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或る女 - 有島武郎(アクセス), 33.1 或る女

33.1 或る 女

岡 に 住所 を 知らせて から 、 すぐ それ が 古藤 に 通じた と 見えて 、 二 月 に は いって から の 木村 の 消息 は 、 倉地 の 手 を 経 ず に 直接 葉子 に あてて 古藤 から 回送 さ れる ように なった 。 古藤 は しかし 頑固に も その 中 に 一言 も 自分 の 消息 を 封じ込んで よこす ような 事 は し なかった 。 古藤 を 近づか せる 事 は 一面 木村 と 葉子 と の 関係 を 断絶 さす 機会 を 早める 恐れ が ないで も なかった が 、 あの 古藤 の 単純な 心 を うまく あやつり さえ すれば 、 古藤 を 自分 の ほう に な ず け て しまい 、 従って 木村 に 不安 を 起こさ せ ない 方便 に なる と 思った 。 葉子 は 例の いたずら 心から 古藤 を 手なずける 興味 を そそら れ ない でも なかった 。 しかし それ を 実行 に 移す まで に その 興味 は 嵩 じ て は 来 なかった ので そのまま に して おいた 。 ・・

木村 の 仕事 は 思いのほか 都合 よく 運んで 行く らしかった 。 「 日本 に おける 未来 の ピーボデー 」 と いう 標題 に 木村 の 肖像 まで 入れて 、 ハミルトン 氏 配下 の 敏腕 家 の 一 人 と して 、 また 品性 の 高潔な 公共 心 の 厚い 好 個 の 青年 実業 家 と して 、 やがて は 日本 に おいて 、 米国 に おける ピーボデー と 同様の 名声 を かち う べき 約束 に ある もの と 賞 賛 した シカゴ ・ トリビューン の 「 青年 実業 家 評判 記 」 の 切り抜き など を 封 入 して 来た 。 思いのほか 巨額の 為替 を ちょいちょい 送って よこして 、 倉地 氏 に 支払う べき 金額 の 全体 を 知らせて くれたら 、 どう 工面 して も 必ず 送付 する から 、 一 日 も 早く 倉地 氏 の 保護 から 独立 して 世評 の 誤 謬 を 実行 的に 訂正 し 、 あわせて 自分 に 対する 葉子 の 真情 を 証明 して ほしい など と いって よこした 。 葉子 は ―― 倉地 に おぼれ きって いる 葉子 は 鼻 の 先 で せ せら 笑った 。 ・・

それ に 反して 倉地 の 仕事 の ほう は いつまでも 目鼻 が つか ない らしかった 。 倉地 の いう 所 に よれば 日本 だけ の 水 先 案内 業者 の 組合 と いって も 、 東洋 の 諸 港 や 西部 米国 の 沿岸 に ある それ ら の 組合 と も 交渉 を つけて 連絡 を 取る 必要 が ある のに 、 日本 の 移民 問題 が 米国 の 西部 諸 州 で やかましく なり 、 排日 熱 が 過度に 煽 動 さ れ 出した ので 、 何事 も 米国 人 と の 交渉 は 思う ように 行か ず に その 点 で 行き なやんで いる と の 事 だった 。 そう いえば 米国 人 らしい 外国 人 が しばしば 倉地 の 下宿 に 出入り する の を 葉子 は 気 が ついて いた 。 ある 時 は それ が 公使 館 の 館 員 で でも あるか と 思う ような 、 礼装 を して みごとな 馬車 に 乗った 紳士 である 事 も あり 、 ある 時 は ズボン の 折り目 も つけ ない ほど だ らし の ない ふう を した 人相 の よく ない 男 で も あった 。 ・・

とにかく 二 月 に は いって から 倉地 の 様子 が 少しずつ すさんで 来た らしい の が 目立つ ように なった 。 酒 の 量 も 著しく 増して 来た 。 正井 が かみつく ように どなられて いる 事 も あった 。 しかし 葉子 に 対して は 倉地 は 前 に も まさって 溺愛 の 度 を 加え 、 あらゆる 愛情 の 証拠 を つかむ まで は 執拗に 葉子 を しいたげる ように なった 。 葉子 は 目 も くらむ 火 酒 を あおり つける ように その しいたげ を 喜んで 迎えた 。 ・・

ある 夜 葉子 は 妹 たち が 就寝 して から 倉地 の 下宿 を 訪れた 。 倉地 は たった 一 人 で さびし そうに ソウダ ・ ビスケット を 肴 に ウィスキー を 飲んで いた 。 チャブ 台 の 周囲 に は 書類 や 港湾 の 地図 や が 乱暴に 散ら け て あって 、 台 の 上 の から の コップ から 察する と 正井 か だれ か 、 今 客 が 帰った 所 らしかった 。 襖 を 明けて 葉子 の はいって 来た の を 見る と 倉地 は いつも に なく ちょっと けわしい 目つき を して 書類 に 目 を やった が 、 そこ に ある もの を 猿 臂 を 延ばして 引き寄せて せわしく 一まとめ に して 床の間 に 移す と 、 自分 の 隣 に 座ぶとん を 敷いて 、 それ に すわれ と 顎 を 突き出して 相 図 した 。 そして 激しく 手 を 鳴らした 。 ・・

