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或る女 - 有島武郎(アクセス), 25.2 或る女

25.2 或る 女

こんな 目 で 古藤 は 、 明らかな 疑い を 示し つつ 葉子 を 見 ながら 、 さらに 語り 続けた 所 に よれば 、 古藤 は 木村 の 手紙 を 読んで から 思案 に 余って 、 その 足 で すぐ 、 まだ 釘 店 の 家 の 留守番 を して いた 葉子 の 叔母 の 所 を 尋ねて その 考え を 尋ねて みよう と した ところ が 、 叔母 は 古藤 の 立場 が どちら に 同情 を 持って いる か 知れ ない ので 、 うっかり した 事 は いわれない と 思った か 、 何事 も 打ち明け ず に 、 五十川 女史 に 尋ねて もらいたい と 逃げ を 張った らしい 。 古藤 は やむなく また 五十川 女史 を 訪問 した 。 女史 と は 築地 の ある 教会 堂 の 執事 の 部屋 で 会った 。 女史 の いう 所 に よる と 、 十 日 ほど 前 に 田川 夫人 の 所 から 船 中 に おける 葉子 の 不 埒 を 詳細に 知ら して よこした 手紙 が 来て 、 自分 と して は 葉子 の ひと り 旅 を 保護 し 監督 する 事 は とても 力 に 及ば ない から 、 船 から 上陸 する 時 も なんの 挨拶 も せ ず に 別れて しまった 。 なんでも うわさ で 聞く と 病気 だ と いって まだ 船 に 残って いる そうだ が 、 万一 そのまま 帰国 する ように でも なったら 、 葉子 と 事務 長 と の 関係 は 自分 たち が 想像 する 以上 に 深く なって いる と 断定 して も さしつかえ ない 。 せっかく 依頼 を 受けて その 責 め を 果たさ なかった の は 誠に すまない が 、 自分 たち の 力 で は 手 に 余る のだ から 推 恕 して いただきたい と 書いて あった 。 で 、 五十川 女史 は 田川 夫人 が いいかげんな 捏造 など する 人 で ない の を よく 知っている から 、 その 手紙 を 重 だった 親類 たち に 示して 相談 した 結果 、 もし 葉子 が 絵 島 丸 で 帰って 来たら 、 回復 の でき ない 罪 を 犯した もの と して 、 木村 に 手紙 を やって 破 約 を 断行 さ せ 、 一面に は 葉子 に 対して 親類 一同 は 絶縁 する 申し合わせ を した と いう 事 を 聞か さ れた 。 そう 古藤 は 語った 。 ・・

「 僕 は こんな 事 を 聞か されて 途方 に 暮れて しまいました 。 あなた は さっき から 倉地 と いう その 事務 長 の 事 を 平気で 口 に して いる が 、 こっち で は その 人 が 問題 に なって いる んです 。 きょう でも 僕 は あなた に お 会い する の が いい の か 悪い の か さんざん 迷いました 。 しかし 約束 で は ある し 、 あなた から 聞いたら もっと 事柄 も はっきり する か と 思って 、 思いきって 伺う 事 に した んです 。 …… あっち に たった 一 人 いて 五十川 さん から 恐ろしい 手紙 を 受け取ら なければ なら ない 木村 君 を 僕 は 心から 気の毒に 思う んです 。 もし あなた が 誤解 の 中 に いる ん なら 聞か せて ください 。 僕 は こんな 重大な 事 を 一方 口 で 判断 し たく は ありません から 」・・

と 話 を 結んで 古藤 は 悲しい ような 表情 を して 葉子 を 見つめた 。 小 癪 な 事 を いう もん だ と 葉子 は 心 の 中 で 思った けれども 、 指先 で もてあそび ながら 少し 振り 仰いだ 顔 は そのまま に 、 あわれむ ような 、 からかう ような 色 を かすかに 浮かべて 、・・

「 え ゝ 、 それ は お 聞き くだされば どんなに でも お 話 は しましょう と も 。 けれども 天から わたし を 信じて くださら ない ん なら どれほど 口 を すっぱく して お 話 を したって むだ ね 」・・

「 お 話 を 伺って から 信じられる もの なら 信じよう と して いる のです 僕 は 」・・

「 それ は あなた 方 の なさる 学問 なら それ で ようご ざんしょう よ 。 けれども 人情 ずく の 事 は そんな もの じゃ ありません わ 。 木村 に 対して やましい こと は いたしません と いったって あなた が わたし を 信じて いて くださら なければ 、 それ まで の もの です し 、 倉地 さん と は お 友だち と いう だけ です と 誓った 所 が 、 あなた が 疑って いらっしゃれば なんの 役 に も 立ち は しません から ね 。 …… そうした もん じゃ なくって ? 」・・

「 それ じゃ 五十川 さん の 言葉 だけ で 僕 に あなた を 判断 しろ と おっしゃる んです か 」・・

「 そう ね 。 …… それ でも よう ございましょう よ 。 とにかく それ は わたし が 御 相談 を 受ける 事柄 じゃ ありません わ 」・・

そう いって る 葉子 の 顔 は 、 言葉 に 似合わ ず どこまでも 優しく 親し げ だった 。 古藤 は さすが に 怜 しく 、 こう もつれて 来た 言葉 を どこまでも 追おう と せ ず に 黙って しまった 。 そして 「 何事 も 明 ら さま に して しまう ほう が ほんとう は いい のだ が な 」 と いい た げ な 目つき で 、 格別 虐げよう と する でも なく 、 葉子 が 鼻 の 先 で 組んだり ほどいたり する 手先 を 見入った 。 そうした まま で やや しばらく の 時 が 過ぎた 。 ・・

