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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第三の手記 一 (4)

第 三 の 手記 一 (4)

自分 は 、その 店 の お 客 の ようで も あり 、亭主 の ようで も あり 、走り使い の ようで も あり 、親戚 の 者 の ようで も あり 、はた から 見て 甚 はなはだ 得 態 えたいの知れない 存在 だった 筈 な のに 、「世間 」は 少しも あやしま ず 、そうして その 店 の 常連 たち も 、自分 を 、葉 ちゃん 、葉 ちゃん と 呼んで 、ひどく 優しく 扱い 、そうして お 酒 を 飲ま せて くれる のでした。

自分 は 世の中 に 対して 、次第に 用心 し なく なりました。 世の中 と いう ところ は 、そんなに 、おそろしい ところ で は 無い 、と 思う ように なりました。 つまり 、これ まで の 自分 の 恐怖 感 は 、春 の 風 に は 百 日 咳 ひ ゃく にち ぜ き の 黴菌 ばいきん が 何 十万 、銭湯 に は 、目 の つぶれる 黴菌 が 何 十万 、床屋 に は 禿頭 とくとう 病 の 黴菌 が 何 十万 、省 線 の 吊皮 つりかわ に は 疥癬 かいせん の 虫 が うようよ 、または 、お さしみ 、牛 豚肉 の 生 焼け に は 、さ なだ 虫 の 幼虫 やら 、ジストマ やら 、何やら の 卵 など が 必ず ひそんで いて 、また 、はだし で 歩く と 足 の 裏 から ガラス の 小さい 破片 が はいって 、その 破片 が 体 内 を 駈 け めぐり 眼 玉 を 突いて 失明 さ せる 事 も ある と か いう 謂 わ ば 「科学 の 迷信 」に おびやかされて いた ような もの な のでした。 それ は 、たしかに 何 十万 も の 黴菌 の 浮び 泳ぎ うごめいて いる の は 、「科学 的 」に も 、正確な 事 でしょう。 と同時に 、その 存在 を 完全に 黙殺 さえ すれば 、それ は 自分 と みじん の つながり も 無くなって たちまち 消え失せる 「科学 の 幽霊 」に 過ぎ ない のだ と いう 事 を も 、自分 は 知る ように なった のです。 お 弁当 箱 に 食べ 残し の ごはん 三 粒 、千万 人 が 一 日 に 三 粒 ずつ 食べ 残して も 既に それ は 、米 何 俵 を むだに 捨てた 事 に なる 、と か 、或いは 、一 日 に 鼻 紙 一 枚 の 節約 を 千万 人 が 行う ならば 、どれ だけ の パルプ が 浮く か 、など と いう 「科学 的 統計 」に 、自分 は 、どれ だけ おびやかさ れ 、ごはん を 一 粒 でも 食べ 残す 度 毎 に 、また 鼻 を かむ 度 毎 に 、山ほど の 米 、山ほど の パルプ を 空費 する ような 錯覚 に 悩み 、自分 が いま 重大な 罪 を 犯して いる みたいな 暗い 気持 に なった もの です が 、しかし 、それ こそ 「科学 の 嘘 」「統計 の 嘘 」「数学 の 嘘 」で 、三 粒 の ごはん は 集められる もの で なく 、掛算 割算 の 応用 問題 と して も 、まことに 原始 的で 低 能 な テーマ で 、電気 の ついて ない 暗い お 便所 の 、あの 穴 に 人 は 何度 に いち ど 片 脚 を 踏みはずして 落下 さ せる か 、または 、省 線 電車 の 出入 口 と 、プラットホーム の 縁 へり と の あの 隙間 に 、乗客 の 何 人 中 の 何 人 が 足 を 落とし 込む か 、そんな プロバビリティ を 計算 する の と 同じ 程度 に ばからしく 、それ は 如何 いかにも 有り 得る 事 の ようで も あり ながら 、お 便所 の 穴 を またぎ そこねて 怪我 を した と いう 例 は 、少しも 聞か ない し 、そんな 仮説 を 「科学 的 事実 」と して 教え込ま れ 、それ を 全く 現実 と して 受取り 、恐怖 して いた 昨日 まで の 自分 を い と おしく 思い 、笑い たく 思った くらい に 、自分 は 、世の中 と いう もの の 実体 を 少しずつ 知って 来た と いう わけな のでした。

そう は 言って も 、やはり 人間 と いう もの が 、まだまだ 、自分 に は おそろしく 、店 の お 客 と 逢う の に も 、お 酒 を コップ で 一 杯 ぐ い と 飲んで から で なければ いけません でした。 こわい もの 見た さ。 自分 は 、毎晩 、それ でも お 店 に 出て 、子供 が 、実は 少し こわがって いる 小 動物 など を 、かえって 強く ぎゅっと 握って しまう みたいに 、店 の お 客 に 向って 酔って つたない 芸術 論 を 吹きかける ように さえ なりました。

漫画 家。 ああ 、しかし 、自分 は 、大きな 歓楽 よろこび も 、また 、大きな 悲哀 かなしみ も ない 無名 の 漫画 家。 いかに 大きな 悲哀 かなしみ が あと で やって 来て も いい 、荒っぽい 大きな 歓楽 よろこび が 欲しい と 内心 あせって は いて も 、自分 の 現在 の よろこび たる や 、お 客 と むだ 事 を 言い合い 、お 客 の 酒 を 飲む 事 だけ でした。