「 コップ と 炭酸 水 を 持って来い 」・・

用 を 聞き に 来た 女 中 に こう いいつけて おいて 、 激しく 葉子 を まともに 見た 。 ・・

「 葉 ちゃん ( これ は その ころ 倉地 が 葉子 を 呼ぶ 名前 だった 。 妹 たち の 前 で 葉子 と 呼び捨て に も でき ない ので 倉地 は しばらく の 間 お 葉さん お 葉さん と 呼んで いた が 、 葉子 が 貞 世 を 貞 ちゃん と 呼ぶ の から 思いついた と 見えて 、 三 人 を 葉 ちゃん 、 愛 ちゃん 、 貞 ちゃん と 呼ぶ ように なった 。 そして 差し向かい の 時 に も 葉子 を そう 呼ぶ のだった ) は 木村 に 貢がれて いる な 。 白状 しっち まえ 」・・

「 それ が どうして ? 」・・

葉子 は 左 の 片 肘 を ちゃぶ台 に ついて 、 その 指先 で 鬢 の ほつれ を かき上げ ながら 、 平気な 顔 で 正面 から 倉地 を 見返した 。 ・・

「 どうして が ある か 。 おれ は 赤 の 他人 に おれ の 女 を 養わ す ほど 腑 抜けで は ない んだ 」・・

「 まあ 気 の 小さい 」・・

葉子 は なおも 動じ なかった 。 そこ に 婢 が はいって 来た ので 話 の 腰 が 折ら れた 。 二 人 は しばらく 黙って いた 。 ・・

「 おれ は これ から 竹 柴 へ 行く 。 な 、 行こう 」・・

「 だって 明朝 困ります わ 。 わたし が 留守 だ と 妹 たち が 学校 に 行け ない もの 」・・

「 一筆 書いて 学校 なん ざ あ 休んで 留守 を しろ と いって や れい 」・・

葉子 は もちろん ちょっと そんな 事 を いって 見た だけ だった 。 妹 たち の 学校 に 行った あと でも 、 苔 香 園 の 婆さん に 言葉 を かけて おいて 家 を 明ける 事 は 常 始終 だった 。 ことに その 夜 は 木村 の 事 に ついて 倉地 に 合点 さ せて おく の が 必要だ と 思った ので いい出さ れた 時 から 一緒 する 下心 で は あった のだ 。 葉子 は そこ に あった ペン を 取り上げて 紙切れ に 走り書き を した 。 倉地 が 急病 に なった ので 介抱 の ため に 今夜 は ここ で 泊まる 。 あす の 朝 学校 の 時刻 まで に 帰って 来 なかったら 、 戸締まり を して 出かけて いい 。 そういう 意味 を 書いた 。 その 間 に 倉地 は 手早く 着がえ を して 、 書類 を 大きな シナ 鞄 に 突っ込んで 錠 を おろして から 、 綿密に あく か あか ない か を 調べた 。 そして 考えこむ ように うつむいて 上 目 を し ながら 、 両手 を ふところ に さし込んで 鍵 を 腹 帯 らしい 所 に し まい込んだ 。 ・・

九 時 すぎ 十 時 近く なって から 二 人 は 連れ立って 下宿 を 出た 。 増 上 寺前 に 来て から 車 を 傭った 。 満月 に 近い 月 が もう だいぶ 寒空 高く こうこう と かかって いた 。 ・・

二 人 を 迎えた 竹 柴 館 の 女 中 は 倉地 を 心得て いて 、 すぐ 庭先 に 離れ に なって いる 二 間 ばかり の 一 軒 に 案内 した 。 風 は ない けれども 月 の 白 さ で ひどく 冷え込んだ ような 晩 だった 。 葉子 は 足 の 先 が 氷 で 包ま れた ほど 感覚 を 失って いる の を 覚えた 。 倉地 の 浴した あと で 、 熱 めな 塩 湯 に ゆっくり 浸った ので ようやく 人心地 が ついて 戻って 来た 時 に は 、 素早い 女 中 の 働き で 酒 肴 が ととのえられて いた 。 葉子 が 倉地 と 遠出 らしい 事 を した の は これ が 始めて な ので 、 旅先 に いる ような 気分 が 妙に 二 人 を 親しみ 合わせた 。 まして や 座敷 に 続く 芝生 の はずれ の 石垣 に は 海 の 波 が 来て 静かに 音 を 立てて いた 。 空 に は 月 が さえて いた 。 妹 たち に 取り巻か れたり 、 下宿 人 の 目 を かねたり して い なければ なら なかった 二 人 は くつろいだ 姿 と 心 と で 火鉢 に より添った 。 世の中 は 二 人きり の ようだった 。 いつのまにか 良 人 と ばかり 倉地 を 考え 慣れて しまった 葉子 は 、 ここ に 再び 情 人 を 見いだした ように 思った 。 そして 何と は なく 倉地 を じらして じらして じらし 抜いた あげく に 、 その 反動 から 来る 蜜 の ような 歓語 を 思いきり 味わいたい 衝動 に 駆られて いた 。 そして それ が また 倉地 の 要求 で も ある 事 を 本能 的に 感じて いた 。 ・・

