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三姉妹探偵団 2 キャンパス篇, 三姉妹探偵団(2) Chapter 02 (1)

三姉妹探偵団(2) Chapter 02 (1)

2 奇妙な 縁

「── 無理じゃ ない ?

と 、 片瀬 敦子 は 言った 。

「 あっさり 言わ ないで よ 」

夕 里子 は 苦笑 した 。

同じ 私立 女子 高 の 制服 に 身 を 包んだ 、 親友 同士 。

授業 を 終えて 学校 を 出る ところ である 。

そろそろ 黄昏 の 気配 が 立ちこめて いた 。

本来 なら 二 人 と も 大学 を 受ける つもりで いた のだ が 、 夕 里子 の 方 は 家 を 焼け 出さ れ 、 敦子 の 方 は 母親 が 殺さ れる と いう 事件 に ぶつかって 、 結局 このまま 短大 に 進む こと に した ので 、 気 が 楽だった 。

「 でも 、 珠美 が 何とか する と 思う んだ 」

と 、 夕 里子 は 言った 。

「 そう ?

「 お 小づかい が かかって る もの 。

あの 子 、 お 金 に は 目 が ない から ね 」

敦子 は 、 クスッ と 笑って 、

「 本当に いい わ ね 、 女 の 姉妹 が いて 。

羨 しい 。 私 なんて 一 人 娘 で ……」

「 苦労 も ある わ よ 」

と 夕 里子 は 言った 。

「── じゃ 、 ともかく 駅前 の 喫茶 店 で 珠美 と 待ち合せて る から 。 敦子 も 来 ない ? 「 邪魔じゃ ない の ?

「 全然 。

── 珠美 が どんな こと 考えて 来る か 、 聞く 価値 ある と 思う よ 」

「 聞きたい なあ 、 本当に ! と 、 敦子 は 笑った 。

── 片瀬 敦子 は 美人 タイプ 。

夕 里子 は 、 愛敬 の ある タイプ だ 。 もっとも 、 これ は 当の 夕 里子 の 分類 だ から 、 あんまり 当て に は ……。

いや 、 そんな こと を 言う と 夕 里子 に けっとばさ れる かも しれ ない 。 「 でも 、 おたく の お 姉さんって 本当に ユニークな 人 ね 」 「 ユニーク すぎて 困る わ よ 」 と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。 「 あ 、 この 店 だ 」

二 人 は 、 自動 扉 が 開く と 、 中 に 入った 。

「 珠美 ── まだ 来て ない みたい ね 」

と 、 夕 里子 が 中 を 見回して いる と 、

「 夕 里子 、 ほら ──」

と 、 敦子 が 肩 を 叩いた 。

「 え ?

いた ? 夕 里子 は 店 の 奥 の 方 へ 目 を やって 、 びっくり した 。

夕 里子 の 方 へ 手 を 振って いる 若い 男性 ……。

「── 国友 さん !

夕 里子 は 急いで 歩いて 行った 。

「 久しぶりだ ね 。

そっち は 片瀬 敦子 ── 君 だっけ ? 「 憶 えて て 下さった んです か ?

と 、 敦子 が 言った 。

「 刑事 は 人 の 顔 や 名前 は 忘れ ない んだ よ 」

と 国友 は 言った 。

「 まあ かけ なさい 」

夕 里子 と 敦子 は 、 向い合った 席 に つく と 、

「 その 節 は 色々 と ──」

と同時に 言い かけて 、 笑い 出して しまった 。

── 夕 里子 や 敦子 を 巻き込んだ 一連の 殺人 事件 で 、 捜査 に 当った の が 、 この 若い 独身 の 国友 刑事 だった のである 。

「 夕 里子 君 、 家 の 方 は ?

「 ええ 。

すぐに は 建てられ ない んです 。 お 金 も ない し 。 今 は マンション を 会社 に 借りて もらって 、 住んでます 」 「 そう か 。 いや 、 どう して る か な 、 と 気 に なって ね 。 でも 、 忙しくて 、 なかなか 電話 も でき なかった 」

「 国友 さん 、 まだ 独身 ?

「 お 見合 する ヒマ も なくて ね 」

と 、 国友 は 笑った 。

「 本当に 懐 し いわ !

でも ── いい んです か ? 私 たち と 話 なんか して て 」

「 君 に 会い に 来た んだ から ね 」

「 私 に ?

夕 里子 は 面食らった 。

「 うん 。

珠美 君 から 電話 を もらって ね 」

「 珠美 が ── 何て 電話 した んです か ?

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。

「 何だか 、 どこ か の 芸能 プロダクション を 紹介 して くれって 。 紹介 して くれたら 、 夕 里子 君 が デート して くれるって 話 だった よ 」 「── あの 子ったら ! 夕 里子 は 真 赤 に なった 。

「 いや 、 デート は ともかく ね 」

と 、 国友 は 笑って 、「 事情 は 聞いた よ 。

君 の お 姉さん も 相 変ら ず らしい ね 」

「 あの 人 は 、 宇宙 人 が 攻めて 来たって 変ら ない わ 」 と 夕 里子 は 言った 。 大分 、 調子 が 戻って 来た ようだ 。

── 前 の 事件 の とき に は 、 結構 「 親しい 」 仲 に なって いた のだ から 。

「 ごめんなさい 、 珠美 が 図 々 しい こと お 願い しちゃって 」 「 いやいや 。 ただ 、 こっち も 専門 外 なんで ね 、 そう そう 顔 が 広い わけじゃ ない んだ よ 」

「 そう でしょう ね 」

「 一 つ 、 以前 、 ある 事件 で ちょっと 関り 合い に なった 奴 が いて ね 、 それ が プロダクション を やって る んだ 。

何なら そこ へ 聞いて みて あげて も いい よ 」

「 お 願い できる かしら !

