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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 08

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 08

8 閉ざさ れた 扉

「── どう ?

と 、 夕 里子 は 、 声 を かけた 。

「 だめだ 」

国 友 が 、 雪 の 斜面 を 上って 来て 、 息 を ついた 。

「 何の 跡 も ない よ 」

「 そう ……」

「 あまり 遠く へ は 行け ない 。

どんどん 傾斜 が 急に なって る んだ 。 雪 が ゴソッ と 落ちたら 、 こっち も 一緒に 谷底 だ から ね 」

「 戻り ましょう 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

山荘 から 、 二 人 は あの 道 を 辿 って 、 昨日 、 車 が 落ちた 辺り まで 来て いた のである 。

「 でも ── 川西 みどり さん 、 どこ へ 行っちゃ った の かしら ?

山荘 の 方 へ と 歩き ながら 、 夕 里子 は 言った 。

「 うん ……。

あの とき 、 そば に 誰 か そっと やって 来た と して も 、 分 ら なかった だろう な 。 みんな 夢中で ロープ を 引いて た から 」

「 そう ね 。

── でも 、 何だか 気 に 入ら ない 」

「 君 も か ?

僕 も だ 」

「 今朝 も 、 あそこ の ご 主人 、 姿 を 見せ なかった わ 」

「 うん 。

奇妙だ な 」

「 いくら 気分 が すぐれ ない って いって も ……。

食事 の 仕度 は して る って いう のに 」

「 本当 は あの 奥さん が やって る んじゃ ない の か 」

「 だったら 、 そう 言えば いい わ 。

なぜ 、 いちいち 、 食事 は ご 主人 が 作って る なんて 、 噓 を つく 必要 が ある ? 「 そう か ……」

国 友 は 肯 いた 。

「 あそこ に は 、 ご 主人 って い ない んじゃ ない かしら 」

「 いない ?

「 そう 。

── それ を 、 いる と 思わ せる ため に ……」

「 しかし 、 あの ドライブ ・ イン の 主人 が 、 言って た じゃ ない か 」

「 それ な の よ 」

と 、 夕 里子 は 、 夫 が 先 に ここ へ 向 った と 聞いた とき の 、 園子 の 様子 を 話して やった 。

「 相 変ら ず だ な 、 君 は 」

と 、 国 友 が 笑って 言った 。

「 あら 、 何 よ 」

「 いや 、 実に 観察 が 鋭い 、 って 言い たかった の さ 」

「 取って つけた みたい ね 。

── ともかく 、 ご 主人 は 、 東京 に 女 が いて 、 奥さん より 先 に 戻り たかった んだ と 思う わ 」

「 ふむ 。

それ で ?

「 奥さん は 、 山荘 へ 着いて から 、 私 たち が 一 息 ついて いる 間 に ご 主人 を 殺して ──」

「 おい !

と 、 国 友 が 目 を 丸く した 。

「 そう 簡単に 殺す な よ 」

「 仮説 よ 、 もちろん 。

でも 、 可能 性 ある と 思わ ない ? まだ ご 主人 が 生きて る と 思わ せる ため に 、 料理 を ご 主人 が 作って る 、 と 強調 したり して ……」

「 あまり 効果 的 と は 思え ない ね 」

「 もちろん よ 。

でも 、 とっさ の こと だ も の 、 それ ぐらい しか 思い 付か なかった んじゃ ない かしら 」

「 考え られ ない こと じゃ ない けど ね 」

国 友 は 肯 いて 、「 しかし 、 死体 を どこ へ 隠した んだろう ?

「 部屋 へ 隠す こと ない わ 。

何しろ 、 この 雪 です もの 。 たとえば ──」

足 を 止め 、 夕 里子 は 振り返った 。

大量の 雪 が 、 すっかり 道 を 塞いで しまって いる の が 見える 。

「 あの 下 か 」

「 それ も 可能 性 の 一 つ ね 」

── 二 人 は また 歩き 出した 。

「 でも ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 そう だ と して も 、 他の 事 は 説明 でき ない の 。 車 の 転落 、 川西 みどり の 行方 不明 ……」

「 それ に あの 超 能力 少年 か 」

国 友 は 首 を 振って 、「 どうも 好きに なれ ない ね 、 あの タイプ は 」

「 そんな こと 言う と 、 聞こえる わ よ 」

と 、 夕 里子 は 、 谷 の 向 う の 山荘 を 指して 、

「 凄い 耳 を 持って る の かも しれ ない わ 」

「 なるほど 。

ちょっと 指 を 動かせば 、 僕 ら を 殺せる の かも しれ ない な 。 人形 に 針 を 刺す と か ……」

「 あら 、 雪 ?

こんなに 晴れて いる のに 。

── パラパラ と 白い もの が 落ちて 来た 。

ゴーッ と いう 唸り 。

ハッと 国 友 が 、 頭上 を 見上げた 。 夕 里子 も 、 ほとんど 同時に 、 山 の 高 み を 見上げる 。

雪 が 、 白い 雲 の ように なって 、 頭上 から 崩れ落ちて 来る 。

「 走れ !

と 、 国 友 が 叫んだ 。

二 人 が 駆け 出す 。

── 下敷き に なったら 終り だ !

ここ まで 何 秒 で 落ちて 来る だろう ?

一 秒 ?

── 二 秒 ?

息 を つめ 、 必死に 駆ける ……。

突然 、 巨大な 手 で 殴ら れた ように 、 夕 里子 は 、 地面 に 叩き 伏せ られた 。

ドドド 、 と いう 地響き と 共に 、 夕 里子 の 背 に どんどん と 重 み が 加わって 来た 。

── 生き埋め に なる ! 神様 !

そして …… 不意に 静かに なった 。

夕 里子 は 、 必死で 起き上ろう と した 。

体 の 上 の 雪 が 、 ガタガタ と 動く 。 どれ ぐらい 積って いる のだろう ?

背骨 が 折れる か と 思う ほど の 力 で 、 歯 を くいしばり 、 夕 里子 は 、 両手 で 体 を 押し上げよう と した 。

と ── パッと 雪 の 壁 を 突き破って 、 夕 里子 の 上半身 が 雪 の 上 に 出て いた 。

「 国 友 さん !

手 が 見えた 。

雪 から 突き出て 、 空 を つかんで もがいて いる 。

「 国 友 さん !

待って て ! 夕 里子 は 、 雪 の 中 から 這い 出す と 、 国 友 の 方 へ と 駆け寄った 。

両手 で 、 力一杯 雪 を かき 出し 、 腕 を つかんで 、 体重 を かけて 引 張った 。

「── お 手伝い し ましょう か 」

振り向く と 、 珠美 が やって 来た 。

「 珠美 、 何 のんびり して ん の よ !

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。

「 早く 来て ! 国 友 さん が 窒息 しちゃ う ! 「 は いはい 」

と 、 珠美 が やって 来る 。

「 手 が 冷たく なっちゃ う なあ ……」

「 つべこべ 言って ないで 、 早く 引 張 ん の よ !

「 そう キーキー 言わ ない の 。

── それにしても 、 今度 は 腕 の 疲れる 旅行 だ ね 」

珠美 とて 、 怪力 の 持主 と いう わけで は ない けれど 、 一 人 と 二 人 の 差 は 大きく 、 やがて 、 国 友 の 頭 が 、 雪 から 出て 来た 。

「── ああ 、 助かった !

雪 だらけ で 、 雪 男 みたいに なった 国 友 は 、 激しく 呼吸 を した 。

「 お 安く し とき ます 」

と 、 珠美 が 言った 。

国 友 も 、 やっと 雪 の 中 から 出て 来た が 、 歩こう と して 、

「 痛い !

と 、 顔 を しかめる 。

「 足 を 痛めた の ?

