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或る女 - 有島武郎(アクセス), 19.2 或る女

19.2 或る 女

葉子 は すばやく その 顔色 を うかがう と 妙に けわしく なって いた 。 ・・

「 ちょっと 失礼 」・・

木村 の 癖 で 、 こんな 時 まで 妙に よそよそしく 断わって 、 古藤 の 手紙 の 封 を 切った 。 西洋 罫紙 に ペン で 細かく 書いた 幾 枚 か の かなり 厚い もの で 、 それ を 木村 が 読み 終わる まで に は 暇 が かかった 。 その 間 、 葉子 は 仰向け に なって 、 甲板 で 盛んに 荷揚げ して いる 人 足 ら の 騒ぎ を 聞き ながら 、 やや 暗く なり かけた 光 で 木村 の 顔 を 見 やって いた 。 少し 眉 根 を 寄せ ながら 、 手紙 に 読みふける 木村 の 表情 に は 、 時々 苦痛 や 疑惑 や の 色 が 往ったり 来たり した 。 読み 終わって から ほっと した ため 息 と ともに 木村 は 手紙 を 葉子 に 渡して 、・・

「 こんな 事 を いって よこして いる んです 。 あなた に 見せて も 構わ ない と ある から 御覧 なさい 」・・

と いった 。 葉子 は べつに 読み たく も なかった が 、 多少 の 好奇心 も 手伝う ので とにかく 目 を 通して 見た 。 ・・

「 僕 は 今度 ぐらい 不思議な 経験 を なめた 事 は ない 。 兄 が 去って 後 の 葉子 さん の 一身 に 関して 、 責任 を 持つ 事 なんか 、 僕 は したい と 思って も でき は し ない が 、 もし 明白に いわ せて くれる なら 、 兄 は まだ 葉子 さん の 心 を 全然 占領 した もの と は 思わ れ ない 」・・ 「 僕 は 女 の 心 に は 全く 触れた 事 が ない と いって いい ほど の 人間 だ が 、 もし 僕 の 事実 だ と 思う 事 が 不幸に して 事実 だ と する と 、 葉子 さん の 恋 に は ―― もし そんな の が 恋 と いえる なら ―― だいぶ 余裕 が ある と 思う ね 」・・ 「 これ が 女 の tact と いう もの か と 思った ような 事 が あった 。 しかし 僕 に は わから ん 」・・

「 僕 は 若い 女 の 前 に 行く と 変に どぎまぎ して しまって ろくろく 物 も いえ なく なる 。 ところが 葉子 さん の 前 で は 全く 異った 感じ で 物 が いえる 。 これ は 考えもの だ 」・・

「 葉子 さん と いう 人 は 兄 が いう とおり に 優れた 天 賦 を 持った 人 の ように も 実際 思える 。 しかし あの 人 は どこ か 片 輪 じゃ ない かい 」・・

「 明白に いう と 僕 は ああいう 人 は いちばん きらいだ けれども 、 同時に また いちばん ひきつけられる 、 僕 は この 矛盾 を 解き ほご して みた くって たまらない 。 僕 の 単純 を 許して くれた まえ 。 葉子 さん は 今 まで の どこ か で 道 を 間違えた のじゃ ない か しら ん 。 けれども それ に して は あまり 平気だ ね 」・・

「 神 は 悪魔 に 何一つ 与え なかった が Attraction だけ は 与えた のだ 。 こんな 事 も 思う 。 …… 葉子 さん の Attraction は どこ から 来る んだろう 。 失敬 失敬 。 僕 は 乱暴 を いい すぎて る ようだ 」・・

「 時々 は 憎む べき 人間 だ と 思う が 、 時々 は なんだか かわいそうで たまらなく なる 時 が ある 。 葉子 さん が ここ を 読んだら 、 おそらく 唾 でも 吐き かけ たく なる だろう 。 あの 人 は かわいそうな 人 の くせ に 、 かわいそう がられる の が きらい らしい から 」・・ 「 僕 に は 結局 葉子 さん が 何 が なんだか ちっとも わから ない 。 僕 は 兄 が 彼女 を 選んだ 自信 に 驚く 。 しかし こう なった 以上 は 、 兄 は 全力 を 尽くして 彼女 を 理解 して やら なければ いけない と 思う 。 どうか 兄 ら の 生活 が 最後 の 栄冠 に 至ら ん 事 を 神 に 祈る 」・・

こんな 文句 が 断片 的に 葉子 の 心 に しみて 行った 。 葉子 は 激しい 侮 蔑 を 小 鼻 に 見せて 、 手紙 を 木村 に 戻した 。 木村 の 顔 に は その 手紙 を 読み 終えた 葉子 の 心 の 中 を 見とおそう と あせる ような 表情 が 現われて いた 。 ・・

