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或る女 - 有島武郎(アクセス), 38.2 或る女

38.2 或る 女

ある 日 葉子 は 思いきって ひそかに 医師 を 訪れた 。 医師 は 手 も なく 、 葉子 の すべて の 悩み の 原因 は 子宮 後 屈 症 と 子宮 内膜 炎 と を 併発 して いる から だ と いって 聞か せた 。 葉子 は あまりに わかりきった 事 を 医師 が さも 知ったかぶり に いって 聞か せる ように も 、 また その のっぺり した 白い 顔 が 、 恐ろしい 運命 が 葉子 に 対して 装 うた 仮面 で 、 葉子 は その 言葉 に よって まっ暗 な 行く手 を 明らかに 示さ れた ように も 思った 。 そして 怒り と 失望 と を いだき ながら その 家 を 出た 。 帰途 葉子 は 本屋 に 立ち寄って 婦人 病 に 関する 大部 な 医 書 を 買い求めた 。 それ は 自分 の 病 症 に 関する 徹底 的な 知識 を 得よう ため だった 。 家 に 帰る と 自分 の 部屋 に 閉じこもって すぐ 大体 を 読んで 見た 。 後 屈 症 は 外科 手術 を 施して 位置 矯正 を する 事 に よって 、 内膜 炎 は 内膜 炎 を 抉 掻 する 事 に よって 、 それ が 器械 的 の 発病 である 限り 全治 の 見込み は ある が 、 位置 矯正 の 場合 など に 施術 者 の 不注意 から 子宮 底 に 穿 孔 を 生じた 時 など に は 、 往々 に して 激烈な 腹膜炎 を 結果 する 危険 が 伴わ ないで も ない など と 書いて あった 。 葉子 は 倉地 に 事情 を 打ち明けて 手術 を 受けよう か と も 思った 。 ふだん ならば 常識 が すぐ それ を 葉子 に さ せた に 違いない 。 しかし 今 は もう 葉子 の 神経 は 極度に 脆弱に なって 、 あら ぬ 方向 に ばかり われ に も なく 鋭く 働く ように なって いた 。 倉地 は 疑い も なく 自分 の 病気 に 愛想 を 尽かす だろう 。 た と い そんな 事 は ない と して も 入院 の 期間 に 倉地 の 肉 の 要求 が 倉地 を 思わぬ ほう に 連れて 行か ない と は だれ が 保証 できよう 。 それ は 葉子 の 僻 見 である かも しれ ない 、 しかし もし 愛子 が 倉地 の 注意 を ひいて いる と すれば 、 自分 の 留守 の 間 に 倉地 が 彼女 に 近づく の は ただ 一 歩 の 事 だ 。 愛子 が あの 年 で あの 無 経験 で 、 倉地 の ような 野性 と 暴力 と に 興味 を 持た ぬ の は もちろん 、 一種 の 厭 悪 を さえ 感じて いる の は 察せられ ない で は ない 。 愛子 は きっと 倉地 を 退ける だろう 。 しかし 倉地 に は 恐ろしい 無 恥 が ある 。 そして 一 度 倉地 が 女 を おのれ の 力 の 下 に 取り ひ しい だ ら 、 いかなる 女 も 二度と 倉地 から のがれる 事 の でき ない ような 奇怪 の 麻酔 の 力 を 持って いる 。 思想 と か 礼儀 と か に わずらわさ れ ない 、 無尽蔵に 強烈で 征服 的な 生 の まま な 男性 の 力 は いか な 女 を も その 本能 に 立ち 帰ら せる 魔術 を 持って いる 。 しかも あの 柔 順 らしく 見える 愛子 は 葉子 に 対して 生まれる と から の 敵意 を 挟んで いる のだ 。 どんな 可能で も 描いて 見る 事 が できる 。 そう 思う と 葉子 は わが身 で わが身 を 焼く ような 未練 と 嫉妬 の ため に 前後 も 忘れて しまった 。 なんとか して 倉地 を 縛り 上げる まで は 葉子 は 甘んじて 今 の 苦痛 に 堪え忍ぼう と した 。 ・・

そのころ から あの 正井 と いう 男 が 倉地 の 留守 を うかがって は 葉子 に 会い に 来る ように なった 。 ・・

「 あいつ は 犬 だった 。 危うく 手 を かま せる 所 だった 。 どんな 事 が あって も 寄せ付ける で は ない ぞ 」・・

と 倉地 が 葉子 に いい聞かせて から 一 週間 も たた ない 後 に 、 ひょっこり 正井 が 顔 を 見せた 。 なかなか の しゃれ 者 で 、 寸分 の すき も ない 身なり を して いた 男 が 、 どこ か に 貧 窮 を に おわす ように なって いた 。 カラー に はうっすり 汗 じみ が できて 、 ズボン の 膝 に は 焼けこげ の 小さな 孔 が 明いたり して いた 。 葉子 が 上げる 上げ ない も いわ ない うち に 、 懇意 ずく らしく どんどん 玄関 から 上がり こんで 座敷 に 通った 。 そして 高価 らしい 西 洋菓子 の 美しい 箱 を 葉子 の 目の前 に 風呂敷 から 取り出した 。 ・・

「 せっかく おい で くださ いました のに 倉地 さん は 留守 です から 、 は ばかり です が 出直して お 遊び に いら しって ください まし 。 これ は それ まで お 預かり おき を 願います わ 」・・

