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JIN-仁-, JIN-仁- #03

JIN - 仁 - #03

≪( 洪 庵 ) コロリ が 再び …

( 咲 ) 罪 も ない 子供 を 見殺し に せ ねば なら ぬ 道理 と は

いかなる もの に ございます か !?

( 仁 ) 神様 は な 乗り越え られる 試練 しか 与え ない んだ よ

( 龍 馬 ) 患者 を 触れ ん 医者 が どう いて コロリ を 治す がか ?

( 洪 庵 ) 南方 先生 山田 を お 願い し ます

はい

( 佐分利 ) なるほど 大事な ん は 患者 を 隔離 する っ ちゅうこ と と

消毒 なる もの を 徹底 する こと で んな

感染 を 広め ない こと が 一 番 です

≪( 佐分利 ) 沸騰 さ せた 水 1 升 に →

塩 2 匁 砂糖 10 匁 の 割合 で 加えた オーアールエス なる 液 を 飲ま せる

しかしながら コロリ の 患者 の 中 に は

すぐに 吐いて もどす 者 も また 多い で すな

細い 管 で 胃 に 直接 流し込む と いう 方法 も あり ます が

例えば どのような ?

あん の かな ?

あの ゴム 管 て あり ます か ?

あり ます ある んです か ゴム 管 !?

はい あった んだ この 時代 に

長崎 より 取り寄せ たる 物 が 医学 所 の 方 に

ちょっと 待って て ください

( 龍 馬 ) ある ある 何でも あるき !

銀 で こういう 針 は 作れ ます か ? 中 が 空洞 に なって る んです が

腕 の よい かんざし 職人 が おれば でき ぬ こと は ございませ ん

できる …

≪( 洪 庵 ) はい

( 佐分利 ) ゴム 管 を 使って 直接 胃 に 流し込む 方法 っ ちゅう の は ?

あと で 説明 し ます

緒方 先生 は い

ご 相談 が ある のです が はい

点滴 を する ため の 道具 を 作って いただけ ませ ん か

「 てんてき 」 と は ?

すいません

明かり を

それ 何で っか 何で 墨 なし で 書ける んで っか !?

( 洪 庵 ) 静かに し なさい 点滴 と は

患者 の 血管 に 空洞 の 針 を 刺し

失わ れた 水分 を 補給 する 方法 です

針 を 直接 血管 に …

そう する こと で 吐き気 の 強い 患者 も

難なく 水分 を 吸収 する こと が でき ます

ですが それ を 実現 する に は 専用 の 道具 が 必要な んです

やって みて は もらえ ませ ん か ?

コロリ の 患者 は この 道具 さえ あれば

助かる 確率 は 大幅に 上がる はずです

やって み ましょう

ありがとう ございます !

( 職人 ) 旦那 何 じゃ ?

どない した かえ ?

≪( 職人 ) 穴 が いっぱいに な っち まった

≪( 咲 ) 山田 先生 むちゃ で ございます

咲 さ ん 何 して る んです か ? 先生 が ご 説明 して る 間 看病 を …

( 山田 ) わし は 帰る

先生 が 歩けば 町 中 に コレラ 菌 を 振りまく こと に なる

キニイネ を 持って まいれ わし は ここ で

自分 で 治す !

( 便 が 出る )

お 気持ち は 分かり ます が

私 は 緒方 先生 から あなた を 治す ように 頼ま れ ました

緒方 先生 の ご 判断 を 信じて 治療 を 受けて は もらえ ませ ん か ?

水 を よこせ !

ありがとう ございます ≪( 山田 ) 飲んで 飲んで 死んで やる

こんな 物 効か ぬ と わし の 身をもって 証明 して やる

咲 さ ん 戻って ください 少し は お 母さん の 気持ち も …

母 に は 勘当 だ と 言わ れ ました

戻れ と 言わ れて も

戻る 所 も ございませ ぬ

それ に これ は

私 の 戦 な ので ございます

手ぬぐい で 口 と 髪 を 覆って ください

それ から 動き やすい ように 袖 も 縛って ください

はい

( 医師 A ) 焼酎 持ってき ました

≪( 八木 ) 今 ある 焼酎 は これ だけ か 酒屋 を 呼べ !

水 1 升 に 対し 塩 2 匁 砂糖 10 匁 や

間違え ん と いて くれよ

( 針 職人 ) これほど 見事に 作れ ます か どう か

何とぞ よろしく お 願い し ます

緒方 先生 頭 を 上げて ください →

できる だけ の こと は いたし ます

≪( 洪 庵 ) よろしく お 願い し ます

≪( 咲 ) 南方 先生 喜市 ちゃん が

脈 が 速い

よく ない な

何 を なさる ので ございます か !?

注射 で 直接 水分 を 体 内 に 送り ます 先生

あちら の 水 で お 願い し ます

こちら と あちら で は 違う のです か ?

こっち は 飲む 専用 の 物 あっ ち は 点滴 用 の 物 で

生理 的 食塩 水 と いい ます

( 喜市 ) う う ッ !

痛い か 喜市 ? へっちゃらだ よ

すま んな こんな 方法 しか でき なくて

≪( 龍 馬 ) 先生 !

先生 クソ を 取り に きた ぜ よ

龍 馬 さん 帰った んじゃ ?

クソ を 埋める 穴 が いっぱいに な っ ちゅう ち 聞いた き

皆 と 空き地 を 探して 掘 っち ょっ た ぜ よ

《 ホントに 吉原 に 連れて って くれ ん だ よ な ?》

《 わし より 早う 掘った 奴 は おごっちゃ る き →》

ただ 掘れ で は やる 気 が 出 ん が ぜ →

競争 に して みたら それはそれは 見事な 穴 が

出来上がった っ ちゅう わけじゃ

これ が

あの 龍 馬 か

けん ど その コロリ 菌 ちゅう の は

埋め ん と いかん ほど 強い が かえ ?

強い んです よ

先生 は 怖く ない が かえ ?

わしゃ うつる って 聞いて から は 内心 もう ヒヤヒヤ で

必死で 格好 つけ ちょ った ぜ よ

うつら ない ように 予防 して ます し それ に …

ああ 何 じゃ 先生 ?

私 は 医者 です から

ここ で 死んで も 本望 ちゅう が かえ

カー 格好 ええ のう

わし に は まだ 見 えんぜよ

真っ暗な 中 を 手探り で 歩 いち ょる ような 感じ じゃ

この ため なら 命 を かけて も いい と 思える

そんな 道 は まだ 見 えんぜよ

〈 格好 つけて いた の は 俺 の 方 だった 〉

〈 本当 は 別に ここ で 死んで も かまわ ない 〉

〈 自分 は 本当 は ここ に いる はず も ない 人間 だ から と 〉

〈 そう 言い そうに なった 〉

〈 数え られ ない ほど の 命 の たたか い を 目 に して 〉

〈 俺 は どこ まで ごう慢な んだろう な 〉

〈 でも 心 の どこ か で 声 が する 〉

見つかり ます よ 龍 馬 さん

〈 死んだら 戻れる んじゃ ない だろう か 〉

きっと

ほり ゃあ 予言 かえ ?

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ あん 世界 へ 》

〈 君 の もと に 戻れる んじゃ ない だろう か 〉

〈 未来 〉

≪( 洪 庵 ) 何とか 空洞 に は できた もん の

あのような 細 さ は 難しく 今 も 工夫 を 重ねて る しだい です

いや 十分 使える と 思い ます

ありがとう ございます

これ の 使い 方 を 教えて いただけ ませ ん か ?

このように ゴム の ひも を 心臓 に 近い 方 で 巻きつけ

患者 に 親指 を 中 に 入れて 手 を 握ら せ ます

これ が 静脈 と いい ます 静脈

脈 に は 動脈 と 静脈 が あって

脈 を 打って る の が 動脈 打って い ない の が 静脈 です

注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し

針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ

ゆっくり 静脈 に 刺し

血 が 流れ出す の を 確認 して から

この ゴム 管 を つなぎ

しっかり 固定 し ます

すると ここ に 入れた 生理 的 食塩 水 が この 管 を 通り

血管 に 入る と いう わけです

もう 大丈夫だ ぞ 喜市

今朝 また 両 国 橋 が 洗わ れた そうです

え ッ ? 確か 棺 が 100 個 通る ごと に

洗い 清め られる んです よ ね ?