「 こんな 事 を 書かれて あなた どう 思います 」・・ 葉子 は 事もなげに せ せら 笑った 。 ・・

「 どうも 思い は しません わ 。 でも 古藤 さん も 手紙 の 上 で は 一 枚 がた 男 を 上げて います わ ね 」・・ 木村 の 意気込み は しかし そんな 事 で は ごまかさ れ そうに は なかった ので 、 葉子 は めんどうくさく なって 少し 険しい 顔 に なった 。 ・・

「 古藤 さん の おっしゃる 事 は 古藤 さん の おっしゃる 事 。 あなた は わたし と 約束 なさった 時 から わたし を 信じ わたし を 理解 して くださって いらっしゃる んでしょう ね 」・・

木村 は 恐ろしい 力 を こめて 、・・

「 それ は そう です と も 」・・

と 答えた 。 ・・

「 そん なら それ で 何も いう 事 は ない じゃ ありません か 。 古藤 さん など の いう 事 ―― 古藤 さんなん ぞ に わから れたら 人間 も 末 です わ ―― でも あなた は やっぱり どこ か わたし を 疑って いらっしゃる の ね 」・・

「 そう じゃ ない ……」・・

「 そう じゃ ない 事 が ある もん です か 。 わたし は 一たん こう と 決めたら どこまでも それ で 通す の が 好き 。 それ は 生きて る 人間 です もの 、 こっち の すみ あっち の すみ と 小さな 事 を 捕えて と が めだて を 始めたら 際限 は ありません さ 。 そんな ばかな 事ったら ありません わ 。 わたし みたいな 気 随 な わがまま 者 は そんなふうに さ れたら 窮屈で 窮屈で 死んで しまう でしょう よ 。 わたし が こんなに なった の も 、 つまり 、 みんな で 寄ってたかって わたし を 疑い 抜いた から です 。 あなた だって やっぱり その 一 人 か と 思う と 心細い もん です の ね 」・・

木村 の 目 は 輝いた 。 ・・

「 葉子 さん 、 それ は 疑い 過ぎ と いう もん です 」・・

そして 自分 が 米国 に 来て から なめ 尽くした 奮闘 生活 も つまり は 葉子 と いう もの が あれば こそ できた ので 、 もし 葉子 が それ に 同情 と 鼓舞 と を 与えて くれ なかったら 、 その 瞬間 に 精 も 根 も 枯れ 果てて しまう に 違いない と いう 事 を 繰り返し 繰り返し 熱心に 説いた 。 葉子 は よそよそしく 聞いて いた が 、・・

「 うまく おっしゃる わ 」・・

と 留め を さして おいて 、 しばらく して から 思い出した ように 、・・

「 あなた 田川 の 奥さん に お あい なさって 」・・

と 尋ねた 。 木村 は まだ あわ なかった と 答えた 。 葉子 は 皮肉な 表情 を して 、・・

「 いまに きっと お あい に なって よ 。 一緒に この 船 で いら しった んです もの 。 そして 五十川 の おばさん が わたし の 監督 を お 頼み に なった んです もの 。 一 度 お あい に なったら あなた は きっと わたし な ん ぞ 見向き も なさら なく なります わ 」・・ 「 どうして です 」・・ 「 まあ お あい なさって ごらん なさい まし 」・・ 「 何 か あなた 批難 を 受ける ような 事 でも した んです か 」・・

「 え ゝ え ゝ たくさん しました と も 」・・ 「 田川 夫人 に ? あの 賢 夫人 の 批難 を 受ける と は 、 いったい どんな 事 を した んです 」・・

葉子 は さも 愛想 が 尽きた と いう ふうに 、・・

「 あの 賢 夫人 ! 」・・

と いい ながら 高々 と 笑った 。 二 人 の 感情 の 糸 は また も もつれて しまった 。 ・・

「 そんなに あの 奥さん に あなた の 御 信用 が ある の なら 、 わたし から 申して おく ほう が 早手回し です わ ね 」・・

と 葉子 は 半分 皮肉な 半分 まじめな 態度 で 、 横浜 出航 以来 夫人 から 葉子 が 受けた 暗 々 裡 の 圧迫 に 尾鰭 を つけて 語って 来て 、 事務 長 と 自分 と の 間 に 何 か あたりまえで ない 関係 で も ある ような 疑い を 持って いる らしい と いう 事 を 、 他人事 でも 話す ように 冷静に 述べて 行った 。 その 言葉 の 裏 に は 、 しかし 葉子 に 特有な 火 の ような 情熱 が ひらめいて 、 その 目 は 鋭く 輝いたり 涙ぐんだり して いた 。 木村 は 電 火 に でも 打た れた ように 判断 力 を 失って 、 一部始終 を ぼんやり と 聞いて いた 。 言葉 だけ に も どこまでも 冷静な 調子 を 持た せ 続けて 葉子 は すべて を 語り 終わって から 、・・

