041. 蟹 の しょうばい - 新美 南 吉
蟹 の しょうばい -新美 南 吉
蟹 が いろいろ 考えた あげく 、とこや を はじめました 。 蟹 の 考え と しては おおでき で ありました 。 ところで 、蟹 は 、
「とこや という しょうばい は 、たいへん ひまな もの だ な 。」 と 思いました 。 と 申します の は 、ひとり も お客さん が こない から であります 。 そこ で 、蟹 の とこや さん は 、はさみ を もって 海っぱた に やっていきました 。 そこ に は たこ が ひるね を して いました 。 「もしもし 、たこ さん 。」
と 蟹 は よびかけました 。 たこ は め を さまして 、
「 なんだ 。」
と いいました 。 「とこや です が 、ごよう は ありません か 。」 「よく ごらん よ 。 わたし の 頭 に 毛 が ある か どう か 。」
蟹 は たこ の 頭 を よく みました 。 なるほど 毛 は ひとすじ も なく 、つるん こ で ありました 。 いくら 蟹 が じょうずな とこや でも 、毛 の ない 頭 を かる こと は できません 。 蟹 は 、そこ で 、山 へ やっていきました 。 山 に は たぬき が ひるね を して いました 。 「もしもし 、たぬき さん 。」
たぬき は め を さまして 、
「 なんだ 。」
と いいました 。 「とこや です が ごよう は ありません か 。」 たぬき は 、いたずら が すきな けもの です から 、よく ない こと を 考えました 。 「よろしい 、かって もらおう 。 ところで 、ひとつ やくそく して くれ なきゃ いけない 。 と いう の は 、わたし の あと で 、わたし の お父さん の 毛 も かって もらいたい の さ 。」 「へい 、おやすい こと です 。」
そこ で 、蟹 の うで を ふるう とき が きました 。 ちょっきん 、 ちょっきん 、 ちょっきん 。
ところが 、蟹 という もの は 、あまり 大きな もの では ありません 。 蟹 と くらべたら 、たぬき は とんでもなく 大きな もの であります 。 その 上 たぬき と いう もの は 、からだ じゅう が 毛 むくじゃら で あります 。 ですから 仕事 は なかなか はかどりません 。 蟹 は 口 から 泡 を ふいて いっしょうけんめい はさみ を つかいました 。 そして 三 日 かかって 、やっと の こと 仕事 は おわりました 。 「じゃ 、やくそく だ から 、わたし の お父さん の 毛 も かって くれた まえ 。」
「お 父さん と いう の は 、どの くらい 大きな かた です か 。」
「あの 山 くらい ある か ね 。」
蟹 は めんくらいました 。 そんなに 大きくて は 、とても じぶん ひとり で は 、まにあわぬ と 思いました 。 そこ で 蟹 は 、じぶん の 子ども たち を みな とこや に しました 。 子ども ばかり か 、まご も ひこ も 、うまれて くる 蟹 は みな とこや に しました 。 それ で わたくし たち が 道ばた に みうける 、ほん に 小さな 蟹 で さえ も 、ちゃんと はさみ を もって います 。