だって 、 姉 に 任し といたら 、 絶対 に 誰 も 引 張って 来 れ ない に 決って る んだ もの 」 「 そう か 。 分った 。 ── ただ ね 、 この プロダクション に どんな タレント が いる の か 、 僕 は 全然 知ら ない んだ 」

「 どうせ 、 人気 の ある 人 は もう スケジュール 、 詰っちゃって る に 決って る から 、 誰 だって いい んだ わ 」 「 でも 、 まるで 聞いた こと の ない 歌手 なんか じゃ 困る だ ろ 」 「 それ なら ──」 と 、 敦子 が 口 を 挟んだ 。 「 いっそ 、 もう 忘れられ かけて る 人 は ? 〈 懐 メロ 大会 〉 に して 」

「 それ も いい かも しれ ない な 」

と 、 国友 は 笑って 、「 OK 。

じゃ 、 今日 中 に 連絡 して みる よ 」

「 よろしく !

と 、 夕 里子 は 頭 を 下げた 。

「 出来 の 悪い 姉 の ため に ご 協力 を ! 「 いや 、 僕 は 夕 里子 君 と の デート を 叶えて もらえば いい んだ よ 」

「 じゃ 、 高級 フランス 料理 を 、 おごら せて あげます 」 夕 里子 は 澄まして 言った 。 「 いい 匂い !

珠美 が 早くも 、 はし を つかんで いる 。

「 ほら 、 あんた も ちょっと 手伝って 」

「 は あい 」

わ いわい と 三 人 で 食卓 を 準備 する の も 、 なかなか 楽しい 。

「── もう お 鍋 の おいしい 季節 ねえ 」

食べ 始めて 、 綾子 が しみじみ と 言った 。

「 月日 の たつ の は 早い もの 」

夕 里子 が 月 並 な セリフ を 言って 、「── お 姉さん 、 どうした ?

プロダクション の 方 、 電話 して みた ? と 訊 いた 。

「 プロダクションって ? 綾子 は キョトンと して 、「── ああ 、 文化 祭 の こと ?

今日 は ちょっと 忙しくて ね 。 そんなに 急が なくて も 、 まだ 六 日 ある から ……」

国友 に 頼んで 良かった 。

── 夕 里子 は 、 珠美 と 目 を 見交わして 、 思った 。

放っといたら 、 当日 に なって から 、 あわてて ── いや 、 それ でも 綾子 当人 は あわて ない だろう が ── 電話 し まくる こと に なって いた だろう 。

「 どんな 人 が いい の かしら ?

ゆうべ TV の 歌 番組 を 見たら 、 ずいぶん 、 聞いた こと の ない 人 が いっぱい 出て た わ 。 あの 内 、 二 、 三 人 ぐらい なら 、 空いて る んじゃ ない ? 「 それ じゃ 、 みんな 失業 しちゃ うよ 」

と 珠美 が 言った 。

「 TV に 出る ような の は 、 みんな 睡眠 二 、 三 時間って の ばっかりな んだ から 」 「 へえ ! よく 仕事 が できる わ ね 」

と 、 綾子 は 一 人 で 感心 して いる 。

「── あら 、 電話 だ わ 」

「 出よう か ?

きっと パパ よ 」

「 じゃ 、 私 が 出る わ 」

ちっとも 急ぐ でも なく 、 綾子 は 居間 へ 行って 、 受話器 を 上げた 。

「── ああ 、 やれやれ 、 だ 」

と 、 残った 夕 里子 が ため息 を つく 。

「 助かった でしょ 、 国友 さん に 頼んで 」

「 まだ 分 ん ない の よ 、 国友 さん だって 、 捜 せる か どう か 。

それ に 珠美 、 勝手に デート さ せ ないで 」

「 あれ ?

喜ぶ と 思った んだ けど な 」

と 、 珠美 は 澄まし 顔 だ 。

「 あんた は 、 そんな こと に 気 を 回さ なくて いい の !

「 お 姉ちゃん 、 なかなか 自分 じゃ もて ない から 、 手伝って あげた の よ 」

「 大きな お 世話 」

「 ちゃんと 謝礼 は いただきます から ね 」 「 結果 次第 よ 」 と 、 やり合って いる 所 へ 、 綾子 が 戻って 来た 。 「 綾子 姉ちゃん 、 何 だって 、 パパ ?

「 パパ じゃ ない の よ 」

「 じゃ 誰 から ?

「 うん ……」

綾子 は 首 を かしげて いる 。

「 また 、 向 う の 名前 聞く の 、 忘れた んでしょ 。

よく やる んだ から 」

「 違う わ よ 。

── ほら 、 メモ した もの 」

「 見せて 。

── 何 よ 、 これ 、〈 P プロダクション の 金田 〉って ……」 「 そういう 人 から だった の 」 夕 里子 は 、 まさか 、 と 思った 。 「── どういう 用件 ?

「 うん 、 そこ の 歌手 を 、 文化 祭 に 出して くれるって 。 でも 、 私 、 全然 電話 して も いない の よ 。 どう し て向う から かかって 来る んだ ろ ? へえ 、 国友 さん も 、 やる じゃ ない !

夕 里子 は 、 あまり 結果 が 早く 出た ので 、 びっくり した 。 珠美 の 方 は 、 ニヤニヤ して 夕 里子 を 見て いる 。 ── もちろん 、 いくら 入る か 、 計算 して いる のである 。

綾子 が 一 人 、 不思議 そうに 、 首 を かしげて いた 。

「 うち の 大学 の 文化 祭って 、 そんなに 有名な の か なあ ……」

「── 誰 だって ?

