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或る女 - 有島武郎(アクセス), 44.1 或る女

44.1 或る 女

たたきつける ように して 倉地 に 返して しまおう と した 金 は 、 やはり 手 に 持って いる うち に 使い 始めて しまった 。 葉子 の 性癖 と して いつでも できる だけ 豊かな 快い 夜 昼 を 送る ように のみ 傾いて いた ので 、 貞 世 の 病院 生活 に も 、 だれ に 見せて も ひけ を 取ら ない だけ の 事 を 上 べ ばかり でも して い たかった 。 夜具 でも 調度 でも 家 に ある もの の 中 で いちばん 優れた もの を 選んで 来て みる と 、 すべて の 事 まで それ に ふさわしい もの を 使わ なければ なら なかった 。 葉子 が 専用 の 看護 婦 を 二 人 も 頼ま なかった の は 不思議な ようだ が 、 どういう もの か 貞 世 の 看護 を どこまでも 自分 一 人 でして のけ たかった のだ 。 その代わり 年 とった 女 を 二 人 傭って 交代 に 病院 に 来 さして 、 洗い 物 から 食事 の 事 まで を 賄わ した 。 葉子 は とても 病院 の 食事 で は 済まして いられ なかった 。 材料 の いい悪い は とにかく 、 味 は とにかく 、 何より も きたな らしい 感じ が して 箸 も つける 気 に なれ なかった ので 、 本郷 通り に ある 或る 料理 屋 から 日々 入れ させる 事 に した 。 こんな あん ばい で 、 費用 は 知れ ない 所 に 思いのほか かかった 。 葉子 が 倉地 が 持って 来て くれた 紙幣 の 束 から 仕払 おうと した 時 は 、 いずれ その うち 木村 から 送金 が ある だろう から 、 あり 次第 それ から 埋め合わせ を して 、 すぐ そのまま 返そう と 思って いた のだった 。 しかし 木村 から は 、 六 月 に なって 以来 一 度 も 送金 の 通知 は 来 なかった 。 葉子 は それ だ から なおさら の 事 もう 来 そうな もの だ と 心待ち を した のだった 。 それ が いくら 待って も 来 ない と なる と やむ を 得 ず 持ち合わせた 分 から 使って 行か なければ なら なかった 。 まだまだ と 思って いる うち に 束 の 厚み は どんどん 減って 行った 。 それ が 半分 ほど 減る と 、 葉子 は 全く 返済 の 事 など は 忘れて しまった ように なって 、 ある に 任せて 惜し げ も なく 仕払 い を した 。 ・・

七 月 に は いって から 気候 は めっきり 暑く なった 。 椎 の 木 の 古 葉 も すっかり 散り 尽くして 、 松 も 新しい 緑 に かわって 、 草 も 木 も 青い 焔 の ように なった 。 長く 寒く 続いた 五月雨 の なごり で 、 水蒸気 が 空気 中 に 気味 わるく 飽和 されて 、 さら ぬ だ に 急に 堪え 難く 暑く なった 気候 を ますます 堪え 難い もの に した 。 葉子 は 自身 の 五 体 が 、 貞 世 の 回復 を も 待た ず に ず ん ず ん くずれて 行く の を 感じ ない わけに は 行か なかった 。 それ と 共に 勃発 的に 起こって 来る ヒステリー は いよいよ 募る ばかりで 、 その 発作 に 襲わ れた が 最後 、 自分 ながら 気 が 違った と 思う ような 事 が たびたび に なった 。 葉子 は 心ひそかに 自分 を 恐れ ながら 、 日々 の 自分 を 見守る 事 を 余儀なく さ れた 。 ・・

葉子 の ヒステリー は だれ かれ の 見さかい なく 破裂 する ように なった が ことに 愛子 に 屈強 の 逃げ場 を 見いだした 。 なんと いわれて も ののしられて も 、 打ち 据えられ さえ して も 、 屠所 の 羊 の ように 柔 順 に 黙った まま 、 葉子 に は まどろ しく 見える くらい ゆっくり 落ち着いて 働く 愛子 を 見せつけられる と 、 葉子 の 疳癪 は 嵩 じ る ばかりだった 。 あんな 素直な 殊勝 げ な ふう を して い ながら しらじらしく も 姉 を 欺いて いる 。 それ が 倉地 と の 関係 に おいて であれ 、 岡 と の 関係 に おいて であれ 、 ひょっとすると 古藤 と の 関係 に おいて であれ 、 愛子 は 葉子 に 打ち明け ない 秘密 を 持ち 始めて いる はずだ 。 そう 思う と 葉子 は 無理に も 平地 に 波 瀾 が 起こして み たかった 。 ほとんど 毎日 ―― それ は 愛子 が 病院 に 寝泊まり する ように なった ため だ と 葉子 は 自分 決め に 決めて いた ―― 幾 時間 か の 間 、 見舞い に 来て くれる 岡 に 対して も 、 葉子 は もう 元 の ような 葉子 で は なかった 。 どうかする と 思い も かけ ない 時 に 明白な 皮肉 が 矢 の ように 葉子 の 口 び る から 岡 に 向かって 飛ばさ れた 。 岡 は 自分 が 恥じる ように 顔 を 紅 ら め ながら も 、 上品な 態度 で それ を こらえた 。 それ が また なおさら 葉子 を いら つかす 種 に なった 。 ・・

