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コンビニ人間, 9 .

9 .

翌朝 出勤する と 、店 が いつも と 違う 、緊張した 雰囲気 に 包まれていた 。 ・・

自動 ドア から 店 に 入った すぐ の ところ で 、常連 の 男性 客 が 、怯えた ように 雑誌 コーナー の 方 を 見ていた 。 いつも コーヒー を 買って いく 女性 が 、私 と すれ違う ように 早足 で 店 から 出て行き 、パン 売り場 の 前 で は 男性 客 が 二人 、ひそひそ と 話している 。 ・・

一体 どうした の だろう か と 客 の 視線 の 先 を 見る と 、くたびれた スーツ 姿 の 中年 の 男性 を 、皆 が 目 で 追っている と 気付いた 。 ・・

彼 は 店 を 歩き回り 、いろんな 客 に 声 を かけている 様子 だ 。 内容 を よく 聞いて みる と 、どうやら 客 に 注意 を している ようだった 。 靴 が 汚れて いる 男性 に 甲高い 声 で 、・・

「ほら あなた 、そこ ! 床 を 汚さ ないで ください ね 」と 言い 、チョコレート を 見ている 女性 に 、「あー ! 駄目です よ 、せっかく きちんと 並んでいる のに ぐちゃぐちゃに して ! 」と 叫んでいる 。 皆 、自分 が 次 に 声 を かけられたら どう しよう と 、戸惑いながら 遠巻きに 男性 の 動き を 見守っていた 。 ・・

レジ は 混んで いて 、店長 は ゴルフ の 宅配便 の 受付 を していて 手が 離せず 、ダット 君 が 必死に レジ を 打っていた 。 レジ に は 行列 が できて いて 、男性 は 並び方 が 乱れている 客 に 近付き 、「ちゃんと 壁 に 沿って 一列 に 並んで ください 、ほら ! 」と 言った 。 不気味 に 思いつつも 朝 は 忙しい ので 急いで 買い物 を 済ませよう と 、列 に 並んでいる 会社員 は 男性 と 目 を 合わせない よう 、徹底的に 無視 を 心がけている ようだった 。 ・・

私 は 急いで バックルーム に 行き 、 ロッカー から 制服 を 取り出した 。 着替えながら 防犯カメラ を 見る と 、男性客 は 今度 は 雑誌売り場 の 方 へ 行き 、立ち読みをしている 他 の 客 に 、・・

「立ち読み は 駄目 な んです よ 。 やめなさいよ 。 ほら ! 」 ・ ・

と 大声 で 注意 を している 。 ・ ・

注意 された 若者 は 不愉快 そうに 男性 を 睨み 、レジ を 一生懸命に 打って いる ダット 君 に 、・・

「なあ こいつ 、誰 ? 社員 ? 」 ・・

と 訊ねた 。 ・・

「いえ 、あの 、お客様 です 」・・

レジ の 合間 に 、戸惑い ながら も ダット 君 が 答える と 、・・

「っだ よ 、部外者 なんじゃ ねえ か 。 何 な んだ よ てめえ 。 何の 権利 で 余計な こと 言って やがんだ よ 」 ・・

と 若者 が 中年 の 男性 に 詰め寄った 。 ・・

トラブル が 起きた 場合 は 、迅速に 社員 に 対応 を 任せる こと に なっている 。 その ルール に 従って 、私 は 急いで 制服 に 着替え 終え 、レジヘ と 向かった 。 店長 お願いします と 言って レジ を 代わる と 、「うわ 助かった 、ありがと ! 」と 小さい 声 で 店長 が 言い 、すぐに カウンター の 外 に 走って 行き 、男性 客 と 若者 の 間 に 急いで 入った 。 私 は 宅配便 の 控え を お客さま に 渡し ながら 、店内 で 殴り合い に ならないか 横目 で 見ていた 。 そういう とき は 、すぐに 防犯 ベル を 鳴らす こと に なっている 。 ・・

やがて 、店長 が うまく 対応した らしく 、中年 の 男性 は 何か を ぶつぶつ言いながら 店 を 出て行った 。 ・・

ほっとした 空気 が 流れ 、店内 は 元の 通常の 朝の 空気 に 戻った 。 ・・

ここは 強制的に 正常化される 場所 なのだ 。 異物 は すぐに 排除される 。 さっき まで 店 を 満たしていた 不穏な 空気 は 払拭され 、店内 の 客 は 何事もなかったように 、いつもの パン や コーヒー を 買う こと に 集中し始めた 。 ・・