十一 時 近い この へん の 町並み は いちばん 静かだった 。 葉子 は ふと 雨 樋 を 伝う 雨だれ の 音 を 聞いた 。 日本 に 帰って から 始めて 空 は しぐれて いた のだ 。 部屋 の 中 は 盛んな 鉄びん の 湯気 で そう 寒く は ない けれども 、 戸外 は 薄ら寒い 日和 に なって いる らしかった 。 葉子 はぎ ご ち ない 二 人 の 間 の 沈黙 を 破りたい ばかりに 、 ひ ょっと 首 を もたげて 腰 窓 の ほう を 見 やり ながら 、・・

「 おや いつのまにか 雨 に なりました の ね 」・・

と いって みた 。 古藤 は それ に は 答え も せ ず に 、 五 分 刈り の 地蔵 頭 を うなだれて 深々と ため息 を した 。 ・・

「 僕 は あなた を 信じ きる 事 が できれば どれほど 幸いだ か 知れ ない と 思う んです 。 五十川 さん なぞ より 僕 は あなた と 話して いる ほう が ずっと 気持ち が いい んです 。 それ は あなた が 同じ 年ごろ で 、――たいへん 美しい と いう ため ばかり じゃ ない と ( その 時 古藤 は お ぼ こ らしく 顔 を 赤らめて いた ) 思って います 。 五十川 さん なぞ は なんでも 物 を 僻 目 で 見る から 僕 は いやな んです 。 けれども あなた は …… どうして あなた は そんな 気象 で いながら もっと 大胆に 物 を 打ち明けて くださら ない んです 。 僕 は なんといっても あなた を 信ずる 事 が できません 。 こんな 冷淡な 事 を いう の を 許して ください 。 しかし これ に は あなた に も 責 め が ある と 僕 は 思います よ 。 …… しかたがない 僕 は 木村 君 に きょう あなた と 会った このまま を いって やります 。 僕 に は どう 判断 の しよう も ありません もの …… しかし お 願い します が ねえ 。 木村 君 が あなた から 離れ なければ なら ない もの なら 、 一刻 でも 早く それ を 知る ように して やって ください 。 僕 は 木村 君 の 心持ち を 思う と 苦しく なります 」・・

「 でも 木村 は 、 あなた に 来た お 手紙 に よる と わたし を 信じ きって くれて いる ので は ない んです か 」・・

そう 葉子 に いわれて 、 古藤 は また 返す 言葉 も なく 黙って しまった 。 葉子 は 見る見る 非常に 興奮 して 来た ようだった 。 抑え 抑えて いる 葉子 の 気持ち が 抑え きれ なく なって 激しく 働き 出して 来る と 、 それ は いつでも 惻々 と して 人 に 迫り 人 を 圧した 。 顔色 一 つ 変え ないで 元 の まま に 親しみ を 込めて 相手 を 見 やり ながら 、 胸 の 奥底 の 心持ち を 伝えて 来る その 声 は 、 不思議な 力 を 電気 の ように 感じて 震えて いた 。 ・・

「 それ で 結構 。 五十川 の おばさん は 始め から いやだ いやだ と いう わたし を 無理に 木村 に 添わ せよう と して 置き ながら 、 今に なって わたし の 口 から 一言 の 弁解 も 聞か ず に 、 木村 に 離縁 を 勧めよう と いう 人 な んです から 、 そりゃ わたし 恨み も します 。 腹 も 立てます 。 え ゝ 、 わたし は そんな 事 を されて 黙って 引っ込んで いる ような 女 じゃ ない つもりです わ 。 けれども あなた は 初手 から わたし に 疑い を お 持ち に なって 、 木村 に も いろいろ 御 忠告 なさった 方 です もの 、 木村 に どんな 事 を いって お やり に なろう と も わたし に は ねっから 不服 は ありません こと よ 。 …… けれども ね 、 あなた が 木村 の いちばん 大切な 親友 で いらっしゃる と 思えば こそ 、 わたし は 人一倍 あなた を たより に して きょう も わざわざ こんな 所 まで 御 迷惑 を 願ったり して 、…… でも おかしい もの ね 、 木村 は あなた も 信じ わたし も 信じ 、 わたし は 木村 も 信じ あなた も 信じ 、 あなた は 木村 は 信ずる けれども わたし を 疑って …… そ 、 まあ 待って …… 疑って は いらっしゃりません 。 そうです 。 けれども 信ずる 事 が でき ないで いらっしゃる んです わ ね …… こう なる と わたし は 倉地 さん に でも おす が りして 相談 相手 に なって いただく ほか し よう が ありません 。 いくら わたし 娘 の 時 から 周囲 から 責められ 通し に 責められて いて も 、 今 だに 女手 一 つ で 二 人 の 妹 まで 背負って 立つ 事 は できません から ね 。 ……」・・

古藤 は 二 重 に 折って いた ような 腰 を 立てて 、 少し せきこんで 、・・

「 それ は あなた に 不似合いな 言葉 だ と 僕 は 思います よ 。 もし 倉地 と いう 人 の ため に あなた が 誤解 を 受けて いる の なら ……」・・