「 いい わ ねえ 。 なぜ もっと 早く こんな 所 に 来 なかった でしょう 。 すっかり 苦労 も 何も 忘れて しまいました わ 」・・

葉子 は すべ すべ と ほてって 少し こわばる ような 頬 を なで ながら 、 とろける ように 倉地 を 見た 。 もう だいぶ 酒 の 気 の まわった 倉地 は 、 女 の 肉 感 を そそり 立てる ような に おい を 部屋 じゅう に まき散らす 葉巻 を ふかし ながら 、 葉子 を 尻目 に かけた 。 ・・

「 それ は 結構 。 だが おれ に は さっき の 話 が 喉 に つかえて 残っと る て 。 胸 くそ が 悪い ぞ 」・・

葉子 は あきれた ように 倉地 を 見た 。 ・・

「 木村 の 事 ? 」・・

「 お前 は おれ の 金 を 心 まかせ に 使う 気 に は なれ ない ん か 」・・

「 足りません もの 」・・

「 足りなきゃ なぜ いわ ん 」・・

「 いわな くったって 木村 が よこす んだ から いい じゃ ありません か 」・・

「 ばか ! 」・・

倉地 は 右 の 肩 を 小山 の ように そ び や かして 、 上体 を 斜 に 構え ながら 葉子 を にらみつけた 。 葉子 は その 目の前 で 海 から 出る 夏 の 月 の ように ほほえんで 見せた 。 ・・

「 木村 は 葉 ちゃん に 惚れ とる んだ よ 」・・

「 そして 葉 ちゃん は きらって る んです わ ね 」・・

「 冗談 は 措 いて くれ 。 …… おりゃ 真剣で いっとる んだ 。 おれたち は 木村 に 用 は ない はずだ 。 おれ は 用 の ない もの は 片っ端から 捨てる の が 立て まえ だ 。 嬶 だろう が 子 だろう が …… 見ろ おれ を …… よく 見ろ 。 お前 は まだ この おれ を 疑っと る んだ な 。 あとがま に は 木村 を いつでも なおせる ように 食い 残し を し とる んだ な 」・・

「 そんな 事 は ありません わ 」・・

「 では なんで 手紙 の やり取り など し おる んだ 」・・

「 お 金 が ほしい から な の 」・・

葉子 は 平気な 顔 を して また 話 を あと に 戻した 。 そして 独 酌 で 杯 を 傾けた 。 倉地 は 少し どもる ほど 怒り が 募って いた 。 ・・

「 それ が 悪い と いっとる の が わから ない か …… おれ の 面 に 泥 を 塗り こ くっとる …… こっち に 来い ( そう いい ながら 倉地 は 葉子 の 手 を 取って 自分 の 膝 の 上 に 葉子 の 上体 を たくし 込んだ )。 いえ 、 隠さ ず に 。 今に なって 木村 に 未練 が 出て 来 おった んだろう 。 女 と いう は そうした もん だ 。 木村 に 行き たく ば 行け 、 今 行け 。 おれ の ような やく ざ を 構っと る と 芽 は 出 やせん から 。 …… お前 に は ふて腐れ が いっち よく 似合っと る よ …… ただし おれ を だまし に かかる と 見当違いだ ぞ 」・・

そう いい ながら 倉地 は 葉子 を 突き放す ように した 。 葉子 は それ でも 少しも 平静 を 失って は い なかった 。 あでやかに ほほえみ ながら 、・・

「 あなた も あんまり わから ない ……」・・

と いい ながら 今度 は 葉子 の ほう から 倉地 の 膝 に 後ろ向き に もたれかかった 。 倉地 は それ を 退けよう と は し なかった 。 ・・