もう 一刻 の 猶予 も 許さ れ ませ ん な

( 玄 朴 ) で は その 男 の 治療 法 を 医学 所 の もの と して

江戸 各所 で 治療 に あたる と ?

私 が 見た かぎり で は 山田 殿 の 容体 も きわめて 良好 →

かの 者 の 治療 法 は 有効である と 思わ れ ます

いや しかし え たい の 知れ ぬ 者 の 治療 を

医学 所 の もの と する の は … いえ …

( 良 順 ) 確実な 治療 法 が ない の も 事実 →

緒方 先生 が そこ まで 見込ま れて いる なら

いや しかし …

お 願い いたし ます

≪( 幕 閣 ) 勝 殿 の ご 意見 は 分かり 申した が 幕府 に は 財源 が …

( 勝 ) コロリ は 異国 より 持ち込ま れた もの →

それ にて 苦しむ 江戸 は まさに この 国 の 縮図

その コロリ を 見事 討伐 なされれば 朝廷 へ の 印象 も 芳しく →

攘夷 派 の 風向き も 必ずや 変わる こと と

上 様 の ご 威光 は いや ます ばかりで ございましょう

点滴 効いて る な

しかし 点滴 と は じれったい もの で ございます ね

一度に もっと たくさん 入れて は なら ぬ のです か ?

そんな こと したら 体 が びっくり し ます

緊急の 処置 で 大量に 入れる こと も あり ます が

このまま 液 を たくさん 流す のです か ?

いえ 別の 血管 から 打ち込み ます

大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が

この 股 の 付け根 に ある 動脈 の 少し 内側 に ある 静脈 で …

股 の 付け根 に ある 動脈 の

少し 内側 に ある 太い 静脈 で ございます ね

そう です よ ね すいません 無神経で

いえ あの

もう 一 度 教えて ください

はい

この 股 の 付け根 に 太い 動脈 が ある んです

で その 少し 内側 に ある 静脈 が …

やった 出た やった !

おし っこ 出たら もう 大丈夫な んだ よ ね ?

でも まだ 完全に 治った わけじゃ ない から な

コロリ が 体 から 全部 出る まで は

≪( 喜市 ) お っ 母さん !

おい ら 治った よ →

お っ 母さん が 作って くれた 水 で 治った から

あと どれ くらい で会える ? 4 日 か な

あと 4 日 で 会える から !

お っ 母さん !

≪( 喜市 ) 聞こえて る ?

その ガキ も わし も 薬 で 治った ので は ない

治る べく して 治った のだ

もちろん です よ

コロリ に 打ち勝った の は 山田 先生 と 喜市 の 生命 力 です

まあ まあ 予定 より は 少し 早く 治った が な

≪( 橘 ) 咲 南方 先生 !

兄 上

( 橘 ) 勝 先生 の お 骨折り で

お上 が コロリ 対策 の 援助 を する と 決まり ました !

医学 所 の 方 と 心 合わせて やる と いう こと で →

双方 で 相談 も 始めた そうです

では 針 や 器具 も 大量に 作れる のです か ?

もちろん です 職人 に 大 号令 を かける そうです

他 に も 石灰 や 高 濃度 の 焼酎

それ に 薬 と なる 水 も 援助 して くださる そうで

御家人 旗本 に も 同じく 下 知 が くだされ

私 も その ため の 指揮 に 携わる こと に なり ました

まっ こと …

まっ こと そな いな こと が

ありがとう ございます 恭 太郎 さん

最高の 知らせ です

ありがとう ございます

父上 ようやく コロリ の しっぽ を つかめ そうです

( 南方 が 吐く )

先生 が コロリ !?

先生 !→

ええ かい しっかり せんかい !

誰 か 医学 所 に 行って 別の 医師 を !

( 橘 ) はい ! 大丈夫です

医学 所 も 他の コロリ 患者 の 対応 で 手 いっぱいでしょう し

自分 で 何とか し ます から

しかし 恭 太郎 さん

物資 や 患者 の 運搬 便 や 吐 物 の 処理 の 仕方

感染 を 防ぐ ため の 指導

指揮 し なければ なら ない こと は 山ほど あり ます

龍 馬 さん おお

コロリ の 処理 の 方法 は もう ここ の 皆さん 分かって ます

まだ 知ら ない 人 達 に その 方法 を 教えて 回って ください

しっかり せ ん かえ

早く 行って ください !

行って なす べき こと を なさって ください

国 の ため 道 の ため に

早く !

おっしゃ !

ホエー !

咲 さ ん はい

この 診療 所 お 願い でき ます か ?

はい

( 商人 ) 奥様 大変で ございます !

皆様 に 排泄 した 水分 量 に 応じて オーアールエス を 飲んで いただき ました

私 に も それ を

何だか

いつも と あべこべだ

ホントに

≪( 橘 ) 咲

兄 上

ありがとう ございます

少し 休んだ 方 が よい ので は ない か ?

先生 に この 診療 所 を 守って くれ と 言わ れ ました ので

さ ような 様子 で は 診 られる 方 も 迷惑であろう

先生 を お 助け し たい のです

咲 が

お 助け し たい のです

分から ん 奴 だ な

誰 も やめろ と は 言って おら ぬ →

いったん 家 に 戻り 休め と 言って いる だけ だ

≪( 栄 ) 戻る 家 など ございませ ぬ

( 栄 ) 戦 の 途中 で 戻る 家 など !

そのような 覚悟 で 勝てる 戦 が どこ に ある と いう のです !

勝ち なさい

勝って

戻って き なさい

3 人 で

母上

( 栄 )「 このような 衣 が あれば 治療 も 行い やすき か と 」

母上

作って …

パクリ と ゆけ

( 吐いて いる )

南方 先生

( 咲 ) 回数 も 量 も 多い

先生 点滴 の 量 と 速 さ は どのように すれば よい でしょう か

量 は 便 の 量 の 1 割 か 2 割 を 足して ください

速 さ は 30 分 半 刻 の 半分 で 2 リットル

1 升 と 少し を 目安 に

先生 大丈夫です か 先生 !?

これ が コレラ か

すぐに 点滴 を 増やし ます から 頑張って ください 先生

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ 》

≪( 咲 ) 先生 ?

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ あん 世界 へ 》

先生 どう さ れた のです か !?

先生 先生 !

先生

先生 !

先生 !

今 何 か 聞こえ ん かった かえ ?

いや

タエ さん そんなに 急いで 何 ぞ ?

( タエ ) 南方 先生 が 危ない んです

正体 を なくさ れて

おい わし も

《 龍 馬 さん 行って なす べき こと を なさって ください 》

《 国 の ため 道 の ため に 》

石灰 じゃ 石灰 で コロリ 菌 を 殺す ん じゃき

殺す つもり が 殺さ れる ような バカ は

見る が じゃ ない ぜ よ !

≪( 職人 達 ) オー !

暗う なって きた ぜ よ

火 い を たく ぜ よ !

これ で 大丈夫です から ね

医学 所 は すぐ そこ です もう 少し の 辛抱 です

( 医師 B ) ここ で お 受け いたし ます

よし 次 は 神田 須田 町 だ

( C ) 病人 を そこ の 天幕 へ 運べ →

汚れ 物 は その 穴 へ 直接 入れる のじゃ

( D ) しっかり せい !

≪( E ) 病人 は こっち だ !

この ゴム 管 の 先 に 寒天 を つけ 病人 の 鼻 から 押し 入れて

1 尺 5 寸 ほど 飲ま せ ます ええ な ?

( 医師 達 ) はい 緒方 先生 緒方 先生 !

あの 南方 先生 が

どう なさ い ました !?

