21.2 或る 女 ある|おんな 21.2 Una mujer

木村 は 、 葉子 と いう 女 は どうして こう むら気で 上すべり が して しまう のだろう 、 情けない と いう ような 表情 を 顔 いちめん に みなぎら して 、 何 か いう べき 言葉 を 胸 の 中 で 整えて いる ようだった が 、 急に 思い 捨てた と いう ふうで 、 黙った まま で ほっと 深い ため息 を ついた 。 きむら||ようこ|||おんな||||むらきで|うわすべり|||||なさけない||||ひょうじょう||かお|||||なん||||ことば||むね||なか||ととのえて||||きゅうに|おもい|すてた||||だまった||||ふかい|ためいき|| ・・

それ を 見る と 今 まで 珍しく 押えつけられて いた 反抗 心 が 、 またもや 旋風 の ように 葉子 の 心 に 起こった 。 ||みる||いま||めずらしく|おさえつけ られて||はんこう|こころ|||せんぷう|||ようこ||こころ||おこった 「 ねちねち さったら ない 」 と 胸 の 中 を いらいら さ せ ながら 、 つい で の 事 に 少し いじめて やろう と いう たくらみ が 頭 を もたげた 。 |さ ったら|||むね||なか|||||||||こと||すこし|||||||あたま|| しかし 顔 は どこまでも 前 の まま の 無邪気 さ で 、・・ |かお|||ぜん||||むじゃき||

「 木村 さん お土産 を 買って ちょうだいな 。 きむら||おみやげ||かって| 愛 も 貞 も です けれども 、 親類 たち や 古藤 さんなん ぞ に も 何 か し ない じゃ 顔 が 向けられません もの 。 あい||さだ||||しんるい|||ことう|||||なん|||||かお||むけ られ ませ ん| 今ごろ は 田川 の 奥さん の 手紙 が 五十川 の おばさん の 所 に 着いて 、 東京 で は きっと 大騒ぎ を して いる に 違い ありません わ 。 いまごろ||たがわ||おくさん||てがみ||いそがわ||||しょ||ついて|とうきょう||||おおさわぎ|||||ちがい|あり ませ ん| 発 つ 時 に は 世話 を 焼か せ 、 留守 は 留守 で 心配 さ せ 、 ぽか ん と して お土産 一 つ 持た ず に 帰って 来る なんて 、 木村 も いったい 木村 じゃ ない か と いわ れる の が 、 わたし 、 死ぬ より つらい から 、 少し は 驚く ほど の もの を 買って ちょうだい 。 はつ||じ|||せわ||やか||るす||るす||しんぱい|||||||おみやげ|ひと||もた|||かえって|くる||きむら|||きむら||||||||||しぬ||||すこし||おどろく|||||かって| 先ほど の お 金 で 相当 の もの が 買 れる でしょう 」・・ さきほど|||きむ||そうとう||||か||

木村 は 駄々 児 を なだめる ように わざと おとなしく 、・・ きむら||だだ|じ|||||

「 それ は よろしい 、 買え と なら 買い も します が 、 わたし は あなた が あれ を まとまった まま 持って 帰ったら と 思って いる んです 。 |||かえ|||かい||し ます||||||||||もって|かえったら||おもって|| "That's fine, if you want to buy it, I'll buy it, but I'm hoping you'll bring it home with you. たいてい の 人 は 横浜 に 着いて から 土産 を 買う んです よ 。 ||じん||よこはま||ついて||みやげ||かう|| その ほう が 実際 格好です から ね 。 |||じっさい|かっこうです|| 持ち合わせ も なし に 東京 に 着き なさる 事 を 思えば 、 土産 なんか どう で も いい と 思う んです が ね 」・・ もちあわせ||||とうきょう||つき||こと||おもえば|みやげ|||||||おもう|||

「 東京 に 着き さえ すれば お 金 は どうにでも します けれども 、 お土産 は …… あなた 横浜 の 仕入れ もの は すぐ 知れます わ …… 御覧 なさい あれ を 」・・ とうきょう||つき||||きむ|||し ます||おみやげ|||よこはま||しいれ||||しれ ます||ごらん||| "Once I get to Tokyo, I'll do anything about the money, but as for souvenirs... you'll know what you're buying in Yokohama right away... Look at that."

