×

Usamos cookies para ayudar a mejorar LingQ. Al visitar este sitio, aceptas nuestras politicas de cookie.


image

青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る, 青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る 5a

青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る 5a

順路 に 従って 水族 館 の 中 に 進んで いく と 、 角 を 曲がった ところ で 目の前 の 景色 は 突然 別 世界 に 変わった 。

二 階 に 繋がる 長い エントランス 階段 。 その 床 に は 、 ウミガメ が 優雅に 泳ぐ 幻想的 な 映像 が 映し出されて いて 、 来場者 たち から 歓声 を 浴 ぴて いた 。

海 の 中 を 歩いて いる ような 不思議な 気分 に なる 。

その 階段 を 上がって 少し 進んだ ところ から 、 海 の 生き物 たち が 姿 を 見せて くれる 。 シラス の 生育 過程 の 展示 で はじまり 、 それ に 気 を 取られて いる と 、 頭 の 上 を 大きな エイ が 横切って いく 。 通路 の 天井 が エイ の 水槽 に なって いる のだ 。 下 から だ と どこ か 笑った 顔 に 見える 。 多く の カップル が そんな エイ たち に スマホ の カメラ を 向けて いた 。

スロープ に なった 通路 を さらに 下る 。 一 階 まで 下りる と 、 視界 は 一気に 開けて 大 水槽 の 前 に 出た 。 相模 湾 に 生息 する 魚 たち を 集めた 水槽 。 その 中央 で は 、 数 千 匹 の マイ ワシ の 群れ が 息 の 合った ダンス を 披露 して いた 。

ここ でも カップル たち は スマホ を 構えて いる 。 シャッター 音 が しない の は 、 動画 を 撮って いる のだろう 。 家族 と 遊 ぴ に 来て いた 小さな 男の子 は 、 サメ に 興味 津 々 で 指 を 差して 、「 サメーサメ 来た ー 」 と 声 を 出して 喜んで いる 。

大 水槽 から 奥 に 進む と 、 TV など で よく 見かける 深海 生物 の コーナー や 、 カラフルな 魚 たち が 泳ぐ 熱帯 の エリア が 待ち構えて いた 。

どこ も 今日 は 盛況 で 、 カップル たち が 楽し そうに 魚 を 見て 、 スマホ で 写真 を 撮って いる 。 そうした 中 で 、 最も人気 だった の は クラゲ の エリア だ 。

空間 全体 が 青 や 紫 の 光 で ライト アップ さ れ 、 その 光 を 受けた クラゲ たち は 天然 の イルミネーョン と 化して いる 。 ゆらゆら と 不規則に 動く 姿 は 、 街 中 を 彩る 規則正しい 電飾 と は 違った 不思議な 魅力 が あった 。

実際 に 目 に する まで は 、「 クラゲって クリスマス に 見て 楽しい の か な ? 」 と 疑 間 に 思って いた が 、 むしろ 、 クリスマス に こそ 見 に 来るべき 生き物 と いう 気 が する 。

クラゲ に とって は クリスマス など 知った こと で は ない だろう が 、 こうして ライト アップ された 姿 は クリスマス らし さ で 溢れて いた 。

江 ノ 電 の 電車 内 で 見た 水族 館 の 広告 が 、 全力 で クラゲ を プッシュ して いた 理由 が 今 なら わかる 。

クラゲ の 写真 を 撮った 麻衣 も 満足げだ 。

その あと は 、 再び 二 階 に 上がって よち よち 歩く ペンギン を 見て 、 プール を 左右 に 行ったり 来たり する アザラシ に 会い に 行った 。

コツメカワウソ は 、 二 匹 が ハンモック の 中 で ぐるぐる と 追いかけっこ を して いて 、 もう 二 匹 は ケージ の 中 を ぐるぐる と 追い かけっこ して いた 。 周囲 の 客 から 「 かわいい 」 と 何度 も 声 が 上がる 。

どんどん人 も 増えて きた ので 、 咲 太 と 麻衣 は 後 から 来た カップル に 場所 を 空けて 、 飼育 エリア に 向かった 。

待って いた の は ぼ ーっと した 顔 の カピバラ だ 。

「 ちょっと 咲 太 に 似てる わ ね 」

「 そう です か ?

「 でも 、 この 子 の 方 が まだ 生き生き した 目 を してる わ ね 」

「……」

もさ も さ と 草 を 食べる カピバラ は 、 最後 まで 興味 な さ そうに 咲 太 を 見て いた 。 咲 太 も 同じ ような 目 に なって カピバラ と 向き合って いた 。

その カピバラ を 最後に 、 水族 館 を あと に する 。

誰 も が デート に 夢中だった ため 、『 桜島 麻衣 』 だ と 気づか れる こと は なかった 。 だから な の か 、 水族 館 を 出る なり 、

「 ほんと 、 どうして 咲 太 だけ すぐに 気づいた の かしら 」

と 、 思い出した よう に 麻衣 が 不満 そうに もらす 。

まさか 、 あの 「 桜島 麻衣 」 が 堂々と デート して いる と は 、 誰 も 思って いない から だろう 。 この 中 に 、「 桜島 麻衣 」 が いる と 知っていたら 、 みんな 気づいた と 思う 。

「 麻衣 さん 、 今 何 時 ?

「 あと 一 分 で 七 時 半 」

スマホ で 時刻 を 確認 した 麻衣 が 教えて くれた 。

「 このあと 、 どう しましょう か ?