そう いって まだ 言葉 を 切ら ない うち に 、 もうとう に 横浜 に 行った と 思われて いた 倉地 が 、 和服 の まま で 突然 六 畳 の 間 に は いって 来た 。 これ は 葉子 に も 意外だった ので 、 葉子 は 鋭く 倉地 に 目 くば せ した が 、 倉地 は 無頓着だった 。 そして 古藤 の いる の など は 度外 視 した 傍若無人 さ で 、 火鉢 の 向こう 座 に どっか と あぐら を かいた 。 ・・

古藤 は 倉地 を 一目 見る と すぐ 倉地 と 悟った らしかった 。 いつも の 癖 で 古藤 は すぐ 極度に 固く なった 。 中断 さ れた 話 の 続き を 持ち出し も し ないで 、 黙った まま 少し 伏し目 に なって ひかえて いた 。 倉地 は 古藤 から 顔 の 見え ない の を いい 事 に 、 早く 古藤 を 返して しまえ と いう ような 顔つき を 葉子 に して 見せた 。 葉子 は わけ は わから ない まま に その 注意 に 従おう と した 。 で 、 古藤 の 黙って しまった の を いい 事 に 、 倉地 と 古藤 と を 引き合わせる 事 も せ ず に 自分 も 黙った まま 静かに 鉄びん の 湯 を 土びん に 移して 、 茶 を 二 人 に 勧めて 自分 も 悠々と 飲んだり して いた 。 ・・

突然 古藤 は 居ずまい を なおして 、・・

「 もう 僕 は 帰ります 。 お 話 は 中途 です けれども なんだか 僕 は きょう は これ で おいとま が し たく なりました 。 あと は 必要 が あったら 手紙 を 書きます 」・・

そう いって 葉子 に だけ 挨拶 して 座 を 立った 。 葉子 は 例の 芸者 の ような 姿 の まま で 古藤 を 玄関 まで 送り出した 。 ・・

「 失礼 し まして ね 、 ほんとうに きょう は 。 もう 一 度 で よう ございます から ぜひ お 会い に なって ください ましな 。 一生 の お 願い です から 、 ね 」・・

と 耳打ち する ように ささやいた が 古藤 は なんとも 答え ず 、 雨 の 降り出した のに 傘 も 借り ず に 出て 行った 。 ・・

「 あなたったら まずい じゃ ありません か 、 なん だって あんな 幕 に 顔 を お 出し なさる の 」・・

こう なじる ように いって 葉子 が 座 に つく と 、 倉地 は 飲み 終わった 茶わん を 猫 板 の 上 に とんと 音 を たてて 伏せ ながら 、・・

「 あの 男 は お前 、 ばかに して かかって いる が 、 話 を 聞いて いる と 妙に 粘り強い 所 が ある ぞ 。 ばか も あの くらい まっすぐに ばかだ と 油断 の でき ない もの な のだ 。 も 少し 話 を 続けて いて みろ 、 お前 の やり繰り で は 間に合わ なく なる から 。 いったい なんで お前 は あんな 男 を かまい つける 必要 が ある ん か 、 わから ない じゃ ない か 。 木村 に でも 未練 が あれば 知ら ない 事 」・・

こう いって 不敵に 笑い ながら 押し付ける ように 葉子 を 見た 。 葉子 は ぎくりと 釘 を 打た れた ように 思った 。 倉地 を しっかり 握る まで は 木村 を 離して は いけない と 思って いる 胸算用 を 倉地 に 偶然に いい当てられた ように 思った から だ 。 しかし 倉地 が ほんとうに 葉子 を 安心 さ せる ため に は 、 しなければ なら ない 大事な 事 が 少なくとも 一 つ 残って いる 。 それ は 倉地 が 葉子 と 表向き 結婚 の できる だけ の 始末 を して 見せる 事 だ 。 手っ取り早く いえば その 妻 を 離縁 する 事 だ 。 それ まで は どうしても 木村 を のがして は なら ない 。 それ ばかり で は ない 、 もし 新聞 の 記事 など が 問題 に なって 、 倉地 が 事務 長 の 位置 を 失う ような 事 に でも なれば 、 少し 気の毒だ けれども 木村 を 自分 の 鎖 から 解き 放さ ず に おく の が 何かにつけ て 便宜 で も ある 。 葉子 は しかし 前 の 理由 は おくび に も 出さ ず に あと の 理由 を 巧みに 倉地 に 告げよう と 思った 。 ・・

