ながら このごろ は ほんとうに 変だ と 思い ながら 二 人 の 間 に 、 できる だけ 気 を 落ち着けて 座 に ついた 。 |じぶん|||||へんだ||おもい||ふた|じん||あいだ||||き||おちつけて|ざ|| 古藤 の 顔 を 見る と やや 青ざめて 、 こめかみ の 所 に 太い 筋 を 立てて いた 。 ことう||かお||みる|||あおざめて|||しょ||ふとい|すじ||たてて| 葉子 は その 時分 に なって 始めて 少しずつ 自分 を 回復 して いた 。 ようこ|||じぶん|||はじめて|すこしずつ|じぶん||かいふく|| ・・

「 古藤 さん 、 倉地 さん は 少し お 酒 を 召し上がった 所 だ から こんな 時 むずかしい お 話 を なさる の は よく ありません でした わ 。 ことう||くらち|||すこし||さけ||めしあがった|しょ||||じ|||はなし||||||あり ませ ん|| なん です か 知りません けれども 今夜 は もう その お 話 は きれいに やめましょう 。 |||しり ませ ん||こんや|||||はなし|||やめ ましょう いかが ? …… また ゆっくり ね …… あ 、 愛さ ん 、 あなた お 二 階 に 行って 縫い かけ を 大急ぎで 仕上げて 置いて ちょうだい 、 ねえさん が あら かた して しまって ある けれども ……」・・ ||||あいさ||||ふた|かい||おこなって|ぬい|||おおいそぎで|しあげて|おいて|||||||||

そう いって 先刻 から 逐一 二 人 の 争 論 を きいて いた らしい 愛子 を 階上 に 追い上げた 。 ||せんこく||ちくいち|ふた|じん||あらそ|ろん|||||あいこ||かいじょう||おいあげた Saying that, he chased Aiko upstairs, who had apparently been listening to the two of them's disputes for a while. しばらく して 古藤 は ようやく 落ち着いて 自分 の 言葉 を 見いだした ように 、・・ ||ことう|||おちついて|じぶん||ことば||みいだした|

「 倉地 さん に 物 を いった の は 僕 が 間違って いた かも しれません 。 くらち|||ぶつ|||||ぼく||まちがって|||しれ ませ ん じゃ 倉地 さん を 前 に 置いて あなた に いわ して ください 。 |くらち|||ぜん||おいて||||| お世辞 でも なんでもなく 、 僕 は 始め から あなた に は 倉地 さん なんか に は ない 誠実な 所 が 、 どこ か に 隠れて いる ように 思って いた んです 。 おせじ|||ぼく||はじめ|||||くらち||||||せいじつな|しょ|||||かくれて|||おもって|| 僕 の いう 事 を その 誠実な 所 で 判断 して ください 」・・ ぼく|||こと|||せいじつな|しょ||はんだん||

「 まあ きょう は もう いい じゃ ありません か 、 ね 。 ||||||あり ませ ん|| わたし 、 あなた の おっしゃろう と する 事 は よっく わかって います わ 。 ||||||こと||よ っく||い ます| わたし 決して 仇 や おろそかに は 思って いません ほんとう に 。 |けっして|あだ||||おもって|いま せ ん|| わたし だって 考えて は います わ 。 ||かんがえて||い ます| その うち とっくり わたし の ほう から 伺って いただきたい と 思って いた くらい です から それ まで ……」・・ |||||||うかがって|いただき たい||おもって|||||| I've been thinking that I'd like to hear from you sooner or later, so until then..."

