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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第 一 の 手記 (2)

第 一 の 手記 (2)

いつか の 父 の 上京 の 前夜 、父 は 子供 たち を 客間 に 集め 、こんど 帰る 時 に は 、どんな お土産 が いい か 、一 人 々々 に 笑い ながら 尋ね 、それ に 対する 子供 たち の 答 を いちいち 手帖 てちょう に 書きとめる のでした。 父 が 、こんなに 子供 たち と 親しく する の は 、めずらしい 事 でした。

「葉 蔵 は?

と 聞かれて 、自分 は 、口ごもって しまいました。

何 が 欲しい と 聞か れる と 、とたん に 、何も 欲しく なく なる のでした。 どうでも いい 、どうせ 自分 を 楽しく さ せて くれる もの なんか 無い んだ と いう 思い が 、ちら と 動く のです。 と 、同時に 、人 から 与えられる もの を 、どんなに 自分 の 好み に 合わ なくて も 、それ を 拒む 事 も 出来ません でした。 イヤな 事 を 、イヤ と 言え ず 、また 、好きな 事 も 、おずおず と 盗む ように 、極めて にがく 味 あじわい 、そうして 言い 知れ ぬ 恐怖 感 に もだえる のでした。 つまり 、自分 に は 、二 者 選一 の 力 さえ 無かった のです。 これ が 、後年 に 到 り 、いよいよ 自分 の 所 謂 「恥 の 多い 生涯 」の 、重大な 原因 と も なる 性癖 の 一 つ だった ように 思わ れます。

自分 が 黙って 、もじもじ して いる ので 、父 は ちょっと 不機嫌な 顔 に なり、

「やはり 、本 か。 浅草 の 仲 店 に お 正月 の 獅子舞 い の お 獅子 、子供 が かぶって 遊ぶ の に は 手頃な 大き さ の が 売って いた けど 、欲しく ない か」

欲しく ない か 、と 言わ れる と 、もう ダメな んです。 お 道化 た 返事 も 何も 出来 や し ない んです。 お 道化 役者 は 、完全に 落第 でした。

「本 が 、いい でしょう」

長兄 は 、まじめな 顔 を して 言いました。

「そう か」

父 は 、興 覚め 顔 に 手帖 に 書きとめ も せ ず 、パチ と 手帖 を 閉じました。

何という 失敗 、自分 は 父 を 怒ら せた 、父 の 復讐 ふくしゅう は 、きっと 、おそるべき もの に 違いない 、いま の うち に 何とか して 取りかえし の つか ぬ もの か 、と その 夜 、蒲 団 の 中 で がたがた 震え ながら 考え 、そっと 起きて 客間 に 行き 、父 が 先刻 、手帖 を しまい 込んだ 筈 の 机 の 引き出し を あけて 、手帖 を 取り上げ 、パラパラ めくって 、お土産 の 注文 記入 の 個所 を 見つけ 、手帖 の 鉛筆 を なめて 、シシマイ 、と 書いて 寝ました。 自分 は その 獅子舞 い の お 獅子 を 、ちっとも 欲しく は 無かった のです。 かえって 、本 の ほう が いい くらい でした。 けれども 、自分 は 、父 が その お 獅子 を 自分 に 買って 与えたい のだ と いう 事 に 気 が つき 、父 の その 意向 に 迎合 して 、父 の 機嫌 を 直したい ばかりに 、深夜 、客間 に 忍び込む と いう 冒険 を 、敢えて おかした のでした。

そうして 、この 自分 の 非 常の 手段 は 、果して 思いどおりの 大 成功 を 以 て 報いられました。 やがて 、父 は 東京 から 帰って 来て 、母 に 大声 で 言って いる の を 、自分 は 子供 部屋 で 聞いて いました。

