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或る女 - 有島武郎(アクセス), 23.1 或る女

23.1 或る 女

その 夕方 倉地 が ほこり に まぶ れ 汗 に まぶれて 紅葉 坂 を すたすた と 登って 帰って 来る まで も 葉子 は 旅館 の 閾 を またが ず に 桜 の 並み 木 の 下 など を 徘徊 して 待って いた 。 さすが に 十一 月 と なる と 夕暮れ を 催した 空 は 見る見る 薄 寒く なって 風 さえ 吹き出して いる 。 一 日 の 行楽 に 遊び 疲れた らしい 人 の 群れ に まじって ふきげん そうに 顔 を しかめた 倉地 は 真 向 に 坂 の 頂上 を 見つめ ながら 近づいて 来た 。 それ を 見 やる と 葉子 は 一 時 に 力 を 回復 した ように なって 、 すぐ 跳 り 出して 来る いたずら 心 の まま に 、 一 本 の 桜 の 木 を 楯 に 倉地 を やり過ごして おいて 、 後ろ から 静かに 近づいて 手 と 手 と が 触れ合わ ん ばかりに 押し ならんだ 。 倉地 は さすが に 不意 を くって まじまじ と 寒 さ の ため に 少し 涙ぐんで 見える 大きな 涼しい 葉子 の 目 を 見 やり ながら 、「 どこ から わいて 出た んだ 」 と いわんばかり の 顔つき を した 。 一 つ 船 の 中 に 朝 と なく 夜 と なく 一緒に なって 寝起き して いた もの を 、 きょう 始めて 半日 の 余 も 顔 を 見 合わさ ず に 過ごして 来た の が 思った 以上 に 物さびしく 、 同時に こんな 所 で 思い も かけ ず 出あった が 予想 の ほか に 満足であった らしい 倉地 の 顔つき を 見て取る と 、 葉子 は 何もかも 忘れて ただ うれしかった 。 その まっ黒 に よごれた 手 を いきなり 引っつか ん で 熱い 口 び る で かみしめて 労って やりたい ほど だった 。 しかし 思い の まま に 寄り添う 事 すら でき ない 大 道 である の を どう しよう 。 葉子 は その 切ない 心 を 拗ねて 見せる より ほか なかった 。 ・・

「 わたし もう あの 宿屋 に は 泊まりません わ 。 人 を ばかに して いる んです もの 。 あなた お 帰り に なる なら 勝手に ひと り で いらっしゃい 」・・

「 どうして ……」・・

と いい ながら 倉地 は 当惑 した ように 往来 に 立ち止まって しげしげ と 葉子 を 見なおす ように した 。 ・・

「 これ じゃ ( と いって ほこり に まみれた 両手 を ひろげ 襟 頸 を 抜き出す ように 延ばして 見せて 渋い 顔 を し ながら ) どこ に も 行け やせ ん わな 」・・

「 だから あなた は お 帰り なさい まし と いって る じゃ ありません か 」・・

そう 冒頭 を して 葉子 は 倉地 と 押し 並んで そろそろ 歩き ながら 、 女将 の 仕打ち から 、 女 中 の ふしだら まで 尾鰭 を つけて 讒訴 け て 、 早く 双 鶴 館 に 移って 行きたい と せがみ に せがんだ 。 倉地 は 何 か 思案 する らしく そっぽ を 見 い 見 い 耳 を 傾けて いた が 、 やがて 旅館 に 近く なった ころ もう 一 度 立ち止まって 、・・

「 きょう 双 鶴 館 から 電話 で 部屋 の 都合 を 知ら して よこす 事 に なって いた が お前 聞いた か ……( 葉子 は そう いいつけられ ながら 今 まで すっかり 忘れて いた の を 思い出して 、 少し く てれた ように 首 を 振った )…… ええ わ 、 じゃ 電報 を 打って から 先 に 行く が いい 。 わし は 荷物 を して 今夜 あと から 行く で 」・・

そう いわれて みる と 葉子 は また 一 人 だけ 先 に 行く の が いやで も あった 。 と いって 荷物 の 始末 に は 二 人 の うち どちら か 一 人 居残ら ねば なら ない 。 ・・

「 どうせ 二 人 一緒に 汽車 に 乗る わけに も 行く まい 」・・

倉地 が こう いい 足した 時 葉子 は 危うく 、 では きょう の 「 報 正 新報 」 を 見た か と いおう と する ところ だった が 、 はっと 思い返して 喉 の 所 で 抑えて しまった 。 ・・

「 なんだ 」・・

倉地 は 見かけ の わりに 恐ろしい ほど 敏捷に 働く 心 で 、 顔 に も 現わさ ない 葉子 の 躊躇 を 見て取った らしく こう なじる ように 尋ねた が 、 葉子 が なんでもない と 応える と 、 少しも 拘泥 せ ず に 、 それ 以上 問い詰めよう と は し なかった 。 ・・