そう いって 葉子 は 顔 に は いかにも 懇意 を 見せ ながら 、 言葉 に は 二 の 句 が つげ ない ほど の 冷淡 さ と 強 さ と を 示して やった 。 しかし 正井 はしゃ あし ゃあ と して 平気な もの だった 。 ゆっくり 内 衣 嚢 から 巻 煙草 入れ を 取り出して 、 金 口 を 一 本 つまみ 取る と 、 炭 の 上 に たまった 灰 を 静かに かき のける ように して 火 を つけて 、 のどかに 香り の いい 煙 を 座敷 に 漂わした 。 ・・

「 お 留守 です か …… それ は かえって 好都合でした …… もう 夏 らしく なって 来ました ね 、 隣 の 薔薇 も 咲き 出す でしょう …… 遠い ようだ が まだ 去年 の 事 です ねえ 、 お互い様に 太平洋 を 往ったり 来たり した の は …… あの ころ が おもしろい 盛り でした よ 。 わたし たち の 仕事 も まだ にらま れ ず に いたんで した から …… 時に 奥さん 」・・

そう いって 折り入って 相談 でも する ように 正井 は 煙草 盆 を 押しのけて 膝 を 乗り出す のだった 。 人 を 侮って かかって 来る と 思う と 葉子 は ぐっと 癪 に さわった 。 しかし 以前 の ような 葉子 は そこ に は い なかった 。 もし それ が 以前 であったら 、 自分 の 才気 と 力量 と 美貌 と に 充分 の 自信 を 持つ 葉子 であったら 、 毛 の 末 ほど も 自分 を 失う 事 なく 、 優 婉 に 円滑に 男 を 自分 の かけた 陥 穽 の 中 に おとしいれて 、 自 縄 自 縛 の 苦い 目 に あわせて いる に 違いない 。 しかし 現在 の 葉子 は たわ い も なく 敵 を 手 もと まで もぐりこま せて しまって ただ いらいら と あせる だけ だった 。 そういう 破 目 に なる と 葉子 は 存外 力 の ない 自分 である の を 知ら ねば なら なかった 。 ・・

正井 は 膝 を 乗り出して から 、 しばらく 黙って 敏捷に 葉子 の 顔色 を うかがって いた が 、 これ なら 大丈夫 と 見きわめ を つけた らしく 、・・

「 少し ばかり で いい んです 、 一 つ 融通 して ください 」・・

と 切り出した 。 ・・

「 そんな 事 を おっしゃったって 、 わたし に どう しよう も ない くらい は 御存じ じゃ ありません か 。 そりゃ 余人 じゃ なし 、 できる の なら なんとか いたします けれども 、 姉妹 三 人 が どう か こう か して 倉地 に 養われて いる 今日 の ような 境界 で は 、 わたし に 何 が できましょう 。 正井 さん に も 似合わ ない 的 違い を おっしゃる の ね 。 倉地 なら 御 相談 に も なる でしょう から 面 と 向かって お 話し ください まし 。 中 に は いる と わたし が 困ります から 」・・

葉子 は 取りつく 島 も ない ように と いや味な 調子 で ずけずけ と こういった 。 正井 は せ せら 笑う ように ほほえんで 金 口 の 灰 を 静かに 灰 吹き に 落とした 。 ・・

「 もう 少し ざっくばらんに いって ください よき のうきょう の お 交際 じゃ なし 。 倉地 さん と まずく なった くらい は 御 承知 じゃ ありません か 。 …… 知ってい らっしって そういう 口 の きき かた は 少し ひど 過ぎます ぜ 、( ここ で 仮面 を 取った ように 正井 は ふてくされた 態度 に なった 。 しかし 言葉 は どこまでも 穏当だった 。 ) きらわ れたって わたし は 何も 倉地 さん を どう しよう の こう しよう の と 、 そんな 薄情な 事 は し ない つもりです 。 倉地 さん に けが が あれば わたし だって 同罪 以上 です から ね 。 …… しかし …… 一 つ なんとか なら ない もん でしょう か 」・・

葉子 の 怒り に 興奮 した 神経 は 正井 の この 一言 に すぐ おびえて しまった 。 何もかも 倉地 の 裏面 を 知り 抜いて る はずの 正井 が 、 捨てばち に なったら 倉地 の 身の上 に どんな 災難 が 降りかから ぬ と も 限ら ぬ 。 そんな 事 を さ せて は 飛んだ 事 に なる だろう 。 そんな 事 を さ せて は 飛んだ 事 に なる 。 葉子 は ますます 弱 身 に なった 自分 を 救い出す 術 に 困 じ 果てて いた 。 ・・

「 それ を 御 承知 で わたし の 所 に いら しったって …… た と いわ たし に 都合 が ついた と した ところ で 、 どう しよう も ありません じゃ ない の 。 なんぼ わたし だって も 、 倉地 と 仲 た がえ を なさった あなた に 倉地 の 金 を 何 する ……」・・

「 だから 倉地 さん の もの を お ねだり は しません さ 。 木村 さん から も たんまり 来て いる はずじゃ ありません か 。 その 中 から …… たん と た あい いま せ ん から 、 窮 境 を 助ける と 思って どうか 」・・

正井 は 葉子 を 男 たらし と 見くびった 態度 で 、 情 夫 を 持って る 妾 に でも 逼 る ような ずうずうしい 顔色 を 見せた 。 こんな 押し問答 の 結果 葉子 は とうとう 正井 に 三百 円 ほど の 金 を むざむざ と せびり 取られて しまった 。 葉子 は その 晩 倉地 が 帰って 来た 時 も それ を いい出す 気力 は なかった 。 貯金 は 全部 定子 の ほう に 送って しまって 、 葉子 の 手 もと に は いくらも 残って は い なかった 。 ・・