「仲 店 の おもちゃ 屋 で 、この 手帖 を 開いて みたら 、これ 、ここ に 、シシマイ 、と 書いて ある。 これ は 、私 の 字 で は ない。 はて な? と 首 を かしげて 、思い当りました。 これ は 、葉 蔵 の いたずらです よ。 あいつ は 、私 が 聞いた 時 に は 、に や にやして 黙って いた が 、あと で 、どうしても お 獅子 が 欲しくて たまらなく なった んだ ね。 何せ 、どうも 、あれ は 、変った 坊主 です から ね。 知らん振り して 、ちゃんと 書いて いる。 そんなに 欲しかった の なら 、そう 言えば よい のに。 私 は 、おもちゃ 屋 の 店先 で 笑いました よ。 葉 蔵 を 早く ここ へ 呼び なさい」

また 一方 、自分 は 、下 男 や 下 女 たち を 洋室 に 集めて 、下 男 の ひと り に 滅 茶 苦 茶 めちゃくちゃに ピアノ の キイ を たたか せ 、(田舎 で は ありました が 、その 家 に は 、たいてい の もの が 、そろって いました )自分 は その 出 鱈 目 でたらめ の 曲 に 合せて 、インデヤン の 踊り を 踊って 見せて 、皆 を 大笑い さ せました。 次兄 は 、フラッシュ を 焚たいて 、自分 の インデヤン 踊り を 撮影 して 、その 写真 が 出来た の を 見る と 、自分 の 腰 布 (それ は 更紗 さらさ の 風呂敷 でした )の 合せ 目 から 、小さい お チンポ が 見えて いた ので 、これ が また 家中 の 大笑い でした。 自分 に とって 、これ また 意外の 成功 と いう べき もの だった かも 知れません。

自分 は 毎月 、新刊 の 少年 雑誌 を 十 冊 以上 も 、とって いて 、また その他 ほか に も 、さまざまの 本 を 東京 から 取り寄せて 黙って 読んで いました ので 、メチャラクチャラ 博士 だの 、また 、ナンジャモンジャ 博士 など と は 、たいへんな 馴染 なじみ で 、また 、怪談 、講談 、落語 、江戸 小咄 こばなし など の 類 に も 、かなり 通じて いました から 、剽軽 ひょうきんな 事 を まじめな 顔 を して 言って 、家 の 者 たち を 笑わ せる の に は 事 を 欠きません でした。

しかし 、嗚呼 ああ 、学校!

自分 は 、そこ で は 、尊敬 さ れ かけて いた のです。 尊敬 さ れる と いう 観念 も また 、甚 はなはだ 自分 を 、おびえ させました。 ほとんど 完全に 近く 人 を だまして 、そうして 、或る ひと り の 全知全能 の 者 に 見破ら れ 、木っ葉 みじん に やられて 、死 ぬる 以上 の 赤 恥 を かかせられる 、それ が 、「尊敬 さ れる 」と いう 状態 の 自分 の 定義 で ありました。 人間 を だまして 、「尊敬 さ れ 」て も 、誰 か ひと り が 知っている 、そうして 、人間 たち も 、やがて 、その ひと り から 教えられて 、だまさ れた 事 に 気づいた 時 、その 時 の 人間 たち の 怒り 、復讐 は 、いったい 、まあ 、どんなでしょう か。 想像 して さえ 、身 の 毛 が よだつ 心地 が する のです。