「 何 が わから ん かい 」


33.1 或る 女 ある|おんな 33.1 Una mujer

岡 に 住所 を 知らせて から 、 すぐ それ が 古藤 に 通じた と 見えて 、 二 月 に は いって から の 木村 の 消息 は 、 倉地 の 手 を 経 ず に 直接 葉子 に あてて 古藤 から 回送 さ れる ように なった 。 おか||じゅうしょ||しらせて|||||ことう||つうじた||みえて|ふた|つき||||||きむら||しょうそく||くらち||て||へ|||ちょくせつ|ようこ|||ことう||かいそう|||| 古藤 は しかし 頑固に も その 中 に 一言 も 自分 の 消息 を 封じ込んで よこす ような 事 は し なかった 。 ことう|||がんこに|||なか||いちげん||じぶん||しょうそく||ふうじこんで|||こと||| Furuto, however, stubbornly did not hide his whereabouts even a single word. 古藤 を 近づか せる 事 は 一面 木村 と 葉子 と の 関係 を 断絶 さす 機会 を 早める 恐れ が ないで も なかった が 、 あの 古藤 の 単純な 心 を うまく あやつり さえ すれば 、 古藤 を 自分 の ほう に な ず け て しまい 、 従って 木村 に 不安 を 起こさ せ ない 方便 に なる と 思った 。 ことう||ちかづか||こと||いちめん|きむら||ようこ|||かんけい||だんぜつ||きかい||はやめる|おそれ|||||||ことう||たんじゅんな|こころ||||||ことう||じぶん|||||||||したがって|きむら||ふあん||おこさ|||ほうべん||||おもった On the one hand, there was the fear that bringing Koto closer would hasten the opportunity to sever the relationship between Kimura and Yoko, but if you could manage Koto's simple heart well, you should be able to win over him. I thought it would be a convenient way to not make Kimura feel uneasy. 葉子 は 例の いたずら 心から 古藤 を 手なずける 興味 を そそら れ ない でも なかった 。 ようこ||れいの||こころから|ことう||てなずける|きょうみ|||||| しかし それ を 実行 に 移す まで に その 興味 は 嵩 じ て は 来 なかった ので そのまま に して おいた 。 |||じっこう||うつす||||きょうみ||かさみ||||らい|||||| ・・

木村 の 仕事 は 思いのほか 都合 よく 運んで 行く らしかった 。 きむら||しごと||おもいのほか|つごう||はこんで|いく| 「 日本 に おける 未来 の ピーボデー 」 と いう 標題 に 木村 の 肖像 まで 入れて 、 ハミルトン 氏 配下 の 敏腕 家 の 一 人 と して 、 また 品性 の 高潔な 公共 心 の 厚い 好 個 の 青年 実業 家 と して 、 やがて は 日本 に おいて 、 米国 に おける ピーボデー と 同様の 名声 を かち う べき 約束 に ある もの と 賞 賛 した シカゴ ・ トリビューン の 「 青年 実業 家 評判 記 」 の 切り抜き など を 封 入 して 来た 。 にっぽん|||みらい|||||ひょうだい||きむら||しょうぞう||いれて|はみるとん|うじ|はいか||びんわん|いえ||ひと|じん||||ひんせい||こうけつな|こうきょう|こころ||あつい|よしみ|こ||せいねん|じつぎょう|いえ|||||にっぽん|||べいこく|||||どうようの|めいせい|||||やくそく|||||しょう|さん||しかご|||せいねん|じつぎょう|いえ|ひょうばん|き||きりぬき|||ふう|はい||きた Under the title of ``Future Peabody in Japan,'' Kimura was portrayed as one of Mr. Hamilton's talented men, as well as a good-natured young businessman with a noble character and a strong public spirit. In the end, they included clippings from the Chicago Tribune's ``Young Entrepreneur's Reputation'', which praised Peabody as promising to earn the same fame in Japan as Peabody did in the United States. . 思いのほか 巨額の 為替 を ちょいちょい 送って よこして 、 倉地 氏 に 支払う べき 金額 の 全体 を 知らせて くれたら 、 どう 工面 して も 必ず 送付 する から 、 一 日 も 早く 倉地 氏 の 保護 から 独立 して 世評 の 誤 謬 を 実行 的に 訂正 し 、 あわせて 自分 に 対する 葉子 の 真情 を 証明 して ほしい など と いって よこした 。 おもいのほか|きょがくの|かわせ|||おくって||くらち|うじ||しはらう||きんがく||ぜんたい||しらせて|||くめん|||かならず|そうふ|||ひと|ひ||はやく|くらち|うじ||ほご||どくりつ||せひょう||ご|びゅう||じっこう|てきに|ていせい|||じぶん||たいする|ようこ||しんじょう||しょうめい|||||| If you could send me an unexpectedly large sum of money here and there and let me know the entire amount that I should pay to Mr. Kurachi, I would definitely send it no matter what I did, so as soon as possible, I would be free from Mr. Kurachi's protection and avoid a reputational error. He asked Yoko to practically correct the error and, at the same time, to prove Yoko's true feelings towards him. 葉子 は ―― 倉地 に おぼれ きって いる 葉子 は 鼻 の 先 で せ せら 笑った 。 ようこ||くらち|||||ようこ||はな||さき||||わらった ・・