「 同じ 親切に も 真底 から の と 、 通り一ぺんの と 二 つ あります わ ね 。 その 二 つ が どうかして ぶつかり合う と 、 いつでも ほんとうの 親切 の ほう が 悪者 扱い に さ れたり 、 邪魔者 に 見られる んだ から おもしろう ご ざん す わ 。 横浜 を 出て から 三 日 ばかり 船 に 酔って しまって 、 どう しましょう と 思った 時 に も 、 御 親切な 奥さん は 、 わざと 御 遠慮 なさって でしょう ね 、 三 度 三 度 食堂 に は お 出 に なる のに 、 一 度 も わたし の ほう へ はいら しって くださら ない のに 、 事務 長ったら 幾 度 も お 医者 さん を 連れて 来る んです もの 、 奥さん の お 疑い も もっとも と いえば もっともです の 。 それ に わたし が 胃 病 で 寝込む ように なって から は 、 船 中 の お 客 様 が それ は 同情 して くださって 、 いろいろ と して くださる の が 、 奥さん に は 大 の お 気 に 入ら なかった んです の 。 奥さん だけ が わたし を 親切に して くださって 、 ほか の 方 は みんな 寄ってたかって 、 奥さん を 親切に して 上げて くださる 段取り に さえ なれば 、 何もかも 無事だった んです けれども ね 、 中でも 事務 長 の 親切に して 上げ かた が いちばん 足りなかった んでしょう よ 」・・

と 言葉 を 結んだ 。 木村 は 口 び る を かむ ように 聞いて いた が 、 いまいまし げ に 、・・

「 わかりました わかりました 」・・ 合点 し ながら つぶやいた 。 ・・

葉子 は 額 の 生えぎわ の 短い 毛 を 引っぱって は 指 に 巻いて 上 目 で ながめ ながら 、 皮肉な 微笑 を 口 び る の あたり に 浮かば して 、・・

「 お わかり に なった ? ふん 、 どう です か ね 」・・

と 空 うそぶいた 。 ・・

木村 は 何 を 思った か ひどく 感傷 的な 態度 に なって いた 。 ・・

「 わたし が 悪かった 。 わたし は どこまでも あなた を 信ずる つもりで いながら 、 他人 の 言葉 に 多少 と も 信用 を かけよう と して いた の が 悪かった のです 。 …… 考えて ください 、 わたし は 親類 や 友人 の すべて の 反対 を 犯して ここ まで 来て いる のです 。 もう あなた なし に は わたし の 生涯 は 無意味です 。 わたし を 信じて ください 。 きっと 十 年 を 期して 男 に なって 見せます から …… もし あなた の 愛 から わたし が 離れ なければ なら ん ような 事 が あったら …… わたし は そんな 事 を 思う に 堪え ない …… 葉子 さん 」・・ 木村 は こう いい ながら 目 を 輝かして すり寄って 来た 。 葉子 は その 思いつめた らしい 態度 に 一種 の 恐怖 を 感ずる ほど だった 。 男 の 誇り も 何も 忘れ 果て 、 捨て 果てて 、 葉子 の 前 に 誓い を 立てて いる 木村 を 、 うまう ま 偽って いる のだ と 思う と 、 葉子 は さすが に 針 で 突く ような 痛 み を 鋭く 深く 良心 の 一隅 に 感ぜ ず に は いられ なかった 。 しかし それ より も その 瞬間 に 葉子 の 胸 を 押し ひし ぐ ように 狭めた もの は 、 底 の ない 物 すごい 不安だった 。 木村 と は どうしても 連れ添う 心 は ない 。 その 木村 に …… 葉子 は おぼれた 人 が 岸 べ を 望む ように 事務 長 を 思い浮かべた 。 男 と いう もの の 女 に 与える 力 を 今さら に 強く 感じた 。 ここ に 事務 長 が いて くれたら どんなに 自分 の 勇気 は 加わったろう 。 しかし …… どうにでも なれ 。 どうかして この 大事な 瀬戸 を 漕ぎ ぬけ なければ 浮かぶ 瀬 は ない 。 葉子 は 大それた 謀 反 人 の 心 で 木村 の caress を 受 くべ き 身構え 心構え を 案じて いた 。