どうしても 旅館 に 帰る の が いやだった ので 、 非常な 物 足ら な さ を 感じ ながら 、 葉子 は そのまま そこ から 倉地 に 別れる 事 に した 。 倉地 は 力 の こもった 目 で 葉子 を じっと 見て ちょっと うなずく と あと を も 見 ないで どんどん と 旅館 の ほう に 濶歩 して 行った 。 葉子 は 残り 惜しく その 後ろ姿 を 見送って いた が 、 それ に なんという 事 も ない 軽い 誇り を 感じて かすかに ほほえみ ながら 、 倉地 が 登って 来た 坂道 を 一 人 で 降りて 行った 。 ・・

停車場 に 着いた ころ に は もう 瓦 斯 の 灯 が そこら に ともって いた 。 葉子 は 知った 人 に あう の を 極端に 恐れ 避け ながら 、 汽車 の 出る すぐ 前 まで 停車場 前 の 茶店 の 一 間 に 隠れて いて 一 等 室 に 飛び乗った 。 だだっ広い その 客車 に は 外務 省 の 夜会 に 行く らしい 三 人 の 外国 人 が 銘々 、 デコルテー を 着飾った 婦人 を 介抱 して 乗って いる だけ だった 。 いつも の とおり その 人 たち は 不思議に 人 を ひきつける 葉子 の 姿 に 目 を そばだてた 。 けれども 葉子 は もう 左手 の 小指 を 器用に 折り曲げて 、 左 の 鬢 の ほつれ 毛 を 美しく かき上げる あの 嬌態 を して 見せる 気 は なく なって いた 。 室 の すみ に 腰かけて 、 手 携 げ と パラソル と を 膝 に 引きつけ ながら 、 たった 一 人 その 部屋 の 中 に いる もの の ように 鷹 揚 に 構えて いた 。 偶然 顔 を 見合わせて も 、 葉子 は 張り の ある その 目 を 無邪気に ( ほんとうに それ は 罪 を 知ら ない 十六七 の 乙女 の 目 の ように 無邪気だった ) 大きく 見開いて 相手 の 視線 を はにかみ も せ ず 迎える ばかりだった 。 先方 の 人 たち の 年齢 が どの くらい で 容貌 が どんな ふうだ など と いう 事 も 葉子 は 少しも 注意 して は い なかった 。 その 心 の 中 に は ただ 倉地 の 姿 ばかり が いろいろに 描か れたり 消さ れたり して いた 。 ・・

列車 が 新 橋 に 着く と 葉子 は しとやかに 車 を 出た が 、 ちょうど そこ に 、 唐 桟 に 角 帯 を 締めた 、 箱 丁 と でも いえば いえ そうな 、 気 の きいた 若い 者 が 電報 を 片手 に 持って 、 目ざとく 葉子 に 近づいた 。 それ が 双 鶴 館 から の 出迎え だった 。 ・・

横浜 に も 増して 見る もの に つけて 連想 の 群がり 起こる 光景 、 それ から 来る 強い 刺激 …… 葉子 は 宿 から 回さ れた 人力車 の 上 から 銀座 通り の 夜 の ありさま を 見 やり ながら 、 危うく 幾 度 も 泣き出そう と した 。 定子 の 住む 同じ 土地 に 帰って 来た と 思う だけ でも もう 胸 は わくわく した 。 愛子 も 貞 世 も どんな 恐ろしい 期待 に 震え ながら 自分 の 帰る の を 待ちわびて いる だろう 。 あの 叔父 叔母 が どんな 激しい 言葉 で 自分 を この 二 人 の 妹 に 描いて 見せて いる か 。 構う もの か 。 なんと でも いう が いい 。 自分 は どう あって も 二 人 を 自分 の 手 に 取り戻して み せる 。 こう と 思い 定めた 上 は 指 も さ させ は し ない から 見て いる が いい 。 …… ふと 人力車 が 尾張 町 の かど を 左 に 曲がる と 暗い 細い 通り に なった 。 葉子 は 目ざす 旅館 が 近づいた の を 知った 。 その 旅館 と いう の は 、 倉地 が 色 ざた で なく ひいき に して いた 芸者 が ある 財産 家 に 落 籍 されて 開いた 店 だ と いう ので 、 倉地 から あらかじめ かけ合って おいた のだった 。 人力車 が その 店 に 近づく に 従って 葉子 は その 女将 と いう のに ふとした 懸念 を 持ち 始めた 。 未知の 女 同志 が 出あう 前 に 感ずる 一種 の 軽い 敵 愾心 が 葉子 の 心 を しばらく は 余 の 事柄 から 切り 放した 。 葉子 は 車 の 中 で 衣 紋 を 気 に したり 、 束 髪 の 形 を 直したり した 。 ・・

