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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 10

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 10

10 沈 黙

「 誰 な の !

夕 里子 は 、 はっきり した 声 を 、 暗闇 へ 向 って 投げ つけた 。

怖く ない わけで は ない 。

夕 里子 だって 、 もちろん 怖い もの は 怖い のだ 。

真 暗 な 部屋 の 中 で 、 ドア も 開か ず 、 何 か が ジリジリ と 近寄って 来る の を 待って いる 。

そして 、 その 近付き 方 は 、 どこ か まともで は なかった ……。

夕 里子 は 、 冷たい 汗 が 、 体 中 から 吹き出す の を 感じた 。

罠 に はまって しまった の かも しれ ない 。

ザッ 、 と 何 か を 引きずる ような 音 が 、 さらに 近付いて 来て いる 。

── 夕 里子 は 、 必死に なって 落ちつこう と した 。 冷静に 、 冷静に 、 と 自分 へ 言い聞かせる 。

そう 。

これ まで だって 、 何度 も 危 い 所 を 切り抜けて 来た のだ 。

それ に 、 ここ は 人里 離れた 山荘 と いって も 、 他 に 人 が い ない わけじゃ ない 。

国 友 も 、 珠美 も 、 それ に 少々 頼りない が 、 綾子 も いる 。

まず 、 ドア だ !

手探り で 、 ドア の ノブ を つかむ と 、 夕 里子 は もう 一 度 、 力一杯 、 ドア を 揺さぶって みた 。

「── 誰 か !

誰 か 来て ! しかし 、 手 で 力一杯 叩いて みて 、 夕 里子 は その ドア が 、 見た目 に は 他の 部屋 と 同じ 木 の ドア だ が 、 実際 に は 、 おそらく 間 に 鉄板 を 挟んだ 、 厚く 、 重い ドア だ と 悟って いた 。

声 や 、 音 を 、 廊下 へ 出さ ない ように して いる のだろう 。

「 助けて !

国 友 さん ! ── 金田 君 ! 少なくとも 、 一緒に 来た 金田 は 、 この ドア の すぐ 表 に いる はずだ が 、 全く 反応 は なかった 。

夕 里子 は 、 ハッと 振り向いた 。

── それ は 夕 里子 から 、 ほんの 一 、 二 メートル の 所 まで 這い 寄って いた 。

低く 、 足下 の 方 から 、 ハア 、 ハア 、 と 獣 の ような 息づかい が 聞こえて 来る 。

何 だろう ? 動物 か ? しかし 、 なぜ こんな 真 暗 な 部屋 へ 押し 込めて いる の か 。

ザッ 、 ザッ 、 と 床 を こする 音 が して 、 夕 里子 は 、 それ が 、 ほとんど 自分 に 触れ そうな 所 まで 来て いる こと を 感じた 。

窓 !

── 窓 は ない のだろう か ?

夕 里子 は 、 さっき 国 友 を 助けて 珠美 と 三 人 で ここ へ 戻る 途中 、 この 部屋 の 窓 に 人影 を 見た こと を 思い出した 。

確かに 、 あの とき は カーテン が 開いて 、 男 が 立って いた のだ 。

つまり 、 窓 が あって 、 決して 、 板 など が 打ち つけて ある わけで は ない 、 と いう こと に なる 。

おそらく 、 完全に 遮 光 できる カーテン が 下って いる のだ 。

夕 里子 は 、 ともかく 、 その 「 窓 」 を 見付けよう 、 と 思った 。

光 さえ 射 し込めば 、 相手 の 姿 さえ 見えれば ……。

じっと 暗がり の 中 へ 目 を こらす と 、 かすかに ── 本当に かすかに 、 だが 、 うっすら と 光 の 洩 れて いる 一角 が ある の が 、 見分け られた 。

あれ が 窓 だ 。

一 か 八 か 。

やって みる しか ない 。

ハァッ 、 と いう 、 その 「 何も の か 」 の 息づかい が 、 夕 里子 の 足 に 触れる ほど だ 。

夕 里子 は 、 思い切って 、 見当 を つける と 、 その 「 何 か 」 を 飛び越えた 。

何 か 柔らかい もの が 足 の 先 に 触れた ような 気 が した が 、 ともかく 、 固い 床 に 、 降り立った 。

夕 里子 は 真 直ぐに 、 その かすかな 光 へ 向 って 突進 した 。

手 を のばし 、 カーテン を 引きちぎろう と ──。

暗がり の 中 で 、 距離 感 が 狂って いた 。

夕 里子 は 、 まともに 窓 に 向 って 突っ込み 、 ぶつかった 。

カーテン らしい 布 の 手応え は 一瞬 で 、 アッ と 思った とき は 、 それ ごと 、 窓 ガラス を 突き破って いた 。

「 キャッ !

と 、 叫び声 を 上げた の か どう か ── 自分 でも 分 ら ない 。

夕 里子 は 、 窓 から カーテン もろとも 、 宙 へ 飛び出して いた 。

そして 、 落下 する と いう 感覚 の ない まま 、 いきなり 深い 雪 の 中 へ と 突っ込んで 、 気 を 失った 。

── 何の 音 だろう ?

珠美 は 、 山荘 の 一 階 に ある サロン で 、 同じ 週刊 誌 を 何度 も 見て いる 内 に 、 いつしか ウトウト して いた のである 。

そこ へ 、 何 か ガチャン 、 と 壊れる ような 音 が して 、 ハッと 目 を 覚ました のだった 。

いや ── それとも 、 夢 でも 見て た の かしら ?

こんな 昼間 から 、 何も 起る わけ が ない し ……。

「 や だ な 」

と 、 珠美 は 呟いた 。

「 夕 里子 姉ちゃん に かぶれちゃ った の か な 」

珠美 は 大体 が 安全 第 一 を モットー に して いる 。

夕 里子 の 如く 、 わざわざ 危険に 飛び 込んで 行く ような こと は 決して し ない 。

それ でも 、 時として 危 い 目 に 遭う こと が ある の は 、 総 て 姉 たち の せい な のである 。

しかし ── まあ 、 この 山荘 で のんびり して いりゃ 、 安全だ 。

何といっても 、 三 姉妹 が 全部 揃って いて 、 しかも 、 水谷 先生 と いう 逞 しい 男 、 国 友 と いう 刑事 まで いる 。

どうも 、 姉 の 夕 里子 は 、 ここ に 何 か 秘密 が ある ように 考えて いる らしい が 、 それ は むしろ 珠美 に 言わ せりゃ 、「 本人 の 趣味 」 の 問題 な のである 。

