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三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 12 (1)

三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 12 (1)

12 汚れ なき 綾子

夕 里子 は 、 講堂 から 外 へ 出る のに 、 少し 手間取った 。

何といっても 、 自分 の 学校 じゃ ない のだ から 、 そう そう 勝手 が 分 る わけで は ない 。

重い 扉 を パッと 開けて 出る と 、 そこ から 地面 に 降りる 階段 が 三 段 くらい あって 、 前 に つんのめって しまった 。

「 あ 、 あ ……」

と 、 勢い が ついて そのまま 直進 。

そこ は 講堂 の 裏手 に 当る 所 で 、 枯草 が 腰 ぐらい まで も のびて いた 。

夕 里子 が その 中 へ 、 前 のめり に なって 駆け込んで 行く と 、 何 か に ドシン 、 と 突き当った 。

「 わっ! 「 キャッ !

と 、 同時に 声 が 出て ── 気 が 付いて みる と 、 夕 里子 は 、 国友 刑事 の 上 に 重なる ような 格好で 、 鼻 を 突き合せて いた のである 。

「 国友 さん !

「 君 か 。

── ああ びっくり した 」

「 こっち も よ !

二 人 は 、 やっと 起き上った 。

「── 痛かった ?

「 いや 、 凄い タックル だった よ 」

と 国友 は 頭 を 振った 。

「 何 を して たんだい ? アメリカン ・ フットボール の 練習 ? 「 違う わ よ !

と 、 夕 里子 は 憤然 と して 言った 。

「 お 姉さん を 殺そう と した 犯人 を 追いかけて ──」

「 何 だって ?

国友 は 声 を 上げた 。

「 残念 ながら 、 逃げ られた みたいだ わ 」

と 、 夕 里子 は 肩 で 息 を した 。

「 国友 さん 、 どうして ここ に ? 「 うん 、 実は さっき 大津 和子って 、 例の 一 年生 の 女の子 を 、 校 内 放送 で 呼び出した んだ 。 そ したら 、 学生 部 の 事務 室 へ 電話 が あって 、 ここ で 待って る から 、 来て くれ 、って いう んで ……」 「 でも 、 どうして 、 そんな 所 に 隠れて た の ? 「 隠れて た んじゃ ない 。

誰 か いる ように 思えた んで 、 調べて た 」

「 誰 か が ?

「 そう さ 。

ガサゴソ 動いた 気配 が ある んだ 」

「 でも 、 誰 も いない わ 」 「 今 の 騒ぎ の 間 に 逃げた んじゃ ない の か な 」 と 、 国友 は 息 を ついた 。

「 ところで 、 綾子 君 の 方 は ? 「 きっと 、 自分 が 命 を 狙わ れた こと も 、 分って ない んじゃ ない かしら 」 と 、 夕 里子 は ため息 を ついた 。 噂 を すれば 何と やら 、 で 、 当の 綾子 が 、 講堂 から 姿 を 見せた 。

「 夕 里子 。

あら 、 国友 さん も ? 「 ちょっと 出くわした だけ よ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 夕 里子 、 制服 が 埃 だらけ よ 。

クリーニング に 出さ ない と ……」

「 そんな こと どうでも いい けど さ 、 お 姉さん 、 分って ん の ? 殺さ れ かかった の よ 」

「── そう ?

夕 里子 は 、 ガクッ と 来た が 、 ま 、 予想 して いた ところ で は ある 。

「 人 の 姿 を 見た かい ?

と 、 国友 が 訊 いた 。

「 いいえ 。

── 足音 は した みたいです けど 」

「 足音 じゃ 、 顔 は 分 ら ない もの ね 」

「 そりゃ そう よ 」

と 、 綾子 は 真顔 で 、「 夕 里子 、 分 る の ?

夕 里子 は 相手 に し ない こと に した 。

国友 を 連れて 、 講堂 の 中 へ と 戻る 。

「── なるほど 」

国友 は 、 落ちて いる 鉄 アレイ を かがみ 込んで 見つめ ながら 、「 黒木 も 同じ ように やられた んだ 。

つまり ハンマー を 上 から 落として 」

「 命中 したら 、 イチコロ だ わ 」

国友 は 天井 を 眺めた 。

「 人 が 入れる ように なって る んだ な 。

── よし 、 この 鉄 アレイ の 指紋 を 採ろう 」

「 むだだ と 思う けど 」

「 犯人 が 、 いつも 油断 し ない と は 限ら ない んだ ぜ 」

と 、 国友 は 言った 。

綾子 が やって 来て 、 それ を 眺めて いた が 、

「 天井 で ボディビル でも やって た の かしら 、 ネズミ が 」

と 、 言って 上 を 見上げた 。

「 こんな 重い もの 持ち上げる ネズミ が いる と 思う ?

夕 里子 は 、 いささか くたびれた 声 で 言った 。

「 最近 は 栄養 が いい んじゃ ない の ?

「 それにしても 、 どうして 君 を 狙った んだろう ?

国友 は 顎 を 撫で ながら 言った 。

「 私 を 狙った んじゃ ない と 思う わ 」

と 、 綾子 は 言った 。

「 お 姉さん は そう 信じて りゃ いい の 」

「 だって ──」

綾子 の 抗議 は 、 国友 の 、

「 夕 里子 君 、 すまない が ──」

と いう 声 で 遮ら れた 。

夕 里子 は 、 頼ま れた 通り 、 学生 部 の 会議 室 に いる 鑑識 班 の 人間 を 呼び に 、 講堂 を 出て 行った 。

「 あ 、 そう だ 」

と 、 綾子 は 言った 。

「 遅い なあ 、 水口 さん たら 」

「 水口 恭子 を 待って る の かい ?

