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或る女 - 有島武郎(アクセス), 27.2 或る女

27.2 或る 女

葉子 は つやの くん で 出した ちょうど いいかげんの 湯 で 顔 を 洗って 、 軽く 化粧 を した 。 昨夜 の 事 など は 気 に も かから ない ほど 心 は 軽かった 。 葉子 は その 軽い 心 を 抱き ながら 静かに 二 階 に 上がって 行った 。 何と はなし に 倉地 に 甘えたい ような 、 わびたい ような 気持ち で そっと 襖 を 明けて 見る と 、 あの 強烈な 倉地 の 膚 の 香 い が 暖かい 空気 に 満たされて 鼻 を かすめて 来た 。 葉子 は われ に も なく 駆けよって 、 仰向け に 熟睡 して いる 倉地 の 上 に 羽 がい に のしかかった 。 ・・

暗い 中 で 倉地 は 目ざめた らしかった 。 そして 黙った まま 葉子 の 髪 や 着物 から 花べん の ように こぼれ落ちる なまめかしい 香り を 夢心地 で かいで いる ようだった が 、 やがて 物 たる げ に 、・・

「 もう 起きた ん か 。 何 時 だ な 」・・

と いった 。 まるで 大きな 子供 の ような その 無邪気 さ 。 葉子 は 思わず 自分 の 頬 を 倉地 の に すり つける と 、 寝起き の 倉地 の 頬 は 火 の ように 熱く 感ぜられた 。 ・・

「 もう 八 時 。 …… お 起き に なら ない と 横浜 の ほう が おそく なる わ 」・・

倉地 は やはり 物 たる げ に 、 袖口 から に ょき ん と 現われ 出た 太い 腕 を 延べて 、 短い 散 切り 頭 を ご しご し と かき回し ながら 、・・

「 横浜 ? …… 横浜 に は もう 用 は な いわい 。 いつ 首 に なる か 知れ ない おれ が この上 の 御 奉公 を して たまる か 。 これ も みんな お前 の お陰 だ ぞ 。 業 つくば り め 」・・

と いって いきなり 葉子 の 首筋 を 腕 に まいて 自分 の 胸 に 押しつけた 。 ・・

しばらく して 倉地 は 寝床 を 出た が 、 昨夜 の 事 など は けろりと 忘れて しまった ように 平気で いた 。 二 人 が 始めて 離れ離れに 寝た の に も 一言 も いわ ない の が かすかに 葉子 を 物 足ら なく 思わ せた けれども 、 葉子 は 胸 が 広々 と して なんという 事 も なく 喜ばしくって たまらなかった 。 で 、 倉地 を 残して 台所 に おりた 。 自分 で 自分 の 食べる もの を 料理 する と いう 事 に も かつて ない 物珍し さ と うれし さ と を 感じた 。 ・・

畳 一 畳 がた 日 の さしこむ 茶の間 の 六 畳 で 二 人 は 朝 餉 の 膳 に 向かった 。 かつて は 葉山 で 木部 と 二 人 で こうした 楽しい 膳 に 向かった 事 も あった が 、 その 時 の 心持ち と 今 の 心持ち と を 比較 する 事 も でき ない と 葉子 は 思った 。 木部 は 自分 で の この こと 台所 まで 出かけて 来て 、 長い 自炊 の 経験 など を 得意 げ に 話して 聞か せ ながら 、 自分 で 米 を といだり 、 火 を たきつけたり した 。 その 当座 は 葉子 も それ を 楽しい と 思わ ないで は なかった 。 しかし しばらく の うち に そんな 事 を する 木部 の 心持ち が さもしく も 思われて 来た 。 おまけに 木部 は 一 日一日 と ものぐさに なって 、 自分 で は 手 を 下し も せ ず に 、 邪魔に なる 所 に 突っ立った まま さしず が まし い 事 を いったり 、 葉子 に は 何ら の 感 興 も 起こさ せ ない 長 詩 を 例 の 御 自慢 の 美しい 声 で 朗々と 吟 じた りした 。 葉子 は そんな 目 に あう と 軽蔑 しきった 冷ややかな ひとみ で じ ろ り と 見返して やりたい ような 気 に なった 。 倉地 は 始め から そんな 事 は てんで し なかった 。 大きな 駄々 児 の ように 、 顔 を 洗う と いきなり 膳 の 前 に あぐら を かいて 、 葉子 が 作って 出した もの を 片 端 から むしゃ むしゃ と きれいに 片づけて 行った 。 これ が 木部 だったら 、 出す 物 の 一つ一つ に 知ったかぶり の 講釈 を つけて 、 葉子 の 腕 まえ を 感傷 的に ほめちぎって 、 かなり たくさん を 食わ ず に 残して しまう だろう 。 そう 思い ながら 葉子 は 目 で なで さ する ように して 倉地 が 一心に 箸 を 動かす の を 見守ら ず に は いられ なかった 。 ・・

