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JIN-仁-, JIN-仁- #05

( 野 風 ) 先生

姐 さん を 治して いただき とう ご ざん す

( 咲 ) 先生 この 方 は …

( 仁 ) 梅 毒 の 患者 さん です

末期 の

夕霧 姐 さん こちら は 江戸 で 一 番 の お 医者 様 であり ん す

( 夕霧 ) あ ちき を 診て くださる お 医者 様 が

まだ この世 に いん した か

ありがた や

( 夕霧 の うめき声 )

用 を 足す たび に このような ありさま で

( うめき声 )

女 郎 は なぜに このような 病 に

おびえて 生きて いか ねば なら ん のであり ん しょう

先生 姐 さん を この 病 から お 救い ください なん し 何とぞ …

残念です が 私 に は 手 の 下し よう が あり ませ ん

さい で あり ん す か …

すいません

≪( 洪 庵 ) 梅 毒 ほど 世に 多く →

難治 に して 人 の 苦悩 する もの は なし

杉田 玄 白 先生 も 「 形 影 夜 話 」 の 中 で そのように 指摘 さ れて おら れ ます

どのような 治療 が なされて いる んです か ?

水銀 を 用いる と いう 治療 法 を やって おり ます が →

これ が 梅 毒 以上 の 苦し み を →

患者 に 与える ようで ございまして …

南方 先生 梅 毒 の 正体 と は 一体 ?

梅 毒 は 梅 毒 菌 と いう 目 に 見え ない 病原 微 生物 に よって

引き起こさ れる 病気 です

梅 毒 菌 は 極めて 生命 力 が 強く

皮膚 や 粘膜 やがて は 内臓 骨 筋肉

神経 や 脳 せき髄 を 侵食 し 人 を 死に 至ら しめ ます

なんとか 治す 方法 は ない もん でしょう か ?

残念 ながら まだ この 時代 で は

まるで いずれ この 病 は 治る 時代 が 来る と

先生 は ご存じ の ようです な

いや … 医術 は 日々 進歩 する もの です から いつか は

しかし 今 の 我ら に

何 か できる こと は ない んでしょう か ?

今 目の前 で 苦しんで おる 民 の ため に

≪( 彦三郎 ) うち の 妓 たち に 痩毒 の お 調べ を ?

梅 毒 の 感染 を 防ぐ に は 廓 の 中 から 予防 する の が 一 番 な んです

( 女将 ) そんな こと さ れちゃ …

痩毒 を しっかり と 調べ きちんと 取り締まれば

鈴 屋 は 吉原 で は 一 番 安全な 見世 や と いう 噂 が たち ます

決して 損な 話 や ない と 存じ ます が

嫌であり ん す いやらしい お 医者 様 です わな

タダ で あ ちき ら の 下 を のぞきこむ つもりで ご ざんしょ !

問診 に 答えて いただく だけ でも いいん です

発疹 発熱 疼 痛 の 有無 だけ でも … お ぶ しゃれ ざん すな !

あ ちき は とっくに 鳥屋 に ついて ん す

鳥屋 ? 待って ください 話 を …

≪( 野 風 ) 最初に 痩毒 に かかって 床 に つく こと を

鳥屋 に つく と 申し まして なあ

これ から 回復 する と 一人前 の 女 郎 に なった と

値 が 上がる のであり ん す 一人前 ?

痩毒 に かかり にくく 身 ご もり にくい

女 郎 と して 一人前 の 体 を 得た と それ は 誤解 です

回復 は 一時的な もの で 数 年 後 に は 重い 症状 が …

知 っと うす

痩毒 に かかった 女 郎 の 最期 も

何度 も 見た であり ん す から

あの … で は なぜ 皆さん 治そう と し ない のです か ?

治せ ない のであり ん しょう ?

治 せる なら みな 聞く 耳 も 持ち ん しょう

けん ど 余計 なお 調べ だけ を さ れ

仕事 から 外さ れて は

たちまち お まん ま は 食い 上げ

体 を 売ら ず に 女 郎 に どう やって 生きて いけ と ?

申し訳 ございませ ん とんでもない こと に なり まして

いえ こちら こそ 考え が 足り ず に

野 風 は 昔 夕霧 の 禿 でして な

夕霧 が 床 に ついて から は →

評判 の 医者 を 探して きて は 治療 を 受け させ →

もう 3 年 に なり ます →

誰 より も 痩毒 を 憎んで いる の は 野 風 な ので ございます

どうか その 気持ち は 察して やって ください

( 男 ) おいおい 殺さ れた って ?

≪( 女 郎 A ) めった 斬り に さ れて コモ で くるま れて たって

≪( B ) 線香 は あげて あった って さ ≪( C ) いっそ 怖い よ

みな どこ か 他人事 です ね

やり きれ ませ ん なあ →

苦 界 に 身 を 沈めた 女 郎 の 末路 は 哀れな もん

それ が さだめ と 決め付けて おる のでしょう

さだめ …

《 女 郎 は なぜに このような 病 に 》

《 おびえて 生きて いか ねば なら ん のであり ん しょう 》

《( 未来 ) でき ない って 言葉 嫌いな んです 》

〈 梅 毒 の 特効 薬 ペニシリン 〉

〈 イギリス の フレミング に よって 1928 年 に 〉

〈 青 カビ の 中 に その 存在 を 確認 さ れた 〉

〈 史上 初 の 抗 生物 質 〉

〈 細菌 を 駆逐 する 力 を 持つ その 薬 は 〉

〈 さまざまな 感染 症 から 人類 を 救い 〉

〈20 世紀 の 最も 偉大な 発見 の 一 つ と も 言わ れて いる 〉

〈 もし 俺 が この 時代 に 〉

〈 ペニシリン を つくりだす こと が できたら …〉

〈 定め られた 誰 か の 運命 を 〉

〈 変える こと が できる かも しれ ない 〉

〈 医学 の 歴史 の 針 を 進める こと が できる かも しれ ない 〉

〈 そして これ は 俺 の 運命 な の かも しれ ない 〉

〈 ひょっとしたら 俺 は 〉

〈 その ため に ここ に 送ら れて きた んじゃ ない の か 〉

そう な の か …

未来

青 カビ 青 カビ …

( 栄 ) 南方 様 は 今度 は 何 を なさって いる のです か ?

