この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま (16)
「…… クエスト 、 一応 カズマ も 見て きて くれ ませ ん か ? アクア に 任せて おく と 、 とんでもない の 持って き そうで ……」
「…… だ な 。 まあ 私 は 別に 、 無 茶 な クエスト でも 文句 は 言わ ない が ……」
めぐみ ん と ダクネス の 意見 を 聞いて 、 俺 も なんだか 嫌な 予感 が して きた 。
クエスト が 張り出さ れて いる 掲示板 へ 行く と 、 何やら 難しい 顔 で 請け負う クエスト を 吟味 して いる アクア の 後ろ に 立つ 。
アクア は 背後 に 立つ 俺 に 気づか ず 、 真剣な 顔 で クエスト を 選んで いる 。
やがて 、 一 枚 の 紙 を 掲示板 から 剝 が し 、 手 に 取った 。
「…… よし 」
「 よし じゃ ねえ ! お前 、 何 請けよう と して んだ よっ !!」
俺 は アクア の 持って いた 依頼 書 を 取り 上げた 。
『── マンティコア と グリフォン の 討伐 ── マンティコア と グリフォン が 縄張り争い を して いる 場所 が あり ます 。 放っておく と 大変 危険な ので 、 二 匹 まとめて 討伐 して ください 。 報酬 は 五十万 エリス 』
「 アホ か ! 」
俺 は 叫ぶ と 、 張り紙 を 元 の 場所 に 貼り 直した 。
見 に 来て 正解 だった 。 危うく とんでもない クエスト に 巻き 込ま れる ところ だった 。
「 何 よ もう 、 二 匹 まとまって る とこ に めぐみ ん が 爆裂 魔法 食らわ せれば 一撃 じゃ ない の 。 った くしょう が ない わ ね ー ……」
こいつ は 、 その 危険な 魔 獣 を 都合 よく 二 匹 まとめる 作戦 に ついて は 、 どうせ 俺 に 丸 投げ する 気 な のだろう 。
いっそ この クエスト を 請けて 、 一 人 で 送り出して しまおう か と 悩む 俺 に 、 アクア が 興奮 し ながら 服 の 袖 を 引っ張って きた 。
「 ちょっと 、 これ これ ! これ 、 見なさいよっ !!」
言わ れて 、 アクア が 指差す 依頼 書 を 見る 。
『── 湖 の 浄化 ── 街 の 水源 の 一 つ の 、 湖 の 水質 が 悪く なり 、 ブルータルアリゲーター が 住み つき 始めた ので 水 の 浄化 を 依頼 し たい 。 湖 の 浄化 が できれば モンスター は 生息 地 を 他 に 移す ため 、 モンスター 討伐 は し なくて も いい 。 ※ 要 浄化 魔法 習得 済み の プリースト 。 報酬 は 三十万 エリス 』
「…… お前 、 水 の 浄化 なんて できる の か ? 」
俺 の 疑問 に アクア が ふっと 鼻 で 笑う 。
「 バカ ね 、 私 を だれ だ と 思って る の ? と 言う か 、 名前 や 外見 の イメージ で 、 私 が 何 を 司る 女神 か ぐらい 分かる でしょう ? 」
「 宴会 の 神様 だろ ? 」
「 違う わ よ ヒキニート ! 水 よ ! この 美しい 水色 の 瞳 と この 髪 が 見え ない のっ !?」
なるほど 。
水 の 浄化 だけ で 三十万 か 、 確かに 美味しい な 。
討伐 を し なくて い いって とこ が ポイント 高い 。
「 じゃあ それ を 請けろ よ 。 ていう か 、 浄化 だけ なら お前 一 人 でも いいん じゃ ない か ? そう すれば 報酬 は 独り占め できる だろ ? 」
だが 、 そんな 俺 の 言葉 に アクア が 渋る 。
「 え 、 ええ ー ……。 多分 、 湖 を 浄化 して る と モンスター が 邪魔 し に 寄って くる わ よ ? 私 が 浄化 を 終える まで 、 モンスター から 守って 欲しい んです けど 」
そういう 事 か 。
しかし 、 ブルータルアリゲーター って 、 名前 から 察する に ワニ 系 の モンスター だろ ?
