17.
翌日 目 が 覚める と 、白羽 さん は 押入れ に 下半身 を 突っ込む ような 状態 で 眠って おり 、私 が 風呂 に 入って も 目 を 覚まさ なかった 。 ・・
『出て いく なら 鍵 は ポスト に お 願い します 』・・
そう 書置き を 残し 、私 は いつも 通り 8 時 に 店 に 着く よう 出勤 した 。 ・・
私 の 家 に いる の は 本意 で は ない 、と いう ような 口ぶり だった ので もう いない だろう と 思った が 、帰る と 、白羽 さん は まだ 部屋 に いた 。 ・・
何 を する でも なく 、折り畳み 式 の テーブル に 肘 を ついて 、白 ぶどう サイダー の ヘコ 缶 を 飲んでいる 。 ・・
「ま だいたん です ね 」・・
声 を かける と 、びくり と 身体 を 揺らした 。 ・・
「は あ ……」・・
「今 日 一日 、妹 から の メール が 凄かった んです 。 妹 が 私 に 関する こと で こんなに はしゃいでる の を 初めて 見ました 」・・
「そりゃ あ 、そう です よ 。 処女 の まま 中古 に なった 女 が いい 歳 して コンビニ の アルバイト している より 、男 と 同棲 でも してくれた ほうが ずっと まともだって 妹さん も 思ってる って こと です よ 」・・
きのう の まごついた 様子 は なくなって いて 、いつも の 白羽 さん に 戻って いた 。 ・・
「は あ 、まとも で は ない です か 、やっぱり 」・・
「いい です か 。 ムラ の ため に ならない 人間 に は 、プライバシー なんて ない んです 。 皆 、いくら だって 土足 で 踏み込んで くる んです よ 。 結婚 して 子供 を 産む か 、狩り に 行って 金 を 稼いで くる か 、どちら か の 形 で ムラ に 貢献 し ない 人間 は ね 、異端 者 なんです よ 。 だから ムラ の 奴 等 は いくら だって 干渉 して くる 」・・
「は あ 」・・
「古倉 さん も 、もう 少し 自覚 した ほうが いい です よ 。 あんた なんて 、はっきり いって 底辺 中 の 底辺 で 、もう 子宮 だって 老化 して いる だろう し 、性欲 処理 に 使える ような 風貌 でも なく 、かといって 男 並み に 稼いでる わけでも なく 、それどころか 社員 でも ない 、アルバイト 。 はっきり いって 、ムラ から したら お荷物 で しか ない 、人間 の 屑 です よ 」・・
「 なるほど 。 しかし 、私 は コンビニ 以外 で は 働け ない んです 。 一応 、やって みよう と した こと は ある んです が 、コンビニ 店員 という 仮面 しか かぶる こと が できなかった んです 。 な ので 、それ に 文句 を 言われて も 困る んです が 」・・
「だから 現代 は 機能 不全 世界 な んです よ 。 生き 方 の 多様性 だ なんだ と 綺麗ごと を ほざいている わりに 、結局 縄文時代 から 何も 変わって ない 。 少子化 が 進んで 、どんどん 縄文 に 回帰 している 、生きづらい 、どころではない 。 ムラ に とって の 役立たず は 、生きて いる こと を 糾弾 さ れ る ような 世界 に なって きてる んです よ 」・・
白羽 さん は 散々 私 に 毒づいていた のに 、今度 は 世界 にたいして 怒り を 露わに している 。 どっち に 怒って いる の か よく わから なかった 。 手当たり次第 、目 に 入った もの を 言葉 で 殴って いる だけ に 見えた 。 ・・
「古倉 さん 、あなた の 提案 、突拍子もない と 思いました が 、悪くない です よ 。 協力 して やって も いい 。 僕 が 家 に いれば 、貧乏 人 が 同棲 している 、と いう 程度 で 、見下さ れ は する かも しれない けれど 、皆 、納得 してくれる 。 今 の あんた は 意味 不明 です よ 。 結婚 も 就職 も して いない なんて 、社会 に とって 何の 価値 も ない 。 そういう 人間 は ね 、ムラ から 排除 さ れます よ 」・・
「は あ ……」・・
「僕 は 婚活 して いて 、あなた は 僕 の 理想 に は 程遠い 。 アルバイト で 大した 金 は ない から 僕 は 起業 する こと が できない し 、だからといって あんた みたいな ので 性欲 処理 が できる わけで も ない 」・・
白羽 さん は まるで 酒 で も あおる ように 、ヘコ 缶 の サイダー を 一気 飲み した 。 ・・
「でも まあ 、僕 と 古倉 さん は 利害 が 一致 して います し ね 。 このまま ここ に いて やって も いい 」・・
「は あ 」・・