19.2 或る 女 ある|おんな 19.2 Una mujer

葉子 は すばやく その 顔色 を うかがう と 妙に けわしく なって いた 。 ようこ||||かおいろ||||みょうに||| ・・

「 ちょっと 失礼 」・・ |しつれい

木村 の 癖 で 、 こんな 時 まで 妙に よそよそしく 断わって 、 古藤 の 手紙 の 封 を 切った 。 きむら||くせ|||じ||みょうに||ことわって|ことう||てがみ||ふう||きった 西洋 罫紙 に ペン で 細かく 書いた 幾 枚 か の かなり 厚い もの で 、 それ を 木村 が 読み 終わる まで に は 暇 が かかった 。 せいよう|けいし||ぺん||こまかく|かいた|いく|まい||||あつい|||||きむら||よみ|おわる||||いとま|| その 間 、 葉子 は 仰向け に なって 、 甲板 で 盛んに 荷揚げ して いる 人 足 ら の 騒ぎ を 聞き ながら 、 やや 暗く なり かけた 光 で 木村 の 顔 を 見 やって いた 。 |あいだ|ようこ||あおむけ|||かんぱん||さかんに|にあげ|||じん|あし|||さわぎ||きき|||くらく|||ひかり||きむら||かお||み|| 少し 眉 根 を 寄せ ながら 、 手紙 に 読みふける 木村 の 表情 に は 、 時々 苦痛 や 疑惑 や の 色 が 往ったり 来たり した 。 すこし|まゆ|ね||よせ||てがみ||よみふける|きむら||ひょうじょう|||ときどき|くつう||ぎわく|||いろ||おう ったり|きたり| 読み 終わって から ほっと した ため 息 と ともに 木村 は 手紙 を 葉子 に 渡して 、・・ よみ|おわって|||||いき|||きむら||てがみ||ようこ||わたして

「 こんな 事 を いって よこして いる んです 。 |こと||||| "I'm sending you something like this. あなた に 見せて も 構わ ない と ある から 御覧 なさい 」・・ ||みせて||かまわ|||||ごらん|

と いった 。 葉子 は べつに 読み たく も なかった が 、 多少 の 好奇心 も 手伝う ので とにかく 目 を 通して 見た 。 ようこ|||よみ|||||たしょう||こうきしん||てつだう|||め||とおして|みた ・・

「 僕 は 今度 ぐらい 不思議な 経験 を なめた 事 は ない 。 ぼく||こんど||ふしぎな|けいけん|||こと|| 兄 が 去って 後 の 葉子 さん の 一身 に 関して 、 責任 を 持つ 事 なんか 、 僕 は したい と 思って も でき は し ない が 、 もし 明白に いわ せて くれる なら 、 兄 は まだ 葉子 さん の 心 を 全然 占領 した もの と は 思わ れ ない 」・・ 「 僕 は 女 の 心 に は 全く 触れた 事 が ない と いって いい ほど の 人間 だ が 、 もし 僕 の 事実 だ と 思う 事 が 不幸に して 事実 だ と する と 、 葉子 さん の 恋 に は ―― もし そんな の が 恋 と いえる なら ―― だいぶ 余裕 が ある と 思う ね 」・・ 「 これ が 女 の tact と いう もの か と 思った ような 事 が あった 。 あに||さって|あと||ようこ|||いっしん||かんして|せきにん||もつ|こと||ぼく||し たい||おもって||||||||めいはくに|||||あに|||ようこ|||こころ||ぜんぜん|せんりょう|||||おもわ|||ぼく||おんな||こころ|||まったく|ふれた|こと||||||||にんげん||||ぼく||じじつ|||おもう|こと||ふこうに||じじつ|||||ようこ|||こい|||||||こい|||||よゆう||||おもう||||おんな||||||||おもった||こと|| しかし 僕 に は わから ん 」・・ |ぼく||||

「 僕 は 若い 女 の 前 に 行く と 変に どぎまぎ して しまって ろくろく 物 も いえ なく なる 。 ぼく||わかい|おんな||ぜん||いく||へんに|||||ぶつ|||| ところが 葉子 さん の 前 で は 全く 異った 感じ で 物 が いえる 。 |ようこ|||ぜん|||まったく|い った|かんじ||ぶつ|| これ は 考えもの だ 」・・ ||かんがえもの|

「 葉子 さん と いう 人 は 兄 が いう とおり に 優れた 天 賦 を 持った 人 の ように も 実際 思える 。 ようこ||||じん||あに|||||すぐれた|てん|ふ||もった|じん||||じっさい|おもえる しかし あの 人 は どこ か 片 輪 じゃ ない かい 」・・ ||じん||||かた|りん|||

「 明白に いう と 僕 は ああいう 人 は いちばん きらいだ けれども 、 同時に また いちばん ひきつけられる 、 僕 は この 矛盾 を 解き ほご して みた くって たまらない 。 めいはくに|||ぼく|||じん|||||どうじに|||ひきつけ られる|ぼく|||むじゅん||とき||||| 僕 の 単純 を 許して くれた まえ 。 ぼく||たんじゅん||ゆるして|| 葉子 さん は 今 まで の どこ か で 道 を 間違えた のじゃ ない か しら ん 。 ようこ|||いま||||||どう||まちがえた||||| けれども それ に して は あまり 平気だ ね 」・・ ||||||へいきだ|