と いって 棚 の 上 に ある 帽子 入れ の ボール 箱 に 目 を やった 。 ||たな||うえ|||ぼうし|いれ||ぼーる|はこ||め|| ・・

「 古藤 さん に 連れて 行って いただいて あれ を 買った 時 は 、 ずいぶん 吟味 した つもりでした けれども 、 船 に 来て から 見て いる うち に すぐ あきて しまいました の 。 ことう|||つれて|おこなって||||かった|じ|||ぎんみ||||せん||きて||みて||||||しまい ました| "When Mr. Koto took me to buy it, I thought I had carefully examined it, but when I got on the ship and looked at it, I quickly got fed up with it. それ に 田川 の 奥さん の 洋服 姿 を 見たら 、 我慢 に も 日本 で 買った もの を かぶったり 着たり する 気 に は なれません わ 」・・ ||たがわ||おくさん||ようふく|すがた||みたら|がまん|||にっぽん||かった||||きたり||き|||なれ ませ ん|

そう いって る うち に 木村 は 棚 から 箱 を おろして 中 を のぞいて いた が 、・・ |||||きむら||たな||はこ|||なか||||

「 なるほど 型 は ちっと 古い ようです ね 。 |かた||ち っと|ふるい|| "I see, the model seems to be a bit old. だが 品 は これ なら こっち でも 上 の 部 です ぜ 」・・ |しな||||||うえ||ぶ||

「 だ から いやです わ 。 流行 おくれ と なる と 値段 の 張った もの ほど みっともない んです もの 」・・ りゅうこう|||||ねだん||はった|||||

しばらく して から 、・・

「 でも あの お 金 は あなた 御 入用です わ ね 」・・ |||きむ|||ご|いりようです||

木村 は あわてて 弁解 的に 、・・ きむら|||べんかい|てきに

「 い ゝ え 、 あれ は どの 道 あなた に 上げる つもりで いたん です から ……」・・ ||||||どう|||あげる||||

と いう の を 葉子 は 耳 に も 入れ ない ふうで 、・・ ||||ようこ||みみ|||いれ||

「 ほんとに ばか ね わたし は …… 思いやり も なんにも ない 事 を 申し上げて しまって 、 どう しましょう ねえ 。 |||||おもいやり||||こと||もうしあげて|||し ましょう| "I'm really stupid... what should I do with saying something that doesn't show any consideration? …… もう わたし どんな 事 が あって も その お 金 だけ は いただきません 事 よ 。 |||こと||||||きむ|||いただき ませ ん|こと| … No matter what happens, I won't take that money anymore. こう いったら だれ が なんと いったって だめ よ 」・・ |||||いった って||

と きっぱり いい切って しまった 。 ||いいきって| I cut it once and for all. 木村 は もとより 一 度 いい出したら あと へ は 引か ない 葉子 の 日ごろ の 性分 を 知り 抜いて いた 。 きむら|||ひと|たび|いいだしたら||||ひか||ようこ||ひごろ||しょうぶん||しり|ぬいて| Kimura, of course, was well aware of Yoko's daily nature of not going back once she started. で 、 言わ ず 語ら ず の うち に 、 その 金 は 品物 に して 持って 帰ら す より ほか に 道 の ない 事 を 観念 した らしかった 。 |いわ||かたら||||||きむ||しなもの|||もって|かえら|||||どう|||こと||かんねん|| ・・