「 あー あ 」

と 、 伸び を して 、 珠美 が 立ち上る と 、 ちょうど サロン へ 、 片 瀬 敦子 が 入って 来た 。

「 あ 、 珠美 ちゃん 、 ここ に いた の 」

「 骨休め 。

── 休み っ放し だ けど 」

と 、 珠美 は 笑って 言った 。

「 退屈 しちゃ うわね 」

と 、 敦子 は 言った 。

「 国 友 さん 、 大丈夫な の かしら ? 「 夕 里子 姉ちゃん が ついて る もん 」

「 そう ね 」

と 、 敦子 は 微笑んだ 。

「 ね 、 夕 里子 、 そう 言えば 、 どこ に いる んだ ろ ? 「 知ら ない 」

と 、 珠美 は 肩 を すくめた 。

「 二 階 で 寝て る んじゃ ない の ? 「 今 、 覗いて みた の 。

でも 、 い なかった わ 」

「 変 ね 」

珠美 は 首 を かしげた 。

「── もし かして 」

「 どこ ?

「 国 友 さん の ベッド の 中 ……」

敦子 が 、 それ を 聞いて 、 吹き出した 。

「 お 姉ちゃん も 、 子供 扱い な んだ な 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 そんな こと ない けど さ ──」

敦子 は 、 ちょっと 考えて 、「 でも 、 夕 里子 って すてき よ 。

女の子 でも 惚れちゃ う 」

「 そろそろ 男の子 に 惚れ られ たい 年ごろ です けど ね 」

── 二 人 は 、 裏庭 を 見渡せる 窓 の 方 へ と 歩いて 行った 。

「 まぶしい ね 」

と 、 敦子 が 目 を 細める 。

よく 晴れて いる ので 、 雪 の 照り返し が 強烈な のだ 。

裏庭 に は 、 誰 も い なかった 。

「── 何だか 怖い 」

と 、 敦子 が 、 ふと 、 独り言 の ように 言った 。

「 どうして ?

川西 みどり 、 って 人 の こと ? 「 え ?

── ああ 、 そう じゃ ない の 。 それ も ある けど ……」

敦子 は 、 視線 を 宙 へ 泳が せて 、「 静かだ と 思わ ない ?

意外な 言葉 だった 。

珠美 も 、 初めて 、 その こと に 気付いた 。

「 本当だ 。

── 何も 聞こえ ない ね 」

珠美 は 、 つい さっき 感じた 、 不安に も 似た 感覚 が 、 この 静けさ から 来て いた もの かも しれ ない 、 と 思った 。

都会 に 暮して いれば ── そして 、 まあ 普通の 時間 の パターン で 生活 して いれば 、 まず 、 完全に 静かな 時間 と いう もの は ほとんど ない のだ 。

珠美 は 、 決して いつも 音楽 を 流して おか ない と 落ちつか ない と いう タイプ で は ない し 、 ウォークマン を 持って 歩く わけで も ない 。

それ でも 、 起きて いる 間 は 、 たいてい 、 何 か の 「 音 」 や 「 声 」 を 聞いて いて 、 それ が 当り前に なって いる 。

それ に 比べ 、 この 山荘 の 静かな こと と いったら ……。

確かに 無気味な ほど だ 。

「 みんな 黙りこくって ん の か な 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 分 ら ない わ 」

敦子 は 首 を 振って 、「 でも 、 いくら 国 友 さん が 寝て る って いって も 、 まだ 、 水谷 先生 や 金田 君 、 それ に 綾子 さん も いる わ 。

もちろん 石垣 園子 さん と 、 子供 の 秀 哉 君 も ……」

「 私 、 あの 子 嫌い 」

と 、 珠美 は いつ に なく はっきり と 言った 。

いや 、「 いつも 通り 」 と いう ところ かも しれ ない 。

「 そう ね 。

何 か ゾッと し ない わ ね 。 でも ── これ だけ 人 が いる はずな のに 、 話し声 一 つ 、 聞こえ ない なんて ……」

気 に し だす と 、 気 に なる もの だ 。

「 何 か 音 の 出る もの を ──」

と 、 珠美 は 、 ふと 思い 付いて 、「 TV つけよう 」

と 、 サロン の 中 を 見 回して 、 やっと 気付いた 。

「 TV ── ない の ね 」

「 そう 。

不思議でしょ ? と 、 敦子 は 肯 いて 、 言った 。

確かに そうだ 。

こういう 場所 ── 個人 の 家 なら ともかく 、 客 を 泊める 山荘 で 、 TV が ない と いう の は 変って いる 。

「 そう いえば 、 部屋 に も ない ね 」

珠美 は 肯 いた 。

「 妙だ ね 。 いくら 山 の 中 だって ──」

「 映り が 悪くて も 、 必ず TV の 一 台 ぐらい は 置く もの よ 」

敦子 は 首 を 振って 、「 ラジオ も ない わ 。

少なくとも 、 お 客 の いる 部屋 に は 」

「 そう か 。

あの 石垣 って 人 の 住んで る 部屋 に は ある の かも しれ ない わ 」

でも ── 確かに 妙な 話 である 。

さすが に 呑気 な 珠美 も 、 少し 不安に なって 来た 。

する と ──。

「 あら 、 庭 に ……」

と 、 敦子 が 言った 。

二 人 が 立って いる 窓 から 、 裏庭 が 見える 。

その 庭 を 、 雪 に 足 を 取ら れ ながら 、 石垣 園子 と 秀 哉 が 、 歩いて 来る のだ 。

「 ちょっと !

と 、 珠美 は 、 敦子 の 肩 を つかんだ 。

「 低く なって ! ほら 」

「 え ?

敦子 は 、 戸惑い ながら 、 一緒に なって 身 を かがめた 。

二 人 は 、 窓 の 下 から 、 目 まで を 出して 、 表 を 改めて 眺めた 。

「 あの 二 人 …… いつ 出て 行った の かしら 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 珠美 ちゃん 、 気 が 付か なかった の ?

「 全然 。

私 、 ずっと ここ に いた のに 」

そう 。

裏庭 へ 出る ドア が 開けば 、 珠美 は 必ず 気 が 付く はずだ 。 いくら ウトウト して いて も 、 完全に 眠って いる わけで は ない のだ から ……。

裏庭 に は 、 色々 と 、 金田 や 敦子 の 歩き 回った 足跡 が ついて いる 。

しかし 、 石垣 母子 は 、 妙な 方角 から 歩いて 来て いた 。

「 あっ ち へ 行ったら 、 崖 から 落ち そうじゃ ない ?

