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Aozora Bunko Readings (4-5mins), 042. 幸福 - 島崎 藤村

042. 幸福 - 島崎 藤村

幸福 -島崎 藤村

「幸福 」が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きました 。 誰 でも 幸福 の 欲しくない 人 は ありません から 、どこ の 家 を 訪ね ましても 、みんな 大喜びで 迎えて くれる に ちがいありません 。 けれども 、それでは 人 の 心 が よく 分りません 。 そこ で 「幸福 」は 貧しい 貧しい 乞食 の ような 服装 を しました 。 誰 か 聞いたら 、自分 は 「幸福 」だ と 言わずに 「貧乏 」だ と 言う つもりでした 。 そんな 貧しい 服装 を して いて も 、それ でも 自分 を よく 迎えて くれる 人 が ありましたら 、その 人 の ところ へ 幸福 を 分けて 置いて 来る つもりでした 。 この 「幸福 」が いろいろな 家 へ 訪ねて 行きます と 、犬 の 飼って ある 家 が ありました 。 その 家 の 前 へ 行って 「幸福 」が 立ちました 。 そこ の 家 の 人 は 「幸福 」が 来た と は 知りません から 、貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 家 の 前 に いる の を 見て 、 「お前 さん は 誰 です か 。」

と 尋ねました 。 「わたし は 「貧乏 」で ございます 。」

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。 「貧乏 」は 吾家 じゃ お 断り だ 。」

と そこ の 家 の 人 は 戸 を ぴしゃんと しめて しまいました 。 おまけに 、そこ の 家 に 飼って ある 犬 が おそろしい 声 で 追い立てる ように 鳴きました 。 「幸福 」は 早速 ごめん を 蒙り まして 、今度 は 鶏 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 そこ の 家 の 人 も 「幸福 」が 来た と は 知らなかった と 見えて 、いやな もの でも 家 の 前 に 立った ように 顔 を しかめて 、

「お前 さん は 誰 です か 。」

と 尋ねました 。 「わたし は 「貧乏 」で ございます 。」

「ああ 、「貧乏 」か 、「貧乏 」は 吾家 じゃ 沢山 だ 。」

と そこ の 家 の 人 は 深い 溜息 を つきました 。 それ から 飼って ある 鶏 に 気 を つけました 。 貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 来て 鶏 を 盗んで 行き は しない か と 思った のでしょう 。

「コッ 、コッ 、コッ 、コッ 。」

と そこ の [#「 と そこ の 」 は 底 本 で は 「 と そこ の 」] 家 の 鶏 は 用心深い 声 を 出して 鳴きました 。 「幸福 」は また そこ の 家 でも ごめん を 蒙り まして 、今度 は 兎 の 飼って ある 家 の 前 へ 行って 立ちました 。 「お前 さん は 誰 です か 。」

「わたし は 「貧乏 」で ございます 。」

「 ああ 、「 貧乏 」 か 。」

と 言いました が 、そこ の 家 の 人 が 出て 見る と 、貧しい 貧しい 乞食 の ような もの が 表 に 立って いました 。 そこ の 家 の 人 も 「幸福 」が 来た と は 知らない ようでした が 、なさけ という もの が ある と 見えて 、台所 の 方 から おむすび を 一つ 握って 来て 、

「さあ 、これ を おあがり 。」

と 言って くれました 。 そこ の 家 の 人 は 、黄色い 沢庵 の おこうこ まで その おむすび に 添えて くれました 。 「 グウ 、 グウ 、 グウ 、 グウ 。」

と 兎 は 高い いびき を かいて 、さも 楽しそうに 昼寝 を していました 。 「幸福 」に は そこ の 家 の 人 の 心 が よく 分りました 。 おむすび 一 つ 、沢庵 一切 に も 、人 の 心 の 奥 は 知れる もの です 。 それ を うれしく 思い まして 、その 兎 の 飼って ある 家 へ 幸福 を 分けて 置いて 来ました 。

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