「 うん 。

── 挫いた らしい 。 悪い けど 、 肩 を 貸して くれ ない か 」

「 いい わ よ 。

ほら 、 珠美 、 反対 側 の 方 」

「 は あい 」

夕 里子 と 珠美 の 二 人 で 、 両側 から 国 友 を 支え ながら 、 山荘 の 方 へ と 歩き 出す 。

「── 危ない ところ だった 」

と 、 国 友 は 言った 。

「 夕 里子 君 、 どこ も けが は ? 「 死んで る の かも しれ ない けど 、 今 は 国 友 さん の こと が 心配で 、 感じ ない の 」

「 キザ だ ね 」

と 、 珠美 が 冷やかした 。

「 でも 、 あんた 、 いい 所 へ 来て くれた わ 」

「 そう ?

そう 思ったら 、 お 小づかい 上げて よ 」

「 それ が なきゃ いい のに ね 」

「 これ が なくなったら 、 私 で なく なる 」

それ は そう かも 、 と 夕 里子 は 思った 。

「── 別に ね 、 予感 が あった と か じゃ ない の よ 」

と 、 珠美 は 言った 。

「 ただ 、 お 昼 ご飯 です よ 、 って 呼び に 来た だけ 」

山荘 へ 大分 近付いて いた 。

「── ねえ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 え ?

お 昼 の おかず なら 、 知ら ない よ 」

「 そう じゃ ない わ よ !

あの 部屋 、 誰 か 泊って る の ? と 、 夕 里子 は 山荘 の 方 へ 目 を やった まま 、 言った 。

「 どの 部屋 」

「 一 番 こっち の 。

二 階 の 窓 。 ── 今 、 カーテン が 閉まって る でしょ 」

「 ああ 、 あれ ?

── さあ 。 二 階 で いえば ……。 私 たち の 方 と は 反対 側 でしょ 」

「 そう ね 」

「 じゃ 、 お 客 は 入れて ない らしい よ 。

みんな 、 私 たち の 方 の 側 の 部屋 に いる んだ もん 」

「 そう か ……」

で は 、 あの 窓 に 今 立って いた の は 誰 な んだろう ?

今 は カーテン が 閉まって いる その 窓 に 、 夕 里子 は 、 確かに 人 の 姿 を 見た のである 。

その 人物 は 、 夕 里子 たち の 方 を 、 じっと 見て いる ようだった 。

もちろん 、 まだ 大分 遠い のだ から 、 どんな 男 だった か ( 男 だ 、 と は 思った のだ が )、 よく 分 ら ない が ……。

しかし 少なくとも 、 それ は 、 水 谷 や 金 田 で は なかった 。

して みる と ── 石垣 園子 の 夫 な の か ?

やはり 、 夫 は 本当に ただ 、「 気分 が 悪い 」 と いう ので 、 休んで いる のだろう か ……。

国 友 と 夕 里子 が 戻って 、 また 一 騒ぎ が あった もの の 、 昼食 の 後 は 、 比較的 のんびり して しまった 。

もちろん 、 川西 みどり の こと も 気 に は なって いたろう が 、 ともかく ここ で 騒いで も 始まら ない のである 。

金田 や 敦子 は 、 裏庭 の 方 へ 出て 、 雪 で 遊んだり して いた 。

国 友 は 、 部屋 で 寝て いた 。

── 捻挫 は 大した こと も ない ようだ が 、 一応 、 湿布 して ある ので 、 動け ない 。

夕 里子 も 、 国 友 を 助ける の に 夢中だった ので 、 一向に 感じ なかった のだ が 、 お 風呂 へ 入って みる と 、 結構 、 かすり傷 が あちこち に できて いて 、 ベッド に 横 に なる と 、 急に 疲れ が 出て 来た の か 、 いつの間にか 眠って しまった 。

── 山荘 の 中 は 静かだった 。

綾子 は 、 と いえば ……。

本来 なら 、 こんな 状況 である 、 勉強 を 教える と いう 雰囲気 で は ない のだ が 、 そこ は 生真面目な 綾子 。

今日 も 、 一 階 の 奥 の 方 に ある 秀 哉 の 部屋 で 「 授業 」 を 続けて いた 。

「── できて る わ 」

綾子 は 、 秀 哉 に 出した 練習 問題 の 答え を ざっと 見て 、 ノート を 置いた 。

「 もう 、 あなた に 教える こと なんて 、 ない みたい 」

「 そんな こと ない よ 」

と 、 秀 哉 は 言った 。

「 どうして ?

何でも 、 よく 分 って る じゃ ない の 」

「 分 ら ない こと だって ある よ 」

「 そう ?

どんな こと ? ── 秀 哉 は 、 何となく 不思議な 目 で 綾子 を 見つめて いた 。

「── 失礼 」

と 、 ドア が 開いて 、 園子 が 入って くる 。

「 あ 、 どうも 」

「 ご苦労様です 。

お 茶 でも 、 と 思って ……」

園子 は 、 いい 香り の 紅茶 を 運んで きた 。

「 どうぞ 」

「 恐れ入り ます 」

綾子 は 匂い を かいで 、「── 素敵な 匂い !

何の 紅茶 です の ? 「 珍しい 葉 な んです よ 。

なかなか 手 に 入ら ない もの で 」

と 、 園子 は 言った 。

「 秀 哉 。 あなた は ココア ね 」

「 うん 」

「 お 勉強 の 方 は ?

「 よく 分 って 楽しい よ 」

と 、 秀 哉 は 言った 。

「 まあ 、 良かった わ 。

こんな 所 まで 来て いただいた かい が あり ました 」

「 いいえ 」

綾子 と して は 、 これ で 一 日 一万 円 も もらって は 申し訳ない 、 と 本気で 思って いる 。

「── あの 、 ご 主人 の 具合 は いかがです の ?

紅茶 を ゆっくり と 飲み ながら 、 綾子 は 訊 いた 。

「 ええ 、 どうも この ところ 疲れ やすくて ね 」

「 いけ ませ ん ね 。

── 何 か ご 病気 を ? 「 病気 と いう わけで は ……。

ただ 、 トシ な んです わ 」

「 でも ── まだ そんなに お 年 で は ……」

「 そう 。

たった 四百 歳 です もの ね 」

と 言って 、 園子 は 笑った 。

綾子 は 、 何となく ゾッと した が 、 一緒に なって 笑う こと に した 。

「 パパ に は 、 必要な もの が ある んだ よ 」

と 、 秀 哉 が 言った 。

「 必要な もの ?

「 うん 。

それ さえ あれば 、 元気に なる んだ けど ね 」

「 まあ 、 それ が 今 は ──」

「 なかなか 手 に 入り ませ ん の 」

と 園子 は 首 を 振った 。

「 お 薬 ── か 何 か です か 」

「 そんな ような もの です 」

綾子 は 、 紅茶 を きれいに 飲み干して しまった 。

── ちょっと 変った 匂い と 味 の 紅茶 だった が 、 本当に おいしい 。

「 ごちそうさま でした 」

「 まあ 、 気 に 入って いただけた ようです わ ね 。

嬉しい わ 」

と 、 園子 は 微笑んだ 。

「 じゃ 、 秀 哉 、 ちゃんと 教えて いただく の よ 」

「 うん 」

「 お邪魔 いたし まして 」

「 いいえ ……」

綾子 は 、 園子 が 出て 行く と 、「 面白い お 母 様 ね 」

と 言った 。

「 そう だ ね 」

秀 哉 は 、 鉛筆 の 先 で 、 机 を トン 、 トン 、 と 叩き 始めた 。

「 じゃ 、 次の ページ に 行き ましょう か 」

と 、 綾子 は 、 本 を めくって 、 欠 伸 を した 。

「 いやだ わ 。

眠く なって 来た ……」

「 そう ?

鉛筆 が トントントン 、 と 単調な リズム を 作って いる 。

綾子 は 、 頭 の 中 に もや が 広がって 来る ような 気 が して 、 頭 を 振った 。

でも 、 一向に スッキリ し ない 。

だめじゃ ない の !