「 きょう 聞いて ください 。 |きいて| 軍隊 生活 を して いる と 三 人 で こうして お 話し する 機会 は そう あり そうに は ありません 。 ぐんたい|せいかつ|||||みっ|じん||||はなし||きかい||||そう に||あり ませ ん もう 帰 営 の 時間 が 逼って います から 、 長く お 話 は でき ない けれども …… それ だ から 我慢 して 聞いて ください 」・・ |かえ|いとな||じかん||ひつ って|い ます||ながく||はなし||||||||がまん||きいて|

それ なら なんでも 勝手に いって みる が いい 、 仕儀 に よって は 黙って は いない から と いう 腹 を 、 かすかに 皮肉に 開いた 口 び る に 見せて 葉子 は 古藤 に 耳 を かす 態度 を 見せた 。 |||かってに|||||しぎ||||だまって||||||はら|||ひにくに|あいた|くち||||みせて|ようこ||ことう||みみ|||たいど||みせた 倉地 は 知らんふり を して 庭 の ほう を 見 続けて いた 。 くらち||しらんふり|||にわ||||み|つづけて| 古藤 は 倉地 を 全く 度外 視 した ように 葉子 の ほう に 向き直って 、 葉子 の 目 に 自分 の 目 を 定めた 。 ことう||くらち||まったく|どがい|し|||ようこ||||むきなおって|ようこ||め||じぶん||め||さだめた 卒 直 な 明 ら さま な その 目 に は その 場合 に すら 子供 じみ た 羞恥 の 色 を たたえて いた 。 そつ|なお||あき|||||め||||ばあい|||こども|||しゅうち||いろ||| 例 の ごとく 古藤 は 胸 の 金 ぼたん を はめたり はずしたり し ながら 、・・ れい|||ことう||むね||きむ||||||

