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或る女 - 有島武郎(アクセス), 1. 或る女

1. 或る女

新橋 を 渡る 時 、 発車 を 知らせる 二 番目 の 鈴 が 、 霧 と まで は いえ ない 九月 の 朝 の 、 煙った 空気 に 包まれて 聞こえて 来た 。 葉子 は 平気で それ を 聞いた が 、 車夫 は 宙 を 飛んだ 。 そして 車 が 、 鶴屋 と いう 町 の かどの 宿屋 を 曲がって 、 いつでも 人馬 の 群がる あの 共同 井戸 の あたり を 駆けぬける 時 、 停車場 の 入り口 の 大戸 を しめよう と する 駅夫 と 争い ながら 、 八 分 がた しまり かかった 戸 の 所 に 突っ立って こっち を 見まもって いる 青年 の 姿 を 見た 。 ・・

「 まあ おそく なって すみません でした 事 …… まだ 間に合います かしら 」・・ と 葉子 が いい ながら 階段 を のぼる と 、 青年 は 粗末な 麦稈 帽子 を ちょっと 脱いで 、 黙った まま 青い 切符 を 渡した 。 ・・

「 おや なぜ 一等 に なさら なかった の 。 そう し ない と いけない わけ が ある から かえて ください ましな 」・・

と いおう と した けれども 、 火 が つく ばかりに 駅 夫 が せき立てる ので 、 葉子 は 黙った まま 青年 と ならんで 小刻みな 足どり で 、 たった 一 つ だけ あいて いる 改札口 へ と 急いだ 。 改札 は この 二 人 の 乗客 を 苦々し げ に 見やり ながら 、 左手 を 延ばして 待って いた 。 二 人 が てんでん に 切符 を 出そう と する 時 、・・

「 若 奥様 、 これ を お 忘れ に なりました 」・・

と いい ながら 、 羽被 の 紺 の 香い の 高く する さっき の 車 夫 が 、 薄い 大柄な セル の 膝 掛け を 肩 に かけた まま あわてた ように 追いかけて 来て 、 オリーヴ 色 の 絹 ハンケチ に 包んだ 小さな 物 を 渡そう と した 。

「 早く 早く 、 早く し ない と 出っち まいます よ 」 改札 が たまらなく なって 癇癪 声 を ふり 立てた 。

青年 の 前 で 「 若 奥様 」 と 呼ば れた の と 、 改札 が がみがみ どなり立てた ので 、 針 の ように 鋭い 神経 は すぐ 彼女 を あまのじゃく に した 。 葉子 は 今 まで 急ぎ 気味であった 歩み を ぴったり 止めて しまって 、 落ち付いた 顔 で 、 車 夫 の ほう に 向きなおった 。

「 そう 御 苦労 よ 。 家 に 帰ったら ね 、 きょう は 帰り が おそく なる かも しれません から 、 お嬢さん たち だけ で 校友 会 に いらっしゃいって そう いって おくれ 。 それ から 横浜 の 近江 屋 ―― 西洋 小間物 屋 の 近江 屋 が 来たら 、 きょう こっち から 出かけた からって いう ようにって ね 」・・

車 夫 は きょ と きょ と と 改札 と 葉子 と を かたみ が わりに 見 やり ながら 、 自分 が 汽車 に でも 乗りおくれる ように あわてて いた 。 改札 の 顔 は だんだん 険しく なって 、 あわや 通路 を しめて しまおう と した 時 、 葉子 は するする と そのほう に 近よって 、・・

「 どうも すみません でした 事 」・・

と いって 切符 を さし出し ながら 、 改札 の 目 の 先 で 花 が 咲いた ように ほほえんで 見せた 。 改札 は ばかに なった ような 顔つき を し ながら 、 それ でも おめおめ と 切符 に 孔 を 入れた 。 ・・

プラット フォーム で は 、 駅員 も 見送り 人 も 、 立って いる 限り の 人々 は 二 人 の ほう に 目 を 向けて いた 。 それ を 全く 気づき も し ない ような 物腰 で 、 葉子 は 親し げ に 青年 と 肩 を 並べて 、 しずしず と 歩き ながら 、 車 夫 の 届けた 包み 物 の 中 に は 何 が ある か あてて みろ と か 、 横浜 の ように 自分 の 心 を ひく 町 は ない と か 、 切符 を 一緒に しまって おいて くれろ と か いって 、 音楽 者 の ように デリケートな その 指先 で 、 わざとらしく 幾 度 か 青年 の 手 に 触れる 機会 を 求めた 。 列車 の 中 から は ある 限り の 顔 が 二 人 を 見 迎え 見送る ので 、 青年 が 物 慣れ ない 処女 の ように はにかんで 、 しかも 自分 ながら 自分 を 怒って いる の が 葉子 に は おもしろく ながめ やられた 。