「 ええ 、 ここ に 来る ように 言わ れた んです 」

「 なるほど ……」

国友 は 意味 あり げ に 呟いた が 、 もちろん 綾子 が そんな こと に 気付く わけ も ない 。

その とき 、 講堂 へ 入って 来る 水口 恭子 の 姿 が 見えた 。

「 ごめんなさい 、 遅く なって !

と いう 声 は 、 いかにも 自然だった 。

「── あら 」

と 、 国友 を 見て 、 足 を 止める 。

「 ちょうど 良かった 」

と 、 国友 は 、 微笑み ながら 言った 。

「 話 を したい と 思って いた んだ よ 」 「── 梨 山 先生 と ? 水口 恭子 の 方 が 、 ずっと あっさり して いた 。

「 ええ 、 恋人 です 、 私 たち 」

と 、 即座に 認める 。

「 する と ──」

国友 が 言い かける と 、 傍 から 、 綾子 が 言った 。

「 二 人 の 場合 は 、『 恋人 同士 』 と いう べきだ と 思います 」 恭子 は 、 ちょっと 笑って 、 「 佐々 本 さん の 言う 通り ね 。

でも 、 私 と 先生 の 場合 は 、『 同士 』 を 省いて も いい と 思う けど 」

「 どういう 意味 だい ?

「 先生 は 私 を 恋人 の つもり で 考えて た でしょう けど 、 私 の 方 は 残念 ながら 、 ただ の 遊び の つもりでした もの 」

講堂 の 正面 の 入口 を 出た 、 幅 の 広い 階段 に 座って 、 三 人 は 話 を して いた 。

「── いい お 天気 」

と 、 綾子 が 青空 を 見上げて 言った 。

国友 は 、 ゆっくり と 首 を 振った 。

── つい さっき 、 危うく 命 を 落とし かけた と は 思え ない 。

全く ユニークな 子 だ 。

「 しかし ね ──」

と 、 国友 は 、 水口 恭子 の 方 へ 言った 。

「 あの 黒木 と いう マネージャー が 殺さ れた 日 、 君 は 、 梨 山 先生 の 奥さん と 会って た んじゃ ない か ね ? 「 私 が ?

恭子 は 、 ちょっと メガネ を 直して 、「 いいえ !

誰 が そんな こと を ? と 訊 き 返して 来た 。

「 でも 、 水口 さん 、 会議 室 で 泣いて らし た でしょう 」

と 、 綾子 が 言い出した ので 、 恭子 は 、 ちょっと 不意 を つかれた 様子 だった 。

「 泣いて ……?

「 ええ 。

私 、 目 に ゴミ で も 入った の か と 思った んです けど 、 よく 考える と 、 それ に して は 悲し そうに 見え ました わ 」

水口 恭子 は 、 何とも 言え ない 顔 で 、 綾子 を 見て いた 。

「 私 は 、 本当 は 男 嫌いな の よ 。

そんなに 本気に なったり し ない わ 」

と 、 目 を そらす 。

「 嫌いって こと は 、 好き だって こと です 。 好きで ないって の は 、 好きで ない こと です けど 」 何だか 自分 でも よく 分 ら ない こと を 言って 、 綾子 は 考え込んで しまった 。 ── 今 の 言い 方 で 良かった かしら ?

「 私 が 悲し そうだった なんて !

恭子 は 、 腹 を 立てた ように 言って 、 立ち上った 。

「 男 の ため に 悲しむ なんて ── そんな こと が ──」

「 違って いたら 、 すみません 」

と 、 綾子 は 言った 。

恭子 は 、 二 、 三 歩 前 に 出る と 、 足 を 止めた 。

── じっと 、 身 じ ろ ぎ も せ ず 、 立って いる 。

真 直ぐに 、 背筋 が 伸びて 、 気持 の いい 姿 だった 。

両手 を 後ろ に 組んだ 、 その 姿 は 、 女性 将校 と でも いった 印象 を 、 国友 に 与えた 。

すると ── 思いがけない こと が 起った 。

水口 恭子 が 、 メガネ を 外した のだ 。

そして 、 ゆっくり と 振り向いた 。

まるで 別人 の ようだ 。

目 は 優しく 、 そして どこ か 愁い を 帯びて いた 。

「── あなた が 謝る こと ない わ 」

と 、 恭子 は 綾子 に 言った 。

「 あなた の 言った 通り ね 。 私 が 男 嫌い だった の は 、 男 が こわかった から だ わ 。 恋人 は 、 高校 の ころ から いた けど 、 いつも 自分 で ブレーキ を かけて た の 。 これ は 、 ただ の 遊び だ 、って ね 」 「 する と 、 梨 山 先生 と は ? と 、 国友 が 穏やかに 言った 。

「 もちろん 遊び の つもりでした 。

それ に 、 実際 、 ずっと 遊び だった んです 。 私 たち の こと が 奥さん に 知れる まで は 」

恭子 は 、 階段 の 所 へ 戻って 、 また 腰 を おろした 。

「 それ は 、 いつごろ の こと ?

と 、 国友 は 訊 いた 。

「 この 一 ヵ 月 くらい でした 」

「 何 か きっかけ でも ?

「 さあ 」

と 、 恭子 は 首 を 振った 。

「 先生 は 何も 言わ ない から 」

「 奥さん に 知れて ── どう なった ?