昔 の 煉瓦 建て を そのまま 改造 した と 思わ れる 漆 喰塗 り の 頑丈な 、 角 地面 の 一 構え に 来て 、 煌々 と 明るい 入り口 の 前 に 車 夫 が 梶 棒 を 降ろす と 、 そこ に は もう 二三 人 の 女 の 人 たち が 走り 出て 待ち構えて いた 。 葉子 は 裾 前 を かばい ながら 車 から 降りて 、 そこ に 立ち ならんだ 人 たち の 中 から すぐ 女将 を 見分ける 事 が できた 。 背たけ が 思いきって 低く 、 顔 形 も 整って は いない が 、 三十 女らしく 分別 の 備わった 、 きかん 気 らしい 、 垢ぬけ のした 人 が それ に 違いない と 思った 。 葉子 は 思い 設けた 以上 の 好意 を すぐ その 人 に 対して 持つ 事 が できた ので 、 ことさら 快い 親し み を 持ち前 の 愛嬌 に 添え ながら 、 挨拶 を しよう と する と 、 その 人 は 事もなげに それ を さえぎって 、・・

「 いずれ 御挨拶 は 後 ほど 、 さぞ お 寒う ございまして しょう 。 お 二 階 へ どうぞ 」・・

と いって 自分 から 先 に 立った 。 居合わせた 女 中 たち は 目 は し を きかして いろいろ と 世話に 立った 。 入り口 の 突き当たり の 壁 に は 大きな ぼん ぼん 時計 が 一 つ かかって いる だけ で なんにも なかった 。 その 右手 の 頑丈な 踏み 心地 の いい 階子 段 を のぼりつめる と 、 他の 部屋 から 廊下 で 切り 放されて 、 十六 畳 と 八 畳 と 六 畳 と の 部屋 が 鍵 形 に 続いて いた 。 塵 一 つ すえ ず に きちんと 掃除 が 届いて いて 、 三 か所 に 置か れた 鉄びん から 立つ 湯気 で 部屋 の 中 は 軟らかく 暖まって いた 。 ・・

「 お 座敷 へ と 申す ところ です が 、 御 気さくに こちら で お くつろぎ ください まし …… 三 間 と も とって は ございます が 」・・

そう いい ながら 女将 は 長火鉢 の 置いて ある 六 畳 の 間 へ と 案内 した 。 ・・

そこ に すわって ひととおり の 挨拶 を 言葉少なに 済ます と 、 女将 は 葉子 の 心 を 知り 抜いて いる ように 、 女 中 を 連れて 階下 に 降りて 行って しまった 。 葉子 は ほんとうに しばらく なり と も 一 人 に なって み たかった のだった 。 軽い 暖か さ を 感ずる まま に 重い 縮緬 の 羽織 を 脱ぎ捨てて 、 ありたけ の 懐中 物 を 帯 の 間 から 取り出して 見る と 、 凝り がちな 肩 も 、 重苦しく 感じた 胸 も すがすがしく なって 、 かなり 強い 疲れ を 一 時 に 感じ ながら 、 猫 板 の 上 に 肘 を 持た せて 居ずまい を くずして もたれかかった 。 古び を 帯びた 蘆屋 釜 から 鳴り を 立てて 白く 湯気 の 立つ の も 、 きれいに かきならさ れた 灰 の 中 に 、 堅 そうな 桜 炭 の 火 が 白い 被 衣 の 下 で ほんのり と 赤らんで いる の も 、 精巧な 用 箪笥 の はめ込ま れた 一 間 の 壁 に 続いた 器用な 三 尺 床 に 、 白菊 を さした 唐津 焼き の 釣り 花 活 け が ある の も 、 かすかに たきこめられた 沈 香 のに おい も 、 目 の つんだ 杉 柾 の 天井 板 も 、 細っそ り と 磨き の かかった 皮 付き の 柱 も 、 葉子 に 取って は ―― 重い 、 硬い 、 堅い 船室 から ようやく 解放 されて 来た 葉子 に 取って は なつかしく ばかり ながめられた 。 ここ こそ は 屈強 の 避難 所 だ と いう ように 葉子 は つくづく あたり を 見回した 。 そして 部屋 の すみ に ある 生 漆 を 塗った 桑 の 広 蓋 を 引き寄せて 、 それ に 手 携 げや 懐中 物 を 入れ 終わる と 、 飽 く 事 も なく その 縁 から 底 に かけて の 円 味 を 持った 微妙な 手ざわり を 愛で 慈しんだ 。