もう 来られ そう も ない と いい ながら 倉地 も 三 日 に 一 度 ぐらい は 病院 を 見舞う ように なった 。 葉子 は それ を も 愛子 ゆえ と 考え ず に は いられ なかった 。 そう 激しい 妄想 に 駆り立てられて 来る と 、 どういう 関係 で 倉地 と 自分 と を つないで おけば いい の か 、 どうした 態度 で 倉地 を もち あつかえば いい の か 、 葉子 に は ほとほと 見当 が つか なく なって しまった 。 親身に 持ちかけて みたり 、 よそよそしく 取りなして みたり 、 その 時 の 気分 気分 で 勝手な 無 技巧 な 事 を して い ながら も 、 どうしても のがれ 出る 事 の でき ない の は 倉地 に 対する こ ちん と 固まった 深い 執着 だった 。 それ は 情けなく も 激しく 強く なり 増 さる ばかりだった 。 もう 自分 で 自分 の 心根 を 憫然 に 思って そ ぞ ろ に 涙 を 流して 、 自ら を 慰める と いう 余裕 すら なくなって しまった 。 かわき きった 火 の ような もの が 息 気 苦しい まで に 胸 の 中 に ぎっしり つまって いる だけ だった 。 ・・

ただ 一 人 貞 世 だけ は …… 死ぬ か 生きる か わから ない 貞 世 だけ は 、 この 姉 を 信じ きって くれて いる …… そう 思う と 葉子 は 前 に も 増した 愛着 を この 病 児 に だけ は 感じ ないで いられ なかった 。 「 貞 世 が いる ばかりで 自分 は 人殺し も し ないで こうして いら れる のだ 」 と 葉子 は 心 の 中 で 独 語 ち た 。 ・・

けれども ある 朝 その かすかな 希望 さえ 破れ ねば なら ぬ ような 事件 が まく し上がった 。 ・・

その 朝 は 暁 から 水 が したたり そうに 空 が 晴れて 、 珍しく すがすがしい 涼風 が 木 の 間 から 来て 窓 の 白い カーテン を そっと なでて 通る さわやかな 天気 だった ので 、 夜通し 貞 世 の 寝 台 の わき に 付き添って 、 睡 く なる と そうした まま で うとうと と 居 睡 りし ながら 過ごして 来た 葉子 も 、 思いのほか 頭 の 中 が 軽く なって いた 。 貞 世 も その 晩 は ひどく 熱 に 浮かされ も せ ず に 寝 続けて 、 四 時 ごろ の 体温 は 七 度 八 分 まで 下がって いた 。 緑色 の 風呂敷 を 通して 来る 光 で それ を 発見 した 葉子 は 飛び立つ ような 喜び を 感じた 。 入院 して から 七 度 台 に 熱 の 下がった の は この 朝 が 始めて だった ので 、 もう 熱 の 剥離 期 が 来た の か と 思う と 、 とうとう 貞 世 の 命 は 取り留めた と いう 喜 悦 の 情 で 涙ぐましい まで に 胸 は いっぱいに なった 。 ようやく 一 心 が 届いた 。 自分 の ため に 病気 に なった 貞 世 は 、 自分 の 力 で な おった 。 そこ から 自分 の 運命 は また 新しく 開けて 行く かも しれ ない 。 きっと 開けて 行く 。 もう 一 度 心置きなく この世 に 生きる 時 が 来たら 、 それ は どの くらい いい 事 だろう 。 今度 こそ は 考え 直して 生きて みよう 。 もう 自分 も 二十六 だ 。 今 まで の ような 態度 で 暮らして は いられ ない 。 倉地 に も すまなかった 。 倉地 が あれほど ある 限り の もの を 犠牲 に して 、 しかも その 事業 と いって いる 仕事 は どう 考えて みて も 思わしく 行って いない らしい のに 、 自分 たち の 暮らし向き は まるで そんな 事 も 考え ない ような 寛 濶 な もの だった 。 自分 は 決心 さえ すれば どんな 境遇 に でも 自分 を はめ込む 事 ぐらい できる 女 だ 。 もし 今度 家 を 持つ ように なったら すべて を 妹 たち に いって 聞か して 、 倉地 と 一緒に なろう 。 そして 木村 と は はっきり 縁 を 切ろう 。 木村 と いえば …… そうして 葉子 は 倉地 と 古藤 と が いい合い を した その 晩 の 事 を 考え 出した 。 古藤 に あんな 約束 を し ながら 、 貞 世 の 病気 に 紛れて いた と いう ほか に 、 てんで 真相 を 告白 する 気 が なかった ので 今 まで は なんの 消息 もし ないで いた 自分 が とがめられた 。 ほんとうに 木村 に も すまなかった 。 今に なって ようやく 長い 間 の 木村 の 心 の 苦し さ が 想像 さ れる 。 もし 貞 世 が 退院 する ように なったら ―― そして 退院 する に 決まって いる が ―― 自分 は 何 を おいて も 木村 に 手紙 を 書く 。 そう したら どれほど 心 が 安く そして 軽く なる か しれ ない 。 …… 葉子 は もう そんな 境界 が 来て しまった ように 考えて 、 だれ と でも その 喜び を わかち たく 思った 。 で 、 椅子 に かけた まま 右 後ろ を 向いて 見る と 、 床板 の 上 に 三 畳 畳 を 敷いた 部屋 の 一隅 に 愛子 が たわ い も なく すやすや と 眠って いた 。 うるさがる ので 貞 世に は 蚊帳 を つって なかった が 、 愛子 の 所 に は 小さな 白い 西洋 蚊帳 が つって あった 。 その 細かい 目 を 通して 見る 愛子 の 顔 は 人形 の ように 整って 美しかった 。 その 愛子 を これ まで 憎み 通し に 憎み 、 疑い 通し に 疑って いた の が 、 不思議 を 通り越して 、 奇怪な 事 に さえ 思わ れた 。 葉子 は にこにこ し ながら 立って 行って 蚊帳 の そば に よって 、・・