「 僕 は 今 まで 自分 の 因 循 から あなた に 対して も 木村 に 対して も ほんとうに 友情 らしい 友情 を 現わさ なかった の を 恥ずかしく 思います 。 ぼく||いま||じぶん||いん|じゅん||||たいして||きむら||たいして|||ゆうじょう||ゆうじょう||あらわさ||||はずかしく|おもい ます "I'm ashamed that I haven't shown true friendship to you or to Kimura because of my own circumstances. 僕 は とうに もっと どうかしなければ いけなかった んです けれども …… 木村 、 木村って 木村 の 事 ばかり いう ようです けれども 、 木村 の 事 を いう の は あなた の 事 を いう の も 同じだ と 僕 は 思う んです が 、 あなた は 今 でも 木村 と 結婚 する 気 が 確かに ある んです か ない んです か 、 倉地 さん の 前 で それ を はっきり 僕 に 聞か せて ください 。 ぼく||||どうかし なければ||||きむら|きむら って|きむら||こと|||||きむら||こと|||||||こと|||||おなじだ||ぼく||おもう|||||いま||きむら||けっこん||き||たしかに|||||||くらち|||ぜん|||||ぼく||きか|| I should have done something more a long time ago, but... Kimura, Kimura seems to only be talking about Kimura, but I think that talking about Kimura is the same as talking about you. But, are you sure that you still want to marry Kimura? Please make it clear to me in front of Mr. Kurachi. 何事 も そこ から 出発 して 行か なければ この 話 は 畢寛 まわり ばかり 回る 事 に なります から 。 なにごと||||しゅっぱつ||いか|||はなし||ひつひろし|||まわる|こと||なり ます| If we don't start from there, this story will just go round and round. 僕 は あなた が 木村 と 結婚 する 気 は ない と いわれて も 決して それ を どう と いう んじゃ ありません 。 ぼく||||きむら||けっこん||き||||いわ れて||けっして|||||||あり ませ ん Even if you say you don't want to marry Kimura, I won't say anything about it. 木村 は 気の毒です 。 きむら||きのどくです あの 男 は 表面 は あんなに 楽天 的に 見えて いて 、 意志 が 強そうだ けれども 、 ずいぶん 涙っぽい ほう だ から 、 その 失望 は 思いやら れます 。 |おとこ||ひょうめん|||らくてん|てきに|みえて||いし||きょうそうだ|||なみだ っぽい|||||しつぼう||おもいやら|れ ます けれども それ だって しかたがない 。 第 一 始め から 無理だった から …… あなた の お 話 の よう なら ……。 だい|ひと|はじめ||むりだった|||||はなし||| しかし 事情 が 事情 だった と は いえ 、 あなた は なぜ いやな らい や と …… そんな 過去 を いった ところ が 始まら ない から やめましょう 。 |じじょう||じじょう|||||||||||||かこ|||||はじまら|||やめ ましょう …… 葉子 さん 、 あなた は ほんとうに 自分 を 考えて みて 、 どこ か 間違って いる と 思った 事 は ありません か 。 ようこ|||||じぶん||かんがえて||||まちがって|||おもった|こと||あり ませ ん| …… Ms. Yoko, have you ever really thought about yourself and felt that something was wrong with you? 誤解 して は 困ります よ 、 僕 は あなた が 間違って いる と いう つもりじゃ ない んです から 。 ごかい|||こまり ます||ぼく||||まちがって||||||| 他人 の 事 を 他人 が 判断 する 事 なんか は でき ない 事 だ けれども 、 僕 は あなた が どこ か 不自然に 見えて いけ ない んです 。 たにん||こと||たにん||はんだん||こと|||||こと|||ぼく||||||ふしぜんに|みえて||| よく 世の中 で は 人生 の 事 は そう 単純に 行く もん じゃ ない と いいます が 、 そうして あなた の 生活 なん ぞ を 見て いる と 、 それ は ごく 外面 的に 見て いる から そう 見える の かも しれ ない けれども 、 実際 ずいぶん 複雑 らしく 思わ れます が 、 そう あるべき 事 な んでしょう か 。 |よのなか|||じんせい||こと|||たんじゅんに|いく|||||いい ます|||||せいかつ||||みて||||||がいめん|てきに|みて||||みえる||||||じっさい||ふくざつ||おもわ|れ ます||||こと||| もっと もっと clear に sun - clear に 自分 の 力 だけ の 事 、 徳 だけ の 事 を して 暮らせ そうな もの だ と 僕 自身 は 思う んです が ね …… 僕 に も そう で なく なる 時代 が 来る かも しら ない けれども 、 今 の 僕 と して は そう より 考えられ ない んです 。 |||||||じぶん||ちから|||こと|とく|||こと|||くらせ|そう な||||ぼく|じしん||おもう||||ぼく|||||||じだい||くる|||||いま||ぼく||||||かんがえ られ|| 一 時 は 混雑 も 来 、 不和 も 来 、 けんか も 来る か は 知れ ない が 、 結局 は そう する より しかたがない と 思います よ 。 ひと|じ||こんざつ||らい|ふわ||らい|||くる|||しれ|||けっきょく|||||||おもい ます| あなた の 事 に ついて も 僕 は 前 から そういうふうに はっきり 片づけて しまいたい と 思って いた んです けれど 、 姑息な 心から それ まで に 行か ず と も いい 結果 が 生まれて 来 は し ない か と 思ったり して きょう まで どっちつかずで 過ごして 来た んです 。 ||こと||||ぼく||ぜん||||かたづけて|しま い たい||おもって||||こそくな|こころから||||いか|||||けっか||うまれて|らい||||||おもったり|||||すごして|きた| I've been wanting to clear things up like that for a long time about you too, but out of a palliative heart, I thought that even if I didn't go that far, I wouldn't be able to get a good result. I've been in the middle of nowhere until today. しかし もうこ の 以上 僕 に は 我慢 が でき なく なりました 。 |||いじょう|ぼく|||がまん||||なり ました ・・