自分 は 、金持ち の 家 に 生れた と いう 事 より も 、俗に いう 「できる 」事 に 依って 、学校 中 の 尊敬 を 得 そうに なりました。 自分 は 、子供 の 頃 から 病弱で 、よく 一 つき 二 つき 、また 一 学年 ちかく も 寝込んで 学校 を 休んだ 事 さえ あった のです が 、それ でも 、病み 上り の から だ で 人力車 に 乗って 学校 へ 行き 、学年 末 の 試験 を 受けて みる と 、クラス の 誰 より も 所 謂 「できて 」いる ようでした。 からだ 具合 い の よい 時 でも 、自分 は 、さっぱり 勉強 せ ず 、学校 へ 行って も 授業 時間 に 漫画 など を 書き 、休憩 時間 に は それ を クラス の 者 たち に 説明 して 聞か せて 、笑わ せて やりました。 また 、綴り 方 に は 、滑稽 噺 こっけい ば なし ばかり 書き 、先生 から 注意 されて も 、しかし 、自分 は 、やめません でした。 先生 は 、実は こっそり 自分 の その 滑稽 噺 を 楽しみに して いる 事 を 自分 は 、知っていた から でした。 或る 日 、自分 は 、れい に 依って 、自分 が 母 に 連れられて 上京 の 途中 の 汽車 で 、おしっこ を 客車 の 通路 に ある 痰 壺 たん つぼ に して しまった 失敗 談 (しかし 、その 上京 の 時 に 、自分 は 痰 壺 と 知ら ず に した の では ありません でした。 子供 の 無邪気 を てらって 、わざと 、そうした の でした )を 、ことさら に 悲し そうな 筆 致 で 書いて 提出 し 、先生 は 、きっと 笑う と いう 自信 が ありました ので 、職員 室 に 引き揚げて 行く 先生 の あと を 、そっと つけて 行きましたら 、先生 は 、教室 を 出る と すぐ 、自分 の その 綴り 方 を 、他の クラス の 者 たち の 綴り 方 の 中 から 選び 出し 、廊下 を 歩き ながら 読み はじめて 、クスクス 笑い 、やがて 職員 室 に は いって 読み 終えた の か 、顔 を 真 赤 に して 大声 を 挙げて 笑い 、他の 先生 に 、さっそく それ を 読ま せて いる の を 見とどけ 、自分 は 、たいへん 満足でした。

お 茶目。

自分 は 、所 謂 お 茶目に 見られる 事 に 成功 しました。 尊敬 さ れる 事 から 、のがれる 事 に 成功 しました。 通信 簿 は 全 学科 と も 十 点 でした が 、操 行 と いう もの だけ は 、七 点 だったり 、六 点 だったり して 、それ も また 家中 の 大笑い の 種 でした。

けれども 自分 の 本性 は 、そんな お茶 目 さん など と は 、凡 およそ 対 蹠たいせき 的な もの でした。 その頃 、既に 自分 は 、女 中 や 下 男 から 、哀 かなしい 事 を 教えられ 、犯されて いました。 幼少 の 者 に 対して 、そのような 事 を 行う の は 、人間 の 行い 得る 犯罪 の 中 で 最も 醜悪で 下等で 、残酷な 犯罪 だ と 、自分 は いまでは 思って います。 しかし 、自分 は 、忍びました。 これ で また 一 つ 、人間 の 特質 を 見た と いう ような 気持 さえ して 、そうして 、力無く 笑って いました。 もし 自分 に 、本当の 事 を 言う 習慣 が ついて いた なら 、悪びれ ず 、彼等 の 犯罪 を 父 や 母 に 訴える 事 が 出来た の かも 知れません が 、しかし 、自分 は 、その 父 や 母 を も 全部 は 理解 する 事 が 出来 なかった のです。 人間 に 訴える 、自分 は 、その 手段 に は 少しも 期待 できません でした。 父 に 訴えて も 、母 に 訴えて も 、お 巡 まわり に 訴えて も 、政府 に 訴えて も 、結局 は 世渡り に 強い 人 の 、世間 に 通り の いい 言い ぶん に 言いまくら れる だけ の 事 で は 無い かしら。

必ず 片手 落 の ある の が 、わかり切って いる 、所詮 しょせん 、人間 に 訴える の は 無駄である 、自分 は やはり 、本当の 事 は 何も 言わ ず 、忍んで 、そうして お 道化 を つづけて いる より 他 、無い 気持 な のでした。