京 橋 へ 来て 、こういう くだらない 生活 を 既に 一 年 ちかく 続け 、自分 の 漫画 も 、子供 相手 の 雑誌 だけ で なく 、駅 売り の 粗悪で 卑猥 ひわ いな 雑誌 など に も 載る ように なり 、自分 は 、上司 幾 太 (情 死 、生きた )と いう 、ふざけ 切った 匿名 で 、汚い はだか の 絵 など 画 き 、それ にたいてい ルバイヤット の 詩 句 を 插入 そうにゅう しました。

無駄な 御 祈り なんか 止 よせったら

涙 を 誘う もの なんか かなぐりすてろ

ま ア 一 杯 いこう 好 い こと ばかり 思 出して

よけいな 心づかい なんか 忘れっち まい な

不安 や 恐怖 もて 人 を 脅 や かす 奴 輩 や から は

自 みずから の 作り し 大それた 罪 に 怯 おびえ

死 に し もの の 復讐 ふくしゅう に 備え ん と

自 みずから の 頭 に たえず 計 い を 為 なす

よべ 酒 充 ち て 我 ハート は 喜び に 充 ち

けさ さめて 只 ただ に 荒涼

いぶかし 一夜 ひと よ さ の 中

様変り たる 此 この 気分 よ

祟 たたり なんて 思う こと 止 やめて くれ

遠く から 響く 太鼓 の ように

何 が な しそ いつ は 不安だ

屁 へ ひった こと 迄 まで 一 々 罪 に 勘定 さ れたら 助から ん わ い

正義 は 人生 の 指針 たり と や?

さらば 血 に 塗ら れ たる 戦場 に

暗殺 者 の 切 尖 きっさ き に

何の 正義 か 宿 れる や?

いずこ に 指導 原理 あり や?

いかなる 叡智 えいち の 光 あり や?

美 うるわしく も 怖 おそろしき は 浮世 なれ

かよわき 人 の 子 は 背負 切れ ぬ 荷 を ば 負わさ れ

どうにも でき ない 情 慾 の 種子 を 植えつけられた 許 ばかりに

善 だ 悪 だ 罪 だ 罰 だ と 呪 の ろ わる る ばかり

どうにも でき ない 只 まごつく ばかり

抑え 摧 くだく 力 も 意志 も 授けられ ぬ 許 り に

どこ を どう 彷徨 うろつき まわって たんだい

ナニ 批判 検討 再 認識?

ヘッ 空 むなしき 夢 を あり も し ない 幻 を

エヘッ 酒 を 忘れた んで みんな 虚 仮 こけ の 思案 さ

どう だ 此涯 は て も ない 大空 を 御 覧よ

此中 に ポッチリ 浮んだ 点じ ゃい

此 地球 が 何 んで 自転 する の か 分 る もんか

自転 公転 反転 も 勝手で すわ い

至る処 ところ に 至高 の 力 を 感じ

あらゆる 国 に あらゆる 民族 に

同一の 人間 性 を 発見 する

我 は 異端 者 なり と か や

みんな 聖 経 を よみ違えて ん の よ

で なきゃ 常識 も 智 慧 ちえ も ない の よ

生身 いきみ の 喜び を 禁じたり 酒 を 止めたり

いい わ ムスタッファ わたし そんな の 大嫌い

けれども 、その頃 、自分 に 酒 を 止めよ 、と すすめる 処女 が いました。

「いけない わ 、毎日 、お 昼 から 、酔って いらっしゃる」

バア の 向 い の 、小さい 煙草 屋 の 十七 、八 の 娘 でした。 ヨシ ちゃん と 言い 、色 の 白い 、八重歯 の ある 子 でした。 自分 が 、煙草 を 買い に 行く たび に 、笑って 忠告 する のでした。

「なぜ 、いけない んだ。 どうして 悪い んだ。 ある だけ の 酒 を のんで 、人 の 子 よ 、憎悪 を 消せ 消せ 消せ 、って ね 、むかし ペルシャ の ね 、まあ よそう 、悲しみ 疲れ たる ハート に 希望 を 持ち 来す は 、ただ 微 醺 び くん を もたらす 玉 杯 なれ 、って ね。 わかる かい」

「わから ない」

「この 野郎。 キス して やる ぞ」

「して よ」

ちっとも 悪びれ ず 下 唇 を 突き出す のです。

「馬鹿 野郎。 貞 操 観念、……」

しかし 、ヨシ ちゃん の 表情 に は 、あきらかに 誰 に も 汚されて いない 処女 の に おい が して いました。

とし が 明けて 厳寒 の 夜 、自分 は 酔って 煙草 を 買い に 出て 、その 煙草 屋 の 前 の マンホール に 落ちて 、ヨシ ちゃん 、たすけて くれ え 、と 叫び 、ヨシ ちゃん に 引き上げられ 、右腕 の 傷 の 手当 を 、ヨシ ちゃん に して もらい 、その 時 ヨシ ちゃん は 、しみじみ、

「飲み すぎます わ よ」

と 笑わ ず に 言いました。

自分 は 死ぬ の は 平気な んだ けど 、怪我 を して 出血 して そうして 不 具 者 など に なる の は 、まっぴら ごめん の ほう です ので 、ヨシ ちゃん に 腕 の 傷 の 手当 を して もらい ながら 、酒 も 、もう いい加減に よそう かしら 、と 思った のです。

「やめる。 あした から 、一 滴 も 飲ま ない」

「ほんとう?

