パート 22
前 の とき と 様子 は 少しも ちがって いなかった 。 休暇 に 行く 人 や 、それ を 見送り に 来た 人 が ごったがえし 、やはり バカンス にたいする 興奮 を 発散 させて いた 。 船 まで 同じ だった 。
ちがって いた の は アリス が いない こと だ 。 彼 は 部屋 に 閉じこもって いた ので 離陸 を 見る こと は なかった 。 船 が 水面 上 を 長々 と 滑走 する とき 、かすかな 揺れ を 感じた 。 人工 重力 に 切り替わる とき は 、その 変化 も わかった 。 マーシャン ・プリンセス 号 が 冷たい 夜 の ような 宇宙 を 目指して いる とき 、彼 は ベッド に 横たわり 目 を 閉じて いた 。
二 日間 、食事 の とき 以外 は 部屋 を 出る こと は なかった 。 旅行 それ 自体 に は なんの 興味 も なかった のだ 。 ただ 黒い 宇宙 船 が 来た と いう 案内 を ひたすら 待って いた 。
しかし 二 日 目 の 終り に なって も 案内 は なかった 。 メル は 果てし の ない 星 の かなた を ながめ ながら 、眠られない 夜 を 過ごした 。 ドクタ ・マーチン の 言った こと が 正しかった のだ 、と 彼 は 思った 。 黒い 船 なんか あり は し ない 。 一つ の 空想 を 別の 空想 に 置き換えて いた に すぎない のだ 。 現実 は どこ に ある ? それ は この世 の どこ か に 存在 する のだろう か 。
しかし 黒い 船 は ない と しても 、彼 の 向かう 先 が 依然と して 火星 である こと に かわり は なかった 。
黒い 船 が あらわれる こと なく 三 日 目 が すぎた 。 しかし その 日 の 夜 、スピーカー から 案内 が 流れた 。 「乗客 の 皆様 は 全員 、シャトル から 火星 定期 航路 船 へ お 乗り換え の 準備 を なさって ください 。 手 荷物 を ――」
メル は 放送 を 聞き ながら 、麻痺 した ように 座って いた 。 やっぱり 事実 だった んだ ! 彼 は 二 隻 の 船 が 結合 する とき 、マーシャン ・プリンセス 号 に 軽い 振動 が 伝わる の を 感じた 。 部屋 の 舷窓 から 例の 正体 不明 の 船 が 見えた 。 黒くて 、みにくく 、どこ か 死 を 思わ せる 。 ドクタ ・マーチン に この 「空想 」を 見せて やれたら 、と 彼 は 思った 。
急いで 荷物 を まとめて 部屋 を 出 、驚き 興奮 する 群衆 に 加わった 。 今度 は ためらう ので は なく 、巨大な 黒い 宇宙 船 の 秘密 を 探り出そう と 気 を はやらせて いた 。
一方 の 船 から 他方 の 船 に 移動した こと は 、ほとんど わからない くらい だった 。 どちら の 通路 も 同じ 構造 だった のだ 。 しかし メル は 連結 地点 を 通る とき 、その こと に 気 が ついて いた 。 彼 は 自分 が 知る 普通の 世界 と は まるきり ちがう 不思議な 世界 に 入りこんだ こと を 感じ取った 。
廊下 の ずっと 先 の ほう で 群衆 の 進む スピード が 落ちて いた 。 乗務員 の 前 に いくつも の 列 が できている 。 切符 を 調べられて いる のだ 。 乗客 は 振り分けられる ように して 、枝分かれ した 廊下 を 自室 に むかって 進んで いった 。 これ まで の ところ は 、なにもかも まったく 正常 で 、メル は すっかり がっかり して しまった 。 放送 で 言わ れた 通り だ 。 シャトル から 火星 定期 航路 船 に 乗り移って いる だけ だ 。
乗務員 が 彼 の 切符 に 目 を 走らせ 、一瞬 ためらう ように それ を 持ちながら 、メル の 顔 を 確認した 。 「ミスタ ・ノートン ――どうぞ こちら へ 」
乗務員 が むかった その 方向 に は 乗客 は だれ も いなかった 。 別の 乗務員 が 彼 の ところ に やってきた 。 「あちら です よ 」と 二人目 の 男 が メル に 言った 。 「乗務員 に ついていって ください 」