私 は ヘコ 缶 の 入った 紙袋 の 中 から チョコレートメロンサイダー を 取り出し 、白羽 さん に 渡した 。 ・・
「あの 、それ で 、白羽 さん 側 に は 何の メリット が ? 」・・
白羽 さん は しばらく 黙った あと 、小さな 声 で 言った 。 ・・
「僕 を 隠して ほしい 」・・
「 は ? 」・・
「僕 を 世界 から 隠して ほしい んだ 。 僕 の 存在 を 利用 して 、口 で は いくら でも 広めて くれて かまわない 。 僕 自身 は 、ずっと ここ に 隠れて いたい 。 もう 赤 の 他人 に 干渉 さ れ る の は うんざり な んだ 」・・
白羽 さん は 俯いて チョコレートメロンサイダー を 啜った 。 ・・
「外 に 出たら 、僕 の 人生 は また 強姦 さ れる 。 男 なら 働け 、結婚 しろ 、結婚をした なら もっと 稼げ 、子供 を 作れ 。 ムラ の 奴隷 だ 。 一生 働く ように 世界 から 命令 されて いる 。 僕 の 精巣 すら 、ムラ の もの な んだ 。 セックス の 経験 が ない だけ で 、精子 の 無駄遣い を して いる ように 扱われる 」・・
「それ は 、苦しい です ね 」・・
「あんた の 子宮 だって ね 、ムラ の もの な んです よ 。 使い物 に なら ない から 見向き も さ れ ない だけ だ 。 ぼく は 一生 何も し たく ない 。 一生 、死ぬ まで 、誰 に も 干渉 さ れ ず に ただ 息 を して いたい 。 それ だけ を 望んで いる んだ 」・・
白羽 さん は 祈る ように 、両手 を 組み合わせた 。 ・・
私 は 、白羽 さん の 存在 が 自分 に とって 有益 か どう か 考えて いた 。 母 も 妹 も 、そして 私 も 、治らない 私 に 疲れ はじめて いた 。 変化 が 訪れる なら 、悪くて も 良くて も 今 より まし な ような 気 が した 。 ・・
「私 に は 白羽 さん ほど の 苦しみ は ない かも しれません が 、今 の まま だと コンビニ で 働きづらい の も 事実 です 。 新しい 店長 に 、いつも 、なんで バイト しか した こと ない の か 聞かれる し 、言い訳 を しない と 不審 がられて しまう んです よね 。 ちょうど 、いい 言い訳 を 探して いた ところ で は あった んです 。 白羽 さん が それ な の か は 知りません が 」・・
「僕 さえ ここ に いれば 世間 は 納得 します よ 。 あなた に とって メリット しか ない 取引 だ 」・・
白羽 さん は 自信 あり げ だった 。 私 から 提案 した ものの 、それほど 強く 言わ れる と 胡散臭かった が 、見た こと も なかった 妹 の リアクション や 、恋愛 を した こと が ない と 言った とき の ミホ たち の 表情 を 思い浮かべ 、本当に 試して みる の も そんなに 悪く ない か 、と 思えた 。 ・・
「取引 と いっても 、報酬 は 必要 ありません よ 。 あなた は 僕 を ここ に おいて 、食事 さえ 出して くれれば それ で いい 」・・
「は あ ……まあ 、白羽 さん に 収入 が ない 限り 、請求 しても しょうがありません よね 。 私 も 貧乏な ので 現金 は 無理です が 、餌 を 与える んで 、それ を 食べて もらえれば 」・・
「 餌 ……? 」・・
「あ 、ごめんなさい 。 家 に 動物 が いる のって 初めて な ので 、ペット の ような 気 が して 」・・
白羽 さん は 私 の 言い回し に 不機嫌 そうに しつつも 、「まあ 、それ で いい でしょう 」と 満足げに 言い放った 。 ・・
「ところで 、僕 は 朝 から 何も 食べて いない んです が 」・・
「ああ 、はい 、冷凍庫 に ご飯 と 、冷蔵庫 に 茹でた 食材 が ある ので 、適当に 食べて ください 」・・
私 は 皿 を 出して テーブル に 並べた 。 茹でた 野菜 に 醤油 を かけた もの と 、炊いた 米 だ 。 ・・
白羽 さん は 顔 を しかめた 。 ・・
「これ は 何 です か ? 」・・
「 大根 と 、 もやし と 、 じゃがいも と 、 お 米 です 」・・
「いつも こんな もの を 食べて いる んです か ? 」・・
「こんな もの ? 」・・
「料理 じゃ ない じゃ ない です か 」・・
「私 は 食材 に 火 を 通して 食べます 。 特に 味 は 必要 ない のです が 、塩分 が 欲しく なる と 醤油 を かけます 」・・
丁寧に 説明 した が 、白羽 さん に は 理解 が できない ようだった 。 嫌々 口 に 運び ながら 、「餌 だ な 」と 吐き捨てる ように 言った 。 ・・
だ から そう 言って いる のに 、と 思い ながら 、私 は 大根 を フォーク で 刺して 、口 に 運んだ 。