それ から と いう もの 正井 は 一 週間 と おかず に 葉子 の 所 に 来て は 金 を せびった 。 正井 は その おりおり に 、 絵 島 丸 の サルン の 一隅 に 陣取って 酒 と 煙草 と に ひたり ながら 、 何か知ら ん ひそひそ 話 を して いた 数 人 の 人 たち ―― 人 を 見ぬく 目 の 鋭い 葉子 に も どうしても その 人 たち の 職業 を 推察 し 得 なかった 数 人 の 人 たち の 仲間 に 倉地 が はいって 始め 出した 秘密な 仕事 の 巨細 を もらした 。 正井 が 葉子 を 脅かす ため に 、 その 話 に は 誇張 が 加えられて いる 、 そう 思って 聞いて みて も 、 葉子 の 胸 を ひやっと さ せる 事 ばかり だった 。 倉地 が 日 清 戦争 に も 参加 した 事務 長 で 、 海軍 の 人 たち に も 航海 業者 に も 割合 に 広い 交際 が ある 所 から 、 材料 の 蒐集 者 と して その 仲間 の 牛 耳 を 取る ように なり 、 露 国 や 米国 に 向かって もらした 祖国 の 軍事 上 の 秘密 は なかなか 容易 なら ざる もの らしかった 。 倉地 の 気分 が すさんで 行く の も もっともだ と 思わ れる ような 事柄 を 数々 葉子 は 聞か さ れた 。 葉子 は しまい に は 自分 自身 を 護 る ため に も 正井 の きげん を 取りはずして は なら ない と 思う ように なった 。 そして 正井 の 言葉 が 一 語 一 語 思い出されて 、 夜 なぞ に なる と 眠ら せ ぬ ほど に 葉子 を 苦しめた 。 葉子 は また 一 つ の 重い 秘密 を 背負わ なければ なら ぬ 自分 を 見いだした 。 この つらい 意識 は すぐに また 倉地 に 響く ようだった 。 倉地 は ともすると 敵 の 間 諜 で は ない か と 疑う ような 険しい 目 で 葉子 を にらむ ように なった 。 そして 二 人 の 間 に は また 一 つ の 溝 が ふえた 。 ・・

それ ばかり で は なかった 。 正井 に 秘密な 金 を 融通 する ため に は 倉地 から の あてがい だけ で は とても 足りなかった 。 葉子 は あり も し ない 事 を 誠 しや か に 書き連ねて 木村 の ほう から 送金 さ せ ねば なら なかった 。 倉地 の ため なら とにもかくにも 、 倉地 と 自分 の 妹 たち と が 豊かな 生活 を 導く ため に なら とにもかくにも 、 葉子 に 一種 の 獰悪 な 誇り を もって それ を して 、 男 の ため に なら 何事 でも と いう 捨てばち な 満足 を 買い 得 ない で は なかった が 、 その 金 がたいてい 正井 の ふところ に 吸収 されて しまう のだ と 思う と 、 いくら 間接 に は 倉地 の ため だ と は いえ 葉子 の 胸 は 痛かった 。 木村 から は 送金 の たび ごと に 相変わらず 長い 消息 が 添えられて 来た 。 木村 の 葉子 に 対する 愛着 は 日 を 追う て まさる と も 衰える 様子 は 見え なかった 。 仕事 の ほう に も 手違い や 誤算 が あって 始め の 見込み どおり に は 成功 と は いえ ない が 、 葉子 の ほう に 送る くらい の 金 は どうして でも 都合 が つく くらい の 信用 は 得て いる から 構わ ず いって よこせ と も 書いて あった 。 こんな 信 実 な 愛情 と 熱意 を 絶えず 示さ れる このごろ は 葉子 も さすが に 自分 の して いる 事 が 苦しく なって 、 思いきって 木村 に すべて を 打ちあけて 、 関係 を 絶とう か と 思い悩む ような 事 が 時々 あった 。 その 矢先 な ので 、 葉子 は 胸 に ことさら 痛み を 覚えた 。 それ が ますます 葉子 の 神経 を いらだた せて 、 その 病気 に も 影響 した 。 そして 花 の 五 月 が 過ぎて 、 青葉 の 六 月 に なろう と する ころ に は 、 葉子 は 痛ましく やせ細った 、 目 ばかり どぎつい 純 然 たる ヒステリー 症 の 女 に なって いた 。