咲 ?

咲 !

もし 父上 と うり二つの 方 が 現れたら

い と おしく 思わ れ ます か ?

な 何 を 言い出す のです か 急に

顔 形 が 同じだ と して も

父上 の 代わり に なる 方 など おり ませ ぬ !

そういう もの な のです か

何 だった っけ なあ …

あの … ≪( 橘 ) 南方 先生

( 橘 ) 何 を なさって いる のです か ?

この カビ の 中 に 薬 が ある のです が は あ …

どう したら 取り出せる の か

最初の 一 歩 が 思い出せ ない んです

昔 ある 人 に 教わった んです が …

昔 の こと を 思い出さ れた のです か ?

え ッ … いや いや

はい 少し だけ

それ は 何より です

先生 は ずっと お ひと り な のです か ?

そこ は 思い出さ れて は ないで す か ?

いや 奥 方 や その …

思う 人 など に 会い たく は ない の か と

会い たい 人 に は 会って おいた ほう が いい です よ

人間 なんて いつ 会え なく なる か 分から ない んです から

あ ッ …

油 ふき を して おり まして 油 ふき ?

床 に ついた 油 を 油 で 落とす のです

そう だ 油 だ !

《 油 ?》

《 油 は 油 で 落とす って いう でしょ ?》

《 ろ過 した 青 カビ の 培養 液 に 菜種油 を 加えて 撹拌 する んです 》

( 喜市 ) お 待た せ し ました

( 茜 ) 先生 ! 並んで 並んで ちょ ちょっと …

緒方 先生 !

お 願い が ございます はい

薬 を つくり たい んです 何の 薬 を ?

梅 毒 を 治す 薬 です

は あ ?

どこ へ 行か れる ので ございます か ?

もしや あの 吉原 の …

何 言って る んです か 医学 所 です よ

当分 の 間 は 泊まり込み で ちょっと

さ ようで ございます か

梅 毒 に 効く 薬 に 挑戦 して みよう か と 思い まして

できる ので ございます か ? 理論 上 は 可能な んです

あの 先生 …

あの !

あ ッ …

何 か お 手伝い できる こと は ございませ ん か ?

青 カビ を 集めて いただけ ます か ? できる だけ

いろんな ところ の もの を 集めて もらえる と 助かり ます

≪( 橘 ) おい そこ の やぶ にらみ の 女

( 初音 ) あれ こない だの お 武家 さま で ?

そ なた は どのような 男 に も そのように すり寄る の か ?

ごめん なん し

目 が ち こう あり ん して

ありがとう ございます

こんなに たくさん よく 集め られ ました ね

( 山田 ) 緒方 先生 に 言わ れたら 張り切ら ぬ わけに は まいり ませ ぬ

≪( 佐分利 ) せ やけど ほん まで っか ?→

カビ から 梅 毒 に 効く 薬 つくれる や なんて

うまく いけば 梅 毒 以外 の

今 まで 不治 と さ れて きた 病 も 治す こと も でき ます

そりゃ また とんでもない 薬 で んな

おそらく この 薬 に より 医学 界 は めざましい 進歩 を 遂げる はずです

して その 薬 の 名 は ?

その 薬 は

ペニシリン と いい ます

その 薬 どのように して つくれば よい のでしょう か ?

まずは この カビ を 増やし ます

芋 の 煮 汁 と 米 の とぎ 汁 を 合わせて

液体 培 地 を つくり ます

その 上 に 青 カビ を 塗って 一 週間 待ち

増えた 青 カビ から 薬効 成分 を 抜き出し ます

( 医師 A ) 腹立たしい 緒方 先生 は 医学 所 を

自分 の 塾 だ と 勘違い さ れて おる ので は ない か

( 医師 B ) 伊東 先生 黙って 見て いて よろしい のです か ?

咲 さ ん ! どうし はった んです か ?

どうぞ 中 に

あの 南方 先生 は ? 吉原 へ 行か れ ました けど

え ッ ?

あ ッ 薬 を つくる ため です よ

そう です か は い

これ 皆さん で どうぞ どうも

ありがたい 弁当 か ( 八木 ) 腹 が 減って おった とこ じゃ

これ は 見事な カビ

姐 さん の 病 を 治せ ぬ お 医者 さま が 今さら 何の ?

今 痩毒 を 治す 薬 を つくって い ます

≪( 洪 庵 ) その ため に は 夕霧 さん の 腐った 膿 から とれる

ブドウ 球 菌 なる もの が 必要でして な

それ を いただき に まいり ました

まことに ?

はい

( 夕霧 ) あ あ ちき の …

あ ちき の 万華鏡 が なくなり ん した

末期 の 症状 で ございます なあ

急が なくて は いけ ませ ん ね

では これ から ペニシリン の 抽出 作業 を 行い ます

まず はじめ に 培養 液 を じょう ご で ろ過 し ます

次に この ろ過 した 液体 に 菜種油 を 注ぎ よく 混ぜ ます

この 作業 に より たる の 中 の 液体 は …

3 種 の 層 に 分離 し ます

ペニシリン は 水溶 性 の もの です から

この 中 の 水 だけ を 取り出し ます

ペニシリン の 溶けた 水 って こと で んな ? そうです

ここ から は この ペニシリン 溶液 から

さらに 不純 物 を 取り除く 作業 です

この かめ の 中 に は

煮沸 消毒 した 炭 を 砕いた もの が 入れて あり ます

ここ に 先ほど の ペニシリン 溶液 を 流し込み

再び 撹拌 し ます

すると この 炭 に ペニシリン が 吸着 し ます

この 炭 を 容器 に 詰め

煮沸 蒸留 した きれいな 水 を 通し

不純 物 を 洗い流し ます

続いて 酢 から つくった 酸性 水 を 通し ます

ペニシリン は 弱い 酸性 の 物質 です から

酸性 水 に は 溶け 出し ませ ん

これ に より アルカリ 性 の 不純 物質 が さらに 取り除か れ ます

最後に 重曹 を 溶かした アルカリ 性 の 水 を 通し ます

すると ペニシリン が 炭 から 溶け 出し

下 から は 純度 の 高い ペニシリン 溶液 と なって 出て き ます

これ で 抽出 作業 は 終わり です

次 は 一 尺 ずつ に 分けた ペニシリン 抽出 液 に

効き目 が ある か どう か 薬効 を 調べ ます

なぜ 一 尺 ずつ に 分ける のです か ?