＊ ＊ ＊・・

その 晩 、 事務 長 が 仕事 を 終えて から 葉子 の 部屋 に 来る と 、 葉子 は 何 か 気 に 障 えた ふう を して ろくろく もてなし も し なかった 。 |ばん|じむ|ちょう||しごと||おえて||ようこ||へや||くる||ようこ||なん||き||さわ||||||||| ・・

「 とうとう 形 が ついた 。 |かた|| 十九 日 の 朝 の 十 時 だ よ 出航 は 」・・ じゅうきゅう|ひ||あさ||じゅう|じ|||しゅっこう|

と いう 事務 長 の 快活な 言葉 に 返事 も し なかった 。 ||じむ|ちょう||かいかつな|ことば||へんじ||| 男 は 怪 訝 な 顔つき で 見 やって いる 。 おとこ||かい|いぶか||かおつき||み|| ・・

「 悪党 」・・ あくとう

と しばらく して から 、 葉子 は 一言 これ だけ いって 事務 長 を にらめ た 。 ||||ようこ||いちげん||||じむ|ちょう||| ・・

「 なんだ ？ 」・・

と 尻上がり に いって 事務 長 は 笑って いた 。 |しりあがり|||じむ|ちょう||わらって| ・・

「 あなた みたいな 残酷な 人間 は わたし 始めて 見た 。 ||ざんこくな|にんげん|||はじめて|みた 木村 を 御覧 なさい かわいそうに 。 きむら||ごらん|| あんなに 手 ひどく し なくったって …… 恐ろしい 人って あなた の 事 ね 」・・ |て|||な くった って|おそろしい|じん って|||こと|

「 何 ？ なん 」・・

と また 事務 長 は 尻上がり に 大きな 声 で いって 寝床 に 近づいて 来た 。 ||じむ|ちょう||しりあがり||おおきな|こえ|||ねどこ||ちかづいて|きた ・・

「 知りません 」・・ しり ませ ん

と 葉子 は なお 怒って 見せよう と した が 、 いかにも 刻み の 荒い 、 単純な 、 他意 の ない 男 の 顔 を 見る と 、 からだ の どこ か が 揺られる 気 が して 来て 、 わざと 引き締めて 見せた 口 び る の へん から 思わず も 笑い の 影 が 潜み 出た 。 |ようこ|||いかって|みせよう|||||きざみ||あらい|たんじゅんな|たい|||おとこ||かお||みる|||||||ゆられる|き|||きて||ひきしめて|みせた|くち||||||おもわず||わらい||かげ||ひそみ|でた ・・

それ を 見る と 事務 長 は 苦い 顔 と 笑った 顔 と を 一緒に して 、・・ ||みる||じむ|ちょう||にがい|かお||わらった|かお|||いっしょに|

「 なんだい くだら ん 」・・

と いって 、 電 燈 の 近所 に 椅子 を よせて 、 大きな 長い 足 を 投げ出して 、 夕刊 新聞 を 大きく 開いて 目 を 通し 始めた 。 ||いなずま|とも||きんじょ||いす|||おおきな|ながい|あし||なげだして|ゆうかん|しんぶん||おおきく|あいて|め||とおし|はじめた With that, he moved a chair near the electric light, put out his long legs, opened the evening newspaper wide, and began to read it. ・・

木村 と は 引きかえて 事務 長 が この 部屋 に 来る と 、 部屋 が 小さく 見える ほど だった 。 きむら|||ひきかえて|じむ|ちょう|||へや||くる||へや||ちいさく|みえる|| 上 向けた 靴 の 大き さ に は 葉子 は 吹き出したい くらい だった 。 うえ|むけた|くつ||おおき||||ようこ||ふきだし たい|| 葉子 は 目 で なでたり さ すったり する ように して 、 この 大きな 子供 みた ような 暴君 の 頭 から 足 の 先 まで を 見 やって いた 。 ようこ||め|||||||||おおきな|こども|||ぼうくん||あたま||あし||さき|||み|| With her eyes, Yoko was stroking and rubbing him, looking from head to toe at this big child-like tyrant. ご わっご わっと 時々 新聞 を 折り返す 音 だけ が 聞こえて 、 積み荷 が あら かた 片付いた 船室 の 夜 は 静かに ふけて 行った 。 |わ っご|わ っと|ときどき|しんぶん||おりかえす|おと|||きこえて|つみに||||かたづいた|せんしつ||よ||しずかに||おこなった ・・