いちばん 近い 二 等 車 の 昇降口 の 所 に 立って いた 車掌 は 右 の 手 を ポッケット に 突っ込んで 、 靴 の 爪先 で 待ちどおし そうに 敷き 石 を たたいて いた が 、 葉子 が デッキ に 足 を 踏み入れる と 、 いきなり 耳 を つんざく ばかりに 呼び子 を 鳴らした 。 そして 青年 ( 青年 は 名 を 古藤 と いった ) が 葉子 に 続いて 飛び乗った 時 に は 、 機関 車 の 応 笛 が 前方 で 朝 の 町 の にぎやかな さ ざ め き を 破って 響き渡った 。

葉子 は 四角な ガラス を はめた 入り口 の 繰り 戸 を 古藤 が 勢い よく あける の を 待って 、 中 に はいろう と して 、 八 分 通り つまった 両側 の 乗客 に 稲妻 の ように 鋭く 目 を 走ら した が 、 左側 の 中央 近く 新聞 を 見入った 、 やせた 中年 の 男 に 視線 が とまる と 、 はっと 立ちすくむ ほど 驚いた 。 しかし その 驚き は またたく 暇 も ない うち に 、 顔 から も 足 から も 消えうせて 、 葉子 は 悪びれ も せ ず 、 取り すまし も せ ず 、 自信 ある 女優 が 喜劇 の 舞台 に でも 現われる ように 、 軽い 微笑 を 右 の 頬 だけ に 浮かべ ながら 、 古藤 に 続いて 入り口 に 近い 右側 の 空席 に 腰 を おろす と 、 あでやかに 青年 を 見返り ながら 、 小指 を なんとも いえ ない よい 形 に 折り曲げた 左手 で 、 鬢 の 後れ 毛 を かき なでる ついで に 、 地味に 装って 来た 黒 の リボン に さわって みた 。 青年 の 前 に 座 を 取って いた 四十三四 の 脂ぎった 商 人体 の 男 は 、 あたふた と 立ち上がって 自分 の 後ろ の シェード を おろして 、 おり ふし 横 ざし に 葉子 に 照りつける 朝 の 光線 を さえぎった 。

紺 の 飛 白 に 書生 下駄 を つっかけた 青年 に 対して 、 素性 が 知れ ぬ ほど 顔 に も 姿 に も 複雑な 表情 を たたえた この 女性 の 対照 は 、 幼い 少女 の 注意 を すら ひか ず に は おか なかった 。 乗客 一同 の 視線 は 綾 を なして 二 人 の 上 に 乱れ飛んだ 。 葉子 は 自分 が 青年 の 不思議な 対照 に なって いる と いう 感じ を 快く 迎えて でも いる ように 、 青年 に 対して ことさら 親し げ な 態度 を 見せた 。

品川 を 過ぎて 短い トンネル を 汽車 が 出よう と する 時 、 葉子 は きびしく 自分 を 見すえる 目 を 眉 の あたり に 感じて おもむろに その ほう を 見かえった 。 それ は 葉子 が 思った とおり 、 新聞 に 見入って いる か の やせた 男 だった 。 男 の 名 は 木部 孤 と いった 。 葉子 が 車 内 に 足 を 踏み入れた 時 、 だれ より も 先 に 葉子 に 目 を つけた の は この 男 であった が 、 だれ より も 先 に 目 を そらした の も この 男 で 、 すぐ 新聞 を 目 八 分 に さし上げて 、 それ に 読み 入って 素知らぬ ふり を した のに 葉子 は 気 が ついて いた 。 そして 葉子 に 対する 乗客 の 好奇心 が 衰え 始めた ころ に なって 、 彼 は 本気に 葉子 を 見つめ 始めた のだ 。 葉子 は あらかじめ この 刹那 に 対する 態度 を 決めて いた から あわて も 騒ぎ も し なかった 。 目 を 鈴 の ように 大きく 張って 、 親しい 媚 び の 色 を 浮かべ ながら 、 黙った まま で 軽く うなずこう と 、 少し 肩 と 顔 と を そっち に ひねって 、 心持ち 上向き かげん に なった 時 、 稲妻 の ように 彼女 の 心 に 響いた の は 、 男 が その 好意 に 応じて ほほえみ かわす 様子 の ない と いう 事 だった 。 実際 男 の 一 文字 眉 は 深く ひそんで 、 その 両眼 は ひときわ 鋭 さ を 増して 見えた 。 それ を 見て取る と 葉子 の 心 の 中 は かっと なった が 、 笑み かまけた ひとみ は そのまま で 、 するする と 男 の 顔 を 通り越して 、 左側 の 古藤 の 血気 の いい 頬 の あたり に 落ちた 。 古藤 は 繰り 戸 の ガラス 越し に 、 切り 割り の 崕 を ながめて つく ねん と して いた 。

