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或る女 - 有島武郎(アクセス), 26.2 或る女

26.2 或る 女

向かい風 が うなり を 立てて 吹きつけて 来る と 、 車 夫 は 思わず 車 を あおら せて 足 を 止める ほど だった 。 この 四五 日 火鉢 の 前 ばかり に いた 葉子 に 取って は 身 を 切る か と 思わ れる ような 寒 さ が 、 厚い 膝 かけ の 目 まで 通して 襲って 来た 。 葉子 は 先ほど 女将 の 言葉 を 聞いた 時 に は さほど と も 思って い なかった が 、 少し ほど たった今 に なって みる と 、 それ が ひしひし と 身 に こたえる の を 感じ 出した 。 自分 は ひょっとすると あざむかれて いる 、 もてあそび もの に されて いる 。 倉地 は やはり どこまでも あの 妻子 と 別れる 気 は ない のだ 。 ただ 長い 航海 中 の 気まぐれ から 、 出来心 に 自分 を 征服 して みよう と 企てた ばかりな のだ 。 この 恋 の いきさつ が 葉子 から 持ち出さ れた もの である だけ に 、 こんな 心持ち に なって 来る と 、 葉子 は 矢 も たて も たまら ず 自分 に ひけ 目 を 覚えた 。 幸福 ―― 自分 が 夢想 して いた 幸福 が とうとう 来た と 誇り が に 喜んだ その 喜び は さもしい ぬか喜び に 過ぎ なかった らしい 。 倉地 は 船 の 中 で と 同様の 喜び で まだ 葉子 を 喜んで は いる 。 それ に 疑い を 入れよう 余地 は ない 。 けれども 美しい 貞 節 な 妻 と 可憐な 娘 を 三 人 まで 持って いる 倉地 の 心 が いつまで 葉子 に ひか されて いる か 、 それ を だれ が 語り 得よう 、 葉子 の 心 は 幌 の 中 に 吹きこむ 風 の 寒 さ と 共に 冷えて 行った 。 世の中 から きれいに 離れて しまった 孤独な 魂 が たった 一 つ そこ に は 見いださ れる ように も 思えた 。 どこ に うれし さ が ある 、 楽し さ が ある 。 自分 は また 一 つ の 今 まで に 味わわ なかった ような 苦悩 の 中 に 身 を 投げ込もう と して いる のだ 。 また うまう まと いたずら 者 の 運命 に して やられた のだ 。 それにしても もう この 瀬戸ぎわ から 引く 事 は でき ない 。 死ぬ まで …… そうだ 死んで も この 苦しみ に 浸り きら ず に 置く もの か 。 葉子 に は 楽し さ が 苦し さ な の か 、 苦し さ が 楽し さ な の か 、 全く 見さかい が つか なく なって しまって いた 。 魂 を 締め 木 に かけて その 油 で も しぼり あげる ような もだえ の 中 に やむ に やま れ ぬ 執着 を 見いだして われながら 驚く ばかりだった 。 ・・

ふと 車 が 停 まって 梶 棒 が おろさ れた ので 葉子 は はっと 夢心地 から われ に 返った 。 恐ろしい 吹き 降り に なって いた 。 車 夫 が 片足 で 梶 棒 を 踏まえて 、 風 で 車 の よろめく の を 防ぎ ながら 、 前 幌 を はずし に かかる と 、 まっ暗 だった 前方 から かすかに 光 が もれて 来た 。 頭 の 上 で は ざ あざ あと 降りしきる 雨 の 中 に 、 荒海 の 潮騒 の ような 物 すごい 響き が 何 か 変 事 でも わいて 起こり そうに 聞こえて いた 。 葉子 は 車 を 出る と 風 に 吹き飛ばさ れ そうに なり ながら 、 髪 や 新調 の 着物 の ぬれる の も かまわ ず 空 を 仰いで 見た 。 漆 を 流した ような 雲 で 固く とざさ れた 雲 の 中 に 、 漆 より も 色 濃く むらむら と 立ち 騒いで いる の は 古い 杉 の 木 立ち だった 。 花壇 らしい 竹 垣 の 中 の 灌木 の 類 は 枝 先 を 地 に つけ ん ばかりに 吹き なびいて 、 枯れ葉 が 渦 の ように ばらばら と 飛び回って いた 。 葉子 は われ に も なく そこ に べったり すわり込んで しまい たく なった 。 ・・

「 おい 早く はいらん か よ 、 ぬれて しまう じゃ ない か 」・・

倉地 が ランプ の 灯 を かばい つつ 家 の 中 から どなる の が 風 に 吹き ちぎら れ ながら 聞こえて 来た 。 倉地 が そこ に いる と いう 事 さえ 葉子 に は 意外の ようだった 。 だいぶ 離れた 所 で ど たん と 戸 か 何 か はずれた ような 音 が した と 思う と 、 風 は また 一 しきり うなり を 立てて 杉 叢 を こそ い で 通りぬけた 。 車 夫 は 葉子 を 助けよう に も 梶 棒 を 離れれば 車 を けし 飛ばさ れる ので 、 提灯 の 尻 を 風上 の ほう に 斜 に 向けて 目 八 分 に 上げ ながら 何 か 大声 に 後ろ から 声 を かけて いた 。 葉子 は すごすご と して 玄関 口 に 近づいた 。 一杯 きげん で 待ち あぐんだ らしい 倉地 の 顔 の 酒 ほてり に 似 ず 、 葉子 の 顔 は 透き通る ほど 青ざめて いた 。 なよなよ と まず 敷き 台 に 腰 を おろして 、 十 歩 ばかり 歩く だけ で 泥 に なって しまった 下駄 を 、 足先 で 手伝い ながら 脱ぎ捨てて 、 ようやく 板の間 に 立ち上がって から 、 うつろな 目 で 倉地 の 顔 を じっと 見入った 。 ・・