「 あの 奥さん 、 あんなに 長い こと 先生 と 結婚 して た のに 、 まだ 飽きて なかった みたいな んです 」

恭子 は 、 ちょっと 笑って 、「 本当に 珍しい 人 だ わ 。

そう 思いません ? 「 僕 は 独身 なんで ね 」

と 国友 は 言った 。

「 そう です か 。

ともかく ── 奥さん が 突然 、 うち へ 訪ねて 来て 、 父 と 母 に 、 話 を した んです 。 お宅 の 娘 さん は 、 亭主 を 盗んだ 、って ……」 恭子 は 肩 を すくめて 、「 私 、 両親 に 散々 説教 さ れ ました 。 それ に 反 撥 して 、 家 を 出た んです 。 ── 本当 は 、 それ まで は 、 いつ だって 、 必要 なら 、 梨 山 先生 と 別れられる と 思って た のに 、 その とき から 、 急に のめり込んで しまった んです 」 「 競争 相手 が できた せい だ ね 」 「 そう かも しれません 。 つまらない プライド の せい かも 。 ── でも 、 素直に 先生 を 奥さん へ 返す 気 に は なれ なかった 」

「 あの 日 、 やっぱり 奥さん に 会った の かい ?

恭子 は 、 少し ためらって から 、

「 ええ 」

と 、 肯 いた 。

「 学生 部 の 会議 室 で 、 佐々 本 さん と 石原 さん を 待って たら 、 突然 、 奥さん が やって 来て ……。 どうして 私 が あそこ に いる の を 知って た の か 、 分 りません けど 」 「 それ で ? 「 夫 から 手 を 引き なさい 、 と ……。

前 の 晩 、 先生 と 会って た んです 。 それ を 知って た んでしょう 」

「 君 は 、 いやだ と 言った わけだ ね 」

「 ええ 。

そし たら ……」

「── そう したら ?

恭子 は 、 ちょっと 戸惑い 気味に 、

「 よく 分 ら ない んです けど 、 言った んです 。

『 あなた の 知ら ない 秘密 を 握って る んだ から ね 』って 」 「 秘密 ? 何の こと だい ? 「 それ が 分 ら ない んです 」

「 奥さん は 、 それ 以上 、 何も 言わ なかった の ?

「 訊 き 返す 間 も ありません でした 。 だって 、 凄い 勢い で 、 まくし立てる んです もの 」

「 それ から ?

「 パッと 帰って しまい ました 。

私 も ── さっき の 『 秘密 』 と いう の が 気 に なって 、 後 を 追いかけよう と した んです けど ……。 そろそろ 佐々 本 さん たち の 来る 時間 だった し 、 諦めた んです 」

恭子 は 、 また メガネ を かけた 。

「 窓 から 外 を 眺めて いる と 、 急に 胸 が 詰って ……。 私ら しく も ない んだ けど 、 つい 涙ぐんで しまった んです 。 そこ へ ──」

「 私 と 石原 茂子 さん が 行った わけです ね 」

と 綾子 は 言った 。

「 しかし 、 その 『 秘密 』 と いう の が 、 気 に かかる ね 」

国友 の 言葉 に 、 恭子 は 肩 を すくめて 、

「 私 と 梨 山 先生 の こと 以外 に 何 か ある か と 考えて みた んです が 、 一向に 思い当ら なくて ……」

「 ただ の 、 脅し じゃ なかった の か な 」

「 そう は 思えません 」 と 恭子 は 首 を 振った 。 「 あれ は 、 はっきり 、 何 か を つかんで いる 、 と いう 様子 でした 」

「 しかし 、 君 に は 心当り が ない 」

「 そうです 」

恭子 は 、 ちょっと 間 を 置いて 、「── 私 、 容疑 者 な んです か 」

と 訊 いた 。

「 ゆうべ は どこ に ?

恭子 は 、 少し 考えて 、

「 友だち の 所 です 。

でも 、 ずっと いた わけじゃ ないし 。 ── 出たり 入ったり して い ました から 、 アリバイ に は なりません 」 「 一応 、 聞いて おこう か 」 国友 は 、 手帳 を 開いた 。

── 恭子 は 、 国友 と の 話 が 終る と 、 綾子 の 方 へ 、

「 佐々 本 さん 、 あさって の こと 、 よろしく お 願い する わ ね 」

と 言った 。

「 はい 」

「 私 は 、 当日 、 神山 田 タカシ に 挨拶 する だけ しか でき ない の 。

他 に 色々 やら なきゃ いけない こと も ある し 」

「 ええ 、 大丈夫です 」

と 、 綾子 は 肯 いた 。

「 あなた の こと 、 見あやまって た わ 」

と 、 恭子 は 、 やっと 微笑んだ 。

「 きっと 、 頼りなくて 何も でき ない 人 か と 思って た 。 ごめんなさい ね 。 こんなに 、 何もかも 、 やりとげて しまう なんて ……。 あなた が い なかったら 、 文化 祭 も どうにも なら なかった わ 、 きっと 」

「 どうも 」

綾子 は 、 恐縮 して 頭 を 下げた 。

── 恭子 が 足早に 立ち去る と 、

「 不思議な 人 ね 」

と いう 声 が した 。

「 まあ 、 夕 里子 」

と 、 振り向いて 、「 立ち聞き して た の ?

「 捜査 の ため の 情報 収集 よ 」

「 同じじゃ ない の 」

「 全然 違う わ 。

── それ より 、 お 姉さん 、 講堂 の 中 で 呼んで る わ 」

「 誰 が ?

「 鑑識 の 人 」

「 どうして ?

