36. 一 年生 たち と ひよ め - 新美 南 吉
一 年生 たち と ひよ め - 新美 南 吉
学校 へ いく とちゅう に 、 大きな 池 いけ が ありました 。 一 年生 たち が 、 朝 そこ を 通りかかりました 。 池 の 中 に は ひよ め が 五六っぱ 、 黒く うかんで おりました 。 それ を みる と 一 年生 たち は 、 いつも の ように 声 を そろえて 、
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ひ イ よめ 、
ひよ め 、
だんご や ア る に
く ウ ぐ ウ れ ッ 、
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と うたいました 。 する と ひよ め は 頭から ぷく り と 水 の なか に もぐりました 。 だんご が もらえる の を よろこんで いる ように みえました 。 けれど 一 年生 たち は 、 ひよ め に だんご を やりません でした 。 学校 へ ゆく の に だんご など もって いる 子 は ありません 。 一 年生 たち は 、 それ から 学校 に きました 。 学校 で は 先生 が 教えました 。 「 みなさん 、 うそ を ついて は なりません 。 うそ を つく の はたいへん わるい こと です 。 むかし の 人 は 、 うそ を つく と 死んで から 赤 鬼 あか おに に 、 舌 した べろ を 釘 くぎ ぬきで ひっこぬか れる と いった もの です 。 うそ を ついて は なりません 。 さあ 、 わかった 人 は 手 を あげて 。」
みんな が 手 を あげました 。 みんな よく わかった から であります 。 さて 学校 が おわる と 、 一 年生 たち は また 池 の ふち を 通りかかった ので ありました 。 ひよ め は やはり おりました 。 一 年生 たち の かえり を 待って いた か の ように 、 水 の 上 から こちら を みて いました 。 --
ひ イ よめ 、
ひよ め 、
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と 一 年生 たち は 、 いつも の くせ で うたい はじめました 。 しかし 、 その あと を つづけて うたう もの は ありません でした 。 「 だんご やる に 、 くぐれ 」 と うたったら 、 それ は うそ を いった こと に なります 。 うそ を いって は なら ない 、 と 今日 きょう 学校 で おそわった ばかり では ありません か 。 さて 、 どうした もの でしょう 。
このまま いって しまう の も ざんねんです 。 そ したら ひよ め の ほう でも 、 さみしい と 思う に ちがい ありません 。 そこ で みんな は 、 こう 歌いました 。 --
ひ イ よめ 、
ひよ め 、
だんご 、 やら ない けれど 、
く ウ ぐ ウ れ ッ
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する と ひよ め は 、 やはり いせい よく 、 くるり と 水 を くぐった のであります 。 これ で 、 わかりました 。 ひよ め は いま まで 、 だんご が ほしい から 、 くぐった の では ありません 。 一 年生 たち に よびかけられる の が うれしい から くぐった のであります 。