なんだ 、人間 へ の 不信 を 言って いる の か? へえ? お前 は いつ クリスチャン に なった ん だい 、と 嘲笑 ちょうしょう する 人 も 或いは ある かも 知れません が 、しかし 、人間 へ の 不信 は 、必ずしも すぐに 宗教 の 道 に 通じて いる と は 限ら ない と 、自分 に は 思わ れる のです けど。 現に その 嘲笑 する 人 を も 含めて 、人間 は 、お互い の 不信 の 中 で 、エホバ も 何も 念頭 に 置か ず 、平気で 生きて いる では ありません か。 やはり 、自分 の 幼少 の 頃 の 事 で ありました が 、父 の 属して いた 或る 政党 の 有名 人 が 、この 町 に 演説 に 来て 、自分 は 下 男 たち に 連れられて 劇場 に 聞き に 行きました。 満員 で 、そうして 、この 町 の 特に 父 と 親しく して いる 人 たち の 顔 は 皆 、見えて 、大いに 拍手 など して いました。 演説 が すんで 、聴衆 は 雪 の 夜道 を 三々五々 かたまって 家路 に 就き 、クソ ミソ に 今夜 の 演説 会 の 悪 口 を 言って いる のでした。 中 に は 、父 と 特に 親しい 人 の 声 も まじって いました。 父 の 開会 の 辞 も 下手 、れいの 有名 人 の 演説 も 何 が 何やら 、わけ が わから ぬ 、と その 所 謂父 の 「同志 たち 」が 怒声 に 似た 口調 で 言って いる のです。 そうして その ひと たち は 、自分 の 家 に 立ち寄って 客間 に 上り 込み 、今夜 の 演説 会 は 大 成功 だった と 、しん から 嬉し そうな 顔 を して 父 に 言って いました。 下 男 たち まで 、今夜 の 演説 会 は どう だった と 母 に 聞か れ 、とても 面白かった 、と 言って けろりと して いる のです。 演説 会 ほど 面白く ない もの は ない 、と 帰る 途 々 みちみち 、下 男 たち が 嘆き 合って いた のです。

しかし 、こんな の は 、ほんの ささやかな 一例 に 過ぎません。 互いに あざむき 合って 、しかも いずれ も 不思議に 何の 傷 も つか ず 、あざむき 合って いる 事 に さえ 気 が ついて いない みたいな 、実に あざやかな 、それ こそ 清く 明るく ほがらかな 不信 の 例 が 、人間 の 生活 に 充満 して いる ように 思わ れます。 けれども 、自分 に は 、あざむき 合って いる と いう 事 に は 、さして 特別の 興味 も ありません。 自分 だって 、お 道化 に 依って 、朝 から 晩 まで 人間 を あざむいて いる のです。 自分 は 、修身 教科 書 的な 正義 と か 何とか いう 道徳 に は 、あまり 関心 を 持て ない のです。 自分 に は 、あざむき 合って い ながら 、清く 明るく 朗らかに 生きて いる 、或いは 生き 得る 自信 を 持って いる みたいな 人間 が 難解な のです。 人間 は 、ついに 自分 に その 妙 諦 みょう てい を 教えて は くれません でした。 それ さえ わかったら 、自分 は 、人間 を こんなに 恐怖 し 、また 、必死の サーヴィス など し なくて 、すんだ のでしょう。 人間 の 生活 と 対立 して しまって 、夜 々 の 地獄 の これ ほど の 苦し み を 嘗 なめ ず に すんだ のでしょう。 つまり 、自分 が 下 男 下 女 たち の 憎む べき あの 犯罪 を さえ 、誰 に も 訴え なかった の は 、人間 へ の 不信 から で は なく 、また 勿論 クリスト 主義 の ため でも なく 、人間 が 、葉 蔵 と いう 自分 に 対して 信用 の 殻 を 固く 閉じて いた から だった と 思います。 父母 で さえ 、自分 に とって 難解な もの を 、時折 、見せる 事 が あった のです から。

そうして 、その 、誰 に も 訴え ない 、自分 の 孤独 の 匂い が 、多く の 女性 に 、本能 に 依って 嗅 かぎ 当てられ 、後年 さまざま 、自分 が つけ込ま れる 誘因 の 一 つ に なった ような 気 も する のです。