〈 何 だ これ は ?〉

〈 これ は 俺 の 勤めて いた 病院 か ?〉

〈 でも 何となく 少し 違う 気 が する 〉

〈 そう だ 未来 は 〉

〈 未来 は どう なって …〉

( 洪 庵 ) いかんな

危篤 です

≪( 洪 庵 ) この お方 は もしかしたら

コロリ から 江戸 の 町 を 救う ため に →

ここ に 来 られた の かも しれ ませ ん な

( 洪 庵 ) この 点滴 は 咲 殿 が ?

はい 大量に 体 に 入れれば 効果 が ある か と

《 別の 血管 から 打ち込み ます 》

《 大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が 》

股 の 付け根 に ある 太い 血管

何 を なさって おる んです か ?

股 の 付け根 に ある 太い 静脈 を 探して いる のです

そこ に 点滴 を 打てば 大量に 水 を 送り 込める そうです

太い 静脈 ? 動脈 の 少し 内側 に ある

それ ならば 恐らく ここ でしょう 私 が やり ましょう

いえ これ は 私 の 役目 です

《 注射 針 を 刺す 部位 を 》

注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し

《 針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ …》

針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ

ゆっくり 静脈 に 刺し

( 咲 ) 血 が 流れ出す の を 確認 して から →

ゴム 管 を つなげる

これ で 治る ので ございます よ ね ?

山田 先生 も 喜市 ちゃん も 皆 治った のです から

治る と 治る と 言って ください ませ 先生 !

未来 !

未来 !

何 やって る んだ こんな とこ で ?

( 未来 ) そこ か

え ッ ? いい よ 仁 先生

きっと また いつか 会える から

いい よ

未来

おい 未来 !

お 戻り ください 先生 !

戻って くる ぜ よ 先生

ここ に は 先生 を 待って いる 患者 が いる のです

先生 の 信念 が 江戸 を 動かした ぜ よ

これ を 見 ん で 死んで し も うて

どう する が ぜ よ !

お 戻り ください 先生 !

先生 !

雨 が …

お 帰り なさい ませ

先生

はい

ほうか 戻って きた かえ

夜 が 明ける ぜ よ

夜 が 明けた ぜ よ !

〈 こうして 俺 は 生還 し 〉

( 茜 ) コロリ に も 負け ない 黒 米 いなり 並んで 並んで

〈 それ から まもなく して 〉

〈 江戸 を 焼き 尽くす か に 思えた コロリ の 火 は 〉

〈 急速に その 勢い を なくして いった 〉

〈 隔離 と 予防 が 感染 を 弱めた ようだった 〉

〈 だが 点滴 に よる 治療 は 結局 手 が 回ら ず 〉

〈 多く の 命 を 救え なかった こと も 〉

〈 また 事実 だった 〉

喜市 !

お っ 母さん 先生 ん とこ 行って くる から

あの

ひと つ お 聞き し たい のです が

どうして あの とき 私 を 信じて くれた のです か ?

《 南方 先生 山田 を お 願い し ます 》

私 は 以前 種痘 を 広めよう と した こと が ございまして な

天然痘 の 種 を 少し だけ 植えて わざと 軽 めに 発病 さ せる

それ が 治療 法 に なる など はじめ の うち は

誰 に も 信じて もらえ ませ ん でした

思い出した んです わ

あん とき の 自分 を

( 洪 庵 ) 先生 に もう ひと つ お 願い が ございまして な

え ッ また 何 か 治す んです か ?

江戸 の 蘭 方 医 の 性根 を たたき直して ください

は ッ ?

昨日 の 話 お 受け に なれば よろしい のに

西洋 医学 所 で 講義 を する なんて すぐに は 決心 でき ませ ん よ

先生 て え へんだ !

タエ さん が ゆ ん べ 辻 斬り に

ちょっと ごめんなさい すいません

喜市 …

へっちゃらだ よ 先生

人 は 誰 でも 死ぬ もん だ し

けど

先生 に は 悪い けど

おい ら 助から なければ よかった よ

あちら で 待って おり ます ね

咲 さ ん

私 は

未来 から やってきた 人間 な んです

未来 ?

信じて もらえ ない かも しれ ませ ん が

私 は

自分 が 何 か を やる こと は

歴史 を 変えて しまう ので は ない か と 思って ました

だから コレラ の 治療 法 を 言い 出せ なかった

未来 を 変えて しまう の が 怖かった

だって それ は

未来 の 私 の 知って る 人間 の 運命 を 変えて しまう こと かも しれ ない

もしかしたら

生まれて 幸せに なる はずの 誰 か の 人生 を

奪って しまう こと かも しれ ない

神 を も 恐れ ぬ 行為 に 思えた んです

だけど

未来 を 変えて しまえる なんて

とんでもない 勘違い だった かも しれ ない

コレラ で 俺 が 助けた 人 達 は

俺 が 何も し なくて も 助かった の かも しれ ない

もしかしたら …

俺 さえ 来 なければ

コレラ に も かから なかった 人 な の かも しれ ない

馬 に けら れて 死んで しまう はずだった タエ さん は

代わり に 辻 斬り に 切ら れた だけ な の かも しれ ない

歴史 は

俺 の やった こと 全て 帳消し に する の かも しれ ない

決して 何も 変わら ない ように

だ と したら

だ と したら …

俺 …

何 やって んだろう

先生 は

私 の 運命 を 変え ました よ

先生 と 先生 の 医術 と お 会い して から

咲 は 何やら いろんな もの が

以前 より も 明るく 見え ます

脈打つ 心 の 音 を 感じ ます

咲 は

生きて おり ます よ

あちら で 待って おり ます

〈 未来 俺 は 決めた よ 〉

〈 歴史 は 思う 以上 に 強大で 〉

〈 だったら 俺 は 憶 する こと なく 向かって いく よ 〉

〈 しょせん 人間 は 精いっぱい 生きる こと しか でき ない のだ から 〉

〈 できる かぎり この 手 で 人 を 助けて いこう 〉

〈 そして 少し だけ でも 医学 の 針 を 進め られれば 〉

〈 俺 は 君 の 運命 を 変え られる かも しれ ない 〉

〈 可能 性 は ゼロ に 近い 〉

〈 でも きっと ゼロ じゃ ない 〉

〈 かすかな 蝶 の はばたき が 〉

〈 やがて 嵐 と なる こと も ある のだ から 〉

あの

まげ を 結う ひも か 何 か …

まあ 異国 に 勝つ ため に は まずは 寝る こと よ

奴 ら の 手練 手 管 を 盗んで のどもと を か っ 切る

かく なら 寝 首 っ ちゅう 寸法 さ

そんな もん ぶら下げて ちゃ あ くる わに あげて も もらえ ねえ よ

先生 の 話 に は 血 い が ある ぜ よ

肉 が ある ぜ よ

この 国 を 思う 誠 に 満ち あふれ ち ょる ぜ よ

どうか わし を 弟子 に しとう せ

かまわ ねえ けど よ お前 さん は 今 まで の 仲間 を

裏切る こと に なる だ ろ ?

わしゃ 今 まで 世の中 を 変える ため に は

誰 か の 仲間 に なら ん と いかん と 思う ちょ った

けん ど 何 か 違う ち ょる 気 いが して

仲間 に なりきれ ん かった

今 は

自分 の 信じる 道 を 歩き たい ぜ よ

それ が 誰 も 歩いて おら ん 道 でも

正しい 道 じゃ ったら

仲間 は あと から ついてくる ぜ よ

そう 教えて くれた 男 が おる き

〈 精いっぱい 生きて みよう 〉

〈 いつ の 日 か 再び 君 と 出会う その 日 まで 〉

〈 この 江戸 で 〉

( 野 風 ) ほれ 模様 が →

美しい 蝶 の ように →

きっと

吉 兆 であり ん すな


JIN - 仁 - #03 |しとし

≪( 洪 庵 ) コロリ が 再び … ひろし|いおり|||ふたたび

( 咲 ) 罪 も ない 子供 を 見殺し に せ ねば なら ぬ 道理 と は さ|ざい|||こども||みごろし||||||どうり||

いかなる もの に ございます か !?