「 また 何 か 考えて いらっしゃる の ね 」・・

葉子 は やせた 木部 に これ見よがし と いう 物腰 で はなやかに いった 。

古藤 は あまり はずんだ 葉子 の 声 に ひか されて 、 まんじ り と その 顔 を 見守った 。 その 青年 の 単純な 明 ら さま な 心 に 、 自分 の 笑顔 の 奥 の 苦い 渋い 色 が 見抜か れ は し ない か と 、 葉子 は 思わず たじろいだ ほど だった 。

「 なんにも 考えて いやし ない が 、 陰に なった 崕 の 色 が 、 あまり きれいだ もん で …… 紫 に 見える でしょう 。 もう 秋 が かって 来た んです よ 。」

青年 は 何も 思って い は し なかった のだ 。

「 ほんとうに ね 」・・

葉子 は 単純に 応じて 、 もう 一 度 ちらっと 木部 を 見た 。 やせた 木部 の 目 は 前 と 同じに 鋭く 輝いて いた 。 葉子 は 正面 に 向き直る と ともに 、 その 男 の ひとみ の 下 で 、 悒鬱 な 険しい 色 を 引きしめた 口 の あたり に みなぎら した 。 木部 は それ を 見て 自分 の 態度 を 後悔 す べき はずである 。


1. 或る女 ある おんな 1. امرأة معينة 1. eine Frau 1. a woman 1. una mujer 1. une femme 1\. Uma certa mulher 1. женщина 1.某个女人

新橋 を 渡る 時 、 発車 を 知らせる 二 番目 の 鈴 が 、 霧 と まで は いえ ない 九月 の 朝 の 、 煙った 空気 に 包まれて 聞こえて 来た 。 しん きょう||わたる|じ|はっしゃ||しらせる|ふた|ばん め||すず||きり||||||ここの がつ||あさ||けむった|くうき||つつま れて|きこえて|きた As I crossed the new bridge, I heard the second bell, which signaled the departure, was wrapped in smoked air on the morning of September, which was not a fog. Al cruzar el puente nuevo, la segunda campana, que señalaba la salida del tren, se oía en el aire ahumado de la no tan nublada mañana de septiembre. Ao atravessar Shinbashi, ouvi o segundo sino sinalizando a partida do trem, envolto no ar enfumaçado de uma manhã de setembro que dificilmente poderia ser chamada de neblina. Когда мы пересекли новый мост, в дымном воздухе не слишком туманного сентябрьского утра послышался второй звонок, сигнализирующий об отправлении поезда. 当我们穿过新桥时,在烟雾缭绕的九月清晨,我们听到了第二声钟声,这标志着火车的出发。 葉子 は 平気で それ を 聞いた が 、 車夫 は 宙 を 飛んだ 。 ようこ||へいきで|||きいた||くるま おっと||ちゅう||とんだ Yoko heard it without hesitation, but the car husband flew in the air. Йоко услышала его, не раздумывая, но Курумаю пролетел по воздуху. 阳子听到后毫不犹豫地站了起来,但仓央嘉措却在空中飞了起来。 そして 車 が 、 鶴屋 と いう 町 の かどの 宿屋 を 曲がって 、 いつでも 人馬 の 群がる あの 共同 井戸 の あたり を 駆けぬける 時 、 停車場 の 入り口 の 大戸 を しめよう と する 駅夫 と 争い ながら 、 八 分 がた しまり かかった 戸 の 所 に 突っ立って こっち を 見まもって いる 青年 の 姿 を 見た 。 |くるま||つるや|||まち|||やどや||まがって||じん うま||むらがる||きょうどう|いど||||かけぬける|じ|ていしゃば||いりぐち||おおと|||||えき おっと||あらそい||やっ|ぶん||||と||しょ||つったって|||みまもって||せいねん||すがた||みた As the car turned a corner at an inn in the town of Tsuruya and sped past the communal well, which was always crowded with people and horses, I saw a young man standing guard over the eighteen-foot-high door, fighting with the station master who was trying to close the large door at the entrance to the depot. 当汽车绕过鹤屋镇的客栈,驶过那口总是挤满了人和马的公用水井时,我看到一个年轻人站在十八英尺高的门前守卫着,他正在和站长争吵,站长正试图关上车库入口处的大门。 ・・ ・ ・

「 まあ おそく なって すみません でした 事 …… まだ 間に合います かしら 」・・ |||||こと||まにあい ます| "Well, I'm sorry I'm late ... I wonder if it's still in time." と 葉子 が いい ながら 階段 を のぼる と 、 青年 は 粗末な 麦稈 帽子 を ちょっと 脱いで 、 黙った まま 青い 切符 を 渡した 。 |ようこ||||かいだん||||せいねん||そまつな|むぎ かん|ぼうし|||ぬいで|だまった||あおい|きっぷ||わたした As Yoko climbed the stairs, the young man took off his poor barley culm and handed him a blue ticket in silence. ・・