「 どう だった 寒かったろう 。 まあ こっち に お 上がり 」・・

そう 倉地 は いって 、 そこ に 出合わ して いた 女 中 らしい 人 に 手 ランプ を 渡す と 華車 な 少し 急な 階子 段 を のぼって 行った 。 葉子 は 吾妻 コート も 脱が ず に いいかげん ぬれた まま で 黙って その あと から ついて行った 。 ・・

二 階 の 間 は 電 燈 で 昼間 より 明るく 葉子 に は 思わ れた 。 戸 と いう 戸 が がた ぴし と 鳴り はためいて いた 。 板 葺 き らしい 屋根 に 一 寸 釘 でも たたきつける ように 雨 が 降り つけて いた 。 座敷 の 中 は 暖かく いきれて 、 飲み食い する 物 が 散らかって いる ようだった 。 葉子 の 注意 の 中 に は それ だけ の 事 が かろうじて は いって 来た 。 そこ に 立った まま の 倉地 に 葉子 は 吸いつけられる ように 身 を 投げかけて 行った 。 倉地 も 迎え 取る ように 葉子 を 抱いた と 思う と そのまま そこ に どっか と あぐら を かいた 。 そして 自分 の ほてった 頬 を 葉子 の に すり 付ける と さすが に 驚いた ように 、・・

「 こりゃ どう だ 冷えた に も 氷 の ようだ 」・・

と いい ながら その 顔 を 見入ろう と した 。 しかし 葉子 は 無性に 自分 の 顔 を 倉地 の 広い 暖かい 胸 に 埋めて しまった 。 なつかしみ と 憎しみ と の もつれ 合った 、 かつて 経験 し ない 激しい 情緒 が すぐに 葉子 の 涙 を 誘い出した 。 ヒステリー の ように 間 歇的 に ひき 起こる すすり泣き の 声 を かみしめて も かみしめて も とめる 事 が でき なかった 。 葉子 は そうした まま 倉地 の 胸 で 息 気 を 引き取る 事 が できたら と 思った 。 それとも 自分 の なめて いる ような 魂 の もだえ の 中 に 倉地 を 巻き込む 事 が できたら ば と も 思った 。 ・・

いそいそ と 世話 女房 らしく 喜び勇んで 二 階 に 上がって 来る 葉子 を 見いだす だろう と ばかり 思って いた らしい 倉地 は 、 この 理由 も 知れ ぬ 葉子 の 狂 体 に 驚いた らしかった 。 ・・

「 どうした と いう んだ な 、 え 」・・

と 低く 力 を こめて いい ながら 、 葉子 を 自分 の 胸 から 引き離そう と する けれども 、 葉子 は ただ 無性に かぶり を 振る ばかりで 、 駄々 児 の ように 、 倉地 の 胸 に しがみついた 。 できる なら その 肉 の 厚い 男らしい 胸 を かみ 破って 、 血みどろに なり ながら その 胸 の 中 に 顔 を 埋めこみたい ―― そういうように 葉子 は 倉地 の 着物 を かんだ 。 ・・

徐 かに で は ある けれども 倉地 の 心 は だんだん 葉子 の 心持ち に 染められて 行く ようだった 。 葉子 を かき 抱く 倉地 の 腕 の 力 は 静かに 加わって 行った 。 その 息 気づか い は 荒く なって 来た 。 葉子 は 気 が 遠く なる ように 思い ながら 、 締め 殺す ほど 引きしめて くれ と 念じて いた 。 そして 顔 を 伏せた まま 涙 の ひま から 切れ切れに 叫ぶ ように 声 を 放った 。 ・・

「 捨て ないで ちょうだい と は いいません …… 捨てる なら 捨てて くださって も ようご ざん す …… その代わり …… その代わり …… はっきり おっしゃって ください 、 ね …… わたし は ただ 引きずられて 行く の が いやな んです ……」・・

「 何 を いって る んだ お前 は ……」・・

倉地 の かんで ふくめる ような 声 が 耳 も と 近く 葉子 に こう ささやいた 。 ・・

「 それ だけ は …… それ だけ は 誓って ください …… ごまかす の は わたし は いや …… いやです 」・・

「 何 を …… 何 を ごまかす かい 」・・

「 そんな 言葉 が わたし は きらいです 」・・

「 葉子 ! 」・・

倉地 は もう 熱情 に 燃えて いた 。 しかし それ は いつでも 葉子 を 抱いた 時 に 倉地 に 起こる 野獣 の ような 熱情 と は 少し 違って いた 。 そこ に は やさしく 女 の 心 を いたわる ような 影 が 見えた 。 葉子 は それ を うれしく も 思い 、 物 足ら なく も 思った 。 ・・