( 仁 ) 神様 は な   乗り越え られる 試練 しか 与え ない んだ よ しとし|かみさま|||のりこえ||しれん||あたえ|||

( 龍 馬 ) 患者 を 触れ ん 医者 が どう いて コロリ を 治す がか ? りゅう|うま|かんじゃ||ふれ||いしゃ||||||なおす|

( 洪 庵 ) 南方 先生 山田 を お 願い し ます ひろし|いおり|なんぽう|せんせい|やまだ|||ねがい||

はい

( 佐分利 ) なるほど   大事な ん は 患者 を 隔離 する っ ちゅうこ と と さぶり||だいじな|||かんじゃ||かくり|||||

消毒 なる もの を 徹底 する こと で んな しょうどく||||てってい||||

感染 を 広め ない こと が 一 番 です かんせん||ひろめ||||ひと|ばん|

≪( 佐分利 ) 沸騰 さ せた 水 1 升 に → さぶり|ふっとう|||すい|しょう|

塩 2 匁   砂糖 10 匁 の 割合 で 加えた オーアールエス なる 液 を 飲ま せる しお|もんめ|さとう|もんめ||わりあい||くわえた|||えき||のま|

しかしながら コロリ の 患者 の 中 に は |||かんじゃ||なか||

すぐに 吐いて もどす 者 も また 多い で すな |はいて||もの|||おおい||

細い 管 で 胃 に 直接 流し込む と いう 方法 も あり ます が ほそい|かん||い||ちょくせつ|ながしこむ|||ほうほう||||

例えば   どのような ? たとえば|

あん の かな ?

あの   ゴム 管 て あり ます か ? |ごむ|かん||||

あり ます ある んです か   ゴム 管 !? |||ん です||ごむ|かん

はい あった んだ   この 時代 に ||||じだい|

長崎 より 取り寄せ たる 物 が 医学 所 の 方 に ながさき||とりよせ||ぶつ||いがく|しょ||かた|

ちょっと 待って て ください |まって||

( 龍 馬 ) ある ある   何でも あるき ! りゅう|うま|||なんでも|

銀 で   こういう 針 は 作れ ます か ? 中 が 空洞 に なって る んです が ぎん|||はり||つくれ|||なか||くうどう||||ん です|

腕 の よい かんざし 職人 が おれば でき ぬ こと は ございませ ん うで||||しょくにん||||||||

できる …

≪( 洪 庵 ) はい ひろし|いおり|

( 佐分利 ) ゴム 管 を 使って   直接 胃 に 流し込む 方法 っ ちゅう の は ? さぶり|ごむ|かん||つかって|ちょくせつ|い||ながしこむ|ほうほう||||

あと で 説明 し ます ||せつめい||

緒方 先生 は い おがた|せんせい||

ご 相談 が ある のです が はい |そうだん|||の です||

点滴 を する ため の 道具 を 作って いただけ ませ ん か てんてき|||||どうぐ||つくって||||

「 てんてき 」 と は ?

すいません

明かり を あかり|

それ   何で っか 何で 墨 なし で 書ける んで っか !? |なんで||なんで|すみ|||かける||

( 洪 庵 ) 静かに し なさい 点滴 と は ひろし|いおり|しずかに|||てんてき||

患者 の 血管 に 空洞 の 針 を 刺し かんじゃ||けっかん||くうどう||はり||さし

失わ れた 水分 を 補給 する 方法 です うしなわ||すいぶん||ほきゅう||ほうほう|

針 を   直接 血管 に … はり||ちょくせつ|けっかん|

そう する こと で 吐き気 の 強い 患者 も ||||はきけ||つよい|かんじゃ|

難なく 水分 を 吸収 する こと が でき ます なんなく|すいぶん||きゅうしゅう|||||

ですが   それ を 実現 する に は 専用 の 道具 が 必要な んです |||じつげん||||せんよう||どうぐ||ひつような|ん です

やって みて は もらえ ませ ん か ?

コロリ の 患者 は この 道具 さえ あれば ||かんじゃ|||どうぐ||

助かる 確率 は 大幅に 上がる はずです たすかる|かくりつ||おおはばに|あがる|はず です

やって み ましょう

ありがとう ございます !

( 職人 ) 旦那 何 じゃ ? しょくにん|だんな|なん|

どない した かえ ?

≪( 職人 ) 穴 が いっぱいに な っち まった しょくにん|あな|||||

≪( 咲 ) 山田 先生 むちゃ で ございます さ|やまだ|せんせい|||

咲 さ ん   何 して る んです か ? 先生 が ご 説明 して る 間   看病 を … さ|||なん|||ん です||せんせい|||せつめい|||あいだ|かんびょう|

