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悪人 (Villain) (2nd book), 悪人 下 (5)

悪人 下 (5)

手 を 振る 光代 の 姿 が ルームミラー から 消えて 、 もう どれ くらい 走った の か 。 すぐ そこ に 高速の 入口 が 見える 交差 点 で 、 車 は 赤 信号 に 捕まった 。 祐一 は 尻 ポケット から 財布 を 出した 。 中 に は 五千 円 に 満たない 金 しか 入って いない 。 もしも 光代 が ホテル に 行く こと を 承諾 したら 、 帰り は いくら 遅く なろう と 一般 道 で 帰る つもりだった 。 幸い 光代 が 明日 の 仕事 を 心配 して くれた おかげ で 、 祐一 は これ から 高速に 乗る こと が できる 。 会い たくて 、 会い たくて 仕方なかった 。 つい 数 日 前 に 出会った ばかりな のに 、 一 日 で も 会え ない と 、 それ で 何もかも が 終わって しまい そうで 恐ろしかった 。 夜 、 電話 で いく ら 話して も 、 恐ろし さ は 拭え なかった 。 電話 を 切った とたん に 苦しく なって 、 もう 会え ない ような 気 が した 。 眠る と 光代 が い なく なる 夢 を 見た 。 朝 起きて 、 すぐに 電話 を かけ たかった が 、 早朝 五 時 に かける 勇気 は なく 、 仕事 中 も ずっと 光代 の こと だけ を 考えて い た 。 仕事 が 終わる ころ に は もう 居て も 立って も いられ なく なり 、 気 が つけば 、 車 で 佐賀 に 向かって いた 。 朝 、 おじ の ワゴン で は なく 、 自分 の 車 で 現場 へ 向かった 時点 で 、 もう 行こう と 決めて いた の かも しれ ない 。 祐一 は なかなか 変わら ない 信号 を 待ち ながら 、 力一杯 ハンドル を 両手 で 叩いた 。 横 に 車 が 並んで い なければ 、 そのまま 額 を 打ち付けたい 気分 だった 。 あれ は まだ 祖父母 の 家 に 連れて 来られる 前 、 おふくろ と 市 内 の アパート に 住んで いた 。 ある 日 、「 今 から お 父さん に 会い に 行く よ 」 と 、 とつぜん おふくろ が 言った 。 喜んで 支 度 を して 、 一緒に 路面 電車 に 乗った 。 「 駅 に 着いたら 汽車 に 乗り換える けん ね 」 と お ふ くろ は 言った 。 「 遠い と ? 」 と 尋ねる と 、「 ものすご -、 遠い よ 」 と 答えた 。 混 んだ 路面 電車 で 、 おふくろ は 吊り革 を 掴んだ 。 俺 は その スカート を 掴んだ 。 電車 が そ 走り出す と 、 前 に 座って いる 男 たち が 、 互い の 肩 を 突き 合い クスクス と 笑い 出した 。 剃 わき げ り 忘れた おふくろ の 腋毛 を 笑って いる らしかった 。 おふくろ は 顔 を 真っ赤に して 腋 を ハ ンカチ で 隠した 。 暑い 日 だった 。 混 んだ 電車 は 大きく 揺れて 、 おふくろ の ハンカチ が ず れる たび に 、 男 たち が 笑い を 堪えた 。 国鉄 の 駅 に 着いて 、 汽車 に 乗り換えた 。 揺れる 路面 電車 で 必死に 腋 を 隠して いた お ふ くろ は 、 水 を 浴びた ように 汗だくだった 。 切符 を 買おう と 混 んだ 窓口 に 並んで いる とき 、 俺 は 、「 ごめん ね 」 と 謝った 。 おふくろ は きょとんと して 首 を 捻り 、「 暑 か ねえ 」 と 微笑 む と 、 俺 の 鼻 に 浮かんだ 汗 を 、 その ハンカチ で 拭って くれた 。 とつぜん 背後 で クラクション を 鳴らさ れ 、 祐一 は 我 に 返った 。 慌てて アクセル を 踏み 込む と 、 ハンドル に しがみついて いた から だ が シート に 叩きつけられる 。 