葉子 の 心 の 中 は 倉地 の 妻 の 事 を いい出そう と する 熱意 で いっぱいに なって いた 。 その 妻 が 貞 淑 な 美しい 女 である と 思えば 思う ほど 、 その 人 が 二 人 の 間 に はさまって いる の が 呪わ しかった 。 た とい 捨てられる まで も 一 度 は 倉地 の 心 を その 女 から 根こそぎ 奪い取ら なければ 堪 念 が でき ない ような ひたむきに 狂暴な 欲 念 が 胸 の 中 で は はち 切れ そうに 煮えくり返って いた 。 けれども 葉子 は どうしても それ を 口 の 端に 上せる 事 は でき なかった 。 その 瞬間 に 自分 に 対する 誇り が 塵 芥 の ように 踏みにじら れる の を 感じた から だ 。 葉子 は 自分 ながら 自分 の 心 が じれったかった 。 倉地 の ほう から 一言 も それ を いわ ない の が 恨めしかった 。 倉地 は そんな 事 は いう に も 足ら ない と 思って いる の かも しれ ない が …… い ゝ え そんな 事 は ない 、 そんな 事 の あろう はず は ない 。 倉地 は やはり 二 股 かけて 自分 を 愛して いる のだ 。 男 の 心 に は そんな みだらな 未練 が ある はずだ 。 男 の 心 と は いう まい 、 自分 も 倉地 に 出あう まで は 、 異性 に 対する 自分 の 愛 を 勝手に 三 つ に も 四 つ に も 裂いて みる 事 が できた のだ 。 …… 葉子 は ここ に も 自分 の 暗い 過去 の 経験 の ため に 責め さいなま れた 。 進んで 恋 の とりこ と なった もの が 当然 陥ら なければ なら ない たとえ よう の ない ほど 暗く 深い 疑惑 は あと から あと から 口実 を 作って 葉子 を 襲う のだった 。 葉子 の 胸 は 言葉 どおり に 張り裂けよう と して いた 。 ・・

しかし 葉子 の 心 が 傷めば 傷む ほど 倉地 の 心 は 熱して 見えた 。 倉地 は どうして 葉子 が こんなに きげん を 悪く して いる の か を 思い 迷って いる 様子 だった 。 倉地 は やがて しいて 葉子 を 自分 の 胸 から 引き 放して その 顔 を 強く 見守った 。 ・・

「 何 を そう 理屈 も なく 泣いて いる のだ …… お前 は おれ を 疑って いる な 」・・

葉子 は 「 疑わ ないで いられます か 」 と 答えよう と した が 、 どうしても それ は 自分 の 面目 に かけて 口 に は 出せ なかった 。 葉子 は 涙 に 解けて 漂う ような 目 を 恨めし げ に 大きく 開いて 黙って 倉地 を 見返した 。 ・・

「 きょう おれ は とうとう 本店 から 呼び出さ れた んだった 。 船 の 中 で の 事 を それ と なく 聞き ただそう と し おった から 、 おれ は 残らず いって のけた よ 。 新聞 に おれたち の 事 が 出た 時 でも が 、 あわてる が もの は ない と 思っとった んだ 。 どうせ いつか は 知れる 事 だ 。 知れる ほど なら 、 大っぴ ら で 早い が いい くらい の もの だ 。 近い うち に 会社 の ほう は 首 に なろう が 、 おれ は 、 葉子 、 それ が 満足な んだ ぞ 。 自分 で 自分 の 面 に 泥 を 塗って 喜んで る おれ が ばかに 見えよう な 」・・

そう いって から 倉地 は 激しい 力 で 再び 葉子 を 自分 の 胸 に 引き寄せよう と した 。 ・・

葉子 は しかし そう は させ なかった 。 素早く 倉地 の 膝 から 飛びのいて 畳 の 上 に 頬 を 伏せた 。 倉地 の 言葉 を そのまま 信じて 、 素直に うれし がって 、 心 を 涙 に 溶いて 泣き たかった 。 しかし 万一 倉地 の 言葉 が その場のがれ の 勝手な 造り 事 だったら …… なぜ 倉地 は 自分 の 妻 や 子供 たち の 事 を いって は 聞か せて くれ ない のだ 。 葉子 は わけ の わから ない 涙 を 泣く より 術 が なかった 。 葉子 は 突っ伏した まま で さめざめ と 泣き出した 。 ・・

戸外 の あらし は 気勢 を 加えて 、 物 すさまじく ふけて 行く 夜 を 荒れ狂った 。 ・・

「 おれ の いう た 事 が わから ん なら まあ 見とる が いい さ 。 おれ は くどい 事 は 好か ん から な 」・・

そう いい ながら 倉地 は 自分 を 抑制 しよう と する ように しいて 落ち着いて 、 葉巻 を 取り上げて 煙草 盆 を 引き寄せた 。 ・・

葉子 は 心 の 中 で 自分 の 態度 が 倉地 の 気 を まずく して いる の を はらはら し ながら 思いやった 。 気 を まずく する だけ でも それ だけ 倉地 から 離れ そうな の が この上 なく つらかった 。 しかし 自分 で 自分 を どう する 事 も でき なかった 。 ・・