ちゃんと お 金 を もらって 教えて いる のに 、 その 最中 に 寝たり しちゃ ! しっかり して !

「 眠ったら ?

トントントン ……。

「 でも …… だめ よ …… お 勉強 が ……」

瞼 が 重く なる 。

綾子 は 、 必死で 開けて いよう と する のだ が 、 だめな のだ 。

「 大丈夫 さ 」

トントントン ……。

「 そう ……。

そう ね 、 大丈夫 ね ……」

大丈夫 。

教え なく たって 、 この 子 は よく 分 って る んだ もの ……。

「 疲れて る んだ よ 。

それ に お腹 も 一杯で 」

「 そう …… ね 」

「 眠く なって も 当り前 さ 」

「 当り前 ね ……」

「 目 を 閉じて 、 ゆっくり 頭 を 机 に のせて 、 眠ったら ?

「 そう …… そう ね 」

目 が 閉じる と 、 綾子 は 、 ゆっくり と 机 の 上 に 頭 を のせた 。

冷たい 机 の 感触 が 、 かすかに あって ……。

それ きり 、 綾子 は 、 深い 眠り の 中 へ と 、 引きずり 込ま れて 行った 。

夕 里子 は ハッと 起き上がった 。

「 い たた ……」

体 の 節々 が 痛い 。

── 部屋 は 明るかった 。

どうした んだろう ?

どうして 急に 目 が さめた の かしら ?

何だか 、 突然 、 危険な こと に 出あった ような 気 が して 、 ハッと した のだ 。

「 夢 でも 見て た の か なあ 」

と 、 呟いた 。

何の 夢 を ?

── 一向に 思い出せ ない のだ が 、 しかし 恐ろしい 夢 だった こと は 、 間違い ない 。

少し 、 額 に 汗 まで かいて いる 。

夕 里子 は 、 ベッド に 座った まま 、 しばらく ぼんやり して いた 。

窓 の 外 は 明るく 、 雪 を かぶった 山 が 、 少し 覗いて いる 。

空気 も 澄んで いて 、 本当 なら 、 こんなに 楽しい こと は ない はずな のに ……。

でも 、 何 か 重苦しい 影 が 、 のしかかって いる ような 気 が して なら ない のだ 。

トントン 、 と ノック の 音 が した 。

「 どなた ?

「 僕 だ よ 、 金田 」

「 ああ 。

入り なさい よ 」

金田 が 、 そっと 入って 来る 。

「 寝て る の か と 思った 」

「 今 、 起きた ところ よ 。

── どうした の ? 「 うん 」

金田 は 、 空いた ベッド に 腰 を かけた 。

「 口説き に 来た んじゃ ない でしょう ね 」

「 まさか 」

「 あら 、 それ 、 どういう 意味 ?

「 いや ── あの 刑事 さん が いる から さ 」

と 、 金田 は あわてて 言った 。

「 お 世辞 は いい わ よ 。

どうか した の ? 「 今 、 君 の 妹 なんか と さ 、 裏 で 遊んで た んだ よ 」

「 それ で ?

「 雪 ダルマ を 作って ね 。

三 つ も こしらえた んだ 」

「 へえ 、 意外 と 幼い 趣味 ね 」

「 からかう な よ 」

「 いい じゃ ない 。

私 だって 好き よ 」

「 ただ さ ── その とき 、 雪 の 中 から 、 こいつ を 見付けた 」

と 、 金田 が ポケット から 出した の は 、 銀色 の ペンダント だった 。

「 それ が どうした の ?

「 川西 みどり の なんだ 」

夕 里子 は 、 立って 行って 、 ペンダント を 受け取った 。

「── 確かに ?

「 うん 。

僕 が 買って やった んだ もの 。 ほら 、〈 M ・ K 〉 って 彫って ある だ ろ ? 「 そう ね 。

── どの 辺 で ? 「 だ から 、 そこ の 裏 。

── あんまり 崖 の 方 に は 行って ない 」

「 そう ……。

彼女 、 ここ へ 来て いる って こと だ わ 」

「 でも 、 どこ に いる ?

「 分 ら ない けど ……」

夕 里子 は 、 ペンダント を 、 金田 に 返した 。

「 彼女 の 身 に 何 か あった と 思う かい ?

「 当然 よ 」

夕 里子 は 即座に 答えた 。

「 あんな 所 で 、 彼女 が 自分 から 姿 を 消す わけな いわ 」

金田 は 、 ため息 を ついた 。

「 どういう こと な んだろう な 。

── さっぱり 分 ら ない よ 」

夕 里子 は 、 ちょっと 考えて から 、

「 ねえ 」

と 、 少し 声 を 低く して 、「 一緒に 調べて み ない ?

「 何 を ?

「 反対の 端 の 部屋 。

── さっき 、 誰 か いる の が 見えた の よ 」

「 二 階 の ?

「 そう 。

── もしかしたら 、 幻 の ご 主人 かも しれ ない わ 、 ここ の 」

「 でも 、 奥さん たち 、 一 階 に いる んじゃ ない の かい ?

「 そう よ 。

だから 、 二 階 に 誰 が いる か 、 興味 ある の よ 」

「 でも 勝手に ──」

「 そう 。

もしかしたら 、 川西 みどり さん の こと だって 分 る かも しれ ない のに 」

と 肩 を すくめて 、「 いい わ 。

私 、 一 人 で 調べる 」

「 待てよ 。

分 った から ……」

金田 は 苦笑い して 、「 きっと 君 の 恋人 の 刑事 さん も 、 いつも こうして 引 張り 回さ れて る んだ な 」

と 言った 。

廊下 へ 出る と 、 夕 里子 は 、 一 階 へ 下りる 階段 の 所 へ 行き 、 下 の 様子 を うかがった 。

「── 別に 、 人 の 来る 気配 は ない わ 」

と 、 囁く ように 言って 、「 行 くわ よ 」

廊下 を 、 あまり 足音 を たて ない ように して 、 進んで 行く 。

「── この ドア よ 」

と 、 夕 里子 は 低く 囁いた 。

「 開く ?

「 分 ら ない けど ……。

ちょっと 待って 」

夕 里子 は 、 ドア に 、 そっと 耳 を 押し当てた 。

誰 か が いる の なら 、 少し ぐらい は 物音 が する だろう 。

── しかし 、 たっぷり 三 分 以上 も 耳 を 澄まして いた が 、 かすかな 音 一 つ 、 聞こえ ない 。

夕 里子 は 、 ドア の ノブ を そっと つかむ と 、 回して みた 。

開く 。

── ドア は スッ と 内側 へ と 開いた 。

「 大丈夫 かい ?

金田 が 、 思わず 言った 。

「 何 よ 、 男 でしょ 」

中 は 、 真 暗 だった 。

いくら カーテン が 引いて ある と は いって も 、 少し は 光 が 入って い い はずだ が 。

何も 見え ない 。

── 夕 里子 は 、 思い切って 、 部屋 の 中 へ と 踏み込んだ 。

と ── 突然 、 ドア が バタン 、 と 音 を たてて 閉った のだ 。

夕 里子 は びっくり した 。

「 金田 君 !

振り向いて 、 ドア を 開けよう と した が 、 今度 は びくとも し ない 。

夕 里子 は 、 一 人 で 部屋 の 中 に いた 。

── ドア も 閉って 真 暗 である 。

目 が なれれば 、 少し は 何 か が ……。

ふと 、 奇妙な 匂い を かいだ 。

── 何の 匂い だろう ?

決して 不快な 匂い で は ない が 、 しかし 、 よく 分 ら ない 匂い である 。

そして ── ガサッ と 何 か の 音 が した 。

「 誰 か …… いる んです か ?

と 、 夕 里子 は 呼びかけた 。

「 いる んだったら 、 返事 して 」

手 は 、 明り の スイッチ の ある はずの 所 を 探って いた 。

しかし 、 何も 手 に 触れ ない 。 のっぺり と した 壁 ばかり 。

ガサッ 、 と また 音 が した 。

その 音 は 、 夕 里子 に ずっと 近付いて 来て いた のである ……。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 08 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 4 Chapter 08

8  閉ざさ れた 扉 とざさ||とびら 8闭门

「── どう ?