やがて 箸 と 茶わん と を からり と なげ捨てる と 、 倉地 は 所在な さ そうに 葉巻 を ふかして しばらく そこら を ながめ 回して いた が 、 いきなり 立ち上がって 尻っぱ しょり を し ながら 裸足 の まま 庭 に 飛んで 降りた 。 そして ハーキュリーズ が 針 仕事 でも する ような ぶきっちょう な 様子 で 、 狭い 庭 を 歩き回り ながら 片すみ から 片づけ 出した 。 まだ び し ゃび しゃ する ような 土 の 上 に 大きな 足跡 が 縦横 に しるさ れた 。 まだ 枯れ 果て ない 菊 や 萩 など が 雑草 と 一緒 く たに 情け も 容赦 も なく 根 こぎ に さ れる の を 見る と さすが の 葉子 も はらはら した 。 そして 縁 ぎ わに しゃがんで 柱 に もた れ ながら 、 時に は あまり の おかし さ に 高く 声 を あげて 笑いこけ ず に は いられ なかった 。 ・・

倉地 は 少し 働き 疲れる と 苔 香 園 の ほう を うかがったり 、 台所 の ほう に 気 を 配ったり して おいて 、 大急ぎで 葉子 の いる 所 に 寄って 来た 。 そして 泥 に なった 手 を 後ろ に 回して 、 上体 を 前 に 折り曲げて 、 葉子 の 鼻 の 先 に 自分 の 顔 を 突き出して お 壺 口 を した 。 葉子 も いたずら らしく 周囲 に 目 を 配って その 顔 を 両手 に はさみ ながら 自分 の 口 び る を 与えて やった 。 倉地 は 勇み立つ ように して また 土 の 上 に しゃがみこんだ 。 ・・

倉地 は こうして 一 日 働き 続けた 。 日 が かげる ころ に なって 葉子 も 一緒に 庭 に 出て みた 。 ただ 乱暴な 、 しょう 事 なし の いたずら 仕事 と のみ 思わ れた もの が 、 片づいて みる と どこ から どこ まで 要領 を 得て いる の を 発見 する のだった 。 葉子 が 気 に して いた 便所 の 屋根 の 前 に は 、 庭 の すみ に あった 椎 の 木 が 移して あったり した 。 玄関 前 の 両側 の 花壇 の 牡丹 に は 、 藁 で 器用に 霜 が こい さえ しつらえて あった 。 ・・

こんな さびしい 杉森 の 中 の 家 に も 、 時々 紅葉 館 の ほう から 音 曲 の 音 が くぐもる ように 聞こえて 来たり 、 苔 香 園 から 薔薇 の 香り が 風 の 具合 で ほんのり と におって 来たり した 。 ここに こうして 倉地 と 住み 続ける 喜ばしい 期待 は ひと 向き に 葉子 の 心 を 奪って しまった 。 ・・

平凡な 人妻 と なり 、 子 を 生み 、 葉子 の 姿 を 魔物 か 何 か の よう に 冷笑 おうと する 、 葉子 の 旧友 たち に 対して 、 かつて 葉子 が いだいて いた 火 の ような 憤り の 心 、 腐って も 死んで も あんな まね は して 見せる もの か と 誓う ように 心 で あざけった その 葉子 は 、 洋行 前 の 自分 と いう もの を どこ か に 置き忘れた ように 、 そんな 事 は 思い も 出さ ないで 、 旧友 たち の 通って 来た 道筋 に ひた走り に 走り込もう と して いた 。


27.2 或る 女 ある|おんな 27.2 A woman 27.2 Una mujer

葉子 は つやの くん で 出した ちょうど いいかげんの 湯 で 顔 を 洗って 、 軽く 化粧 を した 。 ようこ|||||だした|||ゆ||かお||あらって|かるく|けしょう|| 昨夜 の 事 など は 気 に も かから ない ほど 心 は 軽かった 。 さくや||こと|||き||||||こころ||かるかった 葉子 は その 軽い 心 を 抱き ながら 静かに 二 階 に 上がって 行った 。 ようこ|||かるい|こころ||いだき||しずかに|ふた|かい||あがって|おこなった 何と はなし に 倉地 に 甘えたい ような 、 わびたい ような 気持ち で そっと 襖 を 明けて 見る と 、 あの 強烈な 倉地 の 膚 の 香 い が 暖かい 空気 に 満たされて 鼻 を かすめて 来た 。 なんと|||くらち||あまえ たい||わび たい||きもち|||ふすま||あけて|みる|||きょうれつな|くらち||はだ||かおり|||あたたかい|くうき||みたさ れて|はな|||きた 葉子 は われ に も なく 駆けよって 、 仰向け に 熟睡 して いる 倉地 の 上 に 羽 がい に のしかかった 。 ようこ||||||かけよって|あおむけ||じゅくすい|||くらち||うえ||はね||| ・・