葉子 は あらし の 中 に われ と わが身 を さいなみ ながら さめざめ と 泣き 続けた 。


26.2 或る 女 ある|おんな 26.2 Una mujer

向かい風 が うなり を 立てて 吹きつけて 来る と 、 車 夫 は 思わず 車 を あおら せて 足 を 止める ほど だった 。 むかいかぜ||||たてて|ふきつけて|くる||くるま|おっと||おもわず|くるま||||あし||とどめる|| この 四五 日 火鉢 の 前 ばかり に いた 葉子 に 取って は 身 を 切る か と 思わ れる ような 寒 さ が 、 厚い 膝 かけ の 目 まで 通して 襲って 来た 。 |しご|ひ|ひばち||ぜん||||ようこ||とって||み||きる|||おもわ|||さむ|||あつい|ひざ|||め||とおして|おそって|きた 葉子 は 先ほど 女将 の 言葉 を 聞いた 時 に は さほど と も 思って い なかった が 、 少し ほど たった今 に なって みる と 、 それ が ひしひし と 身 に こたえる の を 感じ 出した 。 ようこ||さきほど|おかみ||ことば||きいた|じ||||||おもって||||すこし||たったいま|||||||||み|||||かんじ|だした 自分 は ひょっとすると あざむかれて いる 、 もてあそび もの に されて いる 。 じぶん|||あざむか れて|||||さ れて| 倉地 は やはり どこまでも あの 妻子 と 別れる 気 は ない のだ 。 くらち|||||さいし||わかれる|き||| ただ 長い 航海 中 の 気まぐれ から 、 出来心 に 自分 を 征服 して みよう と 企てた ばかりな のだ 。 |ながい|こうかい|なか||きまぐれ||できごころ||じぶん||せいふく||||くわだてた|| この 恋 の いきさつ が 葉子 から 持ち出さ れた もの である だけ に 、 こんな 心持ち に なって 来る と 、 葉子 は 矢 も たて も たまら ず 自分 に ひけ 目 を 覚えた 。 |こい||||ようこ||もちださ|||||||こころもち|||くる||ようこ||や||||||じぶん|||め||おぼえた 幸福 ―― 自分 が 夢想 して いた 幸福 が とうとう 来た と 誇り が に 喜んだ その 喜び は さもしい ぬか喜び に 過ぎ なかった らしい 。 こうふく|じぶん||むそう|||こうふく|||きた||ほこり|||よろこんだ||よろこび|||ぬかよろこび||すぎ|| 倉地 は 船 の 中 で と 同様の 喜び で まだ 葉子 を 喜んで は いる 。 くらち||せん||なか|||どうようの|よろこび|||ようこ||よろこんで|| それ に 疑い を 入れよう 余地 は ない 。 ||うたがい||いれよう|よち|| けれども 美しい 貞 節 な 妻 と 可憐な 娘 を 三 人 まで 持って いる 倉地 の 心 が いつまで 葉子 に ひか されて いる か 、 それ を だれ が 語り 得よう 、 葉子 の 心 は 幌 の 中 に 吹きこむ 風 の 寒 さ と 共に 冷えて 行った 。 |うつくしい|さだ|せつ||つま||かれんな|むすめ||みっ|じん||もって||くらち||こころ|||ようこ|||さ れて|||||||かたり|えよう|ようこ||こころ||ほろ||なか||ふきこむ|かぜ||さむ|||ともに|ひえて|おこなった 世の中 から きれいに 離れて しまった 孤独な 魂 が たった 一 つ そこ に は 見いださ れる ように も 思えた 。 よのなか|||はなれて||こどくな|たましい|||ひと|||||みいださ||||おもえた どこ に うれし さ が ある 、 楽し さ が ある 。 ||||||たのし||| 自分 は また 一 つ の 今 まで に 味わわ なかった ような 苦悩 の 中 に 身 を 投げ込もう と して いる のだ 。 じぶん|||ひと|||いま|||あじわわ|||くのう||なか||み||なげこもう|||| また うまう まと いたずら 者 の 運命 に して やられた のだ 。 ||||もの||うんめい|||| それにしても もう この 瀬戸ぎわ から 引く 事 は でき ない 。 |||せとぎわ||ひく|こと||| 死ぬ まで …… そうだ 死んで も この 苦しみ に 浸り きら ず に 置く もの か 。 しぬ||そう だ|しんで|||くるしみ||ひたり||||おく|| 葉子 に は 楽し さ が 苦し さ な の か 、 苦し さ が 楽し さ な の か 、 全く 見さかい が つか なく なって しまって いた 。 ようこ|||たのし|||にがし|||||にがし|||たのし|||||まったく|みさかい|||||| 魂 を 締め 木 に かけて その 油 で も しぼり あげる ような もだえ の 中 に やむ に やま れ ぬ 執着 を 見いだして われながら 驚く ばかりだった 。 たましい||しめ|き||||あぶら||||||||なか|||||||しゅうちゃく||みいだして||おどろく| ・・