「 おや なぜ 一等 に なさら なかった の 。 ||ひと とう|||| "Oh, why didn't you give it the first prize? 'О, а почему ты не занял первое место? そう し ない と いけない わけ が ある から かえて ください ましな 」・・ There is a reason why you have to do that, so please change it. "

と いおう と した けれども 、 火 が つく ばかりに 駅 夫 が せき立てる ので 、 葉子 は 黙った まま 青年 と ならんで 小刻みな 足どり で 、 たった 一 つ だけ あいて いる 改札口 へ と 急いだ 。 |||||ひ||||えき|おっと||せきたてる||ようこ||だまった||せいねん|||こきざみな|あしどり|||ひと|||||かいさつぐち|||いそいだ However, as the station husband urged him to catch fire, Yoko kept silent and hurried to the ticket gate, where only one was open, along with the young man. 改札 は この 二 人 の 乗客 を 苦々し げ に 見やり ながら 、 左手 を 延ばして 待って いた 。 かいさつ|||ふた|じん||じょうきゃく||にがにがし|||み やり||ひだりて||のばして|まって| The ticket gate was waiting with his left hand extended, looking at these two passengers bitterly. 二 人 が てんでん に 切符 を 出そう と する 時 、・・ ふた|じん||てんで ん||きっぷ||だそう|||じ When two people try to issue a ticket ... Когда они собирались отдать свои билеты Тендену...

「 若 奥様 、 これ を お 忘れ に なりました 」・・ わか|おくさま||||わすれ||なり ました "Young lady, you forgot this," the attendant said, handing her something. "Миледи, вы забыли об этом". ...

と いい ながら 、 羽被 の 紺 の 香い の 高く する さっき の 車 夫 が 、 薄い 大柄な セル の 膝 掛け を 肩 に かけた まま あわてた ように 追いかけて 来て 、 オリーヴ 色 の 絹 ハンケチ に 包んだ 小さな 物 を 渡そう と した 。 |||はね ひ||こん||かお い||たかく||||くるま|おっと||うすい|おおがらな|||ひざ|かけ||かた||||||おいかけて|きて||いろ||きぬ|||つつんだ|ちいさな|ぶつ||わたそう|| As she said that, the coachman from earlier, who had raised the dark blue scent of the feather coat, hurriedly chased after her with a thin, tall celluloid knee blanket still draped over his shoulder. He tried to hand her a small item wrapped in an olive-colored silk handkerchief.

「 早く 早く 、 早く し ない と 出っち まいます よ 」 改札 が たまらなく なって 癇癪 声 を ふり 立てた 。 はやく|はやく|はやく||||で っち|まい ます||かいさつ||||かんしゃく|こえ|||たてた "Quickly, quickly! If you don't hurry, you'll miss it!" The ticket gate attendant became increasingly impatient and raised his voice in frustration.

青年 の 前 で 「 若 奥様 」 と 呼ば れた の と 、 改札 が がみがみ どなり立てた ので 、 針 の ように 鋭い 神経 は すぐ 彼女 を あまのじゃく に した 。 せいねん||ぜん||わか|おくさま||よば||||かいさつ|||どなりたてた||はり|||するどい|しんけい|||かのじょ|||| When the young man was called "young lady" in front of him and the ticket gate attendant started scolding, his sharp nerves immediately turned antagonistic towards her. 葉子 は 今 まで 急ぎ 気味であった 歩み を ぴったり 止めて しまって 、 落ち付いた 顔 で 、 車 夫 の ほう に 向きなおった 。 ようこ||いま||いそぎ|ぎみであった|あゆみ|||とどめて||おちついた|かお||くるま|おっと||||むきなおった Yoko abruptly halted her hurried steps, composed her face, and turned towards the coachman.

「 そう 御 苦労 よ 。 |ご|くろう| "You've been through a lot. Thank you," Yoko replied to the coachman. 家 に 帰ったら ね 、 きょう は 帰り が おそく なる かも しれません から 、 お嬢さん たち だけ で 校友 会 に いらっしゃいって そう いって おくれ 。 いえ||かえったら||||かえり|||||しれ ませ ん||おじょうさん||||こうゆう|かい||いらっしゃい って||| "When you get home, please tell the young ladies that they can go to the alumni gathering without me if I come back late today," Yoko said. それ から 横浜 の 近江 屋 ―― 西洋 小間物 屋 の 近江 屋 が 来たら 、 きょう こっち から 出かけた からって いう ようにって ね 」・・ ||よこはま||おうみ|や|せいよう|こまもの|や||おうみ|や||きたら||||でかけた|から って||ように って| "And when Omiya, the Western accessories store in Yokohama, comes, please let them know that I went out from here today," Yoko said.