「いや 、ありがとう 助かった よ 古倉 さん 」・・

行列 が おさまって バックルーム に 戻る と 、店長 が 言った 。 ・・

「いえ 、トラブル に ならなくて よかった です ! 」 ・・

「あの 客 、何 なんだろう なあ 見た こと ない 顔 だった けど 」・・

バックルーム に は すでに 泉 さん が 来て いて 、「何か あった んですか ? 」と 店長 に 言った 。 ・・

「いや 、さっき 何だか 変な 客 が いて さ 。 店 の 中 を まわって 他の 客 に 注意 したり してる の 。 トラブル に なる 前 に 出て 行って くれて よかった よ ー 」・・

「え 、何 で しょうね 、それ 。 常連 さん とか です か ? 」・・

「いや 、ぜんぜん 知らない 顔 。 だから わけ わかん ない んだ けど さ 。 嫌がらせ って 感じ で も なかった し 。 まあ 、また 来たら すぐ 俺 に 連絡して 。 他の 客 と トラブル に なったら 大変だ から 」・・

「はい 、わかりました 」・・

「じゃあ 俺 、あがる わ ー 。 今日 も 夜勤 だし 」・・

「 お 疲れ さ まで す ー 。 あ 、そうそう 、店長 、白羽 さん 、今度 注意してもらえますか ? あの人 、サボり癖 が あって 、私 が 言って も 駄目な んです よ ー 」・・

泉 さん は ほとんど 社員 の ような 存在 なので 、バイト に ついて も 店長 と 話し合ったり する 。 ・・

「あいつ ほんと だめ だ なー 。 面接 の とき から 悪い 予感 してた んだ よ 。 コンビニ の バイト なんて ー って 、馬鹿にした 感じ で 喋る んだよね 。 だったら 働く なっつーの 。 でも まあ 、人手 不足 だから とった けど さー 、あの ハゲ まじで 一回 ちゃんと 言って やんない と 駄目だ な 」・・

「 あの人 、 遅刻 も 多い ん です よ ね ー 。 今日 も 9 時 から なのに 、まだ 来てない し 」・・

泉 さん が 顔 を しかめた 。 ・・

「あの 人 、35 歳 とか でした よね 。 それ で コンビニ アルバイト って 、そもそも 、終わってません ? 」・・

「人生 終了 だ よ な 。 だめだ 、ありゃ 。 社会 の お荷物 だ よ 。 人間 は さー 、仕事 か 、家庭 か 、どちらか で 社会 に 所属する の が 義務 な んだ よ 」・・

大きく 頷いた 泉 さん が 、はっと して 店長 を 小突き 、・・

「古倉 さん みたいに お家 の 事情 が ある なら わかる けど 。 ねえ ? 」・・

と 言った 。 ・・

「あー そうそう 、古倉 さん は 仕方ない けど さー 。 ほら 、男 と 女 の 違い も ある から ! 」 ・・

店長 も 急いで 言い 、私 が 返事 を する 前 に 、話題 は 白羽 さん に 戻った 。 ・・

「 それ に 比べて 白羽 は マジで 終わってる わ 。 あいつ さあ 、 レジ の 中 で 携帯 弄 ( いじ )ってる とき が ある ん だ よ ね 」・・

「そう それ 、私 も 見ました ー 」・・

二 人 の 会話 に 私 は 驚いて 尋ねた 。・・

「え 、勤務 中 に ですか ? 」 ・・

携帯 を バイト 中 に 持ち歩かない の は 、基本的 な ルール だ 。 何で そんな 簡単な こと を 破って しまう の か 私 に は 理解 でき なかった 。 ・・

「俺 、自分 が いない 時間 は 、いつも 軽く 防犯 カメラ チェック する じゃん ? 白羽 さん は 新人 だ し 、どんな もんか な と 思って 見て たんだ よね 。 表向き は それなりに やってる んだ けど 、ちょっと サボり癖 が ある みたいな んだ よ ねー 」・・

「気 が 付かなくて すみません 」・・

「いやいや 、古倉 さん が 謝る こと じゃない から 。 古倉 さん 、最近 特に 声 かけ がんばって くれてる ねー 、カメラ 見て て も 、お 、すごい 頑張ってる なって 感じ 。 えらい よー 、古倉 さん は 毎日 勤務 なのに 手を 抜かない から ねー ! 」 ・・

8 人目 の 店長 は 、私 が 「コンビニ 」へ 向かって いつでも 祈り 続けている こと を 、その 場 に いない とき も ちゃんと 見て くれている 。 ・・