この 中 の ペニシリン 濃度 に むら が ある から です

十分な 濃度 を 持った 溶液 を 選ぶ ため です

これ は 寒天 で つくった 培 地 です

ここ に 梅 毒 患者 の 膿 から 取った ブドウ 球 菌 が すり つけて あり ます

この上 に 先ほど の ペニシリン 抽出 液 を たらし

フタ を して 数 日 待ち ます

数 日 後 表面 に 何も 変化 が 起こら なければ

その ペニシリン 溶液 は 有効に 働いて い ない と いう こと

逆に たらした 溶液 の 周り に 円 が できて いれば

それ は ペニシリン が ブドウ 球 菌 を 駆逐 した と いう こと

つまり その ペニシリン 溶液 に は 薬効 が ある と いう こと に なり ます

あと は 天 に 祈る のみ です な

はい

これ で 本当に 坂本 殿 の 脱 藩 が 赦免 に なる ので ございます か ?

( 勝 ) おう これ が その 約束 の 一筆 よ

下田 に 寄った とき に 土佐 の ご 隠居 が 来て たから よ

お 願い して 書いて もらった って わけよ

( 龍 馬 ) 今さら 脱 藩 を といて もろう た ところ で

何 ちゅうこ と も ない けん ど

これ で おおっぴらに 海軍 修行 が できる ぜ よ

ときに 南方 先生 は 何 しゅう が ぜ よ ?

西洋 医学 所 に 泊まりこんで ペニシリン と いう 薬 を つくって ます

一体 何の 薬 だい ? 痩毒 に 効く 薬 だ そうで

野 風 と いう 花魁 の 願い で つくり 始めた みたいです

の 野 風 花魁 の !?

そんな もの が できりゃ どえらい こった な

ええ 南方 先生 に は 驚か さ れる こと ばかり です

どうした よ ?

わし が やっと 一 歩 進んだ と 思う たら

二 歩 も 三 歩 も 先 に 行 っ ちゅうや つ が おる ぜ よ

あの 先生 見よ ったら

わし は 己 が ちん まあ に 見えて しかたない ぜ よ

姐 さん が 笑う と 春 の 風 が 吹く ようだ と

言わ れ ん した なあ →

その 姿 を ひと目 見よう と 道中 に は 客 が あふれて →

姐 さん は あ ちき の 自慢 で し たわいな

≪( 野 風 ) けん ど その うち 見世 に 出 られ なく なり →

姐 さん の 客 だった 方 の 引き立て も あり →

あ ちき が 次の 呼び出し に なり ん した なあ →

あ ちき は てっきり 姐 さん に →

嫌 み の 一 つ でも 言わ れる と 思った であり ん すよ

よく やった であり ん す なあ

蓄え も つき こんな もの しか あげ られ ませ ん す が

言い たい こと 言って おくれ な ん し

恨み 言 の 一 つ も 言わ ず のみ込んで ばかり で は

お 体 に も 悪う ご ざんしょ

では …

泣いて も 一生

笑う て も 一生

ならば 今 生

泣く まい ぞ

どうぞ 覚えて おいて おく ん なん し

あい

笑って おく んな ん しよ 姐 さん

笑え と 言った は 姐 さん であり ん しょう

イテッ …

あり ました こんな とこ に も

明日 …

薬効 が あれば 表面 に 円 が でき とる んです な

そう です 表面 に 何も 変化 が 見 られ なければ

薬効 は あり ませ ん

では 開けて いき ます お 願い し ます

一 番 薬効 なし

二 番 薬効 なし

三 番

薬効 なし

未来 どうか …

≪( 山田 ) 四 番 薬効 なし

≪( 山田 ) 八 番 薬効 なし

≪( 山田 ) 九 番 薬効 なし

≪( 山田 ) 十 番 薬効 なし

≪( 山田 ) 十三 番 薬効 なし

俺 に 力 を

≪( 山田 ) 十七 番 薬効 なし

( 山田 ) 十八 番

南方 先生

これ は …

十八 番 薬効 あり !

あり えま へん こんな こと あり えま へん わ

南方 先生 !

南方 先生 やり ました な

〈 歴史 上 まだ この世 に 存在 する はずの ない ペニシリン 〉

〈 それ を つくり出して しまった 〉

〈 俺 の この 手 で 〉

〈 でも これ は 本当に 許さ れる 行為 だった のだろう か 〉

南方 先生 夕霧 さん が 危篤 です !

すぐに 行き ます 皆さん 後 を お 願い し ます

新鮮な ペニシリン 抽出 液 が 大量に 必要に なり ます

承知 し ました 昼夜 交代 で つくり 続け

できたら すぐに 吉原 に 届け ます お 願い し ます !

緒方 先生 一緒に 来て いただけ ます か ?

まことに 申し訳 ございませ ん

私 どうしても 外せ ん 対応 が ございまして

では 私 が

いえ ペニシリン を つくる 作業 も 止め られ ませ ん ので

では 私 が 一 人 で

わ 私 が !

私 で お 役 に 立てる ので ございます なら

私 も 医 を 志す 者 です から

もちろん です お 願い でき ます か ?