家 に 帰って 麻衣 と 食事 を する 予定 で は ある けれど 、 咲 太 と して は もう 少し 寄り道 を したい 気分 だ 。

とりあえず 、 傘 を 差して 駅 の 方 へ と 歩き 出す 。 麻衣 は 当たり前の よう に 、 咲 太 の 傘 に 入って 。

134 号 線 沿い の 歩道 に は 、 水族 館 を 出た カップル の 列 が まばらに できて いる 。 その 流れ は 、 すぐに 見えて きた 信号 の ところ で 、 二手 に 分かれて いる 。

一方 が 近 路 の 反対 側 に 渡って 駅 に 向かう人 たち 。

もう 一方 が 真っ直ぐ 進んで 江の島 まで 足 を 延ばそう と して いる人 たち だ 。

冬 は 江の島 も 綺麗な イルミネーション に 彩られて いる 。 その 様子 は 、 水族 館 から の 帰り道 を 歩く 咲 太 と 麻衣 に も よく 見えて いた 。

灯台 の よう に 立った シーキャンドル は 、 青から 紫 に 変化 して いく 。 雪景色 の 中 で 、 それ は とても 神秘 的だ 。

「 僕たち も 江の島 行きます ?

「 料理 する 時間 が なくなる から 、 それ は 来年 ね 」

「 じゃあ 、 初詣 の 帰り が いい なあ 」

二 月 の 上旬 まで イルミネーション は やって いる はず 。

「 来年 の クリスマスって 意味 よ 」

当然 、 わかって いて 言った のだ 。 そんな こと は 麻衣 も 百 も 承知 。 だからこそ 、 呆れた よう に 笑って いる 。 いつも の 他 愛ない やり取り を 楽しんで いる 。

信号 の 前 まで 来る と 、 丁度 青 に 変わった 。

駅 に 向かおう と 信号 を 渡ろう と する 。 だけど 、

「 咲 太 、 こっち 」

と 、 麻衣 に 腕 を 引かれて 、 咲 太 は 134 号 線 沿い を 直進 する こと に なった 。 この 方向 に ある の は 江の島 だ 。

「 江の島 は 来年って 言ってました よ ね ?

麻衣 が 出演 した 映画 の ポスター が 貼られた 藤沢 市 観光 センター の 前 を 通り ながら 、 咲 太 は 率直な 疑問 を ぶつけた 。

「 咲 太 の ため に 、 少し だけ 遠回り を して あげる の よ 。 江 ノ 電 で 帰れば いい でしょ 」

ここ から 一 番 近い の は 小田急 江ノ島 線 の 片瀬 江ノ島 駅 だけど 、 ちょっと 歩けば 江 ノ 電 の 江ノ島 駅 が ある 。 麻衣 が 言う よう に ほんの 少し の 遠回り 。 だけど 、 その分 、 麻衣 と 一緒の 傘 の 下 に いられる のだから 大 歓迎 だ 。

海 に 流れ込む 境川 に かかる 橋 を ふた り で 渡って いく 。 風 が 冷たくて 、 麻衣 が さらに 身 を 寄せて きた 。 しれっと 咲 太 を 壁 に して いる 。

橋 を 半分 ほど 渡った ところ で 、 イルミネーション と は 違う 光 が 見えた 。 赤く 回転 して いる の は パトカー の ランプ だ 。 止まって いる の は 橋 を 渡り 切った 少し 先 。 道路 の 反対 側 。

「 何 か あった の かしら ?

「 さあ ?

近づいて いく と 周囲 に 制服 を 着た 警察 官 が 四 、 五人 見えた 。 場所 は 江の島 に かかる 弁天 橋 手前 の 交差 点 。 パトカー の 前 に は 、 フロント 部分 が 大きく 凹んだ ミニバン を 積んだ レッカー車 が ある 。

「 事故 みたい ね 」

「 です ね 」

警察 官 の ひとり が 、 二十 代 後半 くらい の 男性 から 何 か 話 を 聞いて いた 。 男性 は 恐縮 した 様子 で 何度 も 警察 官 に 頭 を 下げて いる 。 恐らく 、 その 男性 が レッカー車 に 積まれた 車 の 持ち主 。 警察 官 に 事故 の 状況 を 説明 して いる ようだ 。 けが人 など は 出 なかった の か 、 その やり取り に は どこ か 余裕 が ある 。 そんな こと を 思って いる と 、

「 単独 事故 だって 」

と 、 麻衣 が 教えて くれた 。 その 手 に は スマホ が ある 。

「 事故 が あった の は 、 六 時 頃 みたい 。 ほら 」

麻衣 が 見せて きた スマホ の 画面 に は 、 雪 で スリップ して 道路 標識 の ポール に 突っ込んだ ミニバン の 写真 が あった 。 ちょうど 居合わせた 通行人 の SNS の 画像 だ 。 巻き込まれた人 は いない と そこ に は 書かれて いた 。

それ を 見た 瞬間 、 咲 太 は 妙な 感覚 に 囚 われた 。 何 か 変だ と 思った とき に は 、 体 の 奥底 が 激しく 疼いた 。 感情 が 一瞬 で ざ わ ついて 、 心 の 水面 が 大きく 波 を 立てる 。 気持ち に 落ち着き が なくなって 、 胸 が 苦しく なって 、 心臓 が ど くん と 大きく 脈打った 。

直後 に 押し寄せて きた の は 、 何 か 強烈な 痛 み を 含んだ 喪失 感 。 それ が 通り過ぎる と 、 今度 は 泣き叫びたい ほど の 悲し み が 咲 太 の 体 を 支配 した 。 奥歯 を 嚙 み 締めて それ ら の 感情 を 堪えて いる と 、 誰 か の 声 が 聞こえた 気 が した 。

── 咲 太 君 ──

そう 呼ばれた 気 が した 。

けれど 、 それ が 誰 か は わからない 。 頭 の 中 に 響いた 声 も 、 耳 に は 残ら なかった 。 すぐに 霞 ん で 消えて いく 。

「 咲 大 ?