「 神 は 悪魔 に 何一つ 与え なかった が Attraction だけ は 与えた のだ 。 かみ||あくま||なにひとつ|あたえ|||attraction|||あたえた| こんな 事 も 思う 。 |こと||おもう …… 葉子 さん の Attraction は どこ から 来る んだろう 。 ようこ|||attraction||||くる| 失敬 失敬 。 しっけい|しっけい 僕 は 乱暴 を いい すぎて る ようだ 」・・ ぼく||らんぼう|||||

「 時々 は 憎む べき 人間 だ と 思う が 、 時々 は なんだか かわいそうで たまらなく なる 時 が ある 。 ときどき||にくむ||にんげん|||おもう||ときどき||||||じ|| 葉子 さん が ここ を 読んだら 、 おそらく 唾 でも 吐き かけ たく なる だろう 。 ようこ|||||よんだら||つば||はき|||| あの 人 は かわいそうな 人 の くせ に 、 かわいそう がられる の が きらい らしい から 」・・ 「 僕 に は 結局 葉子 さん が 何 が なんだか ちっとも わから ない 。 |じん|||じん|||||が られる||||||ぼく|||けっきょく|ようこ|||なん||||| 僕 は 兄 が 彼女 を 選んだ 自信 に 驚く 。 ぼく||あに||かのじょ||えらんだ|じしん||おどろく しかし こう なった 以上 は 、 兄 は 全力 を 尽くして 彼女 を 理解 して やら なければ いけない と 思う 。 |||いじょう||あに||ぜんりょく||つくして|かのじょ||りかい||||||おもう どうか 兄 ら の 生活 が 最後 の 栄冠 に 至ら ん 事 を 神 に 祈る 」・・ |あに|||せいかつ||さいご||えいかん||いたら||こと||かみ||いのる I pray to God that my brothers' lives will reach their final glory."

こんな 文句 が 断片 的に 葉子 の 心 に しみて 行った 。 |もんく||だんぺん|てきに|ようこ||こころ|||おこなった 葉子 は 激しい 侮 蔑 を 小 鼻 に 見せて 、 手紙 を 木村 に 戻した 。 ようこ||はげしい|あなど|さげす||しょう|はな||みせて|てがみ||きむら||もどした 木村 の 顔 に は その 手紙 を 読み 終えた 葉子 の 心 の 中 を 見とおそう と あせる ような 表情 が 現われて いた 。 きむら||かお||||てがみ||よみ|おえた|ようこ||こころ||なか||みとおそう||||ひょうじょう||あらわれて| ・・

「 こんな 事 を 書かれて あなた どう 思います 」・・ 葉子 は 事もなげに せ せら 笑った 。 |こと||かか れて|||おもい ます|ようこ||こともなげに|||わらった "What do you think about writing this?" Yoko smiled slyly. ・・

「 どうも 思い は しません わ 。 |おもい||し ませ ん| でも 古藤 さん も 手紙 の 上 で は 一 枚 がた 男 を 上げて います わ ね 」・・ 木村 の 意気込み は しかし そんな 事 で は ごまかさ れ そうに は なかった ので 、 葉子 は めんどうくさく なって 少し 険しい 顔 に なった 。 |ことう|||てがみ||うえ|||ひと|まい||おとこ||あげて|い ます|||きむら||いきごみ||||こと|||||そう に||||ようこ||||すこし|けわしい|かお|| But Mr. Koto also mentioned one man in his letter, didn't he?"... Kimura's enthusiasm, however, didn't seem to be covered up by such a thing, so Yoko felt annoyed and a little grim. became a face ・・

「 古藤 さん の おっしゃる 事 は 古藤 さん の おっしゃる 事 。 ことう||||こと||ことう||||こと あなた は わたし と 約束 なさった 時 から わたし を 信じ わたし を 理解 して くださって いらっしゃる んでしょう ね 」・・ ||||やくそく||じ||||しんじ|||りかい|||||

木村 は 恐ろしい 力 を こめて 、・・ きむら||おそろしい|ちから||

「 それ は そう です と も 」・・

と 答えた 。 |こたえた ・・

「 そん なら それ で 何も いう 事 は ない じゃ ありません か 。 ||||なにも||こと||||あり ませ ん| 古藤 さん など の いう 事 ―― 古藤 さんなん ぞ に わから れたら 人間 も 末 です わ ―― でも あなた は やっぱり どこ か わたし を 疑って いらっしゃる の ね 」・・ ことう|||||こと|ことう||||||にんげん||すえ|||||||||||うたがって|||