気 が 動転 して 、 高速 入口 へ の 車線 に 入れ ず に 、 そのまま 高架 を くぐって しまった 。 次の 信号 で Uターン しよう と 速度 を 落とし 、 気分 転換 に ラジオ を つける と 、 地元 の ニ ュース 番組 が 流れた 。 祐一 は 車 を 大きく Uターン さ せた 。 入り 損ねた 高速の 入口 が すぐ に 近づいて くる 。 「 では 次の ニュース です 。 今月 十 日 未明 、 福岡 と 佐賀 の 県境 、 三瀬 峠 で 起こった 殺人 事 件 の 重要 参考人 と して 指名 手配 されて いた 二十二 歳 の 男性 が 、 昨夜 、 名古屋 市 内 の サウ ナ 店 で 、 店員 から の 通報 で 駆けつけた 警官 に より 身柄 を 拘束 、 すぐに 移送 さ れ 、 現在 、 取り調べ を 受けて いる 模様 です 。 詳しい 情報 が 入り 次第 、 十一 時 の ニュース でも お 伝え します 」 ニュース が 終わり 、 保険 の コマーシャル が 流れる 。 祐一 は 高速の 入口 へ 切り かけて い た ハンドル を 戻し 、 思い切り アクセル を 踏み込んだ 。 とつぜん 割り込んで きた 祐一 の 車 に 、 背後 の 車 から 激しい クラクション が 鳴らさ れる 。 祐一 は それ でも アクセル を 踏み 続 け 、 前 を 走る もう 一 台 の 車 を 抜き去る と 、 やっと スピード を 弛 め て 、 自動 販売 機 の 立つ 路肩 に 車 を 停めた 。 ラジオ は 懐かしい クリスマス ソング を 流して いた 。 祐一 は すぐに チャンネル を 変えて みた が 、 三瀬 峠 の 事件 を 伝える 番組 は 他 に なかった 。 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 祐一 は ハンドル を 抱え込んだ 。 すぐ 横 を 大型 トラック が 走り 抜けて いき 、 その 風圧 で 車体 が ふっと 浮かぶ 。 祐一 は 掴んだ ハンドル を 大きく 揺すった 。 揺すった ところ で 、 ハンドル は ビク と も し ない 。 祐一 は もう 一 度 、 ハンドル を 揺さぶった 。 力 を 込めて 揺さぶれば 揺さぶる ほど 、 ハンドル で は なく 、 自分 の からだ が 前後 に 揺れる 。 あいつ が 捕まった 。 逃げて いた あの 男 が 捕まった 。 石橋 佳乃 を 三瀬 峠 へ 連れて 行った あの 男 が 、 名古屋 で 捕まった 。 知らず知らず に 、 祐一 は そう 眩 いて いた 。 そう 眩 いて いる のに 、 なぜ か 昔 、 おふくろ と 一緒に 親父 に 会い に 行った 日 の 情景 が 思い出さ れる 。 路面 電車 の 中 で 、 おふくろ の 腋 毛 を 笑った 男 たち 。 混 んだ 切符 売り場 の 窓口 で 、 鼻 の 汗 を 拭いて くれた おふくろ の 顔 。 どうして 今 、 あの とき の こと が 浮かんで くる の か 分から なかった 。 ただ 、 忘れよう と し て も 、 浮かんで くる 情景 を 消して しまう こと が でき なかった 。 路面 電車 で 国鉄 の 駅 へ 向かい 、 そこ で 列車 に 乗り換えた 。 おふくろ は 俺 を 窓際 の 席 に 座ら せ 、 横 で ずっと うとうと して いた 。 親父 が 出て いった ばかりの ころ 、 おふくろ は 毎晩 の ように 泣いて いた 。 心細くて 横 に 座る と 、 俺 の 頭 を 撫で ながら 、「 嫌な こと は ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 。 一緒に ぜ 〜 ん ぶ 忘れて しまおう ねえ 」 と ますます 声 を 上げて 泣いた 。 おふくろ と 一緒に 乗った 列車 の 窓 から は 、 海 が 見えた 。 