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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (3)

悪人 下 (3)

目立た ない ように 、 増尾 圭 吾 は 午前 の 内 に サウナ を 出た 。 できれば 客 の 少なく なった 仮眠 室 で 昼 すぎ まで ゆっくり と 眠って い たかった のだ が 、 客 が 減れば 、 従業 員 に も 目 を つけられ やすく なる 。 まさか 指名 手配 中 の 写真 付き ビラ が 、 ここ 名古屋 の サウナ まで 配布 されて いる と は 思え ない が 、 それ でも さっき 受付 で ロッカ ーキー を 手渡した 従業 員 の 目 が 、 何 か を 感づいた ような 気 が しない で も ない 。 睡眠 不足 の まま 飛び出した 街 は 冬 晴れ で 、 日 の 当たら ない 場所 に いた せい か 、 歩道 に 出た とたん 立ち くらみ が する ほど 眩 しかった 。 増尾 は とりあえず 名古屋 駅 へ 向かい ながら 、 財布 の 中身 を 確認 した 。 福岡 を 出る とき に 五十万 円 ほど 引き出して きた ので 、 まだ 心配 する 必要 は ない のだ が 、 逃亡 先 で キャッ シュカード を 使う わけに も いか ず 、 と なる と この 残金 が 命綱 に なる 。 日 は 差して いた が 、 風 は 冷たかった 。 名古屋 駅前 に 林立 する 高層 ビル に 吹きつける 寒 風 が 足元 から 増尾 の からだ を 冷やす 。 事件 を 知って 、 マンション を 飛び出して 以来 、 ずっと 着 続けて いる ダウン ジャケット あか の 襟 が 、 汗 と 垢 で ぬるぬる して いる 。 下着 や 靴下 は コンビニ で 新しい の を 買った が 、 さ す が に 上着 まで 買い替える 余裕 は ない 。 し の 駅前 の ロータリー まで 来る と 、 増尾 は 案内 板 の 裏 に 隠れて 風 を 凌いだ 。 目の前 で は 地 下 街 から 上がって きた 人々 が 駅 構内 へ と 吸い込まれて いく 。 昨夜 、 サウナ に あった 新聞 を 何 紙 か 読んで みた が 、 もう どこ に も 事件 の 記事 は 出て い なかった 。 あれ だけ 時間 を 割いて 報道 して いた ワイドショー でも 、 数 日 前 に 起こった 介 護 疲れ から 義父 を 殺害 した 主婦 の 事件 が 今 は メイン で 、 三瀬 峠 の 「 み 」 の 字 も 出て こな い 増尾 は 案内 板 の 陰 で たばこ に 火 を つけた 。 一服 吸う と 、 自分 が ひどく 空腹である こと に 気づき 、 つけた ばかりの たばこ を 踏み 消して 、 地下 街 へ 降りた 。 駅 へ と 上がって くる 入 ごみ を 掻き分け ながら 、 増尾 は 一 歩 ずつ 階段 を 下りた 。 一 歩 ご と に 「 このまま 逃げ 切れる わけ が ない 」 と いう 言葉 と 、「 納得 いか ない 」 と いう 気持ち が 交互に 浮かんで くる 。 あんな 女 を 殺す 気 など 更々 なかった のだ 。 もっと 言えば 、 あんな 女 と 関わり たく も な かった 。 ただ 、 あの 夜 、 あの 寒い 三瀬 峠 に あの 女 を 連れて 行き 、 そして 置き去り に して きた の は 紛れ も なく 自分 な のだ 。 あの 夜 、 東公園 沿い の 通り で 石橋 佳乃 を 助手 席 に 乗せる と 、 増尾 は とりあえず 車 を 出 した 。 口 で は 「 三瀬 峠 に 肝 試し 」 など と 言って いた が 、 走り出して すぐに 面倒臭く なっていた 。 助手 席 の 佳乃 は 車 が 走り出す と 、 さっき まで 一緒に 食事 して いた と いう 友達 の 話 を 始 め た 。 「 ほら 、 天神 の バー で 会った とき 、 一緒 やった 女の子 たち 、 覚え とら ん ? 」 本気で ドライブ する つもりな の か 、 佳乃 が シートベルト を 締め 始める ので 、 さっさと 会話 を 終わら せよう と 、「 さあ ? 」 と 首 を 捻った のだ が 、「 ほら 、 あの とき 、 私 たち 三 人 やった ろ ? 沙 里 ちゃんって 、 背 が 高くて ちょっと きつ めの 顔 した 子 で ……」 と 、 一方 的に 喋り 続ける 。 車 を 出した は いい が 行く 当て も なかった 増尾 は 、 適当に ハンドル を 切り 、 信号 が 変わ り そうに なる と アクセル を 踏み込んで 交差 点 を 渡った 。 いつの間にか 東公園 は 遠く 後方 に 退き 、 頭上 に は 都市 高速 の 高架 が 見えた 。 「 増尾 くん 、 明日 学校 休み な ん ? 」 勝手に 暖房 の 風 量 を 調節 した 佳乃 が 、 今度 は 勝手に 足元 の CD ボックス を 開けよう と する 。 「 なんで ? 」 会話 を 続ける 気 は なかった が 、 CD ボックス を 開けられる の が 嫌で 、 増尾 は 声 を 返し た 。 「 だって 、 これ から ドライブ したら 帰り 遅く なる し …:.」 佳乃 は CD ボックス を 膝 の 上 に 置き は した が 、 開け なかった 。 「 そっち は ? 」 と 増尾 は 顎 を しや くった 。 行きがかり 上 と は いえ 、 こんな 女 を 助手 席 に 乗せて 行く 当て も なく 車 を 走ら せて いる 自分 に 苛立って いた 。 「 私 ? 私 は 仕事 。 でも 、 いつも 直行 と かって ボード に 書 い とる けん 、 遅刻 して も 大 丈 夫 つち やけ どれ 」 「 仕事って 何の ? 」 思わず 尋ねた 増尾 の 腕 を 、「 もう 〜、 信じられ ん 〜」 と 言い ながら 、 佳乃 が 甘える よ う に 叩いて くる 。 「 この前 、 保険 会社って 教えた ろ 〜」 何 が 嬉しい の か 、 佳乃 が そう 言って 一 人 で ケラケラ 笑い 出す 。 増尾 は 佳乃 が 笑い 終わ る の を 辛抱強く 待ち 、 やっと 笑い 終わった ところ で 、「 なんか さ 、 ニンニク 臭う な い ? 」 と 冷たく 言った 。 一瞬 、 佳乃 の 表情 が 硬直 し 、 さっき から 開けっ放しだった 口 を 一 文字 に 閉じる 。 増尾 は 何も 言わ ず に 助手 席 側 の 窓 を 開けた 。 