つまり 、自分 は 、女性 に とって 、恋 の 秘密 を 守れる 男 であった と いう わけな のでした。

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第 一 の 手記 (2) だい|ひと||しゅき Berichte aus erster Hand (2) The First Memoir (2) Relatos de primera mano (2) Témoignages (2) 첫 번째 수기 (2) Rekeningen uit de eerste hand (2) Relatos em primeira mão (2) 第一注 (2) 第一篇笔记 (2) 第一篇筆記 (2)

いつか の 父 の 上京 の 前夜 、父 は 子供 たち を 客間 に 集め 、こんど 帰る 時 に は 、どんな お土産 が いい か 、一 人 々々 に 笑い ながら 尋ね 、それ に 対する 子供 たち の 答 を いちいち 手帖 てちょう に 書きとめる のでした。 ||ちち||じょうきょう||ぜんや|ちち||こども|||きゃくま||あつめ||かえる|じ||||おみやげ||||ひと|じん|||わらい||たずね|||たいする|こども|||こたえ|||てちょう|||かきとめる| On the eve of one day my father's move to Tokyo, he gathered the children in the drawing room, and when he returned home, he laughed and asked each one what kind of souvenirs he should have, and gave the children's answers to them one by one. I wrote it down. 有一天父亲搬到东京的前一天,他把孩子们聚集在客厅里,回到家时,他笑着问每个人应该有什么样的纪念品,并给出了每个孩子的答案。我写了下。 父 が 、こんなに 子供 たち と 親しく する の は 、めずらしい 事 でした。 ちち|||こども|||したしく|||||こと| It was unusual for my father to be so close to his children.

「葉 蔵 は? は|くら| "What about Yozo?

と 聞かれて 、自分 は 、口ごもって しまいました。 |きか れて|じぶん||くちごもって|しまい ました When asked, I stuttered.

何 が 欲しい と 聞か れる と 、とたん に 、何も 欲しく なく なる のでした。 なん||ほしい||きか|||||なにも|ほしく||| When asked what they wanted, they immediately wanted nothing. どうでも いい 、どうせ 自分 を 楽しく さ せて くれる もの なんか 無い んだ と いう 思い が 、ちら と 動く のです。 |||じぶん||たのしく||||||ない||||おもい||||うごく| The thought that it doesn't matter, that there is nothing that can make me happy anyway, flashes through my mind. と 、同時に 、人 から 与えられる もの を 、どんなに 自分 の 好み に 合わ なくて も 、それ を 拒む 事 も 出来ません でした。 |どうじに|じん||あたえ られる||||じぶん||よしみ||あわ|||||こばむ|こと||でき ませ ん| At the same time, I couldn't refuse what was given to me, no matter how much I didn't like it. イヤな 事 を 、イヤ と 言え ず 、また 、好きな 事 も 、おずおず と 盗む ように 、極めて にがく 味 あじわい 、そうして 言い 知れ ぬ 恐怖 感 に もだえる のでした。 いやな|こと||いや||いえ|||すきな|こと||||ぬすむ||きわめて||あじ|||いい|しれ||きょうふ|かん||| I couldn't say no to things I didn't like, and even things I liked were timidly stolen. つまり 、自分 に は 、二 者 選一 の 力 さえ 無かった のです。 |じぶん|||ふた|もの|せんいつ||ちから||なかった| In other words, I didn't even have the power to choose between the two. これ が 、後年 に 到 り 、いよいよ 自分 の 所 謂 「恥 の 多い 生涯 」の 、重大な 原因 と も なる 性癖 の 一 つ だった ように 思わ れます。 ||こうねん||とう|||じぶん||しょ|い|はじ||おおい|しょうがい||じゅうだいな|げんいん||||せいへき||ひと||||おもわ|れ ます It seems that this was one of the propensity that became a serious cause of my so-called "shameful life" in later years.