「きっと 、やめる。 やめたら 、ヨシ ちゃん 、僕 の お 嫁 に なって くれる かい?

しかし 、お 嫁 の 件 は 冗談 でした。

「モチ よ」

モチ と は 、「勿論 」の 略語 でした。 モボ だの 、モガ だの 、その頃 いろんな 略語 が はやって いました。

「ようし。 ゲンマン しよう。 きっと やめる」

そうして 翌 あくる 日 、自分 は 、やはり 昼 から 飲みました。

夕方 、ふらふら 外 へ 出て 、ヨシ ちゃん の 店 の 前 に 立ち、

「ヨシ ちゃん 、ごめん ね。 飲んじゃった」

「あら 、いやだ。 酔った 振り なんか して」

ハッと しました。 酔い も さめた 気持 でした。

「いや 、本当な んだ。 本当に 飲んだ のだ よ。 酔った 振り なんか して る んじゃ ない」

「からかわ ないで よ。 ひと が わるい」

てんで 疑おう と し ない のです。

「見れば わかり そうな もの だ。 きょう も 、お 昼 から 飲んだ のだ。 ゆるして ね」

「お 芝居 が 、うまい の ねえ」

「芝居 じゃあ ない よ 、馬鹿 野郎。 キス して やる ぞ」

「して よ」

「いや 、僕 に は 資格 が 無い。 お 嫁 に もらう の も あきらめ なくちゃ なら ん。 顔 を 見なさ い 、赤い だろう? 飲んだ のだ よ」

「それ あ 、夕 陽 が 当って いる から よ。 かつごう たって 、だめ よ。 きのう 約束 した んです もの。 飲む 筈 が 無い じゃ ない の。 ゲンマン した んです もの。 飲んだ なんて 、ウソ 、ウソ 、ウソ」

薄暗い 店 の 中 に 坐って 微笑 して いる ヨシ ちゃん の 白い 顔 、ああ 、よごれ を 知ら ぬ ヴァジニティ は 尊い もの だ 、自分 は 今 まで 、自分 より も 若い 処女 と 寝た 事 が ない 、結婚 しよう 、どんな 大きな 悲哀 かなしみ が その ため に 後 から やって 来て も よい 、荒っぽい ほど の 大きな 歓楽 よろこび を 、生涯 に いち ど で いい 、処女 性 の 美し さ と は 、それ は 馬鹿な 詩人 の 甘い 感傷 の 幻 に 過ぎ ぬ と 思って いた けれども 、やはり この 世の中 に 生きて 在る もの だ 、結婚 して 春 に なったら 二 人 で 自転車 で 青葉 の 滝 を 見 に 行こう 、と 、その場で 決意 し 、所 謂 「一 本 勝負 」で 、その 花 を 盗む の に ためらう 事 を しません でした。

そうして 自分 たち は 、やがて 結婚 して 、それ に 依って 得た 歓楽 よろこび は 、必ずしも 大きく は ありません でした が 、その後 に 来た 悲哀 かなしみ は 、凄 惨 せいさん と 言って も 足りない くらい 、実に 想像 を 絶して 、大きく やって 来ました。 自分 に とって 、「世の中 」は 、やはり 底 知れ ず 、おそろしい ところ でした。 決して 、そんな 一 本 勝負 など で 、何 から 何 まで きまって しまう ような 、なまやさしい ところ で も 無かった のでした。


第 三 の 手記 一 (4) だい|みっ||しゅき|ひと Third Epistle I (4) Relato de tercera mano I (4) 세 번째 수기 一 (4) 第三注1 (4) 第三註1 (4)

自分 は 、その 店 の お 客 の ようで も あり 、亭主 の ようで も あり 、走り使い の ようで も あり 、親戚 の 者 の ようで も あり 、はた から 見て 甚 はなはだ 得 態 えたいの知れない 存在 だった 筈 な のに 、「世間 」は 少しも あやしま ず 、そうして その 店 の 常連 たち も 、自分 を 、葉 ちゃん 、葉 ちゃん と 呼んで 、ひどく 優しく 扱い 、そうして お 酒 を 飲ま せて くれる のでした。 じぶん|||てん|||きゃく|||||ていしゅ|||||はしりづかい|||||しんせき||もの|||||||みて|じん||とく|なり|えたいのしれない|そんざい||はず|||せけん||すこしも|||||てん||じょうれん|||じぶん||は||は|||よんで||やさしく|あつかい|||さけ||のま|||