と 、 敦子 も 同じ 思い らしい 。

「 そう ね 。

── 何だか 変だ わ 。 それ に 、 今 、 綾子 姉ちゃん が 授業 して る はずな のに 」

「 こっち を 見て る !

敦子 が 頭 を あわてて 下げた 。

「 大丈夫 よ 。

外 が こんなに 明るい んだ もの 。 こっち は 見え やしない わ 」

「 でも 、 あの 男の子 、 超 能力 が ある んでしょ ?

「 そんな 力 が あれば 、 隠れた って むだ よ 」

珠美 も 、 大して 度胸 は ない 方 だ が 、 理屈 っぽい ところ が ある ので 、 納得 できれば 、 それ で 割り切れる と いう もの な のである 。

「── 入って 来た わ 」

と 、 珠美 は 言った 。

石垣 母子 が 、 裏庭 へ の 出入 口 から 入って 来る 音 が した 。

うん 、 この 音 なら 、 もし 出て 行った と して も 気付か ない わけ は ない 。

「 ソファ に 戻って よう 」

と 、 珠美 は 敦子 を 促した 。

「── 二 人 で 何 か して た こと に して ──」

「 でも 、 何 を ?

敦子 は 、 噓 を つく こと の 苦手な 娘 である 。

こんな とき 、 とっさに うまい 言い訳 が 出て 来 ない 。

「 そう ね 」

珠美 は 、 ちょっと 考えて 、「 ラブ シーン でも どう ?

敦子 は 目 を 丸く した 。

「── あら 、 こちら だった の ?

石垣 園子 が 顔 を 出す 。

「 おやつ でも 、 と 思った の 。 クッキー を 焼いた から 、 ここ へ 持って 来る わ ね 」

「 すみません 」

珠美 は 、 たとえ 相手 は 怪しくて も 、 決して くれる もの は 断ら ない 。

「 私 、 お 手伝い し ましょう か 」

と 、 敦子 が 腰 を 浮か す と 、

「 いい の いい の 」

と 、 石垣 園子 は 手 を 振って 、「 少し 動か ない と いけない の よ 、 私 も 。

こういう 時期 は 、 どうしても 、 運動 不足に なる から 」

「 綾子 姉ちゃん は 、 ちゃんと やって ます か ?

と 、 珠美 は 澄まして 訊 いた 。

「 家庭 教師 なんて 初めて だ から 、 あの 人 」

「 ええ 、 そりゃ もう 熱心に 」

と 、 園子 は 肯 いて 、「 少し 休んだ 方 が いい 、 って 、 今 、 おやつ を 先 に 持って 行った ところ よ 」

「 へえ 、 珍しい !

うんと こき使って やって 下さい 」

どこ まで 本気で どこ から が 演技 な の か 、 自分 でも よく 分 ら ない と いう 所 が 、 珠美 に は ある 。

「── 珠美 ちゃん って 、 いい 度胸 ねえ 」

と 、 園子 が 出て 行って から 、 敦子 が 言った 。

「 人間 、 度胸 が なきゃ 、 お 金 も 手 に 入ら ない もん 」

珠美 は 、 アッサリ と 言った 。

「 でも 、 ともかく 、 あの おばさん が 噓 を ついて る って こと が 分 った わけだ 」

「 無気味 ね 。

── クッキー なんか 、 食べて も 大丈夫 かしら ? 「 大丈夫でしょ 」

「 どうして 分 る の ?

「 どうせ 、 がまん でき なくて 、 食べる に 決 って んだ もの 。

大丈夫 と 思って なきゃ おいしく ない じゃ ない 」

正に 、 珠美 流 の 理屈 だった 。

五 分 ほど して 、 石垣 園子 が 、 クッキー を 器 へ 入れ 、 紅茶 と 一緒に 運んで 来た 。

「 ここ へ 置き ます から ね 。

── それ から 、 私 、 少し 昼寝 を さ せて いただく わ 。 でも 、 奥 の 方 の 部屋 に い ます から 、 何 か ご用 が あれば 、 遠慮 なく 起こして ちょうだい 」

園子 の 言葉 に 、 珠美 と 敦子 は チラッ と 目 を 見交わした 。

「── 分 り ました 。

お邪魔 し ない ように し ます わ 」

と 、 敦子 が 言う と 、

「 本当に やさしい お嬢さん ね 、 あなた は 」

と 、 園子 は 微笑んだ 。

私 は 優しい お嬢さん じゃ ない の か 。

── フン 、 と 珠美 は 思った が 、 まあ 客観 的に 見る と 、 多分 に 小 にくらしい ガキ かも しれ ない 。

ま 、 いい や 。

今 は この クッキー 。

園子 が サロン を 出て 行った とき 、 早くも 珠美 は 右手 で 紅茶 の カップ を 取り 上げ 、 左手 で は 、 二 つ 目 の クッキー を 取って いた 。

一 つ 目 は 、 口 の 中 に ある 。

「── チャンス だ ね 」

と 、 珠美 は 、 クッキー を 紅茶 で 流し 込む と 、 言った 。

「 でも 、 あの おばさん 、 怪しい 奴 でも 、 料理 の 腕 は 一流 ! 「 その 点 は 確か ね 」

と 、 敦子 も 肯 いた 。

「── で 、 何の チャンス な の ? 「 裏庭 を 調べて みよう よ 」

「 調べる って ?

「 今 、 あの 二 人 が どこ から 来た の か 。

もしかしたら 、 下 へ 出る 抜け道 で も ある の かも しれ ない じゃ ない 」

「 そう ねえ ……」

敦子 は ためらった 。

何といっても 夕 里子 や 珠美 と 違って 、 敦子 は そう 冒険 に 慣れて いる わけで は ない 。

「 じゃ 、 いい よ 。

敦子 さん 、 ここ に いて 。 もし 、 私 が 生きて 帰ら なかったら ──」

「 珠美 ちゃん !

敦子 は 情 ない 顔 に なって 、「 いい わ 。

一緒に 行く わ よ 」

「 無理 し なくて も いい よ 」

「 一 人 で ここ に 残って る の も 、 いやだ もん 」

「 じゃ 、 決 った !

その 前 に ──」

珠美 は 、 ティッシュペーパー を 出す と 、 残った クッキー を 包み 出した 。

「 何 して ん の ?