自分 が 黙って 、もじもじ して いる ので 、父 は ちょっと 不機嫌な 顔 に なり、 じぶん||だまって|||||ちち|||ふきげんな|かお||

「やはり 、本 か。 |ほん| 浅草 の 仲 店 に お 正月 の 獅子舞 い の お 獅子 、子供 が かぶって 遊ぶ の に は 手頃な 大き さ の が 売って いた けど 、欲しく ない か」 あさくさ||なか|てん|||しょうがつ||ししまい||||しし|こども|||あそぶ||||てごろな|おおき||||うって|||ほしく|| At Nakamise in Asakusa, the lions used in the New Year's lion dance were sold in reasonable sizes for children to wear and play with, but wouldn't you like one?"

欲しく ない か 、と 言わ れる と 、もう ダメな んです。 ほしく||||いわ||||だめな| お 道化 た 返事 も 何も 出来 や し ない んです。 |どうけ||へんじ||なにも|でき|||| I can't do anything with a clown reply. お 道化 役者 は 、完全に 落第 でした。 |どうけ|やくしゃ||かんぜんに|らくだい| The clown actor was completely unsuccessful.

「本 が 、いい でしょう」 ほん|||

長兄 は 、まじめな 顔 を して 言いました。 ちょうけい|||かお|||いい ました

「そう か」 "Really"

父 は 、興 覚め 顔 に 手帖 に 書きとめ も せ ず 、パチ と 手帖 を 閉じました。 ちち||きょう|さめ|かお||てちょう||かきとめ||||||てちょう||とじ ました

何という 失敗 、自分 は 父 を 怒ら せた 、父 の 復讐 ふくしゅう は 、きっと 、おそるべき もの に 違いない 、いま の うち に 何とか して 取りかえし の つか ぬ もの か 、と その 夜 、蒲 団 の 中 で がたがた 震え ながら 考え 、そっと 起きて 客間 に 行き 、父 が 先刻 、手帖 を しまい 込んだ 筈 の 机 の 引き出し を あけて 、手帖 を 取り上げ 、パラパラ めくって 、お土産 の 注文 記入 の 個所 を 見つけ 、手帖 の 鉛筆 を なめて 、シシマイ 、と 書いて 寝ました。 なんという|しっぱい|じぶん||ちち||いから||ちち||ふくしゅう|||||||ちがいない|||||なんとか||とりかえし||||||||よ|がま|だん||なか|||ふるえ||かんがえ||おきて|きゃくま||いき|ちち||せんこく|てちょう|||こんだ|はず||つくえ||ひきだし|||てちょう||とりあげ|ぱらぱら||おみやげ||ちゅうもん|きにゅう||かしょ||みつけ|てちょう||えんぴつ|||しし まい||かいて|ね ました What a failure, I made my father angry, my father's revenge must have been terrifying, and somehow I couldn't replace it now, in the troupe that night. Thinking while shaking, I gently got up and went to the guest room, and my father opened the drawer of the desk that should have stowed the pencil earlier, picked up the pencil, flipped over, found the souvenir, and filled in the order for souvenirs. I licked my pencil and wrote "Shishimai" and went to bed. 自分 は その 獅子舞 い の お 獅子 を 、ちっとも 欲しく は 無かった のです。 じぶん|||ししまい||||しし|||ほしく||なかった| I didn't want the lion in the lion dance at all. かえって 、本 の ほう が いい くらい でした。 |ほん|||||| けれども 、自分 は 、父 が その お 獅子 を 自分 に 買って 与えたい のだ と いう 事 に 気 が つき 、父 の その 意向 に 迎合 して 、父 の 機嫌 を 直したい ばかりに 、深夜 、客間 に 忍び込む と いう 冒険 を 、敢えて おかした のでした。 |じぶん||ちち||||しし||じぶん||かって|あたえ たい||||こと||き|||ちち|||いこう||げいごう||ちち||きげん||なおし たい||しんや|きゃくま||しのびこむ|||ぼうけん||あえて|| However, I realized that my father wanted to buy the lion and give it to me. I dared to go on such an adventure.