「 きょう は 雨 に なった で 出かける の が 大 儀 だ 。 昼 に は 湯豆腐 でも やって 寝て くれよう か 」・・

そう いって 早くも 倉地 が そこ に 横 に なろう と する の を 葉子 は しいて 起き 返ら した 。


25.2 或る 女 ある|おんな 25.2 Una mujer

こんな 目 で 古藤 は 、 明らかな 疑い を 示し つつ 葉子 を 見 ながら 、 さらに 語り 続けた 所 に よれば 、 古藤 は 木村 の 手紙 を 読んで から 思案 に 余って 、 その 足 で すぐ 、 まだ 釘 店 の 家 の 留守番 を して いた 葉子 の 叔母 の 所 を 尋ねて その 考え を 尋ねて みよう と した ところ が 、 叔母 は 古藤 の 立場 が どちら に 同情 を 持って いる か 知れ ない ので 、 うっかり した 事 は いわれない と 思った か 、 何事 も 打ち明け ず に 、 五十川 女史 に 尋ねて もらいたい と 逃げ を 張った らしい 。 |め||ことう||あきらかな|うたがい||しめし||ようこ||み|||かたり|つづけた|しょ|||ことう||きむら||てがみ||よんで||しあん||あまって||あし||||くぎ|てん||いえ||るすばん||||ようこ||おば||しょ||たずねて||かんがえ||たずねて||||||おば||ことう||たちば||||どうじょう||もって|||しれ|||||こと||||おもった||なにごと||うちあけ|||いそがわ|じょし||たずねて|もらい たい||にげ||はった| Furuto looked at Yoko with obvious suspicion, and continued to speak, according to the story, after reading Kimura's letter, Furuto was lost in thought, and immediately walked back to the nail shop's house. When I tried to visit Yoko's aunt, who was at home at home, to ask her thoughts, but she said that she couldn't carelessly say anything because she didn't know which side Koto had sympathy for. It seems that he didn't confide in anything and tried to run away, wanting to ask Ms. Isogawa. 古藤 は やむなく また 五十川 女史 を 訪問 した 。 ことう||||いそがわ|じょし||ほうもん| 女史 と は 築地 の ある 教会 堂 の 執事 の 部屋 で 会った 。 じょし|||ちくち|||きょうかい|どう||しつじ||へや||あった 女史 の いう 所 に よる と 、 十 日 ほど 前 に 田川 夫人 の 所 から 船 中 に おける 葉子 の 不 埒 を 詳細に 知ら して よこした 手紙 が 来て 、 自分 と して は 葉子 の ひと り 旅 を 保護 し 監督 する 事 は とても 力 に 及ば ない から 、 船 から 上陸 する 時 も なんの 挨拶 も せ ず に 別れて しまった 。 じょし|||しょ||||じゅう|ひ||ぜん||たがわ|ふじん||しょ||せん|なか|||ようこ||ふ|らち||しょうさいに|しら|||てがみ||きて|じぶん||||ようこ||||たび||ほご||かんとく||こと|||ちから||およば|||せん||じょうりく||じ|||あいさつ|||||わかれて| なんでも うわさ で 聞く と 病気 だ と いって まだ 船 に 残って いる そうだ が 、 万一 そのまま 帰国 する ように でも なったら 、 葉子 と 事務 長 と の 関係 は 自分 たち が 想像 する 以上 に 深く なって いる と 断定 して も さしつかえ ない 。 |||きく||びょうき|||||せん||のこって||そう だ||まんいち||きこく|||||ようこ||じむ|ちょう|||かんけい||じぶん|||そうぞう||いじょう||ふかく||||だんてい|||| Rumor has it that she's still on the ship saying she's sick, but if by any chance she should just return to Japan, the relationship between Yoko and the secretary-general would be deeper than they imagined. It's okay to conclude. せっかく 依頼 を 受けて その 責 め を 果たさ なかった の は 誠に すまない が 、 自分 たち の 力 で は 手 に 余る のだ から 推 恕 して いただきたい と 書いて あった 。 |いらい||うけて||せき|||はたさ||||まことに|||じぶん|||ちから|||て||あまる|||お|じょ||いただき たい||かいて| で 、 五十川 女史 は 田川 夫人 が いいかげんな 捏造 など する 人 で ない の を よく 知っている から 、 その 手紙 を 重 だった 親類 たち に 示して 相談 した 結果 、 もし 葉子 が 絵 島 丸 で 帰って 来たら 、 回復 の でき ない 罪 を 犯した もの と して 、 木村 に 手紙 を やって 破 約 を 断行 さ せ 、 一面に は 葉子 に 対して 親類 一同 は 絶縁 する 申し合わせ を した と いう 事 を 聞か さ れた 。 |いそがわ|じょし||たがわ|ふじん|||ねつぞう|||じん||||||しっている|||てがみ||おも||しんるい|||しめして|そうだん||けっか||ようこ||え|しま|まる||かえって|きたら|かいふく||||ざい||おかした||||きむら||てがみ|||やぶ|やく||だんこう|||いちめんに||ようこ||たいして|しんるい|いちどう||ぜつえん||もうしあわせ|||||こと||きか|| Ms. Isogawa knew very well that Mrs. Tagawa was not someone who would make sloppy fabrications, so she showed the letter to her close relatives and consulted them. He wrote a letter to Kimura, accusing him of committing an irreparable crime, to force him to break the contract, and he was told that all of his relatives had agreed to cut off Yoko's relationship. . そう 古藤 は 語った 。 |ことう||かたった ・・

「 僕 は こんな 事 を 聞か されて 途方 に 暮れて しまいました 。 ぼく|||こと||きか|さ れて|とほう||くれて|しまい ました あなた は さっき から 倉地 と いう その 事務 長 の 事 を 平気で 口 に して いる が 、 こっち で は その 人 が 問題 に なって いる んです 。 ||||くらち||||じむ|ちょう||こと||へいきで|くち|||||||||じん||もんだい|||| きょう でも 僕 は あなた に お 会い する の が いい の か 悪い の か さんざん 迷いました 。 ||ぼく|||||あい|||||||わるい||||まよい ました しかし 約束 で は ある し 、 あなた から 聞いたら もっと 事柄 も はっきり する か と 思って 、 思いきって 伺う 事 に した んです 。 |やくそく|||||||きいたら||ことがら||||||おもって|おもいきって|うかがう|こと||| …… あっち に たった 一 人 いて 五十川 さん から 恐ろしい 手紙 を 受け取ら なければ なら ない 木村 君 を 僕 は 心から 気の毒に 思う んです 。 あっ ち|||ひと|じん||いそがわ|||おそろしい|てがみ||うけとら||||きむら|きみ||ぼく||こころから|きのどくに|おもう| I really feel sorry for Kimura-kun, who is the only one over there and has to receive a horrible letter from Isogawa-san. もし あなた が 誤解 の 中 に いる ん なら 聞か せて ください 。 |||ごかい||なか|||||きか|| 僕 は こんな 重大な 事 を 一方 口 で 判断 し たく は ありません から 」・・ ぼく|||じゅうだいな|こと||いっぽう|くち||はんだん||||あり ませ ん|