「 何 か 訊 きたい こと が ある んですって 、 さっき の 鉄 アレイ の こと で 」 「 何かしら ? 「 私 、 鑑識 の 人 じゃ ない の 」

「 あら 、 そう だったっけ ? 綾子 は 、 珍しく 皮肉 らしき もの を 言って 、 立ち上る と 、 のんびり と 講堂 の 中 へ 入って 行った 。

残った 国友 のわき へ 、 夕 里子 も 腰 を おろした 。


三 姉妹 探偵 団 (2) Chapter 12 (1) みっ|しまい|たんてい|だん|chapter

12 汚れ なき 綾子 けがれ||あやこ

夕 里子 は 、 講堂 から 外 へ 出る のに 、 少し 手間取った 。 ゆう|さとご||こうどう||がい||でる||すこし|てまどった

何といっても 、 自分 の 学校 じゃ ない のだ から 、 そう そう 勝手 が 分 る わけで は ない 。 なんといっても|じぶん||がっこう|||||||かって||ぶん||||

重い 扉 を パッと 開けて 出る と 、 そこ から 地面 に 降りる 階段 が 三 段 くらい あって 、 前 に つんのめって しまった 。 おもい|とびら||ぱっと|あけて|でる||||じめん||おりる|かいだん||みっ|だん|||ぜん|||

「 あ 、 あ ……」

と 、 勢い が ついて そのまま 直進 。 |いきおい||||ちょくしん

そこ は 講堂 の 裏手 に 当る 所 で 、 枯草 が 腰 ぐらい まで も のびて いた 。 ||こうどう||うらて||あたる|しょ||こくさ||こし|||||

夕 里子 が その 中 へ 、 前 のめり に なって 駆け込んで 行く と 、 何 か に ドシン 、 と 突き当った 。 ゆう|さとご|||なか||ぜん||||かけこんで|いく||なん|||||つきあたった

「 わっ! わ っ 「 キャッ !

と 、 同時に 声 が 出て ── 気 が 付いて みる と 、 夕 里子 は 、 国友 刑事 の 上 に 重なる ような 格好で 、 鼻 を 突き合せて いた のである 。 |どうじに|こえ||でて|き||ついて|||ゆう|さとご||くにとも|けいじ||うえ||かさなる||かっこうで|はな||つきあわせて||

「 国友 さん ! くにとも|

「 君 か 。 きみ|

── ああ びっくり した 」

「 こっち も よ !

二 人 は 、 やっと 起き上った 。 ふた|じん|||おきあがった

「── 痛かった ? いたかった

「 いや 、 凄い タックル だった よ 」 |すごい|たっくる||

と 国友 は 頭 を 振った 。 |くにとも||あたま||ふった

「 何 を して たんだい ? なん||| アメリカン ・ フットボール の 練習 ? あめりかん|ふっとぼーる||れんしゅう 「 違う わ よ ! ちがう||

と 、 夕 里子 は 憤然 と して 言った 。 |ゆう|さとご||ふんぜん|||いった

「 お 姉さん を 殺そう と した 犯人 を 追いかけて ──」 |ねえさん||ころそう|||はんにん||おいかけて

「 何 だって ? なん|

国友 は 声 を 上げた 。 くにとも||こえ||あげた

「 残念 ながら 、 逃げ られた みたいだ わ 」 ざんねん||にげ|||

と 、 夕 里子 は 肩 で 息 を した 。 |ゆう|さとご||かた||いき||

「 国友 さん 、 どうして ここ に ? くにとも|||| 「 うん 、 実は さっき 大津 和子って 、 例の 一 年生 の 女の子 を 、 校 内 放送 で 呼び出した んだ 。 |じつは||おおつ|かずこ って|れいの|ひと|ねんせい||おんなのこ||こう|うち|ほうそう||よびだした| そ したら 、 学生 部 の 事務 室 へ 電話 が あって 、 ここ で 待って る から 、 来て くれ 、って いう んで ……」 「 でも 、 どうして 、 そんな 所 に 隠れて た の ? ||がくせい|ぶ||じむ|しつ||でんわ|||||まって|||きて||||||||しょ||かくれて|| 「 隠れて た んじゃ ない 。 かくれて|||

誰 か いる ように 思えた んで 、 調べて た 」 だれ||||おもえた||しらべて|

「 誰 か が ? だれ||

「 そう さ 。

ガサゴソ 動いた 気配 が ある んだ 」 |うごいた|けはい|||

「 でも 、 誰 も いない わ 」 「 今 の 騒ぎ の 間 に 逃げた んじゃ ない の か な 」 |だれ||||いま||さわぎ||あいだ||にげた||||| と 、 国友 は 息 を ついた 。 |くにとも||いき||

「 ところで 、 綾子 君 の 方 は ? |あやこ|きみ||かた| 「 きっと 、 自分 が 命 を 狙わ れた こと も 、 分って ない んじゃ ない かしら 」 と 、 夕 里子 は ため息 を ついた 。 |じぶん||いのち||ねらわ||||ぶん って||||||ゆう|さとご||ためいき|| 噂 を すれば 何と やら 、 で 、 当の 綾子 が 、 講堂 から 姿 を 見せた 。 うわさ|||なんと|||とうの|あやこ||こうどう||すがた||みせた

「 夕 里子 。 ゆう|さとご

あら 、 国友 さん も ? |くにとも|| 「 ちょっと 出くわした だけ よ 」 |でくわした||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 夕 里子 、 制服 が 埃 だらけ よ 。 ゆう|さとご|せいふく||ほこり||

クリーニング に 出さ ない と ……」 くりーにんぐ||ださ||

「 そんな こと どうでも いい けど さ 、 お 姉さん 、 分って ん の ? |||||||ねえさん|ぶん って|| 殺さ れ かかった の よ 」 ころさ||||

「── そう ?

