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悪人 (Villain) (1st Book), 第一章 彼女は誰に会いたかったか?【4】

第 一 章 彼女 は 誰 に 会い たかった か ?【4】

混んだ 地下鉄 の つり革 に 掴まって 、佳乃 は ガラス 窓 に 映る 沙里 と 眞子 に 言った 。

「……車 は 改造 した スカイライン の GT-|R に 乗っているし 、背は たぶん 増尾くん より 高いし 、でも 、話 とか 、ほんと 面白くないと やんね 。 それに なんか 頭 も 悪そう やし 」「何 回 くらい 会った と ? 」眞子 が ガラス 窓 に 向かって 訊いて くる 。

「二 、三 回 かな 」と 佳乃 も やはり ガラス 窓 に 向かって 答えた 。

「でも 、長崎 から わざわざ 佳乃 ちゃん に 会い に 福岡 まで 来 とったっちゃ ろ ? 」「でも 、一時間半 くらい で 着く って 」 「そんな もん で 来られる ん ? 」「その 人 、すごい スピード 出す もん 」 「一緒に ドライブ した と ? 」「ドライブ って いう か 、百道 の ほう 行ったり 」 ガラス 窓 で 交される 二人 の 会話 を 、じっと 訊いていた 沙里 が 、「百道 って 、ハイアット とか に 泊まった っちゃ ろ ? 」と 、少し 声 を 落として 、佳乃 の 脇腹 を 突つく 。

「まさか ぁ 、行く わけない やろ 」佳乃 は わざと どっち に も 取れる ような 答え方 を した 。

実際 に 行った の は 、百道 の ハイアット など では なく 、博多 湾 に 突き出した 埋め立て 地 に 建つ 「DUO2」とかいう安いラブホテルだった。 初めて 祐一 と ソラリア で 待ち合わせた 日 、その 足 で 近く の ピザ レストラン に 入った 。 祐一 と いう 男 は 何 を する に も 自信 が ない ようで 、忙しく 立ち動く ウェイトレス を 呼び止める こと も なかなか できず 、その ウェイトレス が 料理 を 間違えて 運んできた とき で さえ 、おろおろして 文句 の 一つ も 言えなかった 。 そんな 態度 を 見る に つけ 、天神 の バー で 一緒に ダーツ を した とき の 増尾 の 姿 ばかり が 思い出された 。

「フェアリー 博多 」に 入居 した ばかり の ころ 、佳乃 は 一時期 「出会い系 サイト 」に ハマった 。

まだ 沙 里 や 眞子 と 仲良く なる 前 で 、夜 、アパート の 部屋 で 一人 過ごす のが 退屈で 、常時 メール を 交換する いわゆる メル友 が 十人 以上 は いた 。 その 誰 も が 自分 と 会い たがって いた 。

夜 、アパート の 部屋 で 、その 誘い の メール に 断り の 返信 を 打っている と 、まるで 自分 が とても 忙しい 女 に なった ような 気 が した 。 実際 は 、まだ 馴染め ない 博多 という 街 の 片隅 で 、忙しく 親指 を 動かして いた だけ だった のに 。

沙里 や 眞子 と 仲良く なって から 、佳乃 が メル友 と 過ごす 一人 の 時間 は なくなった 。

それ が 今年 の 十月 に 増尾 と 出会い 、メルアド を 訊かれた に も かかわらず 、なかなか メール が 来ない こと に 焦れて 、つい また その 手 の サイト に 登録した のだ 。

結果 、三日 ほど で 百通 近い メール が あった 。 もちろん 中 に は ストレートに 援助交際 を 求めてくる 者 も いた が 、まず 年齢 で 選り分けて 、その 次に 、書かれた 言葉 で 年齢詐称 を 判断し 、適当な 何人か に だけ 返信を した 。 その 中 の 一人 が 清水 祐一 だった 。 送られて きた メール に は 《 車 に 興味 が ある 》 と 書かれて あった 。

佳乃 は その 時期 、増尾 が 乗っている という アウディ の 助手席 に 座る 自分 の 姿 ばかり を 想像していた 。 まだ 誘い の メール も 来ない のに 、増尾 と どこ へ 行く か とか 、車内 で 誰 の CD を 聴く か とか 、そんなことばかり を 夢想していた 。 もしかすると それが 、百 通 近い メール の 中で 、祐一 の メール に ふと 引っかかった 要因 だった のかも しれない 。