はい

しかし 咲 さん が 吉原 に 入る に は 大 門 切手 が

どなた か お 着物 を お 貸し ください ませ !

意識 が 戻れば 助かる 可能 性 が あり ます

先生 点滴 完了 し ました

続いて ペニシリン の 静脈 注射 を 行い ます

先生

戻って ください

戻って こい

戻って ください 夕霧 さん

( 夕霧 ) 誰 ?

そこ に …

いる の は …

夕霧 さん 聞こえ ます か !?

私 は 医者 です !

お 医者 さま …

あなた の 命 を 救い たくて ここ に いる んです

頑張り ましょう

夕 霧さん !

あい …

〈 それ から 連日 〉

〈 西洋 医学 所 で 精製 さ れた ペニシリン は 〉

〈 昼夜 を 問わ ず 鈴 屋 へ と 届け られ 〉

〈 夕霧 さん は 劇的な 復活 を みせた 〉

〈 俺 たち の ペニシリン は 〉

〈 確かに 梅 毒 に 一撃 を 与えた 〉

〈 でも 手 に 入れ られる ペニシリン は あまりに も 少量 で 〉

〈 その 効力 も 不安定な もの で しか なかった 〉

〈 そして 五 日 目 の 早朝 〉

姐 さん

聞こえる であり ん す か ?

その 声 は …

野 風 …

あい

なんだか

吹き出物 が 減った ような …

薬 の おかげ であり ん すよ

鏡 お 持ち しんしょう

先生 夕霧 さん に

お 化粧 して さしあげて も よろしい でしょう か ?

≪( 女将 ) め っ そう も ない お 武家 の お 嬢 さま に そんな こと など

私 から も お 願い し ます

もう これ 以上 は …

すいません

≪( 咲 ) きれいな お 顔立ち を して いらっしゃい ます ね

≪( 夕霧 ) さ い ざん す か ?

姐 さん 鏡 であり ん す

お きれいであり ん すよ

ほん だ す かえ …

笑って おく ん なん し 姐 さん

泣いて も 一生

笑 おて も 一生

ならば 今 生

泣く まい ぞ

( 夕霧 ) 皆様 …

ありがとう

けん ど

苦しむ こと に も あき ん した

もう …

堪忍 し ておくれな ん し

お さらば え

あい

お さらば え

ありがとう お ざん した

ありがとう お ざん した 先生

死 も 救い な んです よ ね

医者 が 言っちゃ おしまい です けど

夕霧 さん が 笑って 逝け た の は

ペニシリン の おかげ です

あの 薬 は …

その …

未来 で は 誰 でも つくれる もの な のです か ?

野 風 さん に 似て る でしょ

あ ッ そうです ね

この 友永 未来 って 人 が

ああ やって つくる 方法 を 考えた んです

この 方 が ?

私 が 医者 の 見習い だった ころ …

《 この 主人公 さ 青 カビ 集めて きて ペニシリン つくって 》

《 それ で 感染 症 治しちゃ って んだ けど 》

《( 杉田 ) できる わけ ないだ ろ 》 《 だ よ な できる わけない よ な 》

話 は それっきり でした

でも 私 たち の 話 を 聞いて いた 後輩 が いた んです

それ から しばらく して …

《 あの お 話 が ある んです けれど ちょっと いい です か ?》

《 え ッ ?》

もし かして 告白 か と 思って

相当 怪しんで ついて った んです

《 あの 話 って ?》

《 お 手紙 ?》 《 まあ そうです ね 》

《 こない だ ここ で 話して ました よ ね 》

《 すごい ね 》

《 でも 何で こんな もの を ?》

《 でき ない って 言葉 嫌いな んです それ だけ です 》

《 うん ?》

《 油 ?》

《 油 は 油 で 落とす って いう でしょ 》

それ で この 方 と 夫婦 に なら れて ?

もう 少し で そう なる 予定 だった んです けど

重い 病気 に かかって しまって

しかも 私 は その 手術 に 失敗 して

彼女 を 生きる しかばね に して しまった んです

そんな 方 を 残して ここ へ

最初 は 何 か の 罰 か と 思い ました

でも 今 は ここ に 来た の は

何 か の チャンス なん だって 思って ます

チャンス ?

私 が 医学 の 時計 の 針 を 進めれば

未来 は もっと 医学 の 発達 した 世界 に なる

そう すれば

彼女 の 手術 も 成功 する かも しれ ない

それ で ペニシリン を

それ だけ じゃ ないで す けど

〈 すべて が 前向きに 動き 始めた ように 思えた 〉

〈 でも 俺 の 知ら ない ところ で 〉

〈 とんでもない 事態 が 起こって いた んだ 〉

〈 西洋 医学 所 を 設立 した 伊東 玄 朴 先生 が 突如 〉

〈 奥 医師 筆頭 の 地位 を 追わ れ 失脚 〉

〈 西洋 医学 所 で は 旗色 の 悪く なった 〉

〈 伊東 先生 派 の 医者 たち が 不安 と 不満 を 抱き 始めて いた 〉

( 医師 A ) 医学 所 は このまま

緒方 先生 と 松本 先生 の もの に なって しまう の かのう

( 医師 B ) 私 が 一 度 お はぐ ろ どぶ で

佐分利 を 見かけた と 言った であろう →

なんと その とき 訪れて いた らしい 女 郎 が →

めった 裂き に さ れて 殺さ れた らしい →

しかも 下手人 は 捕まって おら ぬ →

もし その 部屋 に この メス が 落ちて おったら どう なる ?

いかがで ございます か ? ( 良 順 ) いや あ すごい

まっ こと 青 カビ かえ

ま ッ 気 に し ないで せいぜい 気 張 っと くん な

へえ

南方 先生 これ すごく ないで っか ?