と 話 を 結んで 古藤 は 悲しい ような 表情 を して 葉子 を 見つめた 。 |はなし||むすんで|ことう||かなしい||ひょうじょう|||ようこ||みつめた 小 癪 な 事 を いう もん だ と 葉子 は 心 の 中 で 思った けれども 、 指先 で もてあそび ながら 少し 振り 仰いだ 顔 は そのまま に 、 あわれむ ような 、 からかう ような 色 を かすかに 浮かべて 、・・ しょう|しゃく||こと||||||ようこ||こころ||なか||おもった||ゆびさき||||すこし|ふり|あおいだ|かお||||||||いろ|||うかべて

「 え ゝ 、 それ は お 聞き くだされば どんなに でも お 話 は しましょう と も 。 |||||きき|||||はなし||し ましょう|| けれども 天から わたし を 信じて くださら ない ん なら どれほど 口 を すっぱく して お 話 を したって むだ ね 」・・ |てんから|||しんじて||||||くち|||||はなし||||

「 お 話 を 伺って から 信じられる もの なら 信じよう と して いる のです 僕 は 」・・ |はなし||うかがって||しんじ られる|||しんじよう|||||ぼく|

「 それ は あなた 方 の なさる 学問 なら それ で ようご ざんしょう よ 。 |||かた|||がくもん|||||| "If that's the kind of study you do, then that's fine. けれども 人情 ずく の 事 は そんな もの じゃ ありません わ 。 |にんじょう|||こと|||||あり ませ ん| 木村 に 対して やましい こと は いたしません と いったって あなた が わたし を 信じて いて くださら なければ 、 それ まで の もの です し 、 倉地 さん と は お 友だち と いう だけ です と 誓った 所 が 、 あなた が 疑って いらっしゃれば なんの 役 に も 立ち は しません から ね 。 きむら||たいして||||いたし ませ ん||いった って|||||しんじて||||||||||くらち|||||ともだち||||||ちかった|しょ||||うたがって|||やく|||たち||し ませ ん|| …… そうした もん じゃ なくって ? |||なく って 」・・

「 それ じゃ 五十川 さん の 言葉 だけ で 僕 に あなた を 判断 しろ と おっしゃる んです か 」・・ ||いそがわ|||ことば|||ぼく||||はんだん||||| "Then you're telling me to judge you based on Isogawa-san's words alone?"

「 そう ね 。 …… それ でも よう ございましょう よ 。 とにかく それ は わたし が 御 相談 を 受ける 事柄 じゃ ありません わ 」・・ |||||ご|そうだん||うける|ことがら||あり ませ ん|

そう いって る 葉子 の 顔 は 、 言葉 に 似合わ ず どこまでも 優しく 親し げ だった 。 |||ようこ||かお||ことば||にあわ|||やさしく|したし|| 古藤 は さすが に 怜 しく 、 こう もつれて 来た 言葉 を どこまでも 追おう と せ ず に 黙って しまった 。 ことう||||れい||||きた|ことば|||おおう|||||だまって| そして 「 何事 も 明 ら さま に して しまう ほう が ほんとう は いい のだ が な 」 と いい た げ な 目つき で 、 格別 虐げよう と する でも なく 、 葉子 が 鼻 の 先 で 組んだり ほどいたり する 手先 を 見入った 。 |なにごと||あき|||||||||||||||||||めつき||かくべつ|しいたげよう|||||ようこ||はな||さき||くんだり|||てさき||みいった Then, with a look that seemed to say, "It's really better to make everything clear," Yoko didn't even try to oppress her, but Yoko's hands tied and untied her under her nose. I looked into そうした まま で やや しばらく の 時 が 過ぎた 。 ||||||じ||すぎた ・・

十一 時 近い この へん の 町並み は いちばん 静かだった 。 じゅういち|じ|ちかい||||まちなみ|||しずかだった 葉子 は ふと 雨 樋 を 伝う 雨だれ の 音 を 聞いた 。 ようこ|||あめ|ひ||つたう|あまだれ||おと||きいた 日本 に 帰って から 始めて 空 は しぐれて いた のだ 。 にっぽん||かえって||はじめて|から|||| 部屋 の 中 は 盛んな 鉄びん の 湯気 で そう 寒く は ない けれども 、 戸外 は 薄ら寒い 日和 に なって いる らしかった 。 へや||なか||さかんな|てつびん||ゆげ|||さむく||||こがい||うすらさむい|ひより|||| 葉子 はぎ ご ち ない 二 人 の 間 の 沈黙 を 破りたい ばかりに 、 ひ ょっと 首 を もたげて 腰 窓 の ほう を 見 やり ながら 、・・ ようこ|||||ふた|じん||あいだ||ちんもく||やぶり たい|||ょっ と|くび|||こし|まど||||み||