葉子 は そうした まま で ふと 木村 を 思いやった 。 ようこ||||||きむら||おもいやった ・・

木村 は 銀行 に 寄って 切手 を 現金 に 換えて 、 店 の 締まら ない うち に いくらか 買い物 を して 、 それ を 小 わき に かかえ ながら 、 夕食 も したため ず に 、 ジャクソン 街 に ある と いう 日本 人 の 旅 店 に 帰り着く ころ に は 、 町 々 に 灯 が ともって 、 寒い 靄 と 煙 と の 間 を 労働 者 たち が 疲れた 五 体 を 引きずり ながら 歩いて 行く の に たくさん 出あって いる だろう 。 きむら||ぎんこう||よって|きって||げんきん||かえて|てん||しまら|||||かいもの|||||しょう|||||ゆうしょく||した ため||||がい|||||にっぽん|じん||たび|てん||かえりつく||||まち|||とう|||さむい|もや||けむり|||あいだ||ろうどう|もの|||つかれた|いつ|からだ||ひきずり||あるいて|いく||||であって|| 小さな ストーブ に 煙 の 多い 石炭 が ぶし ぶし 燃えて 、 けばけばしい 電灯 の 光 だけ が 、 むちうつ ように がらんと した 部屋 の 薄ぎたな さ を 煌々 と 照らして いる だろう 。 ちいさな|すとーぶ||けむり||おおい|せきたん||||もえて||でんとう||ひかり|||||||へや||うすぎたな|||こうこう||てらして|| Smoky coals would smolder in a small stove, and only the flash of a garish electric light would illuminate the drabness of the whiplash-empty room. その 光 の 下 で 、 ぐらぐら する 椅子 に 腰かけて 、 ストーブ の 火 を 見つめ ながら 木村 が 考えて いる 。 |ひかり||した||||いす||こしかけて|すとーぶ||ひ||みつめ||きむら||かんがえて| しばらく 考えて から さびし そうに 見る と も なく 部屋 の 中 を 見回して 、 また ストーブ の 火 に ながめ 入る だろう 。 |かんがえて|||そう に|みる||||へや||なか||みまわして||すとーぶ||ひ|||はいる| その うち に あの 涙 の 出 やすい 目 から は 涙 が ほろほろ と とめど も なく 流れ出る に 違いない 。 ||||なみだ||だ||め|||なみだ|||||||ながれでる||ちがいない ・・

事務 長 が 音 を たてて 新聞 を 折り返した 。 じむ|ちょう||おと|||しんぶん||おりかえした ・・

木村 は 膝頭 に 手 を 置いて 、 その 手 の 中 に 顔 を 埋めて 泣いて いる 。 きむら||ひざがしら||て||おいて||て||なか||かお||うずめて|ないて| 祈って いる 。 いのって| 葉子 は 倉地 から 目 を 放して 、 上 目 を 使い ながら 木村 の 祈り の 声 に 耳 を 傾けよう と した 。 ようこ||くらち||め||はなして|うえ|め||つかい||きむら||いのり||こえ||みみ||かたむけよう|| 途切れ 途切れ な 切ない 祈り の 声 が 涙 に しめって 確かに …… 確かに 聞こえて 来る 。 とぎれ|とぎれ||せつない|いのり||こえ||なみだ|||たしかに|たしかに|きこえて|くる 葉子 は 眉 を 寄せて 注意 力 を 集 注 し ながら 、 木村 が ほんとうに どう 葉子 を 思って いる か を はっきり 見 窮めよう と した が 、 どうしても 思い浮かべて みる 事 が でき なかった 。 ようこ||まゆ||よせて|ちゅうい|ちから||しゅう|そそ|||きむら||||ようこ||おもって|||||み|きわめよう|||||おもいうかべて||こと||| ・・