凄く 危険 そうな んだ が ……。
「 ちなみに 浄化 って どれ ぐらい で 終わる んだ ? 五 分 くらい ? 」
短 時間 で 終わる なら 、 めぐみ ん の 爆裂 魔法 で 何とか なる だろう 。
アクア が 小 首 を 傾げ ながら 言った 。
「…… 半日 ぐらい ? 」
「 長 えよ ! 」
名前 から して 危な そうな モンスター 相手 に 、 半日 も 防衛 なんか して られる か 。
俺 は 張り紙 を 元 に 戻そう と ……。
「 あ あっ ! お 願い 、 お 願い よ おおっ ! 他 に は ろくな クエスト が 無い の ! 協力 して よ カズマ さ ー ん ! 」
掲示板 に 紙 を 貼り 直そう と する 俺 の 、 右腕 に すがって 泣きつく アクア に 、 俺 は ふと 思い ついた 。
「…… なあ 、 浄化 って どう やって やる んだ ? 」
「…… へ ? 水 の 浄化 は 、 私 が 水 に 手 を 触れて 浄化 魔法 でも かけ 続けて やれば いいん だ けど ……」
なるほど 、 水 に 触れ なきゃ いけない の か 。
ちょっと 思い ついた 事 が あった んだ が 、 それ じゃ ……。
…… いや 、 待てよ ?
「 おい アクア 。 多分 、 安全に 浄化 が できる 手 が ある んだ が 、 お前 、 やって みる か ? 」
8.
街 から 少し 離れた 所 に ある 大きな 湖 。
街 の 水源 の 一 つ と さ れて いる その 湖 から は 小さな 川 が 流れて おり 、 それ が 街 へ と 繫 がって いる 。
湖 の すぐ 傍 に は 山 が あり 、 そこ から 絶えず 湖 へ と 水 が 流れ 込んで いた 。
なるほど 。
依頼 に あった 通り 、 湖 の 水 は 何だか 濁り 、 淀んで いた 。
モンスター も 清潔な 水 を 好む もの か と 思って いた が 、 違う の か 。
俺 が 湖 を 眺めて いる と 、 背後 から おずおず と 声 が かけ られる 。
「…… ねえ ……。 本当に やる の ? 」
それ は 凄く 不安気な アクア の 声 。
俺 の 考えた 隙 の 無い 作戦 の 、 一体 何 が 不安な の か 。
アクア が 言った 。
「…… 私 、 今 から 売ら れて いく 、 捕まった 希少 モンスター の 気分 な んです けど ……」
…… 希少 な モンスター を 閉じ 込めて おく 、 鋼鉄 製 の オリ の 中央 で 、 体育 座り を し ながら 。
オリ に 入れた アクア を 運び 、 そのまま 湖 に 投入 する のだ 。
最初 は 湖 の 近く で 安全な オリ の 中 から 浄化 魔法 を かけ させよう と 思った のだ が 、 浄化 魔法 は 水 に 触れて い ない と 使え ない そう な ので この 作戦 に なった 。
水 の 女神 である アクア は 、 水 に 浸かる どころ か 、 湖 の 底 に 一 日 沈め られて も 、 呼吸 に も 困ら ず 、 不快 を 感じる 事 も 無い らしい 。
そして 本人 いわく 、 浄化 魔法 を 使わ なくて も アクア 自身 が 湖 に 浸かって いれば 、 それ だけ でも 浄化 効果 が ある そうな 。
それほど 神聖な 存在 だ と いう 事 な のだろう 。 さすが は 一応 、 腐って も 女神 だ 。
アクア が 入った オリ は 、 俺 と ダクネス の 二 人 がかり で 湖 に 運んだ 。
鋼鉄 製 の オリ は 、 ギルド に 常備 さ れて いた 物 を 借りて きた 。
クエスト の 中 に は モンスター の 捕獲 依頼 も ある ので 、 そういった 時 用 の 物 らしい 。