38.2 或る 女 ある|おんな 38,2 Una mujer

ある 日 葉子 は 思いきって ひそかに 医師 を 訪れた 。 |ひ|ようこ||おもいきって||いし||おとずれた 医師 は 手 も なく 、 葉子 の すべて の 悩み の 原因 は 子宮 後 屈 症 と 子宮 内膜 炎 と を 併発 して いる から だ と いって 聞か せた 。 いし||て|||ようこ||||なやみ||げんいん||しきゅう|あと|くっ|しょう||しきゅう|ないまく|えん|||へいはつ|||||||きか| 葉子 は あまりに わかりきった 事 を 医師 が さも 知ったかぶり に いって 聞か せる ように も 、 また その のっぺり した 白い 顔 が 、 恐ろしい 運命 が 葉子 に 対して 装 うた 仮面 で 、 葉子 は その 言葉 に よって まっ暗 な 行く手 を 明らかに 示さ れた ように も 思った 。 ようこ||||こと||いし|||しったかぶり|||きか||||||||しろい|かお||おそろしい|うんめい||ようこ||たいして|そう||かめん||ようこ|||ことば|||まっ くら||ゆくて||あきらかに|しめさ||||おもった Yoko was so obvious that the doctor pretended to know what she was talking about, and her blank white face was a mask that a terrible fate had put on her. I felt like I was clearly shown the way forward. そして 怒り と 失望 と を いだき ながら その 家 を 出た 。 |いかり||しつぼう||||||いえ||でた 帰途 葉子 は 本屋 に 立ち寄って 婦人 病 に 関する 大部 な 医 書 を 買い求めた 。 きと|ようこ||ほんや||たちよって|ふじん|びょう||かんする|たいぶ||い|しょ||かいもとめた それ は 自分 の 病 症 に 関する 徹底 的な 知識 を 得よう ため だった 。 ||じぶん||びょう|しょう||かんする|てってい|てきな|ちしき||えよう|| 家 に 帰る と 自分 の 部屋 に 閉じこもって すぐ 大体 を 読んで 見た 。 いえ||かえる||じぶん||へや||とじこもって||だいたい||よんで|みた When I got home, I shut myself up in my room and immediately read the general outline. 後 屈 症 は 外科 手術 を 施して 位置 矯正 を する 事 に よって 、 内膜 炎 は 内膜 炎 を 抉 掻 する 事 に よって 、 それ が 器械 的 の 発病 である 限り 全治 の 見込み は ある が 、 位置 矯正 の 場合 など に 施術 者 の 不注意 から 子宮 底 に 穿 孔 を 生じた 時 など に は 、 往々 に して 激烈な 腹膜炎 を 結果 する 危険 が 伴わ ないで も ない など と 書いて あった 。 あと|くっ|しょう||げか|しゅじゅつ||ほどこして|いち|きょうせい|||こと|||ないまく|えん||ないまく|えん||えぐ|か||こと|||||きかい|てき||はつびょう||かぎり|ぜんち||みこみ||||いち|きょうせい||ばあい|||しじゅつ|もの||ふちゅうい||しきゅう|そこ||うが|あな||しょうじた|じ||||おうおう|||げきれつな|ふくまくえん||けっか||きけん||ともなわ||||||かいて| There is a prospect of a complete cure for posterior flexion by performing a surgical operation to correct the position, and for endometritis by scratching the endometritis, as long as it is caused mechanically, but correcting the position is possible. It was written that when a perforation occurs in the fundus of the uterus due to carelessness of the practitioner, such as in the case of , there is often a risk of severe peritonitis. 葉子 は 倉地 に 事情 を 打ち明けて 手術 を 受けよう か と も 思った 。 ようこ||くらち||じじょう||うちあけて|しゅじゅつ||うけよう||||おもった ふだん ならば 常識 が すぐ それ を 葉子 に さ せた に 違いない 。 ||じょうしき|||||ようこ|||||ちがいない しかし 今 は もう 葉子 の 神経 は 極度に 脆弱に なって 、 あら ぬ 方向 に ばかり われ に も なく 鋭く 働く ように なって いた 。 |いま|||ようこ||しんけい||きょくどに|ぜいじゃくに||||ほうこう|||||||するどく|はたらく||| But now, Yoko's nerves had become extremely fragile, and they were acting sharply in unexpected directions. 倉地 は 疑い も なく 自分 の 病気 に 愛想 を 尽かす だろう 。 くらち||うたがい|||じぶん||びょうき||あいそ||つかす| た と い そんな 事 は ない と して も 入院 の 期間 に 倉地 の 肉 の 要求 が 倉地 を 思わぬ ほう に 連れて 行か ない と は だれ が 保証 できよう 。 ||||こと||||||にゅういん||きかん||くらち||にく||ようきゅう||くらち||おもわぬ|||つれて|いか||||||ほしょう| それ は 葉子 の 僻 見 である かも しれ ない 、 しかし もし 愛子 が 倉地 の 注意 を ひいて いる と すれば 、 自分 の 留守 の 間 に 倉地 が 彼女 に 近づく の は ただ 一 歩 の 事 だ 。 ||ようこ||ひが|み|||||||あいこ||くらち||ちゅうい||||||じぶん||るす||あいだ||くらち||かのじょ||ちかづく||||ひと|ふ||こと| It may be Yoko's prejudice, but if Aiko is getting Kurachi's attention, it's only one step for Kurachi to approach her while she's away. 愛子 が あの 年 で あの 無 経験 で 、 倉地 の ような 野性 と 暴力 と に 興味 を 持た ぬ の は もちろん 、 一種 の 厭 悪 を さえ 感じて いる の は 察せられ ない で は ない 。 あいこ|||とし|||む|けいけん||くらち|||やせい||ぼうりょく|||きょうみ||もた|||||いっしゅ||いと|あく|||かんじて||||さっせ られ|||| Aiko, at her age and inexperienced, was naturally not interested in the wildness and violence of Kurachi, and it could not be surmised that she felt a kind of loathing. 愛子 は きっと 倉地 を 退ける だろう 。 あいこ|||くらち||しりぞける| Aiko will surely reject Kurachi. しかし 倉地 に は 恐ろしい 無 恥 が ある 。 |くらち|||おそろしい|む|はじ|| そして 一 度 倉地 が 女 を おのれ の 力 の 下 に 取り ひ しい だ ら 、 いかなる 女 も 二度と 倉地 から のがれる 事 の でき ない ような 奇怪 の 麻酔 の 力 を 持って いる 。 |ひと|たび|くらち||おんな||||ちから||した||とり||||||おんな||にどと|くらち|||こと|||||きかい||ますい||ちから||もって| And once Kurachi has a woman under his power, he possesses such a bizarre anesthetic power that no woman can escape from Kurachi ever again. 思想 と か 礼儀 と か に わずらわさ れ ない 、 無尽蔵に 強烈で 征服 的な 生 の まま な 男性 の 力 は いか な 女 を も その 本能 に 立ち 帰ら せる 魔術 を 持って いる 。 しそう|||れいぎ|||||||むじんぞうに|きょうれつで|せいふく|てきな|せい||||だんせい||ちから||||おんな||||ほんのう||たち|かえら||まじゅつ||もって| Inexhaustibly intense, conquering, raw male power, unbroken by ideas and etiquette, has the magic to bring any woman back to her instincts. しかも あの 柔 順 らしく 見える 愛子 は 葉子 に 対して 生まれる と から の 敵意 を 挟んで いる のだ 。 ||じゅう|じゅん||みえる|あいこ||ようこ||たいして|うまれる||||てきい||はさんで|| What's more, that obedient-looking Aiko was harboring hostility towards Yoko from birth. どんな 可能で も 描いて 見る 事 が できる 。 |かのうで||えがいて|みる|こと|| そう 思う と 葉子 は わが身 で わが身 を 焼く ような 未練 と 嫉妬 の ため に 前後 も 忘れて しまった 。 |おもう||ようこ||わがみ||わがみ||やく||みれん||しっと||||ぜんご||わすれて| Thinking that, Yoko forgot all about it because of the burning regrets and jealousy. なんとか して 倉地 を 縛り 上げる まで は 葉子 は 甘んじて 今 の 苦痛 に 堪え忍ぼう と した 。 ||くらち||しばり|あげる|||ようこ||あまんじて|いま||くつう||たえしのぼう|| Until she somehow managed to tie up Kurachi, Yoko tried to put up with the pain she was in now. ・・