顔 を 上げる と 、 ぼやけた 視界 の 何 こう に 麻衣 が 目の前 に いた 。 心配 そうに 咲 太 、 を 見て いる 。 麻衣 が いる 。 ここ に 麻衣 が いる 。 それ が 今さら の よう に ただ うれしくて 、 今度 は 目頭 が 熱く なった 。 我慢 しよう と 思った けれど 、 間に合わない 。

わけ も わからない まま 、 咲 太 の 目 から 涙 が こぼれて いく 。

「 もう 、 どうした の よ 」

やわらかくて やさしい 声 。 麻衣 を すぐ 側 に 感じて いる と 、 咲 太 は 自分 の 流す 涙 が あたたかい こと に 気づいた 。

すると 、 突然 訪れた 感情 の 洪水 は 急速に 収まって いく 。 痛み も 、 悲しみ も …… 波 の よう に 引いて 、 戻って くる こと は なかった 。

残った の は 、 涙 と 同じ あたたかい 気持ち 。 大切な人 を 大事に したい 想い だった 。

「 麻衣 さん 」

咲 太 の 手 から 傘 が 落ちる 。 それ が 逆さまに 地面 に 落下 する 前 に 、 咲 太 は もう 一 度 「 麻衣 さん 」 と 呼び ながら 麻衣 を 抱き締めて いた 。

今 は 、 名前 を 呼べる こと が うれしい 。

腕 の 中 に 麻衣 を 感じられる こと が うれしい 。

そんな 当たり前の 事実 に 、 心 が 満たされて いく 。

「 ちょっと 、 咲 太 、 ダメ だって 」

「……」

「 こういう こと は 家 に 帰って からって 言った でしょ 」

咲 太 を 咎める 麻衣 の 声 は 穏やかだ 。 一応 、 抵抗 する よう に 咲 太 の 胸 に 両手 を ついて は いる けれど 、 殆ど 力 は 入って いない 。 急に 泣き出した 咲 太 を 心配 して くれて いる 。

何 か 言いたい けれど 、 言葉 が 出て こない 。

「……」

「……」

短い 沈黙 の あと で 、

「 咲 太 ?

と 、 名前 を 呼ばれた 。 いつも 通り 呼ばれた だけ 。 だけど 、 そこ に は 「 大丈夫 ? 」 と 作 太 を 気遣う 麻衣 の やさし さ が あった 。

「…… 大丈夫 です 」

「 本当に ?

「 こうして いれば 、 大丈夫 です 」

悲しい わけで は ない 。 苦しい わけで もない 。 涙 は もう 止まって いる し 、 声 も 震えて は い なかった 。 ぽかぽか と 陽 だまり の ような あたたか さ が 体 の 中心 に ある 。 その あたたか さ で 、 麻衣 を 包んで い たかった 。

「 もう 、 しょうが ない わ ね 。 今日 は 特別 よ 」

その 声 に 安心 して 、 咲 太 は 少し だけ 腕 に 力 を 込める 。

麻衣 は される が まま に 、 咲 太 に 身 を 委ねて くれた 。

しばらく する と 、 麻衣 の 鼓動 が 静かに 伝わって くる 。 たぶん 、 麻衣 に も 咲 太 の 心臓 の 音 が 届いた のだろう 。 その とき だけ 、 くすぐった そうな 吐息 を もらして いた 。

ただ 、 気 が 付く と 、 弁天 橋 手前 の 交差 点 に 止まって いた パトカー は い なく なって いた 。 事故 を 起こした ミニバン を 積んだ レッカー車 も い なく なって いる 。

「 咲 太 、 傘 拾わない と 。 頭 の 上 、 雪 積もってる 」

「 平気 です 」

「 風邪 引いて も 知らない から 」」

「 麻衣 さん に 看病 して もらう の 楽しみだ なぁ 」

「 花 楓 ちゃん の ご飯 だけ 作り に 行って あげる 」

「 みかん の 缶詰 を あ ~ ん して ほしい な 」

「 そんな 冗談 が 言える なら 、 もう 大丈夫 ね 」

「 まだ 無理 です 」

その 言葉 の 途中 で 、 腰 の あたり に ぶるぶる と 振動 を 感じた 。 一定 の リズム で 震えて いる の は 、 麻衣 の ダウン コート の ポケット の 中 に ある スマホ だ 。 恐らく 、 電話 の 着信 。 なかなか 収まらない 。


青春ブタ野郎はホワイトクリスマスの夢を見る 5a せいしゅん ぶた やろう は ホワイトクリスマス の ゆめ を みる| Jugendschweinchen träumt von einer weißen Weihnacht 5a Seishun Butajyaku ha White Christmas no Yume wo Yume wo Mamoru 5a El cerdito joven sueña con una Navidad blanca 5a Le jeune cochon rêve d'un Noël blanc 5a Il maialino sogna un bianco Natale 5a O porquinho sonha com um Natal branco 5a Молодой поросенок мечтает о белом Рождестве 5a 青春猪的白色圣诞梦 5a

順路 に 従って 水族 館 の 中 に 進んで いく と 、 角 を 曲がった ところ で 目の前 の 景色 は 突然 別 世界 に 変わった 。 じゅんろ||したがって|すいぞく|かん||なか||すすんで|||かど||まがった|||めのまえ||けしき||とつぜん|べつ|せかい||かわった