自分 は 世の中 に 対して 、次第に 用心 し なく なりました。 じぶん||よのなか||たいして|しだいに|ようじん|||なり ました 世の中 と いう ところ は 、そんなに 、おそろしい ところ で は 無い 、と 思う ように なりました。 よのなか||||||||||ない||おもう||なり ました つまり 、これ まで の 自分 の 恐怖 感 は 、春 の 風 に は 百 日 咳 ひ ゃく にち ぜ き の 黴菌 ばいきん が 何 十万 、銭湯 に は 、目 の つぶれる 黴菌 が 何 十万 、床屋 に は 禿頭 とくとう 病 の 黴菌 が 何 十万 、省 線 の 吊皮 つりかわ に は 疥癬 かいせん の 虫 が うようよ 、または 、お さしみ 、牛 豚肉 の 生 焼け に は 、さ なだ 虫 の 幼虫 やら 、ジストマ やら 、何やら の 卵 など が 必ず ひそんで いて 、また 、はだし で 歩く と 足 の 裏 から ガラス の 小さい 破片 が はいって 、その 破片 が 体 内 を 駈 け めぐり 眼 玉 を 突いて 失明 さ せる 事 も ある と か いう 謂 わ ば 「科学 の 迷信 」に おびやかされて いた ような もの な のでした。 ||||じぶん||きょうふ|かん||はる||かぜ|||ひゃく|ひ|せき|||||||ばいきん|||なん|じゅうまん|せんとう|||め|||ばいきん||なん|じゅうまん|とこや|||とくとう||びょう||ばいきん||なん|じゅうまん|しょう|せん||つりかわ||||かいせん|||ちゅう||||||うし|ぶたにく||せい|やけ|||||ちゅう||ようちゅう||||なにやら||たまご|||かならず||||||あるく||あし||うら||がらす||ちいさい|はへん||||はへん||からだ|うち||く|||がん|たま||ついて|しつめい|||こと||||||い|||かがく||めいしん||おびやかさ れて||||| In other words, my sense of fear up to this point is that there are hundreds of thousands of whooping cough bacteria in the spring breeze, hundreds of thousands of blinding bacteria in public baths, and hundreds of thousands of blinding bacteria in barbershops. There are hundreds of thousands of bald-headed fungi, scabies on the skins of the wire, and larvae and distoma on sashimi and undercooked beef and pork. There's always some sort of egg hidden in there, and if you walk barefoot, small shards of glass can get in from the soles of your feet, and those shards can run around your body, poke your eyeballs, and cause blindness. It was as if I had been threatened by some kind of “scientific superstition.” それ は 、たしかに 何 十万 も の 黴菌 の 浮び 泳ぎ うごめいて いる の は 、「科学 的 」に も 、正確な 事 でしょう。 |||なん|じゅうまん|||ばいきん||うかび|およぎ|||||かがく|てき|||せいかくな|こと| と同時に 、その 存在 を 完全に 黙殺 さえ すれば 、それ は 自分 と みじん の つながり も 無くなって たちまち 消え失せる 「科学 の 幽霊 」に 過ぎ ない のだ と いう 事 を も 、自分 は 知る ように なった のです。 とどうじに||そんざい||かんぜんに|もくさつ|||||じぶん||||||なくなって||きえうせる|かがく||ゆうれい||すぎ|||||こと|||じぶん||しる||| At the same time, I came to know that if I completely ignored its existence, it would be no more than a ``ghost of science'' that would disappear in an instant as the connection between me and myself was lost. . お 弁当 箱 に 食べ 残し の ごはん 三 粒 、千万 人 が 一 日 に 三 粒 ずつ 食べ 残して も 既に それ は 、米 何 俵 を むだに 捨てた 事 に なる 、と か 、或いは 、一 日 に 鼻 紙 一 枚 の 節約 を 千万 人 が 行う ならば 、どれ だけ の パルプ が 浮く か 、など と いう 「科学 的 統計 」に 、自分 は 、どれ だけ おびやかさ れ 、ごはん を 一 粒 でも 食べ 残す 度 毎 に 、また 鼻 を かむ 度 毎 に 、山ほど の 米 、山ほど の パルプ を 空費 する ような 錯覚 に 悩み 、自分 が いま 重大な 罪 を 犯して いる みたいな 暗い 気持 に なった もの です が 、しかし 、それ こそ 「科学 の 嘘 」「統計 の 嘘 」「数学 の 嘘 」で 、三 粒 の ごはん は 集められる もの で なく 、掛算 割算 の 応用 問題 と して も 、まことに 原始 的で 低 能 な テーマ で 、電気 の ついて ない 暗い お 便所 の 、あの 穴 に 人 は 何度 に いち ど 片 脚 を 踏みはずして 落下 さ せる か 、または 、省 線 電車 の 出入 口 と 、プラットホーム の 縁 へり と の あの 隙間 に 、乗客 の 何 人 中 の 何 人 が 足 を 落とし 込む か 、そんな プロバビリティ を 計算 する の と 同じ 程度 に ばからしく 、それ は 如何 いかにも 有り 得る 事 の ようで も あり ながら 、お 便所 の 穴 を またぎ そこねて 怪我 を した と いう 例 は 、少しも 聞か ない し 、そんな 仮説 を 「科学 的 事実 」と して 教え込ま れ 、それ を 全く 現実 と して 受取り 、恐怖 して いた 昨日 まで の 自分 を い と おしく 思い 、笑い たく 思った くらい に 、自分 は 、世の中 と いう もの の 実体 を 少しずつ 知って 来た と いう わけな のでした。 |べんとう|はこ||たべ|のこし|||みっ|つぶ|せんまん|じん||ひと|ひ||みっ|つぶ||たべ|のこして||すでに|||べい|なん|たわら|||すてた|こと|||||あるいは|ひと|ひ||はな|かみ|ひと|まい||せつやく||せんまん|じん||おこなう|||||ぱるぷ||うく|||||かがく|てき|とうけい||じぶん||||||||ひと|つぶ||たべ|のこす|たび|まい|||はな|||たび|まい||やまほど||べい|やまほど||ぱるぷ||くうひ|||さっかく||なやみ|じぶん|||じゅうだいな|ざい||おかして|||くらい|きもち|||||||||かがく||うそ|とうけい||うそ|すうがく||うそ||みっ|つぶ||||あつめ られる||||かけざん|わりざん||おうよう|もんだい|||||げんし|てきで|てい|のう||てーま||でんき||||くらい||べんじょ|||あな||じん||なんど||||かた|あし||ふみはずして|らっか|||||しょう|せん|でんしゃ||しゅつにゅう|くち||ぷらっとほーむ||えん|||||すきま||じょうきゃく||なん|じん|なか||なん|じん||あし||おとし|こむ|||||けいさん||||おなじ|ていど|||||いかが||あり|える|こと|||||||べんじょ||あな||||けが|||||れい||すこしも|きか||||かせつ||かがく|てき|じじつ|||おしえこま||||まったく|げんじつ|||うけとり|きょうふ|||きのう|||じぶん|||||おもい|わらい||おもった|||じぶん||よのなか|||||じったい||すこしずつ|しって|きた|||| Three grains of leftover rice in a lunch box, even if tens of millions of people leave three grains of rice in a day, that's already wasting a few bales of rice. "Scientific statistics" such as how much pulp will float if 10 million people save a single sheet of paper, how much I am frightened, and every time I leave even a single grain of rice uneaten, Also, every time I blew my nose, I was troubled by the illusion that I was wasting mountains of rice and mountains of pulp, and I had a dark feeling that I was committing a serious crime. , that is ``the lie of science'', ``the lie of statistics'', and ``the lie of mathematics'', and the three grains of rice are not things that can be collected, and even as an application problem of multiplication and division, it is a very primitive and low-powered theme. So, how many times do people drop one leg into that hole in the dark, unlit toilet, or into that gap between the exit of the train and the edge of the platform? It's as silly as calculating the probability of how many of the passengers will drop their feet, and how likely it is to step over the toilet hole. I've never heard of anyone getting injured on their knees, and I was indoctrinated into such a hypothesis as a "scientific fact," and I accepted it as reality. To the extent that I felt sorry for it and wanted to laugh, I came to know the reality of the world little by little.