暗い 中 で 倉地 は 目ざめた らしかった 。 くらい|なか||くらち||めざめた| そして 黙った まま 葉子 の 髪 や 着物 から 花べん の ように こぼれ落ちる なまめかしい 香り を 夢心地 で かいで いる ようだった が 、 やがて 物 たる げ に 、・・ |だまった||ようこ||かみ||きもの||かべん|||こぼれおちる||かおり||ゆめごこち|||||||ぶつ||| Then, in silence, he seemed to be in a dreamy mood, smelling the sweet scent that spilled like flowers from Yoko's hair and kimono, but before long, it all started to fade away...

「 もう 起きた ん か 。 |おきた|| 何 時 だ な 」・・ なん|じ||

と いった 。 まるで 大きな 子供 の ような その 無邪気 さ 。 |おおきな|こども||||むじゃき| 葉子 は 思わず 自分 の 頬 を 倉地 の に すり つける と 、 寝起き の 倉地 の 頬 は 火 の ように 熱く 感ぜられた 。 ようこ||おもわず|じぶん||ほお||くらち||||||ねおき||くらち||ほお||ひ|||あつく|かんぜ られた ・・

「 もう 八 時 。 |やっ|じ …… お 起き に なら ない と 横浜 の ほう が おそく なる わ 」・・ |おき|||||よこはま||||||

倉地 は やはり 物 たる げ に 、 袖口 から に ょき ん と 現われ 出た 太い 腕 を 延べて 、 短い 散 切り 頭 を ご しご し と かき回し ながら 、・・ くらち|||ぶつ||||そでぐち||||||あらわれ|でた|ふとい|うで||のべて|みじかい|ち|きり|あたま||||||かきまわし|

「 横浜 ? よこはま …… 横浜 に は もう 用 は な いわい 。 よこはま||||よう||| いつ 首 に なる か 知れ ない おれ が この上 の 御 奉公 を して たまる か 。 |くび||||しれ||||このうえ||ご|ほうこう|||| これ も みんな お前 の お陰 だ ぞ 。 |||おまえ||おかげ|| 業 つくば り め 」・・ ぎょう|||

と いって いきなり 葉子 の 首筋 を 腕 に まいて 自分 の 胸 に 押しつけた 。 |||ようこ||くびすじ||うで|||じぶん||むね||おしつけた ・・

しばらく して 倉地 は 寝床 を 出た が 、 昨夜 の 事 など は けろりと 忘れて しまった ように 平気で いた 。 ||くらち||ねどこ||でた||さくや||こと||||わすれて|||へいきで| 二 人 が 始めて 離れ離れに 寝た の に も 一言 も いわ ない の が かすかに 葉子 を 物 足ら なく 思わ せた けれども 、 葉子 は 胸 が 広々 と して なんという 事 も なく 喜ばしくって たまらなかった 。 ふた|じん||はじめて|はなればなれに|ねた||||いちげん|||||||ようこ||ぶつ|たら||おもわ|||ようこ||むね||ひろびろ||||こと|||よろこばしく って| で 、 倉地 を 残して 台所 に おりた 。 |くらち||のこして|だいどころ|| 自分 で 自分 の 食べる もの を 料理 する と いう 事 に も かつて ない 物珍し さ と うれし さ と を 感じた 。 じぶん||じぶん||たべる|||りょうり||||こと|||||ものめずらし|||||||かんじた ・・