車 夫 は きょ と きょ と と 改札 と 葉子 と を かたみ が わりに 見 やり ながら 、 自分 が 汽車 に でも 乗りおくれる ように あわてて いた 。 くるま|おっと|||||||かいさつ||ようこ||||||み|||じぶん||きしゃ|||のりおくれる||| The coachman, with a nervous and anxious expression, alternated his gaze between the ticket gate and Yoko, hurrying as if he might miss his own train. 改札 の 顔 は だんだん 険しく なって 、 あわや 通路 を しめて しまおう と した 時 、 葉子 は するする と そのほう に 近よって 、・・ かいさつ||かお|||けわしく|||つうろ||||||じ|ようこ||||その ほう||ちかよって As the ticket gate attendant's expression grew increasingly stern, to the point where he was about to close off the passage, Yoko smoothly approached him and...

「 どうも すみません でした 事 」・・ |||こと "I'm sorry." ..."I'm sorry for the trouble," Yoko said.

と いって 切符 を さし出し ながら 、 改札 の 目 の 先 で 花 が 咲いた ように ほほえんで 見せた 。 ||きっぷ||さしだし||かいさつ||め||さき||か||さいた|||みせた While saying so, Yoko handed over the ticket and smiled as if a flower had bloomed at the end of the ticket gate attendant's gaze. 改札 は ばかに なった ような 顔つき を し ながら 、 それ でも おめおめ と 切符 に 孔 を 入れた 。 かいさつ|||||かおつき||||||||きっぷ||あな||いれた While wearing a face that seemed to be mocking, the ticket gate attendant still made a hole in the ticket without hesitation. ・・

プラット フォーム で は 、 駅員 も 見送り 人 も 、 立って いる 限り の 人々 は 二 人 の ほう に 目 を 向けて いた 。 ぷらっと|ふぉーむ|||えきいん||みおくり|じん||たって||かぎり||ひとびと||ふた|じん||||め||むけて| On the platform, both station staff and onlookers had their eyes fixed on the two of them as long as they stood there. それ を 全く 気づき も し ない ような 物腰 で 、 葉子 は 親し げ に 青年 と 肩 を 並べて 、 しずしず と 歩き ながら 、 車 夫 の 届けた 包み 物 の 中 に は 何 が ある か あてて みろ と か 、 横浜 の ように 自分 の 心 を ひく 町 は ない と か 、 切符 を 一緒に しまって おいて くれろ と か いって 、 音楽 者 の ように デリケートな その 指先 で 、 わざとらしく 幾 度 か 青年 の 手 に 触れる 機会 を 求めた 。 ||まったく|きづき|||||ものごし||ようこ||したし|||せいねん||かた||ならべて|||あるき||くるま|おっと||とどけた|つつみ|ぶつ||なか|||なん||||||||よこはま|||じぶん||こころ|||まち|||||きっぷ||いっしょに|||||||おんがく|もの|||でりけーとな||ゆびさき|||いく|たび||せいねん||て||ふれる|きかい||もとめた Yoko, with an air of complete unawareness, walked shoulder to shoulder with the young man. As they strolled along, she casually mentioned what might be inside the package delivered by the coachman, how no other city could captivate her heart like Yokohama, and even requested him to keep the ticket with her. She deliberately sought opportunities to touch the young man's hand with her delicate fingertips, mimicking the gestures of a musician. 列車 の 中 から は ある 限り の 顔 が 二 人 を 見 迎え 見送る ので 、 青年 が 物 慣れ ない 処女 の ように はにかんで 、 しかも 自分 ながら 自分 を 怒って いる の が 葉子 に は おもしろく ながめ やられた 。 れっしゃ||なか||||かぎり||かお||ふた|じん||み|むかえ|みおくる||せいねん||ぶつ|なれ||しょじょ|||||じぶん||じぶん||いかって||||ようこ||||| As they boarded the train, Yoko and Furuto were greeted and bid farewell by various faces from within. Yoko found it amusing to see Furuto, who appeared inexperienced and shy, blushing like a bashful virgin, and yet she could sense his inner frustration.

