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江戸小話, るすばんめがね

るすばん めがね

むかし 、 江戸 の 神田 ( かんだ ) に 、 有名な はんこ 屋 が あり ました 。 そこ の 親父 さん は 目 が 悪く 、 いつも めがね を かけて 仕事 を して い ます 。

ある 日 の 事 、 一 人 の お 客 が やって 来 ました 。 お 客 は はんこ を 注文 して 、 先 に お 金 を 払う と 。 「 この 十 日 に 取り に 来る から 、 その 日 に きちんと 仕上げて ください 」 「 はい 、 しょうち し ました 。 十 日 に は 、 必ず お 渡し いたし ます 」 はんこ 屋 の 親父 さん は 約束 する と 、 お 金 を 受け取り ました 。

さて 、 十 日 に なり ました 。 店 に あの お 客 が 、 はんこ を 取り に やってき ました 。 ところが ちょうど 親父 さん が 留守 で 、 一 人 息子 が 店番 を して い ます 。 「 注文 した はんこ を 、 受け取り に 来 ました 」 お 客 が 言う と 、 息子 は 不思議 そうに 首 を かしげて 、 「 あんた さん は 、 この あたり の 方 で は ござ り ませ ん な 。 見 も 知ら ぬ お方 に 大事な 品 を 、 お 渡し する こと は 出来 ませ ん よ 」 と 、 言う で は あり ませ ん か 。 お 客 は 、 びっくり して 、 「 あの 時 、 お前 さん は 親父 ど の の そば に 、 ちゃんと すわって おった で は ない か 。 それ を 知ら ぬ と は 、 とんだ 事 を 言わ れる 」 「 そう は 申さ れて も 、 わたくし も 、 留守 を あずかる 者 。 見知らぬ 方 に 大事な はん は 、 渡さ れ ませ ぬ 」 お 客 は すっかり 腹 を 立てて 、 大きな 声 で 言い ました 。 「 わたし は 今夜 の 船 で 、 大阪 へ 行か ねば なら ん のだ ! だ から どうしても 、 はん が いる のじゃ ! 代金 だって 、 前払い した のに 」 それ を 聞いた 息子 は 、 ( ああ っ 、 あの 時 の 客 か ) と 、 やっと 思い出し ました 。 でも 、 今さら あやまる の も くやしい ので 、 親父 さん の 仕事 机 の 引き出し から 、 いつも 親父 さん が かけて いる めがね を 取り出して かけ ました 。 「 わたくし は 、 あなた さま を 見 知り ませ ぬ が 、 こうして 親父 ど の の めがね を かけて 拝見 ( は いけ ん ) いたし ます と ・・・。 ああ なる ほど 。 あなた は 確かに 、 先日 おい で の お 客 さま 。 はいで は 、 これ を 」 そう 言って 、 出来上がった はん を お 客 の 前 に さし出し ました 。

♪ ちゃん ちゃん ( おしまい )


るすばん めがね

むかし 、 江戸 の 神田 ( かんだ ) に 、 有名な はんこ 屋 が あり ました 。 そこ の 親父 さん は 目 が 悪く 、 いつも めがね を かけて 仕事 を して い ます 。

ある 日 の 事 、 一 人 の お 客 が やって 来 ました 。 お 客 は はんこ を 注文 して 、 先 に お 金 を 払う と 。 「 この 十 日 に 取り に 来る から 、 その 日 に きちんと 仕上げて ください 」 「 はい 、 しょうち し ました 。 十 日 に は 、 必ず お 渡し いたし ます 」   はんこ 屋 の 親父 さん は 約束 する と 、 お 金 を 受け取り ました 。

さて 、 十 日 に なり ました 。 店 に あの お 客 が 、 はんこ を 取り に やってき ました 。 ところが ちょうど 親父 さん が 留守 で 、 一 人 息子 が 店番 を して い ます 。 「 注文 した はんこ を 、 受け取り に 来 ました 」   お 客 が 言う と 、 息子 は 不思議 そうに 首 を かしげて 、 「 あんた さん は 、 この あたり の 方 で は ござ り ませ ん な 。 見 も 知ら ぬ お方 に 大事な 品 を 、 お 渡し する こと は 出来 ませ ん よ 」 と 、 言う で は あり ませ ん か 。 お 客 は 、 びっくり して 、 「 あの 時 、 お前 さん は 親父 ど の の そば に 、 ちゃんと すわって おった で は ない か 。 それ を 知ら ぬ と は 、 とんだ 事 を 言わ れる 」 「 そう は 申さ れて も 、 わたくし も 、 留守 を あずかる 者 。 見知らぬ 方 に 大事な はん は 、 渡さ れ ませ ぬ 」   お 客 は すっかり 腹 を 立てて 、 大きな 声 で 言い ました 。 「 わたし は 今夜 の 船 で 、 大阪 へ 行か ねば なら ん のだ ! だ から どうしても 、 はん が いる のじゃ ! 代金 だって 、 前払い した のに 」   それ を 聞いた 息子 は 、 ( ああ っ 、 あの 時 の 客 か ) と 、 やっと 思い出し ました 。 でも 、 今さら あやまる の も くやしい ので 、 親父 さん の 仕事 机 の 引き出し から 、 いつも 親父 さん が かけて いる めがね を 取り出して かけ ました 。 「 わたくし は 、 あなた さま を 見 知り ませ ぬ が 、 こうして 親父 ど の の めがね を かけて 拝見 ( は いけ ん ) いたし ます と ・・・。 ああ なる ほど 。 あなた は 確かに 、 先日 おい で の お 客 さま 。 はいで は 、 これ を 」   そう 言って 、 出来上がった はん を お 客 の 前 に さし出し ました 。

♪ ちゃん ちゃん ( おしまい )