畳 一 畳 がた 日 の さしこむ 茶の間 の 六 畳 で 二 人 は 朝 餉 の 膳 に 向かった 。 たたみ|ひと|たたみ||ひ|||ちゃのま||むっ|たたみ||ふた|じん||あさ|しょう||ぜん||むかった かつて は 葉山 で 木部 と 二 人 で こうした 楽しい 膳 に 向かった 事 も あった が 、 その 時 の 心持ち と 今 の 心持ち と を 比較 する 事 も でき ない と 葉子 は 思った 。 ||はやま||きべ||ふた|じん|||たのしい|ぜん||むかった|こと|||||じ||こころもち||いま||こころもち|||ひかく||こと|||||ようこ||おもった 木部 は 自分 で の この こと 台所 まで 出かけて 来て 、 長い 自炊 の 経験 など を 得意 げ に 話して 聞か せ ながら 、 自分 で 米 を といだり 、 火 を たきつけたり した 。 きべ||じぶん|||||だいどころ||でかけて|きて|ながい|じすい||けいけん|||とくい|||はなして|きか|||じぶん||べい|||ひ||| Kibe went out to the kitchen and proudly talked about his long experience of cooking for himself, while he made rice and kindled the fire himself. その 当座 は 葉子 も それ を 楽しい と 思わ ないで は なかった 。 |とうざ||ようこ||||たのしい||おもわ||| しかし しばらく の うち に そんな 事 を する 木部 の 心持ち が さもしく も 思われて 来た 。 ||||||こと|||きべ||こころもち||||おもわ れて|きた おまけに 木部 は 一 日一日 と ものぐさに なって 、 自分 で は 手 を 下し も せ ず に 、 邪魔に なる 所 に 突っ立った まま さしず が まし い 事 を いったり 、 葉子 に は 何ら の 感 興 も 起こさ せ ない 長 詩 を 例 の 御 自慢 の 美しい 声 で 朗々と 吟 じた りした 。 |きべ||ひと|ひいちにち||||じぶん|||て||くだし|||||じゃまに||しょ||つったった||||||こと|||ようこ|||なんら||かん|きょう||おこさ|||ちょう|し||れい||ご|じまん||うつくしい|こえ||ろうろうと|ぎん|| 葉子 は そんな 目 に あう と 軽蔑 しきった 冷ややかな ひとみ で じ ろ り と 見返して やりたい ような 気 に なった 。 ようこ|||め||||けいべつ||ひややかな|||||||みかえして|やり たい||き|| 倉地 は 始め から そんな 事 は てんで し なかった 。 くらち||はじめ|||こと|||| 大きな 駄々 児 の ように 、 顔 を 洗う と いきなり 膳 の 前 に あぐら を かいて 、 葉子 が 作って 出した もの を 片 端 から むしゃ むしゃ と きれいに 片づけて 行った 。 おおきな|だだ|じ|||かお||あらう|||ぜん||ぜん|||||ようこ||つくって|だした|||かた|はし||||||かたづけて|おこなった これ が 木部 だったら 、 出す 物 の 一つ一つ に 知ったかぶり の 講釈 を つけて 、 葉子 の 腕 まえ を 感傷 的に ほめちぎって 、 かなり たくさん を 食わ ず に 残して しまう だろう 。 ||きべ||だす|ぶつ||ひとつひとつ||しったかぶり||こうしゃく|||ようこ||うで|||かんしょう|てきに|||||くわ|||のこして|| If this were Kibe, he'd put a know-it-all commentary on every item he put out, sentimentally praise Yoko's skill, and leave quite a few uneaten. そう 思い ながら 葉子 は 目 で なで さ する ように して 倉地 が 一心に 箸 を 動かす の を 見守ら ず に は いられ なかった 。 |おもい||ようこ||め||な で|||||くらち||いっしんに|はし||うごかす|||みまもら||||いら れ| ・・

やがて 箸 と 茶わん と を からり と なげ捨てる と 、 倉地 は 所在な さ そうに 葉巻 を ふかして しばらく そこら を ながめ 回して いた が 、 いきなり 立ち上がって 尻っぱ しょり を し ながら 裸足 の まま 庭 に 飛んで 降りた 。 |はし||ちゃわん|||||なげすてる||くらち||しょざいな||そう に|はまき|||||||まわして||||たちあがって|しり っぱ|||||はだし|||にわ||とんで|おりた そして ハーキュリーズ が 針 仕事 でも する ような ぶきっちょう な 様子 で 、 狭い 庭 を 歩き回り ながら 片すみ から 片づけ 出した 。 |||はり|しごと||||ぶき っ ちょう||ようす||せまい|にわ||あるきまわり||かたすみ||かたづけ|だした まだ び し ゃび しゃ する ような 土 の 上 に 大きな 足跡 が 縦横 に しるさ れた 。 |||||||つち||うえ||おおきな|あしあと||じゅうおう||| まだ 枯れ 果て ない 菊 や 萩 など が 雑草 と 一緒 く たに 情け も 容赦 も なく 根 こぎ に さ れる の を 見る と さすが の 葉子 も はらはら した 。 |かれ|はて||きく||はぎ|||ざっそう||いっしょ|||なさけ||ようしゃ|||ね|||||||みる||||ようこ||| そして 縁 ぎ わに しゃがんで 柱 に もた れ ながら 、 時に は あまり の おかし さ に 高く 声 を あげて 笑いこけ ず に は いられ なかった 。 |えん||||ちゅう|||||ときに|||||||たかく|こえ|||わらいこけ||||いら れ| ・・