23.1 或る 女 ある|おんな 23.1 Una mujer

その 夕方 倉地 が ほこり に まぶ れ 汗 に まぶれて 紅葉 坂 を すたすた と 登って 帰って 来る まで も 葉子 は 旅館 の 閾 を またが ず に 桜 の 並み 木 の 下 など を 徘徊 して 待って いた 。 |ゆうがた|くらち||||||あせ||まぶ れて|こうよう|さか||||のぼって|かえって|くる|||ようこ||りょかん||いき||また が|||さくら||なみ|き||した|||はいかい||まって| さすが に 十一 月 と なる と 夕暮れ を 催した 空 は 見る見る 薄 寒く なって 風 さえ 吹き出して いる 。 ||じゅういち|つき||||ゆうぐれ||もよおした|から||みるみる|うす|さむく||かぜ||ふきだして| 一 日 の 行楽 に 遊び 疲れた らしい 人 の 群れ に まじって ふきげん そうに 顔 を しかめた 倉地 は 真 向 に 坂 の 頂上 を 見つめ ながら 近づいて 来た 。 ひと|ひ||こうらく||あそび|つかれた||じん||むれ||||そう に|かお|||くらち||まこと|むかい||さか||ちょうじょう||みつめ||ちかづいて|きた Mixed in with the crowd of people who seemed to be tired from a day's excursion, Kurachi frowned in disbelief as he approached, staring straight ahead at the top of the hill. それ を 見 やる と 葉子 は 一 時 に 力 を 回復 した ように なって 、 すぐ 跳 り 出して 来る いたずら 心 の まま に 、 一 本 の 桜 の 木 を 楯 に 倉地 を やり過ごして おいて 、 後ろ から 静かに 近づいて 手 と 手 と が 触れ合わ ん ばかりに 押し ならんだ 。 ||み|||ようこ||ひと|じ||ちから||かいふく|||||と||だして|くる||こころ||||ひと|ほん||さくら||き||たて||くらち||やりすごして||うしろ||しずかに|ちかづいて|て||て|||ふれあわ|||おし| 倉地 は さすが に 不意 を くって まじまじ と 寒 さ の ため に 少し 涙ぐんで 見える 大きな 涼しい 葉子 の 目 を 見 やり ながら 、「 どこ から わいて 出た んだ 」 と いわんばかり の 顔つき を した 。 くらち||||ふい|||||さむ|||||すこし|なみだぐんで|みえる|おおきな|すずしい|ようこ||め||み||||||でた|||||かおつき|| Kurachi was taken by surprise and stared at Yoko's large, cool eyes, which were slightly teary-eyed from the cold, and made a face as if to ask, "Where did you come from?" 一 つ 船 の 中 に 朝 と なく 夜 と なく 一緒に なって 寝起き して いた もの を 、 きょう 始めて 半日 の 余 も 顔 を 見 合わさ ず に 過ごして 来た の が 思った 以上 に 物さびしく 、 同時に こんな 所 で 思い も かけ ず 出あった が 予想 の ほか に 満足であった らしい 倉地 の 顔つき を 見て取る と 、 葉子 は 何もかも 忘れて ただ うれしかった 。 ひと||せん||なか||あさ|||よ|||いっしょに||ねおき||||||はじめて|はんにち||よ||かお||み|あわさ|||すごして|きた|||おもった|いじょう||ものさびしく|どうじに||しょ||おもい||||であった||よそう||||まんぞくであった||くらち||かおつき||みてとる||ようこ||なにもかも|わすれて|| We used to sleep together on a ship day and night. By the way, seeing Kurachi's face, who had unexpectedly appeared but was more satisfied than she had expected, Yoko forgot everything and was just happy. その まっ黒 に よごれた 手 を いきなり 引っつか ん で 熱い 口 び る で かみしめて 労って やりたい ほど だった 。 |まっ くろ|||て|||ひっつか|||あつい|くち|||||ねぎらって|やり たい|| I wanted to suddenly grab that black, dirty hand and bite it with a hot mouth. しかし 思い の まま に 寄り添う 事 すら でき ない 大 道 である の を どう しよう 。 |おもい||||よりそう|こと||||だい|どう||||| 葉子 は その 切ない 心 を 拗ねて 見せる より ほか なかった 。 ようこ|||せつない|こころ||すねて|みせる||| ・・

「 わたし もう あの 宿屋 に は 泊まりません わ 。 |||やどや|||とまり ませ ん| 人 を ばかに して いる んです もの 。 じん|||||| あなた お 帰り に なる なら 勝手に ひと り で いらっしゃい 」・・ ||かえり||||かってに||||

「 どうして ……」・・

と いい ながら 倉地 は 当惑 した ように 往来 に 立ち止まって しげしげ と 葉子 を 見なおす ように した 。 |||くらち||とうわく|||おうらい||たちどまって|||ようこ||みなおす|| ・・

「 これ じゃ ( と いって ほこり に まみれた 両手 を ひろげ 襟 頸 を 抜き出す ように 延ばして 見せて 渋い 顔 を し ながら ) どこ に も 行け やせ ん わな 」・・ |||||||りょうて|||えり|けい||ぬきだす||のばして|みせて|しぶい|かお|||||||いけ||| "Then I can't go anywhere"

「 だから あなた は お 帰り なさい まし と いって る じゃ ありません か 」・・ ||||かえり|||||||あり ませ ん|

そう 冒頭 を して 葉子 は 倉地 と 押し 並んで そろそろ 歩き ながら 、 女将 の 仕打ち から 、 女 中 の ふしだら まで 尾鰭 を つけて 讒訴 け て 、 早く 双 鶴 館 に 移って 行きたい と せがみ に せがんだ 。 |ぼうとう|||ようこ||くらち||おし|ならんで||あるき||おかみ||しうち||おんな|なか||||おひれ|||ざんそ|||はやく|そう|つる|かん||うつって|いき たい|||| At the beginning of the story, Yoko walked side by side with Kurachi, accusing the landlady of mistreatment and even the rudeness of the maids with her tail fins. 倉地 は 何 か 思案 する らしく そっぽ を 見 い 見 い 耳 を 傾けて いた が 、 やがて 旅館 に 近く なった ころ もう 一 度 立ち止まって 、・・ くらち||なん||しあん|||||み||み||みみ||かたむけて||||りょかん||ちかく||||ひと|たび|たちどまって

