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百物語 - Yōkai​ Stories, 麒麟(キリン)

麒麟 (キリン)

麒麟 ( キリン )

むかし 、 江戸 の 本郷 と いう 所 に 、 伊勢屋 吉兵衛 と いう 小間物 商人 が い ました 。 若い 頃 の 吉兵衛 は 重い 荷物 を かついで あちこち に 売り 歩く 行商 人 でした が 、 今では 立派な 店 を かまえて おり 、 それ も 息子 夫婦 に 任せて いる ので 、 とても 気楽な 隠居 生活 です 。 「・・・ ひまだ な 」 何も する 事 が ない 吉兵衛 は 、 物干し 台 に 布団 を しいて 昼寝 を 始め ました 。 「 ああ 、 良い 天気 だ 」 吉兵衛 が うとうと して いる と 、 何やら 東 の 空 から 飛んで 来る 物 が あり ます 。 「 はて ? 鳥 に して は 大き すぎる し 、 雲 に して は 動き が 変だ 」 吉兵衛 が 見て いる と 、 飛んで 来る 物 は 近づいて 来る に つれて 馬 の 様 に 見え ます 。 「 まさか 、 馬 が 空 を かける はず が 」 不思議に 思って 、 なおも よく 見て いる と 、 それ は 伝説 の 中 に 出て くる キリン ( 麒麟 → 馬 の 体 に 牛 の 尻尾 。 毛 は 金色 で 頭 に 鹿 の ような 角 が あり ます ) に そっくりだった のです 。 「 おい ! 誰 か 、 い ない か ! 」 吉兵衛 は 物干し 台 から 声 を かけ ました が 、 みんな 仕事 に 忙しい の か 返事 が あり ませ ん 。 キリン は 吉兵衛 の 頭 の 上 に 来た か と 思う と 、 ゆっくり と 空 を 回り 始め ました 。 やがて キリン は 、 「 ケーーン ! 」 と 、 鳥 の 様 な 鳴き声 を 残して 舞い上がる と 、 北西 の 空 に 向かって 一直線 に 駆け出し ました 。 その とたん に 空 が まっ 赤 に 夕 焼けて 、 キリン の 身体 が 黄金色 に 光 輝き ました 。 ( なんと 、 美しい ・・・) 吉兵衛 の 口 から 、 思わず ため息 が もれ ます 。 黄金色 に 光 輝く キリン は 、 もう 一 度 力強く 鳴く と 、 夕焼け の 中 へ と 姿 を 消し ました 。

やがて 我 に 返った 吉兵衛 は 家 の 外 に 飛び出す と 、 歩いて いる 人 たち に 言い ました 。 「 おい ! 今 、 キリン が 空 を 駆けて 行った だろう ! 」 「 キリン ? いいえ 」 「 あんた は 、 見た だろう ? 」 「・・・ さあ ? 」 「 なんだ 、 誰 も 見て い ない の か ! 」 吉兵衛 は 息子 の いる 店 へ 行って 、 さっき の 出来事 を 話し ました が 、 誰 も キリン に は 気づか なかった そうです 。 それどころか 息子 に 、 「 親父 は 、 夢 でも 見て いた んでしょう 」 と 、 笑われる 始末 です 。 しかし 吉兵衛 に は 、 どうしても 夢 と は 思え ませ ん 。 そこ で 近所 の 人 、 一人一人 に キリン の 事 を 尋ね 回って みる と 、 ただ 一 人 、 木 登り を して いた 子ども が 空 を 飛ぶ 馬 の 様 な 物 を 見た と 言った のです 。 「 やはり 、 わし が 見た の は キリン に 間違い ない 」 そして その 事 を 知り合い の 占い 師 に 話す と 、 占い 師 は こう 言い ました 。 「 それ は 、 おめでたい 。 キリン と は 、 心がけ の 良い 者 に しか 見え ない と 言わ れて い ます 。 おそらく 、 あなた と その 子ども だけ が 、 心がけ の 良い 人間 だった のでしょう 」 それ を 聞いた 吉兵衛 は 、 とても 喜んで 、 「 あれほど 素晴らしい 物 を 見 られ なかった と は 、 みんな 、 よほど 心がけ が 悪い のだ な 」 と 、 死ぬ まで 自慢 して いた そうです 。