思わず 、 声 が 高く なった 。

「 しっ、 あんまり 大きな 声 出す と ──」 と 、 石原 茂子 が 急いで 言った 。 「 ああ 、 分って る 。 でも ……」

実際 の ところ 、 太田 宣 浩 は 、 そんなに 大きな 声 を 出した わけで は ない 。

ごく 普通に 話 を して いれば 、 たまに は この 程度 の 声 は 出す こと が ある 。

ただ 、 太田 の 声 が 大きく 聞こえた の は 、 周囲 が 静か すぎる から な のである 。

── もう 、 大学 の 構内 に は 人影 とて なかった 。

夜 、 十二 時 を 過ぎて いる のだ から 、 当然の こと だろう 。

もう 文化 祭 が 近い ので 、 準備 の ため に 、 結構 遅く まで 残って いる 学生 も いた が 、 それ でも 十 時 半 ころ に は ほとんど が 帰って いた 。

二 人 は 、 文学部 の 建物 の わき の 小径 を 、 ゆっくり と 歩いて いた 。

石原 茂子 は 、 白っぽい セーター に 、 紺 の スカート と いう 、 至って 平凡な 女子 大 生 スタイル 。 並んで 歩いて いる 太田 が 大柄な せい も あって 、 実際 より も 小柄に 見える 。

太田 の 方 は 、 どう 見て も 大学生 に は 見え ない 。

実際 大学生 で は なく 、 この 大学 の ガードマン を つとめて いる ので 、 いささか 野暮ったい 制服 姿 であった 。

「 それ に したって ──」

少し 間 を 置いて 、 太田 が 言った 。

「 より に よって 、 神山 田 タカシ を 呼ば なくて も いい じゃ ない か ! 「 気持 は 分 る けど ……。

仕方ない わ よ 。 もう 決っちゃった んだ もの 」 と 、 石原 茂子 は 肩 を すくめた 。 「── あいつ 、 もう 落ち目 だろう 。

この ところ 、 全然 TV でも 見 ない じゃ ない か 」

「 出て たって 見 ない くせ に 」

と 、 茂子 は 微笑んだ 。

「 当り前だ よ 。

── あいつ の おかげ で ……。 いや 、 ホテル を クビ に なった の なんて 、 どうって こと ない 。 別に 一生 、 あそこ で 働く 気 だった わけじゃ ない さ 。 ただ 、 君 が ……」

太田 は 言い淀んだ 。

茂子 が 、 太田 の 腕 に 腕 を 絡めて 、

「 私 は もう 忘れた わ 」

と 言った 。

「 事故 に 遭った ような もん じゃ ない 、 あんな の 」

「 それ は 僕 が 言った んだ 」

と 、 太田 は 渋い 顔 で 、「 でも 、 あいつ の こと を 許した わけじゃ ない 」

「 でも 、 実際 に もう 先 は 見えて る わ 。

あんな こと して 、 努力 も し ないで いれば 、 その 内 、 忘れられる わ 。 自業自得 と いう か 、 ね ……」

「 うん 」

太田 は 、 茂子 の 肩 に 手 を 回した 。

「── でも 、 他 に 誰 か いない の かい ? 「 とても 無理 よ 」

と 、 茂子 は 首 を 振った 。

「 あと 四 日 しか ない の よ 。 最悪の 場合 は 中止 も 考えて た んだ もの 。 ── 綾子 さん 、 よく 見付けて 来た わ 」

「 綾子って ──」 「 佐々 本 綾子 さん 。 ほら 、 いつか 紹介 して あげた でしょ 」

「 うん 。

あの 幼稚 園児 みたいな 子 だ ろ ? 「 悪い わ ね !

と 、 茂子 は 吹き出した 。

「 気の毒だった の よ 。 とても 、 名 の ある 歌手 なんて 呼べっこ ない から 、 準備 委員 長 の 水口 さん が 責任 を 押し付けちゃった の 。 私 、 腹 が 立った けど 、 三 年生 に 逆らう わけに も いか ない し ……。 そ したら 、 綾子 さん 、 どう やった の か 知ら ない けど 、 あの プロダクション と 話 を つけちゃった の よ 」 「 でも 、 あいつ じゃ 、 時代遅れな んじゃ ない の か ? 「 そりゃ 、 今 の トップ と は 言え ない けど 、 一応 、 みんな 名前 も 知って る し ……。

役員 会 で は 、『 まだ 生きて た の 、 あの 人 ? 』 なんて 言った 一 年生 も いた けど ね 」

と 、 茂子 は 笑った 。

「 しかし …… 僕 は やっぱり 反対だ な 。

まあ 、 ガードマン が 反対 したって 仕方ない けど 」 「 心配な いわ よ 」 と 、 茂子 は 、 太田 の 肩 に 、 頭 を もたせかけた 。 「 ほんの 何 時間 か 、 来る だけ なんだ もの ……」

「 うん ……」

「 それ に 、 三 年 前 よ 。

もう 向 うだって 、 私 の こと なんて 憶 えちゃ いない わ 」 「 そう は 思う けど な ……」 太田 は 、 まだ すっきり し ない 口調 で 言った 。 「 何 が 心配な の ?