「 愛さ ん …… 愛 さん 」・・

そう かなり 大きな 声 で 呼びかけた 。 ゆうべ おそく 枕 に ついた 愛子 は やがて ようやく 睡 そうに 大きな 目 を 静かに 開いて 、 姉 が 枕 もと に いる のに 気 が つく と 、 寝すごし で も した と 思った の か 、 あわてる ように 半身 を 起こして 、 そっと 葉子 を ぬすみ 見る ように した 。 日ごろ ならば そんな 挙動 を すぐ 疳癪 の 種 に する 葉子 も 、 その 朝 ばかり は かわいそうな くらい に 思って いた 。 ・・

「 愛さ ん お 喜び 、 貞 ちゃん の 熱 が とうとう 七 度 台 に 下がって よ 。 ちょっと 起きて 来て ごらん 、 それ は いい 顔 を して 寝て いる から …… 静かに ね 」・・

「 静かに ね 」 と いい ながら 葉子 の 声 は 妙に はずんで 高かった 。 愛子 は 柔 順 に 起き上がって そっと 蚊帳 を くぐって 出て 、 前 を 合わせ ながら 寝 台 の そば に 来た 。 ・・

「 ね ? 」・・

葉子 は 笑み かまけて 愛子 に こう 呼びかけた 。 ・・

「 でも なんだか 、 だいぶ に 蒼白 く 見えます わ ね 」・・

と 愛子 が 静かに いう の を 葉子 は せわしく 引った くって 、・・ 「 それ は 電 燈 の 風呂敷 の せい だ わ …… それ に 熱 が 取れれば 病人 は みんな 一 度 は かえって 悪く なった ように 見える もの な の よ 。 ほんとうに よかった 。 あなた も 親身に 世話 して やった から よ 」・・

そう いって 葉子 は 右手 で 愛子 の 肩 を やさしく 抱いた 。 そんな 事 を 愛子 に した の は 葉子 と して は 始めて だった 。 愛子 は 恐れ を なした ように 身 を すぼめた 。 ・・

葉子 は なんとなく じっと して は いられ なかった 。 子供 らしく 、 早く 貞 世 が 目 を さませば いい と 思った 。 そう したら 熱 の 下がった の を 知らせて 喜ば せて やる のに と 思った 。 しかし さすが に その 小さな 眠り を 揺 り さます 事 は し 得 ないで 、 しきりと 部屋 の 中 を 片づけ 始めた 。 愛子 が 注意 の 上 に 注意 を して こそ と の 音 も さ せまい と 気 を つかって いる のに 、 葉子 が わざと する か と も 思わ れる ほど 騒々しく 働く さま は 、 日ごろ と は まるで 反対だった 。 愛子 は 時々 不思議 そうな 目つき を して そっと 葉子 の 挙動 を 注意 した 。 ・・

その うち に 夜 が どんどん 明け 離れて 、 電灯 の 消えた 瞬間 は ちょっと 部屋 の 中 が 暗く なった が 、 夏 の 朝 らしく 見る見る うち に 白い 光 が 窓 から 容赦 なく 流れ込んだ 。 昼 に なって から の 暑 さ を 予想 さ せる ような 涼し さ が 青葉 の 軽い におい と 共に 部屋 の 中 に みち あふれた 。 愛子 の 着か えた 大柄な 白 の 飛 白 も 、 赤い メリンス の 帯 も 、 葉子 の 目 を 清々 しく 刺激 した 。