寒風 が 佳乃 の 髪 を 乱した 。 ニンニク の 臭い が 車 内 から 流れ出る と 、 あっという間 に 足元 から 底冷え する ような 夜 気 が 忍び込んで きた 。 車 は すでに 繁華街 に 出て いた が 、 珍しく 信号 に 一 つ も 引っかから ない 。 やゆ 口臭 の こと を 椰楡 されて 、 少し は 黙る か と 思った 佳乃 も 、 バッグ の 中 から ペパーミン ト の ガム を 取り出して 、「 今 、 鉄 鍋 餃子 食べて きた ばかりっちゃ ん 」 と 言い訳 を 始める 。 クリスマスシーズン 真っ盛り 、 天神 の 街路 樹 は ライト アップ さ れ 、 歩道 に は 腕 を 組 ん で歩く カップル が 溢れて いる 。 増尾 は アクセル を 踏み込んだ 。 一瞬にして 、 カップル た ち が 背後 に 吹き飛んで いく 。 「 なんか 、 沙 里 ちゃん と か 眞子 ちゃん 、 私 と 増尾 くん が 付き合い よるって 思う とるっち ゃん 。 もちろん 、 違うって 言う たっちゃ けど 、 信じて くれ ん し 」 奥歯 で ガム を 噛み ながら 、 佳乃 は 話し 続けた 。 急 ハンドル を 切って 乱暴に 車線 を 変え て も 、 急 ブレーキ を 踏んで も 、 黙り 込む こと が ない 。 「 だって 付き合っと らんし .…..」 と 増尾 は 冷たく 言った 。 誰 が お前 なんか と 付き合う か 、 と 心 の 中 で は 言って いた 。 「 ねえ 、 増尾 くんって どういう 子 が 好きな ん ? 」 「 別に 」 「 タイプ と かない ん ? 」 面倒だった ので 、 急 ハンドル を 切った 。 切った 先 が 三瀬 峠 へ 向かう 国道 263 号 だった 。 「 そう 言えば 、 さっき 公園 の 便所 で 小便 し とったら 、 ホモ に 声 かけられた 」 増尾 は 話 を 変えた 。 「 うそ ? で 、 どうした と ? 」 「 殺す ぞ ! って 脅したら 逃げてった 。 マジ で 、 ああいう 奴 ら 、 立ち入り 禁止 に する べ きや ね 」 増尾 は 唾 でも 吐き出す ように 断言 した が 、 佳乃 は あまり 興味 ない ようで 、「 でも 、 そ う いう 人 に とっちゃ 、 普通の 街 が 立ち入り 禁止 みたいに されて 、 ああいう 所 しか 残って ない つち や ない ? 考えたら ちょっと かわいそう や ない ? 世の中 いろんな 人 が おる と に ねえ 」 と ガム を もう 一 つ 口 に 入れる 。 話 を 変えた つもり が 、 予想外に 反論 されて 、 増尾 は 返す 言葉 が なかった 。 通り から は 繁華街 の 華やか さ が 消え 、 徐々に 閑散 と して いった 。 それ でも 街灯 に は ク 、 ワ た たび リスマスセール を 躯った 商店 街 の 旗 が 座 いて いる 。 華やか さ の ない クリスマス ほど 、 物 悲しい もの は ない 。 佳乃 は 口 の 中 の ガム を 紙 に 包んで 捨てる まで 喋り 続けた 。 帰りたい と は 言わ なかった 。 停車 する タイミング も なく 、 車 は 国道 263 号 を 南下 して 、 三瀬 峠 へ 向かって いた 。 峠 道 に 入って しまう と 、 ほとんど すれ違う 車 は なく なった 。 ときどき ルームミラー に かなり 背後 を 走って くる 車 の ライト が ちらっと 見えた が 、 前 を 走る 車 は なかった 。 峠 道 の 冷たい アスファルト を 、 車 の ライト だけ が 青白く 照らして いた 。 カーブ を 曲がる たび き は だ に ライト が ガード レール 先 の 藪 を 照らし 、 複雑な 模様 を した 樹 肌 が くっきり と 見てとれ た 。 一方的に 喋り 続ける 佳乃 を 無視 して 、 増尾 は アクセル を 踏み 続けた 。 あれ は 何の 川 だった か 、 佳乃 が 勝手に CD ボックス を 開け 、「 あ 〜、 私 、 この 曲 、 マジ で 好 いと 〜 と 〜」 と 、 流し 始めた 甘ったるい バラード が 、 もう 何度 も 繰り返されて いた 。 あれ は 何度 目 に 佳乃 が リピートボタン を 押そう と した とき だった か 、 とつぜん 「 こう いう 女 が 男 に 殺さ れる つち やろ な 」 と 増尾 は 思った 。 本当に ふと そう 思った のだ 。 こういう 女 の 「 こういう 」 が 「 どういう 」 の か は 説明 でき ない が 、 間違い なく 「 こう げき りん いう 」 女 が 、 ある とき 男 の 逆 鱗 に 触れて 、 あっけなく 殺さ れる のだろう と 。 増尾 は 徐々に 急に なって いく カーブ で ハンドル を 切り ながら 、 助手 席 で 自分 の 好きな バラード を 呑気 に ハミング して いる 女 の 行く末 を 想像 して いた 。 保険 の 外交 員 を し ながら 小 金 を 貯 め て 、 休日 に は ブランド ショップ の 鏡 に 映る 自分 を 眺める 。 本当の 自分 は ……、 本当の 自分 は ……、 と いう の が 口癖 で 、 三 年 も 働けば 、 思 い 描いて いた 本当の 自分 が 、 実は 本当の 自分 なんか じゃ なかった こと に やっと 気 が つく 。 あと は 自分 の 人生 投げ出して 、 どうにか 見つけ出した 男 に 、 それ を 丸 投げ 。 丸 投げ さ れ て も 男 は 困る 。 私 の 人生 どうして くれる ? 今度 は それ が 口癖 に なり 、 徐々に つのる 旦 那 へ の 不満 と 反比例 して 、 子供 へ の 期待 だけ が 膨らんで いく 。 公園 で は 他の 母親 と 競い 合い 、 いつしか 仲良し グループ を 作って は 、 誰 か の 悪 口 。 自分 で は 気づいて いない が 、 仲間 だけ で 身 を 寄せ合って 、 気 に 入ら ない 誰 か の 悪 口 を 言って いる その 姿 は 、 中学 、 高 校 、 短大 と 、 ずっと 過ごして きた 自分 の 姿 と まるで 同じ 。 「 ねえ 、 どこ まで 行く と ? 」 とつぜん 助手 席 の 佳乃 に 声 を かけられ 、 増尾 は 、「 あ ? 」 と 無愛想な 声 を 返した 。 い つ の 間 に か 、 佳乃 の 好きな バラード は 終わり 、 妙に 軽快な 曲 が 流れて いた 。 「 マジ で 峠 越える と ? この先 、 ほんとに 何も ない よ 。 