そのころ から あの 正井 と いう 男 が 倉地 の 留守 を うかがって は 葉子 に 会い に 来る ように なった 。 |||まさい|||おとこ||くらち||るす||||ようこ||あい||くる|| Around that time, a man named Masai began coming to see Yoko when Kurachi was away. ・・

「 あいつ は 犬 だった 。 ||いぬ| 危うく 手 を かま せる 所 だった 。 あやうく|て||||しょ| I was in danger of getting my hands on it. どんな 事 が あって も 寄せ付ける で は ない ぞ 」・・ |こと||||よせつける||||

と 倉地 が 葉子 に いい聞かせて から 一 週間 も たた ない 後 に 、 ひょっこり 正井 が 顔 を 見せた 。 |くらち||ようこ||いいきかせて||ひと|しゅうかん||||あと|||まさい||かお||みせた Less than a week after Kurachi said to Yoko, Masai suddenly showed up. なかなか の しゃれ 者 で 、 寸分 の すき も ない 身なり を して いた 男 が 、 どこ か に 貧 窮 を に おわす ように なって いた 。 |||もの||すんぶん|||||みなり||||おとこ|||||ひん|きゅう|||||| The man, who had been quite fashionable and immaculately dressed, had begun to appear to be in poverty. カラー に はうっすり 汗 じみ が できて 、 ズボン の 膝 に は 焼けこげ の 小さな 孔 が 明いたり して いた 。 からー||はう っす り|あせ||||ずぼん||ひざ|||やけこげ||ちいさな|あな||あいたり|| 葉子 が 上げる 上げ ない も いわ ない うち に 、 懇意 ずく らしく どんどん 玄関 から 上がり こんで 座敷 に 通った 。 ようこ||あげる|あげ|||||||こんい||||げんかん||あがり||ざしき||かよった そして 高価 らしい 西 洋菓子 の 美しい 箱 を 葉子 の 目の前 に 風呂敷 から 取り出した 。 |こうか||にし|ようがし||うつくしい|はこ||ようこ||めのまえ||ふろしき||とりだした ・・

「 せっかく おい で くださ いました のに 倉地 さん は 留守 です から 、 は ばかり です が 出直して お 遊び に いら しって ください まし 。 ||||い ました||くらち|||るす|||||||でなおして||あそび||||| これ は それ まで お 預かり おき を 願います わ 」・・ |||||あずかり|||ねがい ます|

そう いって 葉子 は 顔 に は いかにも 懇意 を 見せ ながら 、 言葉 に は 二 の 句 が つげ ない ほど の 冷淡 さ と 強 さ と を 示して やった 。 ||ようこ||かお||||こんい||みせ||ことば|||ふた||く||||||れいたん|||つよ||||しめして| Saying this, Yoko showed a genuine kindness on her face, but at the same time she showed a coldness and strength that could not be put into words. しかし 正井 はしゃ あし ゃあ と して 平気な もの だった 。 |まさい||||||へいきな|| ゆっくり 内 衣 嚢 から 巻 煙草 入れ を 取り出して 、 金 口 を 一 本 つまみ 取る と 、 炭 の 上 に たまった 灰 を 静かに かき のける ように して 火 を つけて 、 のどかに 香り の いい 煙 を 座敷 に 漂わした 。 |うち|ころも|のう||かん|たばこ|いれ||とりだして|きむ|くち||ひと|ほん||とる||すみ||うえ|||はい||しずかに|||||ひ||||かおり|||けむり||ざしき||ただよわした ・・

「 お 留守 です か …… それ は かえって 好都合でした …… もう 夏 らしく なって 来ました ね 、 隣 の 薔薇 も 咲き 出す でしょう …… 遠い ようだ が まだ 去年 の 事 です ねえ 、 お互い様に 太平洋 を 往ったり 来たり した の は …… あの ころ が おもしろい 盛り でした よ 。 |るす||||||こうつごうでした||なつ|||き ました||となり||ばら||さき|だす||とおい||||きょねん||こと|||おたがいさまに|たいへいよう||おう ったり|きたり||||||||さかり|| わたし たち の 仕事 も まだ にらま れ ず に いたんで した から …… 時に 奥さん 」・・ |||しごと||||||||||ときに|おくさん