44.1 或る 女 ある|おんな 44.1 Una mujer

たたきつける ように して 倉地 に 返して しまおう と した 金 は 、 やはり 手 に 持って いる うち に 使い 始めて しまった 。 |||くらち||かえして||||きむ|||て||もって||||つかい|はじめて| 葉子 の 性癖 と して いつでも できる だけ 豊かな 快い 夜 昼 を 送る ように のみ 傾いて いた ので 、 貞 世 の 病院 生活 に も 、 だれ に 見せて も ひけ を 取ら ない だけ の 事 を 上 べ ばかり でも して い たかった 。 ようこ||せいへき||||||ゆたかな|こころよい|よ|ひる||おくる|||かたむいて|||さだ|よ||びょういん|せいかつ|||||みせて||||とら||||こと||うえ|||||| 夜具 でも 調度 でも 家 に ある もの の 中 で いちばん 優れた もの を 選んで 来て みる と 、 すべて の 事 まで それ に ふさわしい もの を 使わ なければ なら なかった 。 やぐ||ちょうど||いえ|||||なか|||すぐれた|||えらんで|きて|||||こと|||||||つかわ||| 葉子 が 専用 の 看護 婦 を 二 人 も 頼ま なかった の は 不思議な ようだ が 、 どういう もの か 貞 世 の 看護 を どこまでも 自分 一 人 でして のけ たかった のだ 。 ようこ||せんよう||かんご|ふ||ふた|じん||たのま||||ふしぎな||||||さだ|よ||かんご|||じぶん|ひと|じん|||| その代わり 年 とった 女 を 二 人 傭って 交代 に 病院 に 来 さして 、 洗い 物 から 食事 の 事 まで を 賄わ した 。 そのかわり|とし||おんな||ふた|じん|よう って|こうたい||びょういん||らい||あらい|ぶつ||しょくじ||こと|||まかなわ| 葉子 は とても 病院 の 食事 で は 済まして いられ なかった 。 ようこ|||びょういん||しょくじ|||すまして|いら れ| 材料 の いい悪い は とにかく 、 味 は とにかく 、 何より も きたな らしい 感じ が して 箸 も つける 気 に なれ なかった ので 、 本郷 通り に ある 或る 料理 屋 から 日々 入れ させる 事 に した 。 ざいりょう||いいにくい|||あじ|||なにより||||かんじ|||はし|||き|||||ほんごう|とおり|||ある|りょうり|や||ひび|いれ|さ せる|こと|| こんな あん ばい で 、 費用 は 知れ ない 所 に 思いのほか かかった 。 ||||ひよう||しれ||しょ||おもいのほか| 葉子 が 倉地 が 持って 来て くれた 紙幣 の 束 から 仕払 おうと した 時 は 、 いずれ その うち 木村 から 送金 が ある だろう から 、 あり 次第 それ から 埋め合わせ を して 、 すぐ そのまま 返そう と 思って いた のだった 。 ようこ||くらち||もって|きて||しへい||たば||しふつ|||じ|||||きむら||そうきん||||||しだい|||うめあわせ|||||かえそう||おもって|| When Yoko tried to pay off the bundle of banknotes that Kurachi had brought her, she thought that Kimura would send money someday, so she would make up for it as soon as possible, and then immediately return it. It was しかし 木村 から は 、 六 月 に なって 以来 一 度 も 送金 の 通知 は 来 なかった 。 |きむら|||むっ|つき|||いらい|ひと|たび||そうきん||つうち||らい| 葉子 は それ だ から なおさら の 事 もう 来 そうな もの だ と 心待ち を した のだった 。 ようこ|||||||こと||らい|そう な||||こころまち||| それ が いくら 待って も 来 ない と なる と やむ を 得 ず 持ち合わせた 分 から 使って 行か なければ なら なかった 。 |||まって||らい|||||||とく||もちあわせた|ぶん||つかって|いか||| まだまだ と 思って いる うち に 束 の 厚み は どんどん 減って 行った 。 ||おもって||||たば||あつみ|||へって|おこなった それ が 半分 ほど 減る と 、 葉子 は 全く 返済 の 事 など は 忘れて しまった ように なって 、 ある に 任せて 惜し げ も なく 仕払 い を した 。 ||はんぶん||へる||ようこ||まったく|へんさい||こと|||わすれて||||||まかせて|おし||||しふつ||| ・・

七 月 に は いって から 気候 は めっきり 暑く なった 。 なな|つき|||||きこう|||あつく| 椎 の 木 の 古 葉 も すっかり 散り 尽くして 、 松 も 新しい 緑 に かわって 、 草 も 木 も 青い 焔 の ように なった 。 しい||き||ふる|は|||ちり|つくして|まつ||あたらしい|みどり|||くさ||き||あおい|ほのお||| 長く 寒く 続いた 五月雨 の なごり で 、 水蒸気 が 空気 中 に 気味 わるく 飽和 されて 、 さら ぬ だ に 急に 堪え 難く 暑く なった 気候 を ますます 堪え 難い もの に した 。 ながく|さむく|つづいた|さみだれ||||すいじょうき||くうき|なか||きみ||ほうわ|さ れて|||||きゅうに|こらえ|かたく|あつく||きこう|||こらえ|かたい||| Remnants of a long, cold May rain, which eerily saturated the air with water vapor, made the suddenly unbearably hot weather all the more unbearable. 葉子 は 自身 の 五 体 が 、 貞 世 の 回復 を も 待た ず に ず ん ず ん くずれて 行く の を 感じ ない わけに は 行か なかった 。 ようこ||じしん||いつ|からだ||さだ|よ||かいふく|||また||||||||いく|||かんじ||||いか| Yoko couldn't help but feel her five bodies crumbling away without even waiting for Sadayo's recovery. それ と 共に 勃発 的に 起こって 来る ヒステリー は いよいよ 募る ばかりで 、 その 発作 に 襲わ れた が 最後 、 自分 ながら 気 が 違った と 思う ような 事 が たびたび に なった 。 ||ともに|ぼっぱつ|てきに|おこって|くる||||つのる|||ほっさ||おそわ|||さいご|じぶん||き||ちがった||おもう||こと|||| At the same time, the hysteria that broke out only increased, and after the attack, I often felt like I had lost my mind. 葉子 は 心ひそかに 自分 を 恐れ ながら 、 日々 の 自分 を 見守る 事 を 余儀なく さ れた 。 ようこ||こころひそかに|じぶん||おそれ||ひび||じぶん||みまもる|こと||よぎなく|| ・・