夕 里子 は 、 ガクッ と 来た が 、 ま 、 予想 して いた ところ で は ある 。 ゆう|さとご||||きた|||よそう||||||

「 人 の 姿 を 見た かい ? じん||すがた||みた|

と 、 国友 が 訊 いた 。 |くにとも||じん|

「 いいえ 。

── 足音 は した みたいです けど 」 あしおと||||

「 足音 じゃ 、 顔 は 分 ら ない もの ね 」 あしおと||かお||ぶん||||

「 そりゃ そう よ 」

と 、 綾子 は 真顔 で 、「 夕 里子 、 分 る の ? |あやこ||まがお||ゆう|さとご|ぶん||

夕 里子 は 相手 に し ない こと に した 。 ゆう|さとご||あいて||||||

国友 を 連れて 、 講堂 の 中 へ と 戻る 。 くにとも||つれて|こうどう||なか|||もどる

「── なるほど 」

国友 は 、 落ちて いる 鉄 アレイ を かがみ 込んで 見つめ ながら 、「 黒木 も 同じ ように やられた んだ 。 くにとも||おちて||くろがね||||こんで|みつめ||くろき||おなじ|||

つまり ハンマー を 上 から 落として 」 |はんまー||うえ||おとして

「 命中 したら 、 イチコロ だ わ 」 めいちゅう||||

国友 は 天井 を 眺めた 。 くにとも||てんじょう||ながめた

「 人 が 入れる ように なって る んだ な 。 じん||いれる|||||

── よし 、 この 鉄 アレイ の 指紋 を 採ろう 」 ||くろがね|||しもん||とろう

「 むだだ と 思う けど 」 ||おもう|

「 犯人 が 、 いつも 油断 し ない と は 限ら ない んだ ぜ 」 はんにん|||ゆだん|||||かぎら|||

と 、 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

綾子 が やって 来て 、 それ を 眺めて いた が 、 あやこ|||きて|||ながめて||

「 天井 で ボディビル でも やって た の かしら 、 ネズミ が 」 てんじょう||||||||ねずみ|

と 、 言って 上 を 見上げた 。 |いって|うえ||みあげた

「 こんな 重い もの 持ち上げる ネズミ が いる と 思う ? |おもい||もちあげる|ねずみ||||おもう

夕 里子 は 、 いささか くたびれた 声 で 言った 。 ゆう|さとご||||こえ||いった

「 最近 は 栄養 が いい んじゃ ない の ? さいきん||えいよう|||||

「 それにしても 、 どうして 君 を 狙った んだろう ? ||きみ||ねらった|

国友 は 顎 を 撫で ながら 言った 。 くにとも||あご||なで||いった

「 私 を 狙った んじゃ ない と 思う わ 」 わたくし||ねらった||||おもう|

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 お 姉さん は そう 信じて りゃ いい の 」 |ねえさん|||しんじて|||

「 だって ──」

綾子 の 抗議 は 、 国友 の 、 あやこ||こうぎ||くにとも|

「 夕 里子 君 、 すまない が ──」 ゆう|さとご|きみ||

と いう 声 で 遮ら れた 。 ||こえ||さえぎら|

夕 里子 は 、 頼ま れた 通り 、 学生 部 の 会議 室 に いる 鑑識 班 の 人間 を 呼び に 、 講堂 を 出て 行った 。 ゆう|さとご||たのま||とおり|がくせい|ぶ||かいぎ|しつ|||かんしき|はん||にんげん||よび||こうどう||でて|おこなった

「 あ 、 そう だ 」

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 遅い なあ 、 水口 さん たら 」 おそい||みずぐち||

「 水口 恭子 を 待って る の かい ? みずぐち|きょうこ||まって|||

「 ええ 、 ここ に 来る ように 言わ れた んです 」 |||くる||いわ||

「 なるほど ……」

国友 は 意味 あり げ に 呟いた が 、 もちろん 綾子 が そんな こと に 気付く わけ も ない 。 くにとも||いみ||||つぶやいた|||あやこ|||||きづく|||

その とき 、 講堂 へ 入って 来る 水口 恭子 の 姿 が 見えた 。 ||こうどう||はいって|くる|みずぐち|きょうこ||すがた||みえた

「 ごめんなさい 、 遅く なって ! |おそく|

と いう 声 は 、 いかにも 自然だった 。 ||こえ|||しぜんだった

「── あら 」

と 、 国友 を 見て 、 足 を 止める 。 |くにとも||みて|あし||とどめる

「 ちょうど 良かった 」 |よかった

と 、 国友 は 、 微笑み ながら 言った 。 |くにとも||ほおえみ||いった

「 話 を したい と 思って いた んだ よ 」 「── 梨 山 先生 と ? はなし||し たい||おもって||||なし|やま|せんせい| 水口 恭子 の 方 が 、 ずっと あっさり して いた 。 みずぐち|きょうこ||かた|||||

「 ええ 、 恋人 です 、 私 たち 」 |こいびと||わたくし|

と 、 即座に 認める 。 |そくざに|みとめる

「 する と ──」

国友 が 言い かける と 、 傍 から 、 綾子 が 言った 。 くにとも||いい|||そば||あやこ||いった

「 二 人 の 場合 は 、『 恋人 同士 』 と いう べきだ と 思います 」 恭子 は 、 ちょっと 笑って 、 ふた|じん||ばあい||こいびと|どうし|||||おもい ます|きょうこ|||わらって 「 佐々 本 さん の 言う 通り ね 。 ささ|ほん|||いう|とおり|