と 、 夕 里子 は 、 声 を かけた 。 |ゆう|さとご||こえ|| 而且,Yuuriko说出了一个声音。

「 だめだ 」

国 友 が 、 雪 の 斜面 を 上って 来て 、 息 を ついた 。 くに|とも||ゆき||しゃめん||のぼって|きて|いき||

「 何の 跡 も ない よ 」 なんの|あと||| “没有任何痕迹。”

「 そう ……」

「 あまり 遠く へ は 行け ない 。 |とおく|||いけ| “我不能走得太远。

どんどん 傾斜 が 急に なって る んだ 。 |けいしゃ||きゅうに||| 它变得越来越陡峭。 雪 が ゴソッ と 落ちたら 、 こっち も 一緒に 谷底 だ から ね 」 ゆき||||おちたら|||いっしょに|たにそこ||| 当雪落下时,它也是一个山谷。

「 戻り ましょう 」 もどり|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

山荘 から 、 二 人 は あの 道 を 辿 って 、 昨日 、 車 が 落ちた 辺り まで 来て いた のである 。 さんそう||ふた|じん|||どう||てん||きのう|くるま||おちた|あたり||きて|| 从Sanso出发,他们沿着这条路前行,昨天来到了汽车倒塌的地方。

「 でも ── 川西 みどり さん 、 どこ へ 行っちゃ った の かしら ? |かわにし|||||おこなっちゃ|||

山荘 の 方 へ と 歩き ながら 、 夕 里子 は 言った 。 さんそう||かた|||あるき||ゆう|さとご||いった

「 うん ……。

あの とき 、 そば に 誰 か そっと やって 来た と して も 、 分 ら なかった だろう な 。 ||||だれ||||きた||||ぶん|||| 那个时候,即使有人来找我,也不会理解。 みんな 夢中で ロープ を 引いて た から 」 |むちゅうで|ろーぷ||ひいて||

「 そう ね 。

── でも 、 何だか 気 に 入ら ない 」 |なんだか|き||はいら|

「 君 も か ? きみ||

僕 も だ 」 ぼく||

「 今朝 も 、 あそこ の ご 主人 、 姿 を 見せ なかった わ 」 けさ|||||あるじ|すがた||みせ||

「 うん 。

奇妙だ な 」 きみょうだ|

「 いくら 気分 が すぐれ ない って いって も ……。 |きぶん||||||

食事 の 仕度 は して る って いう のに 」 しょくじ||したく||||||

「 本当 は あの 奥さん が やって る んじゃ ない の か 」 ほんとう|||おくさん|||||||

「 だったら 、 そう 言えば いい わ 。 ||いえば||

なぜ 、 いちいち 、 食事 は ご 主人 が 作って る なんて 、 噓 を つく 必要 が ある ? ||しょくじ|||あるじ||つくって||||||ひつよう|| 「 そう か ……」

国 友 は 肯 いた 。 くに|とも||こう|

「 あそこ に は 、 ご 主人 って い ない んじゃ ない かしら 」 ||||あるじ||||||

「 いない ?

「 そう 。

── それ を 、 いる と 思わ せる ため に ……」 ||||おもわ|||

「 しかし 、 あの ドライブ ・ イン の 主人 が 、 言って た じゃ ない か 」 ||どらいぶ|いん||あるじ||いって||||

「 それ な の よ 」

と 、 夕 里子 は 、 夫 が 先 に ここ へ 向 った と 聞いた とき の 、 園子 の 様子 を 話して やった 。 |ゆう|さとご||おっと||さき||||むかい|||きいた|||そのこ||ようす||はなして| , Yuriko spoke about Sonoko when he heard that her husband first came here.

「 相 変ら ず だ な 、 君 は 」 そう|かわら||||きみ|

と 、 国 友 が 笑って 言った 。 |くに|とも||わらって|いった

「 あら 、 何 よ 」 |なん|

「 いや 、 実に 観察 が 鋭い 、 って 言い たかった の さ 」 |じつに|かんさつ||するどい||いい|||

「 取って つけた みたい ね 。 とって|||

── ともかく 、 ご 主人 は 、 東京 に 女 が いて 、 奥さん より 先 に 戻り たかった んだ と 思う わ 」 ||あるじ||とうきょう||おんな|||おくさん||さき||もどり||||おもう| In any case, the husband thinks that there was a woman in Tokyo and I wanted to return earlier than his wife. "

「 ふむ 。

それ で ?

「 奥さん は 、 山荘 へ 着いて から 、 私 たち が 一 息 ついて いる 間 に ご 主人 を 殺して ──」 おくさん||さんそう||ついて||わたくし|||ひと|いき|||あいだ|||あるじ||ころして "After my wife arrives at the mountain, kill your husband while we are breathing"

「 おい !

と 、 国 友 が 目 を 丸く した 。 |くに|とも||め||まるく|

「 そう 簡単に 殺す な よ 」 |かんたんに|ころす||

「 仮説 よ 、 もちろん 。 かせつ||

でも 、 可能 性 ある と 思わ ない ? |かのう|せい|||おもわ| まだ ご 主人 が 生きて る と 思わ せる ため に 、 料理 を ご 主人 が 作って る 、 と 強調 したり して ……」 ||あるじ||いきて|||おもわ||||りょうり|||あるじ||つくって|||きょうちょう||

「 あまり 効果 的 と は 思え ない ね 」 |こうか|てき|||おもえ||

「 もちろん よ 。

でも 、 とっさ の こと だ も の 、 それ ぐらい しか 思い 付か なかった んじゃ ない かしら 」 ||||||||||おもい|つか|||| But, it's just a matter of fact, I guess I only thought about it. "

「 考え られ ない こと じゃ ない けど ね 」 かんがえ|||||||

国 友 は 肯 いて 、「 しかし 、 死体 を どこ へ 隠した んだろう ? くに|とも||こう|||したい||||かくした|

「 部屋 へ 隠す こと ない わ 。 へや||かくす|||

何しろ 、 この 雪 です もの 。 なにしろ||ゆき|| たとえば ──」

足 を 止め 、 夕 里子 は 振り返った 。 あし||とどめ|ゆう|さとご||ふりかえった

大量の 雪 が 、 すっかり 道 を 塞いで しまって いる の が 見える 。 たいりょうの|ゆき|||どう||ふさいで|||||みえる

「 あの 下 か 」 |した|

「 それ も 可能 性 の 一 つ ね 」 ||かのう|せい||ひと||

── 二 人 は また 歩き 出した 。 ふた|じん|||あるき|だした

「 でも ね 」

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 そう だ と して も 、 他の 事 は 説明 でき ない の 。 |||||たの|こと||せつめい||| 車 の 転落 、 川西 みどり の 行方 不明 ……」 くるま||てんらく|かわにし|||ゆくえ|ふめい

「 それ に あの 超 能力 少年 か 」 |||ちょう|のうりょく|しょうねん|

国 友 は 首 を 振って 、「 どうも 好きに なれ ない ね 、 あの タイプ は 」 くに|とも||くび||ふって||すきに|||||たいぷ|

「 そんな こと 言う と 、 聞こえる わ よ 」 ||いう||きこえる||

と 、 夕 里子 は 、 谷 の 向 う の 山荘 を 指して 、 |ゆう|さとご||たに||むかい|||さんそう||さして

「 凄い 耳 を 持って る の かも しれ ない わ 」 すごい|みみ||もって|||||| "It may be that I have a terrible ear"

「 なるほど 。

ちょっと 指 を 動かせば 、 僕 ら を 殺せる の かも しれ ない な 。 |ゆび||うごかせば|ぼく|||ころせる||||| 人形 に 針 を 刺す と か ……」 にんぎょう||はり||さす||

「 あら 、 雪 ? |ゆき

こんなに 晴れて いる のに 。 |はれて||

── パラパラ と 白い もの が 落ちて 来た 。 ぱらぱら||しろい|||おちて|きた

ゴーッ と いう 唸り 。 |||うなり

ハッと 国 友 が 、 頭上 を 見上げた 。 はっと|くに|とも||ずじょう||みあげた 夕 里子 も 、 ほとんど 同時に 、 山 の 高 み を 見上げる 。 ゆう|さとご|||どうじに|やま||たか|||みあげる

雪 が 、 白い 雲 の ように なって 、 頭上 から 崩れ落ちて 来る 。 ゆき||しろい|くも||||ずじょう||くずれおちて|くる

「 走れ ! はしれ

と 、 国 友 が 叫んだ 。 |くに|とも||さけんだ

二 人 が 駆け 出す 。 ふた|じん||かけ|だす

── 下敷き に なったら 終り だ ! したじき|||おわり| ── It's over when you get underlay!

