パート 4
メル ・ヘイスティングス は いきなり ヒステリック な 笑い声 を 出した 。 「これ で あなた の 頭 が 変だ と いう こと が わかりました よ 、先生 ! あの やさしい 、 愛情 深い アリス に 心臓 (ハート )が ない だ なんて ! 彼女 は よく 言った もの です 。 『わたし に は アタマ が ない の よ 。 そう で なきゃ 、どんくさい 新聞 記者 なんか と 結婚 する もん ですか 。 でも 、だから わたし に は ハート が ある の 。 あなた と 恋に落ちた のは わたし の ハート なのよ 。 アタマ じゃなくて 』彼女は ぼくを 愛していた んです 。 わかりません か 」 ドクタ ・ウインタース は 彼を そっと 連れ出そう とした 。 「もちろん 、わかります よ 。 どうぞ こちら へ 、ミスタ ・ヘイスティングス 。 しばらく 横 に なって 休みましょう 。 気付け に なに か 持ってきます 」 メルは 導かれ るままに 近くの 小部屋に 入った 。 医者が 持ってきた 液体は 飲んだが 、横に なろうと はしなかった 。
「たしかに 見ましたよ 」呆然と しながらも きっぱり 彼は そう 言った 。 「でも 説明 なんか どうでもいい 。 ぼく は アリス を 知っていた んです 。 彼女 は ぼく や 先生 以上に ちゃんと した 人間 だった 。 異常 なんて ちっとも なかった ――もっとも 去年 ごろ から 、ぼくら が ある とき 一緒に 火星に 行った と 思いこんで いた けど 」
「それ は 事実 じゃない んです ね ? 「ええ 。 二人とも 宇宙に 出た ことなんて なかった 」
「結婚なさるまえは 、どのくらい 奥さまの ことを ご存じでしたか 」
メルは ふと 昔を 思い出し 、ほほえんだ 。 「幼なじみ です よ 。 小学校 も 高校 も 同じ 。 一緒 じゃ ない とき なんて なかった ような 気 が する 。 家族 は 長い こと 隣り 同士 だった し 」
「奥さま は 家族 が 大勢 いたん です か 」
「兄 と 姉 と 妹 が 二 人 」
「ご両親 は どんな 方 でした ? 「まだ 生きてます よ 。 父親 は 器具 の 販売 店 を やって います 。 農業 地帯 に 住んで いる んです 。 みんな すばらしい 人 です よ 。 アリス も あの 家族 の 一員 らしい 人間 でした 」
ドクタ ・ウインタース は 押し黙り 、また つづけた 。 「あなた に つらい 思い を させた のは 、一つ 理由 が ある んです 、ミスタ ・ヘイスティングス 。 それ が なければ 奥さま の 状態 を 事細かに 説明 したり 、まして や ご 遺体 を 見て ほしい など と 頼み は しません 。 ですが 、これ は 科学的に 見て とてつもない 事件 なので 、ぜひ 解決 の ために ご協力 を お願いしたい のです 。 科学 の ため に 奥さま の ご遺体 を 保管 し 、解剖 する 許可 を いただけません か 」 メル は 突然 はげしい 敵意 を むきだし て 医者 を 見た 。 「埋葬 も させ ない と いう のです か 。 彼女 を ビン に 詰め 、まるで 、まるで ―― 」
「どう か 必要 以上 に 興奮 なさらないで 。 しかし いま の 提案 は よく お考え いただきたい 。 ちょっと 考えれば おわかり に なる でしょう が 、そうした 処置 は 決して 野蛮な もの では ありません 。 死者 に たいする ほか の 習慣 と 同じ です 。 いや 、そんな こと は どうでもいい 。 あなた が 結婚 なさった アリス と いう 女性 は 、外見 に 関する かぎり 正常 の よう です が 、彼女 に 命 を 与え 機能 させて いる 内臓 組織 は 、いままで 人間 が 見た こと の ない もの です 。 われわれ は この こと の 意味 を 解明 しなければ なりません 。 その 機会 を 与えて くれる か 否 か は 、あなた 次第 なのです よ 」
メルは もう 一度 しゃべろう と した が 、言葉が 出てこなかった 。
「 一刻 も 無駄に は できない の です が 、 しかし 即答 を 強制 し たく は ない ので 、 三十 分 お 考え に なって ください 。 その あいだに 、さらなる 保存 手段を 講じなければ なりません 。 せき立てる ようで 申し訳ない の です が 、 ぜひ よい お 返事 が いただける よう お 願い します 」 ドクタ ・ウインタースは ドアの ほうに 行こうと した が 、メルが 身振りで それを 押しとどめた 。
「もう 一度 彼女を 見せて ください 」
「その 必要は ない でしょう 。 もう 十分に 苦しんで いらっしゃる のに 。 いま まで ずっと 見て いらっしゃった 姿 で 、奥さま を ご記憶 なさった ほうが いい 。 先ほど の ような 姿 で は なくて 」
「 返事 が ほしい なら 、 もう 一 度 見せて ください 」
ドクタ ・ ウインタース は 黙って 冷たい 部屋 へ 彼 を 連れて いった 。 メルは アリスの 顔だけが 露出する ように おおいを のけた 。 間違いは ない 。 どういう ものか 、彼は すべてが とてつもない 誤りで あればいい と 思っていた のだが 、これは 誤りでも なんでも なかった 。
彼女は ぼくに 医者の 望みを きいてほしい と 思っている だろうか 、と 彼は 考えた 。 どっち だって かまい は し ない だろう 。 ほか の 人 と は 違う 内臓 を 持って 生まれて きた なんて 、たぶん 、突拍子 も ない 冗談 だ と 思って いる んじゃない だろう か 。 学識 豊かな お医者様 たち が 身体 の 奥 を 探ったり 、ささやき かわして 、説明 の つかない もの に 説明 を つけよう と する 様子 を 見たら 、彼女 は にやにや する だろう 。
メル は そっと 顔 に おおい を 戻した 。
「好きな ように して ください 」と 彼は ドクタ ・ウインタースに 言った 。 「ぼくらに は ――彼女にも ぼくにも 関係のない ことです 」