そう は 言って も 、やはり 人間 と いう もの が 、まだまだ 、自分 に は おそろしく 、店 の お 客 と 逢う の に も 、お 酒 を コップ で 一 杯 ぐ い と 飲んで から で なければ いけません でした。 ||いって|||にんげん||||||じぶん||||てん|||きゃく||あう|||||さけ||こっぷ||ひと|さかずき||||のんで||||いけ ませ ん| Having said that, humans are still scary to me, and I have to drink a glass of sake before I meet a customer at a restaurant. bottom. こわい もの 見た さ。 ||みた| 自分 は 、毎晩 、それ でも お 店 に 出て 、子供 が 、実は 少し こわがって いる 小 動物 など を 、かえって 強く ぎゅっと 握って しまう みたいに 、店 の お 客 に 向って 酔って つたない 芸術 論 を 吹きかける ように さえ なりました。 じぶん||まいばん||||てん||でて|こども||じつは|すこし|||しょう|どうぶつ||||つよく||にぎって|||てん|||きゃく||むかい って|よって||げいじゅつ|ろん||ふきかける|||なり ました

漫画 家。 まんが|いえ ああ 、しかし 、自分 は 、大きな 歓楽 よろこび も 、また 、大きな 悲哀 かなしみ も ない 無名 の 漫画 家。 ||じぶん||おおきな|かんらく||||おおきな|ひあい||||むめい||まんが|いえ いかに 大きな 悲哀 かなしみ が あと で やって 来て も いい 、荒っぽい 大きな 歓楽 よろこび が 欲しい と 内心 あせって は いて も 、自分 の 現在 の よろこび たる や 、お 客 と むだ 事 を 言い合い 、お 客 の 酒 を 飲む 事 だけ でした。 |おおきな|ひあい||||||きて|||あらっぽい|おおきな|かんらく|||ほしい||ないしん|||||じぶん||げんざい||||||きゃく|||こと||いいあい||きゃく||さけ||のむ|こと||

京 橋 へ 来て 、こういう くだらない 生活 を 既に 一 年 ちかく 続け 、自分 の 漫画 も 、子供 相手 の 雑誌 だけ で なく 、駅 売り の 粗悪で 卑猥 ひわ いな 雑誌 など に も 載る ように なり 、自分 は 、上司 幾 太 (情 死 、生きた )と いう 、ふざけ 切った 匿名 で 、汚い はだか の 絵 など 画 き 、それ にたいてい ルバイヤット の 詩 句 を 插入 そうにゅう しました。 けい|きょう||きて|||せいかつ||すでに|ひと|とし||つづけ|じぶん||まんが||こども|あいて||ざっし||||えき|うり||そあくで|ひわい|||ざっし||||のる|||じぶん||じょうし|いく|ふと|じょう|し|いきた||||きった|とくめい||きたない|||え||が|||に たいてい|||し|く||そうにゅう||し ました