いちばん 近い 二 等 車 の 昇降口 の 所 に 立って いた 車掌 は 右 の 手 を ポッケット に 突っ込んで 、 靴 の 爪先 で 待ちどおし そうに 敷き 石 を たたいて いた が 、 葉子 が デッキ に 足 を 踏み入れる と 、 いきなり 耳 を つんざく ばかりに 呼び子 を 鳴らした 。 |ちかい|ふた|とう|くるま||しょうこうぐち||しょ||たって||しゃしょう||みぎ||て||||つっこんで|くつ||つまさき||まちどおし|そう に|しき|いし|||||ようこ||でっき||あし||ふみいれる|||みみ||||よびこ||ならした The conductor, who stood at the doorway of the nearest second-class car, thrust his right hand into the pocket, waited with the toes of his shoes, and struck a stone, but Yoko put his foot on the deck. When I stepped in, I suddenly rang the caller, just deafening my ears. そして 青年 ( 青年 は 名 を 古藤 と いった ) が 葉子 に 続いて 飛び乗った 時 に は 、 機関 車 の 応 笛 が 前方 で 朝 の 町 の にぎやかな さ ざ め き を 破って 響き渡った 。 |せいねん|せいねん||な||ことう||||ようこ||つづいて|とびのった|じ|||きかん|くるま||おう|ふえ||ぜんぽう||あさ||まち||||||||やぶって|ひびきわたった As the young man, whose name was Furuto, followed Yoko and boarded the train, the locomotive's whistle shattered the lively sounds of the morning town ahead, echoing through the air.

葉子 は 四角な ガラス を はめた 入り口 の 繰り 戸 を 古藤 が 勢い よく あける の を 待って 、 中 に はいろう と して 、 八 分 通り つまった 両側 の 乗客 に 稲妻 の ように 鋭く 目 を 走ら した が 、 左側 の 中央 近く 新聞 を 見入った 、 やせた 中年 の 男 に 視線 が とまる と 、 はっと 立ちすくむ ほど 驚いた 。 ようこ||しかくな|がらす|||いりぐち||くり|と||ことう||いきおい|||||まって|なか|||||やっ|ぶん|とおり||りょうがわ||じょうきゃく||いなずま|||するどく|め||はしら|||ひだりがわ||ちゅうおう|ちかく|しんぶん||みいった||ちゅうねん||おとこ||しせん|||||たちすくむ||おどろいた Yoko stood waiting for Furuto to forcefully open the square glass door at the entrance. As she prepared to step inside, her sharp eyes darted across the crowded passengers on both sides. However, her gaze abruptly froze as it landed on a thin middle-aged man in the center, engrossed in his newspaper. She was taken aback, momentarily stunned by the unexpected sight. しかし その 驚き は またたく 暇 も ない うち に 、 顔 から も 足 から も 消えうせて 、 葉子 は 悪びれ も せ ず 、 取り すまし も せ ず 、 自信 ある 女優 が 喜劇 の 舞台 に でも 現われる ように 、 軽い 微笑 を 右 の 頬 だけ に 浮かべ ながら 、 古藤 に 続いて 入り口 に 近い 右側 の 空席 に 腰 を おろす と 、 あでやかに 青年 を 見返り ながら 、 小指 を なんとも いえ ない よい 形 に 折り曲げた 左手 で 、 鬢 の 後れ 毛 を かき なでる ついで に 、 地味に 装って 来た 黒 の リボン に さわって みた 。 ||おどろき|||いとま|||||かお|||あし|||きえうせて|ようこ||わるびれ||||とり|||||じしん||じょゆう||きげき||ぶたい|||あらわれる||かるい|びしょう||みぎ||ほお|||うかべ||ことう||つづいて|いりぐち||ちかい|みぎがわ||くうせき||こし|||||せいねん||みかえり||こゆび||||||かた||おりまげた|ひだりて||びん||おくれ|け||||||じみに|よそおって|きた|くろ||りぼん||| However, that surprise quickly vanished from her face and body. Without showing any signs of embarrassment or attempting to make amends, Yoko, like a confident actress appearing on a comedy stage, lightly smiled, with the smile confined to her right cheek. She followed Mr. Furuto and gracefully took a seat in the empty seat near the entrance, all while glancing back at the young man. With her left hand, she delicately bent her little finger into an indescribably pleasing shape, casually running it through the stray hair on her temple and lightly touching the black ribbon she had modestly adorned. 青年 の 前 に 座 を 取って いた 四十三四 の 脂ぎった 商 人体 の 男 は 、 あたふた と 立ち上がって 自分 の 後ろ の シェード を おろして 、 おり ふし 横 ざし に 葉子 に 照りつける 朝 の 光線 を さえぎった 。 せいねん||ぜん||ざ||とって||しじゅうさんし||あぶらぎった|しょう|じんたい||おとこ||||たちあがって|じぶん||うしろ|||||||よこ|||ようこ||てりつける|あさ||こうせん|| The middle-aged man with a corpulent body who had been sitting in front of the young man stood up in a fluster, pulling down the shade behind him to block the morning sunlight that was shining directly at Yoko.