別に 、 使え ない 女神 を 湖 に 投棄 し に 来た 訳 で は ない ので 、 遠く に 持って いく 必要 は 無い 。
湖 の 際 に 、 アクア が ちょっと 浸かる 程度 に オリ を 置いて おけば いい のだ 。
これ なら 湖 の 浄化 中 に ブルータルアリゲーター が 襲って きて も 大丈夫だろう 。
なにせ 、 捕獲 した モンスター の 運搬 用 に 使わ れる オリ だ 、 中 の アクア に 攻撃 が 届く と は 思え ない 。
ギルド 職員 の 話 で は 、 浄化 が 終われば モンスター は 湖 から 離れて 行く と 言って いた が 、 万一 アクア の 傍 から 離れ なかった 時 に 備え 、 オリ に は 頑丈な 鎖 を 付けて いた 。
鋼鉄 製 の オリ は 重量 が ある ので 、 湖 まで は 街 で 借りた 馬 に 引か せ ながら 運んで きた 。
緊急の 際 に は 、 借りて きた 馬 に 、 鎖 で オリ を 引っ張ら せて 逃げる 予定 だ 。
アクア を 入れた オリ は 湖 の 際 に 沈め られ 、 体育 座り の アクア は 足 の 先 と 尻 の 部分 を 湖 に 浸から せて いた 。
後 は このまま 、 俺 達 三 人 は 離れた 所 で 待つ だけ だ 。
アクア が 、 膝 を 抱え ながら ぽつり と 呟く 。
「…… 私 、 ダシ を 取ら れて る 紅茶 の ティーバッグ の 気分 な んです けど ……」
9.
浄化 装置 改め 、 アクア を 湖 の 際 に 設置 して 、 二 時間 が 経過 。
だが 、 未だに モンスター が 襲って くる 気配 は 無い 。
俺 と ダクネス とめぐ みん は 、 アクア から 二十 メートル ほど 離れた 陸地 で アクア の 様子 を 見守って いた 。
水 に 浸かり っぱなし の アクア に 声 を 掛ける 。
「 お ー い アクア ! 浄化 の 方 は どんな もん だ ? 湖 に 浸かり っぱなし だ と 冷える だろ 。 トイレ 行き たく なったら 言えよ ? オリ から 出して やる から ー ! 」
遠く から 叫ぶ 俺 に 、 アクア が 叫び 返した 。
「 浄化 の 方 は 順調 よ ! 後 、 トイレ は いい わ よ ! アークプリースト は トイレ なんて 行か ない し !!」
昔 の アイドル みたいな 事 を 言う アクア 。
水 に 浸け っぱなし で 大丈夫 か と 心配 した が 、 まだまだ 余裕 は あり そうだ 。
「 何だか 大丈夫 そうです ね 。 ちなみに 、 紅 魔 族 も トイレ なんて 行き ませ ん から 」
めぐみ ん が 聞いて も い ない のに そんな 事 を 言って くる 。
お前 も アクア も 普段 モリモリ 食ったり 飲んだり して る が 、 それ は どこ に 消えて いる んだ と ツッコみ たい 。
「 私 も クルセイダー だ から 、 トイレ は …… トイレ は ……。 …… う う ……」
「 ダクネス 、 この 二 人 に 対抗 する な 。 トイレ に 行か ない って 言い張る めぐみ ん と アクア の 二 人 は 、 今度 、 日帰り じゃ 終わら ない クエスト を 請けて 、 本当に トイレ に 行か ない か を 確認 して やる 」
「 や 、 止めて ください 。 紅 魔 族 は トイレ なんて 行き ませ ん よ ? で も 謝る ので 止めて ください 。 …… しかし 。 ブルータルアリゲーター 、 来 ませ ん ね 。 このまま 何事 も なく 終わって くれれば いい のです が 」
めぐみ ん が フラグ と しか 思え ない 様 な 事 を 言った 。
そして 、 それ を きっかけ に でも する か の 様 に 、 湖 の 一部 に 小 波 が 走る 。