二 階 に 繋がる 長い エントランス 階段 。 ふた|かい||つながる|ながい||かいだん その 床 に は 、 ウミガメ が 優雅に 泳ぐ 幻想的 な 映像 が 映し出されて いて 、 来場者 たち から 歓声 を 浴 ぴて いた 。 |とこ|||うみがめ||ゆうがに|およぐ|げんそう てき||えいぞう||うつしだされて||らいじょう しゃ|||かんせい||よく||

海 の 中 を 歩いて いる ような 不思議な 気分 に なる 。 うみ||なか||あるいて|||ふしぎな|きぶん||

その 階段 を 上がって 少し 進んだ ところ から 、 海 の 生き物 たち が 姿 を 見せて くれる 。 |かいだん||あがって|すこし|すすんだ|||うみ||いきもの|||すがた||みせて| シラス の 生育 過程 の 展示 で はじまり 、 それ に 気 を 取られて いる と 、 頭 の 上 を 大きな エイ が 横切って いく 。 ||せいいく|かてい||てんじ|||||き||とられて|||あたま||うえ||おおきな|えい||よこぎって| 通路 の 天井 が エイ の 水槽 に なって いる のだ 。 つうろ||てんじょう||えい||すいそう|||| 下 から だ と どこ か 笑った 顔 に 見える 。 した||||||わらった|かお||みえる From below, it looks like a smiling face. 多く の カップル が そんな エイ たち に スマホ の カメラ を 向けて いた 。 おおく||かっぷる|||えい|||||かめら||むけて|

スロープ に なった 通路 を さらに 下る 。 すろーぷ|||つうろ|||くだる 一 階 まで 下りる と 、 視界 は 一気に 開けて 大 水槽 の 前 に 出た 。 ひと|かい||おりる||しかい||いっきに|あけて|だい|すいそう||ぜん||でた 相模 湾 に 生息 する 魚 たち を 集めた 水槽 。 さがみ|わん||せいそく||ぎょ|||あつめた|すいそう その 中央 で は 、 数 千 匹 の マイ ワシ の 群れ が 息 の 合った ダンス を 披露 して いた 。 |ちゅうおう|||すう|せん|ひき||まい|わし||むれ||いき||あった|だんす||ひろう|| In the middle of it, a flock of thousands of my eagles were dancing in unison.

ここ でも カップル たち は スマホ を 構えて いる 。 ||かっぷる|||||かまえて| Here, too, couples hold up their phones. シャッター 音 が しない の は 、 動画 を 撮って いる のだろう 。 しゃったー|おと||し ない|||どうが||とって|| The fact that there is no shutter sound suggests that the camera is taking a movie. 家族 と 遊 ぴ に 来て いた 小さな 男の子 は 、 サメ に 興味 津 々 で 指 を 差して 、「 サメーサメ 来た ー 」 と 声 を 出して 喜んで いる 。 かぞく||あそ|||きて||ちいさな|おとこのこ||さめ||きょうみ|つ|||ゆび||さして||きた|-||こえ||だして|よろこんで|

大 水槽 から 奥 に 進む と 、 TV など で よく 見かける 深海 生物 の コーナー や 、 カラフルな 魚 たち が 泳ぐ 熱帯 の エリア が 待ち構えて いた 。 だい|すいそう||おく||すすむ||||||みかける|しんかい|せいぶつ||こーなー||からふるな|ぎょ|||およぐ|ねったい||えりあ||まちかまえて| Moving on from the large tank, I found the deep-sea life section often seen on TV, and a tropical area with colorful fish.

どこ も 今日 は 盛況 で 、 カップル たち が 楽し そうに 魚 を 見て 、 スマホ で 写真 を 撮って いる 。 ||きょう||せいきょう||かっぷる|||たのし|そう に|ぎょ||みて|||しゃしん||とって| そうした 中 で 、 最も人気 だった の は クラゲ の エリア だ 。 |なか||もっとも にんき||||くらげ||えりあ| The most popular of these was the jellyfish area.

空間 全体 が 青 や 紫 の 光 で ライト アップ さ れ 、 その 光 を 受けた クラゲ たち は 天然 の イルミネーョン と 化して いる 。 くうかん|ぜんたい||あお||むらさき||ひかり||らいと|あっぷ||||ひかり||うけた|くらげ|||てんねん||||かして| The entire space is lit up with blue and purple lights, turning the jellyfish into a natural illumination. ゆらゆら と 不規則に 動く 姿 は 、 街 中 を 彩る 規則正しい 電飾 と は 違った 不思議な 魅力 が あった 。 ||ふきそくに|うごく|すがた||がい|なか||いろどる|きそくただしい|でんしょく|||ちがった|ふしぎな|みりょく||

実際 に 目 に する まで は 、「 クラゲって クリスマス に 見て 楽しい の か な ? じっさい||め|||||くらげって|くりすます||みて|たのしい||| Until I actually saw them, I wondered if jellyfish were fun to see at Christmas. 」 と 疑 間 に 思って いた が 、 むしろ 、 クリスマス に こそ 見 に 来るべき 生き物 と いう 気 が する 。 |うたが|あいだ||おもって||||くりすます|||み||きたるべき|いきもの|||き|| I had suspected that the "Christmas tree" was a creature to be seen only at Christmas time.

クラゲ に とって は クリスマス など 知った こと で は ない だろう が 、 こうして ライト アップ された 姿 は クリスマス らし さ で 溢れて いた 。 くらげ||||くりすます||しった||||||||らいと|あっぷ||すがた||くりすます||||あふれて| Although jellyfish probably don't care about Christmas, they were overflowing with Christmas spirit when they were lit up in this way.