昼やったら 、 美味しい カレー 屋 さん と か 、 パン 屋 さん と か ある けど ..….、 あ 、 ねえ 、 さっき 通った そば 屋 さん 、 ほら 、 もう 閉ま つ とった けど 、 あそこ 、 行った こと ある ? すごく 美味しい とって 。 前 に 友達 が そう 言い よった 。 …… どうした と ? さっき から ずっと 黙り 込んで 〜」 軽快な 曲 に 合わせる ように 、 次 から 次に 佳乃 の 口 から 言葉 が 溢れ 出す 。 本気で これ が デート だ と 勘違い して いる らしい 。 「 そう 言えば 、 増尾 くん の 実家って 湯布院 の 老舗 旅館 な ん やろ ? 別府 に 大きな ホテル も ある らしいたい 。 すご か よれ 。 って こと は 、 増尾 くん の お母さん が 女将 さん やろ ? なんか 、 女将 さんって 大 変そう 」 佳乃 が そう 言い ながら 、 また 噛み 続けて いた ガム を 、 ずっと 握って いた らしい 紙 に 吐 き 出す 。 「・…: たしかに 俺 の おふくろ は 女将 やけど 、 別に あんた が 心配 する こと なか よ 」 と 増尾 は 言った 。 自分 でも 驚く ほど 冷たい 声 だった 。 口元 に 寄せた 紙 に ガム を 出した ばかりの 佳乃 が 、 きょとんと して いる 。 「 あんた と は タイプ 違う し 」 「 誼 え ? .」 きょとんと した 佳乃 が 訊 き 返して くる 。 ? 「 だけ ん 、 あんた とうち の おふくろ は 女 の タイプ が 違うって こと 。


悪人 下 (3) あくにん|した The Bad Guy (3) Méchant, en bas (3).

目立た ない ように 、 増尾 圭 吾 は 午前 の 内 に サウナ を 出た 。 めだた|||ますお|けい|われ||ごぜん||うち||さうな||でた To make it inconspicuous, Keigo Masuo left the sauna in the morning. Keigo Masuo a quitté discrètement le sauna le matin. できれば 客 の 少なく なった 仮眠 室 で 昼 すぎ まで ゆっくり と 眠って い たかった のだ が 、 客 が 減れば 、 従業 員 に も 目 を つけられ やすく なる 。 |きゃく||すくなく||かみん|しつ||ひる|||||ねむって|||||きゃく||へれば|じゅうぎょう|いん|||め||つけ られ|| J'aurais préféré dormir dans la salle de sieste jusqu'à midi, quand il y a moins de clients, mais moins il y a de clients, plus les employés risquent de me remarquer. まさか 指名 手配 中 の 写真 付き ビラ が 、 ここ 名古屋 の サウナ まで 配布 されて いる と は 思え ない が 、 それ でも さっき 受付 で ロッカ ーキー を 手渡した 従業 員 の 目 が 、 何 か を 感づいた ような 気 が しない で も ない 。 |しめい|てはい|なか||しゃしん|つき|びら|||なごや||さうな||はいふ|さ れて||||おもえ||||||うけつけ|||-キー||てわたした|じゅうぎょう|いん||め||なん|||かんづいた||き||し ない||| Je ne pense pas que des brochures avec une photo du processus de nomination aient été distribuées dans les saunas de Nagoya, mais je ne peux m'empêcher de penser que l'employée qui m'a remis la clé du casier à la réception tout à l'heure avait un soupçon de quelque chose dans les yeux. 睡眠 不足 の まま 飛び出した 街 は 冬 晴れ で 、 日 の 当たら ない 場所 に いた せい か 、 歩道 に 出た とたん 立ち くらみ が する ほど 眩 しかった 。 すいみん|ふそく|||とびだした|がい||ふゆ|はれ||ひ||あたら||ばしょ|||||ほどう||でた||たち|||||くら| J'ai couru dans la ville, privé de sommeil, sous le soleil d'hiver, et comme j'étais dans un endroit où il n'y avait pas de soleil, j'ai été tellement ébloui que je me suis levé dès que j'ai posé le pied sur le trottoir. 増尾 は とりあえず 名古屋 駅 へ 向かい ながら 、 財布 の 中身 を 確認 した 。 ますお|||なごや|えき||むかい||さいふ||なかみ||かくにん| Masuo vérifie son portefeuille et se dirige vers la gare de Nagoya. 福岡 を 出る とき に 五十万 円 ほど 引き出して きた ので 、 まだ 心配 する 必要 は ない のだ が 、 逃亡 先 で キャッ シュカード を 使う わけに も いか ず 、 と なる と この 残金 が 命綱 に なる 。 ふくおか||でる|||ごじゅうまん|えん||ひきだして||||しんぱい||ひつよう|||||とうぼう|さき|||||つかう|||||||||ざんきん||いのちづな|| J'ai retiré environ 500 000 yens lorsque j'ai quitté Fukuoka, je n'ai donc pas encore à m'en préoccuper, mais je ne peux pas utiliser ma carte de paiement à l'endroit où je m'enfuis, alors l'argent qu'il me reste sera ma bouée de sauvetage. 日 は 差して いた が 、 風 は 冷たかった 。 ひ||さして|||かぜ||つめたかった 名古屋 駅前 に 林立 する 高層 ビル に 吹きつける 寒 風 が 足元 から 増尾 の からだ を 冷やす 。 