そう いって 折り入って 相談 でも する ように 正井 は 煙草 盆 を 押しのけて 膝 を 乗り出す のだった 。 ||おりいって|そうだん||||まさい||たばこ|ぼん||おしのけて|ひざ||のりだす| 人 を 侮って かかって 来る と 思う と 葉子 は ぐっと 癪 に さわった 。 じん||あなどって||くる||おもう||ようこ|||しゃく|| しかし 以前 の ような 葉子 は そこ に は い なかった 。 |いぜん|||ようこ|||||| もし それ が 以前 であったら 、 自分 の 才気 と 力量 と 美貌 と に 充分 の 自信 を 持つ 葉子 であったら 、 毛 の 末 ほど も 自分 を 失う 事 なく 、 優 婉 に 円滑に 男 を 自分 の かけた 陥 穽 の 中 に おとしいれて 、 自 縄 自 縛 の 苦い 目 に あわせて いる に 違いない 。 |||いぜん||じぶん||さいき||りきりょう||びぼう|||じゅうぶん||じしん||もつ|ようこ||け||すえ|||じぶん||うしなう|こと||すぐる|えん||えんかつに|おとこ||じぶん|||おちい|せい||なか|||じ|なわ|じ|しば||にがい|め|||||ちがいない If it had been before, had she been confident enough in her brilliance, strength, and beauty, she would have been able to gracefully and smoothly turn a man into herself without losing herself to the end of her hair. He must have been trapped in filth and must have suffered the bitter eye of being tied up with his own rope. しかし 現在 の 葉子 は たわ い も なく 敵 を 手 もと まで もぐりこま せて しまって ただ いらいら と あせる だけ だった 。 |げんざい||ようこ||||||てき||て||||||||||| そういう 破 目 に なる と 葉子 は 存外 力 の ない 自分 である の を 知ら ねば なら なかった 。 |やぶ|め||||ようこ||ぞんがい|ちから|||じぶん||||しら||| ・・

正井 は 膝 を 乗り出して から 、 しばらく 黙って 敏捷に 葉子 の 顔色 を うかがって いた が 、 これ なら 大丈夫 と 見きわめ を つけた らしく 、・・ まさい||ひざ||のりだして|||だまって|びんしょうに|ようこ||かおいろ|||||||だいじょうぶ||みきわめ|||

「 少し ばかり で いい んです 、 一 つ 融通 して ください 」・・ すこし|||||ひと||ゆうずう||

と 切り出した 。 |きりだした ・・

「 そんな 事 を おっしゃったって 、 わたし に どう しよう も ない くらい は 御存じ じゃ ありません か 。 |こと||おっしゃった って|||||||||ごぞんじ||あり ませ ん| そりゃ 余人 じゃ なし 、 できる の なら なんとか いたします けれども 、 姉妹 三 人 が どう か こう か して 倉地 に 養われて いる 今日 の ような 境界 で は 、 わたし に 何 が できましょう 。 |よじん|||||||いたし ます||しまい|みっ|じん|||||||くらち||やしなわ れて||きょう|||きょうかい|||||なん||でき ましょう If possible, I'll do something about it, but what can I do in a situation like today, where three sisters are somehow being fed by Kurachi? 正井 さん に も 似合わ ない 的 違い を おっしゃる の ね 。 まさい||||にあわ||てき|ちがい|||| 倉地 なら 御 相談 に も なる でしょう から 面 と 向かって お 話し ください まし 。 くらち||ご|そうだん||||||おもて||むかって||はなし|| 中 に は いる と わたし が 困ります から 」・・ なか|||||||こまり ます|

葉子 は 取りつく 島 も ない ように と いや味な 調子 で ずけずけ と こういった 。 ようこ||とりつく|しま|||||いやみな|ちょうし|||| Yoko said bluntly in a disgusting tone that there would be no islands to haunt. 正井 は せ せら 笑う ように ほほえんで 金 口 の 灰 を 静かに 灰 吹き に 落とした 。 まさい||||わらう|||きむ|くち||はい||しずかに|はい|ふき||おとした ・・

「 もう 少し ざっくばらんに いって ください よき のうきょう の お 交際 じゃ なし 。 |すこし||||||||こうさい|| 倉地 さん と まずく なった くらい は 御 承知 じゃ ありません か 。 くらち|||||||ご|しょうち||あり ませ ん| …… 知ってい らっしって そういう 口 の きき かた は 少し ひど 過ぎます ぜ 、( ここ で 仮面 を 取った ように 正井 は ふてくされた 態度 に なった 。 しってい|ら っし って||くち|||||すこし||すぎ ます||||かめん||とった||まさい|||たいど|| しかし 言葉 は どこまでも 穏当だった 。 |ことば|||おんとうだった ) きらわ れたって わたし は 何も 倉地 さん を どう しよう の こう しよう の と 、 そんな 薄情な 事 は し ない つもりです 。 |れた って|||なにも|くらち|||||||||||はくじょうな|こと|||| 倉地 さん に けが が あれば わたし だって 同罪 以上 です から ね 。 くらち||||||||どうざい|いじょう||| …… しかし …… 一 つ なんとか なら ない もん でしょう か 」・・ |ひと|||||||