( 山田 ) わし は 帰る やまだ|||かえる

先生 が 歩けば   町 中 に コレラ 菌 を 振りまく こと に なる せんせい||あるけば|まち|なか||これら|きん||ふりまく|||

キニイネ を 持って まいれ わし は   ここ で ||もって|||||

自分 で 治す ! じぶん||なおす

( 便 が 出る ) びん||でる

お 気持ち は 分かり ます が |きもち||わかり||

私 は   緒方 先生 から あなた を 治す ように 頼ま れ ました わたくし||おがた|せんせい||||なおす|よう に|たのま||

緒方 先生 の ご 判断 を 信じて 治療 を 受けて は もらえ ませ ん か ? おがた|せんせい|||はんだん||しんじて|ちりょう||うけて|||||

水 を よこせ ! すい||

ありがとう ございます ≪( 山田 ) 飲んで 飲んで 死んで やる ||やまだ|のんで|のんで|しんで|

こんな 物 効か ぬ と わし の 身をもって 証明 して やる |ぶつ|きか|||||みをもって|しょうめい||

咲 さ ん   戻って ください 少し は   お 母さん の 気持ち も … さ|||もどって||すこし|||かあさん||きもち|

母 に は 勘当 だ と 言わ れ ました はは|||かんどう|||いわ||

戻れ と 言わ れて も もどれ||いわ||

戻る 所 も ございませ ぬ もどる|しょ|||

それ に   これ は

私 の 戦 な ので ございます わたくし||いくさ|||

手ぬぐい で 口 と 髪 を 覆って ください てぬぐい||くち||かみ||おおって|

それ から 動き やすい ように 袖 も 縛って ください ||うごき||よう に|そで||しばって|

はい

( 医師 A ) 焼酎 持ってき ました いし||しょうちゅう|もってき|

≪( 八木 ) 今 ある 焼酎 は   これ だけ か 酒屋 を 呼べ ! やぎ|いま||しょうちゅう|||||さかや||よべ

水 1 升 に 対し   塩 2 匁   砂糖 10 匁 や すい|しょう||たいし|しお|もんめ|さとう|もんめ|

間違え ん と いて くれよ まちがえ||||

( 針 職人 ) これほど 見事に 作れ ます か どう か はり|しょくにん||みごとに|つくれ||||

何とぞ   よろしく お 願い し ます なにとぞ|||ねがい||

緒方 先生   頭 を 上げて ください → おがた|せんせい|あたま||あげて|

できる だけ の こと は   いたし ます

≪( 洪 庵 ) よろしく お 願い し ます ひろし|いおり|||ねがい||

≪( 咲 ) 南方 先生   喜市 ちゃん が さ|なんぽう|せんせい|きいち||

脈 が 速い みゃく||はやい

よく ない な

何 を なさる ので ございます か !? なん|||||

注射 で   直接 水分 を 体 内 に 送り ます 先生 ちゅうしゃ||ちょくせつ|すいぶん||からだ|うち||おくり||せんせい

あちら の 水 で お 願い し ます ||すい|||ねがい||

こちら と   あちら で は 違う のです か ? |||||ちがう|の です|

こっち は   飲む 専用 の 物 あっ ち は   点滴 用 の 物 で ||のむ|せんよう||ぶつ||||てんてき|よう||ぶつ|

生理 的 食塩 水 と いい ます せいり|てき|しょくえん|すい|||

( 喜市 ) う う ッ ! きいち|||

痛い か   喜市 ? へっちゃらだ よ いたい||きいち||

すま んな こんな 方法 しか でき なくて |||ほうほう|||

≪( 龍 馬 ) 先生 ! りゅう|うま|せんせい

先生   クソ を 取り に きた ぜ よ せんせい|くそ||とり||||

龍 馬 さん   帰った んじゃ ? りゅう|うま||かえった|

クソ を 埋める 穴 が いっぱいに な っ ちゅう ち 聞いた き くそ||うずめる|あな|||||||きいた|

皆 と 空き地 を 探して 掘 っち ょっ た ぜ よ みな||あきち||さがして|ほ|||||

《 ホントに 吉原 に 連れて って くれ ん だ よ な ?》 ほんとに|よしはら||つれて||||||

《 わし より 早う 掘った 奴 は おごっちゃ る き →》 ||はやう|ほった|やつ||||

ただ 掘れ で は   やる 気 が 出 ん が ぜ → |ほれ||||き||だ|||

競争 に して みたら それはそれは 見事な 穴 が きょうそう|||||みごとな|あな|

出来上がった っ ちゅう わけじゃ できあがった|||

これ が

あの 龍 馬 か |りゅう|うま|

けん ど   その コロリ 菌 ちゅう の は ||||きん|||

埋め ん と いかん ほど 強い が かえ ? うずめ|||||つよい||

強い んです よ つよい|ん です|

先生 は 怖く ない が かえ ? せんせい||こわく|||

わしゃ   うつる って 聞いて から は 内心   もう ヒヤヒヤ で |||きいて|||ないしん||ひやひや|

必死で 格好 つけ ちょ った ぜ よ ひっしで|かっこう|||||

うつら ない ように 予防 して ます し それ に … ||よう に|よぼう|||||

ああ   何 じゃ   先生 ? |なん||せんせい

私 は 医者 です から わたくし||いしゃ||

ここ で 死んで も 本望 ちゅう が かえ ||しんで||ほんもう|||

カー   格好 ええ のう かー|かっこう||

わし に は   まだ 見 えんぜよ ||||み|

真っ暗な 中 を   手探り で 歩 いち ょる ような 感じ じゃ まっくらな|なか||てさぐり||ふ||||かんじ|

この ため なら 命 を かけて も いい と 思える |||いのち||||||おもえる

そんな 道 は   まだ 見 えんぜよ |どう|||み|

〈 格好 つけて いた の は 俺 の 方 だった 〉 かっこう|||||おれ||かた|

〈 本当 は   別に ここ で 死んで も かまわ ない 〉 ほんとう||べつに|||しんで|||

〈 自分 は 本当 は   ここ に いる はず も ない 人間 だ から と 〉 じぶん||ほんとう||||||||にんげん|||

〈 そう 言い そうに なった 〉 |いい|そう に|

〈 数え られ ない ほど の 命 の たたか い を 目 に して 〉 かぞえ|||||いのち||たた か|||め||

〈 俺 は   どこ まで ごう慢な んだろう な 〉 おれ||||ごうまんな||

〈 でも   心 の どこ か で 声 が する 〉 |こころ|||||こえ||

見つかり ます よ   龍 馬 さん みつかり|||りゅう|うま|

〈 死んだら 戻れる んじゃ ない だろう か 〉 しんだら|もどれる||||

きっと

ほり ゃあ   予言 かえ ? ||よげん|

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ   あん 世界 へ 》 おとこ|もどる||||せかい|

〈 君 の もと に 戻れる んじゃ ない だろう か 〉 きみ||||もどれる||||

〈 未来 〉 みらい

≪( 洪 庵 ) 何とか 空洞 に は できた もん の ひろし|いおり|なんとか|くうどう|||||

あのような 細 さ は 難しく 今 も 工夫 を 重ねて る しだい です |ほそ|||むずかしく|いま||くふう||かさねて|||

いや   十分 使える と 思い ます |じゅうぶん|つかえる||おもい|

ありがとう ございます

これ の 使い 方 を 教えて いただけ ませ ん か ? ||つかい|かた||おしえて||||

このように   ゴム の ひも を 心臓 に 近い 方 で 巻きつけ このよう に|ごむ||||しんぞう||ちかい|かた||まきつけ

患者 に 親指 を 中 に 入れて 手 を 握ら せ ます かんじゃ||おやゆび||なか||いれて|て||にぎら||

これ が 静脈 と いい ます 静脈 ||じょうみゃく||||じょうみゃく

脈 に は   動脈 と 静脈 が あって みゃく|||どうみゃく||じょうみゃく||

脈 を 打って る の が 動脈 打って い ない の が 静脈 です みゃく||うって||||どうみゃく|うって|||||じょうみゃく|

注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し ちゅうしゃ|はり||さす|ぶい||つよい|しょうちゅう||しょうどく|

針 を 血管 に   なるべく 平行 に 寝かせ はり||けっかん|||へいこう||ねかせ

ゆっくり 静脈 に 刺し |じょうみゃく||さし

血 が 流れ出す の を 確認 して から ち||ながれだす|||かくにん||

この ゴム 管 を つなぎ |ごむ|かん||

しっかり 固定 し ます |こてい||

すると   ここ に 入れた 生理 的 食塩 水 が   この 管 を 通り |||いれた|せいり|てき|しょくえん|すい|||かん||とおり

血管 に 入る と いう わけです けっかん||はいる|||わけ です

もう 大丈夫だ ぞ   喜市 |だいじょうぶだ||きいち

今朝   また 両 国 橋 が 洗わ れた そうです けさ||りょう|くに|きょう||あらわ||そう です

え ッ ? 確か   棺 が 100 個 通る ごと に ||たしか|ひつぎ||こ|とおる||

洗い 清め られる んです よ ね ? あらい|きよめ||ん です||

もう 一刻 の 猶予 も 許さ れ ませ ん な |いっこく||ゆうよ||ゆるさ||||

( 玄 朴 ) で は   その 男 の 治療 法 を 医学 所 の もの と して げん|ぼく||||おとこ||ちりょう|ほう||いがく|しょ||||

江戸 各所 で 治療 に あたる と ? えど|かくしょ||ちりょう|||

私 が 見た かぎり で は 山田 殿 の 容体 も   きわめて 良好 → わたくし||みた||||やまだ|しんがり||ようだい|||りょうこう

かの 者 の 治療 法 は 有効である と 思わ れ ます か の|もの||ちりょう|ほう||ゆうこうである||おもわ||

いや   しかし え たい の 知れ ぬ 者 の 治療 を |||||しれ||もの||ちりょう|

医学 所 の もの と する の は … いえ … いがく|しょ|||||||

( 良 順 ) 確実な 治療 法 が ない の も 事実 → よ|じゅん|かくじつな|ちりょう|ほう|||||じじつ

緒方 先生 が そこ まで 見込ま れて いる なら おがた|せんせい||||みこま|||

いや   しかし …

お 願い いたし ます |ねがい||

≪( 幕 閣 ) 勝 殿 の ご 意見 は 分かり 申した が   幕府 に は 財源 が … まく|かく|か|しんがり|||いけん||わかり|もうした||ばくふ|||ざいげん|

( 勝 ) コロリ は 異国 より 持ち込ま れた もの → か|||いこく||もちこま||

それ にて 苦しむ 江戸 は まさに   この 国 の 縮図 ||くるしむ|えど||||くに||しゅくず

その コロリ を   見事 討伐 なされれば 朝廷 へ の 印象 も 芳しく → |||みごと|とうばつ||ちょうてい|||いんしょう||かんばしく

攘夷 派 の 風向き も 必ずや 変わる こと と じょうい|は||かざむき||かならずや|かわる||

上 様 の ご 威光 は いや ます ばかりで ございましょう うえ|さま|||いこう|||||

点滴   効いて る な てんてき|きいて||

しかし 点滴 と は じれったい もの で ございます ね |てんてき|||||||

一度に   もっと たくさん 入れて は なら ぬ のです か ? いちどに|||いれて||||の です|

そんな こと したら 体 が   びっくり し ます |||からだ||||

緊急の 処置 で 大量に 入れる こと も あり ます が きんきゅうの|しょち||たいりょうに|いれる|||||

このまま 液 を たくさん 流す のです か ? |えき|||ながす|の です|

いえ   別の 血管 から 打ち込み ます |べつの|けっかん||うちこみ|

大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が だい|もも|じょうみゃく|||ふとい|じょうみゃく||また||つけね|||ん です|