倉地 さん と あなた と 結婚 なさる なら なさる で 木村 も あきらめる より ほか に 道 は ありません 。 くらち|||||けっこん|||||きむら||||||どう||あり ませ ん If Mr. Kurachi wants to marry you, then Kimura has no choice but to give up. 木村 に 取って は 苦しい 事 だろう が 、 僕 から 考える と どっちつかずで 煩 悶 して いる の より どれ だけ いい か わかりません 。 きむら||とって||くるしい|こと|||ぼく||かんがえる|||わずら|もん|||||||||わかり ませ ん It must be painful for Kimura, but when I think about it, I don't know how much better it would be than being in the middle of nowhere. だから 倉地 さん に 意向 を 伺おう と すれば 、 倉地 さん は 頭から 僕 を ばかに して 話 を 真 身 に 受けて は くださら ない んです 」・・ |くらち|||いこう||うかがおう|||くらち|||あたまから|ぼく||||はなし||まこと|み||うけて|||| So when I tried to ask Mr. Kurachi about his intentions, Mr. Kurachi made fun of me and wouldn't take me seriously."

「 ばかに さ れる ほう が 悪い の よ 」・・ |||||わるい||

倉地 は 庭 の ほう から 顔 を 返して 、「 どこ まで ばかに 出来上がった 男 だろう 」 と いう ように 苦笑い を し ながら 古藤 を 見 やって 、 また 知ら ぬ 顔 に 庭 の ほう を 向いて しまった 。 くらち||にわ||||かお||かえして||||できあがった|おとこ|||||にがわらい||||ことう||み|||しら||かお||にわ||||むいて| Kurachi turned his head from the garden and looked at Furuto with a wry smile, "How stupid is this man?" ・・

「 そりゃ そうだ 。 |そう だ ばかに さ れる 僕 は ばかだろう 。 |||ぼく|| しかし あなた に は …… あなた に は 僕ら が 持って る 良心 と いう もの が ない んだ 。 |||||||ぼくら||もって||りょうしん|||||| それ だけ は ばかで も 僕 に は わかる 。 |||||ぼく||| あなた が ばか と いわ れる の と 、 僕 が 自分 を ばか と 思って いる それ と は 、 意味 が 違います よ 」・・ ||||||||ぼく||じぶん||||おもって|||||いみ||ちがい ます|

「 その とおり 、 あなた は ばかだ と 思い ながら 、 どこ か 心 の すみ で 『 何 ばかな もの か 』 と 思い よる し 、 わたし は あなた を 嘘 本 なし に ばか と いう だけ の 相違 が ある よ 」・・ ||||||おもい||||こころ||||なん|||||おもい|||||||うそ|ほん||||||||そうい|||