「 きょう 双 鶴 館 から 電話 で 部屋 の 都合 を 知ら して よこす 事 に なって いた が お前 聞いた か ……( 葉子 は そう いいつけられ ながら 今 まで すっかり 忘れて いた の を 思い出して 、 少し く てれた ように 首 を 振った )…… ええ わ 、 じゃ 電報 を 打って から 先 に 行く が いい 。 |そう|つる|かん||でんわ||へや||つごう||しら|||こと|||||おまえ|きいた||ようこ|||いいつけ られ||いま|||わすれて||||おもいだして|すこし||||くび||ふった||||でんぽう||うって||さき||いく|| "Today, I was supposed to call from Sokakukan and let them know about the availability of the room, but did you hear... (Yoko recalled that she had completely forgotten about it until now, even though she was told that, so it's been a while. (He shook his head as if he was in trouble.)... Well, then you should send the telegram and go on ahead. わし は 荷物 を して 今夜 あと から 行く で 」・・ ||にもつ|||こんや|||いく|

そう いわれて みる と 葉子 は また 一 人 だけ 先 に 行く の が いやで も あった 。 |いわ れて|||ようこ|||ひと|じん||さき||いく||||| と いって 荷物 の 始末 に は 二 人 の うち どちら か 一 人 居残ら ねば なら ない 。 ||にもつ||しまつ|||ふた|じん|||||ひと|じん|いのこら||| ・・

「 どうせ 二 人 一緒に 汽車 に 乗る わけに も 行く まい 」・・ |ふた|じん|いっしょに|きしゃ||のる|||いく|

倉地 が こう いい 足した 時 葉子 は 危うく 、 では きょう の 「 報 正 新報 」 を 見た か と いおう と する ところ だった が 、 はっと 思い返して 喉 の 所 で 抑えて しまった 。 くらち||||たした|じ|ようこ||あやうく||||ほう|せい|しんぽう||みた||||||||||おもいかえして|のど||しょ||おさえて| ・・

「 なんだ 」・・

倉地 は 見かけ の わりに 恐ろしい ほど 敏捷に 働く 心 で 、 顔 に も 現わさ ない 葉子 の 躊躇 を 見て取った らしく こう なじる ように 尋ねた が 、 葉子 が なんでもない と 応える と 、 少しも 拘泥 せ ず に 、 それ 以上 問い詰めよう と は し なかった 。 くらち||みかけ|||おそろしい||びんしょうに|はたらく|こころ||かお|||あらわさ||ようこ||ちゅうちょ||みてとった|||||たずねた||ようこ||||こたえる||すこしも|こうでい|||||いじょう|といつめよう|||| ・・

どうしても 旅館 に 帰る の が いやだった ので 、 非常な 物 足ら な さ を 感じ ながら 、 葉子 は そのまま そこ から 倉地 に 別れる 事 に した 。 |りょかん||かえる|||||ひじょうな|ぶつ|たら||||かんじ||ようこ|||||くらち||わかれる|こと|| 倉地 は 力 の こもった 目 で 葉子 を じっと 見て ちょっと うなずく と あと を も 見 ないで どんどん と 旅館 の ほう に 濶歩 して 行った 。 くらち||ちから|||め||ようこ|||みて|||||||み||||りょかん||||かっぽ||おこなった 葉子 は 残り 惜しく その 後ろ姿 を 見送って いた が 、 それ に なんという 事 も ない 軽い 誇り を 感じて かすかに ほほえみ ながら 、 倉地 が 登って 来た 坂道 を 一 人 で 降りて 行った 。 ようこ||のこり|おしく||うしろすがた||みおくって||||||こと|||かるい|ほこり||かんじて||||くらち||のぼって|きた|さかみち||ひと|じん||おりて|おこなった ・・

