14.2 コーネリウス ・ ファッシ ゙ - Cornelius Fudge
「全校 生徒 は 夕方 六 時 までに 、各 寮 の 談話室 に 戻る ように 。 それ 以後 は 決して 寮 を 出て は なりません 。 授業 に 行く とき は 、必ず 先生 が 一人 引率 します 。 トイレ に 行く とき は 、必ず 先生 に 付き添って もらう こと 。 クィディッチ の 練習 も 試合 も 、すべて 延期 です 。 夕方 は 一切 、クラブ 活動 を して は なりません 」超 満員 の 談話室 で 、グリフィンドール 生 は 黙って マクゴナガル 先生 の 話 を 聞いた 。 先生 は 羊 皮 紙 を 広げて 読み上げた あと で 、紙 を クルクル 巻きながら 、尐し 声 を 詰まらせた 。
「言う まで も ない こと です が 、私 は これほど 落胆 した こと は ありません 。 これ まで の 襲撃 事件 の 犯人 が 捕まら ない かぎり 、学校 が 閉鎖 される 可能性 も あります 。 犯人 に ついて 何 か 心当たり が ある 生徒 は 申し出る よう 強く 望みます 」 マクゴナガル 先生 は 、 少し ぎ ご ち なく 肖像 画 の 裏 の 穴 から 出て いった 。 途端 に グリフィンドール 生 は しゃべり はじめた 。
「これ で グリフィンドール 生は 二人 やられた 。 寮付きの ゴーストを 別にしても 。 レイブンクローが 一人 、ハッフルパフが 一人 」
ウィーズリー 双子兄弟と 仲良しの 、リー・ジョーダンが指を折って数え上げた。
「先生 方 は だーれ も 気づか ない の か な ?スリザリン 生 は みんな 無事だ 。 今度 の こと は 、 全部 スリザリン に 関係 してるって 、 誰 に だって わかり そうな もん じゃない か ? スリザリン の 継承者 、 スリザリン の 怪物 ―― どうして スリザリン 生 を 全部 追い出さない ん だ ?」 リー の 大 演説 に みんな 領 き 、 パラパラ と 拍手 が 起こった 。 パーシー ・ウィーズリー は 、リー の 後ろ の 椅子 に 座って いた が 、いつも と 様子 が 違って 、自分 の 意見 を 聞かせたい という 気 が ない ようだった 。 青い 顔 で 声 も なく ぼーっと している 。 「パーシー は ショック なんだ 」ジョージ が ハリー に ささやいた 。
「あの レイブンクロー の 子 ――ペネロピー ・クリアウォーター ――監督 生 なんだ 。 パーシー は 怪物 が 監督 生 を 襲う なんて 決して ない と 思って た んだろう な 」
しかし ハリー は 半分 しか 聞いて い なかった 。
ハーマイオニー が 病棟 の ベッド に 石 の 彫刻 の ように 横たわっている 姿 が 、目 に 焼きついて 離れない 。
犯人 が 捕まら なかったら 、ハリー は 一生 ダーズリー 一家 と 暮らす 羽白 に なる 。
トム ・リドル は 、学校 が 閉鎖 されたら マグル の 孤児院 で 暮らす 羽目 に なった だろう 。
だから ハグリッド の こと を 密告 した のだ 。
トム ・ リドル の 気持 が 、 今 の ハリー に は 痚 い ほど わかる 。
「どう したら いい んだろう ?」ロン が ハリー の 耳元 で ささやいた 。
「ハグリッド が 疑わ れる と 思う かい ?」
「ハグリッド に 会って 話さ なくちゃ 」ハリー は 決心した 。
「今度 は ハグリッド だ とは 思わない 。 でも 、前に 怪物 を 解き放した のが 彼 だと すれば 、どう やって 『秘密の 部屋 』に 入る のか を 知ってる はずだ 。 それ が 糸口 だ 」
「だけど 、マクゴナガル が 、授業 の とき 以外 は 寮 の 塔 から 出る なって ――」
「今こそ 」ハリーが 一段と 声を ひそめた 。
「パパの あの マントを また 使う ときだ と 思う 」
ハリーが 父親から 受け継いだ たった 一つの 物 、それは 、長い 銀色に 光る 「透明マント 」だった 。 誰にも 知られずに こっそり 学校を 抜け出して 、ハグリッドを 訪ねる のには それしか ない 。
二人は いつもの 時間に ベッドに 入り 、ネビル 、ディーン 、シューマス が やっと 「秘密の 部屋」の討論をやめ、寝静まるのを待った。