( 野 風 ) 先生

姐 さん を   治して いただき とう ご ざん す

( 咲 ) 先生   この 方 は …

( 仁 ) 梅 毒 の 患者 さん です

末期 の

夕霧 姐 さん   こちら は 江戸 で 一 番 の お 医者 様 であり ん す

( 夕霧 ) あ ちき を 診て くださる お 医者 様 が

まだ   この世 に いん した か

ありがた や

( 夕霧 の うめき声 )

用 を 足す たび に このような ありさま で

( うめき声 )

女 郎 は   なぜに   このような 病 に

おびえて 生きて いか ねば なら ん のであり ん しょう

先生   姐 さん を   この 病 から お 救い ください なん し   何とぞ …

残念です が   私 に は 手 の 下し よう が あり ませ ん

さい で   あり ん す か …

すいません

≪( 洪 庵 ) 梅 毒 ほど   世に 多く →

難治 に して 人 の 苦悩 する もの は なし

杉田 玄 白 先生 も  「 形 影 夜 話 」 の 中 で そのように 指摘 さ れて おら れ ます

どのような 治療 が なされて いる んです か ?

水銀 を 用いる と いう 治療 法 を やって おり ます が →

これ が   梅 毒 以上 の 苦し み を →

患者 に 与える ようで ございまして …

南方 先生 梅 毒 の 正体 と は   一体 ?

梅 毒 は   梅 毒 菌 と いう 目 に 見え ない 病原 微 生物 に よって

引き起こさ れる 病気 です

梅 毒 菌 は   極めて   生命 力 が 強く

皮膚 や 粘膜 やがて は   内臓   骨   筋肉

神経 や 脳 せき髄 を 侵食 し 人 を 死に 至ら しめ ます

なんとか   治す 方法 は ない もん でしょう か ?

残念 ながら   まだ   この 時代 で は

まるで   いずれ   この 病 は 治る 時代 が 来る と

先生 は   ご存じ の ようです な

いや …  医術 は   日々 進歩 する もの です から   いつか は

しかし   今 の 我ら に

何 か できる こと は ない んでしょう か ?

今   目の前 で 苦しんで おる 民 の ため に

≪( 彦三郎 ) うち の 妓 たち に 痩毒 の お 調べ を ?

梅 毒 の 感染 を 防ぐ に は   廓 の 中 から 予防 する の が 一 番 な んです

( 女将 ) そんな こと さ れちゃ …

痩毒 を   しっかり と 調べ きちんと 取り締まれば

鈴 屋 は   吉原 で は   一 番 安全な 見世 や と いう 噂 が たち ます

決して   損な 話 や ない と 存じ ます が

嫌であり ん す いやらしい お 医者 様 です わな

タダ で   あ ちき ら の 下 を のぞきこむ つもりで ご ざんしょ !

問診 に 答えて いただく だけ でも いいん です

発疹   発熱   疼 痛 の 有無 だけ でも … お ぶ しゃれ ざん すな !

あ ちき は   とっくに 鳥屋 に ついて ん す

鳥屋 ?  待って ください   話 を …

≪( 野 風 ) 最初に 痩毒 に かかって 床 に つく こと を

鳥屋 に つく と 申し まして なあ

これ から   回復 する と 一人前 の 女 郎 に なった と

値 が 上がる のであり ん す 一人前 ?

痩毒 に かかり にくく 身 ご もり にくい

女 郎 と して 一人前 の 体 を 得た と それ は   誤解 です

回復 は 一時的な もの で 数 年 後 に は 重い 症状 が …

知 っと うす

痩毒 に かかった 女 郎 の 最期 も

何度 も 見た であり ん す から

あの …  で は   なぜ   皆さん 治そう と し ない のです か ?

治せ ない のであり ん しょう ?

治 せる なら   みな 聞く 耳 も 持ち ん しょう

けん ど   余計 なお 調べ だけ を さ れ

仕事 から 外さ れて は

たちまち   お まん ま は 食い 上げ

体 を 売ら ず に   女 郎 に どう やって 生きて いけ と ?

申し訳 ございませ ん とんでもない こと に なり まして

いえ   こちら こそ   考え が 足り ず に

野 風 は   昔   夕霧 の 禿 でして な

夕霧 が 床 に ついて から は →

評判 の 医者 を 探して きて は 治療 を 受け させ →

もう 3 年 に なり ます →

誰 より も   痩毒 を 憎んで いる の は 野 風 な ので ございます

どうか   その 気持ち は 察して やって ください

( 男 ) おいおい   殺さ れた って ?

≪( 女 郎 A ) めった 斬り に さ れて コモ で くるま れて たって

≪( B ) 線香 は あげて あった って さ ≪( C ) いっそ 怖い よ

みな   どこ か 他人事 です ね

やり きれ ませ ん なあ →

苦 界 に 身 を 沈めた 女 郎 の 末路 は   哀れな もん

それ が   さだめ と 決め付けて おる のでしょう

さだめ …

《 女 郎 は   なぜに   このような 病 に 》

《 おびえて 生きて いか ねば なら ん のであり ん しょう 》

《( 未来 ) でき ない って 言葉 嫌いな んです 》

〈 梅 毒 の 特効 薬   ペニシリン 〉

〈 イギリス の フレミング に よって  1928 年 に 〉

〈 青 カビ の 中 に その 存在 を 確認 さ れた 〉

〈 史上 初 の 抗 生物 質 〉

〈 細菌 を 駆逐 する 力 を 持つ その 薬 は 〉

〈 さまざまな 感染 症 から 人類 を 救い 〉

〈20 世紀 の   最も 偉大な 発見 の 一 つ と も 言わ れて いる 〉

〈 もし   俺 が   この 時代 に 〉

〈 ペニシリン を つくりだす こと が できたら …〉

〈 定め られた   誰 か の 運命 を 〉

〈 変える こと が できる かも しれ ない 〉

〈 医学 の 歴史 の 針 を 進める こと が できる かも しれ ない 〉

〈 そして   これ は 俺 の 運命 な の かも しれ ない 〉

〈 ひょっとしたら   俺 は 〉

〈 その ため に   ここ に 送ら れて きた んじゃ ない の か 〉

そう な の か …

未来

青 カビ   青 カビ …

( 栄 ) 南方 様 は   今度 は 何 を なさって いる のです か ?