「 そう じゃ ない ……」・・

「 そう じゃ ない 事 が ある もん です か 。 |||こと||||| わたし は 一たん こう と 決めたら どこまでも それ で 通す の が 好き 。 ||いったん|||きめたら||||とおす|||すき それ は 生きて る 人間 です もの 、 こっち の すみ あっち の すみ と 小さな 事 を 捕えて と が めだて を 始めたら 際限 は ありません さ 。 ||いきて||にんげん||||||あっ ち||||ちいさな|こと||とらえて|||||はじめたら|さいげん||あり ませ ん| そんな ばかな 事ったら ありません わ 。 ||こと ったら|あり ませ ん| わたし みたいな 気 随 な わがまま 者 は そんなふうに さ れたら 窮屈で 窮屈で 死んで しまう でしょう よ 。 ||き|ずい|||もの|||||きゅうくつで|きゅうくつで|しんで||| わたし が こんなに なった の も 、 つまり 、 みんな で 寄ってたかって わたし を 疑い 抜いた から です 。 |||||||||よってたかって|||うたがい|ぬいた|| あなた だって やっぱり その 一 人 か と 思う と 心細い もん です の ね 」・・ ||||ひと|じん|||おもう||こころぼそい||||

木村 の 目 は 輝いた 。 きむら||め||かがやいた ・・

「 葉子 さん 、 それ は 疑い 過ぎ と いう もん です 」・・ ようこ||||うたがい|すぎ||||

そして 自分 が 米国 に 来て から なめ 尽くした 奮闘 生活 も つまり は 葉子 と いう もの が あれば こそ できた ので 、 もし 葉子 が それ に 同情 と 鼓舞 と を 与えて くれ なかったら 、 その 瞬間 に 精 も 根 も 枯れ 果てて しまう に 違いない と いう 事 を 繰り返し 繰り返し 熱心に 説いた 。 |じぶん||べいこく||きて||な め|つくした|ふんとう|せいかつ||||ようこ||||||||||ようこ||||どうじょう||こぶ|||あたえて||||しゅんかん||せい||ね||かれ|はてて|||ちがいない|||こと||くりかえし|くりかえし|ねっしんに|といた And the life of struggle I've struggled with since I came to the United States could only have been possible because of Yoko, so if Yoko hadn't given me sympathy and encouragement, I would have lost all my energy and roots at that moment. I preached again and again and earnestly that it would surely wither away. 葉子 は よそよそしく 聞いて いた が 、・・ ようこ|||きいて||

「 うまく おっしゃる わ 」・・

と 留め を さして おいて 、 しばらく して から 思い出した ように 、・・ |とどめ|||||||おもいだした|

「 あなた 田川 の 奥さん に お あい なさって 」・・ |たがわ||おくさん||||

と 尋ねた 。 |たずねた 木村 は まだ あわ なかった と 答えた 。 きむら||||||こたえた 葉子 は 皮肉な 表情 を して 、・・ ようこ||ひにくな|ひょうじょう||

「 いまに きっと お あい に なって よ 。 一緒に この 船 で いら しった んです もの 。 いっしょに||せん||||| そして 五十川 の おばさん が わたし の 監督 を お 頼み に なった んです もの 。 |いそがわ||||||かんとく|||たのみ|||| 一 度 お あい に なったら あなた は きっと わたし な ん ぞ 見向き も なさら なく なります わ 」・・ 「 どうして です 」・・ 「 まあ お あい なさって ごらん なさい まし 」・・ ひと|たび||||||||||||みむき||||なり ます|||||||||| Once you meet me, I'm sure you won't even look at me anymore."... "Why?" 「 何 か あなた 批難 を 受ける ような 事 でも した んです か 」・・ なん|||ひなん||うける||こと||||

「 え ゝ え ゝ たくさん しました と も 」・・ 「 田川 夫人 に ? |||||し ました|||たがわ|ふじん| あの 賢 夫人 の 批難 を 受ける と は 、 いったい どんな 事 を した んです 」・・ |かしこ|ふじん||ひなん||うける|||||こと|||

葉子 は さも 愛想 が 尽きた と いう ふうに 、・・ ようこ|||あいそ||つきた|||

「 あの 賢 夫人 ! |かしこ|ふじん 」・・

と いい ながら 高々 と 笑った 。 |||たかだか||わらった 二 人 の 感情 の 糸 は また も もつれて しまった 。 ふた|じん||かんじょう||いと||||| ・・

「 そんなに あの 奥さん に あなた の 御 信用 が ある の なら 、 わたし から 申して おく ほう が 早手回し です わ ね 」・・ ||おくさん||||ご|しんよう|||||||もうして||||はやてまわし||| "If that wife has that much trust in you, it would be quicker for me to tell her."