事務 長 が また 新聞 を 折り返す 音 を 立てた 。 じむ|ちょう|||しんぶん||おりかえす|おと||たてた ・・

葉子 は はっと して 淀み に ささえられた 木 の 葉 が また 流れ 始めた ように 、 すらすら と 木村 の 所作 を 想像 した 。 ようこ||||よどみ||ささえ られた|き||は|||ながれ|はじめた||||きむら||しょさ||そうぞう| それ が だんだん 岡 の 上 に 移って 行った 。 |||おか||うえ||うつって|おこなった 哀れな 岡 ！ あわれな|おか 岡 も まだ 寝 ないで いる だろう 。 おか|||ね||| 木村 な の か 岡 な の か いつまでも いつまでも 寝 ないで 火 の 消え かかった ストーブ の 前 に うずくまって いる の は …… ふける まま に しみ込む 寒 さ は そっと 床 を 伝わって 足 の 先 から はい上がって 来る 。 きむら||||おか||||||ね||ひ||きえ||すとーぶ||ぜん|||||||||しみこむ|さむ||||とこ||つたわって|あし||さき||はいあがって|くる 男 は それ に も 気 が 付か ぬ ふうで 椅子 の 上 に うなだれて いる 。 おとこ|||||き||つか|||いす||うえ||| すべて の 人 は 眠って いる 時 に 、 木村 の 葉子 も 事務 長 に 抱かれて 安 々 と 眠って いる 時 に ……。 ||じん||ねむって||じ||きむら||ようこ||じむ|ちょう||いだか れて|やす|||ねむって||じ| ・・

ここ まで 想像 して 来る と 小説 に 読みふけって いた 人 が 、 ほっと ため息 を して ば たん と 書物 を ふせる ように 、 葉子 も 何と は なく 深い ため息 を して はっきり と 事務 長 を 見た 。 ||そうぞう||くる||しょうせつ||よみふけって||じん|||ためいき||||||しょもつ||||ようこ||なんと|||ふかい|ためいき|||||じむ|ちょう||みた 葉子 の 心 は 小説 を 読んだ 時 の とおり 無関心 の Pathos を かすかに 感じて いる ばかりだった 。 ようこ||こころ||しょうせつ||よんだ|じ|||むかんしん||pathos|||かんじて|| ・・

「 お やすみ に なら ない の ？ 」・・

と 葉子 は 鈴 の ように 涼しい 小さい 声 で 倉地 に いって みた 。 |ようこ||すず|||すずしい|ちいさい|こえ||くらち||| 大きな 声 を する の も はばから れる ほど あたり は しんと 静まって いた 。 おおきな|こえ|||||はば から||||||しずまって| ・・

「 う 」・・

と 返事 は した が 事務 長 は 煙草 を くゆらした まま 新聞 を 見 続けて いた 。 |へんじ||||じむ|ちょう||たばこ||||しんぶん||み|つづけて| 葉子 も 黙って しまった 。 ようこ||だまって| ・・

やや しばらく して から 事務 長 も ほっと ため息 を して 、・・ ||||じむ|ちょう|||ためいき||

「 どれ 寝る か な 」・・ |ねる||

と いい ながら 椅子 から 立って 寝床 に はいった 。 |||いす||たって|ねどこ|| 葉子 は 事務 長 の 広い 胸 に 巣食う ように 丸まって 少し 震えて いた 。 ようこ||じむ|ちょう||ひろい|むね||すくう||まるまって|すこし|ふるえて| Yoko was curled up in the office manager's broad chest, trembling a little. ・・