待ち合わせ 場所 で 初めて 祐一 を 見た 瞬間 には 、「今 は 誰 とも 付き合う 気 が ない 」とか 、「彼氏 は いる けど 、今 、ちょっと うまく 行ってない 」とか 、電話 や メール で 適当な ことを 言った 自分 に 少し 後悔 した のだが 、時間 が 経つ につれ 、どこか おどおどした 祐一 の 態度 ばかりが 目立ち 、その 上 、やっと 口 を 開いた か と 思えば 、オチ も ない 車 の 話 ばかりで 、正直 、「こりゃ 、ハズレ だ な 」と 心 の 中で 呟いて いた 。

実際 、佳乃 は ただ ドライブ が したかった わけで は なかった 。

誰もが 羨む 、たとえば 増尾 圭吾 の ような 男 の 車 で 、颯爽と 博多 の 街 を 走り抜けたかった のだ 。 そうなると 、長崎で 土木作業員を していると いう 祐一の 無骨な 手も 、野性的な ものでは なく 、単に こき使われた 労働者の 手に 変わってしまった 。

中洲川端駅から 二つ目 、千代県庁口駅で 地下鉄を 降りた 佳乃たち 三人は 、狭い 階段を 上がって 市民体育館の 裏に 出た 。

決して 寂しい 町では ないのだ が 、県庁を 中心に した この 界隈は 、夜 、それも 週末の 夜と もなると 、まるで 夢の 中に 出てくる 街の ように シンと 静まり返る 。 「どこで 待ち合わせ しとうと ? 」 前 を 歩く 眞子 に 訊 かれ 、佳乃 は 一瞬 迷って 、「えっと 、吉塚 駅前 」と 嘘 を ついた 。 まさか 二人 が こっそり と あとを つけて くる わけ もない のだ が 、 これ から 増尾 と 会う と 嘘を ついて いる ので 、なんとなく 警戒 した の だ 。

「駅まで 一人で 大丈夫 ? 」 薄暗い 公園 脇 を 歩いて きた せい か 、 眞子 が 心配 して くれた 。 「うん 、大丈夫 」佳乃 が 笑顔 で 頷く と 、「それじゃあ 、先に 帰っとる ね 」と 、さっさと 沙里 が 道 を 曲がる 。

祐一 と 待ち合わせ を して いる 公園 正門 まで は 、もう しばらく この 薄暗い 道 を 進んで 行か なければ ならない 。 街灯 の 下 に ポスト の ある 角 で 二人 と 別れ 、佳乃 は 少し 歩調 を 速めて 薄暗い 道 を 歩き出した 。

角 を 曲がって 「フェアリー 博多 」に 向かった 二人 の 足音 が しばらく 背中 に 聞こえて いた が 、それも 次第に 遠く なり 、いつ の 間にか 自分 の 足音 だけ が 細い 歩道 に 響く 。

すでに 十 時 四十六 分 に なって いた 。

ただ 、本当に 三分 も あれば 話 は 済む 。 わざわざ 時間を かけて 長崎 から 来て もらった のは 申し訳ない が 、それも 向こうが 、約束していた 一万八千 円 を どうしても 今夜 返したい から と 、しつこく 言った から なのだ 。 会う 時間 は ない から 、振り込んで くれ 、と 佳乃 が 頼んだ にも かかわらず 。

公園 沿い の 道 を 次第に 遠ざかって いく 佳乃 の 足音 を 、眞子 と 沙里 も 同じ ように 背中 で 聞いて いた 。

通り の 先 に 煌々 と 明かり を 照らした 「フェアリー 博多 」の エントランス が 見える 。

「佳乃 ちゃん 、ほんとに すぐ 帰って くる と かなぁ 」

遠ざかる 足音 に 、ちらっと 背後 を 振り返った 眞子 が 言った 。

その 声 に つられて 沙里 が 振り返る と 、モノクロ 写真 の ような 通り に 、ぽつんと 赤い ポスト だけ が 浮き上がって 見える 。

「ねぇ 、ほんとに 佳乃 ちゃん 、増尾 くん に 会い に 行った と 思う ?