と 葉子 は 半分 皮肉な 半分 まじめな 態度 で 、 横浜 出航 以来 夫人 から 葉子 が 受けた 暗 々 裡 の 圧迫 に 尾鰭 を つけて 語って 来て 、 事務 長 と 自分 と の 間 に 何 か あたりまえで ない 関係 で も ある ような 疑い を 持って いる らしい と いう 事 を 、 他人事 でも 話す ように 冷静に 述べて 行った 。 |ようこ||はんぶん|ひにくな|はんぶん||たいど||よこはま|しゅっこう|いらい|ふじん||ようこ||うけた|あん||り||あっぱく||おひれ|||かたって|きて|じむ|ちょう||じぶん|||あいだ||なん||||かんけい|||||うたがい||もって|||||こと||ひとごと||はなす||れいせいに|のべて|おこなった その 言葉 の 裏 に は 、 しかし 葉子 に 特有な 火 の ような 情熱 が ひらめいて 、 その 目 は 鋭く 輝いたり 涙ぐんだり して いた 。 |ことば||うら||||ようこ||とくゆうな|ひ|||じょうねつ||||め||するどく|かがやいたり|なみだぐんだり|| 木村 は 電 火 に でも 打た れた ように 判断 力 を 失って 、 一部始終 を ぼんやり と 聞いて いた 。 きむら||いなずま|ひ|||うた|||はんだん|ちから||うしなって|いちぶしじゅう||||きいて| 言葉 だけ に も どこまでも 冷静な 調子 を 持た せ 続けて 葉子 は すべて を 語り 終わって から 、・・ ことば|||||れいせいな|ちょうし||もた||つづけて|ようこ||||かたり|おわって|

「 同じ 親切に も 真底 から の と 、 通り一ぺんの と 二 つ あります わ ね 。 おなじ|しんせつに||しんそこ||||とおりいっぺんの||ふた||あり ます|| "There are two types of kindness, one from the bottom of my heart and the other from the bottom of my heart. その 二 つ が どうかして ぶつかり合う と 、 いつでも ほんとうの 親切 の ほう が 悪者 扱い に さ れたり 、 邪魔者 に 見られる んだ から おもしろう ご ざん す わ 。 |ふた||||ぶつかりあう||||しんせつ||||わるもの|あつかい||||じゃまもの||み られる||||||| 横浜 を 出て から 三 日 ばかり 船 に 酔って しまって 、 どう しましょう と 思った 時 に も 、 御 親切な 奥さん は 、 わざと 御 遠慮 なさって でしょう ね 、 三 度 三 度 食堂 に は お 出 に なる のに 、 一 度 も わたし の ほう へ はいら しって くださら ない のに 、 事務 長ったら 幾 度 も お 医者 さん を 連れて 来る んです もの 、 奥さん の お 疑い も もっとも と いえば もっともです の 。 よこはま||でて||みっ|ひ||せん||よって|||し ましょう||おもった|じ|||ご|しんせつな|おくさん|||ご|えんりょ||||みっ|たび|みっ|たび|しょくどう||||だ||||ひと|たび|||||||||||じむ|ちょう ったら|いく|たび|||いしゃ|||つれて|くる|||おくさん|||うたがい|||||| About three days after leaving Yokohama, I got sick on the boat, and even when I was wondering what to do, my kind wife probably deliberately refrained from going out to the dining room three times. Even though you haven't come to me even once, the office manager has brought the doctor over and over again. . それ に わたし が 胃 病 で 寝込む ように なって から は 、 船 中 の お 客 様 が それ は 同情 して くださって 、 いろいろ と して くださる の が 、 奥さん に は 大 の お 気 に 入ら なかった んです の 。 ||||い|びょう||ねこむ|||||せん|なか|||きゃく|さま||||どうじょう|||||||||おくさん|||だい|||き||はいら||| Also, after I was bedridden with a stomach ailment, the passengers on the ship took pity on me and did all kinds of things for me. That's it. 奥さん だけ が わたし を 親切に して くださって 、 ほか の 方 は みんな 寄ってたかって 、 奥さん を 親切に して 上げて くださる 段取り に さえ なれば 、 何もかも 無事だった んです けれども ね 、 中でも 事務 長 の 親切に して 上げ かた が いちばん 足りなかった んでしょう よ 」・・ おくさん|||||しんせつに|||||かた|||よってたかって|おくさん||しんせつに||あげて||だんどり||||なにもかも|ぶじだった||||なかでも|じむ|ちょう||しんせつに||あげ||||たりなかった|| Only my wife would be kind to me, and everyone else wanted to come along, and if only I could make arrangements to be kind to my wife, everything would have been fine, especially the office manager. I guess I was lacking in the kindest way to raise him the most."