それから 起き上がり 、ローブを 着直して 「透明マント」を被った。
暗い 、人気のない 城の 廊下を 歩き回る のは 楽しい とは いえ なかった 。
ハリーは 前にも 何度か 夜 、城の 中を さまよった ことが あったが 、日没後に 、こんな 混み合っている 城を 見るのは 初めてだった 。 先生 や 監督 生 、ゴースト など が 二人 ずつ 組 に なって 、不審な 動き は ない か と そこ いら 中 に 目を 光らせて いた 。
「透明 マント 」は 二人 の 物音 まで 消して は くれない 。
特に 危なかった の が 、ロン が 躓いた とき だった 。
ほんの 数 メートル 先 に スネイプ が 見張り に 立って いた 。
うまい 具合に 、ロン の 「こんちくしょう 」と いう 悪態 と 、スネイプ の くしゃみ が まったく 同時 だった 。
正面 玄関 に たどり着き 、樫 の 扉 を そっと 開けた とき 、二人 は やっと ホッとした 。 星 の 輝く 明るい 夜 だった 。 ハグリッド の 小屋 の 灯り を 目指し 、二人 は 急いだ 。 小屋 の すぐ 前 に 来た とき 、初めて 二人 は 「マント 」を 脱いだ 。
戸 を 叩く と 、すぐに ハグリッド が バタン と 戸 を 開けた 。 真 正面 に ヌッ と 現れた ハグリッド は 二人 に 石弓 を 突きつけて いた 。
ボアハウンド 犬 の ファング が 後ろ の 方 で 吼えたてている 。
「お ぉ 」ハグリッド は 武器 を 下ろして 、二人 を まじまじと 見た 。
「二人 とも こんな とこで 何 しとる ? 」
「それ 、なんの ため なの ? 」二人 は 小屋 に 入りながら 石弓 を 指差した 。
「 なんでも ねぇ ...... なんでも 」 ハグリッド が も ご も ご 言った 。
「ただ 、もしかすると ......うん にゃ ......座れ や ......茶 、入れる わい ......」
ハグリッド は 上の空 だった 。 やかん から 水 を こぼして 、暖炉 の 火 を 危うく 消しそうに なったり 、どでかい 手 を 神経質に 動かした 弾み で 、ポット を こなごなに 割ったり した 。
「ハグリッド 、大丈夫 !」ハリー が 声 を かけた 。
「ハーマイオニー の こと 、聞いた ? 」
「あぁ 、聞いた 。 たしかに 」ハグリッド の 声 の 調子 が 尐 し 変わった 。
その 間 も チラッチラッ と 不安 そうに 窓 の 方 を 見て いる 。
それから 二人に 、たっぷりと 熱い 湯を 入れた 大きな マグカップを 差し出した (ティーバッグを 入れ忘れている )。
分厚い フルーツケーキを 皿に 入れているとき 、戸を 叩く 大きな 音が した 。 ハグリッドは フルーツケーキを ポロリと 取り落とし 、ハリーと ロンは パニックに なって 顔を 見合わせ 、さっと 「透明マント」を被って部屋の隅に引っ込んだ。 ハグリッドは 二人が ちゃんと 隠れた ことを 見極め 、石弓を 引っつかみ 、もう一度 バンと 戸を 開けた 。
「こんばんは 、ハグリッド 」
ダンブルドア だった 。 深刻 そのもの の 顔 で 小屋 に 入って 来た 。 次に 奇妙な 格好の 男 が 続いた 。
見知らぬ 男 は 背 の 低い 恰幅 の いい 体 に くしゃくしゃの 白髪 頭 で 、悩み事 が ある ような 顔 を し て いた 。
奇妙な 組み合わせ の 服装 で 、細縞 の スーツ 、真っ赤な ネクタイ 、黒い 長い マント を 着て 先の 尖った 紫色 の ブーツ を 履いている 。
ライム の ような 黄緑 色 の 山高帽 を 小脇 に 抱えて いた 。 「パパ の ボス だ !」ロン が ささやいた 。 「コーネリウス ・ファッジ 、魔法 省 大臣 だ !」ハリー は ロン を 肘 で 小突いて 黙らせた 。 ハグリッド は 青ざめて 汗 を かき はじめた 。
椅子 に ドッと 座り込み 、ダンブルドア の 顔 を 見 、それから コーネリウス ・ファッジ の 顔 を 見た 。
「状況 は よく ない 。 ハグリッド 」ファッジ が ぶっきらぼうに 言った 。
「すこぶる よく ない 。 来 ざる を え なかった 。 マグル 出身 が 四 人 も やられた 。 もう 始末 に 負え ん 。 本省 が 何 か し なくて は 」