咲 ?

咲 !

もし   父上 と うり二つの 方 が 現れたら

い と おしく 思わ れ ます か ?

な   何 を 言い出す のです か   急に

顔   形 が 同じだ と して も

父上 の 代わり に なる 方 など おり ませ ぬ !

そういう もの な のです か

何 だった っけ なあ …

あの … ≪( 橘 ) 南方 先生

( 橘 ) 何 を なさって いる のです か ?

この カビ の 中 に 薬 が ある のです が は あ …

どう したら   取り出せる の か

最初の 一 歩 が 思い出せ ない んです

昔   ある 人 に 教わった んです が …

昔 の こと を 思い出さ れた のです か ?

え ッ …  いや   いや

はい   少し だけ

それ は   何より です

先生 は   ずっと お ひと り な のです か ?

そこ は   思い出さ れて は ないで す か ?

いや   奥 方 や   その …

思う 人 など に 会い たく は ない の か と

会い たい 人 に は 会って おいた ほう が いい です よ

人間 なんて   いつ 会え なく なる か 分から ない んです から

あ ッ …

油 ふき を して おり まして 油 ふき ?

床 に ついた 油 を 油 で 落とす のです

そう だ   油 だ !

《 油 ?》

《 油 は   油 で 落とす って いう でしょ ?》

《 ろ過 した 青 カビ の 培養 液 に 菜種油 を 加えて 撹拌 する んです 》

( 喜市 ) お 待た せ し ました

( 茜 ) 先生 !  並んで   並んで ちょ   ちょっと …

緒方 先生 !

お 願い が ございます はい

薬 を つくり たい んです 何の 薬 を ?

梅 毒 を 治す 薬 です

は あ ?

どこ へ 行か れる ので ございます か ?

もしや   あの 吉原 の …

何 言って る んです か 医学 所 です よ

当分 の 間 は 泊まり込み で   ちょっと

さ ようで ございます か

梅 毒 に 効く 薬 に 挑戦 して みよう か と 思い まして

できる ので ございます か ? 理論 上 は 可能な んです

あの   先生 …

あの !

あ ッ …

何 か   お 手伝い できる こと は ございませ ん か ?

青 カビ を 集めて いただけ ます か ? できる だけ

いろんな ところ の もの を 集めて もらえる と 助かり ます

≪( 橘 ) おい   そこ の やぶ にらみ の 女

( 初音 ) あれ   こない だの お 武家 さま で ?

そ なた は   どのような 男 に も そのように   すり寄る の か ?

ごめん なん し

目 が   ち こう あり ん して

ありがとう ございます

こんなに   たくさん よく 集め られ ました ね

( 山田 ) 緒方 先生 に 言わ れたら 張り切ら ぬ わけに は まいり ませ ぬ

≪( 佐分利 ) せ やけど ほん まで っか ?→

カビ から   梅 毒 に 効く 薬 つくれる や なんて

うまく いけば   梅 毒 以外 の

今 まで   不治 と さ れて きた 病 も 治す こと も でき ます

そりゃ   また とんでもない 薬 で んな

おそらく   この 薬 に より   医学 界 は めざましい 進歩 を 遂げる はずです

して   その 薬 の 名 は ?

その 薬 は

ペニシリン と いい ます

その 薬   どのように して つくれば よい のでしょう か ?

まずは   この カビ を 増やし ます

芋 の 煮 汁 と 米 の とぎ 汁 を 合わせて

液体 培 地 を つくり ます

その 上 に 青 カビ を 塗って 一 週間 待ち

増えた 青 カビ から 薬効 成分 を 抜き出し ます

( 医師 A ) 腹立たしい 緒方 先生 は   医学 所 を

自分 の 塾 だ と   勘違い さ れて おる ので は ない か

( 医師 B ) 伊東 先生   黙って 見て いて よろしい のです か ?

咲 さ ん ! どうし はった んです か ?

どうぞ   中 に

あの   南方 先生 は ? 吉原 へ 行か れ ました けど

え ッ ?

あ ッ   薬 を つくる ため です よ

そう です か は い

これ   皆さん で どうぞ どうも

ありがたい   弁当 か ( 八木 ) 腹 が 減って おった とこ じゃ

これ は   見事な カビ

姐 さん の 病 を 治せ ぬ お 医者 さま が   今さら 何の ?

今   痩毒 を 治す 薬 を つくって い ます

≪( 洪 庵 ) その ため に は   夕霧 さん の 腐った 膿 から とれる

ブドウ 球 菌 なる もの が 必要でして な

それ を   いただき に まいり ました

まことに ?

はい

( 夕霧 ) あ   あ ちき の …

あ ちき の 万華鏡 が   なくなり ん した

末期 の 症状 で ございます なあ

急が なくて は いけ ませ ん ね

では   これ から   ペニシリン の 抽出 作業 を 行い ます

まず はじめ に   培養 液 を じょう ご で   ろ過 し ます

次に   この   ろ過 した 液体 に 菜種油 を 注ぎ   よく 混ぜ ます

この 作業 に より たる の 中 の 液体 は …

3 種 の 層 に 分離 し ます

ペニシリン は   水溶 性 の もの です から

この 中 の 水 だけ を 取り出し ます

ペニシリン の 溶けた 水 って こと で んな ? そうです

ここ から は   この ペニシリン 溶液 から

さらに   不純 物 を 取り除く 作業 です

この   かめ の 中 に は

煮沸 消毒 した 炭 を 砕いた もの が 入れて あり ます

ここ に   先ほど の ペニシリン 溶液 を 流し込み

再び   撹拌 し ます

すると   この 炭 に ペニシリン が 吸着 し ます

この 炭 を 容器 に 詰め

煮沸 蒸留 した きれいな 水 を 通し

不純 物 を 洗い流し ます

続いて   酢 から つくった 酸性 水 を 通し ます

ペニシリン は 弱い 酸性 の 物質 です から

酸性 水 に は 溶け 出し ませ ん

これ に より   アルカリ 性 の 不純 物質 が さらに 取り除か れ ます

最後に   重曹 を 溶かした アルカリ 性 の 水 を 通し ます

すると   ペニシリン が 炭 から 溶け 出し

下 から は   純度 の 高い ペニシリン 溶液 と なって 出て き ます

これ で   抽出 作業 は 終わり です

次 は   一 尺 ずつ に 分けた ペニシリン 抽出 液 に

効き目 が ある か どう か 薬効 を 調べ ます

なぜ   一 尺 ずつ に 分ける のです か ?