「 いや 、 もし 、 あいつ と 会ったり したら 、 また ぶん 殴る んじゃ ない か と 思って ね 」

「 やめて よ 」

と 、 茂子 は 苦笑 した 。

「 失業 しちゃったら 、 私 が 卒業 して も 結婚 が 先 に なっちゃ うわ よ 」 「 冗談 だ よ 」 と 、 太田 は やっと 笑顔 に なった 。 「 それ に 文化 祭 の 当日 は 、 忙しくて それ どころ じゃ ない さ 、 こっち も 」

「 そう ね 。

外 から 大勢 人 が 来る んだ から 」

「 去年 なんか 、 顕微 鏡 を 盗ま れ ち まった から なあ 。

今年 は 用心 し ない と 」

「 ひどい 人 が いる わ ね 」

「 世の中 に ゃ 、 こっち の 想像 も つか ない ような 奴 が いる んだ 」

と 、 太田 は 言った 。

「 あの 神山 田 みたいに ね 」

「── あら 」

と 、 茂子 が 足 を 止めた 。


三姉妹探偵団(2) Chapter 02 (1) みっ しまい たんてい だん|chapter

2 奇妙な 縁 きみょうな|えん

「── 無理じゃ ない ? むりじゃ|

と 、 片瀬 敦子 は 言った 。 |かたせ|あつこ||いった

「 あっさり 言わ ないで よ 」 |いわ||

夕 里子 は 苦笑 した 。 ゆう|さとご||くしょう|

同じ 私立 女子 高 の 制服 に 身 を 包んだ 、 親友 同士 。 おなじ|しりつ|じょし|たか||せいふく||み||つつんだ|しんゆう|どうし Best friends dressed in the same private high school uniform.

授業 を 終えて 学校 を 出る ところ である 。 じゅぎょう||おえて|がっこう||でる||

そろそろ 黄昏 の 気配 が 立ちこめて いた 。 |たそがれ||けはい||たちこめて|

本来 なら 二 人 と も 大学 を 受ける つもりで いた のだ が 、 夕 里子 の 方 は 家 を 焼け 出さ れ 、 敦子 の 方 は 母親 が 殺さ れる と いう 事件 に ぶつかって 、 結局 このまま 短大 に 進む こと に した ので 、 気 が 楽だった 。 ほんらい||ふた|じん|||だいがく||うける|||||ゆう|さとご||かた||いえ||やけ|ださ||あつこ||かた||ははおや||ころさ||||じけん|||けっきょく||たんだい||すすむ|||||き||らくだった

「 でも 、 珠美 が 何とか する と 思う んだ 」 |たまみ||なんとか|||おもう|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 そう ?

「 お 小づかい が かかって る もの 。 |こづかい||||

あの 子 、 お 金 に は 目 が ない から ね 」 |こ||きむ|||め||||

敦子 は 、 クスッ と 笑って 、 あつこ||||わらって

「 本当に いい わ ね 、 女 の 姉妹 が いて 。 ほんとうに||||おんな||しまい||

羨 しい 。 うらや| 私 なんて 一 人 娘 で ……」 わたくし||ひと|じん|むすめ|

「 苦労 も ある わ よ 」 くろう||||

と 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「── じゃ 、 ともかく 駅前 の 喫茶 店 で 珠美 と 待ち合せて る から 。 ||えきまえ||きっさ|てん||たまみ||まちあわせて|| 敦子 も 来 ない ? あつこ||らい| 「 邪魔じゃ ない の ? じゃまじゃ||

「 全然 。 ぜんぜん

── 珠美 が どんな こと 考えて 来る か 、 聞く 価値 ある と 思う よ 」 たまみ||||かんがえて|くる||きく|かち|||おもう|

「 聞きたい なあ 、 本当に ! きき たい||ほんとうに と 、 敦子 は 笑った 。 |あつこ||わらった

── 片瀬 敦子 は 美人 タイプ 。 かたせ|あつこ||びじん|たいぷ

夕 里子 は 、 愛敬 の ある タイプ だ 。 ゆう|さとご||あいきょう|||たいぷ| もっとも 、 これ は 当の 夕 里子 の 分類 だ から 、 あんまり 当て に は ……。 |||とうの|ゆう|さとご||ぶんるい||||あて||

いや 、 そんな こと を 言う と 夕 里子 に けっとばさ れる かも しれ ない 。 ||||いう||ゆう|さとご||けっ とばさ|||| 「 でも 、 おたく の お 姉さんって 本当に ユニークな 人 ね 」 「 ユニーク すぎて 困る わ よ 」 と 、 夕 里子 は 苦笑 した 。 ||||ねえさん って|ほんとうに|ゆにーくな|じん||ゆにーく||こまる||||ゆう|さとご||くしょう| 「 あ 、 この 店 だ 」 ||てん|

二 人 は 、 自動 扉 が 開く と 、 中 に 入った 。 ふた|じん||じどう|とびら||あく||なか||はいった

「 珠美 ── まだ 来て ない みたい ね 」 たまみ||きて|||

と 、 夕 里子 が 中 を 見回して いる と 、 |ゆう|さとご||なか||みまわして||

「 夕 里子 、 ほら ──」 ゆう|さとご|

と 、 敦子 が 肩 を 叩いた 。 |あつこ||かた||たたいた

「 え ?

いた ? 夕 里子 は 店 の 奥 の 方 へ 目 を やって 、 びっくり した 。 ゆう|さとご||てん||おく||かた||め||||

夕 里子 の 方 へ 手 を 振って いる 若い 男性 ……。 ゆう|さとご||かた||て||ふって||わかい|だんせい

「── 国友 さん ! くにとも|

夕 里子 は 急いで 歩いて 行った 。 ゆう|さとご||いそいで|あるいて|おこなった

「 久しぶりだ ね 。 ひさしぶりだ|

そっち は 片瀬 敦子 ── 君 だっけ ? ||かたせ|あつこ|きみ|だ っけ 「 憶 えて て 下さった んです か ? おく|||くださった||

と 、 敦子 が 言った 。 |あつこ||いった

「 刑事 は 人 の 顔 や 名前 は 忘れ ない んだ よ 」 けいじ||じん||かお||なまえ||わすれ|||

と 国友 は 言った 。 |くにとも||いった

「 まあ かけ なさい 」

夕 里子 と 敦子 は 、 向い合った 席 に つく と 、 ゆう|さとご||あつこ||むかいあった|せき|||

「 その 節 は 色々 と ──」 |せつ||いろいろ|

と同時に 言い かけて 、 笑い 出して しまった 。 とどうじに|いい||わらい|だして|

── 夕 里子 や 敦子 を 巻き込んだ 一連の 殺人 事件 で 、 捜査 に 当った の が 、 この 若い 独身 の 国友 刑事 だった のである 。 ゆう|さとご||あつこ||まきこんだ|いちれんの|さつじん|じけん||そうさ||あたった||||わかい|どくしん||くにとも|けいじ||