葉子 の 怒り に 興奮 した 神経 は 正井 の この 一言 に すぐ おびえて しまった 。 ようこ||いかり||こうふん||しんけい||まさい|||いちげん|||| 何もかも 倉地 の 裏面 を 知り 抜いて る はずの 正井 が 、 捨てばち に なったら 倉地 の 身の上 に どんな 災難 が 降りかから ぬ と も 限ら ぬ 。 なにもかも|くらち||りめん||しり|ぬいて|||まさい||すてばち|||くらち||みのうえ|||さいなん||ふりかから||||かぎら| そんな 事 を さ せて は 飛んだ 事 に なる だろう 。 |こと|||||とんだ|こと||| そんな 事 を さ せて は 飛んだ 事 に なる 。 |こと|||||とんだ|こと|| 葉子 は ますます 弱 身 に なった 自分 を 救い出す 術 に 困 じ 果てて いた 。 ようこ|||じゃく|み|||じぶん||すくいだす|じゅつ||こま||はてて| ・・

「 それ を 御 承知 で わたし の 所 に いら しったって …… た と いわ たし に 都合 が ついた と した ところ で 、 どう しよう も ありません じゃ ない の 。 ||ご|しょうち||||しょ|||しった って||||||つごう||||||||||あり ませ ん||| なんぼ わたし だって も 、 倉地 と 仲 た がえ を なさった あなた に 倉地 の 金 を 何 する ……」・・ ||||くらち||なか|||||||くらち||きむ||なん|

「 だから 倉地 さん の もの を お ねだり は しません さ 。 |くらち||||||||し ませ ん| 木村 さん から も たんまり 来て いる はずじゃ ありません か 。 きむら|||||きて|||あり ませ ん| その 中 から …… たん と た あい いま せ ん から 、 窮 境 を 助ける と 思って どうか 」・・ |なか||||||||||きゅう|さかい||たすける||おもって|

正井 は 葉子 を 男 たらし と 見くびった 態度 で 、 情 夫 を 持って る 妾 に でも 逼 る ような ずうずうしい 顔色 を 見せた 。 まさい||ようこ||おとこ|||みくびった|たいど||じょう|おっと||もって||めかけ|||ひつ||||かおいろ||みせた こんな 押し問答 の 結果 葉子 は とうとう 正井 に 三百 円 ほど の 金 を むざむざ と せびり 取られて しまった 。 |おしもんどう||けっか|ようこ|||まさい||さんびゃく|えん|||きむ|||||とら れて| 葉子 は その 晩 倉地 が 帰って 来た 時 も それ を いい出す 気力 は なかった 。 ようこ|||ばん|くらち||かえって|きた|じ||||いいだす|きりょく|| 貯金 は 全部 定子 の ほう に 送って しまって 、 葉子 の 手 もと に は いくらも 残って は い なかった 。 ちょきん||ぜんぶ|さだこ||||おくって||ようこ||て|||||のこって||| ・・

それ から と いう もの 正井 は 一 週間 と おかず に 葉子 の 所 に 来て は 金 を せびった 。 |||||まさい||ひと|しゅうかん||||ようこ||しょ||きて||きむ|| 正井 は その おりおり に 、 絵 島 丸 の サルン の 一隅 に 陣取って 酒 と 煙草 と に ひたり ながら 、 何か知ら ん ひそひそ 話 を して いた 数 人 の 人 たち ―― 人 を 見ぬく 目 の 鋭い 葉子 に も どうしても その 人 たち の 職業 を 推察 し 得 なかった 数 人 の 人 たち の 仲間 に 倉地 が はいって 始め 出した 秘密な 仕事 の 巨細 を もらした 。 まさい|||||え|しま|まる||||いちぐう||じんどって|さけ||たばこ|||||なにかしら|||はなし||||すう|じん||じん||じん||みぬく|め||するどい|ようこ|||||じん|||しょくぎょう||すいさつ||とく||すう|じん||じん|||なかま||くらち|||はじめ|だした|ひみつな|しごと||きょさい|| 正井 が 葉子 を 脅かす ため に 、 その 話 に は 誇張 が 加えられて いる 、 そう 思って 聞いて みて も 、 葉子 の 胸 を ひやっと さ せる 事 ばかり だった 。 まさい||ようこ||おびやかす||||はなし|||こちょう||くわえ られて|||おもって|きいて|||ようこ||むね||ひや っと|||こと|| 倉地 が 日 清 戦争 に も 参加 した 事務 長 で 、 海軍 の 人 たち に も 航海 業者 に も 割合 に 広い 交際 が ある 所 から 、 材料 の 蒐集 者 と して その 仲間 の 牛 耳 を 取る ように なり 、 露 国 や 米国 に 向かって もらした 祖国 の 軍事 上 の 秘密 は なかなか 容易 なら ざる もの らしかった 。 くらち||ひ|きよし|せんそう|||さんか||じむ|ちょう||かいぐん||じん||||こうかい|ぎょうしゃ|||わりあい||ひろい|こうさい|||しょ||ざいりょう||しゅうしゅう|もの||||なかま||うし|みみ||とる|||ろ|くに||べいこく||むかって||そこく||ぐんじ|うえ||ひみつ|||ようい|||| Kurachi was the secretary-general who also participated in the Sino-Japanese War, and since he had a wide range of acquaintances with navy personnel and sailors, he began to take control of his companions as material collectors. It seemed that it would not be easy to reveal the military secrets of the motherland to Russia and the United States. 倉地 の 気分 が すさんで 行く の も もっともだ と 思わ れる ような 事柄 を 数々 葉子 は 聞か さ れた 。 くらち||きぶん|||いく|||||おもわ|||ことがら||かずかず|ようこ||きか|| Yoko was told a number of things that seemed justified for Kurachi's mood to go. 葉子 は しまい に は 自分 自身 を 護 る ため に も 正井 の きげん を 取りはずして は なら ない と 思う ように なった 。 ようこ|||||じぶん|じしん||まもる|||||まさい||||とりはずして|||||おもう|| そして 正井 の 言葉 が 一 語 一 語 思い出されて 、 夜 なぞ に なる と 眠ら せ ぬ ほど に 葉子 を 苦しめた 。 |まさい||ことば||ひと|ご|ひと|ご|おもいださ れて|よ|||||ねむら|||||ようこ||くるしめた 葉子 は また 一 つ の 重い 秘密 を 背負わ なければ なら ぬ 自分 を 見いだした 。 ようこ|||ひと|||おもい|ひみつ||せおわ||||じぶん||みいだした この つらい 意識 は すぐに また 倉地 に 響く ようだった 。 ||いしき||||くらち||ひびく| 倉地 は ともすると 敵 の 間 諜 で は ない か と 疑う ような 険しい 目 で 葉子 を にらむ ように なった 。 くらち|||てき||あいだ|ちょう||||||うたがう||けわしい|め||ようこ|||| Kurachi began to stare at Yoko with a stern look that made her suspect that she was a spy for the enemy. そして 二 人 の 間 に は また 一 つ の 溝 が ふえた 。 |ふた|じん||あいだ||||ひと|||みぞ|| ・・