ここ まで 何 秒 で 落ちて 来る だろう ? ||なん|びょう||おちて|くる|

一 秒 ? ひと|びょう

── 二 秒 ? ふた|びょう

息 を つめ 、 必死に 駆ける ……。 いき|||ひっしに|かける

突然 、 巨大な 手 で 殴ら れた ように 、 夕 里子 は 、 地面 に 叩き 伏せ られた 。 とつぜん|きょだいな|て||なぐら|||ゆう|さとご||じめん||たたき|ふせ|

ドドド 、 と いう 地響き と 共に 、 夕 里子 の 背 に どんどん と 重 み が 加わって 来た 。 |||じひびき||ともに|ゆう|さとご||せ||||おも|||くわわって|きた

── 生き埋め に なる ! いきうめ|| 神様 ! かみさま

そして …… 不意に 静かに なった 。 |ふいに|しずかに|

夕 里子 は 、 必死で 起き上ろう と した 。 ゆう|さとご||ひっしで|おきあがろう||

体 の 上 の 雪 が 、 ガタガタ と 動く 。 からだ||うえ||ゆき||がたがた||うごく どれ ぐらい 積って いる のだろう ? ||つもって||

背骨 が 折れる か と 思う ほど の 力 で 、 歯 を くいしばり 、 夕 里子 は 、 両手 で 体 を 押し上げよう と した 。 せぼね||おれる|||おもう|||ちから||は|||ゆう|さとご||りょうて||からだ||おしあげよう||

と ── パッと 雪 の 壁 を 突き破って 、 夕 里子 の 上半身 が 雪 の 上 に 出て いた 。 |ぱっと|ゆき||かべ||つきやぶって|ゆう|さとご||じょうはんしん||ゆき||うえ||でて|

「 国 友 さん ! くに|とも|

手 が 見えた 。 て||みえた

雪 から 突き出て 、 空 を つかんで もがいて いる 。 ゆき||つきでて|から||||

「 国 友 さん ! くに|とも|

待って て ! まって| 夕 里子 は 、 雪 の 中 から 這い 出す と 、 国 友 の 方 へ と 駆け寄った 。 ゆう|さとご||ゆき||なか||はい|だす||くに|とも||かた|||かけよった

両手 で 、 力一杯 雪 を かき 出し 、 腕 を つかんで 、 体重 を かけて 引 張った 。 りょうて||ちからいっぱい|ゆき|||だし|うで|||たいじゅう|||ひ|はった

「── お 手伝い し ましょう か 」 |てつだい|||

振り向く と 、 珠美 が やって 来た 。 ふりむく||たまみ|||きた

「 珠美 、 何 のんびり して ん の よ ! たまみ|なん|||||

と 、 夕 里子 は 叫んだ 。 |ゆう|さとご||さけんだ

「 早く 来て ! はやく|きて 国 友 さん が 窒息 しちゃ う ! くに|とも|||ちっそく|| 「 は いはい 」

と 、 珠美 が やって 来る 。 |たまみ|||くる

「 手 が 冷たく なっちゃ う なあ ……」 て||つめたく|||

「 つべこべ 言って ないで 、 早く 引 張 ん の よ ! |いって||はやく|ひ|ちょう|||

「 そう キーキー 言わ ない の 。 ||いわ||

── それにしても 、 今度 は 腕 の 疲れる 旅行 だ ね 」 |こんど||うで||つかれる|りょこう||

珠美 とて 、 怪力 の 持主 と いう わけで は ない けれど 、 一 人 と 二 人 の 差 は 大きく 、 やがて 、 国 友 の 頭 が 、 雪 から 出て 来た 。 たまみ||かいりき||もちぬし|||||||ひと|じん||ふた|じん||さ||おおきく||くに|とも||あたま||ゆき||でて|きた Although it is not an owner of strength, although it is irritated, the difference between one person and two persons is big, and the head of a national friend came out of the snow in due course.

「── ああ 、 助かった ! |たすかった

雪 だらけ で 、 雪 男 みたいに なった 国 友 は 、 激しく 呼吸 を した 。 ゆき|||ゆき|おとこ|||くに|とも||はげしく|こきゅう||

「 お 安く し とき ます 」 |やすく||| "I will do it cheaply"

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

国 友 も 、 やっと 雪 の 中 から 出て 来た が 、 歩こう と して 、 くに|とも|||ゆき||なか||でて|きた||あるこう||

「 痛い ! いたい

と 、 顔 を しかめる 。 |かお||

「 足 を 痛めた の ? あし||いためた|

「 うん 。

── 挫いた らしい 。 くじいた| 悪い けど 、 肩 を 貸して くれ ない か 」 わるい||かた||かして||| I'm sorry, could you lend me a shoulder? "

「 いい わ よ 。

ほら 、 珠美 、 反対 側 の 方 」 |たまみ|はんたい|がわ||かた

「 は あい 」

夕 里子 と 珠美 の 二 人 で 、 両側 から 国 友 を 支え ながら 、 山荘 の 方 へ と 歩き 出す 。 ゆう|さとご||たまみ||ふた|じん||りょうがわ||くに|とも||ささえ||さんそう||かた|||あるき|だす

「── 危ない ところ だった 」 あぶない||

と 、 国 友 は 言った 。 |くに|とも||いった

「 夕 里子 君 、 どこ も けが は ? ゆう|さとご|きみ|||| 「 死んで る の かも しれ ない けど 、 今 は 国 友 さん の こと が 心配で 、 感じ ない の 」 しんで|||||||いま||くに|とも|||||しんぱいで|かんじ|| "It may be dead, but now I feel worried about my national friend and I do not feel it."

「 キザ だ ね 」

と 、 珠美 が 冷やかした 。 |たまみ||ひやかした

「 でも 、 あんた 、 いい 所 へ 来て くれた わ 」 |||しょ||きて||

「 そう ?

そう 思ったら 、 お 小づかい 上げて よ 」 |おもったら||こづかい|あげて|

「 それ が なきゃ いい のに ね 」

「 これ が なくなったら 、 私 で なく なる 」 |||わたくし||| "When it is gone, I will be gone"

それ は そう かも 、 と 夕 里子 は 思った 。 |||||ゆう|さとご||おもった

「── 別に ね 、 予感 が あった と か じゃ ない の よ 」 べつに||よかん||||||||

と 、 珠美 は 言った 。 |たまみ||いった

「 ただ 、 お 昼 ご飯 です よ 、 って 呼び に 来た だけ 」 ||ひる|ごはん||||よび||きた|

山荘 へ 大分 近付いて いた 。 さんそう||だいぶ|ちかづいて| It came nearly to the mountain village.

「── ねえ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 え ?

お 昼 の おかず なら 、 知ら ない よ 」 |ひる||||しら||

「 そう じゃ ない わ よ !