江 ノ 電 の 電車 内 で 見た 水族 館 の 広告 が 、 全力 で クラゲ を プッシュ して いた 理由 が 今 なら わかる 。 こう||いなずま||でんしゃ|うち||みた|すいぞく|かん||こうこく||ぜんりょく||くらげ|||||りゆう||いま||

クラゲ の 写真 を 撮った 麻衣 も 満足げだ 。 くらげ||しゃしん||とった|まい||まんぞくげだ

その あと は 、 再び 二 階 に 上がって よち よち 歩く ペンギン を 見て 、 プール を 左右 に 行ったり 来たり する アザラシ に 会い に 行った 。 |||ふたたび|ふた|かい||あがって|||あるく|ぺんぎん||みて|ぷーる||さゆう||おこなったり|きたり||あざらし||あい||おこなった

コツメカワウソ は 、 二 匹 が ハンモック の 中 で ぐるぐる と 追いかけっこ を して いて 、 もう 二 匹 は ケージ の 中 を ぐるぐる と 追い かけっこ して いた 。 ||ふた|ひき||はんもっく||なか||||おいかけっこ|||||ふた|ひき||||なか||||おい||| Two otters were chasing each other in circles in a hammock, and the other two were chasing each other in circles in their cage. 周囲 の 客 から 「 かわいい 」 と 何度 も 声 が 上がる 。 しゅうい||きゃく||||なんど||こえ||あがる

どんどん人 も 増えて きた ので 、 咲 太 と 麻衣 は 後 から 来た カップル に 場所 を 空けて 、 飼育 エリア に 向かった 。 どんどん じん||ふえて|||さ|ふと||まい||あと||きた|かっぷる||ばしょ||あけて|しいく|えりあ||むかった

待って いた の は ぼ ーっと した 顔 の カピバラ だ 。 まって|||||-っと||かお||| Waiting for us was a capybara with a dazed look on its face.

「 ちょっと 咲 太 に 似てる わ ね 」 |さ|ふと||にてる||

「 そう です か ? Ist das so?

「 でも 、 この 子 の 方 が まだ 生き生き した 目 を してる わ ね 」 ||こ||かた|||いきいき||め||||

「……」

もさ も さ と 草 を 食べる カピバラ は 、 最後 まで 興味 な さ そうに 咲 太 を 見て いた 。 ||||くさ||たべる|||さいご||きょうみ|||そう に|さ|ふと||みて| The capybara, which was eating grass, looked uninterested in Sakihtae until the end. 咲 太 も 同じ ような 目 に なって カピバラ と 向き合って いた 。 さ|ふと||おなじ||め|||||むきあって| Sakita was facing the capybara with the same look in his eyes.

その カピバラ を 最後に 、 水族 館 を あと に する 。 |||さいごに|すいぞく|かん|||| The capybara was the last thing I saw before leaving the aquarium.

誰 も が デート に 夢中だった ため 、『 桜島 麻衣 』 だ と 気づか れる こと は なかった 。 だれ|||でーと||むちゅうだった||さくらじま|まい|||きづか|||| だから な の か 、 水族 館 を 出る なり 、 ||||すいぞく|かん||でる|

「 ほんと 、 どうして 咲 太 だけ すぐに 気づいた の かしら 」 ||さ|ふと|||きづいた|| I really wonder why only Saki Ta noticed it right away."

と 、 思い出した よう に 麻衣 が 不満 そうに もらす 。 |おもいだした|||まい||ふまん|そう に|

まさか 、 あの 「 桜島 麻衣 」 が 堂々と デート して いる と は 、 誰 も 思って いない から だろう 。 ||さくらじま|まい||どうどうと|でーと|||||だれ||おもって||| I guess because no one would have thought that the "Mai Sakurajima" would be on a date with him. この 中 に 、「 桜島 麻衣 」 が いる と 知っていたら 、 みんな 気づいた と 思う 。 |なか||さくらじま|まい||||しっていたら||きづいた||おもう

「 麻衣 さん 、 今 何 時 ? まい||いま|なん|じ

「 あと 一 分 で 七 時 半 」 |ひと|ぶん||なな|じ|はん

スマホ で 時刻 を 確認 した 麻衣 が 教えて くれた 。 ||じこく||かくにん||まい||おしえて|

「 このあと 、 どう しましょう か ?

家 に 帰って 麻衣 と 食事 を する 予定 で は ある けれど 、 咲 太 と して は もう 少し 寄り道 を したい 気分 だ 。 いえ||かえって|まい||しょくじ|||よてい|||||さ|ふと|||||すこし|よりみち|||きぶん|

とりあえず 、 傘 を 差して 駅 の 方 へ と 歩き 出す 。 |かさ||さして|えき||かた|||あるき|だす 麻衣 は 当たり前の よう に 、 咲 太 の 傘 に 入って 。 まい||あたりまえの|||さ|ふと||かさ||はいって

134 号 線 沿い の 歩道 に は 、 水族 館 を 出た カップル の 列 が まばらに できて いる 。 ごう|せん|ぞい||ほどう|||すいぞく|かん||でた|かっぷる||れつ|||| その 流れ は 、 すぐに 見えて きた 信号 の ところ で 、 二手 に 分かれて いる 。 |ながれ|||みえて||しんごう||||ふたて||わかれて|

一方 が 近 路 の 反対 側 に 渡って 駅 に 向かう人 たち 。 いっぽう||ちか|じ||はんたい|がわ||わたって|えき||むかう じん| People cross to the other side of the shortcut to go to the station.

