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こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 022 - Kokoro - Soseki Project

Section 022 - Kokoro - Soseki Project

私 が 奥さん と 話して いる 間 に 、 問題 が 自然 先生 の 事 から そこ へ 落ちて 来た 。

「 先生 は なぜ ああ やって 、 宅 で 考えたり 勉強 したり なさる だけ で 、 世の中 へ 出て 仕事 を なさら ない んでしょう 」

「 あの 人 は 駄目です よ 。 そういう 事 が 嫌いな んです から 」

「 つまり 下らない 事 だ と 悟って いらっしゃる んでしょう か 」

「 悟る の 悟ら ない のって 、―― そりゃ 女 だ から わたくし に は 解りません けれど 、 おそらく そんな 意味 じゃ ない でしょう 。 やっぱり 何 か やりたい のでしょう 。 それでいて でき ない んです 。 だから 気の毒です わ 」

「 しかし 先生 は 健康 から いって 、 別に どこ も 悪い ところ は ない ようじゃ ありません か 」 「 丈夫です と も 。 何にも 持病 は ありません 」 「 それ で なぜ 活動 が でき ない んでしょう 」

「 それ が 解ら ない の よ 、 あなた 。 それ が 解る くらい なら 私 だって 、 こんなに 心配 しや しません 。 わから ない から 気の毒で たまら ない んです 」

奥さん の 語気 に は 非常に 同情 が あった 。 それ でも 口元 だけ に は 微笑 が 見えた 。 外側 から いえば 、 私 の 方 が むしろ 真面目だった 。 私 は むずかしい 顔 を して 黙って いた 。 すると 奥さん が 急に 思い出した ように また 口 を 開いた 。

「 若い 時 は あんな 人 じゃ なかった んです よ 。 若い 時 は まるで 違って いました 。 それ が 全く 変って しまった んです 」

「 若い 時って いつ 頃 です か 」 と 私 が 聞いた 。 「 書生 時代 よ 」

「 書生 時代 から 先生 を 知ってい らっしゃった んです か 」

奥さん は 急に 薄 赤い 顔 を した 。

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