この 股 の 付け根 に ある 動脈 の 少し 内側 に ある 静脈 で … |また||つけね|||どうみゃく||すこし|うちがわ|||じょうみゃく|

股 の 付け根 に ある 動脈 の また||つけね|||どうみゃく|

少し 内側 に ある 太い 静脈 で ございます ね すこし|うちがわ|||ふとい|じょうみゃく|||

そう です よ ね すいません   無神経で |||||むしんけいで

いえ   あの

もう 一 度   教えて ください |ひと|たび|おしえて|

はい

この   股 の 付け根 に 太い 動脈 が ある んです |また||つけね||ふとい|どうみゃく|||ん です

で   その 少し 内側 に ある 静脈 が … ||すこし|うちがわ|||じょうみゃく|

やった   出た   やった ! |でた|

おし っこ 出たら もう 大丈夫な んだ よ ね ? ||でたら||だいじょうぶな|||

でも   まだ 完全に 治った わけじゃ ない から な ||かんぜんに|なおった||||

コロリ が   体 から 全部 出る まで は ||からだ||ぜんぶ|でる||

≪( 喜市 ) お っ 母さん ! きいち|||かあさん

おい ら   治った よ → ||なおった|

お っ 母さん が 作って くれた 水 で 治った から ||かあさん||つくって||すい||なおった|

あと どれ くらい で会える ? 4 日 か な |||であえる|ひ||

あと 4 日 で 会える から ! |ひ||あえる|

お っ 母さん ! ||かあさん

≪( 喜市 ) 聞こえて る ? きいち|きこえて|

その ガキ も   わし も 薬 で 治った ので は ない |がき||||くすり||なおった|||

治る べく して 治った のだ なおる|||なおった|

もちろん です よ

コロリ に 打ち勝った の は 山田 先生 と 喜市 の 生命 力 です ||うちかった|||やまだ|せんせい||きいち||せいめい|ちから|

まあ   まあ   予定 より は 少し 早く 治った が な ||よてい|||すこし|はやく|なおった||

≪( 橘 ) 咲   南方 先生 ! たちばな|さ|なんぽう|せんせい

兄 上 あに|うえ

( 橘 ) 勝 先生 の お 骨折り で たちばな|か|せんせい|||ほねおり|

お上 が   コロリ 対策 の 援助 を する と 決まり ました ! おかみ|||たいさく||えんじょ||||きまり|

医学 所 の 方 と 心 合わせて やる と いう こと で → いがく|しょ||かた||こころ|あわせて|||||

双方 で 相談 も 始めた そうです そうほう||そうだん||はじめた|そう です

では   針 や 器具 も 大量に 作れる のです か ? |はり||きぐ||たいりょうに|つくれる|の です|

もちろん です 職人 に 大 号令 を かける そうです ||しょくにん||だい|ごうれい|||そう です

他 に も   石灰 や 高 濃度 の 焼酎 た|||せっかい||たか|のうど||しょうちゅう

それ に 薬 と なる 水 も 援助 して くださる そうで ||くすり|||すい||えんじょ|||そう で

御家人   旗本 に も 同じく 下 知 が くだされ ごけにん|はたもと|||おなじく|した|ち||

私 も   その ため の 指揮 に 携わる こと に なり ました わたくし|||||しき||たずさわる||||

まっ こと …

まっ こと   そな いな こと が

ありがとう ございます 恭 太郎 さん ||きよう|たろう|

最高の 知らせ です さいこうの|しらせ|

ありがとう ございます

父上   ようやく コロリ の しっぽ を つかめ そうです ちちうえ|||||||そう です

( 南方 が 吐く ) なんぽう||はく

先生 が   コロリ !? せんせい||

先生 !→ せんせい

ええ かい   しっかり せんかい !

誰 か   医学 所 に 行って 別の 医師 を ! だれ||いがく|しょ||おこなって|べつの|いし|

( 橘 ) はい ! 大丈夫です たちばな||だいじょうぶ です

医学 所 も   他の コロリ 患者 の 対応 で 手 いっぱいでしょう し いがく|しょ||たの||かんじゃ||たいおう||て||

自分 で 何とか し ます から じぶん||なんとか|||

しかし 恭 太郎 さん |きよう|たろう|

物資 や   患者 の 運搬 便 や 吐 物 の 処理 の 仕方 ぶっし||かんじゃ||うんぱん|びん||は|ぶつ||しょり||しかた

感染 を 防ぐ ため の 指導 かんせん||ふせぐ|||しどう

指揮 し なければ なら ない こと は 山ほど あり ます しき|||||||やまほど||

龍 馬 さん おお りゅう|うま||

コロリ の 処理 の 方法 は もう   ここ の 皆さん 分かって ます ||しょり||ほうほう|||||みなさん|わかって|

まだ 知ら ない 人 達 に その 方法 を 教えて 回って ください |しら||じん|さとる|||ほうほう||おしえて|まわって|

しっかり せ ん かえ

早く 行って ください ! はやく|おこなって|

行って   なす べき こと を なさって ください おこなって||||||

国 の ため   道 の ため に くに|||どう|||

早く ! はやく

おっしゃ !

ホエー !