「 あなた は 気の毒な 人 です 」・・ ||きのどくな|じん|

古藤 の 目 に は 怒り と いう より も 、 ある 激しい 感情 の 涙 が 薄く 宿って いた 。 ことう||め|||いかり||||||はげしい|かんじょう||なみだ||うすく|やどって| 古藤 の 心 の 中 の いちばん 奥深い 所 が 汚さ れ ない まま で 、 ふと 目 から のぞき 出した か と 思わ れる ほど 、 その 涙 を ためた 目 は 一種 の 力 と 清 さ と を 持って いた 。 ことう||こころ||なか|||おくふかい|しょ||きたな さ||||||め|||だした|||おもわ||||なみだ|||め||いっしゅ||ちから||きよし||||もって| さすが の 倉地 も その 一言 に は 言葉 を 返す 事 なく 、 不思議 そうに 古藤 の 顔 を 見た 。 ||くらち|||いちげん|||ことば||かえす|こと||ふしぎ|そう に|ことう||かお||みた 葉子 も 思わず 一種 改まった 気分 に なった 。 ようこ||おもわず|いっしゅ|あらたまった|きぶん|| そこ に は これ まで 見慣れて いた 古藤 は い なく なって 、 その 代わり に ごまかし の きか ない 強い 力 を 持った 一 人 の 純潔な 青年 が ひょっこり 現われ 出た ように 見えた 。 |||||みなれて||ことう||||||かわり||||||つよい|ちから||もった|ひと|じん||じゅんけつな|せいねん|||あらわれ|でた||みえた 何 を いう か 、 また いつも の ような ありきたりの 道徳 論 を 振り回す と 思い ながら 、 一種 の 軽侮 を もって 黙って 聞いて いた 葉子 は 、 この 一言 で 、 いわば 古藤 を 壁 ぎ わ に 思い 存分 押し付けて いた 倉地 が 手 も なく は じき 返さ れた の を 見た 。 なん|||||||||どうとく|ろん||ふりまわす||おもい||いっしゅ||けいぶ|||だまって|きいて||ようこ|||いちげん|||ことう||かべ||||おもい|ぞんぶん|おしつけて||くらち||て|||||かえさ||||みた What should I say? Yoko, who had been silently listening with a kind of contempt, thinking that he was going to throw out his usual mediocre moral theory, and with those words, as it were, pushed Furuto against the wall to his heart's content. I saw that Kurachi, who had been standing there, was thrown back helplessly. 言葉 の 上 や 仕打ち の 上 や で いかに 高圧 的に 出て みて も 、 どう する 事 も でき ない ような 真実 さ が 古藤 から あふれ出て いた 。 ことば||うえ||しうち||うえ||||こうあつ|てきに|でて|||||こと|||||しんじつ|||ことう||あふれでて| それ に 歯 向かう に は 真実で 歯 向かう ほか は ない 。 ||は|むかう|||しんじつで|は|むかう||| 倉地 は それ を 持ち 合わして いる か どう か 葉子 に は 想像 が つか なかった 。 くらち||||もち|あわして|||||ようこ|||そうぞう||| その 場合 倉地 は しばらく 古藤 の 顔 を 不思議 そうに 見 やった 後 、 平気な 顔 を して 膳 から 杯 を 取り上げて 、 飲み 残して 冷えた 酒 を てれかくし の ように あおり つけた 。 |ばあい|くらち|||ことう||かお||ふしぎ|そう に|み||あと|へいきな|かお|||ぜん||さかずき||とりあげて|のみ|のこして|ひえた|さけ|||||| In that case, Kurachi looked at Furuto's face curiously for a while, then put on an unconcerned look, took the cup from the dining table, and threw the leftover cold sake on the table. 葉子 は この 時 古藤 と こんな 調子 で 向かい合って いる の が 恐ろしくって なら なく なった 。 ようこ|||じ|ことう|||ちょうし||むかいあって||||おそろしく って||| 古藤 の 目の前 で ひょっとすると 今 まで 築いて 来た 生活 が くずれて しまい そうな 危惧 を さえ 感じた 。 ことう||めのまえ|||いま||きずいて|きた|せいかつ||||そう な|きぐ|||かんじた In front of Furuto's eyes, he even felt a sense of apprehension that the life he had built up until now would collapse. で 、 そのまま 黙って 倉地 の まね を する ようだ が 、 平気 を 装い つつ 煙 管 を 取り上げた 。 ||だまって|くらち|||||||へいき||よそおい||けむり|かん||とりあげた その 場 の 仕打ち と して は 拙 いや り かた である の を 歯がゆく は 思い ながら 。 |じょう||しうち||||せつ|||||||はがゆく||おもい| ・・

古藤 は しばらく 言葉 を 途 切らして いた が 、 また 改まって 葉子 の ほう に 話しかけた 。 ことう|||ことば||と|きらして||||あらたまって|ようこ||||はなしかけた ・・