もう 一方 が 真っ直ぐ 進んで 江の島 まで 足 を 延ばそう と して いる人 たち だ 。 |いっぽう||まっすぐ|すすんで|えのしま||あし||のばそう|||いる じん||

冬 は 江の島 も 綺麗な イルミネーション に 彩られて いる 。 ふゆ||えのしま||きれいな|||いろどられて| その 様子 は 、 水族 館 から の 帰り道 を 歩く 咲 太 と 麻衣 に も よく 見えて いた 。 |ようす||すいぞく|かん|||かえりみち||あるく|さ|ふと||まい||||みえて|

灯台 の よう に 立った シーキャンドル は 、 青から 紫 に 変化 して いく 。 とうだい||||たった|||あおから|むらさき||へんか|| 雪景色 の 中 で 、 それ は とても 神秘 的だ 。 ゆきげしき||なか|||||しんぴ|てきだ

「 僕たち も 江の島 行きます ? ぼくたち||えのしま|いきます

「 料理 する 時間 が なくなる から 、 それ は 来年 ね 」 りょうり||じかん||||||らいねん|

「 じゃあ 、 初詣 の 帰り が いい なあ 」 |はつもうで||かえり|||

二 月 の 上旬 まで イルミネーション は やって いる はず 。 ふた|つき||じょうじゅん||||||

「 来年 の クリスマスって 意味 よ 」 らいねん||くりすますって|いみ| "It means next Christmas."

当然 、 わかって いて 言った のだ 。 とうぜん|||いった| そんな こと は 麻衣 も 百 も 承知 。 |||まい||ひゃく||しょうち Mai knows this. だからこそ 、 呆れた よう に 笑って いる 。 |あきれた|||わらって| That's why he is laughing like a fool. いつも の 他 愛ない やり取り を 楽しんで いる 。 ||た|あい ない|やりとり||たのしんで| I always enjoy our casual exchanges.

信号 の 前 まで 来る と 、 丁度 青 に 変わった 。 しんごう||ぜん||くる||ちょうど|あお||かわった

駅 に 向かおう と 信号 を 渡ろう と する 。 えき||むかおう||しんごう||わたろう|| だけど 、

「 咲 太 、 こっち 」 さ|ふと|

と 、 麻衣 に 腕 を 引かれて 、 咲 太 は 134 号 線 沿い を 直進 する こと に なった 。 |まい||うで||ひかれて|さ|ふと||ごう|せん|ぞい||ちょくしん|||| この 方向 に ある の は 江の島 だ 。 |ほうこう|||||えのしま|

「 江の島 は 来年って 言ってました よ ね ? えのしま||らいねんって|いってました||

麻衣 が 出演 した 映画 の ポスター が 貼られた 藤沢 市 観光 センター の 前 を 通り ながら 、 咲 太 は 率直な 疑問 を ぶつけた 。 まい||しゅつえん||えいが||ぽすたー||はられた|ふじさわ|し|かんこう|せんたー||ぜん||とおり||さ|ふと||そっちょくな|ぎもん||

「 咲 太 の ため に 、 少し だけ 遠回り を して あげる の よ 。 さ|ふと||||すこし||とおまわり||||| 江 ノ 電 で 帰れば いい でしょ 」 こう||いなずま||かえれば|| You should take the Enoden back home."

ここ から 一 番 近い の は 小田急 江ノ島 線 の 片瀬 江ノ島 駅 だけど 、 ちょっと 歩けば 江 ノ 電 の 江ノ島 駅 が ある 。 ||ひと|ばん|ちかい|||おだきゅう|えのしま|せん||かたせ|えのしま|えき|||あるけば|こう||いなずま||えのしま|えき|| 麻衣 が 言う よう に ほんの 少し の 遠回り 。 まい||いう||||すこし||とおまわり As Mai says, it's just a little detour. だけど 、 その分 、 麻衣 と 一緒の 傘 の 下 に いられる のだから 大 歓迎 だ 。 |そのぶん|まい||いっしょの|かさ||した||いら れる||だい|かんげい|

海 に 流れ込む 境川 に かかる 橋 を ふた り で 渡って いく 。 うみ||ながれこむ|さかいがわ|||きょう|||||わたって| 風 が 冷たくて 、 麻衣 が さらに 身 を 寄せて きた 。 かぜ||つめたくて|まい|||み||よせて| しれっと 咲 太 を 壁 に して いる 。 |さ|ふと||かべ||| He is using Sakita as a wall.

橋 を 半分 ほど 渡った ところ で 、 イルミネーション と は 違う 光 が 見えた 。 きょう||はんぶん||わたった||||||ちがう|ひかり||みえた 赤く 回転 して いる の は パトカー の ランプ だ 。 あかく|かいてん|||||ぱとかー||らんぷ| 止まって いる の は 橋 を 渡り 切った 少し 先 。 とまって||||きょう||わたり|きった|すこし|さき 道路 の 反対 側 。 どうろ||はんたい|がわ

「 何 か あった の かしら ? なん||||

「 さあ ?

近づいて いく と 周囲 に 制服 を 着た 警察 官 が 四 、 五人 見えた 。 ちかづいて|||しゅうい||せいふく||きた|けいさつ|かん||よっ|いつ り|みえた 場所 は 江の島 に かかる 弁天 橋 手前 の 交差 点 。 ばしょ||えのしま|||べんてん|きょう|てまえ||こうさ|てん パトカー の 前 に は 、 フロント 部分 が 大きく 凹んだ ミニバン を 積んだ レッカー車 が ある 。 ぱとかー||ぜん|||ふろんと|ぶぶん||おおきく|くぼんだ|みにばん||つんだ|れっかーしゃ||