「 おや いつのまにか 雨 に なりました の ね 」・・ ||あめ||なり ました||

と いって みた 。 古藤 は それ に は 答え も せ ず に 、 五 分 刈り の 地蔵 頭 を うなだれて 深々と ため息 を した 。 ことう|||||こたえ|||||いつ|ぶん|かり||じぞう|あたま|||しんしんと|ためいき|| ・・

「 僕 は あなた を 信じ きる 事 が できれば どれほど 幸いだ か 知れ ない と 思う んです 。 ぼく||||しんじ||こと||||さいわいだ||しれ|||おもう| 五十川 さん なぞ より 僕 は あなた と 話して いる ほう が ずっと 気持ち が いい んです 。 いそがわ||||ぼく||||はなして|||||きもち||| それ は あなた が 同じ 年ごろ で 、――たいへん 美しい と いう ため ばかり じゃ ない と ( その 時 古藤 は お ぼ こ らしく 顔 を 赤らめて いた ) 思って います 。 ||||おなじ|としごろ|||うつくしい|||||||||じ|ことう||||||かお||あからめて||おもって|い ます 五十川 さん なぞ は なんでも 物 を 僻 目 で 見る から 僕 は いやな んです 。 いそがわ|||||ぶつ||ひが|め||みる||ぼく||| けれども あなた は …… どうして あなた は そんな 気象 で いながら もっと 大胆に 物 を 打ち明けて くださら ない んです 。 |||||||きしょう||||だいたんに|ぶつ||うちあけて||| 僕 は なんといっても あなた を 信ずる 事 が できません 。 ぼく|||||しんずる|こと||でき ませ ん こんな 冷淡な 事 を いう の を 許して ください 。 |れいたんな|こと|||||ゆるして| しかし これ に は あなた に も 責 め が ある と 僕 は 思います よ 。 |||||||せき|||||ぼく||おもい ます| …… しかたがない 僕 は 木村 君 に きょう あなた と 会った このまま を いって やります 。 |ぼく||きむら|きみ|||||あった||||やり ます 僕 に は どう 判断 の しよう も ありません もの …… しかし お 願い します が ねえ 。 ぼく||||はんだん||||あり ませ ん||||ねがい|し ます|| 木村 君 が あなた から 離れ なければ なら ない もの なら 、 一刻 でも 早く それ を 知る ように して やって ください 。 きむら|きみ||||はなれ||||||いっこく||はやく|||しる|||| 僕 は 木村 君 の 心持ち を 思う と 苦しく なります 」・・ ぼく||きむら|きみ||こころもち||おもう||くるしく|なり ます

「 でも 木村 は 、 あなた に 来た お 手紙 に よる と わたし を 信じ きって くれて いる ので は ない んです か 」・・ |きむら||||きた||てがみ||||||しんじ|||||||| "But Kimura, according to your letter, you believe me completely, don't you?"

そう 葉子 に いわれて 、 古藤 は また 返す 言葉 も なく 黙って しまった 。 |ようこ||いわ れて|ことう|||かえす|ことば|||だまって| 葉子 は 見る見る 非常に 興奮 して 来た ようだった 。 ようこ||みるみる|ひじょうに|こうふん||きた| 抑え 抑えて いる 葉子 の 気持ち が 抑え きれ なく なって 激しく 働き 出して 来る と 、 それ は いつでも 惻々 と して 人 に 迫り 人 を 圧した 。 おさえ|おさえて||ようこ||きもち||おさえ||||はげしく|はたらき|だして|くる|||||そくそく|||じん||せまり|じん||あっした When Yoko's suppressed feelings became uncontrollable and began to work violently, it would always press on and oppress people. 顔色 一 つ 変え ないで 元 の まま に 親しみ を 込めて 相手 を 見 やり ながら 、 胸 の 奥底 の 心持ち を 伝えて 来る その 声 は 、 不思議な 力 を 電気 の ように 感じて 震えて いた 。 かおいろ|ひと||かえ||もと||||したしみ||こめて|あいて||み|||むね||おくそこ||こころもち||つたえて|くる||こえ||ふしぎな|ちから||でんき|||かんじて|ふるえて| ・・