それ に 反して 倉地 の 仕事 の ほう は いつまでも 目鼻 が つか ない らしかった 。 ||はんして|くらち||しごと|||||めはな|||| 倉地 の いう 所 に よれば 日本 だけ の 水 先 案内 業者 の 組合 と いって も 、 東洋 の 諸 港 や 西部 米国 の 沿岸 に ある それ ら の 組合 と も 交渉 を つけて 連絡 を 取る 必要 が ある のに 、 日本 の 移民 問題 が 米国 の 西部 諸 州 で やかましく なり 、 排日 熱 が 過度に 煽 動 さ れ 出した ので 、 何事 も 米国 人 と の 交渉 は 思う ように 行か ず に その 点 で 行き なやんで いる と の 事 だった 。 くらち|||しょ|||にっぽん|||すい|さき|あんない|ぎょうしゃ||くみあい||||とうよう||しょ|こう||せいぶ|べいこく||えんがん||||||くみあい|||こうしょう|||れんらく||とる|ひつよう||||にっぽん||いみん|もんだい||べいこく||せいぶ|しょ|しゅう||||はいにち|ねつ||かどに|あお|どう|||だした||なにごと||べいこく|じん|||こうしょう||おもう||いか||||てん||いき|||||こと| そう いえば 米国 人 らしい 外国 人 が しばしば 倉地 の 下宿 に 出入り する の を 葉子 は 気 が ついて いた 。 ||べいこく|じん||がいこく|じん|||くらち||げしゅく||でいり||||ようこ||き||| Come to think of it, Yoko had noticed that foreigners who appeared to be Americans were often coming in and out of Kurachi's boarding house. ある 時 は それ が 公使 館 の 館 員 で でも あるか と 思う ような 、 礼装 を して みごとな 馬車 に 乗った 紳士 である 事 も あり 、 ある 時 は ズボン の 折り目 も つけ ない ほど だ らし の ない ふう を した 人相 の よく ない 男 で も あった 。 |じ||||こうし|かん||かん|いん|||||おもう||れいそう||||ばしゃ||のった|しんし||こと||||じ||ずぼん||おりめ||||||||||||にんそう||||おとこ||| ・・

とにかく 二 月 に は いって から 倉地 の 様子 が 少しずつ すさんで 来た らしい の が 目立つ ように なった 。 |ふた|つき|||||くらち||ようす||すこしずつ||きた||||めだつ|| 酒 の 量 も 著しく 増して 来た 。 さけ||りょう||いちじるしく|まして|きた 正井 が かみつく ように どなられて いる 事 も あった 。 まさい||||どなら れて||こと|| There was also a time when Masai was yelled at. しかし 葉子 に 対して は 倉地 は 前 に も まさって 溺愛 の 度 を 加え 、 あらゆる 愛情 の 証拠 を つかむ まで は 執拗に 葉子 を しいたげる ように なった 。 |ようこ||たいして||くらち||ぜん||||できあい||たび||くわえ||あいじょう||しょうこ|||||しつように|ようこ|||| However, Kurachi became even more fond of Yoko than before, and began to oppress her relentlessly until he could find any proof of his affection. 葉子 は 目 も くらむ 火 酒 を あおり つける ように その しいたげ を 喜んで 迎えた 。 ようこ||め|||ひ|さけ||||||||よろこんで|むかえた Yoko happily welcomed the oppressor as if she were pouring dizzying sake. ・・

ある 夜 葉子 は 妹 たち が 就寝 して から 倉地 の 下宿 を 訪れた 。 |よ|ようこ||いもうと|||しゅうしん|||くらち||げしゅく||おとずれた 倉地 は たった 一 人 で さびし そうに ソウダ ・ ビスケット を 肴 に ウィスキー を 飲んで いた 。 くらち|||ひと|じん|||そう に||びすけっと||さかな||うぃすきー||のんで| チャブ 台 の 周囲 に は 書類 や 港湾 の 地図 や が 乱暴に 散ら け て あって 、 台 の 上 の から の コップ から 察する と 正井 か だれ か 、 今 客 が 帰った 所 らしかった 。 |だい||しゅうい|||しょるい||こうわん||ちず|||らんぼうに|ちら||||だい||うえ||||こっぷ||さっする||まさい||||いま|きゃく||かえった|しょ| Documents and maps of the harbor were scattered wildly around the table, and judging from the empty glass on the table, it seemed that Masai or someone had just returned home. 襖 を 明けて 葉子 の はいって 来た の を 見る と 倉地 は いつも に なく ちょっと けわしい 目つき を して 書類 に 目 を やった が 、 そこ に ある もの を 猿 臂 を 延ばして 引き寄せて せわしく 一まとめ に して 床の間 に 移す と 、 自分 の 隣 に 座ぶとん を 敷いて 、 それ に すわれ と 顎 を 突き出して 相 図 した 。 ふすま||あけて|ようこ|||きた|||みる||くらち|||||||めつき|||しょるい||め|||||||||さる|ひじ||のばして|ひきよせて||ひとまとめ|||とこのま||うつす||じぶん||となり||ざぶとん||しいて|||||あご||つきだして|そう|ず| そして 激しく 手 を 鳴らした 。 |はげしく|て||ならした ・・

「 コップ と 炭酸 水 を 持って来い 」・・ こっぷ||たんさん|すい||もってこい

用 を 聞き に 来た 女 中 に こう いいつけて おいて 、 激しく 葉子 を まともに 見た 。 よう||きき||きた|おんな|なか|||||はげしく|ようこ|||みた ・・