葉子 の ヒステリー は だれ かれ の 見さかい なく 破裂 する ように なった が ことに 愛子 に 屈強 の 逃げ場 を 見いだした 。 ようこ|||||||みさかい||はれつ||||||あいこ||くっきょう||にげば||みいだした Yoko's hysteria began to explode without anyone noticing, but in Aiko in particular she found a stalwart escape. なんと いわれて も ののしられて も 、 打ち 据えられ さえ して も 、 屠所 の 羊 の ように 柔 順 に 黙った まま 、 葉子 に は まどろ しく 見える くらい ゆっくり 落ち着いて 働く 愛子 を 見せつけられる と 、 葉子 の 疳癪 は 嵩 じ る ばかりだった 。 |いわ れて||ののしら れて||うち|すえ られ||||とところ||ひつじ|||じゅう|じゅん||だまった||ようこ|||||みえる|||おちついて|はたらく|あいこ||みせつけ られる||ようこ||かんしゃく||かさみ||| あんな 素直な 殊勝 げ な ふう を して い ながら しらじらしく も 姉 を 欺いて いる 。 |すなおな|しゅしょう||||||||||あね||あざむいて| それ が 倉地 と の 関係 に おいて であれ 、 岡 と の 関係 に おいて であれ 、 ひょっとすると 古藤 と の 関係 に おいて であれ 、 愛子 は 葉子 に 打ち明け ない 秘密 を 持ち 始めて いる はずだ 。 ||くらち|||かんけい||||おか|||かんけい|||||ことう|||かんけい||||あいこ||ようこ||うちあけ||ひみつ||もち|はじめて|| そう 思う と 葉子 は 無理に も 平地 に 波 瀾 が 起こして み たかった 。 |おもう||ようこ||むりに||へいち||なみ|らん||おこして|| ほとんど 毎日 ―― それ は 愛子 が 病院 に 寝泊まり する ように なった ため だ と 葉子 は 自分 決め に 決めて いた ―― 幾 時間 か の 間 、 見舞い に 来て くれる 岡 に 対して も 、 葉子 は もう 元 の ような 葉子 で は なかった 。 |まいにち|||あいこ||びょういん||ねとまり|||||||ようこ||じぶん|きめ||きめて||いく|じかん|||あいだ|みまい||きて||おか||たいして||ようこ|||もと|||ようこ||| どうかする と 思い も かけ ない 時 に 明白な 皮肉 が 矢 の ように 葉子 の 口 び る から 岡 に 向かって 飛ばさ れた 。 どうか する||おもい||||じ||めいはくな|ひにく||や|||ようこ||くち||||おか||むかって|とばさ| 岡 は 自分 が 恥じる ように 顔 を 紅 ら め ながら も 、 上品な 態度 で それ を こらえた 。 おか||じぶん||はじる||かお||くれない|||||じょうひんな|たいど|||| それ が また なおさら 葉子 を いら つかす 種 に なった 。 ||||ようこ||||しゅ|| It became the seed that irritated Yoko all the more. ・・

もう 来られ そう も ない と いい ながら 倉地 も 三 日 に 一 度 ぐらい は 病院 を 見舞う ように なった 。 |こ られ|||||||くらち||みっ|ひ||ひと|たび|||びょういん||みまう|| 葉子 は それ を も 愛子 ゆえ と 考え ず に は いられ なかった 。 ようこ|||||あいこ|||かんがえ||||いら れ| そう 激しい 妄想 に 駆り立てられて 来る と 、 どういう 関係 で 倉地 と 自分 と を つないで おけば いい の か 、 どうした 態度 で 倉地 を もち あつかえば いい の か 、 葉子 に は ほとほと 見当 が つか なく なって しまった 。 |はげしい|もうそう||かりたて られて|くる|||かんけい||くらち||じぶん|||||||||たいど||くらち|||||||ようこ||||けんとう||||| Driven by such intense delusions, Yoko had no idea what kind of relationship she should have with Kurachi, or what kind of attitude she should have with Kurachi. Oops . 親身に 持ちかけて みたり 、 よそよそしく 取りなして みたり 、 その 時 の 気分 気分 で 勝手な 無 技巧 な 事 を して い ながら も 、 どうしても のがれ 出る 事 の でき ない の は 倉地 に 対する こ ちん と 固まった 深い 執着 だった 。 しんみに|もちかけて|||とりなして|||じ||きぶん|きぶん||かってな|む|ぎこう||こと||||||||でる|こと||||||くらち||たいする||||かたまった|ふかい|しゅうちゃく| それ は 情けなく も 激しく 強く なり 増 さる ばかりだった 。 ||なさけなく||はげしく|つよく||ぞう|| もう 自分 で 自分 の 心根 を 憫然 に 思って そ ぞ ろ に 涙 を 流して 、 自ら を 慰める と いう 余裕 すら なくなって しまった 。 |じぶん||じぶん||こころね||びんぜん||おもって|||||なみだ||ながして|おのずから||なぐさめる|||よゆう||| かわき きった 火 の ような もの が 息 気 苦しい まで に 胸 の 中 に ぎっしり つまって いる だけ だった 。 ||ひ|||||いき|き|くるしい|||むね||なか|||||| ・・