やがて 子供 の ように すやすや と 安らかな いびき が 葉子 の 口 び る から もれて 来た 。 |こども|||||やすらかな|||ようこ||くち|||||きた ・・

倉地 は 暗闇 の 中 で 長い 間 まんじ り と も せ ず 大きな 目 を 開いて いた が 、 やがて 、・・ くらち||くらやみ||なか||ながい|あいだ|||||||おおきな|め||あいて|||

「 おい 悪党 」・・ |あくとう

と 小さな 声 で 呼びかけて みた 。 |ちいさな|こえ||よびかけて| ・・

しかし 葉子 の 規則正しく 楽しげな 寝息 は 露 ほど も 乱れ なかった 。 |ようこ||きそくただしく|たのしげな|ねいき||ろ|||みだれ| ・・

真 夜中 に 、 恐ろしい 夢 を 葉子 は 見た 。 まこと|よなか||おそろしい|ゆめ||ようこ||みた よく は 覚えて いない が 、 葉子 は 殺して は いけない いけない と 思い ながら 人殺し を した のだった 。 ||おぼえて|||ようこ||ころして|||||おもい||ひとごろし||| 一方 の 目 は 尋常に 眉 の 下 に ある が 、 一方 の は 不思議に も 眉 の 上 に ある 、 その 男 の 額 から 黒 血 が ど くどく と 流れた 。 いっぽう||め||じんじょうに|まゆ||した||||いっぽう|||ふしぎに||まゆ||うえ||||おとこ||がく||くろ|ち|||||ながれた 男 は 死んで も 物 すごく に やり に やり と 笑い 続けて いた 。 おとこ||しんで||ぶつ|||||||わらい|つづけて| その 笑い声 が 木村 木村 と 聞こえた 。 |わらいごえ||きむら|きむら||きこえた 始め の うち は 声 が 小さかった が だんだん 大きく なって 数 も ふえて 来た 。 はじめ||||こえ||ちいさかった|||おおきく||すう|||きた その 「 木村 木村 」 と いう 数 限り も ない 声 が う ざ う ざ と 葉子 を 取り巻き 始めた 。 |きむら|きむら|||すう|かぎり|||こえ|||||||ようこ||とりまき|はじめた 葉子 は 一心に 手 を 振って そこ から のがれよう と した が 手 も 足 も 動か なかった 。 ようこ||いっしんに|て||ふって|||||||て||あし||うごか| ・・

ぞっと して 寒気 を 覚え ながら 、 葉子 は 闇 の 中 に 目 を さました 。 ||かんき||おぼえ||ようこ||やみ||なか||め|| 恐ろしい 凶 夢 の なごり は 、 ど 、 ど 、 ど …… と 激しく 高く うつ 心臓 に 残って いた 。 おそろしい|きょう|ゆめ||||||||はげしく|たかく||しんぞう||のこって| 葉子 は 恐怖 に おびえ ながら 一心に 暗い 中 を おどおど と 手探り に 探る と 事務 長 の 胸 に 触れた 。 ようこ||きょうふ||||いっしんに|くらい|なか||||てさぐり||さぐる||じむ|ちょう||むね||ふれた ・・

「 あなた 」・・

と 小さい 震え 声 で 呼んで みた が 男 は 深い 眠り の 中 に あった 。 |ちいさい|ふるえ|こえ||よんで|||おとこ||ふかい|ねむり||なか|| なんとも いえ ない 気味 わる さ が こみ上げて 来て 、 葉子 は 思いきり 男 の 胸 を ゆすぶって みた 。 |||きみ||||こみあげて|きて|ようこ||おもいきり|おとこ||むね||| ・・

しかし 男 は 材木 の ように 感じ なく 熟睡 して いた 。 |おとこ||ざいもく|||かんじ||じゅくすい|| ・・

（ 前 編 了 ） ぜん|へん|さとる