ふと 車 が 停 まって 梶 棒 が おろさ れた ので 葉子 は はっと 夢心地 から われ に 返った 。 |くるま||てい||かじ|ぼう|||||ようこ|||ゆめごこち||||かえった 恐ろしい 吹き 降り に なって いた 。 おそろしい|ふき|ふり||| 車 夫 が 片足 で 梶 棒 を 踏まえて 、 風 で 車 の よろめく の を 防ぎ ながら 、 前 幌 を はずし に かかる と 、 まっ暗 だった 前方 から かすかに 光 が もれて 来た 。 くるま|おっと||かたあし||かじ|ぼう||ふまえて|かぜ||くるま|||||ふせぎ||ぜん|ほろ||||||まっ くら||ぜんぽう|||ひかり|||きた 頭 の 上 で は ざ あざ あと 降りしきる 雨 の 中 に 、 荒海 の 潮騒 の ような 物 すごい 響き が 何 か 変 事 でも わいて 起こり そうに 聞こえて いた 。 あたま||うえ||||||ふりしきる|あめ||なか||あらうみ||しおさい|||ぶつ||ひびき||なん||へん|こと|||おこり|そう に|きこえて| 葉子 は 車 を 出る と 風 に 吹き飛ばさ れ そうに なり ながら 、 髪 や 新調 の 着物 の ぬれる の も かまわ ず 空 を 仰いで 見た 。 ようこ||くるま||でる||かぜ||ふきとばさ||そう に|||かみ||しんちょう||きもの|||||||から||あおいで|みた 漆 を 流した ような 雲 で 固く とざさ れた 雲 の 中 に 、 漆 より も 色 濃く むらむら と 立ち 騒いで いる の は 古い 杉 の 木 立ち だった 。 うるし||ながした||くも||かたく|||くも||なか||うるし|||いろ|こく|||たち|さわいで||||ふるい|すぎ||き|たち| 花壇 らしい 竹 垣 の 中 の 灌木 の 類 は 枝 先 を 地 に つけ ん ばかりに 吹き なびいて 、 枯れ葉 が 渦 の ように ばらばら と 飛び回って いた 。 かだん||たけ|かき||なか||かんぼく||るい||えだ|さき||ち|||||ふき||かれは||うず|||||とびまわって| 葉子 は われ に も なく そこ に べったり すわり込んで しまい たく なった 。 ようこ|||||||||すわりこんで||| ・・

「 おい 早く はいらん か よ 、 ぬれて しまう じゃ ない か 」・・ |はやく||||||||

倉地 が ランプ の 灯 を かばい つつ 家 の 中 から どなる の が 風 に 吹き ちぎら れ ながら 聞こえて 来た 。 くらち||らんぷ||とう||||いえ||なか|||||かぜ||ふき||||きこえて|きた 倉地 が そこ に いる と いう 事 さえ 葉子 に は 意外の ようだった 。 くらち|||||||こと||ようこ|||いがいの| だいぶ 離れた 所 で ど たん と 戸 か 何 か はずれた ような 音 が した と 思う と 、 風 は また 一 しきり うなり を 立てて 杉 叢 を こそ い で 通りぬけた 。 |はなれた|しょ|||||と||なん||||おと||||おもう||かぜ|||ひと||||たてて|すぎ|そう|||||とおりぬけた 車 夫 は 葉子 を 助けよう に も 梶 棒 を 離れれば 車 を けし 飛ばさ れる ので 、 提灯 の 尻 を 風上 の ほう に 斜 に 向けて 目 八 分 に 上げ ながら 何 か 大声 に 後ろ から 声 を かけて いた 。 くるま|おっと||ようこ||たすけよう|||かじ|ぼう||はなれれば|くるま|||とばさ|||ちょうちん||しり||かざかみ||||しゃ||むけて|め|やっ|ぶん||あげ||なん||おおごえ||うしろ||こえ||| 葉子 は すごすご と して 玄関 口 に 近づいた 。 ようこ|||||げんかん|くち||ちかづいた 一杯 きげん で 待ち あぐんだ らしい 倉地 の 顔 の 酒 ほてり に 似 ず 、 葉子 の 顔 は 透き通る ほど 青ざめて いた 。 いっぱい|||まち|||くらち||かお||さけ|||に||ようこ||かお||すきとおる||あおざめて| なよなよ と まず 敷き 台 に 腰 を おろして 、 十 歩 ばかり 歩く だけ で 泥 に なって しまった 下駄 を 、 足先 で 手伝い ながら 脱ぎ捨てて 、 ようやく 板の間 に 立ち上がって から 、 うつろな 目 で 倉地 の 顔 を じっと 見入った 。 |||しき|だい||こし|||じゅう|ふ||あるく|||どろ||||げた||あしさき||てつだい||ぬぎすてて||いたのま||たちあがって|||め||くらち||かお|||みいった ・・

「 どう だった 寒かったろう 。 ||さむかったろう まあ こっち に お 上がり 」・・ ||||あがり

そう 倉地 は いって 、 そこ に 出合わ して いた 女 中 らしい 人 に 手 ランプ を 渡す と 華車 な 少し 急な 階子 段 を のぼって 行った 。 |くらち|||||であわ|||おんな|なか||じん||て|らんぷ||わたす||はなくるま||すこし|きゅうな|はしご|だん|||おこなった 葉子 は 吾妻 コート も 脱が ず に いいかげん ぬれた まま で 黙って その あと から ついて行った 。 ようこ||あがつま|こーと||だつ が|||||||だまって||||ついていった ・・