「 持って く の 。

お 弁当 」

どうやら 、 ピクニック と 間違えて いる ようだった ……。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 10 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

10  沈   黙 しず|もく

「 誰 な の ! だれ||

夕 里子 は 、 はっきり した 声 を 、 暗闇 へ 向 って 投げ つけた 。 ゆう|さとご||||こえ||くらやみ||むかい||なげ|

怖く ない わけで は ない 。 こわく||||

夕 里子 だって 、 もちろん 怖い もの は 怖い のだ 。 ゆう|さとご|||こわい|||こわい|

真 暗 な 部屋 の 中 で 、 ドア も 開か ず 、 何 か が ジリジリ と 近寄って 来る の を 待って いる 。 まこと|あん||へや||なか||どあ||あか||なん|||じりじり||ちかよって|くる|||まって|

そして 、 その 近付き 方 は 、 どこ か まともで は なかった ……。 ||ちかづき|かた||||||

夕 里子 は 、 冷たい 汗 が 、 体 中 から 吹き出す の を 感じた 。 ゆう|さとご||つめたい|あせ||からだ|なか||ふきだす|||かんじた

罠 に はまって しまった の かも しれ ない 。 わな||||||| It may have caught in a trap.

ザッ 、 と 何 か を 引きずる ような 音 が 、 さらに 近付いて 来て いる 。 ||なん|||ひきずる||おと|||ちかづいて|きて|

── 夕 里子 は 、 必死に なって 落ちつこう と した 。 ゆう|さとご||ひっしに||おちつこう|| ── Yuriko sat down trying to calm down desperately. 冷静に 、 冷静に 、 と 自分 へ 言い聞かせる 。 れいせいに|れいせいに||じぶん||いいきかせる

そう 。

これ まで だって 、 何度 も 危 い 所 を 切り抜けて 来た のだ 。 |||なんど||き||しょ||きりぬけて|きた|

それ に 、 ここ は 人里 離れた 山荘 と いって も 、 他 に 人 が い ない わけじゃ ない 。 ||||ひとざと|はなれた|さんそう||||た||じん||||| Besides, even if it is said that it is a secluded mountain villa here, there are no other people.

国 友 も 、 珠美 も 、 それ に 少々 頼りない が 、 綾子 も いる 。 くに|とも||たまみ||||しょうしょう|たよりない||あやこ||

まず 、 ドア だ ! |どあ|

手探り で 、 ドア の ノブ を つかむ と 、 夕 里子 は もう 一 度 、 力一杯 、 ドア を 揺さぶって みた 。 てさぐり||どあ||||||ゆう|さとご|||ひと|たび|ちからいっぱい|どあ||ゆさぶって|

「── 誰 か ! だれ|

誰 か 来て ! だれ||きて しかし 、 手 で 力一杯 叩いて みて 、 夕 里子 は その ドア が 、 見た目 に は 他の 部屋 と 同じ 木 の ドア だ が 、 実際 に は 、 おそらく 間 に 鉄板 を 挟んだ 、 厚く 、 重い ドア だ と 悟って いた 。 |て||ちからいっぱい|たたいて||ゆう|さとご|||どあ||みため|||たの|へや||おなじ|き||どあ|||じっさい||||あいだ||てっぱん||はさんだ|あつく|おもい|どあ|||さとって| However, trying with a lot of hands, Riko Yuriko realized that the door is the same tree door as the other rooms in appearance, but in reality it is a thick, heavy door, perhaps holding a steel plate between them It was.

声 や 、 音 を 、 廊下 へ 出さ ない ように して いる のだろう 。 こえ||おと||ろうか||ださ||||| I wonder not to let out the voice and the sound to the corridor.

「 助けて ! たすけて

国 友 さん ! くに|とも| ── 金田 君 ! かなだ|きみ 少なくとも 、 一緒に 来た 金田 は 、 この ドア の すぐ 表 に いる はずだ が 、 全く 反応 は なかった 。 すくなくとも|いっしょに|きた|かなだ|||どあ|||ひょう|||||まったく|はんのう||

夕 里子 は 、 ハッと 振り向いた 。 ゆう|さとご||はっと|ふりむいた

── それ は 夕 里子 から 、 ほんの 一 、 二 メートル の 所 まで 這い 寄って いた 。 ||ゆう|さとご|||ひと|ふた|めーとる||しょ||はい|よって|

低く 、 足下 の 方 から 、 ハア 、 ハア 、 と 獣 の ような 息づかい が 聞こえて 来る 。 ひくく|あしもと||かた|||||けだもの|||いきづかい||きこえて|くる

何 だろう ? なん| 動物 か ? どうぶつ| しかし 、 なぜ こんな 真 暗 な 部屋 へ 押し 込めて いる の か 。 |||まこと|あん||へや||おし|こめて|||

ザッ 、 ザッ 、 と 床 を こする 音 が して 、 夕 里子 は 、 それ が 、 ほとんど 自分 に 触れ そうな 所 まで 来て いる こと を 感じた 。 |||とこ|||おと|||ゆう|さとご|||||じぶん||ふれ|そう な|しょ||きて||||かんじた

窓 ! まど

── 窓 は ない のだろう か ? まど||||

夕 里子 は 、 さっき 国 友 を 助けて 珠美 と 三 人 で ここ へ 戻る 途中 、 この 部屋 の 窓 に 人影 を 見た こと を 思い出した 。 ゆう|さとご|||くに|とも||たすけて|たまみ||みっ|じん||||もどる|とちゅう||へや||まど||ひとかげ||みた|||おもいだした Yuriko helped my national friend and remembered that I saw a person in the window of this room on my way back to here with Arimi and three people.

確かに 、 あの とき は カーテン が 開いて 、 男 が 立って いた のだ 。 たしかに||||かーてん||あいて|おとこ||たって||

つまり 、 窓 が あって 、 決して 、 板 など が 打ち つけて ある わけで は ない 、 と いう こと に なる 。 |まど|||けっして|いた|||うち||||||||||

おそらく 、 完全に 遮 光 できる カーテン が 下って いる のだ 。 |かんぜんに|さえぎ|ひかり||かーてん||くだって||

夕 里子 は 、 ともかく 、 その 「 窓 」 を 見付けよう 、 と 思った 。 ゆう|さとご||||まど||みつけよう||おもった

光 さえ 射 し込めば 、 相手 の 姿 さえ 見えれば ……。 ひかり||い|しこめば|あいて||すがた||みえれば

じっと 暗がり の 中 へ 目 を こらす と 、 かすかに ── 本当に かすかに 、 だが 、 うっすら と 光 の 洩 れて いる 一角 が ある の が 、 見分け られた 。 |くらがり||なか||め|||||ほんとうに|||||ひかり||えい|||いっかく|||||みわけ|

あれ が 窓 だ 。 ||まど|

一 か 八 か 。 ひと||やっ|

やって みる しか ない 。

ハァッ 、 と いう 、 その 「 何も の か 」 の 息づかい が 、 夕 里子 の 足 に 触れる ほど だ 。 ||||なにも||||いきづかい||ゆう|さとご||あし||ふれる||

夕 里子 は 、 思い切って 、 見当 を つける と 、 その 「 何 か 」 を 飛び越えた 。 ゆう|さとご||おもいきって|けんとう|||||なん|||とびこえた Yuriko took a dream and jogged over that "something".