でも 、 私 と 先生 の 場合 は 、『 同士 』 を 省いて も いい と 思う けど 」 |わたくし||せんせい||ばあい||どうし||はぶいて||||おもう|

「 どういう 意味 だい ? |いみ|

「 先生 は 私 を 恋人 の つもり で 考えて た でしょう けど 、 私 の 方 は 残念 ながら 、 ただ の 遊び の つもりでした もの 」 せんせい||わたくし||こいびと||||かんがえて||||わたくし||かた||ざんねん||||あそび|||

講堂 の 正面 の 入口 を 出た 、 幅 の 広い 階段 に 座って 、 三 人 は 話 を して いた 。 こうどう||しょうめん||いりぐち||でた|はば||ひろい|かいだん||すわって|みっ|じん||はなし|||

「── いい お 天気 」 ||てんき

と 、 綾子 が 青空 を 見上げて 言った 。 |あやこ||あおぞら||みあげて|いった

国友 は 、 ゆっくり と 首 を 振った 。 くにとも||||くび||ふった

── つい さっき 、 危うく 命 を 落とし かけた と は 思え ない 。 ||あやうく|いのち||おとし||||おもえ|

全く ユニークな 子 だ 。 まったく|ゆにーくな|こ|

「 しかし ね ──」

と 、 国友 は 、 水口 恭子 の 方 へ 言った 。 |くにとも||みずぐち|きょうこ||かた||いった

「 あの 黒木 と いう マネージャー が 殺さ れた 日 、 君 は 、 梨 山 先生 の 奥さん と 会って た んじゃ ない か ね ? |くろき|||まねーじゃー||ころさ||ひ|きみ||なし|やま|せんせい||おくさん||あって||||| 「 私 が ? わたくし|

恭子 は 、 ちょっと メガネ を 直して 、「 いいえ ! きょうこ|||めがね||なおして|

誰 が そんな こと を ? だれ|||| と 訊 き 返して 来た 。 |じん||かえして|きた

「 でも 、 水口 さん 、 会議 室 で 泣いて らし た でしょう 」 |みずぐち||かいぎ|しつ||ないて|||

と 、 綾子 が 言い出した ので 、 恭子 は 、 ちょっと 不意 を つかれた 様子 だった 。 |あやこ||いいだした||きょうこ|||ふい|||ようす|

「 泣いて ……? ないて

「 ええ 。

私 、 目 に ゴミ で も 入った の か と 思った んです けど 、 よく 考える と 、 それ に して は 悲し そうに 見え ました わ 」 わたくし|め||ごみ|||はいった||||おもった||||かんがえる||||||かなし|そう に|みえ||

水口 恭子 は 、 何とも 言え ない 顔 で 、 綾子 を 見て いた 。 みずぐち|きょうこ||なんとも|いえ||かお||あやこ||みて|

「 私 は 、 本当 は 男 嫌いな の よ 。 わたくし||ほんとう||おとこ|きらいな||

そんなに 本気に なったり し ない わ 」 |ほんきに||||

と 、 目 を そらす 。 |め||

「 嫌いって こと は 、 好き だって こと です 。 きらい って|||すき||| 好きで ないって の は 、 好きで ない こと です けど 」 何だか 自分 でも よく 分 ら ない こと を 言って 、 綾子 は 考え込んで しまった 。 すきで|ない って|||すきで|||||なんだか|じぶん|||ぶん|||||いって|あやこ||かんがえこんで| ── 今 の 言い 方 で 良かった かしら ? いま||いい|かた||よかった|

「 私 が 悲し そうだった なんて ! わたくし||かなし|そう だった|

恭子 は 、 腹 を 立てた ように 言って 、 立ち上った 。 きょうこ||はら||たてた||いって|たちのぼった

「 男 の ため に 悲しむ なんて ── そんな こと が ──」 おとこ||||かなしむ||||

「 違って いたら 、 すみません 」 ちがって||

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

恭子 は 、 二 、 三 歩 前 に 出る と 、 足 を 止めた 。 きょうこ||ふた|みっ|ふ|ぜん||でる||あし||とどめた

── じっと 、 身 じ ろ ぎ も せ ず 、 立って いる 。 |み|||||||たって|

真 直ぐに 、 背筋 が 伸びて 、 気持 の いい 姿 だった 。 まこと|すぐに|せすじ||のびて|きもち|||すがた|

両手 を 後ろ に 組んだ 、 その 姿 は 、 女性 将校 と でも いった 印象 を 、 国友 に 与えた 。 りょうて||うしろ||くんだ||すがた||じょせい|しょうこう||||いんしょう||くにとも||あたえた

すると ── 思いがけない こと が 起った 。 |おもいがけない|||おこった

水口 恭子 が 、 メガネ を 外した のだ 。 みずぐち|きょうこ||めがね||はずした|

そして 、 ゆっくり と 振り向いた 。 |||ふりむいた

まるで 別人 の ようだ 。 |べつじん||

目 は 優しく 、 そして どこ か 愁い を 帯びて いた 。 め||やさしく||||うれい||おびて|

「── あなた が 謝る こと ない わ 」 ||あやまる|||

と 、 恭子 は 綾子 に 言った 。 |きょうこ||あやこ||いった

「 あなた の 言った 通り ね 。 ||いった|とおり| 私 が 男 嫌い だった の は 、 男 が こわかった から だ わ 。 わたくし||おとこ|きらい||||おとこ||||| 恋人 は 、 高校 の ころ から いた けど 、 いつも 自分 で ブレーキ を かけて た の 。 こいびと||こうこう|||||||じぶん||ぶれーき|||| これ は 、 ただ の 遊び だ 、って ね 」 「 する と 、 梨 山 先生 と は ? ||||あそび||||||なし|やま|せんせい|| と 、 国友 が 穏やかに 言った 。 |くにとも||おだやかに|いった