そうして 、この 自分 の 非 常の 手段 は 、果して 思いどおりの 大 成功 を 以 て 報いられました。 ||じぶん||ひ|とわの|しゅだん||はたして|おもいどおりの|だい|せいこう||い||むくい られ ました And so, this extraordinary means of mine was rewarded with the great success I had hoped for. やがて 、父 は 東京 から 帰って 来て 、母 に 大声 で 言って いる の を 、自分 は 子供 部屋 で 聞いて いました。 |ちち||とうきょう||かえって|きて|はは||おおごえ||いって||||じぶん||こども|へや||きいて|い ました My father came back from Tokyo, and I was in the nursery listening to him yelling at my mother.

「仲 店 の おもちゃ 屋 で 、この 手帖 を 開いて みたら 、これ 、ここ に 、シシマイ 、と 書いて ある。 なか|てん|||や|||てちょう||あいて|||||しし まい||かいて| "When I opened this notebook at the toy store in Nakaten, it was written here, Shishimai. これ は 、私 の 字 で は ない。 ||わたくし||あざ||| はて な? Hatena? と 首 を かしげて 、思い当りました。 |くび|||おもいあたり ました これ は 、葉 蔵 の いたずらです よ。 ||は|くら||| This is a prank by Ipura. あいつ は 、私 が 聞いた 時 に は 、に や にやして 黙って いた が 、あと で 、どうしても お 獅子 が 欲しくて たまらなく なった んだ ね。 ||わたくし||きいた|じ||||||だまって|||||||しし||ほしくて|||| He was smirking and silent when I heard about it, but afterward he really wanted a lion. 何せ 、どうも 、あれ は 、変った 坊主 です から ね。 なにせ||||かわった|ぼうず||| After all, he's a strange boy, isn't he? 知らん振り して 、ちゃんと 書いて いる。 しらんふり|||かいて| I pretended not to know and wrote properly. そんなに 欲しかった の なら 、そう 言えば よい のに。 |ほしかった||||いえば|| If you wanted it so much, you could say so. 私 は 、おもちゃ 屋 の 店先 で 笑いました よ。 わたくし|||や||みせさき||わらい ました| I laughed in front of the toy store. 葉 蔵 を 早く ここ へ 呼び なさい」 は|くら||はやく|||よび| Hurry up and call Yozo here."

また 一方 、自分 は 、下 男 や 下 女 たち を 洋室 に 集めて 、下 男 の ひと り に 滅 茶 苦 茶 めちゃくちゃに ピアノ の キイ を たたか せ 、(田舎 で は ありました が 、その 家 に は 、たいてい の もの が 、そろって いました )自分 は その 出 鱈 目 でたらめ の 曲 に 合せて 、インデヤン の 踊り を 踊って 見せて 、皆 を 大笑い さ せました。 |いっぽう|じぶん||した|おとこ||した|おんな|||ようしつ||あつめて|した|おとこ|||||めつ|ちゃ|く|ちゃ||ぴあの||きい||たた か||いなか|||あり ました|||いえ||||||||い ました|じぶん|||だ|たら|め|||きょく||あわせて|||おどり||おどって|みせて|みな||おおわらい||せま した On the other hand, I gathered the servants and women in a Western-style room, and had one of the servants play the keys of the piano in a chaotic manner. (I had most of the things) I danced an Indian dance to that nonsense song and made everyone laugh. 次兄 は 、フラッシュ を 焚たいて 、自分 の インデヤン 踊り を 撮影 して 、その 写真 が 出来た の を 見る と 、自分 の 腰 布 (それ は 更紗 さらさ の 風呂敷 でした )の 合せ 目 から 、小さい お チンポ が 見えて いた ので 、これ が また 家中 の 大笑い でした。 じけい||ふらっしゅ||ふん たいて|じぶん|||おどり||さつえい|||しゃしん||できた|||みる||じぶん||こし|ぬの|||さらさ|||ふろしき|||あわせ|め||ちいさい||||みえて||||||うちじゅう||おおわらい| My second brother took a picture of himself dancing the Indayan dance with a flash and when he saw the finished picture, he could see his small penis through the seam of his loin cloth (it was a Sarasa Sarasa Furoshiki), which again made the whole house laugh. 自分 に とって 、これ また 意外の 成功 と いう べき もの だった かも 知れません。 じぶん|||||いがいの|せいこう|||||||しれ ませ ん For me, this may have been another unexpected success.