何 か 柔らかい もの が 足 の 先 に 触れた ような 気 が した が 、 ともかく 、 固い 床 に 、 降り立った 。 なん||やわらかい|||あし||さき||ふれた||き|||||かたい|とこ||おりたった

夕 里子 は 真 直ぐに 、 その かすかな 光 へ 向 って 突進 した 。 ゆう|さとご||まこと|すぐに|||ひかり||むかい||とっしん|

手 を のばし 、 カーテン を 引きちぎろう と ──。 て|||かーてん||ひきちぎろう|

暗がり の 中 で 、 距離 感 が 狂って いた 。 くらがり||なか||きょり|かん||くるって| In the darkness, the sense of distance was out of order.

夕 里子 は 、 まともに 窓 に 向 って 突っ込み 、 ぶつかった 。 ゆう|さとご|||まど||むかい||つっこみ|

カーテン らしい 布 の 手応え は 一瞬 で 、 アッ と 思った とき は 、 それ ごと 、 窓 ガラス を 突き破って いた 。 かーてん||ぬの||てごたえ||いっしゅん||||おもった|||||まど|がらす||つきやぶって| The response of the curtainlike cloth was instantaneous, when I thought, it was breaking through the windowpane every time.

「 キャッ !

と 、 叫び声 を 上げた の か どう か ── 自分 でも 分 ら ない 。 |さけびごえ||あげた|||||じぶん||ぶん|| Whether it raised the scream ─ ─ I do not know even by myself.

夕 里子 は 、 窓 から カーテン もろとも 、 宙 へ 飛び出して いた 。 ゆう|さとご||まど||かーてん||ちゅう||とびだして|

そして 、 落下 する と いう 感覚 の ない まま 、 いきなり 深い 雪 の 中 へ と 突っ込んで 、 気 を 失った 。 |らっか||||かんかく|||||ふかい|ゆき||なか|||つっこんで|き||うしなった

── 何の 音 だろう ? なんの|おと|

珠美 は 、 山荘 の 一 階 に ある サロン で 、 同じ 週刊 誌 を 何度 も 見て いる 内 に 、 いつしか ウトウト して いた のである 。 たまみ||さんそう||ひと|かい|||さろん||おなじ|しゅうかん|し||なんど||みて||うち|||うとうと|||

そこ へ 、 何 か ガチャン 、 と 壊れる ような 音 が して 、 ハッと 目 を 覚ました のだった 。 ||なん||||こぼれる||おと|||はっと|め||さました|

いや ── それとも 、 夢 でも 見て た の かしら ? ||ゆめ||みて|||

こんな 昼間 から 、 何も 起る わけ が ない し ……。 |ひるま||なにも|おこる||||

「 や だ な 」

と 、 珠美 は 呟いた 。 |たまみ||つぶやいた

「 夕 里子 姉ちゃん に かぶれちゃ った の か な 」 ゆう|さとご|ねえちゃん||||||

珠美 は 大体 が 安全 第 一 を モットー に して いる 。 たまみ||だいたい||あんぜん|だい|ひと||もっとー|||

夕 里子 の 如く 、 わざわざ 危険に 飛び 込んで 行く ような こと は 決して し ない 。 ゆう|さとご||ごとく||きけんに|とび|こんで|いく||||けっして||

それ でも 、 時として 危 い 目 に 遭う こと が ある の は 、 総 て 姉 たち の せい な のである 。 ||ときとして|き||め||あう||||||そう||あね|||||

しかし ── まあ 、 この 山荘 で のんびり して いりゃ 、 安全だ 。 |||さんそう|||||あんぜんだ

何といっても 、 三 姉妹 が 全部 揃って いて 、 しかも 、 水谷 先生 と いう 逞 しい 男 、 国 友 と いう 刑事 まで いる 。 なんといっても|みっ|しまい||ぜんぶ|そろって|||みずたに|せんせい|||てい||おとこ|くに|とも|||けいじ|| Regardless, all three sisters are complete, and there are still detectives called Mizutani sensei, a national friend.

どうも 、 姉 の 夕 里子 は 、 ここ に 何 か 秘密 が ある ように 考えて いる らしい が 、 それ は むしろ 珠美 に 言わ せりゃ 、「 本人 の 趣味 」 の 問題 な のである 。 |あね||ゆう|さとご||||なん||ひみつ||||かんがえて|||||||たまみ||いわ||ほんにん||しゅみ||もんだい||

「 あー あ 」

と 、 伸び を して 、 珠美 が 立ち上る と 、 ちょうど サロン へ 、 片 瀬 敦子 が 入って 来た 。 |のび|||たまみ||たちのぼる|||さろん||かた|せ|あつこ||はいって|きた

「 あ 、 珠美 ちゃん 、 ここ に いた の 」 |たまみ|||||

「 骨休め 。 ほねやすめ

── 休み っ放し だ けど 」 やすみ|っぱなし||

と 、 珠美 は 笑って 言った 。 |たまみ||わらって|いった

「 退屈 しちゃ うわね 」 たいくつ||

と 、 敦子 は 言った 。 |あつこ||いった

「 国 友 さん 、 大丈夫な の かしら ? くに|とも||だいじょうぶな|| 「 夕 里子 姉ちゃん が ついて る もん 」 ゆう|さとご|ねえちゃん|||| "Riko Yuriko comes with me"

「 そう ね 」

と 、 敦子 は 微笑んだ 。 |あつこ||ほおえんだ

「 ね 、 夕 里子 、 そう 言えば 、 どこ に いる んだ ろ ? |ゆう|さとご||いえば||||| 「 知ら ない 」 しら|

と 、 珠美 は 肩 を すくめた 。 |たまみ||かた||

「 二 階 で 寝て る んじゃ ない の ? ふた|かい||ねて|||| 「 今 、 覗いて みた の 。 いま|のぞいて||

でも 、 い なかった わ 」

「 変 ね 」 へん|

珠美 は 首 を かしげた 。 たまみ||くび||

「── もし かして 」

「 どこ ?