座った の が 山側 の 座席 で 、 海 側 の 座席 に は お 揃い の 帽子 を かぶった 小学生 の 兄弟 と その 両親 が 座って いた 。 首 を 伸ば して 、 海 を 見よう と する と 、 うとうと して いた おふくろ が 目 を 覚まし 、「 ほら 、 ちゃん と 座 つ とき なさい よ 。 危ない けん 」 と 頭 を 押さえた 。 「 着いたら 、 海 なら いくら でも 見られる けん 」 と 。 どれ くらい 乗って いた の か 、 気 が つく と 、 おふくろ と 同じ ように うとうと して いた 。 「 ほら 、 降りる よ 」 と 、 とつぜん 腕 を 掴まれて 、 寝ぼけた まま 列車 を 降りた 。 駅 から し ばら く 歩いた 。 着いた ところ は フェリー 乗り場 だった 。 「 ここ から 船 に 乗って 、 向こう に 行く けん ね 」 おふくろ は そう 言って 、 対岸 を 指さした 。 フェリー 乗り場 の 駐車 場 に は 、 たくさんの 車 が 並んで いた 。 この 車 も 全部 、 一緒に フ ェリー に 乗る のだ と おふくろ は 教えて くれた 。 列車 の 中 で おふくろ が 言った 通り 、 目の前 に は 海 が あり 、 遠く に 対岸 の 灯台 が 小さく 見えた 。 灯台 を 見た の は あの とき が 初めて だった 。 ポケット で 携帯 が 鳴って いた 。 祐一 は 路肩 に 停めた 車 の 中 で 、 ハンドル を 握りしめた まま だった 。 相変わらず 横 を トラック が 走り抜けて いく 。 通る たび に 風圧 で こちら の 車体 が ふっと そう です か 。 祐一 は あん とき の こと を まだ 覚え とった です か ……。 あれ は 祐一 が 五 歳 か 、 六 歳 :….。 てっきり 、 祐一 は もう 忘れ とるって 思う とった です よ 。 前 に も 話し まし た けど 、 祐一 が 私 の ところ で 働く ように なって から は 、 前 に も 増して 祐一 は 自分 の 息子 の よう やった で すけ ん ねえ 。 最近 で は 仕事 も 覚えて 、 クレーン 免許 ば 取る 気 も あった み 浮かぶ 。 祐一 は 携帯 を 取り出した 。 「 家 」 から だった 。 電話 に 出る と 、 少し オドオド した よう な 祖母 の 声 が 聞こえて くる 。 「 ゆ 、 祐一 ね ? あんた 、 今 、 どこ に おる と ? 」 近く に 誰 か が いて 、 その 誰 か に 確認 し ながら 話して いる ようだった 。 「 なんで ? 」 と 祐一 は 訊 いた 。 「 い 、 今 、 警察 の 人 が 来 と んな つと さ 、 ここ に 」 わざと 明るく 振る舞おう と して いる が 、 祖母 の 声 が 震えて いる 。 「 どこ に おる と ? すぐ 帰って こ れる と やる ? 」 また 一 台 、 トラック が 横 を 走り抜けて いく 。 祐一 は 電話 を 切った 。 ほとんど 反射 的に 指 が 動いた 。 た いやし 。 ぱあ じい 考えて みれば 、 あれ が 原因 で 祐一 は 婆さん 爺さん の 家 で 暮らす ように なった と です ょ 。 そう です か :….。 祐一 は 未 だに 、 父ちゃん に 会い に 行った と 思う とる と です か 。 切 なか です ねえ 。 ほんと は 自分 の 母親 に 捨てられよう と し とった と に ねぇ 。 祐一 が どう 話した か 知ら んです けど 、 あの とき もう 祐一 の 母親 は どうにも なら ん よう かいしよう に なっとった と です よ 。 周り の 反対 を 押し切って 、 甲斐 性 なし の 男 と くっついて 、 すぐ に 祐一 ば 産んだ まで は よかった ばってん 、 五 年 も 経た ん うち に 男 は 二 人 ば 置いて 出て 行って しも うて 。 