大き さ 的に は 地球 の 平均 的な ワニ と 比較 して も 、 あまり 変わら ない だろう 。
だが 、 そこ は やはり モンスター 。 地球 の ワニ と は 一味 違った 。
「 カ 、 カズマー ! なんか 来た ! ねえ 、 なんか いっぱい 来た わ ! 」
この 世界 の ワニ 達 は 、 群れ で 行動 する 様 だ 。
── 浄化 を 始めて から 四 時間 が 経過 ──
最初 は 、 水 に 浸かって 女神 の 身体 に 備わった 浄化 能力 だけ を 使って いた アクア だった が 、 早く 浄化 を 終わら せて 帰り たい の か 、 今 は 一心不乱 に 浄化 魔法 も 唱え まくって いる 。
「『 ピュリフィケーション 』! 『 ピュリフィケーション 』! 『 ピュリフィケーション 』 ッッ ! 」
アクア が 入って いる 鋼鉄 製 の オリ を 大量の ワニ 達 が 囲み 、 オリ を ガジガジ と 齧って いる 。
「『 ピュリフィケーション 』! 『 ピュリフィケーション 』 ッッ ! ギシギシ いって る ! ミシミシ いって る ! オリ が 、 オリ が 変な 音 立てて る んです けど ! 」
オリ の 中 で 喚く アクア だ が 、 この 状況 で は 爆裂 魔法 で ぶっ 飛ばす 訳 に も いか ず 、 俺 達 に は ちょっと どう しよう も ない 。
「 アクアー ! ギブアップ なら 、 そう 言えよ ー ! そし たら 鎖 引っ張って オリ ごと 引きずって 逃げて やる から ー ! 」
先ほど から オリ に 向かって 叫ぶ のだ が 、 アクア は 怯え ながら も 頑なに クエスト の リタイア を 拒んで いた 。
「 イ 、 イヤ よ ! ここ で 諦めちゃ 今 まで の 時間 が 無駄に なる し 、 何より 報酬 が 貰え ない じゃ ない の よ ! 『 ピュリフィケーション 』! 『 ピュリフィケーション 』 ッッ !! …… わ 、 わ ああ ああ ー っ ! メキッ て いった ! 今 オリ から 、 鳴っちゃ いけない 音 が 鳴った !!」
わ あわ あと 泣き叫んで いる アクア を 取り囲む ブルータルアリゲーター 達 は 、 俺 達 三 人 に は 見向き も し ない 。
それ を 見て 、 ダクネス が 呟く 。
「…… あの オリ の 中 、 ちょっと だけ 楽し そうだ な ……」
「…… 行く な よ ? 」
── 浄化 を 始めて から 七 時間 が 経過 ──
湖 の 際 に は 、 ボロボロ に なった オリ が ぽつんと 取り 残さ れて いた 。
ブルータルアリゲーター に 齧ら れた オリ は 、 所々 に ワニ の 歯型 が 残さ れて いる 。
浄化 が 完了 した から か 、 ブルータルアリゲーター 達 は オリ から 離れ 、 山 へ と 向かって 泳いで 行って しまった 。
もう アクア の 浄化 魔法 の 声 は 聞こえて こ ない 。
と いう か 、 一 時間 ほど 前 から 、 アリゲーター に たから れて いた アクア の 声 が 聞こえ なく なって いる 。
「…… おい アクア 、 無事 か ? ブルータルアリゲーター 達 は 、 もう 全部 、 どこ か に 行った ぞ 」
俺 達 は オリ へ 近づき 、 オリ の 中 の アクア を 窺った 。
「…… ぐ す …… ひ っ く …… えっ く ……」
膝 を 抱えて 泣く ぐらい なら 、 とっとと クエスト を リタイア すれば いい のに ……。
まあ この 状況 で は 無理 も ない か 。
「 ほら 、 浄化 が 終わった の なら 帰る ぞ 。 ダクネス とめぐ みん で 話し 合った んだ が 、 俺 達 は 今回 、 報酬 は いら ない から 。 報酬 の 三十万 、 お前 が 全部 持って いけ 」