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影踏み (Shadowfall by Hideo Yokoyama), 影踏み:消息:3

影踏み :消息 :3

3 真壁 は 雁 谷本 町 駅 から 県 央 電鉄 に 乗り 、二 つ 目 の 鮒戸 で 降りた 。

やたら 横 文字 の 看板 が ひしめく 駅前 通り を 挟んで 、市営 の 高層 住宅 が 気味 の 悪い ほど 整然と 並んでいる 。 その 夥しい 数 の 窓 の どれ か を 目指す 、夥しい 数 の 背広 や コート の 流れ に 乗って 真壁 は せっかちに 歩 を 進めた 。

《 修 兄 ィ 、 今度 は どこ ? 〈 黛 と 会う 〉

《 黛って …… あの 宵 空き の ? じゃあ 、稲村 の 一件 の 続き って こと ? 》〈 そう だ 〉 宵 に 紛れて 空き巣 を 働く 職業 泥棒 。 馬淵 クラス の ベテラン が 狙う 宵 空き の 身柄 と あらば 、短 期間 に 数 を こなす あき 黛 明夫 あたり が 第 一 候補 に 上がる 。

啓二 は 不満 そうに 耳 骨 を 叩いた 。

《 もう 調べる 必要な い じゃ ん 。 これ 以上 何 が 知りたい ん だ よ 》 真壁 は 足 を 速めた が 、 啓二 は 収まり が つか ない 。 《 ねえ 、 黛 に 何 を 聞く の さ ? 〈 興味 が ない ん だろう が 〉

《 だって ――》 啓二 の 声 が 急に 沈んだ 。

《 だって さ …… わかんない ん だ もん 、 修 兄 ィ の 考えてる こと 》

〈………〉

《 最近 多い もん なあ ……。 前 は 聞か なくったって なんでも わかった のに ……》 無理 も なかった 。 啓二 が 死んで 間もなく 十五 年 に なる 。 実の 母親 に 焼き殺さ れた 魂 は どこ へ も 行き場 が なかった のだろう 、他 に どう する こと も できず に 、もともと 一 つ だった 命 に 還ってきた …… 。

真壁 は モルタル 壁 の アパート の 前 で 足 を 止めた 。 一 階 右 端 。 窓 に 灯 は ない 。 腕時計 に 目 を 落とす 。 午後 六 時 十分 ――。

何度 か 呼び鈴 を 鳴らし 、不在 を 確信 した 真壁 は 踵 を 返した 。 と 、その 足元 に 長い 影 が 伸びた 。 黒い スタジャン を だらしなく 着た 若い 男 が 片 眉 を つり上げ 、顎 も 同じ 角度 に 傾けて 訪問者 を 観察して いる 。 手 に は カップ 麺 が 覗く コンビニ の 袋 。

互いに 顔 は 新聞 で 知っていた 。 「もし かして ノビカベ さんかい ? 黛 明夫 は クチャクチャ と ガム を か 噛み ながら 小馬鹿に する ように 言った 。

「デカ と ブン 屋 の たわごと だ 」

真壁 が 切り返す と 、黛 は 鼻 で 笑った 。

「入って るって 聞いて た が な 」「今朝 出た 」「そうかい 。 で ? 何 か 用 か ? 同業 者 が ご 対面 なんて の は 洒落 に なら ねえ だろう 」

「取り引き だ 」

「取り引き だ あ ? おうむ返し の 語尾 が ひどく 上がった 。

「あんた 、ムショボケ しち まったん じゃ ねえ だろう な 」

「二 年 ぽっち で ボケる ほど 辛くも 楽しくも ない 場所 だ 」黛 は 、だよな 、と いった ふうに 頷き 、「まあ 入んな 」と ドア に 顎 を しゃくった 。 二 間 の 部屋 は 思いがけず きちんと 整頓 されて いた 。 黛 は 座 椅子 に 胡座 を かき 、柱 を 背 に 立つ 真壁 を 斜 に 見上げた 。

「取り引き と やら を 聞こう じゃ ねえ か 」

真壁 は ハーフコート の 懐 から 紙切れ を 取り出し 、テーブル の 上 に 放った 。

4 月 ――511172228

「何 だ よ これ ? 黛 が 尖った 目 を 真壁 に 向けた 。

「来月 の 当直 予定 だ 」

「当直 だ と ? ――誰 の だ ? 「馬淵 だ 」

黛 の 目 が 見開かれた 。

「般若 野郎 の ? 「奴 に 的 割り されて んだろう 、お前 」「ああ 、奴 の お陰 で 動き が とれ ねえ 。 ヘビ みて え に しつっけ えん だ 、あの デカ は 」言い ながら 黛 は 舌なめずり した 。 当直 の 夜 ばかり は 刑事 も 自由 に 動け ない 。

「だが よ ――」

黛 は 狡猾 な 笑み を 真壁 に 向けた 。

「あんた 、最初っから 手の内 ストリップ しちまって いい の かい ? 俺 の 方 が あんた の 話 を 呑めない って こと も ある ぜ 」

「一つ 聞かせろ ――お前 、大石 団地 の 稲村 って 家 に 入った な 」「稲村 …… ? 「二 年 前 だ 」

黛 は くるり と 瞳 を 一 回転 さ せ 、思い当たった ように その 瞳 を 止めた が 、今にも 爆笑 し そうな 顔 で 言い放った 。

「どこ そこ に 入りました なんて 人様 に ウタっちまう 馬鹿 が いる か ? ええ ? 「仏間 に ドレッサー が あった 」

「おいおい 、だ から よ 」

「化粧 瓶 は 並んで た か 」

ウッ と 詰まって 黛 は また 瞳 を 回転 させた 。 職業 泥棒 の 誰 も 黛 が そう である ように 、物色 した 部屋 の 様子 は 脳 の 皺 に 刻み込まれている 。 「それ だけ 教えろ 。 ドレッサー に 化粧 瓶 は 並んで た か 」

黛 は 押し黙った 。 若い が 、しかし 裏 街道 を 歩く 人間 特有 の 頑 が 口元 に ある 。

「手土産 が 不足 か 」

真壁 は を 見据えて 言い 、いつ 一 拍 置いて 続けた 。

「だったら こういう こと で どう だ 。 俺 が 明日 から 仕事 に かかる 」

「どういう 意味 だ よ 」

「馬淵 は どう 出る 。 お前 を 追い 続ける か 。 それとも 俺 に 乗り替える か 」

黛 は ぼんやり した 瞳 に 瞬き を 重ね 、やや あって 、卑屈な 笑み を 口元 に 浮かべた 。 数字 の 並んだ 紙切れ に 手 を 伸ばし 、それ を スタジャン の ポケット に 押し込む と 、あさって の 方 に 向かって 言った 。

「ズラッ と 並んで た ぜ 」

「何 本 だ 」

「大小 十 本 は あった な 」

「ラ ・ベリテ だ な 」

「 ああ 。 全部 そい つ だった 」

「邪魔 した な 」

「ちょ 、ちょっと あんた ――」

部屋 を 出る 真壁 に が 慌てて 声 を 掛けた 。

「それ が なん だって んだ よ 。

化粧 瓶 の こと なんか 聞いて 」

真壁 は 背中 で 言った 。 「 人 に モノ を 聞く とき は ブツ を 用意 しろ 」

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