停車場 に 着いた ころ に は もう 瓦 斯 の 灯 が そこら に ともって いた 。 ていしゃば||ついた|||||かわら|し||とう||||| 葉子 は 知った 人 に あう の を 極端に 恐れ 避け ながら 、 汽車 の 出る すぐ 前 まで 停車場 前 の 茶店 の 一 間 に 隠れて いて 一 等 室 に 飛び乗った 。 ようこ||しった|じん|||||きょくたんに|おそれ|さけ||きしゃ||でる||ぜん||ていしゃば|ぜん||ちゃみせ||ひと|あいだ||かくれて||ひと|とう|しつ||とびのった だだっ広い その 客車 に は 外務 省 の 夜会 に 行く らしい 三 人 の 外国 人 が 銘々 、 デコルテー を 着飾った 婦人 を 介抱 して 乗って いる だけ だった 。 だだっぴろい||きゃくしゃ|||がいむ|しょう||やかい||いく||みっ|じん||がいこく|じん||めいめい|||きかざった|ふじん||かいほう||のって||| Only three foreigners, who seemed to be going to an evening party at the Ministry of Foreign Affairs, were riding in that spacious passenger car, each accompanied by a woman dressed in decolletage. いつも の とおり その 人 たち は 不思議に 人 を ひきつける 葉子 の 姿 に 目 を そばだてた 。 ||||じん|||ふしぎに|じん|||ようこ||すがた||め|| けれども 葉子 は もう 左手 の 小指 を 器用に 折り曲げて 、 左 の 鬢 の ほつれ 毛 を 美しく かき上げる あの 嬌態 を して 見せる 気 は なく なって いた 。 |ようこ|||ひだりて||こゆび||きように|おりまげて|ひだり||びん|||け||うつくしく|かきあげる||きょうたい|||みせる|き|||| 室 の すみ に 腰かけて 、 手 携 げ と パラソル と を 膝 に 引きつけ ながら 、 たった 一 人 その 部屋 の 中 に いる もの の ように 鷹 揚 に 構えて いた 。 しつ||||こしかけて|て|けい|||ぱらそる|||ひざ||ひきつけ|||ひと|じん||へや||なか||||||たか|よう||かまえて| 偶然 顔 を 見合わせて も 、 葉子 は 張り の ある その 目 を 無邪気に ( ほんとうに それ は 罪 を 知ら ない 十六七 の 乙女 の 目 の ように 無邪気だった ) 大きく 見開いて 相手 の 視線 を はにかみ も せ ず 迎える ばかりだった 。 ぐうぜん|かお||みあわせて||ようこ||はり||||め||むじゃきに||||ざい||しら||じゅうろくしち||おとめ||め|||むじゃきだった|おおきく|みひらいて|あいて||しせん||||||むかえる| 先方 の 人 たち の 年齢 が どの くらい で 容貌 が どんな ふうだ など と いう 事 も 葉子 は 少しも 注意 して は い なかった 。 せんぽう||じん|||ねんれい|||||ようぼう|||||||こと||ようこ||すこしも|ちゅうい|||| その 心 の 中 に は ただ 倉地 の 姿 ばかり が いろいろに 描か れたり 消さ れたり して いた 。 |こころ||なか||||くらち||すがた||||えがか||けさ||| ・・

列車 が 新 橋 に 着く と 葉子 は しとやかに 車 を 出た が 、 ちょうど そこ に 、 唐 桟 に 角 帯 を 締めた 、 箱 丁 と でも いえば いえ そうな 、 気 の きいた 若い 者 が 電報 を 片手 に 持って 、 目ざとく 葉子 に 近づいた 。 れっしゃ||しん|きょう||つく||ようこ|||くるま||でた|||||とう|さん||かど|おび||しめた|はこ|ちょう|||||そう な|き|||わかい|もの||でんぽう||かたて||もって|めざとく|ようこ||ちかづいた それ が 双 鶴 館 から の 出迎え だった 。 ||そう|つる|かん|||でむかえ| ・・

横浜 に も 増して 見る もの に つけて 連想 の 群がり 起こる 光景 、 それ から 来る 強い 刺激 …… 葉子 は 宿 から 回さ れた 人力車 の 上 から 銀座 通り の 夜 の ありさま を 見 やり ながら 、 危うく 幾 度 も 泣き出そう と した 。 よこはま|||まして|みる||||れんそう||むらがり|おこる|こうけい|||くる|つよい|しげき|ようこ||やど||まわさ||じんりきしゃ||うえ||ぎんざ|とおり||よ||||み|||あやうく|いく|たび||なきだそう|| 定子 の 住む 同じ 土地 に 帰って 来た と 思う だけ でも もう 胸 は わくわく した 。 さだこ||すむ|おなじ|とち||かえって|きた||おもう||||むね||| 愛子 も 貞 世 も どんな 恐ろしい 期待 に 震え ながら 自分 の 帰る の を 待ちわびて いる だろう 。 あいこ||さだ|よ|||おそろしい|きたい||ふるえ||じぶん||かえる|||まちわびて|| あの 叔父 叔母 が どんな 激しい 言葉 で 自分 を この 二 人 の 妹 に 描いて 見せて いる か 。 |おじ|おば|||はげしい|ことば||じぶん|||ふた|じん||いもうと||えがいて|みせて|| 構う もの か 。 かまう|| なんと でも いう が いい 。 自分 は どう あって も 二 人 を 自分 の 手 に 取り戻して み せる 。 じぶん|||||ふた|じん||じぶん||て||とりもどして|| こう と 思い 定めた 上 は 指 も さ させ は し ない から 見て いる が いい 。 ||おもい|さだめた|うえ||ゆび|||さ せ|||||みて||| …… ふと 人力車 が 尾張 町 の かど を 左 に 曲がる と 暗い 細い 通り に なった 。 |じんりきしゃ||おわり|まち||||ひだり||まがる||くらい|ほそい|とおり|| 葉子 は 目ざす 旅館 が 近づいた の を 知った 。 ようこ||めざす|りょかん||ちかづいた|||しった その 旅館 と いう の は 、 倉地 が 色 ざた で なく ひいき に して いた 芸者 が ある 財産 家 に 落 籍 されて 開いた 店 だ と いう ので 、 倉地 から あらかじめ かけ合って おいた のだった 。 |りょかん|||||くらち||いろ||||||||げいしゃ|||ざいさん|いえ||おと|せき|さ れて|あいた|てん|||||くらち|||かけあって|| 人力車 が その 店 に 近づく に 従って 葉子 は その 女将 と いう のに ふとした 懸念 を 持ち 始めた 。 じんりきしゃ|||てん||ちかづく||したがって|ようこ|||おかみ|||||けねん||もち|はじめた 未知の 女 同志 が 出あう 前 に 感ずる 一種 の 軽い 敵 愾心 が 葉子 の 心 を しばらく は 余 の 事柄 から 切り 放した 。 みちの|おんな|どうし||であう|ぜん||かんずる|いっしゅ||かるい|てき|きこころ||ようこ||こころ||||よ||ことがら||きり|はなした 葉子 は 車 の 中 で 衣 紋 を 気 に したり 、 束 髪 の 形 を 直したり した 。 ようこ||くるま||なか||ころも|もん||き|||たば|かみ||かた||なおしたり| ・・