倉地 は 少し 働き 疲れる と 苔 香 園 の ほう を うかがったり 、 台所 の ほう に 気 を 配ったり して おいて 、 大急ぎで 葉子 の いる 所 に 寄って 来た 。 くらち||すこし|はたらき|つかれる||こけ|かおり|えん|||||だいどころ||||き||くばったり|||おおいそぎで|ようこ|||しょ||よって|きた そして 泥 に なった 手 を 後ろ に 回して 、 上体 を 前 に 折り曲げて 、 葉子 の 鼻 の 先 に 自分 の 顔 を 突き出して お 壺 口 を した 。 |どろ|||て||うしろ||まわして|じょうたい||ぜん||おりまげて|ようこ||はな||さき||じぶん||かお||つきだして||つぼ|くち|| 葉子 も いたずら らしく 周囲 に 目 を 配って その 顔 を 両手 に はさみ ながら 自分 の 口 び る を 与えて やった 。 ようこ||||しゅうい||め||くばって||かお||りょうて||||じぶん||くち||||あたえて| 倉地 は 勇み立つ ように して また 土 の 上 に しゃがみこんだ 。 くらち||いさみたつ||||つち||うえ|| ・・

倉地 は こうして 一 日 働き 続けた 。 くらち|||ひと|ひ|はたらき|つづけた 日 が かげる ころ に なって 葉子 も 一緒に 庭 に 出て みた 。 ひ||||||ようこ||いっしょに|にわ||でて| ただ 乱暴な 、 しょう 事 なし の いたずら 仕事 と のみ 思わ れた もの が 、 片づいて みる と どこ から どこ まで 要領 を 得て いる の を 発見 する のだった 。 |らんぼうな||こと||||しごと|||おもわ||||かたづいて|||||||ようりょう||えて||||はっけん|| 葉子 が 気 に して いた 便所 の 屋根 の 前 に は 、 庭 の すみ に あった 椎 の 木 が 移して あったり した 。 ようこ||き||||べんじょ||やね||ぜん|||にわ|||||しい||き||うつして|| 玄関 前 の 両側 の 花壇 の 牡丹 に は 、 藁 で 器用に 霜 が こい さえ しつらえて あった 。 げんかん|ぜん||りょうがわ||かだん||ぼたん|||わら||きように|しも||||| ・・

こんな さびしい 杉森 の 中 の 家 に も 、 時々 紅葉 館 の ほう から 音 曲 の 音 が くぐもる ように 聞こえて 来たり 、 苔 香 園 から 薔薇 の 香り が 風 の 具合 で ほんのり と におって 来たり した 。 ||すぎもり||なか||いえ|||ときどき|こうよう|かん||||おと|きょく||おと||||きこえて|きたり|こけ|かおり|えん||ばら||かおり||かぜ||ぐあい|||||きたり| ここに こうして 倉地 と 住み 続ける 喜ばしい 期待 は ひと 向き に 葉子 の 心 を 奪って しまった 。 ここ に||くらち||すみ|つづける|よろこばしい|きたい|||むき||ようこ||こころ||うばって| ・・

平凡な 人妻 と なり 、 子 を 生み 、 葉子 の 姿 を 魔物 か 何 か の よう に 冷笑 おうと する 、 葉子 の 旧友 たち に 対して 、 かつて 葉子 が いだいて いた 火 の ような 憤り の 心 、 腐って も 死んで も あんな まね は して 見せる もの か と 誓う ように 心 で あざけった その 葉子 は 、 洋行 前 の 自分 と いう もの を どこ か に 置き忘れた ように 、 そんな 事 は 思い も 出さ ないで 、 旧友 たち の 通って 来た 道筋 に ひた走り に 走り込もう と して いた 。 へいぼんな|ひとづま|||こ||うみ|ようこ||すがた||まもの||なん|||||れいしょう|||ようこ||きゅうゆう|||たいして||ようこ||||ひ|||いきどおり||こころ|くさって||しんで||||||みせる||||ちかう||こころ||||ようこ||ようこう|ぜん||じぶん||||||||おきわすれた|||こと||おもい||ださ||きゅうゆう|||かよって|きた|みちすじ||ひたはしり||はしりこもう|||