ただ 一 人 貞 世 だけ は …… 死ぬ か 生きる か わから ない 貞 世 だけ は 、 この 姉 を 信じ きって くれて いる …… そう 思う と 葉子 は 前 に も 増した 愛着 を この 病 児 に だけ は 感じ ないで いられ なかった 。 |ひと|じん|さだ|よ|||しぬ||いきる||||さだ|よ||||あね||しんじ|||||おもう||ようこ||ぜん|||ました|あいちゃく|||びょう|じ||||かんじ||いら れ| 「 貞 世 が いる ばかりで 自分 は 人殺し も し ないで こうして いら れる のだ 」 と 葉子 は 心 の 中 で 独 語 ち た 。 さだ|よ||||じぶん||ひとごろし|||||||||ようこ||こころ||なか||どく|ご|| ・・

けれども ある 朝 その かすかな 希望 さえ 破れ ねば なら ぬ ような 事件 が まく し上がった 。 ||あさ|||きぼう||やぶれ|||||じけん|||しあがった ・・

その 朝 は 暁 から 水 が したたり そうに 空 が 晴れて 、 珍しく すがすがしい 涼風 が 木 の 間 から 来て 窓 の 白い カーテン を そっと なでて 通る さわやかな 天気 だった ので 、 夜通し 貞 世 の 寝 台 の わき に 付き添って 、 睡 く なる と そうした まま で うとうと と 居 睡 りし ながら 過ごして 来た 葉子 も 、 思いのほか 頭 の 中 が 軽く なって いた 。 |あさ||あかつき||すい|||そう に|から||はれて|めずらしく||りょうふう||き||あいだ||きて|まど||しろい|かーてん||||とおる||てんき|||よどおし|さだ|よ||ね|だい||||つきそって|すい|||||||||い|すい|||すごして|きた|ようこ||おもいのほか|あたま||なか||かるく|| 貞 世 も その 晩 は ひどく 熱 に 浮かされ も せ ず に 寝 続けて 、 四 時 ごろ の 体温 は 七 度 八 分 まで 下がって いた 。 さだ|よ|||ばん|||ねつ||うかされ|||||ね|つづけて|よっ|じ|||たいおん||なな|たび|やっ|ぶん||さがって| 緑色 の 風呂敷 を 通して 来る 光 で それ を 発見 した 葉子 は 飛び立つ ような 喜び を 感じた 。 みどりいろ||ふろしき||とおして|くる|ひかり||||はっけん||ようこ||とびたつ||よろこび||かんじた 入院 して から 七 度 台 に 熱 の 下がった の は この 朝 が 始めて だった ので 、 もう 熱 の 剥離 期 が 来た の か と 思う と 、 とうとう 貞 世 の 命 は 取り留めた と いう 喜 悦 の 情 で 涙ぐましい まで に 胸 は いっぱいに なった 。 にゅういん|||なな|たび|だい||ねつ||さがった||||あさ||はじめて||||ねつ||はくり|き||きた||||おもう|||さだ|よ||いのち||とりとめた|||よろこ|えつ||じょう||なみだぐましい|||むね||| This morning was the first time that his fever had dropped to seven degrees since he was admitted to the hospital, so he thought that the fever had already come to an end, and he was overjoyed that he had finally saved Sadayo's life. It filled my heart to the point of tears. ようやく 一 心 が 届いた 。 |ひと|こころ||とどいた 自分 の ため に 病気 に なった 貞 世 は 、 自分 の 力 で な おった 。 じぶん||||びょうき|||さだ|よ||じぶん||ちから||| そこ から 自分 の 運命 は また 新しく 開けて 行く かも しれ ない 。 ||じぶん||うんめい|||あたらしく|あけて|いく||| きっと 開けて 行く 。 |あけて|いく もう 一 度 心置きなく この世 に 生きる 時 が 来たら 、 それ は どの くらい いい 事 だろう 。 |ひと|たび|こころおきなく|このよ||いきる|じ||きたら||||||こと| 今度 こそ は 考え 直して 生きて みよう 。 こんど|||かんがえ|なおして|いきて| もう 自分 も 二十六 だ 。 |じぶん||にじゅうろく| 今 まで の ような 態度 で 暮らして は いられ ない 。 いま||||たいど||くらして||いら れ| 倉地 に も すまなかった 。 くらち||| 倉地 が あれほど ある 限り の もの を 犠牲 に して 、 しかも その 事業 と いって いる 仕事 は どう 考えて みて も 思わしく 行って いない らしい のに 、 自分 たち の 暮らし向き は まるで そんな 事 も 考え ない ような 寛 濶 な もの だった 。 