二 階 の 間 は 電 燈 で 昼間 より 明るく 葉子 に は 思わ れた 。 ふた|かい||あいだ||いなずま|とも||ひるま||あかるく|ようこ|||おもわ| 戸 と いう 戸 が がた ぴし と 鳴り はためいて いた 。 と|||と|||||なり|| 板 葺 き らしい 屋根 に 一 寸 釘 でも たたきつける ように 雨 が 降り つけて いた 。 いた|ふき|||やね||ひと|すん|くぎ||||あめ||ふり|| 座敷 の 中 は 暖かく いきれて 、 飲み食い する 物 が 散らかって いる ようだった 。 ざしき||なか||あたたかく|いき れて|のみくい||ぶつ||ちらかって|| 葉子 の 注意 の 中 に は それ だけ の 事 が かろうじて は いって 来た 。 ようこ||ちゅうい||なか||||||こと|||||きた そこ に 立った まま の 倉地 に 葉子 は 吸いつけられる ように 身 を 投げかけて 行った 。 ||たった|||くらち||ようこ||すいつけ られる||み||なげかけて|おこなった 倉地 も 迎え 取る ように 葉子 を 抱いた と 思う と そのまま そこ に どっか と あぐら を かいた 。 くらち||むかえ|とる||ようこ||いだいた||おもう|||||ど っか|||| そして 自分 の ほてった 頬 を 葉子 の に すり 付ける と さすが に 驚いた ように 、・・ |じぶん|||ほお||ようこ||||つける||||おどろいた|

「 こりゃ どう だ 冷えた に も 氷 の ようだ 」・・ |||ひえた|||こおり||

と いい ながら その 顔 を 見入ろう と した 。 ||||かお||みいろう|| しかし 葉子 は 無性に 自分 の 顔 を 倉地 の 広い 暖かい 胸 に 埋めて しまった 。 |ようこ||ぶしょうに|じぶん||かお||くらち||ひろい|あたたかい|むね||うずめて| なつかしみ と 憎しみ と の もつれ 合った 、 かつて 経験 し ない 激しい 情緒 が すぐに 葉子 の 涙 を 誘い出した 。 ||にくしみ||||あった||けいけん|||はげしい|じょうちょ|||ようこ||なみだ||さそいだした ヒステリー の ように 間 歇的 に ひき 起こる すすり泣き の 声 を かみしめて も かみしめて も とめる 事 が でき なかった 。 |||あいだ|けつてき|||おこる|すすりなき||こえ|||||||こと||| 葉子 は そうした まま 倉地 の 胸 で 息 気 を 引き取る 事 が できたら と 思った 。 ようこ||||くらち||むね||いき|き||ひきとる|こと||||おもった それとも 自分 の なめて いる ような 魂 の もだえ の 中 に 倉地 を 巻き込む 事 が できたら ば と も 思った 。 |じぶん|||||たましい||||なか||くらち||まきこむ|こと||||||おもった ・・

いそいそ と 世話 女房 らしく 喜び勇んで 二 階 に 上がって 来る 葉子 を 見いだす だろう と ばかり 思って いた らしい 倉地 は 、 この 理由 も 知れ ぬ 葉子 の 狂 体 に 驚いた らしかった 。 ||せわ|にょうぼう||よろこびいさんで|ふた|かい||あがって|くる|ようこ||みいだす||||おもって|||くらち|||りゆう||しれ||ようこ||くる|からだ||おどろいた| ・・

「 どうした と いう んだ な 、 え 」・・

と 低く 力 を こめて いい ながら 、 葉子 を 自分 の 胸 から 引き離そう と する けれども 、 葉子 は ただ 無性に かぶり を 振る ばかりで 、 駄々 児 の ように 、 倉地 の 胸 に しがみついた 。 |ひくく|ちから|||||ようこ||じぶん||むね||ひきはなそう||||ようこ|||ぶしょうに|||ふる||だだ|じ|||くらち||むね|| できる なら その 肉 の 厚い 男らしい 胸 を かみ 破って 、 血みどろに なり ながら その 胸 の 中 に 顔 を 埋めこみたい ―― そういうように 葉子 は 倉地 の 着物 を かんだ 。 |||にく||あつい|おとこらしい|むね|||やぶって|ちみどろに||||むね||なか||かお||うめこみ たい||ようこ||くらち||きもの|| ・・

徐 かに で は ある けれども 倉地 の 心 は だんだん 葉子 の 心持ち に 染められて 行く ようだった 。 じょ||||||くらち||こころ|||ようこ||こころもち||そめ られて|いく| 葉子 を かき 抱く 倉地 の 腕 の 力 は 静かに 加わって 行った 。 ようこ|||いだく|くらち||うで||ちから||しずかに|くわわって|おこなった その 息 気づか い は 荒く なって 来た 。 |いき|きづか|||あらく||きた 葉子 は 気 が 遠く なる ように 思い ながら 、 締め 殺す ほど 引きしめて くれ と 念じて いた 。 ようこ||き||とおく|||おもい||しめ|ころす||ひきしめて|||ねんじて| そして 顔 を 伏せた まま 涙 の ひま から 切れ切れに 叫ぶ ように 声 を 放った 。 |かお||ふせた||なみだ||||きれぎれに|さけぶ||こえ||はなった ・・

「 捨て ないで ちょうだい と は いいません …… 捨てる なら 捨てて くださって も ようご ざん す …… その代わり …… その代わり …… はっきり おっしゃって ください 、 ね …… わたし は ただ 引きずられて 行く の が いやな んです ……」・・ すて|||||いい ませ ん|すてる||すてて||||||そのかわり|そのかわり||||||||ひきずら れて|いく||||