「 事故 みたい ね 」 じこ||

「 です ね 」

警察 官 の ひとり が 、 二十 代 後半 くらい の 男性 から 何 か 話 を 聞いて いた 。 けいさつ|かん||||にじゅう|だい|こうはん|||だんせい||なん||はなし||きいて| 男性 は 恐縮 した 様子 で 何度 も 警察 官 に 頭 を 下げて いる 。 だんせい||きょうしゅく||ようす||なんど||けいさつ|かん||あたま||さげて| Der Mann verbeugt sich wiederholt vor dem Polizeibeamten in einer Geste der Angst. 恐らく 、 その 男性 が レッカー車 に 積まれた 車 の 持ち主 。 おそらく||だんせい||れっかーしゃ||つまれた|くるま||もちぬし 警察 官 に 事故 の 状況 を 説明 して いる ようだ 。 けいさつ|かん||じこ||じょうきょう||せつめい||| けが人 など は 出 なかった の か 、 その やり取り に は どこ か 余裕 が ある 。 けがにん|||だ|||||やりとり|||||よゆう|| そんな こと を 思って いる と 、 |||おもって||

「 単独 事故 だって 」 たんどく|じこ|

と 、 麻衣 が 教えて くれた 。 |まい||おしえて| その 手 に は スマホ が ある 。 |て|||||

「 事故 が あった の は 、 六 時 頃 みたい 。 じこ|||||むっ|じ|ころ| ほら 」

麻衣 が 見せて きた スマホ の 画面 に は 、 雪 で スリップ して 道路 標識 の ポール に 突っ込んだ ミニバン の 写真 が あった 。 まい||みせて||||がめん|||ゆき||すりっぷ||どうろ|ひょうしき||ぽーる||つっこんだ|みにばん||しゃしん|| ちょうど 居合わせた 通行人 の SNS の 画像 だ 。 |いあわせた|つうこうにん||||がぞう| 巻き込まれた人 は いない と そこ に は 書かれて いた 。 まきこまれた じん|||||||かかれて| It said that no one was involved.

それ を 見た 瞬間 、 咲 太 は 妙な 感覚 に 囚 われた 。 ||みた|しゅんかん|さ|ふと||みょうな|かんかく||しゅう| 何 か 変だ と 思った とき に は 、 体 の 奥底 が 激しく 疼いた 。 なん||へんだ||おもった||||からだ||おくそこ||はげしく|うずいた 感情 が 一瞬 で ざ わ ついて 、 心 の 水面 が 大きく 波 を 立てる 。 かんじょう||いっしゅん|||||こころ||すいめん||おおきく|なみ||たてる 気持ち に 落ち着き が なくなって 、 胸 が 苦しく なって 、 心臓 が ど くん と 大きく 脈打った 。 きもち||おちつき|||むね||くるしく||しんぞう|||||おおきく|みゃくうった

直後 に 押し寄せて きた の は 、 何 か 強烈な 痛 み を 含んだ 喪失 感 。 ちょくご||おしよせて||||なん||きょうれつな|つう|||ふくんだ|そうしつ|かん Immediately afterwards, I felt a sense of loss that included a strong pain. それ が 通り過ぎる と 、 今度 は 泣き叫びたい ほど の 悲し み が 咲 太 の 体 を 支配 した 。 ||とおりすぎる||こんど||なきさけびたい|||かなし|||さ|ふと||からだ||しはい| 奥歯 を 嚙 み 締めて それ ら の 感情 を 堪えて いる と 、 誰 か の 声 が 聞こえた 気 が した 。 おくば||||しめて||||かんじょう||こらえて|||だれ|||こえ||きこえた|き||

── 咲 太 君 ── さ|ふと|きみ

そう 呼ばれた 気 が した 。 |よばれた|き||

けれど 、 それ が 誰 か は わからない 。 |||だれ|||わから ない But we don't know who it is. 頭 の 中 に 響いた 声 も 、 耳 に は 残ら なかった 。 あたま||なか||ひびいた|こえ||みみ|||のこら| すぐに 霞 ん で 消えて いく 。 |かすみ|||きえて|

「 咲 大 ? さ|だい

顔 を 上げる と 、 ぼやけた 視界 の 何 こう に 麻衣 が 目の前 に いた 。 かお||あげる|||しかい||なん|||まい||めのまえ|| 心配 そうに 咲 太 、 を 見て いる 。 しんぱい|そう に|さ|ふと||みて| 麻衣 が いる 。 まい|| ここ に 麻衣 が いる 。 ||まい|| それ が 今さら の よう に ただ うれしくて 、 今度 は 目頭 が 熱く なった 。 ||いまさら||||||こんど||めがしら||あつく| 我慢 しよう と 思った けれど 、 間に合わない 。 がまん|||おもった||まにあわ ない I tried to be patient, but I couldn't make it in time.

わけ も わからない まま 、 咲 太 の 目 から 涙 が こぼれて いく 。 ||わから ない||さ|ふと||め||なみだ|||

「 もう 、 どうした の よ 」

やわらかくて やさしい 声 。 ||こえ 麻衣 を すぐ 側 に 感じて いる と 、 咲 太 は 自分 の 流す 涙 が あたたかい こと に 気づいた 。 まい|||がわ||かんじて|||さ|ふと||じぶん||ながす|なみだ|||||きづいた

すると 、 突然 訪れた 感情 の 洪水 は 急速に 収まって いく 。 |とつぜん|おとずれた|かんじょう||こうずい||きゅうそくに|おさまって| Then the sudden flood of emotions subsides rapidly. 痛み も 、 悲しみ も …… 波 の よう に 引いて 、 戻って くる こと は なかった 。 いたみ||かなしみ||なみ||||ひいて|もどって||||

残った の は 、 涙 と 同じ あたたかい 気持ち 。 のこった|||なみだ||おなじ||きもち 大切な人 を 大事に したい 想い だった 。 たいせつな じん||だいじに||おもい|