無駄な 御 祈り なんか 止 よせったら むだな|ご|いのり||や|よせ ったら Useless prayer If you stop something

涙 を 誘う もの なんか かなぐりすてろ なみだ||さそう|||

ま ア 一 杯 いこう 好 い こと ばかり 思 出して ||ひと|さかずき||よしみ||||おも|だして

よけいな 心づかい なんか 忘れっち まい な |こころづかい||わすれ っち||

不安 や 恐怖 もて 人 を 脅 や かす 奴 輩 や から は ふあん||きょうふ||じん||おど|||やつ|やから|||

自 みずから の 作り し 大それた 罪 に 怯 おびえ じ|||つくり||だいそれた|ざい||きょう|

死 に し もの の 復讐 ふくしゅう に 備え ん と し|||||ふくしゅう|||そなえ||

自 みずから の 頭 に たえず 計 い を 為 なす じ|||あたま|||けい|||ため|

よべ 酒 充 ち て 我 ハート は 喜び に 充 ち |さけ|まこと|||われ|はーと||よろこび||まこと|

けさ さめて 只 ただ に 荒涼 ||ただ|||こうりょう

いぶかし 一夜 ひと よ さ の 中 |いちや|||||なか In the midst of a blissful night

様変り たる 此 この 気分 よ さまがわり||これ||きぶん| This mood has changed

祟 たたり なんて 思う こと 止 やめて くれ たたり|||おもう||や|| Please stop thinking that it's a curse.

遠く から 響く 太鼓 の ように とおく||ひびく|たいこ||

何 が な しそ いつ は 不安だ なん||||||ふあんだ I'm worried about what's going on

屁 へ ひった こと 迄 まで 一 々 罪 に 勘定 さ れたら 助から ん わ い へ||ひ った||まで||ひと||ざい||かんじょう|||たすから|||

正義 は 人生 の 指針 たり と や? せいぎ||じんせい||ししん|||

さらば 血 に 塗ら れ たる 戦場 に |ち||ぬら|||せんじょう| Farewell to the bloody battlefield

暗殺 者 の 切 尖 きっさ き に あんさつ|もの||せつ|とが||| At the assassin's sharp edge

何の 正義 か 宿 れる や? なんの|せいぎ||やど||

いずこ に 指導 原理 あり や? ||しどう|げんり||

いかなる 叡智 えいち の 光 あり や? |えいち|||ひかり|| What kind of light of wisdom is there?

美 うるわしく も 怖 おそろしき は 浮世 なれ び|||こわ|||うきよ| Beautiful and scary are floating worlds

かよわき 人 の 子 は 背負 切れ ぬ 荷 を ば 負わさ れ |じん||こ||せお|きれ||に|||おわさ| The fragile child of man is forced to carry a burden that he cannot bear.

どうにも でき ない 情 慾 の 種子 を 植えつけられた 許 ばかりに |||じょう|よく||しゅし||うえつけ られた|ゆる| I was planted with a seed of passion that I couldn't do anything about

善 だ 悪 だ 罪 だ 罰 だ と 呪 の ろ わる る ばかり ぜん||あく||ざい||ばち|||まじない|||||

どうにも でき ない 只 まごつく ばかり |||ただ|| I can't help it, I'm just confused

抑え 摧 くだく 力 も 意志 も 授けられ ぬ 許 り に おさえ|さい||ちから||いし||さずけ られ||ゆる|| Without being given the power to suppress or the will

どこ を どう 彷徨 うろつき まわって たんだい |||さまよ||| Where did you wander around?

ナニ 批判 検討 再 認識? |ひはん|けんとう|さい|にんしき Nani Criticism Examination Re-recognition?

ヘッ 空 むなしき 夢 を あり も し ない 幻 を |から||ゆめ||||||まぼろし|

エヘッ 酒 を 忘れた んで みんな 虚 仮 こけ の 思案 さ |さけ||わすれた|||きょ|かり|||しあん|

どう だ 此涯 は て も ない 大空 を 御 覧よ ||これがい|||||おおぞら||ご|みよ What do you think? Look at the endless sky

此中 に ポッチリ 浮んだ 点じ ゃい これなか|||うかんだ|てんじ| It's a dot that pops up in this

此 地球 が 何 んで 自転 する の か 分 る もんか これ|ちきゅう||なん||じてん||||ぶん||

自転 公転 反転 も 勝手で すわ い じてん|こうてん|はんてん||かってで|| Rotation, revolution, and reversal are also arbitrary

至る処 ところ に 至高 の 力 を 感じ いたるところ|||しこう||ちから||かんじ Feel the supreme power everywhere

あらゆる 国 に あらゆる 民族 に |くに|||みんぞく|

同一の 人間 性 を 発見 する どういつの|にんげん|せい||はっけん|

我 は 異端 者 なり と か や われ||いたん|もの||||

みんな 聖 経 を よみ違えて ん の よ |せい|へ||よみちがえて|||

で なきゃ 常識 も 智 慧 ちえ も ない の よ ||じょうしき||さとし|さとし||||| Otherwise, there is no common sense or wisdom.