祐一 の 母親 の 肩 持つ わけじゃ な かばって ん 、 キャバレー で 働いて 、 自分 なり に 祐一 の こと 育てよう と は 思う とった と でしょう ね 。 ただ 、 そう 簡単に いく もん で す か 。 あげ ん 所 で 働けば 、 すぐに また 悪 か 男 の 目 に ついて 、 あっという間 に 金 は 筆 り 取られて 、 挙げ句 の 果て に 病気 して ……、 実家 の 婆さん に 一 本 電話 かければ よかろう に 、 それ も でき ん 。 結局 、 頼る 者 も おら んで ……。 あの 日 は 、 いよいよ 切羽詰まった と でしょう ねえ 。 祐一 に 「 お 父さん に 会い に 行く よ 」 なんて 嘘 ついて 、 男 の 居場所 なんか 知り も せ ん くせ に 。 あの 日 、 祐一 は フェリー 乗り場 に 置き去り に さ れた と です よ 、 結局 、 翌朝 まで じっと 一 人 で 待つ とったら しか です 。 切符 ば 買い に 行くって 言う て 、 そのまま 逃げた 母親 ば 、 フェリー 乗り場 の 桟橋 の 柱 に 隠れて 、 朝 まで ずっと 待つ とったら しか です 。 翌朝 、 係員 に 見つけられた とき 、 祐一 は それ でも 動こう と せ ん や つたって 。 「 母 ちゃ ん が ここ に おれって 言う たも ん ! 」って 、 その 人 の 腕 に 噛みついたって 。 置き去り に する 前 に 、 母親 が 言う たら しかと です よ 。 「 向こう に 灯台 の 見える やろ う ? 」って 、「 あの 灯台 ば 見 とき なさい 」って 、「 そ したら すぐ お母さん 、 切符 買う て 戻って くる けん 」って 。 結局 、 母親 が 連絡 して きた と は その 一 週間 後 です よ 。 自分 で は 死ぬ 気 やったって 言い よった ばってん 、 俺 に は そう 思え んです ねえ 。 結局 その あと は 、 児童 相談 所 や 家庭 裁判 所 の 世話に なって 、 婆さん たち が 二 人 を 引き取って 、 それ から また すぐです もん ねえ 、 母親 が 男 作って 逃げ出した と は 。 それ でも ねえ 、 親子って いう と は 不思議な もん です よ 。 あれ は ちょうど 祐一 が うち で 働き 出した ころ やった か ねえ 、 なんか の 拍子 に 、「 母 ち ゃん から は ぜんぜん 連絡 な しか ? 」って 、 私 が 訊 いた と です よ 。 たしか 爺さん の 具合 が 悪う なった とき で 、 私 と して も 、 もし 万が一 の こと が あったら 、 葬式 くらい 呼んで やら ん と なぁ 、 なんて 心 のどっか で 思う とって 、 それ が ぼろっと 出た と やろう と 思う と です けど ね 。 母親 が 男 作って 家 を 出た あと は 、 てっきり 音沙汰 なしって 思う とったん です よ 。 実際 、 婆さん や 爺さん も 、「 何 年 か に 一 度 、 思い出した ように 年賀 状 が 来る だけ 。 年賀 状 が 来 る たんび に 住所 が 変わ つとって …・・・、 たぶん その たんび に 男 も 変わっと る の やろう 」 な ん て 言い よった し 。 だけ ん 、 祐一 に 「 ぜんぜん 連絡 な しか ? 」って 訊 いた とき も 、 祐一 が 頷いて 終わりって 思う とった と です よ 。 そ したら 、「 爺ちゃん の こと なら 、 もう 知らせて ある 」って 。 「 知らせて あるって 、 お前 ……。 母ちゃん と 連絡 取り合い よっと か ? 」 「 たまに 一緒に メシ 食い よる 」 「 たまにって ……」 「 年 に 一 回 あるか ない か 」 「 婆さん たち は 知っと る と か ? 」 祐一 は 、「 いや 、 知ら ん 」って 首 振りました よ 。 