「 麻衣 さん 」 まい|

咲 太 の 手 から 傘 が 落ちる 。 さ|ふと||て||かさ||おちる それ が 逆さまに 地面 に 落下 する 前 に 、 咲 太 は もう 一 度 「 麻衣 さん 」 と 呼び ながら 麻衣 を 抱き締めて いた 。 ||さかさまに|じめん||らっか||ぜん||さ|ふと|||ひと|たび|まい|||よび||まい||だきしめて|

今 は 、 名前 を 呼べる こと が うれしい 。 いま||なまえ||よべる|||

腕 の 中 に 麻衣 を 感じられる こと が うれしい 。 うで||なか||まい||かんじられる|||

そんな 当たり前の 事実 に 、 心 が 満たされて いく 。 |あたりまえの|じじつ||こころ||みたされて|

「 ちょっと 、 咲 太 、 ダメ だって 」 |さ|ふと|だめ|

「……」

「 こういう こと は 家 に 帰って からって 言った でしょ 」 |||いえ||かえって||いった|

咲 太 を 咎める 麻衣 の 声 は 穏やかだ 。 さ|ふと||とがめる|まい||こえ||おだやかだ 一応 、 抵抗 する よう に 咲 太 の 胸 に 両手 を ついて は いる けれど 、 殆ど 力 は 入って いない 。 いちおう|ていこう||||さ|ふと||むね||りょうて||||||ほとんど|ちから||はいって| I was holding my hands on Saki-ta's chest as if I was resisting, but I was hardly putting any effort into it. 急に 泣き出した 咲 太 を 心配 して くれて いる 。 きゅうに|なきだした|さ|ふと||しんぱい|||

何 か 言いたい けれど 、 言葉 が 出て こない 。 なん||いいたい||ことば||でて|

「……」

「……」

短い 沈黙 の あと で 、 みじかい|ちんもく|||

「 咲 太 ? さ|ふと

と 、 名前 を 呼ばれた 。 |なまえ||よばれた いつも 通り 呼ばれた だけ 。 |とおり|よばれた| だけど 、 そこ に は 「 大丈夫 ? ||||だいじょうぶ 」 と 作 太 を 気遣う 麻衣 の やさし さ が あった 。 |さく|ふと||きづかう|まい|||||

「…… 大丈夫 です 」 だいじょうぶ|

「 本当に ? ほんとうに

「 こうして いれば 、 大丈夫 です 」 ||だいじょうぶ|

悲しい わけで は ない 。 かなしい||| 苦しい わけで もない 。 くるしい||も ない It's not that I'm in pain. 涙 は もう 止まって いる し 、 声 も 震えて は い なかった 。 なみだ|||とまって|||こえ||ふるえて||| ぽかぽか と 陽 だまり の ような あたたか さ が 体 の 中心 に ある 。 ||よう|||||||からだ||ちゅうしん|| その あたたか さ で 、 麻衣 を 包んで い たかった 。 ||||まい||つつんで||

「 もう 、 しょうが ない わ ね 。 今日 は 特別 よ 」 きょう||とくべつ|

その 声 に 安心 して 、 咲 太 は 少し だけ 腕 に 力 を 込める 。 |こえ||あんしん||さ|ふと||すこし||うで||ちから||こめる

麻衣 は される が まま に 、 咲 太 に 身 を 委ねて くれた 。 まい||さ れる||||さ|ふと||み||ゆだねて| Mai did as she was told and surrendered herself to Saki.

しばらく する と 、 麻衣 の 鼓動 が 静かに 伝わって くる 。 |||まい||こどう||しずかに|つたわって| たぶん 、 麻衣 に も 咲 太 の 心臓 の 音 が 届いた のだろう 。 |まい|||さ|ふと||しんぞう||おと||とどいた| その とき だけ 、 くすぐった そうな 吐息 を もらして いた 。 ||||そう な|といき|||

ただ 、 気 が 付く と 、 弁天 橋 手前 の 交差 点 に 止まって いた パトカー は い なく なって いた 。 |き||つく||べんてん|きょう|てまえ||こうさ|てん||とまって||ぱとかー||||| 事故 を 起こした ミニバン を 積んだ レッカー車 も い なく なって いる 。 じこ||おこした|みにばん||つんだ|れっかーしゃ|||||

「 咲 太 、 傘 拾わない と 。 さ|ふと|かさ|ひろわ ない| 頭 の 上 、 雪 積もってる 」 あたま||うえ|ゆき|つもってる

「 平気 です 」 へいき|

「 風邪 引いて も 知らない から 」」 かぜ|ひいて||しら ない|

「 麻衣 さん に 看病 して もらう の 楽しみだ なぁ 」 まい|||かんびょう||||たのしみだ| I'm looking forward to having Mai take care of me.

「 花 楓 ちゃん の ご飯 だけ 作り に 行って あげる 」 か|かえで|||ごはん||つくり||おこなって|

「 みかん の 缶詰 を あ ~ ん して ほしい な 」 ||かんづめ||||||

「 そんな 冗談 が 言える なら 、 もう 大丈夫 ね 」 |じょうだん||いえる|||だいじょうぶ|

「 まだ 無理 です 」 |むり|

その 言葉 の 途中 で 、 腰 の あたり に ぶるぶる と 振動 を 感じた 。 |ことば||とちゅう||こし||||||しんどう||かんじた 一定 の リズム で 震えて いる の は 、 麻衣 の ダウン コート の ポケット の 中 に ある スマホ だ 。 いってい||りずむ||ふるえて||||まい||だうん|こーと||ぽけっと||なか|||| 恐らく 、 電話 の 着信 。 おそらく|でんわ||ちゃくしん なかなか 収まらない 。 |おさまら ない