「 それ で 結構 。 ||けっこう 五十川 の おばさん は 始め から いやだ いやだ と いう わたし を 無理に 木村 に 添わ せよう と して 置き ながら 、 今に なって わたし の 口 から 一言 の 弁解 も 聞か ず に 、 木村 に 離縁 を 勧めよう と いう 人 な んです から 、 そりゃ わたし 恨み も します 。 いそがわ||||はじめ||||||||むりに|きむら||そわ||||おき||いまに||||くち||いちげん||べんかい||きか|||きむら||りえん||すすめよう|||じん||||||うらみ||し ます Aunt Isogawa tried to force me to go along with Kimura, saying that she didn't like it from the beginning, but now, without hearing a single excuse from my mouth, I'm going to recommend Kimura to divorce me. That's the kind of person I am, so I hold a grudge against him. 腹 も 立てます 。 はら||たて ます え ゝ 、 わたし は そんな 事 を されて 黙って 引っ込んで いる ような 女 じゃ ない つもりです わ 。 |||||こと||さ れて|だまって|ひっこんで|||おんな|||| けれども あなた は 初手 から わたし に 疑い を お 持ち に なって 、 木村 に も いろいろ 御 忠告 なさった 方 です もの 、 木村 に どんな 事 を いって お やり に なろう と も わたし に は ねっから 不服 は ありません こと よ 。 |||しょて||||うたがい|||もち|||きむら||||ご|ちゅうこく||かた|||きむら|||こと|||||||||||||ふふく||あり ませ ん|| But you had doubts about me right from the start, and you gave Kimura a lot of advice, so no matter what you say to Kimura, I have no complaints. world . …… けれども ね 、 あなた が 木村 の いちばん 大切な 親友 で いらっしゃる と 思えば こそ 、 わたし は 人一倍 あなた を たより に して きょう も わざわざ こんな 所 まで 御 迷惑 を 願ったり して 、…… でも おかしい もの ね 、 木村 は あなた も 信じ わたし も 信じ 、 わたし は 木村 も 信じ あなた も 信じ 、 あなた は 木村 は 信ずる けれども わたし を 疑って …… そ 、 まあ 待って …… 疑って は いらっしゃりません 。 ||||きむら|||たいせつな|しんゆう||||おもえば||||ひといちばい||||||||||しょ||ご|めいわく||ねがったり||||||きむら||||しんじ|||しんじ|||きむら||しんじ|||しんじ|||きむら||しんずる||||うたがって|||まって|うたがって||いらっしゃり ませ ん そうです 。 そう です けれども 信ずる 事 が でき ないで いらっしゃる んです わ ね …… こう なる と わたし は 倉地 さん に でも おす が りして 相談 相手 に なって いただく ほか し よう が ありません 。 |しんずる|こと|||||||||||||くらち|||||||そうだん|あいて||||||||あり ませ ん But you can't believe it... In this situation, I have no choice but to turn to Mr. Kurachi and ask him to help me. いくら わたし 娘 の 時 から 周囲 から 責められ 通し に 責められて いて も 、 今 だに 女手 一 つ で 二 人 の 妹 まで 背負って 立つ 事 は できません から ね 。 ||むすめ||じ||しゅうい||せめ られ|とおし||せめ られて|||いま||おんなで|ひと|||ふた|じん||いもうと||せおって|たつ|こと||でき ませ ん|| ……」・・

古藤 は 二 重 に 折って いた ような 腰 を 立てて 、 少し せきこんで 、・・ ことう||ふた|おも||おって|||こし||たてて|すこし|

「 それ は あなた に 不似合いな 言葉 だ と 僕 は 思います よ 。 ||||ふにあいな|ことば|||ぼく||おもい ます| もし 倉地 と いう 人 の ため に あなた が 誤解 を 受けて いる の なら ……」・・ |くらち|||じん||||||ごかい||うけて|||

そう いって まだ 言葉 を 切ら ない うち に 、 もうとう に 横浜 に 行った と 思われて いた 倉地 が 、 和服 の まま で 突然 六 畳 の 間 に は いって 来た 。 |||ことば||きら||||||よこはま||おこなった||おもわ れて||くらち||わふく||||とつぜん|むっ|たたみ||あいだ||||きた これ は 葉子 に も 意外だった ので 、 葉子 は 鋭く 倉地 に 目 くば せ した が 、 倉地 は 無頓着だった 。 ||ようこ|||いがいだった||ようこ||するどく|くらち||め|||||くらち||むとんちゃくだった そして 古藤 の いる の など は 度外 視 した 傍若無人 さ で 、 火鉢 の 向こう 座 に どっか と あぐら を かいた 。 |ことう||||||どがい|し||ぼうじゃくぶじん|||ひばち||むこう|ざ||ど っか|||| ・・

古藤 は 倉地 を 一目 見る と すぐ 倉地 と 悟った らしかった 。 ことう||くらち||いちもく|みる|||くらち||さとった| いつも の 癖 で 古藤 は すぐ 極度に 固く なった 。 ||くせ||ことう|||きょくどに|かたく| 中断 さ れた 話 の 続き を 持ち出し も し ないで 、 黙った まま 少し 伏し目 に なって ひかえて いた 。 ちゅうだん|||はなし||つづき||もちだし||||だまった||すこし|ふしめ|||| 倉地 は 古藤 から 顔 の 見え ない の を いい 事 に 、 早く 古藤 を 返して しまえ と いう ような 顔つき を 葉子 に して 見せた 。 くらち||ことう||かお||みえ|||||こと||はやく|ことう||かえして|||||かおつき||ようこ|||みせた 葉子 は わけ は わから ない まま に その 注意 に 従おう と した 。 ようこ|||||||||ちゅうい||したがおう|| で 、 古藤 の 黙って しまった の を いい 事 に 、 倉地 と 古藤 と を 引き合わせる 事 も せ ず に 自分 も 黙った まま 静かに 鉄びん の 湯 を 土びん に 移して 、 茶 を 二 人 に 勧めて 自分 も 悠々と 飲んだり して いた 。 |ことう||だまって|||||こと||くらち||ことう|||ひきあわせる|こと|||||じぶん||だまった||しずかに|てつびん||ゆ||どびん||うつして|ちゃ||ふた|じん||すすめて|じぶん||ゆうゆうと|のんだり|| ・・

突然 古藤 は 居ずまい を なおして 、・・ とつぜん|ことう||いずまい||なお して

「 もう 僕 は 帰ります 。 |ぼく||かえり ます お 話 は 中途 です けれども なんだか 僕 は きょう は これ で おいとま が し たく なりました 。 |はなし||ちゅうと||||ぼく||||||||||なり ました あと は 必要 が あったら 手紙 を 書きます 」・・ ||ひつよう|||てがみ||かき ます