それ ばかり で は なかった 。 正井 に 秘密な 金 を 融通 する ため に は 倉地 から の あてがい だけ で は とても 足りなかった 。 まさい||ひみつな|きむ||ゆうずう|||||くらち||||||||たりなかった In order to provide Masai with secret money, the allotment from Kurachi was not enough. 葉子 は あり も し ない 事 を 誠 しや か に 書き連ねて 木村 の ほう から 送金 さ せ ねば なら なかった 。 ようこ||||||こと||まこと||||かきつらねて|きむら||||そうきん||||| 倉地 の ため なら とにもかくにも 、 倉地 と 自分 の 妹 たち と が 豊かな 生活 を 導く ため に なら とにもかくにも 、 葉子 に 一種 の 獰悪 な 誇り を もって それ を して 、 男 の ため に なら 何事 でも と いう 捨てばち な 満足 を 買い 得 ない で は なかった が 、 その 金 がたいてい 正井 の ふところ に 吸収 されて しまう のだ と 思う と 、 いくら 間接 に は 倉地 の ため だ と は いえ 葉子 の 胸 は 痛かった 。 くらち|||||くらち||じぶん||いもうと||||ゆたかな|せいかつ||みちびく|||||ようこ||いっしゅ||どうあく||ほこり||||||おとこ|||||なにごと||||すてばち||まんぞく||かい|とく|||||||きむ|が たいてい|まさい||||きゅうしゅう|さ れて||||おもう|||かんせつ|||くらち|||||||ようこ||むね||いたかった If it's for Kurachi's sake, if it's for the sake of Kurachi and his sisters leading a prosperous life, he does it with a kind of wicked pride in Yoko, and he's a man. I couldn't help but buy the satisfaction of doing anything for the sake of him, but when I thought that most of the money would be absorbed into Masai's pocket, no matter how indirectly it was for Kurachi's sake. However, Yoko's chest hurt. 木村 から は 送金 の たび ごと に 相変わらず 長い 消息 が 添えられて 来た 。 きむら|||そうきん|||||あいかわらず|ながい|しょうそく||そえ られて|きた 木村 の 葉子 に 対する 愛着 は 日 を 追う て まさる と も 衰える 様子 は 見え なかった 。 きむら||ようこ||たいする|あいちゃく||ひ||おう|||||おとろえる|ようす||みえ| Kimura's affection for Yoko did not seem to wane with each passing day. 仕事 の ほう に も 手違い や 誤算 が あって 始め の 見込み どおり に は 成功 と は いえ ない が 、 葉子 の ほう に 送る くらい の 金 は どうして でも 都合 が つく くらい の 信用 は 得て いる から 構わ ず いって よこせ と も 書いて あった 。 しごと|||||てちがい||ごさん|||はじめ||みこみ||||せいこう||||||ようこ||||おくる|||きむ||||つごう|||||しんよう||えて|||かまわ||||||かいて| こんな 信 実 な 愛情 と 熱意 を 絶えず 示さ れる このごろ は 葉子 も さすが に 自分 の して いる 事 が 苦しく なって 、 思いきって 木村 に すべて を 打ちあけて 、 関係 を 絶とう か と 思い悩む ような 事 が 時々 あった 。 |しん|み||あいじょう||ねつい||たえず|しめさ||||ようこ||||じぶん||||こと||くるしく||おもいきって|きむら||||うちあけて|かんけい||たとう|||おもいなやむ||こと||ときどき| These days, when Yoko constantly shows such sincere affection and enthusiasm, she finds what she's doing to be painful, and she sometimes agonizes over whether to confide in everything to Kimura and cut off the relationship. there were . その 矢先 な ので 、 葉子 は 胸 に ことさら 痛み を 覚えた 。 |やさき|||ようこ||むね|||いたみ||おぼえた それ が ますます 葉子 の 神経 を いらだた せて 、 その 病気 に も 影響 した 。 |||ようこ||しんけい|||||びょうき|||えいきょう| そして 花 の 五 月 が 過ぎて 、 青葉 の 六 月 に なろう と する ころ に は 、 葉子 は 痛ましく やせ細った 、 目 ばかり どぎつい 純 然 たる ヒステリー 症 の 女 に なって いた 。 |か||いつ|つき||すぎて|あおば||むっ|つき||||||||ようこ||いたましく|やせほそった|め|||じゅん|ぜん|||しょう||おんな||| And by the time May, when the flowers were in bloom, was about to turn into June, when the green leaves were in full bloom, Yoko had become a painfully thin, stern-eyed woman in pure hysteria.