「 そう 改まら ないで ください 。 |あらたまら|| その代わり 思った だけ の 事 を いいかげんに して おか ず に 話し合わ せて みて ください 。 そのかわり|おもった|||こと|||||||はなしあわ||| いい です か 。 あなた と 倉地 さん と の これ まで の 生活 は 、 僕 みたいな 無 経験 な もの に も 、 疑問 と して 片づけて おく 事 の でき ない ような 事実 を 感じ させる んです 。 ||くらち|||||||せいかつ||ぼく||む|けいけん|||||ぎもん|||かたづけて||こと|||||じじつ||かんじ|さ せる| それ に 対する あなた の 弁解 は 詭弁 と より 僕 に は 響か なく なりました 。 ||たいする|||べんかい||きべん|||ぼく|||ひびか||なり ました Your excuse for that no longer resonates with me as a sophistry. 僕 の 鈍い 直 覚 で すら が そう 考える のです 。 ぼく||にぶい|なお|あきら|||||かんがえる| Even my dull intuition thinks so. だから この際 あなた と 倉地 さん と の 関係 を 明らかに して 、 あなた から 木村 に 偽り の ない 告白 を して いただきたい んです 。 |このさい|||くらち||||かんけい||あきらかに||||きむら||いつわり|||こくはく|||いただき たい| 木村 が 一 人 で 生活 に 苦しみ ながら たとえよう の ない 疑惑 の 中 に もがいて いる の を 少し でも 想像 して みたら …… 今 の あなた に は それ を 要求 する の は 無理 かも しれ ない けれども ……。 きむら||ひと|じん||せいかつ||くるしみ|||||ぎわく||なか||||||すこし||そうぞう|||いま|||||||ようきゅう||||むり|||| 第 一 こんな 不安定な 状態 から あなた は 愛子 さん や 貞 世 さん を 救う 義務 が ある と 思います よ 僕 は 。 だい|ひと||ふあんていな|じょうたい||||あいこ|||さだ|よ|||すくう|ぎむ||||おもい ます||ぼく| あなた だけ に 限ら れ ず に 、 四方八方 の 人 の 心 に 響く と いう の は 恐ろしい 事 だ と は ほんとうに あなた に は 思えません か ねえ 。 |||かぎら||||しほうはっぽう||じん||こころ||ひびく|||||おそろしい|こと||||||||おもえ ませ ん|| 僕 に は そば で 見て いる だけ でも 恐ろしい が なあ 。 ぼく|||||みて||||おそろしい|| 人 に は いつか 総 勘定 を しなければ なら ない 時 が 来る んだ 。 じん||||そう|かんじょう||し なければ|||じ||くる| いくら 借り に なって いて も びくとも し ない と いう 自信 も なくって 、 ずるずる べったり に 無 反省 に 借り ばかり 作って いる の は 考えて みる と 不安じゃ ない でしょう か 。 |かり||||||||||じしん||なく って||||む|はんせい||かり||つくって||||かんがえて|||ふあんじゃ||| Don't you feel uneasy when you think about how you're sloppily taking on debt without reflection, without the confidence that no matter how much you owe? 葉子 さん 、 あなた に は 美しい 誠実 が ある んだ 。 ようこ|||||うつくしい|せいじつ||| 僕 は それ を 知っています 。 ぼく||||しってい ます 木村 に だけ は どうした わけ か 別だ けれども 、 あなた は びた一文 でも 借り を して いる と 思う と 寝心地 が 悪い と いう ような 気象 を 持って いる じゃ ありません か 。 きむら|||||||べつだ||||びたいちもん||かり|||||おもう||ねごこち||わるい||||きしょう||もって|||あり ませ ん| I don't know what's wrong with you, Kimura, but you have a tendency to feel uncomfortable when you think you owe even a single penny. それ に 心 の 借金 なら いくら 借金 を して いて も 平気で いられる わけ は ない と 思います よ 。 ||こころ||しゃっきん|||しゃっきん|||||へいきで|いら れる|||||おもい ます| なぜ あなた は 好んで それ を 踏みにじろう と ばかり して いる んです 。 |||このんで|||ふみにじろう||||| そんな 情けない 事 ばかり して いて は だめじゃ ありません か 。 |なさけない|こと||||||あり ませ ん| …… 僕 は はっきり 思う とおり を いい 現わし 得 ない けれども …… いおう と して いる 事 は わかって くださる でしょう 」 ぼく|||おもう||||あらわし|とく|||||||こと||||