ほら 、 あの 婆さん も 祐一 は 自分 が 育 て たって 自負 も ある し 、 祐一 も 言いにくかった と でしょう ねえ 。 「 お前 、 母ちゃん に 会う て 、 腹 立た ん と か ? 」 思わず 、 そう 訊 きました よ 。 だって 、 ろくに 食べ物 も 与え ん で 、 その 上 、 フェリー 乗 り 場 に 置き去り に して 、 挙げ句 の 果て が 婆さん に 預けた まま です よ 。 でも 、 祐一 は 、 「 腹 立た ん 」って 言い よりました 。 「 腹 立てる ほど 、 会 うて ない 」って 。 「 母ちゃん 、 今 、 どこ で 何 し よる と か ? 」って 訊 いたら 、「 雲仙 の 旅館 で 働 い とる 」って 。 あれ が もう 三 年 か 四 年 前 。 祐一 を 見送った あと 、 光代 は しばらく アパート の 外 階段 に 座り込んで いた 。 硬い コン クリート が 尻 を 冷やし 、 一 階 の 部屋 から は 赤ん坊 を あやす 若い 男 の 声 が 聞こえた 。 さすが に 寒く なって 二 階 の 自室 へ 向かった 。 鍵 を 開け 、「 ただいま -」 と 声 を かける と 、 トイレ の 中 から 、「 残業 やった と ? 」 と 珠代 の 声 が 聞こえる 。 光代 は 、「 あ 、 うん 」 と 暖昧 に 答え ながら 靴 を 脱いだ 。 廊下 を 進んで 居間 へ 入る と 、 テーブル に シチュー を 食 べ た あと らしい Ⅲ が あった 。 「 自分 で 作った と ? 」 トイレ に 声 を かけて みる が 、 返事 は ない 。 襖 を 開けて 、 寝室 に して いる 六 畳 間 に 入った 。 祐一 は もう 高速に 乗った だろう か 。 な 祐一 自身 も たまに 車 で 会い に 行ったり する こと も あったら しか です よ 。 「 二 人 で 何の 話 する と か ? 」って 訊 いたら 、「 別に 何も 話さ ん 」って 。 私 は ね 、 正直 、 祐一 の 母親 ぱ 許す 気 は ない と です よ 。 未 だに フェリー 乗り場 に 置き 去 り に さ れた 祐一 が 目 に 浮かんで しまう 。 私 だけ じゃ なくて 、 婆さん も 爺さん も 、 親戚 中 の 人間 が そう です よ 。 ただ 、 ほんとに 不思議な もん で 、 当の 祐一 は その 母親 ば 、 もう 許 し とる と です もん ねえ 。 ん と なく 窓際 に 向かい 、 レース の カーテン を 開けた 。 さっき 祐一 を 見送った 場所 を 野良 猫 が 一 匹 駆け抜ける 。 その とき だった 。 表通り を ものすごい スピード で 走って きた 車 が 、 まるで スピン でも する ような 勢い で 、 そこ に 滑り込んで きた のだ 。 その 瞬間 、 ゴミ 捨て 場 に 駆け込もう と した 野良 猫 が 、 青い ライト に 浮かび上がった 。 光代 は 思わず 両手 を 握りしめた 。 「 危ない ! 」 と 心 の 中 で 叫んだ 。 車 が ゴミ 捨て場 の ポリバケッ に ぶつかる 寸前 で 停 まる 。 身 を 縮めて いた 野良 猫 が 、 青い ライト の 中 、 ふと 我 に 返った ように 逃げ出して いく 。 「 祐一 ? ……」 滑り込んで きた の は 祐一 の 車 に 違いなかった 。 野良 猫 の い なく なった 空き地 を 、 青い ライト が 照らして いる 。 光代 は 反射 的に カーテン を 閉め 、 慌てて 玄関 へ 腓 け 出した 。 あまりに も 急いで いる の で 、 うまく 踵 が 靴 に 入ら ない 。 床 に 置かれて いた バッグ を 反射 的に 取る と 、「 どこ 行く と ? 」 と 、 トイレ から 呑気 な 珠代 の 声 が 聞こえる 。 光代 は 何も 答え ず に 玄関 を 飛び出し た 。 アパート の 階段 から 、 暗い 車 内 で ハンドル に 突っ伏して いる 祐一 が 見えた 。 