おしまい

麒麟 (キリン) きりん| Giraffe Kirin Jirafa 麒麟(기린) Giraffe Girafa 麒麟 长颈鹿

麒麟 ( キリン ) きりん|

むかし 、 江戸 の 本郷 と いう 所 に 、 伊勢屋 吉兵衛 と いう 小間物 商人 が い ました 。 |えど||ほんごう|||しょ||いせや|きちべえ|||こまもの|しょうにん||| Es war einmal ein kleiner Warenhändler namens Iseya Kichibei an einem Ort namens Hongo in Edo. Once upon a time, there was a haberdashery merchant named Iseya Yoshibei in Hongo, Edo. 若い 頃 の 吉兵衛 は 重い 荷物 を かついで あちこち に 売り 歩く 行商 人 でした が 、 今では 立派な 店 を かまえて おり 、 それ も 息子 夫婦 に 任せて いる ので 、 とても 気楽な 隠居 生活 です 。 わかい|ころ||きちべえ||おもい|にもつ|||||うり|あるく|ぎょうしょう|じん|||いまでは|りっぱな|てん||||||むすこ|ふうふ||まかせて||||きらくな|いんきょ|せいかつ| Als er jung war, war Kichibei ein Hausierer, der schwere Waren zu verschiedenen Orten trug, aber jetzt hat er ein prächtiges Geschäft, und er hinterlässt es seinem Sohn und seiner Frau, so dass sein Ruhestand sehr angenehm ist. When he was young, Yoshibei was a peddler who carried heavy luggage and sold it all over the place, but now he has a good store, and he leaves it to his son and his wife, so it is a very easy retreat. 「・・・ ひまだ な 」   何も する 事 が ない 吉兵衛 は 、 物干し 台 に 布団 を しいて 昼寝 を 始め ました 。 ||なにも||こと|||きちべえ||ものほし|だい||ふとん|||ひるね||はじめ| "... Hidden" Yoshibei, who had nothing to do, put a futon on the clothesline and started taking a nap. 「 ああ 、 良い 天気 だ 」   吉兵衛 が うとうと して いる と 、 何やら 東 の 空 から 飛んで 来る 物 が あり ます 。 |よい|てんき||きちべえ||||||なにやら|ひがし||から||とんで|くる|ぶつ||| "Oh, it's nice weather." When Yoshibei was drowsy, there was something flying from the eastern sky. 「 はて ? "Hatte? 鳥 に して は 大き すぎる し 、 雲 に して は 動き が 変だ 」   吉兵衛 が 見て いる と 、 飛んで 来る 物 は 近づいて 来る に つれて 馬 の 様 に 見え ます 。 ちょう||||おおき|||くも||||うごき||へんだ|きちべえ||みて|||とんで|くる|ぶつ||ちかづいて|くる|||うま||さま||みえ| It's too big for a bird, and it's weird for a cloud. ”When Yoshibei was watching, the flying objects looked like horses as they approached. 「 まさか 、 馬 が 空 を かける はず が 」   不思議に 思って 、 なおも よく 見て いる と 、 それ は 伝説 の 中 に 出て くる キリン ( 麒麟 → 馬 の 体 に 牛 の 尻尾 。 |うま||から|||||ふしぎに|おもって|||みて|||||でんせつ||なか||でて|||きりん|うま||からだ||うし||しっぽ "No way, the horse should be flying in the sky." I was wondering, and when I was still looking closely, it was the giraffe (Kirin → the tail of the cow on the horse's body) that appeared in the legend. 毛 は 金色 で 頭 に 鹿 の ような 角 が あり ます ) に そっくりだった のです 。 け||きんいろ||あたま||しか|||かど|||||| The hair was golden and had deer-like horns on its head), just like it. 「 おい ! 誰 か 、 い ない か ! だれ|||| Someone or not! 」   吉兵衛 は 物干し 台 から 声 を かけ ました が 、 みんな 仕事 に 忙しい の か 返事 が あり ませ ん 。 きちべえ||ものほし|だい||こえ||||||しごと||いそがしい|||へんじ|||| '' Kichibei called out to him from the clothesline, but there was no answer, probably because everyone was busy with work. キリン は 吉兵衛 の 頭 の 上 に 来た か と 思う と 、 ゆっくり と 空 を 回り 始め ました 。 ||きちべえ||あたま||うえ||きた|||おもう||||から||まわり|はじめ| When I thought that the giraffe had come over Yoshibei's head, he slowly began to go around the sky. やがて キリン は 、 「 ケーーン ! |||ケー-ン 」 と 、 鳥 の 様 な 鳴き声 を 残して 舞い上がる と 、 北西 の 空 に 向かって 一直線 に 駆け出し ました 。 |ちょう||さま||なきごえ||のこして|まいあがる||ほくせい||から||むかって|いっちょくせん||かけだし| He soared, leaving a bird-like cry, and rushed straight toward the northwestern sky. その とたん に 空 が まっ 赤 に 夕 焼けて 、 キリン の 身体 が 黄金色 に 光 輝き ました 。 |||から|||あか||ゆう|やけて|||からだ||こがねいろ||ひかり|かがやき| Immediately after that, the sky turned bright red and the giraffe's body glowed golden. ( なんと 、 美しい ・・・)   吉兵衛 の 口 から 、 思わず ため息 が もれ ます 。 |うつくしい|きちべえ||くち||おもわず|ためいき||| (How beautiful...) Kichibei let out a sigh. 黄金色 に 光 輝く キリン は 、 もう 一 度 力強く 鳴く と 、 夕焼け の 中 へ と 姿 を 消し ました 。 こがねいろ||ひかり|かがやく||||ひと|たび|ちからづよく|なく||ゆうやけ||なか|||すがた||けし| The giraffe, shining in golden color, disappeared into the sunset when it screamed again.