「 もちろん 遊び の つもりでした 。 |あそび||

それ に 、 実際 、 ずっと 遊び だった んです 。 ||じっさい||あそび|| 私 たち の こと が 奥さん に 知れる まで は 」 わたくし|||||おくさん||しれる||

恭子 は 、 階段 の 所 へ 戻って 、 また 腰 を おろした 。 きょうこ||かいだん||しょ||もどって||こし||

「 それ は 、 いつごろ の こと ?

と 、 国友 は 訊 いた 。 |くにとも||じん|

「 この 一 ヵ 月 くらい でした 」 |ひと||つき||

「 何 か きっかけ でも ? なん|||

「 さあ 」

と 、 恭子 は 首 を 振った 。 |きょうこ||くび||ふった

「 先生 は 何も 言わ ない から 」 せんせい||なにも|いわ||

「 奥さん に 知れて ── どう なった ? おくさん||しれて||

「 あの 奥さん 、 あんなに 長い こと 先生 と 結婚 して た のに 、 まだ 飽きて なかった みたいな んです 」 |おくさん||ながい||せんせい||けっこん|||||あきて|||

恭子 は 、 ちょっと 笑って 、「 本当に 珍しい 人 だ わ 。 きょうこ|||わらって|ほんとうに|めずらしい|じん||

そう 思いません ? |おもい ませ ん 「 僕 は 独身 なんで ね 」 ぼく||どくしん||

と 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

「 そう です か 。

ともかく ── 奥さん が 突然 、 うち へ 訪ねて 来て 、 父 と 母 に 、 話 を した んです 。 |おくさん||とつぜん|||たずねて|きて|ちち||はは||はなし||| お宅 の 娘 さん は 、 亭主 を 盗んだ 、って ……」 恭子 は 肩 を すくめて 、「 私 、 両親 に 散々 説教 さ れ ました 。 おたく||むすめ|||ていしゅ||ぬすんだ||きょうこ||かた|||わたくし|りょうしん||さんざん|せっきょう||| それ に 反 撥 して 、 家 を 出た んです 。 ||はん|ばち||いえ||でた| ── 本当 は 、 それ まで は 、 いつ だって 、 必要 なら 、 梨 山 先生 と 別れられる と 思って た のに 、 その とき から 、 急に のめり込んで しまった んです 」 「 競争 相手 が できた せい だ ね 」 ほんとう|||||||ひつよう||なし|やま|せんせい||わかれ られる||おもって||||||きゅうに|のめりこんで|||きょうそう|あいて||||| 「 そう かも しれません 。 ||しれ ませ ん つまらない プライド の せい かも 。 |ぷらいど||| ── でも 、 素直に 先生 を 奥さん へ 返す 気 に は なれ なかった 」 |すなおに|せんせい||おくさん||かえす|き||||

「 あの 日 、 やっぱり 奥さん に 会った の かい ? |ひ||おくさん||あった||

恭子 は 、 少し ためらって から 、 きょうこ||すこし||

「 ええ 」

と 、 肯 いた 。 |こう|

「 学生 部 の 会議 室 で 、 佐々 本 さん と 石原 さん を 待って たら 、 突然 、 奥さん が やって 来て ……。 がくせい|ぶ||かいぎ|しつ||ささ|ほん|||いしはら|||まって||とつぜん|おくさん|||きて どうして 私 が あそこ に いる の を 知って た の か 、 分 りません けど 」 「 それ で ? |わたくし|||||||しって||||ぶん|り ませ ん||| 「 夫 から 手 を 引き なさい 、 と ……。 おっと||て||ひき||

前 の 晩 、 先生 と 会って た んです 。 ぜん||ばん|せんせい||あって|| それ を 知って た んでしょう 」 ||しって||

「 君 は 、 いやだ と 言った わけだ ね 」 きみ||||いった||

「 ええ 。

そし たら ……」

「── そう したら ?

恭子 は 、 ちょっと 戸惑い 気味に 、 きょうこ|||とまどい|ぎみに

「 よく 分 ら ない んです けど 、 言った んです 。 |ぶん|||||いった|

『 あなた の 知ら ない 秘密 を 握って る んだ から ね 』って 」 「 秘密 ? ||しら||ひみつ||にぎって||||||ひみつ 何の こと だい ? なんの|| 「 それ が 分 ら ない んです 」 ||ぶん|||

「 奥さん は 、 それ 以上 、 何も 言わ なかった の ? おくさん|||いじょう|なにも|いわ||

「 訊 き 返す 間 も ありません でした 。 じん||かえす|あいだ||あり ませ ん| だって 、 凄い 勢い で 、 まくし立てる んです もの 」 |すごい|いきおい||まくしたてる||

「 それ から ?