「 夕 里子 君 、 家 の 方 は ? ゆう|さとご|きみ|いえ||かた|

「 ええ 。

すぐに は 建てられ ない んです 。 ||たて られ|| お 金 も ない し 。 |きむ||| 今 は マンション を 会社 に 借りて もらって 、 住んでます 」 「 そう か 。 いま||まんしょん||かいしゃ||かりて||すんで ます|| いや 、 どう して る か な 、 と 気 に なって ね 。 |||||||き||| でも 、 忙しくて 、 なかなか 電話 も でき なかった 」 |いそがしくて||でんわ|||

「 国友 さん 、 まだ 独身 ? くにとも|||どくしん

「 お 見合 する ヒマ も なくて ね 」 |みあ||ひま|||

と 、 国友 は 笑った 。 |くにとも||わらった

「 本当に 懐 し いわ ! ほんとうに|ふところ||

でも ── いい んです か ? 私 たち と 話 なんか して て 」 わたくし|||はなし|||

「 君 に 会い に 来た んだ から ね 」 きみ||あい||きた|||

「 私 に ? わたくし|

夕 里子 は 面食らった 。 ゆう|さとご||めんくらった

「 うん 。

珠美 君 から 電話 を もらって ね 」 たまみ|きみ||でんわ|||

「 珠美 が ── 何て 電話 した んです か ? たまみ||なんて|でんわ|||

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 何だか 、 どこ か の 芸能 プロダクション を 紹介 して くれって 。 なんだか||||げいのう|||しょうかい||くれ って 紹介 して くれたら 、 夕 里子 君 が デート して くれるって 話 だった よ 」 「── あの 子ったら ! しょうかい|||ゆう|さとご|きみ||でーと||くれる って|はなし||||こ ったら 夕 里子 は 真 赤 に なった 。 ゆう|さとご||まこと|あか||

「 いや 、 デート は ともかく ね 」 |でーと|||

と 、 国友 は 笑って 、「 事情 は 聞いた よ 。 |くにとも||わらって|じじょう||きいた|

君 の お 姉さん も 相 変ら ず らしい ね 」 きみ|||ねえさん||そう|かわら|||

「 あの 人 は 、 宇宙 人 が 攻めて 来たって 変ら ない わ 」 と 夕 里子 は 言った 。 |じん||うちゅう|じん||せめて|らい たって|かわら||||ゆう|さとご||いった 大分 、 調子 が 戻って 来た ようだ 。 だいぶ|ちょうし||もどって|きた|

── 前 の 事件 の とき に は 、 結構 「 親しい 」 仲 に なって いた のだ から 。 ぜん||じけん|||||けっこう|したしい|なか|||||

「 ごめんなさい 、 珠美 が 図 々 しい こと お 願い しちゃって 」 「 いやいや 。 |たまみ||ず|||||ねがい|しちゃ って| ただ 、 こっち も 専門 外 なんで ね 、 そう そう 顔 が 広い わけじゃ ない んだ よ 」 |||せんもん|がい|||||かお||ひろい||||

「 そう でしょう ね 」

「 一 つ 、 以前 、 ある 事件 で ちょっと 関り 合い に なった 奴 が いて ね 、 それ が プロダクション を やって る んだ 。 ひと||いぜん||じけん|||かかわり|あい|||やつ||||||||||

何なら そこ へ 聞いて みて あげて も いい よ 」 なんなら|||きいて|||||

「 お 願い できる かしら ! |ねがい||

だって 、 姉 に 任し といたら 、 絶対 に 誰 も 引 張って 来 れ ない に 決って る んだ もの 」 「 そう か 。 |あね||まかし||ぜったい||だれ||ひ|はって|らい||||けっ って||||| 分った 。 ぶん った ── ただ ね 、 この プロダクション に どんな タレント が いる の か 、 僕 は 全然 知ら ない んだ 」 ||||||たれんと|||||ぼく||ぜんぜん|しら||

「 どうせ 、 人気 の ある 人 は もう スケジュール 、 詰っちゃって る に 決って る から 、 誰 だって いい んだ わ 」 「 でも 、 まるで 聞いた こと の ない 歌手 なんか じゃ 困る だ ろ 」 「 それ なら ──」 と 、 敦子 が 口 を 挟んだ 。 |にんき|||じん|||すけじゅーる|なじっちゃ って|||けっ って|||だれ|||||||きいた||||かしゅ|||こまる||||||あつこ||くち||はさんだ 「 いっそ 、 もう 忘れられ かけて る 人 は ? ||わすれ られ|||じん| 〈 懐 メロ 大会 〉 に して 」 ふところ||たいかい||

「 それ も いい かも しれ ない な 」

と 、 国友 は 笑って 、「 OK 。 |くにとも||わらって|ok

じゃ 、 今日 中 に 連絡 して みる よ 」 |きょう|なか||れんらく|||

「 よろしく !