咲 さ ん はい さ|||

この 診療 所   お 願い でき ます か ? |しんりょう|しょ||ねがい|||

はい

( 商人 ) 奥様   大変で ございます ! しょうにん|おくさま|たいへんで|

皆様 に 排泄 した 水分 量 に 応じて オーアールエス を 飲んで いただき ました みなさま||はいせつ||すいぶん|りょう||おうじて|||のんで||

私 に も   それ を わたくし||||

何だか なんだか

いつも と   あべこべだ

ホントに ほんとに

≪( 橘 ) 咲 たちばな|さ

兄 上 あに|うえ

ありがとう ございます

少し 休んだ 方 が よい ので は ない か ? すこし|やすんだ|かた||||||

先生 に   この 診療 所 を 守って くれ と 言わ れ ました ので せんせい|||しんりょう|しょ||まもって|||いわ|||

さ ような 様子 で は 診 られる 方 も 迷惑であろう ||ようす|||み||かた||めいわくであろう

先生 を   お 助け し たい のです せんせい|||たすけ|||の です

咲 が さ|

お 助け し たい のです |たすけ|||の です

分から ん 奴 だ な わから||やつ||

誰 も やめろ と は 言って おら ぬ → だれ|||||いって||

いったん 家 に 戻り 休め と 言って いる だけ だ |いえ||もどり|やすめ||いって|||

≪( 栄 ) 戻る 家 など ございませ ぬ さかい|もどる|いえ|||

( 栄 ) 戦 の 途中 で 戻る 家 など ! さかい|いくさ||とちゅう||もどる|いえ|

そのような 覚悟 で   勝てる 戦 が どこ に ある と いう のです ! |かくご||かてる|いくさ|||||||の です

勝ち なさい かち|

勝って かって

戻って き なさい もどって||

3 人 で じん|

母上 ははうえ

( 栄 )「 このような 衣 が あれば 治療 も 行い やすき か と 」 さかい||ころも|||ちりょう||おこない|||

母上 ははうえ

作って … つくって

パクリ と ゆけ

( 吐いて いる ) はいて|

南方 先生 なんぽう|せんせい

( 咲 ) 回数 も 量 も 多い さ|かいすう||りょう||おおい

先生   点滴 の 量 と 速 さ は どのように すれば よい でしょう か せんせい|てんてき||りょう||はや|||どのよう に||||

量 は   便 の 量 の 1 割 か 2 割 を 足して ください りょう||びん||りょう||わり||わり||たして|

速 さ は  30 分 半 刻 の 半分 で 2 リットル はや|||ぶん|はん|きざ||はんぶん||

1 升 と 少し を 目安 に しょう||すこし||めやす|

先生   大丈夫です か   先生 !? せんせい|だいじょうぶ です||せんせい

これ が   コレラ か ||これら|

すぐに 点滴 を 増やし ます から 頑張って ください   先生 |てんてき||ふやし|||がんばって||せんせい

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ 》 おとこ|もどる||

≪( 咲 ) 先生 ? さ|せんせい

《≪( 男 ) 戻る ぜ よ   あん 世界 へ 》 おとこ|もどる||||せかい|

先生   どう さ れた のです か !? せんせい||||の です|

先生   先生 ! せんせい|せんせい

先生 せんせい

先生 ! せんせい

先生 ! せんせい

今   何 か 聞こえ ん かった かえ ? いま|なん||きこえ|||

いや

タエ さん   そんなに 急いで   何 ぞ ? たえ|||いそいで|なん|

( タエ ) 南方 先生 が 危ない んです たえ|なんぽう|せんせい||あぶない|ん です

正体 を なくさ れて しょうたい||なく さ|

おい   わし も

《 龍 馬 さん   行って なす べき こと を なさって ください 》 りゅう|うま||おこなって||||||

《 国 の ため   道 の ため に 》 くに|||どう|||

石灰 じゃ   石灰 で コロリ 菌 を 殺す ん じゃき せっかい||せっかい|||きん||ころす||

殺す つもり が 殺さ れる ような バカ は ころす|||ころさ|||ばか|

見る が じゃ ない ぜ よ ! みる|||||

≪( 職人 達 ) オー ! しょくにん|さとる|おー

暗う なって きた ぜ よ くらう||||

火 い を たく ぜ よ ! ひ|||||

これ で 大丈夫です から ね ||だいじょうぶ です||

医学 所 は   すぐ そこ です もう 少し の 辛抱 です いがく|しょ||||||すこし||しんぼう|

( 医師 B ) ここ で お 受け いたし ます いし|||||うけ||

よし   次 は 神田 須田 町 だ |つぎ||しんでん|すだ|まち|

( C ) 病人 を   そこ の 天幕 へ 運べ → |びょうにん||||てんまく||はこべ

汚れ 物 は   その 穴 へ 直接 入れる のじゃ けがれ|ぶつ|||あな||ちょくせつ|いれる|

( D ) しっかり せい !

≪( E ) 病人 は   こっち だ ! |びょうにん|||

この ゴム 管 の 先 に 寒天 を つけ 病人 の 鼻 から 押し 入れて |ごむ|かん||さき||かんてん|||びょうにん||はな||おし|いれて

1 尺 5 寸 ほど 飲ま せ ます ええ な ? しゃく|すん||のま||||

( 医師 達 ) はい 緒方 先生   緒方 先生 ! いし|さとる||おがた|せんせい|おがた|せんせい

あの   南方 先生 が |なんぽう|せんせい|

どう なさ い ました !? |な さ||

〈 何 だ   これ は ?〉 なん|||

〈 これ は   俺 の 勤めて いた 病院 か ?〉 ||おれ||つとめて||びょういん|

〈 でも 何となく   少し 違う 気 が する 〉 |なんとなく|すこし|ちがう|き||

〈 そう だ   未来 は 〉 ||みらい|

〈 未来 は   どう なって …〉 みらい|||

( 洪 庵 ) いかんな ひろし|いおり|

危篤 です きとく|

≪( 洪 庵 ) この お方 は   もしかしたら ひろし|いおり||おかた||

コロリ から 江戸 の 町 を 救う ため に → ||えど||まち||すくう||

ここ に 来 られた の かも しれ ませ ん な ||らい|||||||

( 洪 庵 ) この 点滴 は   咲 殿 が ? ひろし|いおり||てんてき||さ|しんがり|

はい   大量に 体 に 入れれば 効果 が ある か と |たいりょうに|からだ||いれれば|こうか||||

《 別の 血管 から 打ち込み ます 》 べつの|けっかん||うちこみ|

《 大 腿 静脈 と いう 太い 静脈 が 股 の 付け根 に ある んです が 》 だい|もも|じょうみゃく|||ふとい|じょうみゃく||また||つけね|||ん です|

股 の 付け根 に ある   太い 血管 また||つけね|||ふとい|けっかん

何 を なさって おる んです か ? なん||||ん です|

股 の 付け根 に ある 太い 静脈 を 探して いる のです また||つけね|||ふとい|じょうみゃく||さがして||の です

そこ に 点滴 を 打てば 大量に 水 を 送り 込める そうです ||てんてき||うてば|たいりょうに|すい||おくり|こめる|そう です

太い 静脈 ? 動脈 の 少し 内側 に ある ふとい|じょうみゃく|どうみゃく||すこし|うちがわ||

それ ならば   恐らく ここ でしょう 私 が やり ましょう ||おそらく|||わたくし|||

いえ   これ は 私 の 役目 です |||わたくし||やくめ|

《 注射 針 を 刺す 部位 を 》 ちゅうしゃ|はり||さす|ぶい|

注射 針 を 刺す 部位 を 強い 焼酎 で 消毒 し ちゅうしゃ|はり||さす|ぶい||つよい|しょうちゅう||しょうどく|

《 針 を 血管 に なるべく 平行 に 寝かせ …》 はり||けっかん|||へいこう||ねかせ

針 を   血管 に なるべく 平行 に 寝かせ はり||けっかん|||へいこう||ねかせ

ゆっくり 静脈 に 刺し |じょうみゃく||さし

( 咲 ) 血 が 流れ出す の を 確認 して から → さ|ち||ながれだす|||かくにん||

ゴム 管 を つなげる ごむ|かん||

これ で 治る ので ございます よ ね ? ||なおる||||

山田 先生 も   喜市 ちゃん も 皆   治った のです から やまだ|せんせい||きいち|||みな|なおった|の です|

治る と 治る と 言って ください ませ   先生 ! なおる||なおる||いって|||せんせい

未来 ! みらい

未来 ! みらい

何 やって る んだ   こんな とこ で ? なん||||||

( 未来 ) そこ か みらい||

え ッ ? いい よ   仁 先生 ||||しとし|せんせい

きっと   また いつか 会える から |||あえる|

いい よ

未来 みらい

おい   未来 ! |みらい

お 戻り ください   先生 ! |もどり||せんせい

戻って くる ぜ よ   先生 もどって||||せんせい

ここ に は   先生 を 待って いる 患者 が いる のです |||せんせい||まって||かんじゃ|||の です

先生 の 信念 が   江戸 を 動かした ぜ よ せんせい||しんねん||えど||うごかした||

これ を 見 ん で   死んで し も うて ||み|||しんで|||

どう する が ぜ よ !