なごや|えきまえ||りんりつ||こうそう|びる||ふきつける|さむ|かぜ||あしもと||ますお||||ひやす 事件 を 知って 、 マンション を 飛び出して 以来 、 ずっと 着 続けて いる ダウン ジャケット あか の 襟 が 、 汗 と 垢 で ぬるぬる して いる 。 じけん||しって|まんしょん||とびだして|いらい||ちゃく|つづけて||だうん|じゃけっと|||えり||あせ||あか|||| Le col de ma doudoune rouge, que je porte depuis que j'ai découvert l'incident et que je me suis enfui de l'appartement, est couvert de sueur et de saleté. 下着 や 靴下 は コンビニ で 新しい の を 買った が 、 さ す が に 上着 まで 買い替える 余裕 は ない 。 したぎ||くつした||こんびに||あたらしい|||かった||||||うわぎ||かいかえる|よゆう|| J'ai acheté de nouveaux sous-vêtements et de nouvelles chaussettes à la supérette, mais je n'avais pas les moyens d'acheter une nouvelle veste. し の 駅前 の ロータリー まで 来る と 、 増尾 は 案内 板 の 裏 に 隠れて 風 を 凌いだ 。 ||えきまえ||ろーたりー||くる||ますお||あんない|いた||うら||かくれて|かぜ||しのいだ Lorsqu'ils atteignirent le rond-point devant la gare, Masuo se cacha derrière un panneau d'affichage pour s'abriter du vent. 目の前 で は 地 下 街 から 上がって きた 人々 が 駅 構内 へ と 吸い込まれて いく 。 めのまえ|||ち|した|がい||あがって||ひとびと||えき|こうない|||すいこま れて| Devant eux, des gens du monde souterrain sont aspirés dans les locaux de la station. 昨夜 、 サウナ に あった 新聞 を 何 紙 か 読んで みた が 、 もう どこ に も 事件 の 記事 は 出て い なかった 。 さくや|さうな|||しんぶん||なん|かみ||よんで|||||||じけん||きじ||でて|| J'ai lu quelques journaux dans le sauna hier soir, mais il n'y avait plus d'articles sur l'incident nulle part. あれ だけ 時間 を 割いて 報道 して いた ワイドショー でも 、 数 日 前 に 起こった 介 護 疲れ から 義父 を 殺害 した 主婦 の 事件 が 今 は メイン で 、 三瀬 峠 の 「 み 」 の 字 も 出て こな い 増尾 は 案内 板 の 陰 で たばこ に 火 を つけた 。 ||じかん||さいて|ほうどう|||||すう|ひ|ぜん||おこった|かい|まもる|つかれ||ぎふ||さつがい||しゅふ||じけん||いま||||みつせ|とうげ||||あざ||でて|||ますお||あんない|いた||かげ||||ひ|| 一服 吸う と 、 自分 が ひどく 空腹である こと に 気づき 、 つけた ばかりの たばこ を 踏み 消して 、 地下 街 へ 降りた 。 いっぷく|すう||じぶん|||くうふくである|||きづき|||||ふみ|けして|ちか|がい||おりた Après avoir fumé, il se rendit compte qu'il avait très faim, sortit de la cigarette qu'il venait d'allumer et descendit dans le monde souterrain. 駅 へ と 上がって くる 入 ごみ を 掻き分け ながら 、 増尾 は 一 歩 ずつ 階段 を 下りた 。 えき|||あがって||はい|||かきわけ||ますお||ひと|ふ||かいだん||おりた Pataugeant dans les détritus qui pénètrent dans la gare, Masuo descend les escaliers un par un. 一 歩 ご と に 「 このまま 逃げ 切れる わけ が ない 」 と いう 言葉 と 、「 納得 いか ない 」 と いう 気持ち が 交互に 浮かんで くる 。 ひと|ふ|||||にげ|きれる||||||ことば||なっとく|||||きもち||こうごに|うかんで| À chaque pas, les mots "on ne peut pas s'en sortir comme ça" et "je ne comprends pas" alternaient dans mon esprit. あんな 女 を 殺す 気 など 更々 なかった のだ 。 |おんな||ころす|き||さらさら|| Je n'avais pas l'intention de tuer cette femme. もっと 言えば 、 あんな 女 と 関わり たく も な かった 。 |いえば||おんな||かかわり|||| Plus précisément, je ne voulais rien avoir à faire avec cette femme. ただ 、 あの 夜 、 あの 寒い 三瀬 峠 に あの 女 を 連れて 行き 、 そして 置き去り に して きた の は 紛れ も なく 自分 な のだ 。 ||よ||さむい|みつせ|とうげ|||おんな||つれて|いき||おきざり||||||まぎれ|||じぶん|| あの 夜 、 東公園 沿い の 通り で 石橋 佳乃 を 助手 席 に 乗せる と 、 増尾 は とりあえず 車 を 出 した 。 |よ|ひがしこうえん|ぞい||とおり||いしばし|よしの||じょしゅ|せき||のせる||ますお|||くるま||だ| 口 で は 「 三瀬 峠 に 肝 試し 」 など と 言って いた が 、 走り出して すぐに 面倒臭く なっていた 。 くち|||みつせ|とうげ||かん|ためし|||いって|||はしりだして||めんどうくさく|なって いた 助手 席 の 佳乃 は 車 が 走り出す と 、 さっき まで 一緒に 食事 して いた と いう 友達 の 話 を 始 め た 。 