あの 部屋 、 誰 か 泊って る の ? |へや|だれ||とまって|| と 、 夕 里子 は 山荘 の 方 へ 目 を やった まま 、 言った 。 |ゆう|さとご||さんそう||かた||め||||いった

「 どの 部屋 」 |へや

「 一 番 こっち の 。 ひと|ばん||

二 階 の 窓 。 ふた|かい||まど ── 今 、 カーテン が 閉まって る でしょ 」 いま|かーてん||しまって||

「 ああ 、 あれ ?

── さあ 。 二 階 で いえば ……。 ふた|かい|| 私 たち の 方 と は 反対 側 でしょ 」 わたくし|||かた|||はんたい|がわ| You are the other side of us. "

「 そう ね 」

「 じゃ 、 お 客 は 入れて ない らしい よ 。 ||きゃく||いれて|||

みんな 、 私 たち の 方 の 側 の 部屋 に いる んだ もん 」 |わたくし|||かた||がわ||へや|||| Everyone is in the room on our side "

「 そう か ……」

で は 、 あの 窓 に 今 立って いた の は 誰 な んだろう ? |||まど||いま|たって||||だれ|| Then, who is the one who was standing at that window now?

今 は カーテン が 閉まって いる その 窓 に 、 夕 里子 は 、 確かに 人 の 姿 を 見た のである 。 いま||かーてん||しまって|||まど||ゆう|さとご||たしかに|じん||すがた||みた|

その 人物 は 、 夕 里子 たち の 方 を 、 じっと 見て いる ようだった 。 |じんぶつ||ゆう|さとご|||かた|||みて||

もちろん 、 まだ 大分 遠い のだ から 、 どんな 男 だった か ( 男 だ 、 と は 思った のだ が )、 よく 分 ら ない が ……。 ||だいぶ|とおい||||おとこ|||おとこ||||おもった||||ぶん|||

しかし 少なくとも 、 それ は 、 水 谷 や 金 田 で は なかった 。 |すくなくとも|||すい|たに||きむ|た|||

して みる と ── 石垣 園子 の 夫 な の か ? |||いしがき|そのこ||おっと|||

やはり 、 夫 は 本当に ただ 、「 気分 が 悪い 」 と いう ので 、 休んで いる のだろう か ……。 |おっと||ほんとうに||きぶん||わるい||||やすんで|||

国 友 と 夕 里子 が 戻って 、 また 一 騒ぎ が あった もの の 、 昼食 の 後 は 、 比較的 のんびり して しまった 。 くに|とも||ゆう|さとご||もどって||ひと|さわぎ|||||ちゅうしょく||あと||ひかくてき|||

もちろん 、 川西 みどり の こと も 気 に は なって いたろう が 、 ともかく ここ で 騒いで も 始まら ない のである 。 |かわにし|||||き|||||||||さわいで||はじまら|| Of course, even though Kawanishi Midori's thing was also bothering me, anyhow even here noisy does not start.

金田 や 敦子 は 、 裏庭 の 方 へ 出て 、 雪 で 遊んだり して いた 。 かなだ||あつこ||うらにわ||かた||でて|ゆき||あそんだり||

国 友 は 、 部屋 で 寝て いた 。 くに|とも||へや||ねて|

── 捻挫 は 大した こと も ない ようだ が 、 一応 、 湿布 して ある ので 、 動け ない 。 ねんざ||たいした||||||いちおう|しっぷ||||うごけ|

夕 里子 も 、 国 友 を 助ける の に 夢中だった ので 、 一向に 感じ なかった のだ が 、 お 風呂 へ 入って みる と 、 結構 、 かすり傷 が あちこち に できて いて 、 ベッド に 横 に なる と 、 急に 疲れ が 出て 来た の か 、 いつの間にか 眠って しまった 。 ゆう|さとご||くに|とも||たすける|||むちゅうだった||いっこうに|かんじ|||||ふろ||はいって|||けっこう|かすりきず||||||べっど||よこ||||きゅうに|つかれ||でて|きた|||いつのまにか|ねむって|

── 山荘 の 中 は 静かだった 。 さんそう||なか||しずかだった

綾子 は 、 と いえば ……。 あやこ|||

本来 なら 、 こんな 状況 である 、 勉強 を 教える と いう 雰囲気 で は ない のだ が 、 そこ は 生真面目な 綾子 。 ほんらい|||じょうきょう||べんきょう||おしえる|||ふんいき||||||||きまじめな|あやこ

今日 も 、 一 階 の 奥 の 方 に ある 秀 哉 の 部屋 で 「 授業 」 を 続けて いた 。 きょう||ひと|かい||おく||かた|||しゅう|や||へや||じゅぎょう||つづけて|

「── できて る わ 」

綾子 は 、 秀 哉 に 出した 練習 問題 の 答え を ざっと 見て 、 ノート を 置いた 。 あやこ||しゅう|や||だした|れんしゅう|もんだい||こたえ|||みて|のーと||おいた

「 もう 、 あなた に 教える こと なんて 、 ない みたい 」 |||おしえる||||

「 そんな こと ない よ 」

と 、 秀 哉 は 言った 。 |しゅう|や||いった

「 どうして ?

何でも 、 よく 分 って る じゃ ない の 」 なんでも||ぶん|||||

「 分 ら ない こと だって ある よ 」 ぶん||||||

「 そう ?

どんな こと ? ── 秀 哉 は 、 何となく 不思議な 目 で 綾子 を 見つめて いた 。 しゅう|や||なんとなく|ふしぎな|め||あやこ||みつめて|

「── 失礼 」 しつれい

と 、 ドア が 開いて 、 園子 が 入って くる 。 |どあ||あいて|そのこ||はいって|

「 あ 、 どうも 」

「 ご苦労様です 。 ごくろうさまです

お 茶 でも 、 と 思って ……」 |ちゃ|||おもって

園子 は 、 いい 香り の 紅茶 を 運んで きた 。 そのこ|||かおり||こうちゃ||はこんで|

「 どうぞ 」

「 恐れ入り ます 」 おそれいり|

綾子 は 匂い を かいで 、「── 素敵な 匂い ! あやこ||におい|||すてきな|におい

何の 紅茶 です の ? なんの|こうちゃ|| 「 珍しい 葉 な んです よ 。 めずらしい|は|||

なかなか 手 に 入ら ない もの で 」 |て||はいら||| It is not readily available "

と 、 園子 は 言った 。 |そのこ||いった

「 秀 哉 。 しゅう|や あなた は ココア ね 」 ||ここあ|

「 うん 」

「 お 勉強 の 方 は ? |べんきょう||かた|

「 よく 分 って 楽しい よ 」 |ぶん||たのしい|

と 、 秀 哉 は 言った 。 |しゅう|や||いった

「 まあ 、 良かった わ 。 |よかった|

こんな 所 まで 来て いただいた かい が あり ました 」 |しょ||きて||||| I had a chance to come to such place. "

「 いいえ 」

綾子 と して は 、 これ で 一 日 一万 円 も もらって は 申し訳ない 、 と 本気で 思って いる 。 あやこ||||||ひと|ひ|いちまん|えん||||もうしわけない||ほんきで|おもって|

「── あの 、 ご 主人 の 具合 は いかがです の ? ||あるじ||ぐあい|||

紅茶 を ゆっくり と 飲み ながら 、 綾子 は 訊 いた 。 こうちゃ||||のみ||あやこ||じん|

「 ええ 、 どうも この ところ 疲れ やすくて ね 」 ||||つかれ||

「 いけ ませ ん ね 。

── 何 か ご 病気 を ? なん|||びょうき| 「 病気 と いう わけで は ……。 びょうき|||| "I am sick ....