紺 の 飛 白 に 書生 下駄 を つっかけた 青年 に 対して 、 素性 が 知れ ぬ ほど 顔 に も 姿 に も 複雑な 表情 を たたえた この 女性 の 対照 は 、 幼い 少女 の 注意 を すら ひか ず に は おか なかった 。 こん||と|しろ||しょせい|げた|||せいねん||たいして|すじょう||しれ|||かお|||すがた|||ふくざつな|ひょうじょう||||じょせい||たいしょう||おさない|しょうじょ||ちゅうい|||||||| The contrast between this woman, who wore a navy-blue hakama with a white undergarment and wooden sandals, and the enigmatic young man was evident in both her facial expression and her demeanor. She exuded a complex aura that captivated the attention, not even sparing the notice of a young girl. 乗客 一同 の 視線 は 綾 を なして 二 人 の 上 に 乱れ飛んだ 。 じょうきゃく|いちどう||しせん||あや|||ふた|じん||うえ||みだれとんだ The gazes of all the passengers were fixed upon the two of them with great curiosity and interest. 葉子 は 自分 が 青年 の 不思議な 対照 に なって いる と いう 感じ を 快く 迎えて でも いる ように 、 青年 に 対して ことさら 親し げ な 態度 を 見せた 。 ようこ||じぶん||せいねん||ふしぎな|たいしょう||||||かんじ||こころよく|むかえて||||せいねん||たいして||したし|||たいど||みせた Yoko welcomed the sense of being an intriguing contrast to the young man and displayed a particularly friendly attitude towards him.

品川 を 過ぎて 短い トンネル を 汽車 が 出よう と する 時 、 葉子 は きびしく 自分 を 見すえる 目 を 眉 の あたり に 感じて おもむろに その ほう を 見かえった 。 しなかわ||すぎて|みじかい|とんねる||きしゃ||でよう|||じ|ようこ|||じぶん||みすえる|め||まゆ||||かんじて|||||みかえった As the train passed Shinagawa and was about to exit a short tunnel, Yoko felt a piercing gaze directed at her from the vicinity of her eyebrows. She slowly turned her head in that direction. それ は 葉子 が 思った とおり 、 新聞 に 見入って いる か の やせた 男 だった 。 ||ようこ||おもった||しんぶん||みいって|||||おとこ| As Yoko had suspected, the thin man engrossed in the newspaper was indeed the same man she had noticed before. 男 の 名 は 木部 孤 と いった 。 おとこ||な||きべ|こ|| The man's name was Kibe Isamu. 葉子 が 車 内 に 足 を 踏み入れた 時 、 だれ より も 先 に 葉子 に 目 を つけた の は この 男 であった が 、 だれ より も 先 に 目 を そらした の も この 男 で 、 すぐ 新聞 を 目 八 分 に さし上げて 、 それ に 読み 入って 素知らぬ ふり を した のに 葉子 は 気 が ついて いた 。 ようこ||くるま|うち||あし||ふみいれた|じ||||さき||ようこ||め||||||おとこ||||||さき||め||||||おとこ|||しんぶん||め|やっ|ぶん||さしあげて|||よみ|はいって|そしらぬ|||||ようこ||き||| When Yoko stepped into the train, it was this man who noticed her before anyone else did. However, he was also the first to avert his gaze, pretending to be engrossed in his newspaper. Despite his feigned indifference, Yoko could sense that he was aware of her presence. そして 葉子 に 対する 乗客 の 好奇心 が 衰え 始めた ころ に なって 、 彼 は 本気に 葉子 を 見つめ 始めた のだ 。 |ようこ||たいする|じょうきゃく||こうきしん||おとろえ|はじめた||||かれ||ほんきに|ようこ||みつめ|はじめた| And just as the curiosity of the passengers towards Yoko began to fade, he earnestly started gazing at her. 葉子 は あらかじめ この 刹那 に 対する 態度 を 決めて いた から あわて も 騒ぎ も し なかった 。 ようこ||||せつな||たいする|たいど||きめて|||||さわぎ||| Yoko had already decided on her attitude towards this moment, so she remained calm and composed, without any signs of panic or commotion. 目 を 鈴 の ように 大きく 張って 、 親しい 媚 び の 色 を 浮かべ ながら 、 黙った まま で 軽く うなずこう と 、 少し 肩 と 顔 と を そっち に ひねって 、 心持ち 上向き かげん に なった 時 、 稲妻 の ように 彼女 の 心 に 響いた の は 、 男 が その 好意 に 応じて ほほえみ かわす 様子 の ない と いう 事 だった 。 め||すず|||おおきく|はって|したしい|び|||いろ||うかべ||だまった|||かるく|||すこし|かた||かお||||||こころもち|うわむき||||じ|いなずま|||かのじょ||こころ||ひびいた|||おとこ|||こうい||おうじて|||ようす|||||こと| With her eyes wide open like bells, Yoko wore a familiar and alluring expression on her face. While remaining silent, she lightly nodded and slightly turned her shoulder and face in that direction, creating a slightly uplifted demeanor. At that moment, like a flash of lightning, what resonated in her heart was the fact that the man did not respond with a smile or any sign of reciprocating her kindness. 実際 男 の 一 文字 眉 は 深く ひそんで 、 その 両眼 は ひときわ 鋭 さ を 増して 見えた 。 じっさい|おとこ||ひと|もじ|まゆ||ふかく|||りょうがん|||するど|||まして|みえた In reality, the man's brows were deeply furrowed, and his eyes appeared particularly sharp and intense. それ を 見て取る と 葉子 の 心 の 中 は かっと なった が 、 笑み かまけた ひとみ は そのまま で 、 するする と 男 の 顔 を 通り越して 、 左側 の 古藤 の 血気 の いい 頬 の あたり に 落ちた 。 ||みてとる||ようこ||こころ||なか||か っと|||えみ||||||||おとこ||かお||とおりこして|ひだりがわ||ことう||けっき|||ほお||||おちた Upon perceiving that, Yoko's heart instantly raced, yet her smiling eyes remained unchanged. She smoothly passed over the man's face and landed near the lively cheek of Mr. Furuto on the left side. 古藤 は 繰り 戸 の ガラス 越し に 、 切り 割り の 崕 を ながめて つく ねん と して いた 。 ことう||くり|と||がらす|こし||きり|わり||がい||||||| Mr. Kibe, gazing at the gap between the sliding doors through the glass, appeared to be lost in thought while observing the fragmented view. Фурудо смотрел на автобусные туры через стекло откидной двери, пытаясь разглядеть тестер шины, когда гладил ее.