昔 の 煉瓦 建て を そのまま 改造 した と 思わ れる 漆 喰塗 り の 頑丈な 、 角 地面 の 一 構え に 来て 、 煌々 と 明るい 入り口 の 前 に 車 夫 が 梶 棒 を 降ろす と 、 そこ に は もう 二三 人 の 女 の 人 たち が 走り 出て 待ち構えて いた 。 むかし||れんが|たて|||かいぞう|||おもわ||うるし|しょくぬり|||がんじょうな|かど|じめん||ひと|かまえ||きて|こうこう||あかるい|いりぐち||ぜん||くるま|おっと||かじ|ぼう||おろす||||||ふみ|じん||おんな||じん|||はしり|でて|まちかまえて| 葉子 は 裾 前 を かばい ながら 車 から 降りて 、 そこ に 立ち ならんだ 人 たち の 中 から すぐ 女将 を 見分ける 事 が できた 。 ようこ||すそ|ぜん||||くるま||おりて|||たち||じん|||なか|||おかみ||みわける|こと|| 背たけ が 思いきって 低く 、 顔 形 も 整って は いない が 、 三十 女らしく 分別 の 備わった 、 きかん 気 らしい 、 垢ぬけ のした 人 が それ に 違いない と 思った 。 せたけ||おもいきって|ひくく|かお|かた||ととのって||||さんじゅう|おんならしく|ぶんべつ||そなわった||き||あかぬけ||じん||||ちがいない||おもった She was extremely short in stature and not well-shaped, but I thought she must be a 30-year-old woman with a sense of discretion, a good temper, and a clean-cut personality. 葉子 は 思い 設けた 以上 の 好意 を すぐ その 人 に 対して 持つ 事 が できた ので 、 ことさら 快い 親し み を 持ち前 の 愛嬌 に 添え ながら 、 挨拶 を しよう と する と 、 その 人 は 事もなげに それ を さえぎって 、・・ ようこ||おもい|もうけた|いじょう||こうい||||じん||たいして|もつ|こと|||||こころよい|したし|||もちまえ||あいきょう||そえ||あいさつ|||||||じん||こともなげに||| Yoko was able to immediately develop a liking for this person that exceeded her expectations, and when she tried to greet him with a particularly pleasant intimacy, accompanied by her innate charm, the person simply turned it over. Block the...

「 いずれ 御挨拶 は 後 ほど 、 さぞ お 寒う ございまして しょう 。 |ごあいさつ||あと||||さむう|| お 二 階 へ どうぞ 」・・ |ふた|かい||

と いって 自分 から 先 に 立った 。 ||じぶん||さき||たった 居合わせた 女 中 たち は 目 は し を きかして いろいろ と 世話に 立った 。 いあわせた|おんな|なか|||め|||||||せわに|たった 入り口 の 突き当たり の 壁 に は 大きな ぼん ぼん 時計 が 一 つ かかって いる だけ で なんにも なかった 。 いりぐち||つきあたり||かべ|||おおきな|||とけい||ひと||||||| その 右手 の 頑丈な 踏み 心地 の いい 階子 段 を のぼりつめる と 、 他の 部屋 から 廊下 で 切り 放されて 、 十六 畳 と 八 畳 と 六 畳 と の 部屋 が 鍵 形 に 続いて いた 。 |みぎて||がんじょうな|ふみ|ここち|||はしご|だん||||たの|へや||ろうか||きり|はなさ れて|じゅうろく|たたみ||やっ|たたみ||むっ|たたみ|||へや||かぎ|かた||つづいて| 塵 一 つ すえ ず に きちんと 掃除 が 届いて いて 、 三 か所 に 置か れた 鉄びん から 立つ 湯気 で 部屋 の 中 は 軟らかく 暖まって いた 。 ちり|ひと||||||そうじ||とどいて||みっ|かしょ||おか||てつびん||たつ|ゆげ||へや||なか||やわらかく|あたたまって| ・・