「ありがとう ございます ! 」 ・・

勢い 良く お辞儀 を した ところで 、ドア が 開き 、無言 で 白羽 さん が 入って きた 。 ・・

「 ……あ 、おはようございます 」 ・・

気 の 抜けた 小さな 声 で 白羽 さん が 挨拶 する 。 白羽 さん は ガリガリ に 痩せている ので 、ズボン が 下がって しまう のだろう 、白い シャツ から うっすら と サスペンダー が 透けている 。 腕 を みて も 、骨 に ぺったり 皮膚 が 貼りついている ようで 、この 狭そうな 身体 の 中 に 内臓 は どうやって しまってある のだろう と 思ってしまう 。 ・・

「白羽 さん 、遅刻 遅刻 ! 5 分 前 に は 制服 着て 、朝 礼 して ない と 駄目だ から ! あと 、朝 の 挨拶 は しっかり ねー ! 事務所 の ドア あける とき は 、元気 よく 挨拶 ! それ と さあ 、休憩 中 以外 は 携帯 禁止 だ から ! レジ の 中 に 持ち込んでる っしょ ? 見てる から ね ー ! 」 ・・

「あ ……はあ 、すみません ……」・・

白羽 さん が 目に見えて 狼狽 する 。 ・・

「え 、あの 、昨日 の ことっす よ ね ? 古倉 さん 、見て たんす か ? 」・・

私 が 言いつけた と 思った らしい 白羽 さん に 、「いえ 」と 首 を 横 に 振る と 、店長 が 言った 。 ・・

「カメラ カメラ ! 俺 は 夜勤 の とき も ちゃんと 日勤 の こと 見てる から ねー ! まあ 、携帯 の こと は ルール として ちゃんと 説明 して なかった かも だ けど 、駄目 だから ねー ! 」 ・・

「あ 、はあ 、知らなかった です 、すみません …… 」・・

「うん 、今日 から 絶対に しないで ね ー ! あ 、泉 さん 、ちょっと 表出れる ? あの さあ 、エンド 、そろそろ 夏 の ギフト 用 に したい んだ よ ね ー 。 今回 は 派手に 売り場 作ろう と 思ってる んだ 」・・

「あ 、はい ー 。 もう ギフト の 見本 来てます よ ね ? 手伝います よ ー 」・・

「今日中 に やっちゃいたい んだ けど 、棚 の 高さ 全部 変えないといけなくて さー 。 下 の 段 に 夏 の 雑貨 も 置きたい から 一 段 増やしたい んだ けど 。 あ 、古倉 さん と 白羽 さん 、朝礼 やっててくれる ? 先に そっちゃって くる わ 」・・

「はい ! 」・・

店長 と 泉 さん が バックルーム から 出ていく と 、白羽 さん が 小さく 舌打ちした 。 ・・

ふと そちら を 見る と 、 吐き捨てる よう に 白羽 さん が 言った 。 ・・

「け 、コンビニ の 店長 ふぜい が 、えっらそうに 」・・

コンビニ で 働いている と 、そこ で 働いている という こと を 見下される こと が 、よく ある 。 興味深い ので 私 は 見下している 人 の 顔 を 見る のが 、わりと 好きだった 。 あ 、人間 だ という 感じ が する のだ 。 ・・

自分 が 働いている のに 、その 職業 を 差別している 人 も 、ちらほら いる 。 私 は つい 、白羽 さん の 顔 を 見て しまった 。 ・・

何か を 見下している 人 は 、特に 目 の 形 が 面白くなる 。 そこ に 、反論 に 対する 怯え や 警戒 、もしくは 、反発 して くる なら 受けてたって やる ぞ と いう 好戦的な 光 が 宿っている 場合 も あれば 、無意識に 見下している とき は 、優越感 の 混ざった 恍惚とした 快楽 で できた 液体 に 目玉 が 浸り 、膜 が 張っている 場合 も ある 。 ・・

私 は 白羽 さん の 瞳 を 覗き込んだ 。 そこ に は 単純な 差別 感情 が ある だけ で 、ごく シンプルな 形 を していた 。 ・・

私 の 視線 を 感じた の か 、白羽 さん が 口 を 開いた 。 歯 の 根元 が 黄ばんで いて 、黒い ところ も ある 。 歯 医者 に 長い こと 行って いない の かも しれ なかった 。 ・・

「威張り散らして る けど 、こんな 小さな 店 の 雇われ 店長 って 、それ 、負け組 です よね 。 底辺 が いばって んじゃ ねえ よ 、糞 野郎 ……」・・