と 、 夕 里子 は 頭 を 下げた 。 |ゆう|さとご||あたま||さげた

「 出来 の 悪い 姉 の ため に ご 協力 を ! でき||わるい|あね|||||きょうりょく| 「 いや 、 僕 は 夕 里子 君 と の デート を 叶えて もらえば いい んだ よ 」 |ぼく||ゆう|さとご|きみ|||でーと||かなえて||||

「 じゃ 、 高級 フランス 料理 を 、 おごら せて あげます 」 夕 里子 は 澄まして 言った 。 |こうきゅう|ふらんす|りょうり||||あげ ます|ゆう|さとご||すまして|いった 「 いい 匂い ! |におい

珠美 が 早くも 、 はし を つかんで いる 。 たまみ||はやくも||||

「 ほら 、 あんた も ちょっと 手伝って 」 ||||てつだって

「 は あい 」

わ いわい と 三 人 で 食卓 を 準備 する の も 、 なかなか 楽しい 。 |||みっ|じん||しょくたく||じゅんび|||||たのしい

「── もう お 鍋 の おいしい 季節 ねえ 」 ||なべ|||きせつ|

食べ 始めて 、 綾子 が しみじみ と 言った 。 たべ|はじめて|あやこ||||いった

「 月日 の たつ の は 早い もの 」 つきひ|||||はやい|

夕 里子 が 月 並 な セリフ を 言って 、「── お 姉さん 、 どうした ? ゆう|さとご||つき|なみ||せりふ||いって||ねえさん|

プロダクション の 方 、 電話 して みた ? ||かた|でんわ|| と 訊 いた 。 |じん|

「 プロダクションって ? プロダクション って 綾子 は キョトンと して 、「── ああ 、 文化 祭 の こと ? あやこ||きょとんと|||ぶんか|さい||

今日 は ちょっと 忙しくて ね 。 きょう|||いそがしくて| そんなに 急が なくて も 、 まだ 六 日 ある から ……」 |いそが||||むっ|ひ||

国友 に 頼んで 良かった 。 くにとも||たのんで|よかった

── 夕 里子 は 、 珠美 と 目 を 見交わして 、 思った 。 ゆう|さとご||たまみ||め||みかわして|おもった

放っといたら 、 当日 に なって から 、 あわてて ── いや 、 それ でも 綾子 当人 は あわて ない だろう が ── 電話 し まくる こと に なって いた だろう 。 ほっといたら|とうじつ||||||||あやこ|とうにん||||||でんわ|||||||

「 どんな 人 が いい の かしら ? |じん||||

ゆうべ TV の 歌 番組 を 見たら 、 ずいぶん 、 聞いた こと の ない 人 が いっぱい 出て た わ 。 |tv||うた|ばんぐみ||みたら||きいた||||じん|||でて|| あの 内 、 二 、 三 人 ぐらい なら 、 空いて る んじゃ ない ? |うち|ふた|みっ|じん|||あいて||| 「 それ じゃ 、 みんな 失業 しちゃ うよ 」 |||しつぎょう||

と 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 TV に 出る ような の は 、 みんな 睡眠 二 、 三 時間って の ばっかりな んだ から 」 「 へえ ! tv||でる|||||すいみん|ふた|みっ|じかん って||||| "It's like you're on TV because everyone just sleeps for a couple of hours." "Hey! よく 仕事 が できる わ ね 」 |しごと||||

と 、 綾子 は 一 人 で 感心 して いる 。 |あやこ||ひと|じん||かんしん||

「── あら 、 電話 だ わ 」 |でんわ||

「 出よう か ? でよう|

きっと パパ よ 」 |ぱぱ|

「 じゃ 、 私 が 出る わ 」 |わたくし||でる|

ちっとも 急ぐ でも なく 、 綾子 は 居間 へ 行って 、 受話器 を 上げた 。 |いそぐ|||あやこ||いま||おこなって|じゅわき||あげた

「── ああ 、 やれやれ 、 だ 」

と 、 残った 夕 里子 が ため息 を つく 。 |のこった|ゆう|さとご||ためいき||

「 助かった でしょ 、 国友 さん に 頼んで 」 たすかった||くにとも|||たのんで

「 まだ 分 ん ない の よ 、 国友 さん だって 、 捜 せる か どう か 。 |ぶん|||||くにとも|||さが||||

それ に 珠美 、 勝手に デート さ せ ないで 」 ||たまみ|かってに|でーと|||

「 あれ ?

喜ぶ と 思った んだ けど な 」 よろこぶ||おもった|||

と 、 珠美 は 澄まし 顔 だ 。 |たまみ||すまし|かお|

「 あんた は 、 そんな こと に 気 を 回さ なくて いい の ! |||||き||まわさ|||

「 お 姉ちゃん 、 なかなか 自分 じゃ もて ない から 、 手伝って あげた の よ 」 |ねえちゃん||じぶん|||||てつだって|||

「 大きな お 世話 」 おおきな||せわ

「 ちゃんと 謝礼 は いただきます から ね 」 「 結果 次第 よ 」 と 、 やり合って いる 所 へ 、 綾子 が 戻って 来た 。 |しゃれい||いただき ます|||けっか|しだい|||やりあって||しょ||あやこ||もどって|きた 「 綾子 姉ちゃん 、 何 だって 、 パパ ? あやこ|ねえちゃん|なん||ぱぱ

「 パパ じゃ ない の よ 」 ぱぱ||||

「 じゃ 誰 から ? |だれ|

「 うん ……」

綾子 は 首 を かしげて いる 。 あやこ||くび|||

「 また 、 向 う の 名前 聞く の 、 忘れた んでしょ 。 |むかい|||なまえ|きく||わすれた|

よく やる んだ から 」

「 違う わ よ 。 ちがう||

── ほら 、 メモ した もの 」 |めも||

「 見せて 。 みせて

── 何 よ 、 これ 、〈 P プロダクション の 金田 〉って ……」 「 そういう 人 から だった の 」 夕 里子 は 、 まさか 、 と 思った 。 なん|||p|||かなだ|||じん||||ゆう|さとご||||おもった 「── どういう 用件 ? |ようけん

