040. 狐 の つかい - 新美 南 吉
狐 の つかい -新美 南 吉
山 の なか に 、猿 や 鹿 や 狼 や 狐 など が いっしょに すんで おりました 。 みんな は ひと つ の あんどん を もって いました 。 紙 で はった 四角な 小さい あんどん で ありました 。 夜 が くる と 、みんな は この あんどん に 灯 を ともした ので ありました 。 ある ひ の 夕方 、みんな は あんどん の 油 が もう なくなっている こと に 気 が つきました 。 そこ で だれ か が 、村 の 油屋 まで 油 を 買い に ゆかねば なりません 。 さて だれ が いった もの でしょう 。
みんな は 村 に ゆく こと が すき では ありません でした 。 村 に は みんな の きらいな 猟師 と 犬 が いた から であります 。 「それでは わたし が いきましょう 」 と その とき いった もの が ありました 。 狐 です 。 狐 は 人間 の 子ども に ばける こと が できた から でありました 。 そこ で 、狐 の つかい と きまりました 。 やれやれ とんだ こと に なりました 。 さて 狐 は 、うまく 人間 の 子ども に ばけて 、しりきれ ぞうり を 、ひたひた と ひきずり ながら 、村 へ ゆきました 。 そして 、しゅびよく 油 を 一合 かいました 。 かえり に 狐 が 、月夜 の なたねばたけ の なか を 歩いています と 、たいへん よい におい が します 。 気 が ついて みれば 、それ は 買って きた 油 の におい でありました 。 「すこし ぐらい は 、よい だろう 。」
と いって 、狐 は ぺろり と 油 を なめました 。 これ は また なんという おいしい もの でしょう 。
狐 は しばらく する と 、また がまん が でき なく なりました 。 「すこし ぐらい は よい だろう 。 わたし の 舌 は 大きく ない 。」
と いって 、また ぺろり と なめました 。 しばらく して また ぺろり 。
狐 の 舌 は 小さい ので 、ぺろり と なめて も わずかな こと です 。 しかし 、ぺろり ぺろり が なんど も かさなれば 、一合 の 油 も なくなって しまいます 。 こうして 、山 に つく まで に 、狐 は 油 を すっかり なめて しまい 、もって かえった の は 、から の とくり だけ でした 。
待って いた 鹿 や 猿 や 狼 は 、から の とくり を みて ためいき を つきました 。 これ で は 、こんや は あんどん が ともりません 。 みんな は 、がっかり して 思いました 、 「さて さて 。 狐 を つかい に やる の じゃなかった 。」
と 。