言葉 だけ を 拾う と 激しい が 、小さな 声 で 呟いている だけ な ので 、何だか ヒステリー を 見ている 感じ が しない 。 差別 する 人 に は 私 から 見る と 二 種類 あって 、差別 への 衝動 や 欲望 を 内部 に 持っている 人 と 、どこか で 聞いた こと を 受け売り して 、何も 考えずに 差別用語 を 連発している だけの 人 だ 。 白羽 さん は 後者 の ようだった 。 ・・

白羽 さん は たまに 言葉 を とちりながら 早口 で 呟き 続けている 。 ・・

「この 店 って ほんと 底辺 の やつら ばっか です よね 、コンビニ なんて どこ でも そう です けど 、旦那 の 収入 だけ じゃ やって いけない 主婦 に 、大した 将来 設計 も ない フリーター 、大学生 も 、家庭教師 みたいな 割 の いい バイト が できない 底辺 大学生 ばっかり だし 、あとは 出稼ぎ の 外人 、ほんと 、底辺 ばっかり だ 」・・

「なるほど 」・・

まるで 私 みたいだ 。 人間っぽい 言葉 を 発している けれど 、何も 喋っていない 。 どうやら 、白羽 さん は 「底辺 」と いう 言葉 が 好き みたいだった 。 この 短い 間 に 、4 回 も 使っている 。 菅原 さん が 、「サボりたい だけ な のに 言い訳 ばっかり やたらと 口 が まわって 、そこ が ますます キモい 」と 言っていた こと を 思い出しながら 、私 は 白羽 さん の 言葉 に 適当に 頷いていた 。 ・・

「白羽 さん は 、どうして ここ で 働き 始めた んです か ? 」 ・・

素朴な 質問 が 浮かんだ ので 聞いて みる と 、白羽 さん は 、・・

「婚活 です よ 」・・

と こともなげに 答えた 。 ・・

「へえ ー ! 」・・

私 は 驚いて 声 を あげた 。 今 まで 、近い から とか 楽 そう だから とか 、いろいろな 理由 を 聞いてきた が 、そんな 理由 で コンビニ で 働き始めた 人 に 会う の は 初めて だった 。 ・・

「でも 失敗 だった な 。 ろくな 相手 が いない 。 若い の は 遊んで そうな 奴 等 ばかり だし 、あと は 年増 だ 」・・

「まあ 、コンビニ は 学生 の アルバイト さん が 多い ですし 、そんなに 適齢期 の 人 は いない です よ 」・・

「客 に は まあまあな の が けっこう いる けど 、高飛車な 女 が 多い です よね 。 この 辺 は 大きい 会社 ばかり だから 、そういう ところ で 働いている 女 は 威張り散らしていて 駄目だ 」・・

白羽 さん は 誰 に 向かって 喋って いる の か 、壁 に ある 、『お中元 目標 達成 を 目指そう ! 』と いう ポスター を 見つめながら 口 を 動かし続けている 。 ・・

「あいつら 、自分 と 同じ 会社 の 男 に ばっかり 色目 を つかって 、僕 と は 目 を 合わせよう と も しない 。 大体 、縄文 時代 から 女 は そう なんだ 。 若くて 可愛い 村 一番 の 娘 は 、力 が 強くて 狩り が 上手い 男 の もの に なって いく 。 強い 遺伝子 が 残っていって 、残り物 は 残り物 同士 で 慰め合う 道 しか 残されていない 。 現代 社会 なんて もの は 幻想 で 、僕たち は 縄文 時代 と 大して 変わら ない 世界 に 生きて いる んだ 。 大体 、男女 平等 だ なんだ と 言いながら ……」・・

「白羽 さん 、そろそろ 制服 に 着替えてください 。 朝 礼 しない と 間に合いません よ 」・・

客 の 悪口 を 言い始めた 白羽さん に 言う と 、渋々 といった 調子 で リュック を 持って ロッカー へ 行った 。 荷物 を ロッカー へ 押し込み ながら 、まだ 一人 で ぶつぶつ 何か を 言っている 。 ・・

白羽 さん を 見 ながら 、私 は 、さっき 店長 に 追い出さ れた 中年 の 男性 を 思い浮かべて いた 。 ・・

「あの ……修復 されます よ ? 」 ・・

「え ? 」・・

よく 聞こえなかった の か 、白羽 さん が 聞き返す 。 ・・

「いえ 、何でもない です 。 着替えたら 、急いで 朝礼 しましょう ! 」・・

コンビニ は 強制的に 正常化される 場所 だから 、あなた なんて 、すぐに 修復されてしまいます よ 。 ・・

私 は それ を 口 に は 出さず 、のらりくらり と 着替えている 白羽さん の こと を 見つめていた 。

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