「 俺 は 、 決して 」 ハグリッド が 、 すがる よう に ダンブルドア を 見た 。
「 ダンブルドア 先生 様 、 知って なさる でしょう 。 俺 は 、決して ...... 」
「コーネリウス 、これ だけ は わかって 欲しい 。 わし は ハグリッド に 全幅 の 信頼 を 置いて おる 」
ダンブルドア は 眉 を ひそめて ファッジ を 見た 。
「しかし 、アルバス 」ファッジ は 言いにくそうだった 。
「ハグリッド に は 不利な 前科 が ある 。 魔法 省 と して も 、 何 か しなければ なら ん 。 学校 の 理事 たち が うるさい 」
「コーネリウス 、もう 一度 言う 。 ハグリッド を 連れて いった ところで 、なんの 役に も 立たん じゃろう 」
ダンブルドア の ブルー の 瞳 に 、これまで ハリー が 見た ことが ない ような 激しい 炎 が 燃えて いる 。
「わたし の 身 に も なって くれ 」ファッジ は 山高帽 を もじもじ いじりながら 言った 。
「プレッシャー を かけられてる 。 何か 手を 打った と いう 印象 を 与えない と 。 ハグリッド で は ない と わかれば 、 彼 は ここ に 戻り 、 なんの 答 め もない 。 ハグリッド は 連行 せねば 、どうしても 。 わたし に も 立場 と いう もの が ―― 」
「俺 を 連行 ? 」ハグリッド は 震えて いた 。 「どこ へ ? 」
「ほん の 短い 間 だけ だ 」ファッジ は ハグリッド と 目 を 合わせず に 言った 。
「罰 では ない 。 ハグリッド 。 むしろ 念のため だ 。 他の 誰か が 捕まれば 、君は 十分な 謝罪の 上 、釈放される ......」
「まさか アズカバン じゃ ?」ハグリッド の 声 が かすれた 。
ファッジ が 答える 前 に 、また 激しく 戸 を 叩く 音 が した 。
ダンブルドア が 戸 を 開けた 。 今度 は ハリー が 脇腹 を 小突かれ る 番 だった 。 みんな に 聞こえる ほど 大きく 息 を 呑んだ から だ 。
ルシウス ・マルフォイ 氏 が ハグリッド の 小屋 に 大股 で 入ってきた 。 長い 黒い 旅行 マント に 身 を 包み 、冷たく ほくそえんで いる 。 ファング が 低く 唸り 出した 。 「もう 来て いた の か 。 ファッジ 」マルフォイ 氏 は 「よろしい 、よろしい ......」と 満足げに 言った 。 「なんの 用 が ある んだ ?」ハグリッド が 激しい 口調 で 言った 。 「俺 の 家 から 出て いけ !」
「威勢 が いい ね 。 言わ れる まで も ない 。 君 の ――あー ――これ を 家 と 呼ぶ の か ね ?その 中 に いる のは 私 とて まったく 本意 で は ない 」
ルシウス ・マルフォイ は せせら 笑い ながら 狭い 丸太 小屋 を 見回した 。 「 ただ 学校 に 立ち寄った だけ な のだ が 、 校長 が ここ だ と 聞いた もの で ね 」「 それでは 、 いったい わし に なんの 用 が ある と いう の か ね ? ルシウス ?」 ダンブルドア の 言葉 は 丁寧 だった が 、 あの 炎 が 、 ブルー の 瞳 に まだ メラメラ と 燃えて いる 。 「ひどい ことだ が ね 。 ダンブルドア 」 マルフォイ 氏 が 、 長い 羊 皮 紙 の 巻紙 を 取り出し ながら 物 憂 げ に 言った 。
「しかし 、理事たちは 、あなたが 退く ときが 来た と 感じた ようだ 。 ここ に 『停職 命令 』が あ る ――十二 人 の 理事 が 全員 署名 している 。 残念 ながら 、私 ども 理事 は 、あなた が 現状 を 掌握 できない と 感じて おり まして な 。 これ まで いったい 何 回 襲われた と いう の か ね ?今日 の 午後 に は また 二 人 。 そうです な ?この 調子 で は 、ホグワーツ に は マグル 出身 者 は 一人 も いなく なり ます ぞ 。 それ が 学校 に とって は どんなに 恐るべき 損失 か 、我々 すべて が 承知 して おる 」
「お ぉ 、ちょっと 待って くれ 、ルシウス 」ファッジ が 驚愕 して 言った 。 「 ダンブルドア が 『 停職 』?... ダメダメ ...... 今 と いう 時期 に 、 それ は 絶対 困る ......」