「 また 何 か 考えて いらっしゃる の ね 」・・ |なん||かんがえて||| "You are thinking about something again."

葉子 は やせた 木部 に これ見よがし と いう 物腰 で はなやかに いった 。 ようこ|||きべ||これみよがし|||ものごし||| Yoko cheerfully addressed the thin Mr. Kibe with an ostentatious demeanor.

古藤 は あまり はずんだ 葉子 の 声 に ひか されて 、 まんじ り と その 顔 を 見守った 。 ことう||||ようこ||こえ|||さ れて|||||かお||みまもった Mr. Furuto, not being particularly surprised by Yoko's voice, calmly observed her face, his eyes fixed on her. その 青年 の 単純な 明 ら さま な 心 に 、 自分 の 笑顔 の 奥 の 苦い 渋い 色 が 見抜か れ は し ない か と 、 葉子 は 思わず たじろいだ ほど だった 。 |せいねん||たんじゅんな|あき||||こころ||じぶん||えがお||おく||にがい|しぶい|いろ||みぬか|||||||ようこ||おもわず||| Yoko couldn't help but flinch, fearing that the young man might perceive the bitter and profound emotions hidden beneath her smiling face, with his simple and transparent heart.

「 なんにも 考えて いやし ない が 、 陰に なった 崕 の 色 が 、 あまり きれいだ もん で …… 紫 に 見える でしょう 。 |かんがえて||||いんに||がい||いろ||||||むらさき||みえる| "I'm not thinking about anything, but the color of the shadowed cliff looks so beautiful... It appears purple, doesn't it?" もう 秋 が かって 来た んです よ 。」 |あき|||きた|| "Autumn has already arrived."

青年 は 何も 思って い は し なかった のだ 。 せいねん||なにも|おもって||||| The young man didn't think anything at all.

「 ほんとうに ね 」・・ "Indeed, yes," she replied.

葉子 は 単純に 応じて 、 もう 一 度 ちらっと 木部 を 見た 。 ようこ||たんじゅんに|おうじて||ひと|たび||きべ||みた Yoko simply responded and glanced at Mr. Kibe once again. やせた 木部 の 目 は 前 と 同じに 鋭く 輝いて いた 。 |きべ||め||ぜん||どうじに|するどく|かがやいて| The thin Mr. Kibe's eyes shone sharply, just as they did before. 葉子 は 正面 に 向き直る と ともに 、 その 男 の ひとみ の 下 で 、 悒鬱 な 険しい 色 を 引きしめた 口 の あたり に みなぎら した 。 ようこ||しょうめん||むきなおる||||おとこ||||した||ゆううつ||けわしい|いろ||ひきしめた|くち||||| As Yoko turned to face him, a surge of gloomy and intense emotions filled the area around her mouth, under the gaze of the man's eyes. 木部 は それ を 見て 自分 の 態度 を 後悔 す べき はずである 。 きべ||||みて|じぶん||たいど||こうかい||| Kibe should have regretted his attitude when he saw it.