「 お 座敷 へ と 申す ところ です が 、 御 気さくに こちら で お くつろぎ ください まし …… 三 間 と も とって は ございます が 」・・ |ざしき|||もうす||||ご|きさくに|||||||みっ|あいだ||||||

そう いい ながら 女将 は 長火鉢 の 置いて ある 六 畳 の 間 へ と 案内 した 。 |||おかみ||ながひばち||おいて||むっ|たたみ||あいだ|||あんない| ・・

そこ に すわって ひととおり の 挨拶 を 言葉少なに 済ます と 、 女将 は 葉子 の 心 を 知り 抜いて いる ように 、 女 中 を 連れて 階下 に 降りて 行って しまった 。 |||||あいさつ||ことばずくなに|すます||おかみ||ようこ||こころ||しり|ぬいて|||おんな|なか||つれて|かいか||おりて|おこなって| 葉子 は ほんとうに しばらく なり と も 一 人 に なって み たかった のだった 。 ようこ|||||||ひと|じん||||| 軽い 暖か さ を 感ずる まま に 重い 縮緬 の 羽織 を 脱ぎ捨てて 、 ありたけ の 懐中 物 を 帯 の 間 から 取り出して 見る と 、 凝り がちな 肩 も 、 重苦しく 感じた 胸 も すがすがしく なって 、 かなり 強い 疲れ を 一 時 に 感じ ながら 、 猫 板 の 上 に 肘 を 持た せて 居ずまい を くずして もたれかかった 。 かるい|あたたか|||かんずる|||おもい|ちりめん||はおり||ぬぎすてて|||かいちゅう|ぶつ||おび||あいだ||とりだして|みる||こり||かた||おもくるしく|かんじた|むね|||||つよい|つかれ||ひと|じ||かんじ||ねこ|いた||うえ||ひじ||もた||いずまい||| 古び を 帯びた 蘆屋 釜 から 鳴り を 立てて 白く 湯気 の 立つ の も 、 きれいに かきならさ れた 灰 の 中 に 、 堅 そうな 桜 炭 の 火 が 白い 被 衣 の 下 で ほんのり と 赤らんで いる の も 、 精巧な 用 箪笥 の はめ込ま れた 一 間 の 壁 に 続いた 器用な 三 尺 床 に 、 白菊 を さした 唐津 焼き の 釣り 花 活 け が ある の も 、 かすかに たきこめられた 沈 香 のに おい も 、 目 の つんだ 杉 柾 の 天井 板 も 、 細っそ り と 磨き の かかった 皮 付き の 柱 も 、 葉子 に 取って は ―― 重い 、 硬い 、 堅い 船室 から ようやく 解放 されて 来た 葉子 に 取って は なつかしく ばかり ながめられた 。 ふるび||おびた|あしや|かま||なり||たてて|しろく|ゆげ||たつ||||||はい||なか||かた|そう な|さくら|すみ||ひ||しろい|おお|ころも||した||||あからんで||||せいこうな|よう|たんす||はめこま||ひと|あいだ||かべ||つづいた|きような|みっ|しゃく|とこ||しらぎく|||からつ|やき||つり|か|かつ|||||||たきこめ られた|しず|かおり||||め|||すぎ|まさき||てんじょう|いた||ほそ っそ|||みがき|||かわ|つき||ちゅう||ようこ||とって||おもい|かたい|かたい|せんしつ|||かいほう|さ れて|きた|ようこ||とって||||ながめ られた ここ こそ は 屈強 の 避難 所 だ と いう ように 葉子 は つくづく あたり を 見回した 。 |||くっきょう||ひなん|しょ|||||ようこ|||||みまわした そして 部屋 の すみ に ある 生 漆 を 塗った 桑 の 広 蓋 を 引き寄せて 、 それ に 手 携 げや 懐中 物 を 入れ 終わる と 、 飽 く 事 も なく その 縁 から 底 に かけて の 円 味 を 持った 微妙な 手ざわり を 愛で 慈しんだ 。 |へや|||||せい|うるし||ぬった|くわ||ひろ|ふた||ひきよせて|||て|けい||かいちゅう|ぶつ||いれ|おわる||ほう||こと||||えん||そこ||||えん|あじ||もった|びみょうな|てざわり||めで|いつくしんだ And when I pulled the wide mulberry lid that was painted with unrefined lacquer in the corner of the room and finished putting my handbag and pocket things in it, it had a round shape from the edge to the bottom. I cherished the delicate texture with love.