と 言葉 を 結んだ 。 |ことば||むすんだ 木村 は 口 び る を かむ ように 聞いて いた が 、 いまいまし げ に 、・・ きむら||くち||||||きいて|||||

「 わかりました わかりました 」・・ 合点 し ながら つぶやいた 。 わかり ました|わかり ました|がてん||| ・・

葉子 は 額 の 生えぎわ の 短い 毛 を 引っぱって は 指 に 巻いて 上 目 で ながめ ながら 、 皮肉な 微笑 を 口 び る の あたり に 浮かば して 、・・ ようこ||がく||はえぎわ||みじかい|け||ひっぱって||ゆび||まいて|うえ|め||||ひにくな|びしょう||くち||||||うかば|

「 お わかり に なった ? ふん 、 どう です か ね 」・・

と 空 うそぶいた 。 |から| ・・

木村 は 何 を 思った か ひどく 感傷 的な 態度 に なって いた 。 きむら||なん||おもった|||かんしょう|てきな|たいど||| ・・

「 わたし が 悪かった 。 ||わるかった わたし は どこまでも あなた を 信ずる つもりで いながら 、 他人 の 言葉 に 多少 と も 信用 を かけよう と して いた の が 悪かった のです 。 |||||しんずる|||たにん||ことば||たしょう|||しんよう||||||||わるかった| …… 考えて ください 、 わたし は 親類 や 友人 の すべて の 反対 を 犯して ここ まで 来て いる のです 。 かんがえて||||しんるい||ゆうじん||||はんたい||おかして|||きて|| Think about it, I have come here against all the objections of my relatives and friends. もう あなた なし に は わたし の 生涯 は 無意味です 。 |||||||しょうがい||むいみです わたし を 信じて ください 。 ||しんじて| きっと 十 年 を 期して 男 に なって 見せます から …… もし あなた の 愛 から わたし が 離れ なければ なら ん ような 事 が あったら …… わたし は そんな 事 を 思う に 堪え ない …… 葉子 さん 」・・ 木村 は こう いい ながら 目 を 輝かして すり寄って 来た 。 |じゅう|とし||きして|おとこ|||みせ ます|||||あい||||はなれ|||||こと||||||こと||おもう||こらえ||ようこ||きむら|||||め||かがやかして|すりよって|きた 葉子 は その 思いつめた らしい 態度 に 一種 の 恐怖 を 感ずる ほど だった 。 ようこ|||おもいつめた||たいど||いっしゅ||きょうふ||かんずる|| 男 の 誇り も 何も 忘れ 果て 、 捨て 果てて 、 葉子 の 前 に 誓い を 立てて いる 木村 を 、 うまう ま 偽って いる のだ と 思う と 、 葉子 は さすが に 針 で 突く ような 痛 み を 鋭く 深く 良心 の 一隅 に 感ぜ ず に は いられ なかった 。 おとこ||ほこり||なにも|わすれ|はて|すて|はてて|ようこ||ぜん||ちかい||たてて||きむら||||いつわって||||おもう||ようこ||||はり||つく||つう|||するどく|ふかく|りょうしん||いちぐう||かんぜ||||いら れ| Thinking that he was successfully deceiving Kimura, who had forgotten and abandoned his pride as a man and had sworn an oath in front of Yoko, Yoko felt a sharp, deep pain that felt like a needle. I couldn't help but feel it in the corner of my conscience. しかし それ より も その 瞬間 に 葉子 の 胸 を 押し ひし ぐ ように 狭めた もの は 、 底 の ない 物 すごい 不安だった 。 |||||しゅんかん||ようこ||むね||おし||||せばめた|||そこ|||ぶつ||ふあんだった 木村 と は どうしても 連れ添う 心 は ない 。 きむら||||つれそう|こころ|| I have no intention of marrying Kimura. その 木村 に …… 葉子 は おぼれた 人 が 岸 べ を 望む ように 事務 長 を 思い浮かべた 。 |きむら||ようこ|||じん||きし|||のぞむ||じむ|ちょう||おもいうかべた Seeing that Kimura, Yoko thought of the office manager, like a drowning person looking at the shore. 男 と いう もの の 女 に 与える 力 を 今さら に 強く 感じた 。 おとこ|||||おんな||あたえる|ちから||いまさら||つよく|かんじた I felt even more strongly now the power that a man has over a woman. ここ に 事務 長 が いて くれたら どんなに 自分 の 勇気 は 加わったろう 。 ||じむ|ちょう|||||じぶん||ゆうき||くわわったろう I wonder how my courage would have increased if the office manager was here. しかし …… どうにでも なれ 。 But... it doesn't matter. どうかして この 大事な 瀬戸 を 漕ぎ ぬけ なければ 浮かぶ 瀬 は ない 。 ||だいじな|せと||こぎ|||うかぶ|せ|| 葉子 は 大それた 謀 反 人 の 心 で 木村 の caress を 受 くべ き 身構え 心構え を 案じて いた 。 ようこ||だいそれた|はかりごと|はん|じん||こころ||きむら||||じゅ|||みがまえ|こころがまえ||あんじて| With a rebellious heart, Yoko wondered how she should prepare herself to receive Kimura's caress.