お 戻り ください   先生 ! |もどり||せんせい

先生 ! せんせい

雨 が … あめ|

お 帰り なさい ませ |かえり||

先生 せんせい

はい

ほうか   戻って きた かえ |もどって||

夜 が 明ける ぜ よ よ||あける||

夜 が 明けた ぜ よ ! よ||あけた||

〈 こうして   俺 は 生還 し 〉 |おれ||せいかん|

( 茜 ) コロリ に も 負け ない 黒 米 いなり   並んで 並んで あかね||||まけ||くろ|べい||ならんで|ならんで

〈 それ から   まもなく して 〉

〈 江戸 を 焼き 尽くす か に 思えた コロリ の 火 は 〉 えど||やき|つくす|||おもえた|||ひ|

〈 急速に その 勢い を なくして いった 〉 きゅうそくに||いきおい|||

〈 隔離 と 予防 が 感染 を 弱めた ようだった 〉 かくり||よぼう||かんせん||よわめた|

〈 だが   点滴 に よる 治療 は 結局   手 が 回ら ず 〉 |てんてき|||ちりょう||けっきょく|て||まわら|

〈 多く の 命 を 救え なかった こと も 〉 おおく||いのち||すくえ|||

〈 また   事実 だった 〉 |じじつ|

喜市 ! きいち

お っ 母さん 先生 ん とこ 行って くる から ||かあさん|せんせい|||おこなって||

あの

ひと つ   お 聞き し たい のです が |||きき|||の です|

どうして   あの とき 私 を 信じて くれた のです か ? |||わたくし||しんじて||の です|

《 南方 先生   山田 を お 願い し ます 》 なんぽう|せんせい|やまだ|||ねがい||

私 は   以前   種痘 を 広めよう と した こと が ございまして な わたくし||いぜん|しゅとう||ひろめよう||||||

天然痘 の 種 を   少し だけ 植えて わざと 軽 めに 発病 さ せる てんねんとう||しゅ||すこし||うえて||けい||はつびょう||

それ が 治療 法 に なる など はじめ の うち は ||ちりょう|ほう|||||||

誰 に も 信じて もらえ ませ ん でした だれ|||しんじて||||

思い出した んです わ おもいだした|ん です|

あん とき の 自分 を |||じぶん|

( 洪 庵 ) 先生 に   もう ひと つ お 願い が ございまして な ひろし|いおり|せんせい||||||ねがい|||

え ッ   また 何 か 治す んです か ? |||なん||なおす|ん です|

江戸 の 蘭 方 医 の 性根 を たたき直して ください えど||らん|かた|い||しょうね||たたきなおして|

は ッ ?

昨日 の 話 お 受け に なれば よろしい のに きのう||はなし||うけ||||

西洋 医学 所 で 講義 を する なんて すぐに は 決心 でき ませ ん よ せいよう|いがく|しょ||こうぎ||||||けっしん||||

先生   て え へんだ ! せんせい|||

タエ さん が   ゆ ん べ   辻 斬り に たえ||||||つじ|きり|

ちょっと   ごめんなさい すいません

喜市 … きいち

へっちゃらだ よ   先生 ||せんせい

人 は 誰 でも 死ぬ もん だ し じん||だれ||しぬ|||

けど

先生 に は 悪い けど せんせい|||わるい|

おい ら   助から なければ よかった よ ||たすから|||

あちら で 待って おり ます ね ||まって|||

咲 さ ん さ||

私 は わたくし|

未来 から やってきた 人間 な んです みらい|||にんげん||ん です

未来 ? みらい

信じて もらえ ない かも しれ ませ ん が しんじて|||||||

私 は わたくし|

自分 が 何 か を やる こと は じぶん||なん|||||

歴史 を 変えて しまう ので は ない か と 思って ました れきし||かえて|||||||おもって|

だから   コレラ の 治療 法 を 言い 出せ なかった |これら||ちりょう|ほう||いい|だせ|

未来 を 変えて しまう の が 怖かった みらい||かえて||||こわかった

だって   それ は

未来 の 私 の 知って る 人間 の 運命 を 変えて しまう こと かも しれ ない みらい||わたくし||しって||にんげん||うんめい||かえて|||||

もしかしたら

生まれて 幸せに なる はずの 誰 か の 人生 を うまれて|しあわせに|||だれ|||じんせい|

奪って しまう こと かも しれ ない うばって|||||

神 を も 恐れ ぬ 行為 に 思えた んです かみ|||おそれ||こうい||おもえた|ん です

だけど

未来 を 変えて しまえる なんて みらい||かえて||

とんでもない 勘違い だった かも しれ ない |かんちがい||||

コレラ で 俺 が 助けた 人 達 は これら||おれ||たすけた|じん|さとる|

俺 が 何も し なくて も 助かった の かも しれ ない おれ||なにも||||たすかった||||

もしかしたら …

俺 さえ 来 なければ おれ||らい|

コレラ に も かから なかった 人 な の かも しれ ない これら|||||じん|||||

馬 に けら れて   死んで しまう はずだった   タエ さん は うま||||しんで|||たえ||

代わり に 辻 斬り に 切ら れた だけ な の かも しれ ない かわり||つじ|きり||きら|||||||

歴史 は れきし|

俺 の やった こと 全て 帳消し に する の かも しれ ない おれ||||すべて|ちょうけし||||||

決して 何も 変わら ない ように けっして|なにも|かわら||よう に

だ と したら

だ と したら …

俺 … おれ

何 やって んだろう なん||

先生 は せんせい|

私 の 運命 を 変え ました よ わたくし||うんめい||かえ||

先生 と   先生 の 医術 と お 会い して から せんせい||せんせい||いじゅつ|||あい||

咲 は   何やら いろんな もの が さ||なにやら|||

以前 より も 明るく 見え ます いぜん|||あかるく|みえ|

脈打つ 心 の 音 を 感じ ます みゃくうつ|こころ||おと||かんじ|

咲 は さ|

生きて おり ます よ いきて|||

あちら で 待って おり ます ||まって||

〈 未来   俺 は 決めた よ 〉 みらい|おれ||きめた|

〈 歴史 は   思う 以上 に 強大で 〉 れきし||おもう|いじょう||きょうだいで

〈 だったら   俺 は 憶 する こと なく 向かって いく よ 〉 |おれ||おく||||むかって||

〈 しょせん   人間 は 精いっぱい 生きる こと しか でき ない のだ から 〉 |にんげん||せいいっぱい|いきる||||||

〈 できる かぎり この 手 で 人 を 助けて いこう 〉 |||て||じん||たすけて|

〈 そして   少し だけ でも 医学 の 針 を 進め られれば 〉 |すこし|||いがく||はり||すすめ|

〈 俺 は   君 の 運命 を 変え られる かも しれ ない 〉 おれ||きみ||うんめい||かえ||||

〈 可能 性 は ゼロ に 近い 〉 かのう|せい||||ちかい

〈 でも   きっと ゼロ じゃ ない 〉

〈 かすかな 蝶 の はばたき が 〉 |ちょう|||

〈 やがて 嵐 と なる こと も ある のだ から 〉 |あらし|||||||

あの

まげ を 結う   ひも か 何 か … ||ゆう|||なん|

まあ   異国 に 勝つ ため に は まずは 寝る こと よ |いこく||かつ|||||ねる||

奴 ら の 手練 手 管 を 盗んで のどもと を   か っ 切る やつ|||てだれ|て|かん||ぬすんで|||||きる

かく なら 寝 首 っ ちゅう 寸法 さ ||ね|くび|||すんぽう|

そんな もん   ぶら下げて ちゃ あ くる わに   あげて も もらえ ねえ よ ||ぶらさげて|||||||||

先生 の 話 に は   血 い が ある ぜ よ せんせい||はなし|||ち|||||

肉 が ある ぜ よ にく||||

この 国 を 思う 誠 に 満ち あふれ ち ょる ぜ よ |くに||おもう|まこと||みち|||||

どうか   わし を 弟子 に しとう せ |||でし|||

かまわ ねえ けど よ お前 さん は   今 まで の 仲間 を ||||おまえ|||いま|||なかま|

裏切る こと に なる だ ろ ? うらぎる|||||

わしゃ   今 まで 世の中 を 変える ため に は |いま||よのなか||かえる|||

誰 か の 仲間 に なら ん と いかん と 思う ちょ った だれ|||なかま|||||||おもう||

けん ど   何 か 違う ち ょる 気 いが して ||なん||ちがう|||き||

仲間 に なりきれ ん かった なかま||||

今 は いま|

自分 の 信じる 道 を 歩き たい ぜ よ じぶん||しんじる|どう||あるき|||

それ が 誰 も 歩いて おら ん 道 でも ||だれ||あるいて|||どう|

正しい 道 じゃ ったら ただしい|どう||

仲間 は   あと から ついてくる ぜ よ なかま||||||

そう 教えて くれた 男 が おる き |おしえて||おとこ|||

〈 精いっぱい 生きて みよう 〉 せいいっぱい|いきて|

〈 いつ の 日 か 再び 君 と 出会う   その 日 まで 〉 ||ひ||ふたたび|きみ||であう||ひ|

〈 この 江戸 で 〉 |えど|

( 野 風 ) ほれ   模様 が → の|かぜ||もよう|

美しい 蝶 の ように → うつくしい|ちょう||よう に

きっと

吉 兆 であり ん すな きち|ちょう|||