「 何 を いって る んだ お前 は ……」・・ なん|||||おまえ|

倉地 の かんで ふくめる ような 声 が 耳 も と 近く 葉子 に こう ささやいた 。 くらち|||||こえ||みみ|||ちかく|ようこ||| ・・

「 それ だけ は …… それ だけ は 誓って ください …… ごまかす の は わたし は いや …… いやです 」・・ ||||||ちかって||||||||

「 何 を …… 何 を ごまかす かい 」・・ なん||なん|||

「 そんな 言葉 が わたし は きらいです 」・・ |ことば||||

「 葉子 ! ようこ 」・・

倉地 は もう 熱情 に 燃えて いた 。 くらち|||ねつじょう||もえて| しかし それ は いつでも 葉子 を 抱いた 時 に 倉地 に 起こる 野獣 の ような 熱情 と は 少し 違って いた 。 ||||ようこ||いだいた|じ||くらち||おこる|やじゅう|||ねつじょう|||すこし|ちがって| そこ に は やさしく 女 の 心 を いたわる ような 影 が 見えた 。 ||||おんな||こころ||||かげ||みえた 葉子 は それ を うれしく も 思い 、 物 足ら なく も 思った 。 ようこ||||||おもい|ぶつ|たら|||おもった ・・

葉子 の 心 の 中 は 倉地 の 妻 の 事 を いい出そう と する 熱意 で いっぱいに なって いた 。 ようこ||こころ||なか||くらち||つま||こと||いいだそう|||ねつい|||| その 妻 が 貞 淑 な 美しい 女 である と 思えば 思う ほど 、 その 人 が 二 人 の 間 に はさまって いる の が 呪わ しかった 。 |つま||さだ|きよし||うつくしい|おんな|||おもえば|おもう|||じん||ふた|じん||あいだ||||||のろわ| た とい 捨てられる まで も 一 度 は 倉地 の 心 を その 女 から 根こそぎ 奪い取ら なければ 堪 念 が でき ない ような ひたむきに 狂暴な 欲 念 が 胸 の 中 で は はち 切れ そうに 煮えくり返って いた 。 ||すて られる|||ひと|たび||くらち||こころ|||おんな||ねこそぎ|うばいとら||たま|ねん||||||きょうぼうな|よく|ねん||むね||なか||||きれ|そう に|にえくりかえって| Even if Kurachi was abandoned, he had to completely steal Kurachi's heart from the woman. けれども 葉子 は どうしても それ を 口 の 端に 上せる 事 は でき なかった 。 |ようこ|||||くち||はしたに|のぼせる|こと||| その 瞬間 に 自分 に 対する 誇り が 塵 芥 の ように 踏みにじら れる の を 感じた から だ 。 |しゅんかん||じぶん||たいする|ほこり||ちり|かい|||ふみにじら||||かんじた|| 葉子 は 自分 ながら 自分 の 心 が じれったかった 。 ようこ||じぶん||じぶん||こころ|| 倉地 の ほう から 一言 も それ を いわ ない の が 恨めしかった 。 くらち||||いちげん||||||||うらめしかった 倉地 は そんな 事 は いう に も 足ら ない と 思って いる の かも しれ ない が …… い ゝ え そんな 事 は ない 、 そんな 事 の あろう はず は ない 。 くらち|||こと|||||たら|||おもって|||||||||||こと||||こと||||| 倉地 は やはり 二 股 かけて 自分 を 愛して いる のだ 。 くらち|||ふた|また||じぶん||あいして|| 男 の 心 に は そんな みだらな 未練 が ある はずだ 。 おとこ||こころ|||||みれん||| 男 の 心 と は いう まい 、 自分 も 倉地 に 出あう まで は 、 異性 に 対する 自分 の 愛 を 勝手に 三 つ に も 四 つ に も 裂いて みる 事 が できた のだ 。 おとこ||こころ|||||じぶん||くらち||であう|||いせい||たいする|じぶん||あい||かってに|みっ||||よっ||||さいて||こと||| …… 葉子 は ここ に も 自分 の 暗い 過去 の 経験 の ため に 責め さいなま れた 。 ようこ|||||じぶん||くらい|かこ||けいけん||||せめ|| 進んで 恋 の とりこ と なった もの が 当然 陥ら なければ なら ない たとえ よう の ない ほど 暗く 深い 疑惑 は あと から あと から 口実 を 作って 葉子 を 襲う のだった 。 すすんで|こい|||||||とうぜん|おちいら|||||||||くらく|ふかい|ぎわく||||||こうじつ||つくって|ようこ||おそう| 葉子 の 胸 は 言葉 どおり に 張り裂けよう と して いた 。 ようこ||むね||ことば|||はりさけよう||| ・・

しかし 葉子 の 心 が 傷めば 傷む ほど 倉地 の 心 は 熱して 見えた 。 |ようこ||こころ||いためば|いたむ||くらち||こころ||ねっして|みえた 倉地 は どうして 葉子 が こんなに きげん を 悪く して いる の か を 思い 迷って いる 様子 だった 。 くらち|||ようこ|||||わるく||||||おもい|まよって||ようす| 倉地 は やがて しいて 葉子 を 自分 の 胸 から 引き 放して その 顔 を 強く 見守った 。 くらち||||ようこ||じぶん||むね||ひき|はなして||かお||つよく|みまもった ・・