「 パッと 帰って しまい ました 。 ぱっと|かえって||

私 も ── さっき の 『 秘密 』 と いう の が 気 に なって 、 後 を 追いかけよう と した んです けど ……。 わたくし||||ひみつ|||||き|||あと||おいかけよう|||| そろそろ 佐々 本 さん たち の 来る 時間 だった し 、 諦めた んです 」 |ささ|ほん||||くる|じかん|||あきらめた|

恭子 は 、 また メガネ を かけた 。 きょうこ|||めがね||

「 窓 から 外 を 眺めて いる と 、 急に 胸 が 詰って ……。 まど||がい||ながめて|||きゅうに|むね||なじって 私ら しく も ない んだ けど 、 つい 涙ぐんで しまった んです 。 わたしら|||||||なみだぐんで|| そこ へ ──」

「 私 と 石原 茂子 さん が 行った わけです ね 」 わたくし||いしはら|しげこ|||おこなった||

と 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 しかし 、 その 『 秘密 』 と いう の が 、 気 に かかる ね 」 ||ひみつ|||||き|||

国友 の 言葉 に 、 恭子 は 肩 を すくめて 、 くにとも||ことば||きょうこ||かた||

「 私 と 梨 山 先生 の こと 以外 に 何 か ある か と 考えて みた んです が 、 一向に 思い当ら なくて ……」 わたくし||なし|やま|せんせい|||いがい||なん|||||かんがえて||||いっこうに|おもいあたら|

「 ただ の 、 脅し じゃ なかった の か な 」 ||おどし|||||

「 そう は 思えません 」 と 恭子 は 首 を 振った 。 ||おもえ ませ ん||きょうこ||くび||ふった 「 あれ は 、 はっきり 、 何 か を つかんで いる 、 と いう 様子 でした 」 |||なん|||||||ようす|

「 しかし 、 君 に は 心当り が ない 」 |きみ|||こころあたり||

「 そうです 」 そう です

恭子 は 、 ちょっと 間 を 置いて 、「── 私 、 容疑 者 な んです か 」 きょうこ|||あいだ||おいて|わたくし|ようぎ|もの|||

と 訊 いた 。 |じん|

「 ゆうべ は どこ に ?

恭子 は 、 少し 考えて 、 きょうこ||すこし|かんがえて

「 友だち の 所 です 。 ともだち||しょ|

でも 、 ずっと いた わけじゃ ないし 。 ── 出たり 入ったり して い ました から 、 アリバイ に は なりません 」 「 一応 、 聞いて おこう か 」 でたり|はいったり|||||ありばい|||なり ませ ん|いちおう|きいて|| 国友 は 、 手帳 を 開いた 。 くにとも||てちょう||あいた

── 恭子 は 、 国友 と の 話 が 終る と 、 綾子 の 方 へ 、 きょうこ||くにとも|||はなし||おわる||あやこ||かた|

「 佐々 本 さん 、 あさって の こと 、 よろしく お 願い する わ ね 」 ささ|ほん|||||||ねがい|||

と 言った 。 |いった

「 はい 」

「 私 は 、 当日 、 神山 田 タカシ に 挨拶 する だけ しか でき ない の 。 わたくし||とうじつ|かみやま|た|たかし||あいさつ||||||

他 に 色々 やら なきゃ いけない こと も ある し 」 た||いろいろ|||||||

「 ええ 、 大丈夫です 」 |だいじょうぶです

と 、 綾子 は 肯 いた 。 |あやこ||こう|

「 あなた の こと 、 見あやまって た わ 」 |||みあやまって||

と 、 恭子 は 、 やっと 微笑んだ 。 |きょうこ|||ほおえんだ

「 きっと 、 頼りなくて 何も でき ない 人 か と 思って た 。 |たよりなくて|なにも|||じん|||おもって| ごめんなさい ね 。 こんなに 、 何もかも 、 やりとげて しまう なんて ……。 |なにもかも||| あなた が い なかったら 、 文化 祭 も どうにも なら なかった わ 、 きっと 」 ||||ぶんか|さい||||||

「 どうも 」

綾子 は 、 恐縮 して 頭 を 下げた 。 あやこ||きょうしゅく||あたま||さげた

── 恭子 が 足早に 立ち去る と 、 きょうこ||あしばやに|たちさる|

「 不思議な 人 ね 」 ふしぎな|じん|

と いう 声 が した 。 ||こえ||

「 まあ 、 夕 里子 」 |ゆう|さとご

と 、 振り向いて 、「 立ち聞き して た の ? |ふりむいて|たちぎき|||

「 捜査 の ため の 情報 収集 よ 」 そうさ||||じょうほう|しゅうしゅう|

「 同じじゃ ない の 」 おなじじゃ||

「 全然 違う わ 。 ぜんぜん|ちがう|

── それ より 、 お 姉さん 、 講堂 の 中 で 呼んで る わ 」 |||ねえさん|こうどう||なか||よんで||

「 誰 が ? だれ|

「 鑑識 の 人 」 かんしき||じん

「 どうして ?

「 何 か 訊 きたい こと が ある んですって 、 さっき の 鉄 アレイ の こと で 」 「 何かしら ? なん||じん|||||んです って|||くろがね|||||なにかしら 「 私 、 鑑識 の 人 じゃ ない の 」 わたくし|かんしき||じん|||

「 あら 、 そう だったっけ ? ||だった っけ 綾子 は 、 珍しく 皮肉 らしき もの を 言って 、 立ち上る と 、 のんびり と 講堂 の 中 へ 入って 行った 。 あやこ||めずらしく|ひにく||||いって|たちのぼる||||こうどう||なか||はいって|おこなった

残った 国友 のわき へ 、 夕 里子 も 腰 を おろした 。 のこった|くにとも|||ゆう|さとご||こし||