ただ 、 トシ な んです わ 」 |とし||| But I'm Toshi. "

「 でも ── まだ そんなに お 年 で は ……」 ||||とし||

「 そう 。

たった 四百 歳 です もの ね 」 |しひゃく|さい||| It is just 400 years old. "

と 言って 、 園子 は 笑った 。 |いって|そのこ||わらった

綾子 は 、 何となく ゾッと した が 、 一緒に なって 笑う こと に した 。 あやこ||なんとなく|ぞっと|||いっしょに||わらう|||

「 パパ に は 、 必要な もの が ある んだ よ 」 ぱぱ|||ひつような|||||

と 、 秀 哉 が 言った 。 |しゅう|や||いった

「 必要な もの ? ひつような|

「 うん 。

それ さえ あれば 、 元気に なる んだ けど ね 」 |||げんきに||||

「 まあ 、 それ が 今 は ──」 |||いま|

「 なかなか 手 に 入り ませ ん の 」 |て||はいり|||

と 園子 は 首 を 振った 。 |そのこ||くび||ふった

「 お 薬 ── か 何 か です か 」 |くすり||なん|||

「 そんな ような もの です 」

綾子 は 、 紅茶 を きれいに 飲み干して しまった 。 あやこ||こうちゃ|||のみほして|

── ちょっと 変った 匂い と 味 の 紅茶 だった が 、 本当に おいしい 。 |かわった|におい||あじ||こうちゃ|||ほんとうに|

「 ごちそうさま でした 」

「 まあ 、 気 に 入って いただけた ようです わ ね 。 |き||はいって||||

嬉しい わ 」 うれしい|

と 、 園子 は 微笑んだ 。 |そのこ||ほおえんだ

「 じゃ 、 秀 哉 、 ちゃんと 教えて いただく の よ 」 |しゅう|や||おしえて|||

「 うん 」

「 お邪魔 いたし まして 」 おじゃま||

「 いいえ ……」

綾子 は 、 園子 が 出て 行く と 、「 面白い お 母 様 ね 」 あやこ||そのこ||でて|いく||おもしろい||はは|さま|

と 言った 。 |いった

「 そう だ ね 」

秀 哉 は 、 鉛筆 の 先 で 、 机 を トン 、 トン 、 と 叩き 始めた 。 しゅう|や||えんぴつ||さき||つくえ||とん|とん||たたき|はじめた

「 じゃ 、 次の ページ に 行き ましょう か 」 |つぎの|ぺーじ||いき||

と 、 綾子 は 、 本 を めくって 、 欠 伸 を した 。 |あやこ||ほん|||けつ|しん||

「 いやだ わ 。

眠く なって 来た ……」 ねむく||きた

「 そう ?

鉛筆 が トントントン 、 と 単調な リズム を 作って いる 。 えんぴつ||とんとん とん||たんちょうな|りずむ||つくって|

綾子 は 、 頭 の 中 に もや が 広がって 来る ような 気 が して 、 頭 を 振った 。 あやこ||あたま||なか||||ひろがって|くる||き|||あたま||ふった

でも 、 一向に スッキリ し ない 。 |いっこうに|すっきり||

だめじゃ ない の !

ちゃんと お 金 を もらって 教えて いる のに 、 その 最中 に 寝たり しちゃ ! ||きむ|||おしえて||||さい なか||ねたり| しっかり して !

「 眠ったら ? ねむったら

トントントン ……。 とんとん とん

「 でも …… だめ よ …… お 勉強 が ……」 ||||べんきょう|

瞼 が 重く なる 。 まぶた||おもく|

綾子 は 、 必死で 開けて いよう と する のだ が 、 だめな のだ 。 あやこ||ひっしで|あけて|||||||

「 大丈夫 さ 」 だいじょうぶ|

トントントン ……。 とんとん とん

「 そう ……。

そう ね 、 大丈夫 ね ……」 ||だいじょうぶ|

大丈夫 。 だいじょうぶ

教え なく たって 、 この 子 は よく 分 って る んだ もの ……。 おしえ||||こ|||ぶん||||

「 疲れて る んだ よ 。 つかれて|||

それ に お腹 も 一杯で 」 ||おなか||いっぱいで

「 そう …… ね 」

「 眠く なって も 当り前 さ 」 ねむく|||あたりまえ|

「 当り前 ね ……」 あたりまえ|

「 目 を 閉じて 、 ゆっくり 頭 を 机 に のせて 、 眠ったら ? め||とじて||あたま||つくえ|||ねむったら

「 そう …… そう ね 」

目 が 閉じる と 、 綾子 は 、 ゆっくり と 机 の 上 に 頭 を のせた 。 め||とじる||あやこ||||つくえ||うえ||あたま||

冷たい 机 の 感触 が 、 かすかに あって ……。 つめたい|つくえ||かんしょく|||

それ きり 、 綾子 は 、 深い 眠り の 中 へ と 、 引きずり 込ま れて 行った 。 ||あやこ||ふかい|ねむり||なか|||ひきずり|こま||おこなった

夕 里子 は ハッと 起き上がった 。 ゆう|さとご||はっと|おきあがった

「 い たた ……」

体 の 節々 が 痛い 。 からだ||ふしぶし||いたい

── 部屋 は 明るかった 。 へや||あかるかった

どうした んだろう ?

どうして 急に 目 が さめた の かしら ? |きゅうに|め||||

何だか 、 突然 、 危険な こと に 出あった ような 気 が して 、 ハッと した のだ 。 なんだか|とつぜん|きけんな|||であった||き|||はっと||

「 夢 でも 見て た の か なあ 」 ゆめ||みて||||

と 、 呟いた 。 |つぶやいた

何の 夢 を ? なんの|ゆめ|

── 一向に 思い出せ ない のだ が 、 しかし 恐ろしい 夢 だった こと は 、 間違い ない 。 いっこうに|おもいだせ|||||おそろしい|ゆめ||||まちがい|

少し 、 額 に 汗 まで かいて いる 。 すこし|がく||あせ|||

夕 里子 は 、 ベッド に 座った まま 、 しばらく ぼんやり して いた 。 ゆう|さとご||べっど||すわった|||||

窓 の 外 は 明るく 、 雪 を かぶった 山 が 、 少し 覗いて いる 。 まど||がい||あかるく|ゆき|||やま||すこし|のぞいて|

空気 も 澄んで いて 、 本当 なら 、 こんなに 楽しい こと は ない はずな のに ……。 くうき||すんで||ほんとう|||たのしい||||| The air is also clear, if it is true, there should not be such a lot of fun ....

でも 、 何 か 重苦しい 影 が 、 のしかかって いる ような 気 が して なら ない のだ 。 |なん||おもくるしい|かげ|||||き|||||

トントン 、 と ノック の 音 が した 。 とんとん||||おと|| Ton Ton, and the knock sounded.

「 どなた ?

「 僕 だ よ 、 金田 」 ぼく|||かなだ

「 ああ 。

入り なさい よ 」 はいり||

金田 が 、 そっと 入って 来る 。 かなだ|||はいって|くる

「 寝て る の か と 思った 」 ねて|||||おもった "I thought he was asleep"

「 今 、 起きた ところ よ 。 いま|おきた|| "I just got up.

── どうした の ? 「 うん 」

金田 は 、 空いた ベッド に 腰 を かけた 。 かなだ||あいた|べっど||こし||

「 口説き に 来た んじゃ ない でしょう ね 」 くどき||きた||||

「 まさか 」

「 あら 、 それ 、 どういう 意味 ? |||いみ

「 いや ── あの 刑事 さん が いる から さ 」 ||けいじ|||||

と 、 金田 は あわてて 言った 。 |かなだ|||いった

「 お 世辞 は いい わ よ 。 |せじ||||

どうか した の ? 「 今 、 君 の 妹 なんか と さ 、 裏 で 遊んで た んだ よ 」 いま|きみ||いもうと||||うら||あそんで|||

「 それ で ?

「 雪 ダルマ を 作って ね 。 ゆき|だるま||つくって|

三 つ も こしらえた んだ 」 みっ||||

「 へえ 、 意外 と 幼い 趣味 ね 」 |いがい||おさない|しゅみ|

「 からかう な よ 」

「 いい じゃ ない 。

私 だって 好き よ 」 わたくし||すき|

「 ただ さ ── その とき 、 雪 の 中 から 、 こいつ を 見付けた 」 ||||ゆき||なか||||みつけた

と 、 金田 が ポケット から 出した の は 、 銀色 の ペンダント だった 。 |かなだ||ぽけっと||だした|||ぎんいろ||ぺんだんと|

「 それ が どうした の ?