やがて 我 に 返った 吉兵衛 は 家 の 外 に 飛び出す と 、 歩いて いる 人 たち に 言い ました 。 |われ||かえった|きちべえ||いえ||がい||とびだす||あるいて||じん|||いい| Eventually, Yoshibei, who returned to me, jumped out of the house, telling the walking people. 「 おい ! 今 、 キリン が 空 を 駆けて 行った だろう ! いま|||から||かけて|おこなった| 」 「 キリン ? いいえ 」 「 あんた は 、 見た だろう ? |||みた| No." "Did you see it? 」 「・・・ さあ ? 」 「 なんだ 、 誰 も 見て い ない の か ! |だれ||みて|||| "What, no one is watching!?" 」   吉兵衛 は 息子 の いる 店 へ 行って 、 さっき の 出来事 を 話し ました が 、 誰 も キリン に は 気づか なかった そうです 。 きちべえ||むすこ|||てん||おこなって|||できごと||はなし|||だれ|||||きづか||そう です Yoshibei went to the store where his son was and talked about what happened earlier, but no one noticed Kirin. それどころか 息子 に 、 「 親父 は 、 夢 でも 見て いた んでしょう 」 と 、 笑われる 始末 です 。 |むすこ||おやじ||ゆめ||みて||||えみわれる|しまつ| On the contrary, my son laughed at me, saying, "My father would have dreamed." しかし 吉兵衛 に は 、 どうしても 夢 と は 思え ませ ん 。 |きちべえ||||ゆめ|||おもえ|| However, for Yoshibei, it doesn't seem like a dream. そこ で 近所 の 人 、 一人一人 に キリン の 事 を 尋ね 回って みる と 、 ただ 一 人 、 木 登り を して いた 子ども が 空 を 飛ぶ 馬 の 様 な 物 を 見た と 言った のです 。 ||きんじょ||じん|ひとりひとり||||こと||たずね|まわって||||ひと|じん|き|のぼり||||こども||から||とぶ|うま||さま||ぶつ||みた||いった| When I asked each and every one of my neighbors about the giraffe, he said that only one child, who was climbing a tree, saw something like a horse flying in the sky. 「 やはり 、 わし が 見た の は キリン に 間違い ない 」   そして その 事 を 知り合い の 占い 師 に 話す と 、 占い 師 は こう 言い ました 。 |||みた|||||まちがい||||こと||しりあい||うらない|し||はなす||うらない|し|||いい| "After all, I must have seen a giraffe," and told a fortune-teller he knew about it, the fortune-teller said. 「 それ は 、 おめでたい 。 Congratulations. キリン と は 、 心がけ の 良い 者 に しか 見え ない と 言わ れて い ます 。 |||こころがけ||よい|もの|||みえ|||いわ||| It is said that a giraffe can only be seen by a well-minded person. おそらく 、 あなた と その 子ども だけ が 、 心がけ の 良い 人間 だった のでしょう 」   それ を 聞いた 吉兵衛 は 、 とても 喜んで 、 「 あれほど 素晴らしい 物 を 見 られ なかった と は 、 みんな 、 よほど 心がけ が 悪い のだ な 」 と 、 死ぬ まで 自慢 して いた そうです 。 ||||こども|||こころがけ||よい|にんげん|||||きいた|きちべえ|||よろこんで||すばらしい|ぶつ||み|||||||こころがけ||わるい||||しぬ||じまん|||そう です Perhaps you and your child were the only ones with good intentions. ”Yoshibei was very pleased to hear that, and said,“ I'm so bad at not seeing such a wonderful thing. He said he was proud of it until he died.

おしまい