車 の ライ ト が 汚れた ポリバケッ を 照らして いる 。 光代 は 階段 を 下りた ところ で 思わず 足 を 止めた 。 目の前 の 光景 が 幻覚 の ように 思えた のだ 。 会いたい と 思う 気持ち が 、 こんな 光景 を 見せて いる ので は ない か と 。 それ でも ゆっくり と 近寄る と 、 足元 で 砂利 が 鳴った 。 光代 は 運転 席 の ガラス を 指先 で 叩いた 。 叩いた 瞬間 、 祐一 が ビクッ と 起き上がる 。 「 どうした と ? 」 と 光代 は 声 を 出さ ず に 尋ねた 。 その 口元 を 見つめて いる 祐一 の 目 が 、 どこ か とても 遠い 場所 を 見て いる よ うだった 。 光代 は もう 一 度 ガラス を 叩いた 。 叩き ながら 、「 どうした と ? 」 と 目 で 尋ねた 。 それ に 答える ように 祐一 が 目 を 逸ら す 。 光代 は また ガラス を 叩いた 。 しばらく ハンドル を 握った まま 傭 いて いた 祐一 が ゆっくり と ドア を 開ける 。 光代 は 一 歩 あと ず さった 。 車 を 降りて きた 祐一 が 、 何も 言わ ず に 光代 の 前 に 立つ 。 光代 は その 顔 を 見上げ ながら 、 「 どうした と ? 」 と また 訊 いた 。 通り を 車 が 一 台 走って いく 。 路肩 の 雑草 が その 風圧 で 激しく 揺れる 。 その とき だった 。 祐一 が とつぜん 光代 を 抱きしめた 。 あまりに も とつぜんで 、 光代 は 短い 声 を 上げた 。 「 俺 、 もっと 早う 光代 に 会 つ とれ ぱ よかった 。 もっと 早う 会っと れば 、 こげ ん こと に は なら ん やった ……」 抱きしめる 祐一 の 胸 から 声 が する 。 「』 え ? 。」 「 車 に 、 俺 の 車 に 乗って くれ ん や ? 」 「 え 」 「 俺 の 車 に 乗って くれって ! 」 とつぜん 声 を 荒らげた 祐一 が 、 光代 の 腕 を 引っ張って 、 助手 席 の ほう へ 回り込む 。 「 ど 、 どうした と ? 」 あまりに も 急で 、 光代 は 思わず 腰 を 引き 、 引きずら れる 踵 が 砂利 に 埋まった 。 「 よ かけ ん 、 乗れって ! 」 祐一 は ほとんど 光代 を 小 脇 に 抱える ように して 、 助手 席 の ドア を 開けた 。 両側 の ドア が 開いた 車 内 を 風 が 吹き抜け 、 暖房 で 暖まった 風 が 流れ出て くる 。 「 ちよ 、 ちょっと 」 光代 は 抵抗 した 。 乗り たく なかった わけで は なくて 、 一言 で いい から 何 か 説明 して ほ しかった 。 「 ど 、 どうした と ? ねぇ ? 」 乱暴に からだ を 押さ れ ながら 、 光代 は 祐一 の 手首 を 掴んだ 。 とても 乱暴な 物言い で 、 とても 乱暴に 扱われて いる のに 、 祐一 の 震える 手首 が とても 弱々しく 感じられた 。 光代 を 助手 席 に 押し込む と 、 祐一 は ドア を 閉めて 運転 席 へ 回った 。 まるで 転がり込む ように 乗り込んで 、 息 を 荒く した まま サイド ブレーキ を 下ろす 。 下ろした 途端 、 タイヤ が 地面 の 砂利 を 蹴飛ばして 、 猛 スピード で 発車 する 。 アパート 前 の 空き地 を 飛び出し 、 311 第 四 章 彼 は 誰 に 出会った か ? 急 ハンドル で 左 へ 曲がる 。 曲がった 瞬間 、 対向 車 と ぶつかり そうに なり 、 光代 は また 声 を 上げた 。 間一髪 、 対向 車 を 媒 した 車 は 、 畑 の 中 を 一直線 に 伸びる 暗い 道 を 加速 した 。

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