「 川西 みどり の なんだ 」 かわにし|||

夕 里子 は 、 立って 行って 、 ペンダント を 受け取った 。 ゆう|さとご||たって|おこなって|ぺんだんと||うけとった

「── 確かに ? たしかに

「 うん 。

僕 が 買って やった んだ もの 。 ぼく||かって||| ほら 、〈 M ・ K 〉 って 彫って ある だ ろ ? |m|k||ほって||| 「 そう ね 。

── どの 辺 で ? |ほとり| 「 だ から 、 そこ の 裏 。 ||||うら

── あんまり 崖 の 方 に は 行って ない 」 |がけ||かた|||おこなって|

「 そう ……。

彼女 、 ここ へ 来て いる って こと だ わ 」 かのじょ|||きて|||||

「 でも 、 どこ に いる ?

「 分 ら ない けど ……」 ぶん|||

夕 里子 は 、 ペンダント を 、 金田 に 返した 。 ゆう|さとご||ぺんだんと||かなだ||かえした

「 彼女 の 身 に 何 か あった と 思う かい ? かのじょ||み||なん||||おもう| "Do you think that something happened to her?

「 当然 よ 」 とうぜん|

夕 里子 は 即座に 答えた 。 ゆう|さとご||そくざに|こたえた

「 あんな 所 で 、 彼女 が 自分 から 姿 を 消す わけな いわ 」 |しょ||かのじょ||じぶん||すがた||けす|| "In a place like that, she will not disappear from herself"

金田 は 、 ため息 を ついた 。 かなだ||ためいき||

「 どういう こと な んだろう な 。

── さっぱり 分 ら ない よ 」 |ぶん|||

夕 里子 は 、 ちょっと 考えて から 、 ゆう|さとご|||かんがえて|

「 ねえ 」

と 、 少し 声 を 低く して 、「 一緒に 調べて み ない ? |すこし|こえ||ひくく||いっしょに|しらべて||

「 何 を ? なん|

「 反対の 端 の 部屋 。 はんたいの|はし||へや

── さっき 、 誰 か いる の が 見えた の よ 」 |だれ|||||みえた||

「 二 階 の ? ふた|かい|

「 そう 。

── もしかしたら 、 幻 の ご 主人 かも しれ ない わ 、 ここ の 」 |まぼろし|||あるじ||||||

「 でも 、 奥さん たち 、 一 階 に いる んじゃ ない の かい ? |おくさん||ひと|かい||||||

「 そう よ 。

だから 、 二 階 に 誰 が いる か 、 興味 ある の よ 」 |ふた|かい||だれ||||きょうみ|||

「 でも 勝手に ──」 |かってに

「 そう 。

もしかしたら 、 川西 みどり さん の こと だって 分 る かも しれ ない のに 」 |かわにし||||||ぶん|||||

と 肩 を すくめて 、「 いい わ 。 |かた||||

私 、 一 人 で 調べる 」 わたくし|ひと|じん||しらべる

「 待てよ 。 まてよ

分 った から ……」 ぶん||

金田 は 苦笑い して 、「 きっと 君 の 恋人 の 刑事 さん も 、 いつも こうして 引 張り 回さ れて る んだ な 」 かなだ||にがわらい|||きみ||こいびと||けいじ|||||ひ|はり|まわさ|||| Kanada laughed a bitterly and said, 'I'm sure your criminal crime is always drawn like this'

と 言った 。 |いった

廊下 へ 出る と 、 夕 里子 は 、 一 階 へ 下りる 階段 の 所 へ 行き 、 下 の 様子 を うかがった 。 ろうか||でる||ゆう|さとご||ひと|かい||おりる|かいだん||しょ||いき|した||ようす||

「── 別に 、 人 の 来る 気配 は ない わ 」 べつに|じん||くる|けはい|||

と 、 囁く ように 言って 、「 行 くわ よ 」 |ささやく||いって|ぎょう||

廊下 を 、 あまり 足音 を たて ない ように して 、 進んで 行く 。 ろうか|||あしおと||||||すすんで|いく

「── この ドア よ 」 |どあ|

と 、 夕 里子 は 低く 囁いた 。 |ゆう|さとご||ひくく|ささやいた

「 開く ? あく

「 分 ら ない けど ……。 ぶん|||

ちょっと 待って 」 |まって

夕 里子 は 、 ドア に 、 そっと 耳 を 押し当てた 。 ゆう|さとご||どあ|||みみ||おしあてた

誰 か が いる の なら 、 少し ぐらい は 物音 が する だろう 。 だれ||||||すこし|||ものおと|||

── しかし 、 たっぷり 三 分 以上 も 耳 を 澄まして いた が 、 かすかな 音 一 つ 、 聞こえ ない 。 ||みっ|ぶん|いじょう||みみ||すまして||||おと|ひと||きこえ|

夕 里子 は 、 ドア の ノブ を そっと つかむ と 、 回して みた 。 ゆう|さとご||どあ|||||||まわして|

開く 。 あく

── ドア は スッ と 内側 へ と 開いた 。 どあ||||うちがわ|||あいた

「 大丈夫 かい ? だいじょうぶ|

金田 が 、 思わず 言った 。 かなだ||おもわず|いった

「 何 よ 、 男 でしょ 」 なん||おとこ|

中 は 、 真 暗 だった 。 なか||まこと|あん|

いくら カーテン が 引いて ある と は いって も 、 少し は 光 が 入って い い はずだ が 。 |かーてん||ひいて||||||すこし||ひかり||はいって||||

何も 見え ない 。 なにも|みえ|

── 夕 里子 は 、 思い切って 、 部屋 の 中 へ と 踏み込んだ 。 ゆう|さとご||おもいきって|へや||なか|||ふみこんだ

と ── 突然 、 ドア が バタン 、 と 音 を たてて 閉った のだ 。 |とつぜん|どあ||||おと|||しまった|

夕 里子 は びっくり した 。 ゆう|さとご|||

「 金田 君 ! かなだ|きみ

振り向いて 、 ドア を 開けよう と した が 、 今度 は びくとも し ない 。 ふりむいて|どあ||あけよう||||こんど|||| I turned around and tried to open the door, but this time I will not beat it.

夕 里子 は 、 一 人 で 部屋 の 中 に いた 。 ゆう|さとご||ひと|じん||へや||なか||

── ドア も 閉って 真 暗 である 。 どあ||しまって|まこと|あん|

目 が なれれば 、 少し は 何 か が ……。 め|||すこし||なん||

ふと 、 奇妙な 匂い を かいだ 。 |きみょうな|におい||

── 何の 匂い だろう ? なんの|におい|

決して 不快な 匂い で は ない が 、 しかし 、 よく 分 ら ない 匂い である 。 けっして|ふかいな|におい|||||||ぶん|||におい|

そして ── ガサッ と 何 か の 音 が した 。 |||なん|||おと||

「 誰 か …… いる んです か ? だれ||||

と 、 夕 里子 は 呼びかけた 。 |ゆう|さとご||よびかけた

「 いる んだったら 、 返事 して 」 ||へんじ|

手 は 、 明り の スイッチ の ある はずの 所 を 探って いた 。 て||あかり||すいっち||||しょ||さぐって|

しかし 、 何も 手 に 触れ ない 。 |なにも|て||ふれ| のっぺり と した 壁 ばかり 。 |||かべ|

ガサッ 、 と また 音 が した 。 |||おと||

その 音 は 、 夕 里子 に ずっと 近付いて 来て いた のである ……。 |おと||ゆう|さとご|||ちかづいて|きて|| That sound was coming closer all the way to Riko Yuri ... ....