」ふと 沙里 の 口 から そんな 言葉 が こぼれた 。 「 どういう こと ? ……じゃあ 、佳乃 ちゃん 、どこ 行った と ? 」相変わらず 眞子 が 呑気 そうに 首 を 傾げる 。 「私 、なんか 佳乃 ちゃん と 増尾 くん の 関係 って 信じ 切れん ちゃん ねぇ 」

「だって 、佳乃 ちゃん 、最近 よく デート に 出かけとろう ? 」「でも 、二人 が 一緒 の ところ 、私たち 見た こと ない やん ? 今 だって 、もしかしたら コンビニ とか に 行った だけ かも よ 」そう 言った 沙里 の 言葉 を 、「まさかぁ 」と 眞子 は 笑い飛ばした 。

車内灯 を つける と 、祐一 は ルームミラー を くるり と 自分 の ほう に 回した 。

真っ暗な 車内 に 自分 の 顔 だけ が ぼんやり と 映って いる 。 祐一 は 首 を 左右 に 動かして 、手櫛 で 髪 を 整えた 。 どちらか と いう と 柔らかい 猫っ毛 で 、細い 髪 が 無骨な 指 の あいだ を さらさら と 流れて いく 。

去年 の 春先 に 、祐一 は 生まれて 初めて 髪 を 染めた 。

最初 は 、黒 と 言って も いい ような 茶色 に した のだが 、それが 現場 の 仕事 仲間 に 気づかれなかった こと も あって 、次に もう 少し 明るい 茶色 に 変え 、その 次は もっと 明るい 色 、その 次は もっと と エスカレートして 、一年後 の 今 で は ほとんど 金髪 に 近い 色 に なっている 。

徐々に 色 を 変えた こと も あって 、 周り で 祐一 の 金髪 の こと を 冷やかす 者 は いなかった 。

一 度 、 現場 主任 の 野坂 から 、「そうい や 、 お前 の 髪 、いつの間に 金髪 に なった と や ? 」と 笑われた 程度 で 、日々 、 野外 で 仕事 を して いる せい か 、浅黒い 肌 に 、 金色 の 髪 は さほど 違和感 も なく 、けっこう 似合って いた の かも しれない 。 祐一 は 決して 派手 好み の 性格 で は ない のだ が 、たとえば ユニクロ など へ 仕事 用 の トレーナー を 買い に 行く と 、つい 赤 や ピンク に 手 を 伸ばして しまう こと が あった 。

車で 店へ 向かう ときには 、黒 や ベージュ のような 汚れ が 目立たない 色 を 買う つもりで 行く のだ が 、いざ 店に 入り 、幾 色も の トレーナー の 前に 立つと 、ほとんど 無意識に 赤 や ピンク を 手に 取って しまう のだ 。

どうせ 汚れる んだ 、どうせ すぐに 汚す んだ 、と 思えば 思う ほど 、なぜ かしら つい 、赤 や ピンク の トレーナーに 手が 伸びる 。

祐一 の 部屋 の 古い タンス を 開ける と 、そんな トレーナー や Tシャツが 山ほど 詰め込まれていた 。

どれ も これ も 襟首 は すり切れ 、裾 すそ の 糸 は ほつれ 、生地 自体 も 薄く なって いた が 、そのくせ 色 が 妙に 明るい せい で 、その 印象 は まるで 寂れて しまった 遊園地 の ようだった 。

それでも 着古した トレーナー や Tシャツ は 、よく 汗 や 脂 を 吸い込んで くれた 。 着れば 着る ほど 、まるで 裸で いる ような 、そんな 解放感 を 味わえた 。

髪を セットし 終えた 祐一は 、腰を 浮かして ルームミラーに 顔を 近づけた 。

目が 少し 血走って いる が 、ここ 数日 膨れて いた 眉間の ニキビは 消えて いる 。

高校 を 卒業する まで 、祐一 は それこそ 髪 に 櫛 を 入れる ことも ない ような 少年 だった 。

特に 運動部 に 属していた わけで も ない のだが 、通い続けていた 近所の 床屋 で 、子供の ころから 数カ月に 一度 いつも と 同じように 短く 刈って いた 。

あれは 工業高校 に 進学した ばかりの ころだった か 、床屋の 主人に 、「祐一も 、そろそろ 、ああしてくれ 、こうしてくれ って 、うるさか こと 言う ように なる と やろ ねぇ 」と 言われた ことが ある 。

店の 大きな 鏡に は 背だけが ひょろっと 伸びた 、男の 出来損ない のような 少年 の 姿が 映っていた 。

「なんか 、注文 が あれば 言うてよ かぞ 」と 主人 は 言った 。

自費 で 演歌 レコード を 制作 し 、その ポスター を 店 の 壁 に 貼っている ような 男 だった 。

正直 、注文 と 言われて も 、祐一 に は 何 を どう 注文 すれば いい の か 分からなかった 。

どこ を どう カット すれば 、どう なって 、どう なった から と 言って 、それ が どう なる の か が 分からなかった 。

結局 、高校 を 卒業 して から も 、祐一 は この 店 に 通って いた 。

卒業 後 、小さな 健康 食品 会社 に 就職 した が すぐに 辞めて しばらく 家 で ぶらぶら している うちに 、高校 の 同級生 に 誘われて カラオケボックス で バイト する ように なった 。