そう いって 葉子 に だけ 挨拶 して 座 を 立った 。 ||ようこ|||あいさつ||ざ||たった 葉子 は 例の 芸者 の ような 姿 の まま で 古藤 を 玄関 まで 送り出した 。 ようこ||れいの|げいしゃ|||すがた||||ことう||げんかん||おくりだした ・・

「 失礼 し まして ね 、 ほんとうに きょう は 。 しつれい|||||| もう 一 度 で よう ございます から ぜひ お 会い に なって ください ましな 。 |ひと|たび|||||||あい|||| 一生 の お 願い です から 、 ね 」・・ いっしょう|||ねがい|||

と 耳打ち する ように ささやいた が 古藤 は なんとも 答え ず 、 雨 の 降り出した のに 傘 も 借り ず に 出て 行った 。 |みみうち|||||ことう|||こたえ||あめ||ふりだした||かさ||かり|||でて|おこなった ・・

「 あなたったら まずい じゃ ありません か 、 なん だって あんな 幕 に 顔 を お 出し なさる の 」・・ あなた ったら|||あり ませ ん|||||まく||かお|||だし||

こう なじる ように いって 葉子 が 座 に つく と 、 倉地 は 飲み 終わった 茶わん を 猫 板 の 上 に とんと 音 を たてて 伏せ ながら 、・・ ||||ようこ||ざ||||くらち||のみ|おわった|ちゃわん||ねこ|いた||うえ|||おと|||ふせ|

「 あの 男 は お前 、 ばかに して かかって いる が 、 話 を 聞いて いる と 妙に 粘り強い 所 が ある ぞ 。 |おとこ||おまえ||||||はなし||きいて|||みょうに|ねばりづよい|しょ||| ばか も あの くらい まっすぐに ばかだ と 油断 の でき ない もの な のだ 。 |||||||ゆだん|||||| も 少し 話 を 続けて いて みろ 、 お前 の やり繰り で は 間に合わ なく なる から 。 |すこし|はなし||つづけて|||おまえ||やりくり|||まにあわ||| いったい なんで お前 は あんな 男 を かまい つける 必要 が ある ん か 、 わから ない じゃ ない か 。 ||おまえ|||おとこ||||ひつよう||||||||| 木村 に でも 未練 が あれば 知ら ない 事 」・・ きむら|||みれん|||しら||こと

こう いって 不敵に 笑い ながら 押し付ける ように 葉子 を 見た 。 ||ふてきに|わらい||おしつける||ようこ||みた 葉子 は ぎくりと 釘 を 打た れた ように 思った 。 ようこ|||くぎ||うた|||おもった 倉地 を しっかり 握る まで は 木村 を 離して は いけない と 思って いる 胸算用 を 倉地 に 偶然に いい当てられた ように 思った から だ 。 くらち|||にぎる|||きむら||はなして||||おもって||むなざんよう||くらち||ぐうぜんに|いいあて られた||おもった|| It was because I thought that Kurachi had accidentally guessed my mental calculation that I should not let go of Kimura until I had a firm grip on him. しかし 倉地 が ほんとうに 葉子 を 安心 さ せる ため に は 、 しなければ なら ない 大事な 事 が 少なくとも 一 つ 残って いる 。 |くらち|||ようこ||あんしん||||||し なければ|||だいじな|こと||すくなくとも|ひと||のこって| それ は 倉地 が 葉子 と 表向き 結婚 の できる だけ の 始末 を して 見せる 事 だ 。 ||くらち||ようこ||おもてむき|けっこん|||||しまつ|||みせる|こと| That is Kurachi's ostensible marriage to Yoko as much as possible. 手っ取り早く いえば その 妻 を 離縁 する 事 だ 。 てっとりばやく|||つま||りえん||こと| それ まで は どうしても 木村 を のがして は なら ない 。 ||||きむら||||| それ ばかり で は ない 、 もし 新聞 の 記事 など が 問題 に なって 、 倉地 が 事務 長 の 位置 を 失う ような 事 に でも なれば 、 少し 気の毒だ けれども 木村 を 自分 の 鎖 から 解き 放さ ず に おく の が 何かにつけ て 便宜 で も ある 。 ||||||しんぶん||きじ|||もんだい|||くらち||じむ|ちょう||いち||うしなう||こと||||すこし|きのどくだ||きむら||じぶん||くさり||とき|はなさ||||||なにかにつけ||べんぎ||| 葉子 は しかし 前 の 理由 は おくび に も 出さ ず に あと の 理由 を 巧みに 倉地 に 告げよう と 思った 。 ようこ|||ぜん||りゆう|||||ださ|||||りゆう||たくみに|くらち||つげよう||おもった Yoko, however, decided to skillfully tell Kurachi the second reason without revealing the first reason. ・・

「 きょう は 雨 に なった で 出かける の が 大 儀 だ 。 ||あめ||||でかける|||だい|ぎ| 昼 に は 湯豆腐 でも やって 寝て くれよう か 」・・ ひる|||ゆどうふ|||ねて|| Would you like to have boiled tofu for lunch and go to sleep?"

そう いって 早くも 倉地 が そこ に 横 に なろう と する の を 葉子 は しいて 起き 返ら した 。 ||はやくも|くらち||||よこ|||||||ようこ|||おき|かえら|