「 葉 ちゃん ( これ は その ころ 倉地 が 葉子 を 呼ぶ 名前 だった 。 は||||||くらち||ようこ||よぶ|なまえ| 妹 たち の 前 で 葉子 と 呼び捨て に も でき ない ので 倉地 は しばらく の 間 お 葉さん お 葉さん と 呼んで いた が 、 葉子 が 貞 世 を 貞 ちゃん と 呼ぶ の から 思いついた と 見えて 、 三 人 を 葉 ちゃん 、 愛 ちゃん 、 貞 ちゃん と 呼ぶ ように なった 。 いもうと|||ぜん||ようこ||よびすて||||||くらち||||あいだ||ようさん||ようさん||よんで|||ようこ||さだ|よ||さだ|||よぶ|||おもいついた||みえて|みっ|じん||は||あい||さだ|||よぶ|| そして 差し向かい の 時 に も 葉子 を そう 呼ぶ のだった ) は 木村 に 貢がれて いる な 。 |さしむかい||じ|||ようこ|||よぶ|||きむら||みつが れて|| 白状 しっち まえ 」・・ はくじょう||

「 それ が どうして ? 」・・

葉子 は 左 の 片 肘 を ちゃぶ台 に ついて 、 その 指先 で 鬢 の ほつれ を かき上げ ながら 、 平気な 顔 で 正面 から 倉地 を 見返した 。 ようこ||ひだり||かた|ひじ||ちゃぶだい||||ゆびさき||びん||||かきあげ||へいきな|かお||しょうめん||くらち||みかえした ・・

「 どうして が ある か 。 おれ は 赤 の 他人 に おれ の 女 を 養わ す ほど 腑 抜けで は ない んだ 」・・ ||あか||たにん||||おんな||やしなわ|||ふ|ぬけで|||

「 まあ 気 の 小さい 」・・ |き||ちいさい

葉子 は なおも 動じ なかった 。 ようこ|||どうじ| そこ に 婢 が はいって 来た ので 話 の 腰 が 折ら れた 。 ||はしため|||きた||はなし||こし||おら| 二 人 は しばらく 黙って いた 。 ふた|じん|||だまって| ・・

「 おれ は これ から 竹 柴 へ 行く 。 ||||たけ|しば||いく な 、 行こう 」・・ |いこう

「 だって 明朝 困ります わ 。 |みょうちょう|こまり ます| わたし が 留守 だ と 妹 たち が 学校 に 行け ない もの 」・・ ||るす|||いもうと|||がっこう||いけ||

「 一筆 書いて 学校 なん ざ あ 休んで 留守 を しろ と いって や れい 」・・ いっぴつ|かいて|がっこう||||やすんで|るす||||||

葉子 は もちろん ちょっと そんな 事 を いって 見た だけ だった 。 ようこ|||||こと|||みた|| 妹 たち の 学校 に 行った あと でも 、 苔 香 園 の 婆さん に 言葉 を かけて おいて 家 を 明ける 事 は 常 始終 だった 。 いもうと|||がっこう||おこなった|||こけ|かおり|えん||ばあさん||ことば||||いえ||あける|こと||とわ|しじゅう| ことに その 夜 は 木村 の 事 に ついて 倉地 に 合点 さ せて おく の が 必要だ と 思った ので いい出さ れた 時 から 一緒 する 下心 で は あった のだ 。 ||よ||きむら||こと|||くらち||がてん||||||ひつようだ||おもった||いいださ||じ||いっしょ||したごころ|||| 葉子 は そこ に あった ペン を 取り上げて 紙切れ に 走り書き を した 。 ようこ|||||ぺん||とりあげて|かみきれ||はしりがき|| 倉地 が 急病 に なった ので 介抱 の ため に 今夜 は ここ で 泊まる 。 くらち||きゅうびょう||||かいほう||||こんや||||とまる あす の 朝 学校 の 時刻 まで に 帰って 来 なかったら 、 戸締まり を して 出かけて いい 。 ||あさ|がっこう||じこく|||かえって|らい||とじまり|||でかけて| そういう 意味 を 書いた 。 |いみ||かいた その 間 に 倉地 は 手早く 着がえ を して 、 書類 を 大きな シナ 鞄 に 突っ込んで 錠 を おろして から 、 綿密に あく か あか ない か を 調べた 。 |あいだ||くらち||てばやく|きがえ|||しょるい||おおきな|しな|かばん||つっこんで|じょう||||めんみつに|||||||しらべた そして 考えこむ ように うつむいて 上 目 を し ながら 、 両手 を ふところ に さし込んで 鍵 を 腹 帯 らしい 所 に し まい込んだ 。 |かんがえこむ|||うえ|め||||りょうて||||さしこんで|かぎ||はら|おび||しょ|||まいこんだ ・・

九 時 すぎ 十 時 近く なって から 二 人 は 連れ立って 下宿 を 出た 。 ここの|じ||じゅう|じ|ちかく|||ふた|じん||つれだって|げしゅく||でた 増 上 寺前 に 来て から 車 を 傭った 。 ぞう|うえ|てらまえ||きて||くるま||よう った 満月 に 近い 月 が もう だいぶ 寒空 高く こうこう と かかって いた 。 まんげつ||ちかい|つき||||さむぞら|たかく|こう こう||| ・・