じょしゅ|せき||よしの||くるま||はしりだす||||いっしょに|しょくじ|||||ともだち||はなし||はじめ|| 「 ほら 、 天神 の バー で 会った とき 、 一緒 やった 女の子 たち 、 覚え とら ん ? |てんじん||ばー||あった||いっしょ||おんなのこ||おぼえ|| 」 本気で ドライブ する つもりな の か 、 佳乃 が シートベルト を 締め 始める ので 、 さっさと 会話 を 終わら せよう と 、「 さあ ? ほんきで|どらいぶ|||||よしの||||しめ|はじめる|||かいわ||おわら||| 」 と 首 を 捻った のだ が 、「 ほら 、 あの とき 、 私 たち 三 人 やった ろ ? |くび||ねじった||||||わたくし||みっ|じん|| 沙 里 ちゃんって 、 背 が 高くて ちょっと きつ めの 顔 した 子 で ……」 と 、 一方 的に 喋り 続ける 。 いさご|さと|ちゃん って|せ||たかくて||||かお||こ|||いっぽう|てきに|しゃべり|つづける 車 を 出した は いい が 行く 当て も なかった 増尾 は 、 適当に ハンドル を 切り 、 信号 が 変わ り そうに なる と アクセル を 踏み込んで 交差 点 を 渡った 。 くるま||だした||||いく|あて|||ますお||てきとうに|はんどる||きり|しんごう||かわ||そう に|||あくせる||ふみこんで|こうさ|てん||わたった Ayant démarré la voiture, mais n'ayant nulle part où aller, Masuo tourna le volant au hasard, et lorsque le feu de circulation fut sur le point de changer, il appuya sur l'accélérateur et traversa l'intersection. いつの間にか 東公園 は 遠く 後方 に 退き 、 頭上 に は 都市 高速 の 高架 が 見えた 。 いつのまにか|ひがしこうえん||とおく|こうほう||しりぞき|ずじょう|||とし|こうそく||こうか||みえた En un rien de temps, East Park s'était éloigné et nous pouvions apercevoir l'autoroute urbaine surélevée au-dessus de nos têtes. 「 増尾 くん 、 明日 学校 休み な ん ? ますお||あした|がっこう|やすみ|| Masuo, tu ne vas pas à l'école demain ? 」 勝手に 暖房 の 風 量 を 調節 した 佳乃 が 、 今度 は 勝手に 足元 の CD ボックス を 開けよう と する 。 かってに|だんぼう||かぜ|りょう||ちょうせつ||よしの||こんど||かってに|あしもと||cd|ぼっくす||あけよう|| Kano, qui avait réglé le volume de l'air de chauffage toute seule, essaie maintenant d'ouvrir la boîte de CD qui se trouve sous ses pieds. 「 なんで ? 」 会話 を 続ける 気 は なかった が 、 CD ボックス を 開けられる の が 嫌で 、 増尾 は 声 を 返し た 。 かいわ||つづける|き||||cd|ぼっくす||あけ られる|||いやで|ますお||こえ||かえし| Il ne voulait pas poursuivre la conversation, mais il ne voulait pas que la boîte de CD soit ouverte, alors Masuo a répondu. 「 だって 、 これ から ドライブ したら 帰り 遅く なる し …:.」 佳乃 は CD ボックス を 膝 の 上 に 置き は した が 、 開け なかった 。 |||どらいぶ||かえり|おそく|||よしの||cd|ぼっくす||ひざ||うえ||おき||||あけ| Parce que si je rentre en voiture après ça, je rentrerai tard..." Kano pose la boîte de CD sur ses genoux, mais ne l'ouvre pas. 「 そっち は ? 」 と 増尾 は 顎 を しや くった 。 |ますお||あご||| Masuo le prend par le menton. 行きがかり 上 と は いえ 、 こんな 女 を 助手 席 に 乗せて 行く 当て も なく 車 を 走ら せて いる 自分 に 苛立って いた 。 いきがかり|うえ|||||おんな||じょしゅ|せき||のせて|いく|あて|||くるま||はしら|||じぶん||いらだって| J'étais frustré de conduire avec une telle femme sur le siège passager sans savoir où aller, même si ce n'était qu'une coïncidence. 「 私 ? わたくし 私 は 仕事 。 わたくし||しごと Je travaille. でも 、 いつも 直行 と かって ボード に 書 い とる けん 、 遅刻 して も 大 丈 夫 つち やけ どれ 」 「 仕事って 何の ? ||ちょっこう|||ぼーど||しょ||||ちこく|||だい|たけ|おっと||||しごと って|なんの Mais depuis qu'ils ont pris l'habitude d'écrire au tableau qu'ils vont toujours directement au travail, ce n'est pas grave s'ils sont en retard. 」 思わず 尋ねた 増尾 の 腕 を 、「 もう 〜、 信じられ ん 〜」 と 言い ながら 、 佳乃 が 甘える よ う に 叩いて くる 。 おもわず|たずねた|ますお||うで|||しんじ られ|||いい||よしの||あまえる||||たたいて| La première fois que je suis allée à la plage, j'ai vu beaucoup de gens, et j'étais tellement contente de les voir. 「 この前 、 保険 会社って 教えた ろ 〜」 何 が 嬉しい の か 、 佳乃 が そう 言って 一 人 で ケラケラ 笑い 出す 。 