「 国 友 さん の ベッド の 中 ……」 くに|とも|||べっど||なか

敦子 が 、 それ を 聞いて 、 吹き出した 。 あつこ||||きいて|ふきだした

「 お 姉ちゃん も 、 子供 扱い な んだ な 」 |ねえちゃん||こども|あつかい|||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 そんな こと ない けど さ ──」

敦子 は 、 ちょっと 考えて 、「 でも 、 夕 里子 って すてき よ 。 あつこ|||かんがえて||ゆう|さとご|||

女の子 でも 惚れちゃ う 」 おんなのこ||ほれちゃ|

「 そろそろ 男の子 に 惚れ られ たい 年ごろ です けど ね 」 |おとこのこ||ほれ|||としごろ|||

── 二 人 は 、 裏庭 を 見渡せる 窓 の 方 へ と 歩いて 行った 。 ふた|じん||うらにわ||みわたせる|まど||かた|||あるいて|おこなった

「 まぶしい ね 」

と 、 敦子 が 目 を 細める 。 |あつこ||め||ほそめる

よく 晴れて いる ので 、 雪 の 照り返し が 強烈な のだ 。 |はれて|||ゆき||てりかえし||きょうれつな|

裏庭 に は 、 誰 も い なかった 。 うらにわ|||だれ|||

「── 何だか 怖い 」 なんだか|こわい

と 、 敦子 が 、 ふと 、 独り言 の ように 言った 。 |あつこ|||ひとりごと|||いった

「 どうして ?

川西 みどり 、 って 人 の こと ? かわにし|||じん|| 「 え ?

── ああ 、 そう じゃ ない の 。 それ も ある けど ……」

敦子 は 、 視線 を 宙 へ 泳が せて 、「 静かだ と 思わ ない ? あつこ||しせん||ちゅう||えい が||しずかだ||おもわ|

意外な 言葉 だった 。 いがいな|ことば|

珠美 も 、 初めて 、 その こと に 気付いた 。 たまみ||はじめて||||きづいた

「 本当だ 。 ほんとうだ

── 何も 聞こえ ない ね 」 なにも|きこえ||

珠美 は 、 つい さっき 感じた 、 不安に も 似た 感覚 が 、 この 静けさ から 来て いた もの かも しれ ない 、 と 思った 。 たまみ||||かんじた|ふあんに||にた|かんかく|||しずけさ||きて|||||||おもった

都会 に 暮して いれば ── そして 、 まあ 普通の 時間 の パターン で 生活 して いれば 、 まず 、 完全に 静かな 時間 と いう もの は ほとんど ない のだ 。 とかい||くらして||||ふつうの|じかん||ぱたーん||せいかつ||||かんぜんに|しずかな|じかん||||||| If you live in an urban area - and if you live in an ordinary time pattern, there are few things that are completely quiet first.

珠美 は 、 決して いつも 音楽 を 流して おか ない と 落ちつか ない と いう タイプ で は ない し 、 ウォークマン を 持って 歩く わけで も ない 。 たまみ||けっして||おんがく||ながして||||おちつか||||たいぷ|||||||もって|あるく||| It is not a type that you can not calm down without playing music all the time, and it does not mean walking with a walkman.

それ でも 、 起きて いる 間 は 、 たいてい 、 何 か の 「 音 」 や 「 声 」 を 聞いて いて 、 それ が 当り前に なって いる 。 ||おきて||あいだ|||なん|||おと||こえ||きいて||||あたりまえに|| Even so, while I am awake, most people are listening to something "sound" and "voice", which is on the verge of the matter.

それ に 比べ 、 この 山荘 の 静かな こと と いったら ……。 ||くらべ||さんそう||しずかな|||

確かに 無気味な ほど だ 。 たしかに|ぶきみな||

「 みんな 黙りこくって ん の か な 」 |だまりこくって||||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 分 ら ない わ 」 ぶん|||

敦子 は 首 を 振って 、「 でも 、 いくら 国 友 さん が 寝て る って いって も 、 まだ 、 水谷 先生 や 金田 君 、 それ に 綾子 さん も いる わ 。 あつこ||くび||ふって|||くに|とも|||ねて||||||みずたに|せんせい||かなだ|きみ|||あやこ||||

もちろん 石垣 園子 さん と 、 子供 の 秀 哉 君 も ……」 |いしがき|そのこ|||こども||しゅう|や|きみ|

「 私 、 あの 子 嫌い 」 わたくし||こ|きらい

と 、 珠美 は いつ に なく はっきり と 言った 。 |たまみ|||||||いった

いや 、「 いつも 通り 」 と いう ところ かも しれ ない 。 ||とおり|||||| No, it may be called "as usual".

「 そう ね 。

何 か ゾッと し ない わ ね 。 なん||ぞっと|||| でも ── これ だけ 人 が いる はずな のに 、 話し声 一 つ 、 聞こえ ない なんて ……」 |||じん|||||はなしごえ|ひと||きこえ||

気 に し だす と 、 気 に なる もの だ 。 き|||||き|||| It is worrisome if you care.

「 何 か 音 の 出る もの を ──」 なん||おと||でる||

と 、 珠美 は 、 ふと 思い 付いて 、「 TV つけよう 」 |たまみ|||おもい|ついて|tv|

と 、 サロン の 中 を 見 回して 、 やっと 気付いた 。 |さろん||なか||み|まわして||きづいた

「 TV ── ない の ね 」 tv|||

「 そう 。

不思議でしょ ? ふしぎでしょ と 、 敦子 は 肯 いて 、 言った 。 |あつこ||こう||いった

確かに そうだ 。 たしかに|そう だ

こういう 場所 ── 個人 の 家 なら ともかく 、 客 を 泊める 山荘 で 、 TV が ない と いう の は 変って いる 。 |ばしょ|こじん||いえ|||きゃく||とめる|さんそう||tv|||||||かわって|

「 そう いえば 、 部屋 に も ない ね 」 ||へや||||

珠美 は 肯 いた 。 たまみ||こう|

「 妙だ ね 。 みょうだ| いくら 山 の 中 だって ──」 |やま||なか| How much is it in the mountain?