二 人 を 迎えた 竹 柴 館 の 女 中 は 倉地 を 心得て いて 、 すぐ 庭先 に 離れ に なって いる 二 間 ばかり の 一 軒 に 案内 した 。 ふた|じん||むかえた|たけ|しば|かん||おんな|なか||くらち||こころえて|||にわさき||はなれ||||ふた|あいだ|||ひと|のき||あんない| 風 は ない けれども 月 の 白 さ で ひどく 冷え込んだ ような 晩 だった 。 かぜ||||つき||しろ||||ひえこんだ||ばん| 葉子 は 足 の 先 が 氷 で 包ま れた ほど 感覚 を 失って いる の を 覚えた 。 ようこ||あし||さき||こおり||つつま|||かんかく||うしなって||||おぼえた 倉地 の 浴した あと で 、 熱 めな 塩 湯 に ゆっくり 浸った ので ようやく 人心地 が ついて 戻って 来た 時 に は 、 素早い 女 中 の 働き で 酒 肴 が ととのえられて いた 。 くらち||よくした|||ねつ||しお|ゆ|||ひたった|||ひとごこち|||もどって|きた|じ|||すばやい|おんな|なか||はたらき||さけ|さかな||ととのえ られて| After Kurachi's bath, I slowly soaked myself in the hot salt water, and when I finally returned feeling comfortable, the nibbles had been prepared by the quick work of the maids. 葉子 が 倉地 と 遠出 らしい 事 を した の は これ が 始めて な ので 、 旅先 に いる ような 気分 が 妙に 二 人 を 親しみ 合わせた 。 ようこ||くらち||とおで||こと|||||||はじめて|||たびさき||||きぶん||みょうに|ふた|じん||したしみ|あわせた This was the first time that Yoko had gone on an outing with Kurachi, so it felt like they were on a trip, and the two of them became familiar with each other. まして や 座敷 に 続く 芝生 の はずれ の 石垣 に は 海 の 波 が 来て 静かに 音 を 立てて いた 。 ||ざしき||つづく|しばふ||||いしがき|||うみ||なみ||きて|しずかに|おと||たてて| What's more, the waves of the sea were making quiet noises on the stone wall on the edge of the lawn that led to the tatami room. 空 に は 月 が さえて いた 。 から|||つき||| 妹 たち に 取り巻か れたり 、 下宿 人 の 目 を かねたり して い なければ なら なかった 二 人 は くつろいだ 姿 と 心 と で 火鉢 に より添った 。 いもうと|||とりまか||げしゅく|じん||め||||||||ふた|じん|||すがた||こころ|||ひばち||よりそった 世の中 は 二 人きり の ようだった 。 よのなか||ふた|ひときり|| いつのまにか 良 人 と ばかり 倉地 を 考え 慣れて しまった 葉子 は 、 ここ に 再び 情 人 を 見いだした ように 思った 。 |よ|じん|||くらち||かんがえ|なれて||ようこ||||ふたたび|じょう|じん||みいだした||おもった Before she knew it, Yoko, who had become accustomed to thinking of Kurachi only as a good friend, thought that she had once again found her lover. そして 何と は なく 倉地 を じらして じらして じらし 抜いた あげく に 、 その 反動 から 来る 蜜 の ような 歓語 を 思いきり 味わいたい 衝動 に 駆られて いた 。 |なんと|||くらち|||||ぬいた||||はんどう||くる|みつ|||かんご||おもいきり|あじわい たい|しょうどう||かられて| And after teasing and teasing Kurachi for some reason, he was driven by the urge to savor the honey-like delight that came from the reaction. そして それ が また 倉地 の 要求 で も ある 事 を 本能 的に 感じて いた 。 ||||くらち||ようきゅう||||こと||ほんのう|てきに|かんじて| ・・

「 いい わ ねえ 。 なぜ もっと 早く こんな 所 に 来 なかった でしょう 。 ||はやく||しょ||らい|| すっかり 苦労 も 何も 忘れて しまいました わ 」・・ |くろう||なにも|わすれて|しまい ました|

葉子 は すべ すべ と ほてって 少し こわばる ような 頬 を なで ながら 、 とろける ように 倉地 を 見た 。 ようこ||||||すこし|||ほお||な で||||くらち||みた もう だいぶ 酒 の 気 の まわった 倉地 は 、 女 の 肉 感 を そそり 立てる ような に おい を 部屋 じゅう に まき散らす 葉巻 を ふかし ながら 、 葉子 を 尻目 に かけた 。 ||さけ||き|||くらち||おんな||にく|かん|||たてる|||||へや|||まきちらす|はまき||||ようこ||しりめ|| Kurachi, who had already had enough of the sake, looked down at Yoko as he puffed on a cigar that spread the scent of a woman's flesh all over the room. ・・

「 それ は 結構 。 ||けっこう だが おれ に は さっき の 話 が 喉 に つかえて 残っと る て 。 ||||||はなし||のど|||ざん っと|| 胸 くそ が 悪い ぞ 」・・ むね|||わるい|

葉子 は あきれた ように 倉地 を 見た 。 ようこ||||くらち||みた ・・

「 木村 の 事 ? きむら||こと 」・・

「 お前 は おれ の 金 を 心 まかせ に 使う 気 に は なれ ない ん か 」・・ おまえ||||きむ||こころ|||つかう|き|||||| "You don't feel like spending my money arbitrarily?"