校長 の 任命 ――それ に 停職 も ――理事会 の 決定 事項 です ぞ 。 ファッジ 」マルフォイ は よどみなく 答えた 。
「 それ に 、ダンブルドア は 、今回 の 連続 攻撃 を 食い止められなかった のである から ......」「ルシウス 、待ってくれ 。 ダンブルドア でさえ 食い止められない なら ――」ファッジ は 鼻 の 頭 に 汗 を かいていた 。 「つまり 、他に 誰が できる ?」「それは やってみなければ わからん 」マルフォイ 氏 が こダリ と 笑った 。 「しかし 、十二人 全員 が 投票 で ......」ハグリッド が 勢いよく 立ち上がり 、ぼさぼさの 黒髪 が 天井 を こすった 。 「そんで 、いったい きさま は 何人 脅した ?何人 脅迫 して 賛成 させた ?えっ ?マルフォイ 」「おぅ 、おぅ 。 そういう 君 の 気性 が そのうち 墓穴 を 掘る ぞ 、ハグリッド 。 アズカバン の 看守 に は そんなふうに 怒鳴ら ない よう 、ご 忠告 申し上げよう 。 あの 連中 の 気に障る だろう から ね 」
「ダンブルドア を やめさせられる ものなら 、やってみろ !」ハグリッド の 怒声 で 、ボアハウンド の ファング は 寝床 の バスケット の 中で すくみ上がり 、クィンクィン 鳴いた 。 「そんな ことを したら 、マグル 生まれ の 者 は お終いだ !この 次は 『殺し 』に なる !」「落ち着く んじゃ 。 ハグリッド 」ダンブルドア が 厳しく たしなめた 。 そして ルシウス ・マルフォイ に 言った 。
「理事 たち が わし の 退陣 を 求める なら 、ルシウス 、わし は もちろん 退こう 」
「しかし ――」ファッジ が 口ごもった 。
「だめ だ !」ハグリッド が 捻った 。
ダンブルドア は 明るい ブルー の 目 で ルシウス ・マルフォイ の 冷たい 灰色 の 目 を じっと 見据えた まま だった 。
「しかし 」ダンブルドア は ゆっくり と 明確に 、その 場 に いる 者 が 一言 も 聞きもらさない ように 言葉 を 続けた 。
「覚えて おく が よい 。 わし が ほんとうに この 学校 を 離れる の は 、わし に 忠実な 者 が 、ここ に 一 人 も いなく なった とき だけ じゃ 。 覚えておく がよい 。 ホグワーツ では 助け を 求める 者 には 、必ず それが 与えられる 」一瞬 、ダンブルドア の 目が 、ハリー と ロン の 隠れている 片隅 に キラリと 向けられた と 、ハリーは 、ほとんど 確実に そう 思った 。 「あっぱれな ご心境で 」マルフォイは 頭を 下げて 敬礼した 。
「アルバス 、我々は 、あなたの ――あー ――非常に 個性的な やり方を 懐かしく 思う でしょう 。 そして 、後任者 が その ――えー ――『殺し 』を 未然に 防ぐ のを 望む ばかりだ 」
マルフォイ は 小屋 の 戸 の 方に 大股で 歩いて 行き 、戸を 開け 、ダンブルドアに 一礼して 先に 送り出した 。
ファッジ は 山高帽を いじりながら ハグリッドが 先に 出る のを 待っていたが 、ハグリッドは 足を 踏ん張り 、深呼吸する と 、言葉を 選びながら 言った 。
「誰か 何かを 見っけ たかったら 、クモの 跡を 追っかけて 行けば ええ 。 そう すり や ちゃんと 糸 口 が わかる 。 俺 が 言いて え の は それ だけ だ 」ファッジ は あっけに 取られて ハグリッド を 見つめた 。 「よし 。 行く ぞ 」
ハグリッド は 厚手 木綿 の オーバー を 着た 。 ファッジ の あと から 外 に 出る とき 、戸口 で もう 一度 立ち止まり 、ハグリッド が 大声 で 言った 。
「それ から 、誰か 俺 の いねえ 間 、ファング に 餌 を やって くれ 」
戸 が バタン と 閉まった 。 ロン が 「透明 マント 」を 脱いだ 。
「大変だ 」ロン が かすれ 声 で 言った 。
「ダンブルドア は いない 。 今夜 に も 学校 を 閉鎖 した 方が いい 。 ダンブルドア が いな けり や 、 一 日 一人 は 襲わ れる ぜ 」
ファング が 、閉まった 戸 を 掻きむしりながら 、悲しげに 鳴きはじめた 。