「 何 を そう 理屈 も なく 泣いて いる のだ …… お前 は おれ を 疑って いる な 」・・ なん|||りくつ|||ないて|||おまえ||||うたがって||

葉子 は 「 疑わ ないで いられます か 」 と 答えよう と した が 、 どうしても それ は 自分 の 面目 に かけて 口 に は 出せ なかった 。 ようこ||うたがわ||いら れ ます|||こたえよう|||||||じぶん||めんぼく|||くち|||だせ| Yoko tried to answer, "Can you stop doubting me?" 葉子 は 涙 に 解けて 漂う ような 目 を 恨めし げ に 大きく 開いて 黙って 倉地 を 見返した 。 ようこ||なみだ||とけて|ただよう||め||うらめし|||おおきく|あいて|だまって|くらち||みかえした ・・

「 きょう おれ は とうとう 本店 から 呼び出さ れた んだった 。 ||||ほんてん||よびださ|| 船 の 中 で の 事 を それ と なく 聞き ただそう と し おった から 、 おれ は 残らず いって のけた よ 。 せん||なか|||こと|||||きき|ただ そう|||||||のこらず||| I tried to pick up on what was going on on board, so I made it all the way out. 新聞 に おれたち の 事 が 出た 時 でも が 、 あわてる が もの は ない と 思っとった んだ 。 しんぶん||||こと||でた|じ|||||||||おも っと った| Even when our story appeared in the newspaper, I panicked and thought there was nothing there. どうせ いつか は 知れる 事 だ 。 |||しれる|こと| 知れる ほど なら 、 大っぴ ら で 早い が いい くらい の もの だ 。 しれる|||だい っぴ|||はやい|||||| 近い うち に 会社 の ほう は 首 に なろう が 、 おれ は 、 葉子 、 それ が 満足な んだ ぞ 。 ちかい|||かいしゃ||||くび||||||ようこ|||まんぞくな|| 自分 で 自分 の 面 に 泥 を 塗って 喜んで る おれ が ばかに 見えよう な 」・・ じぶん||じぶん||おもて||どろ||ぬって|よろこんで|||||みえよう|

そう いって から 倉地 は 激しい 力 で 再び 葉子 を 自分 の 胸 に 引き寄せよう と した 。 |||くらち||はげしい|ちから||ふたたび|ようこ||じぶん||むね||ひきよせよう|| ・・

葉子 は しかし そう は させ なかった 。 ようこ|||||さ せ| 素早く 倉地 の 膝 から 飛びのいて 畳 の 上 に 頬 を 伏せた 。 すばやく|くらち||ひざ||とびのいて|たたみ||うえ||ほお||ふせた 倉地 の 言葉 を そのまま 信じて 、 素直に うれし がって 、 心 を 涙 に 溶いて 泣き たかった 。 くらち||ことば|||しんじて|すなおに|||こころ||なみだ||といて|なき| しかし 万一 倉地 の 言葉 が その場のがれ の 勝手な 造り 事 だったら …… なぜ 倉地 は 自分 の 妻 や 子供 たち の 事 を いって は 聞か せて くれ ない のだ 。 |まんいち|くらち||ことば||そのばのがれ||かってな|つくり|こと|||くらち||じぶん||つま||こども|||こと||||きか|||| 葉子 は わけ の わから ない 涙 を 泣く より 術 が なかった 。 ようこ||||||なみだ||なく||じゅつ|| 葉子 は 突っ伏した まま で さめざめ と 泣き出した 。 ようこ||つ っ ふくした|||||なきだした ・・

戸外 の あらし は 気勢 を 加えて 、 物 すさまじく ふけて 行く 夜 を 荒れ狂った 。 こがい||||きせい||くわえて|ぶつ|||いく|よ||あれくるった ・・

「 おれ の いう た 事 が わから ん なら まあ 見とる が いい さ 。 ||||こと||||||みとる||| おれ は くどい 事 は 好か ん から な 」・・ |||こと||すか|||

そう いい ながら 倉地 は 自分 を 抑制 しよう と する ように しいて 落ち着いて 、 葉巻 を 取り上げて 煙草 盆 を 引き寄せた 。 |||くらち||じぶん||よくせい||||||おちついて|はまき||とりあげて|たばこ|ぼん||ひきよせた ・・

葉子 は 心 の 中 で 自分 の 態度 が 倉地 の 気 を まずく して いる の を はらはら し ながら 思いやった 。 ようこ||こころ||なか||じぶん||たいど||くらち||き||||||||||おもいやった In her heart, Yoko sympathized with the fact that her attitude was making Kurachi uncomfortable. 気 を まずく する だけ でも それ だけ 倉地 から 離れ そうな の が この上 なく つらかった 。 き||||||||くらち||はなれ|そう な|||このうえ|| しかし 自分 で 自分 を どう する 事 も でき なかった 。 |じぶん||じぶん||||こと||| ・・

葉子 は あらし の 中 に われ と わが身 を さいなみ ながら さめざめ と 泣き 続けた 。 ようこ||||なか||||わがみ||||||なき|つづけた