「 うん 、 そこ の 歌手 を 、 文化 祭 に 出して くれるって 。 |||かしゅ||ぶんか|さい||だして|くれる って でも 、 私 、 全然 電話 して も いない の よ 。 |わたくし|ぜんぜん|でんわ||||| どう し て向う から かかって 来る んだ ろ ? ||てむかう|||くる|| へえ 、 国友 さん も 、 やる じゃ ない ! |くにとも|||||

夕 里子 は 、 あまり 結果 が 早く 出た ので 、 びっくり した 。 ゆう|さとご|||けっか||はやく|でた||| 珠美 の 方 は 、 ニヤニヤ して 夕 里子 を 見て いる 。 たまみ||かた||||ゆう|さとご||みて| ── もちろん 、 いくら 入る か 、 計算 して いる のである 。 ||はいる||けいさん|||

綾子 が 一 人 、 不思議 そうに 、 首 を かしげて いた 。 あやこ||ひと|じん|ふしぎ|そう に|くび|||

「 うち の 大学 の 文化 祭って 、 そんなに 有名な の か なあ ……」 ||だいがく||ぶんか|まつって||ゆうめいな|||

「── 誰 だって ? だれ|

思わず 、 声 が 高く なった 。 おもわず|こえ||たかく|

「 しっ、 あんまり 大きな 声 出す と ──」 と 、 石原 茂子 が 急いで 言った 。 ||おおきな|こえ|だす|||いしはら|しげこ||いそいで|いった 「 ああ 、 分って る 。 |ぶん って| でも ……」

実際 の ところ 、 太田 宣 浩 は 、 そんなに 大きな 声 を 出した わけで は ない 。 じっさい|||おおた|のたま|ひろし|||おおきな|こえ||だした|||

ごく 普通に 話 を して いれば 、 たまに は この 程度 の 声 は 出す こと が ある 。 |ふつうに|はなし|||||||ていど||こえ||だす|||

ただ 、 太田 の 声 が 大きく 聞こえた の は 、 周囲 が 静か すぎる から な のである 。 |おおた||こえ||おおきく|きこえた|||しゅうい||しずか||||

── もう 、 大学 の 構内 に は 人影 とて なかった 。 |だいがく||こうない|||ひとかげ||

夜 、 十二 時 を 過ぎて いる のだ から 、 当然の こと だろう 。 よ|じゅうに|じ||すぎて||||とうぜんの||

もう 文化 祭 が 近い ので 、 準備 の ため に 、 結構 遅く まで 残って いる 学生 も いた が 、 それ でも 十 時 半 ころ に は ほとんど が 帰って いた 。 |ぶんか|さい||ちかい||じゅんび||||けっこう|おそく||のこって||がくせい||||||じゅう|じ|はん||||||かえって|

二 人 は 、 文学部 の 建物 の わき の 小径 を 、 ゆっくり と 歩いて いた 。 ふた|じん||ぶんがくぶ||たてもの||||しょうけい||||あるいて| The two were slowly walking along the small path beside the Faculty of Letters building.

石原 茂子 は 、 白っぽい セーター に 、 紺 の スカート と いう 、 至って 平凡な 女子 大 生 スタイル 。 いしはら|しげこ||しろ っぽい|せーたー||こん||すかーと|||いたって|へいぼんな|じょし|だい|せい|すたいる 並んで 歩いて いる 太田 が 大柄な せい も あって 、 実際 より も 小柄に 見える 。 ならんで|あるいて||おおた||おおがらな||||じっさい|||こがらに|みえる

太田 の 方 は 、 どう 見て も 大学生 に は 見え ない 。 おおた||かた|||みて||だいがくせい|||みえ|

実際 大学生 で は なく 、 この 大学 の ガードマン を つとめて いる ので 、 いささか 野暮ったい 制服 姿 であった 。 じっさい|だいがくせい|||||だいがく||がーどまん||||||やぼったい|せいふく|すがた|

「 それ に したって ──」

少し 間 を 置いて 、 太田 が 言った 。 すこし|あいだ||おいて|おおた||いった

「 より に よって 、 神山 田 タカシ を 呼ば なくて も いい じゃ ない か ! |||かみやま|た|たかし||よば|||||| 「 気持 は 分 る けど ……。 きもち||ぶん||

仕方ない わ よ 。 しかたない|| もう 決っちゃった んだ もの 」 と 、 石原 茂子 は 肩 を すくめた 。 |けっ っちゃ った||||いしはら|しげこ||かた|| 「── あいつ 、 もう 落ち目 だろう 。 ||おちめ|

この ところ 、 全然 TV でも 見 ない じゃ ない か 」 ||ぜんぜん|tv||み||||

「 出て たって 見 ない くせ に 」 でて||み|||

と 、 茂子 は 微笑んだ 。 |しげこ||ほおえんだ

「 当り前だ よ 。 あたりまえだ|

── あいつ の おかげ で ……。 いや 、 ホテル を クビ に なった の なんて 、 どうって こと ない 。 |ほてる||くび|||||どう って|| 別に 一生 、 あそこ で 働く 気 だった わけじゃ ない さ 。 べつに|いっしょう|||はたらく|き|||| ただ 、 君 が ……」 |きみ|