生身 いきみ の 喜び を 禁じたり 酒 を 止めたり なまみ|||よろこび||きんじたり|さけ||とどめたり Forbid the joy of flesh and blood and stop drinking

いい わ ムスタッファ わたし そんな の 大嫌い ||||||だいきらい

けれども 、その頃 、自分 に 酒 を 止めよ 、と すすめる 処女 が いました。 |そのころ|じぶん||さけ||とどめよ|||しょじょ||い ました However, at that time, there was a virgin who advised him to stop drinking.

「いけない わ 、毎日 、お 昼 から 、酔って いらっしゃる」 ||まいにち||ひる||よって| "No, you've been drunk since noon every day."

バア の 向 い の 、小さい 煙草 屋 の 十七 、八 の 娘 でした。 ||むかい|||ちいさい|たばこ|や||じゅうしち|やっ||むすめ| ヨシ ちゃん と 言い 、色 の 白い 、八重歯 の ある 子 でした。 よし|||いい|いろ||しろい|やえば|||こ| 自分 が 、煙草 を 買い に 行く たび に 、笑って 忠告 する のでした。 じぶん||たばこ||かい||いく|||わらって|ちゅうこく||

「なぜ 、いけない んだ。 どうして 悪い んだ。 |わるい| ある だけ の 酒 を のんで 、人 の 子 よ 、憎悪 を 消せ 消せ 消せ 、って ね 、むかし ペルシャ の ね 、まあ よそう 、悲しみ 疲れ たる ハート に 希望 を 持ち 来す は 、ただ 微 醺 び くん を もたらす 玉 杯 なれ 、って ね。 |||さけ|||じん||こ||ぞうお||けせ|けせ|けせ|||||||||かなしみ|つかれ||はーと||きぼう||もち|きたす|||び|くん|||||たま|さかずき||| Drink as much wine as you can, child of man, erase your hatred, erase it, you know, in the old days of Persia, well, you know, to bring hope to a sad and weary heart, just a little bit of sourdough Be the ball that brings you. わかる かい」 do you understand

「わから ない」

「この 野郎。 |やろう キス して やる ぞ」 きす||| I'll kiss you."

「して よ」

ちっとも 悪びれ ず 下 唇 を 突き出す のです。 |わるびれ||した|くちびる||つきだす| I stick out my lower lip without any hesitation.

「馬鹿 野郎。 ばか|やろう 貞 操 観念、……」 さだ|みさお|かんねん The concept of chastity..."

しかし 、ヨシ ちゃん の 表情 に は 、あきらかに 誰 に も 汚されて いない 処女 の に おい が して いました。 |よし|||ひょうじょう||||だれ|||けがさ れて||しょじょ||||||い ました However, Yoshi-chan's expression clearly had the scent of a virgin who had not been defiled by anyone.

とし が 明けて 厳寒 の 夜 、自分 は 酔って 煙草 を 買い に 出て 、その 煙草 屋 の 前 の マンホール に 落ちて 、ヨシ ちゃん 、たすけて くれ え 、と 叫び 、ヨシ ちゃん に 引き上げられ 、右腕 の 傷 の 手当 を 、ヨシ ちゃん に して もらい 、その 時 ヨシ ちゃん は 、しみじみ、 ||あけて|げんかん||よ|じぶん||よって|たばこ||かい||でて||たばこ|や||ぜん||まんほーる||おちて|よし||||||さけび|よし|||ひきあげ られ|みぎうで||きず||てあて||よし||||||じ|よし||| On a bitterly cold night after dawn, I got drunk and went out to buy cigarettes, fell into the manhole in front of the tobacco shop, and shouted, "Yoshi-chan, help me!" I asked Yoshi-chan to give me an allowance.

「飲み すぎます わ よ」 のみ|すぎ ます|| "I'm drinking too much."

と 笑わ ず に 言いました。 |わらわ|||いい ました

自分 は 死ぬ の は 平気な んだ けど 、怪我 を して 出血 して そうして 不 具 者 など に なる の は 、まっぴら ごめん の ほう です ので 、ヨシ ちゃん に 腕 の 傷 の 手当 を して もらい ながら 、酒 も 、もう いい加減に よそう かしら 、と 思った のです。 じぶん||しぬ|||へいきな|||けが|||しゅっけつ|||ふ|つぶさ|もの||||||||||||よし|||うで||きず||てあて|||||さけ|||いいかげんに||||おもった| I don't mind dying myself, but I don't want to get injured, bleed, and become disabled, so I asked Yoshi to treat the wound on my arm. , I wondered if I should stop drinking.

「やめる。 あした から 、一 滴 も 飲ま ない」 ||ひと|しずく||のま|

「ほんとう?

「きっと 、やめる。 やめたら 、ヨシ ちゃん 、僕 の お 嫁 に なって くれる かい? |よし||ぼく|||よめ||||

しかし 、お 嫁 の 件 は 冗談 でした。 ||よめ||けん||じょうだん|

「モチ よ」 もち|

モチ と は 、「勿論 」の 略語 でした。 もち|||もちろん||りゃくご| モボ だの 、モガ だの 、その頃 いろんな 略語 が はやって いました。 ||||そのころ||りゃくご|||い ました

「ようし。 ゲンマン しよう。 きっと やめる」

そうして 翌 あくる 日 、自分 は 、やはり 昼 から 飲みました。 |よく||ひ|じぶん|||ひる||のみ ました Then, the next day, I started drinking from noon.