この 中 の ペニシリン 濃度 に むら が ある から です

十分な 濃度 を 持った 溶液 を 選ぶ ため です

これ は   寒天 で つくった 培 地 です

ここ に   梅 毒 患者 の 膿 から 取った ブドウ 球 菌 が   すり つけて あり ます

この上 に   先ほど の ペニシリン 抽出 液 を たらし

フタ を して 数 日   待ち ます

数 日 後   表面 に 何も 変化 が 起こら なければ

その ペニシリン 溶液 は 有効に 働いて い ない と いう こと

逆に   たらした 溶液 の 周り に 円 が できて いれば

それ は   ペニシリン が ブドウ 球 菌 を 駆逐 した と いう こと

つまり   その ペニシリン 溶液 に は 薬効 が ある と いう こと に なり ます

あと は   天 に 祈る のみ です な

はい

これ で 本当に   坂本 殿 の 脱 藩 が 赦免 に なる ので ございます か ?

( 勝 ) おう   これ が その 約束 の 一筆 よ

下田 に 寄った とき に 土佐 の ご 隠居 が 来て たから よ

お 願い して 書いて もらった って わけよ

( 龍 馬 ) 今さら   脱 藩 を といて もろう た ところ で

何 ちゅうこ と も ない けん ど

これ で   おおっぴらに 海軍 修行 が できる ぜ よ

ときに   南方 先生 は 何 しゅう が ぜ よ ?

西洋 医学 所 に 泊まりこんで ペニシリン と いう 薬 を つくって ます

一体   何の 薬 だい ? 痩毒 に 効く 薬 だ そうで

野 風 と いう 花魁 の 願い で つくり 始めた みたいです

の   野 風 花魁 の !?

そんな もの が できりゃ どえらい こった な

ええ   南方 先生 に は 驚か さ れる こと ばかり です

どうした よ ?

わし が   やっと 一 歩 進んだ と 思う たら

二 歩 も 三 歩 も 先 に 行 っ ちゅうや つ が おる ぜ よ

あの 先生   見よ ったら

わし は   己 が   ちん まあ に 見えて しかたない ぜ よ

姐 さん が 笑う と 春 の 風 が 吹く ようだ と

言わ れ ん した なあ →

その 姿 を   ひと目 見よう と 道中 に は 客 が あふれて →

姐 さん は   あ ちき の 自慢 で し たわいな

≪( 野 風 ) けん ど   その うち 見世 に 出 られ なく なり →

姐 さん の 客 だった 方 の 引き立て も あり →

あ ちき が   次の 呼び出し に なり ん した なあ →

あ ちき は   てっきり   姐 さん に →

嫌 み の 一 つ でも 言わ れる と 思った であり ん すよ

よく やった であり ん す なあ

蓄え も つき   こんな もの しか あげ られ ませ ん す が

言い たい こと   言って おくれ な ん し

恨み 言 の 一 つ も 言わ ず のみ込んで ばかり で は

お 体 に も   悪う ご ざんしょ

では …

泣いて も 一生

笑う て も 一生

ならば   今 生

泣く まい ぞ

どうぞ   覚えて おいて おく ん なん し

あい

笑って おく んな ん しよ   姐 さん

笑え と 言った は 姐 さん であり ん しょう

イテッ …

あり ました   こんな とこ に も

明日 …

薬効 が あれば   表面 に 円 が でき とる んです な

そう です   表面 に 何も 変化 が 見 られ なければ

薬効 は あり ませ ん

では   開けて いき ます お 願い し ます

一 番   薬効 なし

二 番   薬効 なし

三 番

薬効 なし

未来   どうか …

≪( 山田 ) 四 番   薬効 なし

≪( 山田 ) 八 番   薬効 なし

≪( 山田 ) 九 番   薬効 なし

≪( 山田 ) 十 番   薬効 なし

≪( 山田 ) 十三 番   薬効 なし

俺 に   力 を

≪( 山田 ) 十七 番   薬効 なし

( 山田 ) 十八 番

南方 先生

これ は …

十八 番   薬効 あり !

あり えま へん こんな こと   あり えま へん わ

南方 先生 !

南方 先生   やり ました な

〈 歴史 上   まだ   この世 に 存在 する はずの ない ペニシリン 〉

〈 それ を   つくり出して しまった 〉

〈 俺 の   この 手 で 〉

〈 でも   これ は   本当に 許さ れる 行為 だった のだろう か 〉

南方 先生   夕霧 さん が 危篤 です !

すぐに 行き ます 皆さん   後 を お 願い し ます

新鮮な ペニシリン 抽出 液 が 大量に 必要に なり ます

承知 し ました 昼夜 交代 で   つくり 続け

できたら   すぐに 吉原 に 届け ます お 願い し ます !

緒方 先生   一緒に 来て いただけ ます か ?

まことに 申し訳 ございませ ん

私   どうしても 外せ ん 対応 が ございまして

では   私 が

いえ   ペニシリン を つくる 作業 も 止め られ ませ ん ので

では   私 が 一 人 で

わ   私 が !