くらち||||かぎり||||ぎせい|||||じぎょう||||しごと|||かんがえて|||おもわしく|おこなって||||じぶん|||くらしむき||||こと||かんがえ|||ひろし|かつ||| Kurachi has sacrificed as much as he can, and no matter how you think about it, it seems that this business is not going well, but it seems that their lifestyles don't even think about it. It was generous. 自分 は 決心 さえ すれば どんな 境遇 に でも 自分 を はめ込む 事 ぐらい できる 女 だ 。 じぶん||けっしん||||きょうぐう|||じぶん||はめこむ|こと|||おんな| もし 今度 家 を 持つ ように なったら すべて を 妹 たち に いって 聞か して 、 倉地 と 一緒に なろう 。 |こんど|いえ||もつ|||||いもうと||||きか||くらち||いっしょに| そして 木村 と は はっきり 縁 を 切ろう 。 |きむら||||えん||きろう 木村 と いえば …… そうして 葉子 は 倉地 と 古藤 と が いい合い を した その 晩 の 事 を 考え 出した 。 きむら||||ようこ||くらち||ことう|||いいあい||||ばん||こと||かんがえ|だした 古藤 に あんな 約束 を し ながら 、 貞 世 の 病気 に 紛れて いた と いう ほか に 、 てんで 真相 を 告白 する 気 が なかった ので 今 まで は なんの 消息 もし ないで いた 自分 が とがめられた 。 ことう|||やくそく||||さだ|よ||びょうき||まぎれて|||||||しんそう||こくはく||き||||いま||||しょうそく||||じぶん||とがめ られた ほんとうに 木村 に も すまなかった 。 |きむら||| 今に なって ようやく 長い 間 の 木村 の 心 の 苦し さ が 想像 さ れる 。 いまに|||ながい|あいだ||きむら||こころ||にがし|||そうぞう|| もし 貞 世 が 退院 する ように なったら ―― そして 退院 する に 決まって いる が ―― 自分 は 何 を おいて も 木村 に 手紙 を 書く 。 |さだ|よ||たいいん|||||たいいん|||きまって|||じぶん||なん||||きむら||てがみ||かく そう したら どれほど 心 が 安く そして 軽く なる か しれ ない 。 |||こころ||やすく||かるく|||| …… 葉子 は もう そんな 境界 が 来て しまった ように 考えて 、 だれ と でも その 喜び を わかち たく 思った 。 ようこ||||きょうかい||きて|||かんがえて|||||よろこび||||おもった で 、 椅子 に かけた まま 右 後ろ を 向いて 見る と 、 床板 の 上 に 三 畳 畳 を 敷いた 部屋 の 一隅 に 愛子 が たわ い も なく すやすや と 眠って いた 。 |いす||||みぎ|うしろ||むいて|みる||ゆかいた||うえ||みっ|たたみ|たたみ||しいた|へや||いちぐう||あいこ||||||||ねむって| うるさがる ので 貞 世に は 蚊帳 を つって なかった が 、 愛子 の 所 に は 小さな 白い 西洋 蚊帳 が つって あった 。 ||さだ|よに||かや|||||あいこ||しょ|||ちいさな|しろい|せいよう|かや||| その 細かい 目 を 通して 見る 愛子 の 顔 は 人形 の ように 整って 美しかった 。 |こまかい|め||とおして|みる|あいこ||かお||にんぎょう|||ととのって|うつくしかった その 愛子 を これ まで 憎み 通し に 憎み 、 疑い 通し に 疑って いた の が 、 不思議 を 通り越して 、 奇怪な 事 に さえ 思わ れた 。 |あいこ||||にくみ|とおし||にくみ|うたがい|とおし||うたがって||||ふしぎ||とおりこして|きかいな|こと|||おもわ| 葉子 は にこにこ し ながら 立って 行って 蚊帳 の そば に よって 、・・ ようこ|||||たって|おこなって|かや||||

「 愛さ ん …… 愛 さん 」・・ あいさ||あい|

そう かなり 大きな 声 で 呼びかけた 。 ||おおきな|こえ||よびかけた ゆうべ おそく 枕 に ついた 愛子 は やがて ようやく 睡 そうに 大きな 目 を 静かに 開いて 、 姉 が 枕 もと に いる のに 気 が つく と 、 寝すごし で も した と 思った の か 、 あわてる ように 半身 を 起こして 、 そっと 葉子 を ぬすみ 見る ように した 。 ||まくら|||あいこ||||すい|そう に|おおきな|め||しずかに|あいて|あね||まくら|||||き||||ねすごし|||||おもった|||||はんしん||おこして||ようこ|||みる|| Late last night, Aiko sat down on the pillow and finally opened her big, sleepy eyes and realized that her sister was under the pillow. I woke up and quietly took a sneak peek at Yoko. 日ごろ ならば そんな 挙動 を すぐ 疳癪 の 種 に する 葉子 も 、 その 朝 ばかり は かわいそうな くらい に 思って いた 。 ひごろ|||きょどう|||かんしゃく||しゅ|||ようこ|||あさ||||||おもって| ・・