「 映り が 悪くて も 、 必ず TV の 一 台 ぐらい は 置く もの よ 」 うつり||わるくて||かならず|tv||ひと|だい|||おく||

敦子 は 首 を 振って 、「 ラジオ も ない わ 。 あつこ||くび||ふって|らじお|||

少なくとも 、 お 客 の いる 部屋 に は 」 すくなくとも||きゃく|||へや|| At least, in the room where customers are "

「 そう か 。

あの 石垣 って 人 の 住んで る 部屋 に は ある の かも しれ ない わ 」 |いしがき||じん||すんで||へや||||||||

でも ── 確かに 妙な 話 である 。 |たしかに|みょうな|はなし|

さすが に 呑気 な 珠美 も 、 少し 不安に なって 来た 。 ||のんき||たまみ||すこし|ふあんに||きた

する と ──。

「 あら 、 庭 に ……」 |にわ|

と 、 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

二 人 が 立って いる 窓 から 、 裏庭 が 見える 。 ふた|じん||たって||まど||うらにわ||みえる

その 庭 を 、 雪 に 足 を 取ら れ ながら 、 石垣 園子 と 秀 哉 が 、 歩いて 来る のだ 。 |にわ||ゆき||あし||とら|||いしがき|そのこ||しゅう|や||あるいて|くる|

「 ちょっと !

と 、 珠美 は 、 敦子 の 肩 を つかんだ 。 |たまみ||あつこ||かた||

「 低く なって ! ひくく| ほら 」

「 え ?

敦子 は 、 戸惑い ながら 、 一緒に なって 身 を かがめた 。 あつこ||とまどい||いっしょに||み||

二 人 は 、 窓 の 下 から 、 目 まで を 出して 、 表 を 改めて 眺めた 。 ふた|じん||まど||した||め|||だして|ひょう||あらためて|ながめた

「 あの 二 人 …… いつ 出て 行った の かしら 」 |ふた|じん||でて|おこなった||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 珠美 ちゃん 、 気 が 付か なかった の ? たまみ||き||つか||

「 全然 。 ぜんぜん

私 、 ずっと ここ に いた のに 」 わたくし|||||

そう 。

裏庭 へ 出る ドア が 開けば 、 珠美 は 必ず 気 が 付く はずだ 。 うらにわ||でる|どあ||あけば|たまみ||かならず|き||つく| いくら ウトウト して いて も 、 完全に 眠って いる わけで は ない のだ から ……。 |うとうと||||かんぜんに|ねむって||||||

裏庭 に は 、 色々 と 、 金田 や 敦子 の 歩き 回った 足跡 が ついて いる 。 うらにわ|||いろいろ||かなだ||あつこ||あるき|まわった|あしあと|||

しかし 、 石垣 母子 は 、 妙な 方角 から 歩いて 来て いた 。 |いしがき|ぼし||みょうな|ほうがく||あるいて|きて|

「 あっ ち へ 行ったら 、 崖 から 落ち そうじゃ ない ? |||おこなったら|がけ||おち|そう じゃ|

と 、 敦子 も 同じ 思い らしい 。 |あつこ||おなじ|おもい|

「 そう ね 。

── 何だか 変だ わ 。 なんだか|へんだ| それ に 、 今 、 綾子 姉ちゃん が 授業 して る はずな のに 」 ||いま|あやこ|ねえちゃん||じゅぎょう||||

「 こっち を 見て る ! ||みて|

敦子 が 頭 を あわてて 下げた 。 あつこ||あたま|||さげた

「 大丈夫 よ 。 だいじょうぶ|

外 が こんなに 明るい んだ もの 。 がい|||あかるい|| こっち は 見え やしない わ 」 ||みえ||

「 でも 、 あの 男の子 、 超 能力 が ある んでしょ ? ||おとこのこ|ちょう|のうりょく|||

「 そんな 力 が あれば 、 隠れた って むだ よ 」 |ちから|||かくれた|||

珠美 も 、 大して 度胸 は ない 方 だ が 、 理屈 っぽい ところ が ある ので 、 納得 できれば 、 それ で 割り切れる と いう もの な のである 。 たまみ||たいして|どきょう|||かた|||りくつ||||||なっとく||||わりきれる|||||

「── 入って 来た わ 」 はいって|きた|

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

石垣 母子 が 、 裏庭 へ の 出入 口 から 入って 来る 音 が した 。 いしがき|ぼし||うらにわ|||しゅつにゅう|くち||はいって|くる|おと||

うん 、 この 音 なら 、 もし 出て 行った と して も 気付か ない わけ は ない 。 ||おと|||でて|おこなった||||きづか||||

「 ソファ に 戻って よう 」 ||もどって|

と 、 珠美 は 敦子 を 促した 。 |たまみ||あつこ||うながした

「── 二 人 で 何 か して た こと に して ──」 ふた|じん||なん||||||

「 でも 、 何 を ? |なん|

敦子 は 、 噓 を つく こと の 苦手な 娘 である 。 あつこ|||||||にがてな|むすめ|

こんな とき 、 とっさに うまい 言い訳 が 出て 来 ない 。 ||||いいわけ||でて|らい|

「 そう ね 」

珠美 は 、 ちょっと 考えて 、「 ラブ シーン でも どう ? たまみ|||かんがえて|らぶ|しーん||

敦子 は 目 を 丸く した 。 あつこ||め||まるく|

「── あら 、 こちら だった の ?

石垣 園子 が 顔 を 出す 。 いしがき|そのこ||かお||だす

「 おやつ でも 、 と 思った の 。 |||おもった| クッキー を 焼いた から 、 ここ へ 持って 来る わ ね 」 くっきー||やいた||||もって|くる||

「 すみません 」

珠美 は 、 たとえ 相手 は 怪しくて も 、 決して くれる もの は 断ら ない 。 たまみ|||あいて||あやしくて||けっして||||ことわら| Elemia, even if he is doubtful, he will not refuse what he never gives.

「 私 、 お 手伝い し ましょう か 」 わたくし||てつだい|||

と 、 敦子 が 腰 を 浮か す と 、 |あつこ||こし||うか||

「 いい の いい の 」

と 、 石垣 園子 は 手 を 振って 、「 少し 動か ない と いけない の よ 、 私 も 。 |いしがき|そのこ||て||ふって|すこし|うごか||||||わたくし| Sonoko Ishigaki waved his hand and said, "I also have to move a bit.