しかし 、その 店 が 半年 ほど で 潰れて しまい 、ガソリン スタンド で 数 カ月 、コンビニ で 数 カ月 と 職 を 変え 、気 が つく と 二十三 歳 に なって いた 。

今 の 土建屋 で 働く ように なった の は そのころ だった 。 扱いとしては 社員では なく 、日雇いに 近い のだが 、ここ の 社長が 祐一の 親戚に 当たり 、普通よりも 少しだけ 日当を 高く 設定して くれている 。

この 土建屋に 勤めて すでに 四年目に なる 。

仕事は きついが 、晴れたら 働き 、雨が 降れば 休みと いう この 不安定さが 、自分には 合っていると 祐一は 思う 。 公園前の 通りを 走り抜けて いく 車の 数は 、ますます 少なく なっていた 。 つい さっき 二 台 前 に 停まっていた 車 に 若い カップル が 乗り込んで 走り去った 気配 が 、まだ その 場 に 残っている ような 静まり返った 通り だった 。

暗い 公園 沿い の 通り を 、特に 急ぐ でも なく 歩いて くる 佳乃 の 姿 が 見えた の は その とき だった 。

祐一 は 車内灯 の 下 で 爪 に こびりついた 汚れ を 取って いた 。 数 十 メートル ごと に 並ぶ 街灯 の 下 で 、佳乃 の 姿 が はっきり と 浮かび 、また 消えて 、また 次の 街灯 の 下 で 浮かぶ 。

祐一 は 軽く クラクション を 鳴らした 。

その 音 で 、一瞬 ビクッ と 佳乃 の 足 が 止まった 。

◇ 二〇〇一 年 十二 月 十 日 、月曜日 の 朝 、福岡市 博多区 に ある 「フェアリー 博多 」の 302号室 で 、谷元沙里 は 珍しく 目覚まし時計 が 鳴る 五分 前 に 、自然と 目を覚ましていた 。 元々 、朝 が 弱く 、鹿児島 市内 の 実家 に 暮らしていた とき に は 、それこそ 毎朝 、母親 が 癇癪 を 起こす ほど で 、実家 を 出て 博多 で 暮らす ように なって から も 、たまに 母親 から 電話 が かかってくる と 、「あんた 、ちゃんと 朝 は 起きられとる の ? 」と 、まず 訊かれて しまう 。

朝 が 弱い のに は 、寝付き が 悪い せい も あった 。

朝 が つらい ので 、いつも 早めに 布団 に 入る のだ が 、布団 に 入って 目 を 閉じる と 、その 日 学校 で 友達 と 話した こと など が 浮かんで きて しまい 、ああ 、あの とき は こう 言い返せば よかった 、ああ 、あの とき は 先に 教室 へ 戻って いれば よかった など と 、大した こと でもない のに 、つい うだうだ と 考え出して しまう のだ 。

ただ 、それ だけなら 珍しくも ない のだが 、沙里の 場合 、日常の 些末な 出来事 への 後悔を している つもりが 、ふと 気がつくと 、ある 情景を 思い描いている ことが あった 。

この 情景 を 一言 で 言い表す の は 難しい 。

中学 に 入学 した ばかりの ころ 、その 情景 は 布団 に 入って も なかなか 眠れない 沙里 の 頭 の 中 に 、いつ の 間にか 侵入してきて 、以来 、どんなに 考えまい と しても 、必ず 寝る 前 に 出てきて しまう 。

いつ の 時代 な の か は 分からない 。

昭和 の 初め 、もしくは もっと 前 ? とにかく 、その 情景 の 中 で 沙里 は いつも 小部屋 に 閉じ込められて おり 、手 に は ある 女優 の 写真 を 握りしめている 。

写真は 、その 女優 が いわゆる 洋装 を した ピンナップ 写真 の とき も あれば 、女優 が 主演 する らしい 映画 を 知らせる 新聞 の 切り抜き だったり する 。

沙里 は その 女優 が 誰 な の か 知らない 。

ただ 、この 空想 の 中 の 自分 は 、それが 誰 な の か を 知っていて 、理由 は 分からない が 、下唇 を 噛み切ってしまう ほど 彼女 に 嫉妬している のだ 。