「 愛さ ん お 喜び 、 貞 ちゃん の 熱 が とうとう 七 度 台 に 下がって よ 。 あいさ|||よろこび|さだ|||ねつ|||なな|たび|だい||さがって| ちょっと 起きて 来て ごらん 、 それ は いい 顔 を して 寝て いる から …… 静かに ね 」・・ |おきて|きて|||||かお|||ねて|||しずかに|

「 静かに ね 」 と いい ながら 葉子 の 声 は 妙に はずんで 高かった 。 しずかに|||||ようこ||こえ||みょうに||たかかった 愛子 は 柔 順 に 起き上がって そっと 蚊帳 を くぐって 出て 、 前 を 合わせ ながら 寝 台 の そば に 来た 。 あいこ||じゅう|じゅん||おきあがって||かや|||でて|ぜん||あわせ||ね|だい||||きた ・・

「 ね ? 」・・

葉子 は 笑み かまけて 愛子 に こう 呼びかけた 。 ようこ||えみ||あいこ|||よびかけた ・・

「 でも なんだか 、 だいぶ に 蒼白 く 見えます わ ね 」・・ ||||そうはく||みえ ます||

と 愛子 が 静かに いう の を 葉子 は せわしく 引った くって 、・・ |あいこ||しずかに||||ようこ|||ひ った| 「 それ は 電 燈 の 風呂敷 の せい だ わ …… それ に 熱 が 取れれば 病人 は みんな 一 度 は かえって 悪く なった ように 見える もの な の よ 。 ||いなずま|とも||ふろしき|||||||ねつ||とれれば|びょうにん|||ひと|たび|||わるく|||みえる|||| ほんとうに よかった 。 あなた も 親身に 世話 して やった から よ 」・・ ||しんみに|せわ||||

そう いって 葉子 は 右手 で 愛子 の 肩 を やさしく 抱いた 。 ||ようこ||みぎて||あいこ||かた|||いだいた そんな 事 を 愛子 に した の は 葉子 と して は 始めて だった 。 |こと||あいこ|||||ようこ||||はじめて| 愛子 は 恐れ を なした ように 身 を すぼめた 。 あいこ||おそれ||||み|| ・・

葉子 は なんとなく じっと して は いられ なかった 。 ようこ||||||いら れ| 子供 らしく 、 早く 貞 世 が 目 を さませば いい と 思った 。 こども||はやく|さだ|よ||め|||||おもった そう したら 熱 の 下がった の を 知らせて 喜ば せて やる のに と 思った 。 ||ねつ||さがった|||しらせて|よろこば|||||おもった しかし さすが に その 小さな 眠り を 揺 り さます 事 は し 得 ないで 、 しきりと 部屋 の 中 を 片づけ 始めた 。 ||||ちいさな|ねむり||よう|||こと|||とく|||へや||なか||かたづけ|はじめた 愛子 が 注意 の 上 に 注意 を して こそ と の 音 も さ せまい と 気 を つかって いる のに 、 葉子 が わざと する か と も 思わ れる ほど 騒々しく 働く さま は 、 日ごろ と は まるで 反対だった 。 あいこ||ちゅうい||うえ||ちゅうい||||||おと|||||き|||||ようこ|||||||おもわ|||そうぞうしく|はたらく|||ひごろ||||はんたいだった 愛子 は 時々 不思議 そうな 目つき を して そっと 葉子 の 挙動 を 注意 した 。 あいこ||ときどき|ふしぎ|そう な|めつき||||ようこ||きょどう||ちゅうい| ・・

その うち に 夜 が どんどん 明け 離れて 、 電灯 の 消えた 瞬間 は ちょっと 部屋 の 中 が 暗く なった が 、 夏 の 朝 らしく 見る見る うち に 白い 光 が 窓 から 容赦 なく 流れ込んだ 。 |||よ|||あけ|はなれて|でんとう||きえた|しゅんかん|||へや||なか||くらく|||なつ||あさ||みるみる|||しろい|ひかり||まど||ようしゃ||ながれこんだ 昼 に なって から の 暑 さ を 予想 さ せる ような 涼し さ が 青葉 の 軽い におい と 共に 部屋 の 中 に みち あふれた 。 ひる|||||あつ|||よそう||||すずし|||あおば||かるい|||ともに|へや||なか||| 愛子 の 着か えた 大柄な 白 の 飛 白 も 、 赤い メリンス の 帯 も 、 葉子 の 目 を 清々 しく 刺激 した 。 あいこ||つか||おおがらな|しろ||と|しろ||あかい|||おび||ようこ||め||せいせい||しげき|