私 で   お 役 に 立てる ので ございます なら

私 も   医 を 志す 者 です から

もちろん です お 願い でき ます か ?

はい

しかし   咲 さん が 吉原 に 入る に は   大 門 切手 が

どなた か   お 着物 を お 貸し ください ませ !

意識 が 戻れば 助かる 可能 性 が あり ます

先生   点滴   完了 し ました

続いて   ペニシリン の 静脈 注射 を 行い ます

先生

戻って ください

戻って こい

戻って ください   夕霧 さん

( 夕霧 ) 誰 ?

そこ に …

いる の は …

夕霧 さん   聞こえ ます か !?

私 は   医者 です !

お 医者   さま …

あなた の 命 を 救い たくて ここ に いる んです

頑張り ましょう

夕 霧さん !

あい …

〈 それ から   連日 〉

〈 西洋 医学 所 で 精製 さ れた ペニシリン は 〉

〈 昼夜 を 問わ ず 鈴 屋 へ と 届け られ 〉

〈 夕霧 さん は 劇的な 復活 を みせた 〉

〈 俺 たち の ペニシリン は 〉

〈 確かに   梅 毒 に 一撃 を 与えた 〉

〈 でも   手 に 入れ られる ペニシリン は あまりに も 少量 で 〉

〈 その 効力 も   不安定な もの で しか なかった 〉

〈 そして   五 日 目 の 早朝 〉

姐 さん

聞こえる であり ん す か ?

その 声 は …

野 風 …

あい

なんだか

吹き出物 が   減った ような …

薬 の おかげ であり ん すよ

鏡   お 持ち しんしょう

先生   夕霧 さん に

お 化粧 して さしあげて も よろしい でしょう か ?

≪( 女将 ) め っ そう も ない   お 武家 の お 嬢 さま に   そんな こと など

私 から も   お 願い し ます

もう   これ 以上 は …

すいません

≪( 咲 ) きれいな   お 顔立ち を して いらっしゃい ます ね

≪( 夕霧 ) さ い ざん す か ?

姐 さん   鏡 であり ん す

お きれいであり ん すよ

ほん だ す かえ …

笑って おく ん なん し   姐 さん

泣いて も 一生

笑 おて も 一生

ならば   今 生

泣く まい ぞ

( 夕霧 ) 皆様 …

ありがとう

けん ど

苦しむ こと に も   あき ん した

もう …

堪忍 し ておくれな ん し

お さらば え

あい

お さらば え

ありがとう お ざん した

ありがとう お ざん した   先生

死 も 救い な んです よ ね

医者 が 言っちゃ   おしまい です けど

夕霧 さん が   笑って 逝け た の は

ペニシリン の おかげ です

あの 薬 は …

その …

未来 で は   誰 でも つくれる もの な のです か ?

野 風 さん に 似て る でしょ

あ ッ   そうです ね

この   友永 未来 って 人 が

ああ やって   つくる 方法 を 考えた んです

この 方 が ?

私 が 医者 の 見習い だった ころ …

《 この 主人公 さ   青 カビ 集めて きて ペニシリン つくって 》

《 それ で   感染 症 治しちゃ って んだ けど 》

《( 杉田 ) できる わけ ないだ ろ 》 《 だ よ な   できる わけない よ な 》

話 は   それっきり でした

でも   私 たち の 話 を 聞いて いた 後輩 が いた んです

それ から   しばらく して …

《 あの   お 話 が ある んです けれど ちょっと いい です か ?》

《 え ッ ?》

もし かして   告白 か と 思って

相当   怪しんで ついて った んです

《 あの   話 って ?》

《 お 手紙 ?》 《 まあ   そうです ね 》

《 こない だ   ここ で 話して ました よ ね 》

《 すごい ね 》

《 でも   何で   こんな もの を ?》

《 でき ない って 言葉 嫌いな んです   それ だけ です 》

《 うん ?》

《 油 ?》

《 油 は   油 で 落とす って いう でしょ 》

それ で   この 方 と 夫婦 に なら れて ?

もう 少し で   そう なる 予定 だった んです けど

重い 病気 に かかって しまって

しかも   私 は その 手術 に 失敗 して

彼女 を   生きる しかばね に して しまった んです

そんな 方 を 残して   ここ へ

最初 は   何 か の 罰 か と 思い ました

でも   今 は   ここ に 来た の は

何 か の チャンス なん だって 思って ます

チャンス ?

私 が 医学 の 時計 の 針 を 進めれば

未来 は   もっと 医学 の 発達 した 世界 に なる

そう すれば

彼女 の 手術 も 成功 する かも しれ ない

それ で   ペニシリン を

それ だけ じゃ ないで す けど

〈 すべて が 前向きに 動き 始めた ように 思えた 〉

〈 でも   俺 の 知ら ない ところ で 〉

〈 とんでもない 事態 が 起こって いた んだ 〉

〈 西洋 医学 所 を 設立 した 伊東 玄 朴 先生 が   突如 〉

〈 奥 医師 筆頭 の 地位 を 追わ れ   失脚 〉

〈 西洋 医学 所 で は 旗色 の 悪く なった 〉

〈 伊東 先生 派 の 医者 たち が 不安 と 不満 を 抱き 始めて いた 〉

( 医師 A ) 医学 所 は   このまま

緒方 先生 と 松本 先生 の もの に なって しまう の かのう

( 医師 B ) 私 が 一 度   お はぐ ろ どぶ で

佐分利 を 見かけた と 言った であろう →

なんと   その とき 訪れて いた らしい 女 郎 が →

めった 裂き に さ れて 殺さ れた らしい →

しかも   下手人 は 捕まって おら ぬ →

もし   その 部屋 に   この メス が 落ちて おったら   どう なる ?

いかがで ございます か ? ( 良 順 ) いや あ   すごい

まっ こと   青 カビ かえ

ま ッ   気 に し ないで せいぜい 気 張 っと くん な

へえ

南方 先生   これ すごく ないで っか ?