こういう 時期 は 、 どうしても 、 運動 不足に なる から 」 |じき|||うんどう|ふそくに||

「 綾子 姉ちゃん は 、 ちゃんと やって ます か ? あやこ|ねえちゃん|||||

と 、 珠美 は 澄まして 訊 いた 。 |たまみ||すまして|じん|

「 家庭 教師 なんて 初めて だ から 、 あの 人 」 かてい|きょうし||はじめて||||じん

「 ええ 、 そりゃ もう 熱心に 」 |||ねっしんに

と 、 園子 は 肯 いて 、「 少し 休んだ 方 が いい 、 って 、 今 、 おやつ を 先 に 持って 行った ところ よ 」 |そのこ||こう||すこし|やすんだ|かた||||いま|||さき||もって|おこなった||

「 へえ 、 珍しい ! |めずらしい

うんと こき使って やって 下さい 」 |こきつかって||ください

どこ まで 本気で どこ から が 演技 な の か 、 自分 でも よく 分 ら ない と いう 所 が 、 珠美 に は ある 。 ||ほんきで||||えんぎ||||じぶん|||ぶん|||||しょ||たまみ|||

「── 珠美 ちゃん って 、 いい 度胸 ねえ 」 たまみ||||どきょう|

と 、 園子 が 出て 行って から 、 敦子 が 言った 。 |そのこ||でて|おこなって||あつこ||いった

「 人間 、 度胸 が なきゃ 、 お 金 も 手 に 入ら ない もん 」 にんげん|どきょう||||きむ||て||はいら||

珠美 は 、 アッサリ と 言った 。 たまみ||||いった

「 でも 、 ともかく 、 あの おばさん が 噓 を ついて る って こと が 分 った わけだ 」 ||||||||||||ぶん||

「 無気味 ね 。 ぶきみ|

── クッキー なんか 、 食べて も 大丈夫 かしら ? くっきー||たべて||だいじょうぶ| 「 大丈夫でしょ 」 だいじょうぶでしょ

「 どうして 分 る の ? |ぶん||

「 どうせ 、 がまん でき なくて 、 食べる に 決 って んだ もの 。 ||||たべる||けっ|||

大丈夫 と 思って なきゃ おいしく ない じゃ ない 」 だいじょうぶ||おもって||||| It is not delicious unless I think it's okay. "

正に 、 珠美 流 の 理屈 だった 。 まさに|たまみ|りゅう||りくつ|

五 分 ほど して 、 石垣 園子 が 、 クッキー を 器 へ 入れ 、 紅茶 と 一緒に 運んで 来た 。 いつ|ぶん|||いしがき|そのこ||くっきー||うつわ||いれ|こうちゃ||いっしょに|はこんで|きた About five minutes, Ishigaki Sonoko put the cookie in the vessel and brought it with the tea.

「 ここ へ 置き ます から ね 。 ||おき|||

── それ から 、 私 、 少し 昼寝 を さ せて いただく わ 。 ||わたくし|すこし|ひるね||||| でも 、 奥 の 方 の 部屋 に い ます から 、 何 か ご用 が あれば 、 遠慮 なく 起こして ちょうだい 」 |おく||かた||へや|||||なん||ごよう|||えんりょ||おこして| But since I am in the back room, if you have anything, please do not hesitate to call me up. "

園子 の 言葉 に 、 珠美 と 敦子 は チラッ と 目 を 見交わした 。 そのこ||ことば||たまみ||あつこ||||め||みかわした

「── 分 り ました 。 ぶん||

お邪魔 し ない ように し ます わ 」 おじゃま|||||| I will try not to disturb you. "

と 、 敦子 が 言う と 、 |あつこ||いう|

「 本当に やさしい お嬢さん ね 、 あなた は 」 ほんとうに||おじょうさん|||

と 、 園子 は 微笑んだ 。 |そのこ||ほおえんだ

私 は 優しい お嬢さん じゃ ない の か 。 わたくし||やさしい|おじょうさん||||

── フン 、 と 珠美 は 思った が 、 まあ 客観 的に 見る と 、 多分 に 小 にくらしい ガキ かも しれ ない 。 ふん||たまみ||おもった|||きゃっかん|てきに|みる||たぶん||しょう||がき|||

ま 、 いい や 。

今 は この クッキー 。 いま|||くっきー

園子 が サロン を 出て 行った とき 、 早くも 珠美 は 右手 で 紅茶 の カップ を 取り 上げ 、 左手 で は 、 二 つ 目 の クッキー を 取って いた 。 そのこ||さろん||でて|おこなった||はやくも|たまみ||みぎて||こうちゃ||かっぷ||とり|あげ|ひだりて|||ふた||め||くっきー||とって| When Sonoko went out of the salon, Ashimi picked up the cup of black tea with his right hand and as early as she was taking the second cookie with her left hand.

一 つ 目 は 、 口 の 中 に ある 。 ひと||め||くち||なか|| The first one is in the mouth.

「── チャンス だ ね 」 ちゃんす|| "── It's a chance,"

と 、 珠美 は 、 クッキー を 紅茶 で 流し 込む と 、 言った 。 |たまみ||くっきー||こうちゃ||ながし|こむ||いった

「 でも 、 あの おばさん 、 怪しい 奴 でも 、 料理 の 腕 は 一流 ! |||あやしい|やつ||りょうり||うで||いちりゅう 「 その 点 は 確か ね 」 |てん||たしか|

と 、 敦子 も 肯 いた 。 |あつこ||こう|

「── で 、 何の チャンス な の ? |なんの|ちゃんす|| 「 裏庭 を 調べて みよう よ 」 うらにわ||しらべて||

「 調べる って ? しらべる|

「 今 、 あの 二 人 が どこ から 来た の か 。 いま||ふた|じん||||きた||

もしかしたら 、 下 へ 出る 抜け道 で も ある の かも しれ ない じゃ ない 」 |した||でる|ぬけみち|||||||||

「 そう ねえ ……」

敦子 は ためらった 。 あつこ||

何といっても 夕 里子 や 珠美 と 違って 、 敦子 は そう 冒険 に 慣れて いる わけで は ない 。 なんといっても|ゆう|さとご||たまみ||ちがって|あつこ|||ぼうけん||なれて||||

「 じゃ 、 いい よ 。

敦子 さん 、 ここ に いて 。 あつこ|||| もし 、 私 が 生きて 帰ら なかったら ──」 |わたくし||いきて|かえら| If I did not return alive ─ ─ ─ "

「 珠美 ちゃん ! たまみ|

敦子 は 情 ない 顔 に なって 、「 いい わ 。 あつこ||じょう||かお||||

一緒に 行く わ よ 」 いっしょに|いく||

「 無理 し なくて も いい よ 」 むり|||||

「 一 人 で ここ に 残って る の も 、 いやだ もん 」 ひと|じん||||のこって|||||

「 じゃ 、 決 った ! |けっ|

その 前 に ──」 |ぜん|

珠美 は 、 ティッシュペーパー を 出す と 、 残った クッキー を 包み 出した 。 たまみ||||だす||のこった|くっきー||つつみ|だした

「 何 して ん の ? なん|||

「 持って く の 。 もって||

お 弁当 」 |べんとう

どうやら 、 ピクニック と 間違えて いる ようだった ……。 |ぴくにっく||まちがえて||