夕方 、ふらふら 外 へ 出て 、ヨシ ちゃん の 店 の 前 に 立ち、 ゆうがた||がい||でて|よし|||てん||ぜん||たち

「ヨシ ちゃん 、ごめん ね。 よし||| 飲んじゃった」 のんじゃ った

「あら 、いやだ。 酔った 振り なんか して」 よった|ふり|| Pretend you're drunk

ハッと しました。 はっと|し ました 酔い も さめた 気持 でした。 よい|||きもち| I felt sober.

「いや 、本当な んだ。 |ほんとうな| 本当に 飲んだ のだ よ。 ほんとうに|のんだ|| 酔った 振り なんか して る んじゃ ない」 よった|ふり|||||

「からかわ ないで よ。 "Don't tease me. ひと が わるい」

てんで 疑おう と し ない のです。 |うたがおう||||

「見れば わかり そうな もの だ。 みれば||そう な|| きょう も 、お 昼 から 飲んだ のだ。 |||ひる||のんだ| ゆるして ね」

「お 芝居 が 、うまい の ねえ」 |しばい||||

「芝居 じゃあ ない よ 、馬鹿 野郎。 しばい||||ばか|やろう キス して やる ぞ」 きす|||

「して よ」

「いや 、僕 に は 資格 が 無い。 |ぼく|||しかく||ない お 嫁 に もらう の も あきらめ なくちゃ なら ん。 |よめ|||||||| 顔 を 見なさ い 、赤い だろう? かお||みなさ||あかい| 飲んだ のだ よ」 のんだ||

「それ あ 、夕 陽 が 当って いる から よ。 ||ゆう|よう||あたって||| かつごう たって 、だめ よ。 きのう 約束 した んです もの。 |やくそく||| 飲む 筈 が 無い じゃ ない の。 のむ|はず||ない||| ゲンマン した んです もの。 It was Genman. 飲んだ なんて 、ウソ 、ウソ 、ウソ」 のんだ||うそ|うそ|うそ

薄暗い 店 の 中 に 坐って 微笑 して いる ヨシ ちゃん の 白い 顔 、ああ 、よごれ を 知ら ぬ ヴァジニティ は 尊い もの だ 、自分 は 今 まで 、自分 より も 若い 処女 と 寝た 事 が ない 、結婚 しよう 、どんな 大きな 悲哀 かなしみ が その ため に 後 から やって 来て も よい 、荒っぽい ほど の 大きな 歓楽 よろこび を 、生涯 に いち ど で いい 、処女 性 の 美し さ と は 、それ は 馬鹿な 詩人 の 甘い 感傷 の 幻 に 過ぎ ぬ と 思って いた けれども 、やはり この 世の中 に 生きて 在る もの だ 、結婚 して 春 に なったら 二 人 で 自転車 で 青葉 の 滝 を 見 に 行こう 、と 、その場で 決意 し 、所 謂 「一 本 勝負 」で 、その 花 を 盗む の に ためらう 事 を しません でした。 うすぐらい|てん||なか||すわって|びしょう|||よし|||しろい|かお||||しら||||とうとい|||じぶん||いま||じぶん|||わかい|しょじょ||ねた|こと|||けっこん|||おおきな|ひあい||||||あと|||きて|||あらっぽい|||おおきな|かんらく|||しょうがい||||||しょじょ|せい||うつくし||||||ばかな|しじん||あまい|かんしょう||まぼろし||すぎ|||おもって|||||よのなか||いきて|ある|||けっこん||はる|||ふた|じん||じてんしゃ||あおば||たき||み||いこう||そのばで|けつい||しょ|い|ひと|ほん|しょうぶ|||か||ぬすむ||||こと||し ませ ん| Yoshi-chan's white face sitting in a dimly lit store and smiling, oh, the dirt-free vaginality is precious, I've never slept with a virgin younger than myself, no matter what. Great sorrowful grief may come later for that, a rough, great joy, once in a lifetime, the beauty of virginity, the sweet sentiment of a stupid poet. I thought it was just a living, but I still live in this world, and when I got married and it was spring, I decided to go to see Aoba Falls on a bicycle together, and I decided on the spot. In the so-called "one game", I didn't hesitate to steal the flower.

そうして 自分 たち は 、やがて 結婚 して 、それ に 依って 得た 歓楽 よろこび は 、必ずしも 大きく は ありません でした が 、その後 に 来た 悲哀 かなしみ は 、凄 惨 せいさん と 言って も 足りない くらい 、実に 想像 を 絶して 、大きく やって 来ました。 |じぶん||||けっこん||||よって|えた|かんらく|||かならずしも|おおきく||あり ませ ん|||そのご||きた|ひあい|||すご|さん|||いって||たりない||じつに|そうぞう||ぜっして|おおきく||き ました And so, before long, we got married, and although the joy that came from that wasn't necessarily great, the sorrow that came afterward was more than terrifying. It has come a long way beyond imagination. 自分 に とって 、「世の中 」は 、やはり 底 知れ ず 、おそろしい ところ でした。 じぶん|||よのなか|||そこ|しれ|||| 決して 、そんな 一 本 勝負 など で 、何 から 何 まで きまって しまう ような 、なまやさしい ところ で も 無かった のでした。 けっして||ひと|ほん|しょうぶ|||なん||なん|||||||||なかった| In no way was there such a naive place where everything was decided in a one-off match.