この まえ|ほけん|かいしゃ って|おしえた||なん||うれしい|||よしの|||いって|ひと|じん|||わらい|だす La chose la plus importante à retenir est que vous n'êtes pas victime de vos propres actions, mais des actions de ceux qui vous entourent. 増尾 は 佳乃 が 笑い 終わ る の を 辛抱強く 待ち 、 やっと 笑い 終わった ところ で 、「 なんか さ 、 ニンニク 臭う な い ? ますお||よしの||わらい|しまわ||||しんぼうづよく|まち||わらい|おわった|||||にんにく|くさう|| Masuo attendit patiemment que Kano finisse de rire, et lorsqu'elle le fit enfin, il demanda : "Tu sens l'ail ? 」 と 冷たく 言った 。 |つめたく|いった 一瞬 、 佳乃 の 表情 が 硬直 し 、 さっき から 開けっ放しだった 口 を 一 文字 に 閉じる 。 いっしゅん|よしの||ひょうじょう||こうちょく||||あけっぱなしだった|くち||ひと|もじ||とじる Pendant un instant, l'expression de Kano se raidit et elle ferme la bouche, qui était restée ouverte tout à l'heure, en un seul mot. 増尾 は 何も 言わ ず に 助手 席 側 の 窓 を 開けた 。 ますお||なにも|いわ|||じょしゅ|せき|がわ||まど||あけた Masuo a ouvert la fenêtre côté passager sans rien dire. 寒風 が 佳乃 の 髪 を 乱した 。 かんぷう||よしの||かみ||みだした Un vent froid ébouriffe les cheveux de Yoshino. ニンニク の 臭い が 車 内 から 流れ出る と 、 あっという間 に 足元 から 底冷え する ような 夜 気 が 忍び込んで きた 。 にんにく||くさい||くるま|うち||ながれでる||あっというま||あしもと||そこびえ|||よ|き||しのびこんで| Dès que l'odeur de l'ail s'est échappée de la voiture, l'air frais de la nuit s'est infiltré sous les pieds. 車 は すでに 繁華街 に 出て いた が 、 珍しく 信号 に 一 つ も 引っかから ない 。 くるま|||はんかがい||でて|||めずらしく|しんごう||ひと|||ひっかから| La voiture était déjà au centre-ville, mais, fait inhabituel, elle n'a pas grillé un seul feu de signalisation. やゆ 口臭 の こと を 椰楡 されて 、 少し は 黙る か と 思った 佳乃 も 、 バッグ の 中 から ペパーミン ト の ガム を 取り出して 、「 今 、 鉄 鍋 餃子 食べて きた ばかりっちゃ ん 」 と 言い訳 を 始める 。 |こうしゅう||||やにれ|さ れて|すこし||だまる|||おもった|よしの||ばっぐ||なか|||||がむ||とりだして|いま|くろがね|なべ|ぎょうざ|たべて||ばかり っちゃ|||いいわけ||はじめる Kano, que je pensais un peu calme après qu'on lui ait parlé de sa mauvaise haleine, a sorti un chewing-gum à la menthe de son sac et a commencé à s'excuser en disant qu'elle venait de manger des boulettes de pot de fer. クリスマスシーズン 真っ盛り 、 天神 の 街路 樹 は ライト アップ さ れ 、 歩道 に は 腕 を 組 ん で歩く カップル が 溢れて いる 。 |まっさかり|てんじん||がいろ|き||らいと|あっぷ|||ほどう|||うで||くみ||であるく|かっぷる||あふれて| En pleine période de Noël, les arbres de Tenjin sont illuminés et les trottoirs sont remplis de couples marchant bras dessus, bras dessous. 増尾 は アクセル を 踏み込んだ 。 ますお||あくせる||ふみこんだ Masuo a appuyé sur l'accélérateur. 一瞬にして 、 カップル た ち が 背後 に 吹き飛んで いく 。 いっしゅんにして|かっぷる||||はいご||ふきとんで| En un instant, le couple est emporté derrière eux. 「 なんか 、 沙 里 ちゃん と か 眞子 ちゃん 、 私 と 増尾 くん が 付き合い よるって 思う とるっち ゃん 。 |いさご|さと||||まさこ||わたくし||ますお|||つきあい|よる って|おもう|とる っち| Sasato et Mako prennent sur eux de penser que Masuo-kun et moi voulons sortir ensemble. もちろん 、 違うって 言う たっちゃ けど 、 信じて くれ ん し 」 奥歯 で ガム を 噛み ながら 、 佳乃 は 話し 続けた 。 |ちがう って|いう|||しんじて||||おくば||がむ||かみ||よしの||はなし|つづけた 急 ハンドル を 切って 乱暴に 車線 を 変え て も 、 急 ブレーキ を 踏んで も 、 黙り 込む こと が ない 。 きゅう|はんどる||きって|らんぼうに|しゃせん||かえ|||きゅう|ぶれーき||ふんで||だまり|こむ||| Ils ne seront pas réduits au silence par un braquage soudain, un changement de voie violent ou un freinage brusque. 「 だって 付き合っと らんし .…..」 と 増尾 は 冷たく 言った 。 |つきあ っと|||ますお||つめたく|いった "Parce que je ne suis pas dans une relation... ......" dit Masuo froidement. 