太田 は 言い淀んだ 。 おおた||いいよどんだ

茂子 が 、 太田 の 腕 に 腕 を 絡めて 、 しげこ||おおた||うで||うで||からめて

「 私 は もう 忘れた わ 」 わたくし|||わすれた|

と 言った 。 |いった

「 事故 に 遭った ような もん じゃ ない 、 あんな の 」 じこ||あった||||||

「 それ は 僕 が 言った んだ 」 ||ぼく||いった|

と 、 太田 は 渋い 顔 で 、「 でも 、 あいつ の こと を 許した わけじゃ ない 」 |おおた||しぶい|かお|||||||ゆるした||

「 でも 、 実際 に もう 先 は 見えて る わ 。 |じっさい|||さき||みえて||

あんな こと して 、 努力 も し ないで いれば 、 その 内 、 忘れられる わ 。 |||どりょく||||||うち|わすれ られる| 自業自得 と いう か 、 ね ……」 じごうじとく||||

「 うん 」

太田 は 、 茂子 の 肩 に 手 を 回した 。 おおた||しげこ||かた||て||まわした

「── でも 、 他 に 誰 か いない の かい ? |た||だれ|||| 「 とても 無理 よ 」 |むり|

と 、 茂子 は 首 を 振った 。 |しげこ||くび||ふった

「 あと 四 日 しか ない の よ 。 |よっ|ひ|||| 最悪の 場合 は 中止 も 考えて た んだ もの 。 さいあくの|ばあい||ちゅうし||かんがえて||| ── 綾子 さん 、 よく 見付けて 来た わ 」 あやこ|||みつけて|きた|

「 綾子って ──」 「 佐々 本 綾子 さん 。 あやこ って|ささ|ほん|あやこ| ほら 、 いつか 紹介 して あげた でしょ 」 ||しょうかい|||

「 うん 。

あの 幼稚 園児 みたいな 子 だ ろ ? |ようち|えんじ||こ|| 「 悪い わ ね ! わるい||

と 、 茂子 は 吹き出した 。 |しげこ||ふきだした

「 気の毒だった の よ 。 きのどくだった|| とても 、 名 の ある 歌手 なんて 呼べっこ ない から 、 準備 委員 長 の 水口 さん が 責任 を 押し付けちゃった の 。 |な|||かしゅ||よべ っこ|||じゅんび|いいん|ちょう||みずぐち|||せきにん||おしつけちゃ った| 私 、 腹 が 立った けど 、 三 年生 に 逆らう わけに も いか ない し ……。 わたくし|はら||たった||みっ|ねんせい||さからう||||| そ したら 、 綾子 さん 、 どう やった の か 知ら ない けど 、 あの プロダクション と 話 を つけちゃった の よ 」 「 でも 、 あいつ じゃ 、 時代遅れな んじゃ ない の か ? ||あやこ||||||しら||||||はなし||つけちゃ った||||||じだいおくれな|||| 「 そりゃ 、 今 の トップ と は 言え ない けど 、 一応 、 みんな 名前 も 知って る し ……。 |いま||とっぷ|||いえ|||いちおう||なまえ||しって||

役員 会 で は 、『 まだ 生きて た の 、 あの 人 ? やくいん|かい||||いきて||||じん 』 なんて 言った 一 年生 も いた けど ね 」 |いった|ひと|ねんせい||||

と 、 茂子 は 笑った 。 |しげこ||わらった

「 しかし …… 僕 は やっぱり 反対だ な 。 |ぼく|||はんたいだ|

まあ 、 ガードマン が 反対 したって 仕方ない けど 」 「 心配な いわ よ 」 と 、 茂子 は 、 太田 の 肩 に 、 頭 を もたせかけた 。 |がーどまん||はんたい||しかたない||しんぱいな||||しげこ||おおた||かた||あたま|| 「 ほんの 何 時間 か 、 来る だけ なんだ もの ……」 |なん|じかん||くる|||

「 うん ……」

「 それ に 、 三 年 前 よ 。 ||みっ|とし|ぜん|

もう 向 うだって 、 私 の こと なんて 憶 えちゃ いない わ 」 「 そう は 思う けど な ……」 太田 は 、 まだ すっきり し ない 口調 で 言った 。 |むかい||わたくし||||おく||||||おもう|||おおた||||||くちょう||いった 「 何 が 心配な の ? なん||しんぱいな|

「 いや 、 もし 、 あいつ と 会ったり したら 、 また ぶん 殴る んじゃ ない か と 思って ね 」 ||||あったり||||なぐる|||||おもって|

「 やめて よ 」

と 、 茂子 は 苦笑 した 。 |しげこ||くしょう|

「 失業 しちゃったら 、 私 が 卒業 して も 結婚 が 先 に なっちゃ うわ よ 」 「 冗談 だ よ 」 と 、 太田 は やっと 笑顔 に なった 。 しつぎょう|しちゃ ったら|わたくし||そつぎょう|||けっこん||さき|||||じょうだん||||おおた|||えがお|| 「 それ に 文化 祭 の 当日 は 、 忙しくて それ どころ じゃ ない さ 、 こっち も 」 ||ぶんか|さい||とうじつ||いそがしくて|||||||

「 そう ね 。

外 から 大勢 人 が 来る んだ から 」 がい||おおぜい|じん||くる||

「 去年 なんか 、 顕微 鏡 を 盗ま れ ち まった から なあ 。 きょねん||けんび|きよう||ぬすま|||||

今年 は 用心 し ない と 」 ことし||ようじん|||

「 ひどい 人 が いる わ ね 」 |じん||||

「 世の中 に ゃ 、 こっち の 想像 も つか ない ような 奴 が いる んだ 」 よのなか|||||そうぞう|||||やつ|||

と 、 太田 は 言った 。 |おおた||いった

「 あの 神山 田 みたいに ね 」 |かみやま|た||

「── あら 」

と 、 茂子 が 足 を 止めた 。 |しげこ||あし||とどめた