「 足りません もの 」・・ たり ませ ん|

「 足りなきゃ なぜ いわ ん 」・・ たりなきゃ|||

「 いわな くったって 木村 が よこす んだ から いい じゃ ありません か 」・・ |くった って|きむら|||||||あり ませ ん|

「 ばか ! 」・・

倉地 は 右 の 肩 を 小山 の ように そ び や かして 、 上体 を 斜 に 構え ながら 葉子 を にらみつけた 。 くらち||みぎ||かた||こやま|||||||じょうたい||しゃ||かまえ||ようこ|| Kurachi raised his right shoulder like a small mountain and glared at Yoko while leaning his upper body. 葉子 は その 目の前 で 海 から 出る 夏 の 月 の ように ほほえんで 見せた 。 ようこ|||めのまえ||うみ||でる|なつ||つき||||みせた ・・

「 木村 は 葉 ちゃん に 惚れ とる んだ よ 」・・ きむら||は|||ほれ|||

「 そして 葉 ちゃん は きらって る んです わ ね 」・・ |は|||||||

「 冗談 は 措 いて くれ 。 じょうだん||そ|| …… おりゃ 真剣で いっとる んだ 。 |しんけんで|いっ とる| おれたち は 木村 に 用 は ない はずだ 。 ||きむら||よう||| おれ は 用 の ない もの は 片っ端から 捨てる の が 立て まえ だ 。 ||よう|||||かたっぱしから|すてる|||たて|| It's my policy to throw away everything that I have no use for. 嬶 だろう が 子 だろう が …… 見ろ おれ を …… よく 見ろ 。 かかあ|||こ|||みろ||||みろ お前 は まだ この おれ を 疑っと る んだ な 。 おまえ||||||うたが っと||| あとがま に は 木村 を いつでも なおせる ように 食い 残し を し とる んだ な 」・・ |||きむら|||||くい|のこし||||| In the aftermath, I'll take the leftovers so that I can heal Kimura at any time."

「 そんな 事 は ありません わ 」・・ |こと||あり ませ ん|

「 では なんで 手紙 の やり取り など し おる んだ 」・・ ||てがみ||やりとり||||

「 お 金 が ほしい から な の 」・・ |きむ|||||

葉子 は 平気な 顔 を して また 話 を あと に 戻した 。 ようこ||へいきな|かお||||はなし||||もどした そして 独 酌 で 杯 を 傾けた 。 |どく|しゃく||さかずき||かたむけた Then he tipped the cup with a drink of his own. 倉地 は 少し どもる ほど 怒り が 募って いた 。 くらち||すこし|||いかり||つのって| ・・

「 それ が 悪い と いっとる の が わから ない か …… おれ の 面 に 泥 を 塗り こ くっとる …… こっち に 来い ( そう いい ながら 倉地 は 葉子 の 手 を 取って 自分 の 膝 の 上 に 葉子 の 上体 を たくし 込んだ )。 ||わるい||いっ とる||||||||おもて||どろ||ぬり||くっ とる|||こい||||くらち||ようこ||て||とって|じぶん||ひざ||うえ||ようこ||じょうたい|||こんだ いえ 、 隠さ ず に 。 |かくさ|| 今に なって 木村 に 未練 が 出て 来 おった んだろう 。 いまに||きむら||みれん||でて|らい|| 女 と いう は そうした もん だ 。 おんな|||||| 木村 に 行き たく ば 行け 、 今 行け 。 きむら||いき|||いけ|いま|いけ おれ の ような やく ざ を 構っと る と 芽 は 出 やせん から 。 ||||||かま っと|||め||だ|| If you take care of a yakuza like me, the buds won't grow. …… お前 に は ふて腐れ が いっち よく 似合っと る よ …… ただし おれ を だまし に かかる と 見当違いだ ぞ 」・・ おまえ|||ふてくされ||||にあ っと||||||||||けんとうちがいだ|

そう いい ながら 倉地 は 葉子 を 突き放す ように した 。 |||くらち||ようこ||つきはなす|| 葉子 は それ でも 少しも 平静 を 失って は い なかった 。 ようこ||||すこしも|へいせい||うしなって||| あでやかに ほほえみ ながら 、・・

「 あなた も あんまり わから ない ……」・・

と いい ながら 今度 は 葉子 の ほう から 倉地 の 膝 に 後ろ向き に もたれかかった 。 |||こんど||ようこ||||くらち||ひざ||うしろむき|| 倉地 は それ を 退けよう と は し なかった 。 くらち||||しりぞけよう|||| ・・

「 何 が わから ん かい 」 なん||||