誰 が お前 なんか と 付き合う か 、 と 心 の 中 で は 言って いた 。 だれ||おまえ|||つきあう|||こころ||なか|||いって| Au fond de moi, je me disais : "Qui voudrait sortir avec toi ? 「 ねえ 、 増尾 くんって どういう 子 が 好きな ん ? |ますお|くん って||こ||すきな| Quel genre de fille aimes-tu, Masuo ? 」 「 別に 」 「 タイプ と かない ん ? べつに|たいぷ||| Pas vraiment" "Avez-vous un type ?" 」 面倒だった ので 、 急 ハンドル を 切った 。 めんどうだった||きゅう|はんどる||きった C'était gênant, alors il a tourné le volant brusquement. 切った 先 が 三瀬 峠 へ 向かう 国道 263 号 だった 。 きった|さき||みつせ|とうげ||むかう|こくどう|ごう| Il s'agit de la route nationale 263 en direction de Mise Pass. 「 そう 言えば 、 さっき 公園 の 便所 で 小便 し とったら 、 ホモ に 声 かけられた 」 増尾 は 話 を 変えた 。 |いえば||こうえん||べんじょ||しょうべん|||||こえ|かけ られた|ますお||はなし||かえた J'étais en train de pisser dans les toilettes d'un parc quand j'ai été abordé par un pédé", dit Masuo pour changer de sujet. 「 うそ ? "Foutaises ? で 、 どうした と ? 」 「 殺す ぞ ! ころす| Je vais te tuer ! って 脅したら 逃げてった 。 |おどしたら|にげて った Je l'ai menacé et il s'est enfui. マジ で 、 ああいう 奴 ら 、 立ち入り 禁止 に する べ きや ね 」 増尾 は 唾 でも 吐き出す ように 断言 した が 、 佳乃 は あまり 興味 ない ようで 、「 でも 、 そ う いう 人 に とっちゃ 、 普通の 街 が 立ち入り 禁止 みたいに されて 、 ああいう 所 しか 残って ない つち や ない ? |||やつ||たちいり|きんし||||||ますお||つば||はきだす||だんげん|||よしの|||きょうみ|||||||じん|||ふつうの|がい||たちいり|きんし||さ れて||しょ||のこって|||| Seriously, those guys should be off limits. "Masuo asserted that he should spit out, but Yoshino didn't seem to be very interested," but for those people, it's a normal town. Is like a no-go, and there is only one place left, isn't it? 考えたら ちょっと かわいそう や ない ? かんがえたら|||| 世の中 いろんな 人 が おる と に ねえ 」 と ガム を もう 一 つ 口 に 入れる 。 よのなか||じん|||||||がむ|||ひと||くち||いれる 話 を 変えた つもり が 、 予想外に 反論 されて 、 増尾 は 返す 言葉 が なかった 。 はなし||かえた|||よそうがいに|はんろん|さ れて|ますお||かえす|ことば|| 通り から は 繁華街 の 華やか さ が 消え 、 徐々に 閑散 と して いった 。 とおり|||はんかがい||はなやか|||きえ|じょじょに|かんさん||| それ でも 街灯 に は ク 、 ワ た たび リスマスセール を 躯った 商店 街 の 旗 が 座 いて いる 。 ||がいとう|||||||||く った|しょうてん|がい||き||ざ|| 華やか さ の ない クリスマス ほど 、 物 悲しい もの は ない 。 はなやか||||くりすます||ぶつ|かなしい||| 佳乃 は 口 の 中 の ガム を 紙 に 包んで 捨てる まで 喋り 続けた 。 よしの||くち||なか||がむ||かみ||つつんで|すてる||しゃべり|つづけた 帰りたい と は 言わ なかった 。 かえり たい|||いわ| 停車 する タイミング も なく 、 車 は 国道 263 号 を 南下 して 、 三瀬 峠 へ 向かって いた 。 ていしゃ||たいみんぐ|||くるま||こくどう|ごう||なんか||みつせ|とうげ||むかって| 峠 道 に 入って しまう と 、 ほとんど すれ違う 車 は なく なった 。 とうげ|どう||はいって||||すれちがう|くるま||| ときどき ルームミラー に かなり 背後 を 走って くる 車 の ライト が ちらっと 見えた が 、 前 を 走る 車 は なかった 。 ||||はいご||はしって||くるま||らいと|||みえた||ぜん||はしる|くるま|| 峠 道 の 冷たい アスファルト を 、 車 の ライト だけ が 青白く 照らして いた 。 とうげ|どう||つめたい|||くるま||らいと|||あおじろく|てらして| カーブ を 曲がる たび き は だ に ライト が ガード レール 先 の 藪 を 照らし 、 複雑な 模様 を した 樹 肌 が くっきり と 見てとれ た 。 かーぶ||まがる||||||らいと||がーど|れーる|さき||やぶ||てらし|ふくざつな|もよう|||き|はだ||||みてとれ| 一方的に 喋り 続ける 佳乃 を 無視 して 、 増尾 は アクセル を 踏み 続けた 。 いっぽうてきに|しゃべり|つづける|よしの||むし||ますお||あくせる||ふみ|つづけた あれ は 何の 川 だった か 、 佳乃 が 勝手に CD ボックス を 開け 、「 あ 〜、 私 、 この 曲 、 マジ で 好 いと 〜 と 〜」 と 、 流し 始めた 甘ったるい バラード が 、 もう 何度 も 繰り返されて いた 。 ||なんの|かわ|||よしの||かってに|cd|ぼっくす||あけ||わたくし||きょく|||よしみ||||ながし|はじめた|あまったるい|ばらーど|||なんど||くりかえさ れて| あれ は 何度 目 に 佳乃 が リピートボタン を 押そう と した とき だった か 、 とつぜん 「 こう いう 女 が 男 に 殺さ れる つち やろ な 」 と 増尾 は 思った 。 ||なんど|め||よしの||||おそう|||||||||おんな||おとこ||ころさ||||||ますお||おもった 本当に ふと そう 思った のだ 。 ほんとうに|||おもった| こういう 女 の 「 こういう 」 が 「 どういう 」 の か は 説明 でき ない が 、 間違い なく 「 こう げき りん いう 」 女 が 、 ある とき 男 の 逆 鱗 に 触れて 、 あっけなく 殺さ れる のだろう と 。 |おんな||||||||せつめい||||まちがい||||||おんな||||おとこ||ぎゃく|うろこ||ふれて||ころさ||| 増尾 は 徐々に 急に なって いく カーブ で ハンドル を 切り ながら 、 助手 席 で 自分 の 好きな バラード を 呑気 に ハミング して いる 女 の 行く末 を 想像 して いた 。 ますお||じょじょに|きゅうに|||かーぶ||はんどる||きり||じょしゅ|せき||じぶん||すきな|ばらーど||のんき||はみんぐ|||おんな||ゆくすえ||そうぞう|| 保険 の 外交 員 を し ながら 小 金 を 貯 め て 、 休日 に は ブランド ショップ の 鏡 に 映る 自分 を 眺める 。 ほけん||がいこう|いん||||しょう|きむ||ちょ|||きゅうじつ|||ぶらんど|しょっぷ||きよう||うつる|じぶん||ながめる 本当の 自分 は ……、 本当の 自分 は ……、 と いう の が 口癖 で 、 三 年 も 働けば 、 思 い 描いて いた 本当の 自分 が 、 実は 本当の 自分 なんか じゃ なかった こと に やっと 気 が つく 。 ほんとうの|じぶん||ほんとうの|じぶん||||||くちぐせ||みっ|とし||はたらけば|おも||えがいて||ほんとうの|じぶん||じつは|ほんとうの|じぶん|||||||き|| あと は 自分 の 人生 投げ出して 、 どうにか 見つけ出した 男 に 、 それ を 丸 投げ 。 ||じぶん||じんせい|なげだして||みつけだした|おとこ||||まる|なげ 丸 投げ さ れ て も 男 は 困る 。 まる|なげ|||||おとこ||こまる 私 の 人生 どうして くれる ? わたくし||じんせい|| 今度 は それ が 口癖 に なり 、 徐々に つのる 旦 那 へ の 不満 と 反比例 して 、 子供 へ の 期待 だけ が 膨らんで いく 。 こんど||||くちぐせ|||じょじょに||たん|な|||ふまん||はんぴれい||こども|||きたい|||ふくらんで| 公園 で は 他の 母親 と 競い 合い 、 いつしか 仲良し グループ を 作って は 、 誰 か の 悪 口 。 こうえん|||たの|ははおや||きそい|あい||なかよし|ぐるーぷ||つくって||だれ|||あく|くち 自分 で は 気づいて いない が 、 仲間 だけ で 身 を 寄せ合って 、 気 に 入ら ない 誰 か の 悪 口 を 言って いる その 姿 は 、 中学 、 高 校 、 短大 と 、 ずっと 過ごして きた 自分 の 姿 と まるで 同じ 。 じぶん|||きづいて|||なかま|||み||よせあって|き||はいら||だれ|||あく|くち||いって|||すがた||ちゅうがく|たか|こう|たんだい|||すごして||じぶん||すがた|||おなじ 「 ねえ 、 どこ まで 行く と ? |||いく| 」 とつぜん 助手 席 の 佳乃 に 声 を かけられ 、 増尾 は 、「 あ ? |じょしゅ|せき||よしの||こえ||かけ られ|ますお|| 」 と 無愛想な 声 を 返した 。 |ぶあいそうな|こえ||かえした い つ の 間 に か 、 佳乃 の 好きな バラード は 終わり 、 妙に 軽快な 曲 が 流れて いた 。 |||あいだ|||よしの||すきな|ばらーど||おわり|みょうに|けいかいな|きょく||ながれて| 「 マジ で 峠 越える と ? ||とうげ|こえる| この先 、 ほんとに 何も ない よ 。 このさき||なにも|| 昼やったら 、 美味しい カレー 屋 さん と か 、 パン 屋 さん と か ある けど ..….、 あ 、 ねえ 、 さっき 通った そば 屋 さん 、 ほら 、 もう 閉ま つ とった けど 、 あそこ 、 行った こと ある ? ちゅうや ったら|おいしい|かれー|や||||ぱん|や|||||||||かよった||や||||しま|||||おこなった|| すごく 美味しい とって 。 |おいしい| 前 に 友達 が そう 言い よった 。 ぜん||ともだち|||いい| …… どうした と ? さっき から ずっと 黙り 込んで 〜」 軽快な 曲 に 合わせる ように 、 次 から 次に 佳乃 の 口 から 言葉 が 溢れ 出す 。 |||だまり|こんで|けいかいな|きょく||あわせる||つぎ||つぎに|よしの||くち||ことば||あふれ|だす 本気で これ が デート だ と 勘違い して いる らしい 。 ほんきで|||でーと|||かんちがい||| 「 そう 言えば 、 増尾 くん の 実家って 湯布院 の 老舗 旅館 な ん やろ ? |いえば|ますお|||じっか って|ゆふいん||しにせ|りょかん||| 別府 に 大きな ホテル も ある らしいたい 。 べっぷ||おおきな|ほてる|||らしい たい すご か よれ 。 って こと は 、 増尾 くん の お母さん が 女将 さん やろ ? |||ますお|||お かあさん||おかみ|| なんか 、 女将 さんって 大 変そう 」 佳乃 が そう 言い ながら 、 また 噛み 続けて いた ガム を 、 ずっと 握って いた らしい 紙 に 吐 き 出す 。 |おかみ|さん って|だい|へんそう|よしの|||いい|||かみ|つづけて||がむ|||にぎって|||かみ||は||だす 「・…: たしかに 俺 の おふくろ は 女将 やけど 、 別に あんた が 心配 する こと なか よ 」 と 増尾 は 言った 。 |おれ||||おかみ||べつに|||しんぱい||||||ますお||いった 自分 でも 驚く ほど 冷たい 声 だった 。 じぶん||おどろく||つめたい|こえ| 口元 に 寄せた 紙 に ガム を 出した ばかりの 佳乃 が 、 きょとんと して いる 。 くちもと||よせた|かみ||がむ||だした||よしの|||| 「 あんた と は タイプ 違う し 」 「 誼 え ? |||たいぷ|ちがう||よしみ| .」 きょとんと した 佳乃 が 訊 き 返して くる 。 ||よしの||じん||かえして| ? 「 だけ ん 、 あんた とうち の おふくろ は 女 の タイプ が 違うって こと 。 |||||||おんな||たいぷ||ちがう って|