天狗 |青 テング と 赤 テング
むかし むかし 、ある 山 の てっぺん に 、とても 仲 の 良い 青い テング と 赤い テング が 住んで いました 。
青 テング と 赤 テング は いつも 山 の てっペん から 、人間 たち の いる 下界 を ながめて います 。
ある 日 、赤 テング が 青 テング に 言いました 。
「なあ 、青 テング よ 。 おれたち が この 山 に 来て から 、何 年 に なる かな ? 」
「そう だ な 、かれこれ 五百 年 に なる か な 」
「五百 年 か 。 こうして 下界 の 様子 を 見て いる と 、おもしろい ように 変わって いく が 、おれたち は ちっとも 変わらん な 」
「ふむ 、人間 ども は 年がら年中 、いつも いそがしく けんか を している から な 」
「 うん ? けんか を する と 、変わる の か ? 」
「そりゃ あ 、そうだ 。 せっかく きれいな 町 を つくって も 、人間 ども は けんか を はじめて 全部 燃やして しまう 。 そして また せっせと 新しい 町 を つくって は 、また けんか を して 燃やして しまう 。 まったく 、あきず に よく する もん だ よ 」
それ を 聞いた 赤 テング は 、手 を たたいて 言いました 。
「 そう か ! おれたち も 、けんか を しよう ! 」
「おいおい 、突然 どうした ん だ ? 」
「おれ と お前 は 、一 度 も けんか を した 事 が ない だろう 。 五百 年 も ここ に いる のに 」
「まあ な 、おれたち は 仲良し だから 」
「それ が だめな んだ 。 けんか を しない から 、 おれたち は 進歩 ( しんぽ ) が ない ん だ 」
「そう かなあ ? 仲良し なの は 、良い 事 だ と 思う けど な 」
「ともかく 、今日 から おれ と お前 は 、けんか を しよう 。 いい か 、けんか を して いる ん だから 、しばらく は 一緒に 遊ば ん ぞ 」
「うーん 、なんだか よく わからん が 。 お前 が そこ まで 言う なら 」
こうして 青 テング と 赤 テング は 、はじめて の けんか を はじめた のです 。
その 日 から 青 テング と 赤 テング は 別々 の 山 で 暮らす よう に なり 、出来る だけ 顔 を 合わさ ない よう に しました 。
そんな ある 日 、青 テング が 一人 で 下界 を ながめて いる と 、お城 の 庭 で 何か が ピカピカ と 光って いました 。
「 ん ? あれ は なんだろう ? どうして あんなに 、光って いる んだ ? 」
気 に なった 青 テング は 、自分 の 鼻 を お城 まで のばして みる 事 に しました 。
「 鼻 、 のびろ ー 。 鼻 、 のびろ ー 。 どんどん のびて 、 城 へ 行け ー 」
さて 、お城 で は お姫さま の 侍女たち が 、お姫さま の 着物 を 虫ぼし を している さいちゅう でした 。
「この お 着物 は 、何て 素晴らしい のでしょう 。 金 や 銀 の 糸 が お 日 さま に キラキラ と かがやいて 、まるで 宝石 の ようだ わ 」
「でも これ 以上 は 、ほす ところ が ありません わ 。 お 着物 は まだまだ ある のに 、どう いたしましょう ? 」
そこ へ 青 テング の 青い 鼻 が 、スルスル と のびて 来た のです 。
「あら 、ちょうど ここ に 、青竹 が あります わ 。 でも 、ずいぶん 長い 青竹 だ こと 」
侍女 たち は 次 から 次 へ と 、青 テング の 鼻 に 着物 を ほしました 。
「なっ、なんだ? やけに 鼻 が 重く なって きた な 。 何 が あった んだ ? 鼻 、ちぢま れ ー 。 鼻 、ちぢま れ ー 。 ちぢんで ちぢんで 、元 に 戻れ ー 」
すると 青 テング の 鼻 は 、色とりどり の 着物 を ひっかけた まま ちぢんで いきました 。
「あれ え ! お姫さま の おめしもの が ! 」
侍女 たち は 大 あわて です が 、どう する 事 も 出来ません 。
こうして 青 テング は 、お姫さま の きれいな 着物 を 手に入れる 事 が 出来た のです 。
青 テング が お姫さま の 着物 を 着て 喜んで いる と 、久しぶり に 赤 テング が やって 来ました 。
「おい 、お前 は 何 を おどって いる のだ ? 」
青 テング は 、きれいな 着物 を 見せ ながら 言いました 。
「いい だろう 。 城 に 鼻 を のばしたら 、こんなに きれいな 着物 が ついてきた んだ 。 欲しければ 、お前 に も わけて やる ぞ 」
「ふん 、おれたち は 今 、けんか を して いる んだ ぞ 。 だいたい 、そんな チャラチャラ した 物 なんて いるか ! 」
赤 テング は そう 言って 、自分 の 山 へ 帰って 行きました 。
でも 本当 は 、青 テング の 持っている お姫さま の 着物 が ほしくて たまらなかった のです 。
「いい なあ 、青 テング の やつ 。 けんか を して いなければ 、あの きれいな 着物 が もらえた のに 。 ・・・でも 、城 に 鼻 を のばす だけ で いい の なら 、おれ に も 出来る 。 よし 、おれ も やって みよう 。 鼻 、 のびろ ー 。 鼻 、 のびろ ー 。 どんどん のびて 、 城 へ 行け ー 」
赤 テング の 赤い 鼻 が 、スルスル と お 城 ヘ のびて いきました 。
その ころ お 城 で は 、 お 殿さま が 家来 たち に 武芸 ( ぶげい ) の けいこ を させて いました 。
「気 を 抜く な ! 敵国 は 、いつ 攻めて くる か わからん ぞ ! 気合い を 入れろ ! 」
すると そこ へ 、赤 テング の 赤い 鼻 が のびて 来ました 。
「 おや ? なんだ 、この 赤い 物 は ? 」
「もし かして 、敵国 の 新しい 武器 か ? ! 」
「とにかく 、切れ ! 」
お殿さま の 命令 に 、家来 たち は いっせいに 鼻 へ 切り かかりました 。
さあ 突然 鼻 を 切りつけられて 、赤 テング は びっくり です 。
「 ウギャアー ! 痛い 、痛い ! 」
かわいそうに 赤 テング は 、テング の じまん である 鼻 を ボロボロ に されて しまいました 。
赤 テング が ションボリ 岩 に すわって いる と 、青 テング が やって 来ました 。
「 お ー い 、 赤 テング 、 元気 か ? ・・・ おい ! どうした ん だ 、その 鼻 は ? ! 」
「いい から 、ほっといて くれ 。 おれたち は 、けんか を して いる んだから 」
「そう は いか ない よ 。 おれたち は 、友だち だろう 。 さあ 、見せて みろ 。 ・・・ああ 、これ は ひどい きず だ 。 でも 心配 する な 、けが に 良く 効く カッパ の ぬり 薬 を 持って 来て やる から な 。 それ に 、きれいな 着物 も 半分 やる よ 」
青 テング の やさしい 言葉 に 、赤 テング は 泣き出して しまいました 。
これ が きっかけ で 赤 テング は けんか を やめて 、青 テング と また 仲良く 暮らす ように なりました 。
おしまい