小部屋 に ある 格子 の 入った 窓 から は 、桜並木 を 颯爽 と 歩いていく 若い 軍人 たち が 見える こと も あれ ば 、雪合戦 を して 遊ぶ 子供たち の 声 が 遠く に 聞こえる こと も ある 。

空想 の 中 で 、沙里 は いつも 「ここ さえ 出られれば 」と 歯痒い 思い を している 。

ここ さえ 出られれば 、その 女優 の 代わり に 自分 が 映画 に 出られる こと を 知っている 。

この 空想 に 物語 は ない 。

他に 登場人物 が いる わけで も ない 。 ただ 、沙里 の 分身 らしい 主人公 の 感情 だけ が 、眠れない 沙里 に 伝わってくる 。 目覚まし時計 が 鳴る 寸前 に 、沙里 は 布団 から 腕 を 出して アラーム を オフ に した 。

鳴ら なかった アラーム が 、まるで 聞こえた ような 気 が する 。

枕元 に あった 携帯 を 開き 、やはり 佳乃 から の 連絡 が 入って いない こと を 確認 した 。 沙里 は 布団 を 出る と 、カーテン を 開けた 。 三階 の 窓 から は 朝日 を 浴びた 東公園 が 見渡せる 。

昨晩 、十二時 ちょっと 前 に 沙里 は 佳乃 の 携帯 に 電話 を かけた 。

もう 戻って いる だろう と 思って いた のだが 、佳乃 は 電話 に 出なかった 。

沙里 は 留守電 に 切り替わった 電話 を 切る と 、ベランダ へ 出て 、真下 に ある 二階 の 佳乃 の 部屋 を 覗き込んだ 。 電気 は ついて いなかった 。 自分 たち と 別れた あと 、増尾 圭吾 と 会い 、すでに 帰ってきている と すれば 、あまりに も 早すぎる 就寝 だった 。

沙里 は 一瞬 迷って から 、今度 は 眞子 に 連絡を 入れた 。

こちら は すぐに 出て 、歯 でも 磨いて いる の か 、「もしもし ? 」と 聞き取りにくい 声 を 出す 。

「ねぇ 、佳乃 ちゃん 、まだ 戻っとらん よ ね ? 」と 沙里 は 訊いた 。

「佳乃 ちゃん ? 」「すぐに 戻る みたいな こと 言う とった やろ ? でも 、今 、携帯 に 電話 したら 出 らん と よ 」

「シャワー でも 浴びとる っちゃない ? 」「でも 、部屋 の 電気 ついとらん よ 」 「じゃあ 、まだ 増尾 くん と 一緒 なんやない と ? 」明らかに 眞子 の 声 が 面倒臭そう だった ので 、「そうかなぁ 」と 沙里 も とりあえず 同意した 。 「もう すぐ 帰って くる よ 。 なんか 用 やった ん ? 」眞子 に 訊かれ 、「いや 、そう やない けど ……」と 答えて 、電話 を 切った 。

用 が あった わけで は なかった が 、暗い 公園 の ほう へ 歩いて 行った 佳乃 の 足音 が 、ふと 耳 に 蘇った のだ 。

普段 なら それで 忘れてしまう のだが 、シャワーを 浴びて 、布団に 入って から また なんとなく 気になった 。

迷惑だろう とは 思いながらも 、もう一度 、佳乃 の 携帯に かけた 。

ただ 、今度は 電源が 切られている のか 、呼び出し音も 鳴らず 、すぐに 留守電に 切り替わる 。

その 瞬間 、博多駅前 に ある という 増尾圭吾 の マンションが 目に 浮かんだ 。 沙里 は 馬鹿らしく なって 、携帯 を 枕元 に 投げ出した 。

この 朝 、沙里 が 博多 駅前 に ある 博多 営業所 に 出勤した のは 、朝礼 の 始まる 八 時 半 ぎりぎり だった 。

「フェアリー 博多 」から 直線 にして 一 キロ ほど の 距離 で 、沙里 は いつも 自転車 を 使っている のだが 、たまたま この 朝 、アパート の 駐輪場 で 自転車 に 乗ろう と している と 、

「今日 、博多 営業所 に ちょっと 用 が ある と よ 」と 、いつも は 地下鉄 で 城南 営業所 に 通う 眞子 に 声 を かけられ 、ならば と 、一緒に 地下鉄 で 向かった のだ 。

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