自分 は 毎月 、新刊 の 少年 雑誌 を 十 冊 以上 も 、とって いて 、また その他 ほか に も 、さまざまの 本 を 東京 から 取り寄せて 黙って 読んで いました ので 、メチャラクチャラ 博士 だの 、また 、ナンジャモンジャ 博士 など と は 、たいへんな 馴染 なじみ で 、また 、怪談 、講談 、落語 、江戸 小咄 こばなし など の 類 に も 、かなり 通じて いました から 、剽軽 ひょうきんな 事 を まじめな 顔 を して 言って 、家 の 者 たち を 笑わ せる の に は 事 を 欠きません でした。 じぶん||まいつき|しんかん||しょうねん|ざっし||じゅう|さつ|いじょう|||||そのほか|||||ほん||とうきょう||とりよせて|だまって|よんで|い ました|||はかせ||||はかせ|||||なじみ||||かいだん|こうだん|らくご|えど|こばなし||||るい||||つうじて|い ました||ひょうきん||こと|||かお|||いって|いえ||もの|||わらわ|||||こと||かき ませ ん| I picked up more than 10 new boys' magazines every month, and in addition to that, I ordered various books from Tokyo and read them in silence. I was very familiar with Dr. Monja, and I was also quite familiar with ghost stories, storytelling, rakugo, and Edo Kobanashi. , did nothing to make the people in the household laugh.

しかし 、嗚呼 ああ 、学校! |ああ||がっこう

自分 は 、そこ で は 、尊敬 さ れ かけて いた のです。 じぶん|||||そんけい||||| I was about to be respected there. 尊敬 さ れる と いう 観念 も また 、甚 はなはだ 自分 を 、おびえ させました。 そんけい|||||かんねん|||じん||じぶん|||さ せ ました The idea of being respected also frightened me greatly. ほとんど 完全に 近く 人 を だまして 、そうして 、或る ひと り の 全知全能 の 者 に 見破ら れ 、木っ葉 みじん に やられて 、死 ぬる 以上 の 赤 恥 を かかせられる 、それ が 、「尊敬 さ れる 」と いう 状態 の 自分 の 定義 で ありました。 |かんぜんに|ちかく|じん||||ある||||ぜんちぜんのう||もの||みやぶら||き っ は||||し||いじょう||あか|はじ||かかせ られる|||そんけい|||||じょうたい||じぶん||ていぎ||あり ました To deceive someone so completely that some omniscient being sees through the deception and is humiliated to death or worse, is to be "respected. This was my definition of the state of being. 人間 を だまして 、「尊敬 さ れ 」て も 、誰 か ひと り が 知っている 、そうして 、人間 たち も 、やがて 、その ひと り から 教えられて 、だまさ れた 事 に 気づいた 時 、その 時 の 人間 たち の 怒り 、復讐 は 、いったい 、まあ 、どんなでしょう か。 にんげん|||そんけい|||||だれ|||||しっている||にんげん||||||||おしえ られて|||こと||きづいた|じ||じ||にんげん|||いかり|ふくしゅう||||| Deceiving mankind and being "respected." And when they eventually learn from that person and realize they have been deceived, what will their anger and revenge be like? 想像 して さえ 、身 の 毛 が よだつ 心地 が する のです。 そうぞう|||み||け|||ここち||| Even imagining it makes my hair stand on end.

自分 は 、金持ち の 家 に 生れた と いう 事 より も 、俗に いう 「できる 」事 に 依って 、学校 中 の 尊敬 を 得 そうに なりました。 じぶん||かねもち||いえ||うまれた|||こと|||ぞくに|||こと||よって|がっこう|なか||そんけい||とく|そう に|なり ました Rather than being born into a wealthy family, I almost gained respect in school because of what is commonly called "able to do." 自分 は 、子供 の 頃 から 病弱で 、よく 一 つき 二 つき 、また 一 学年 ちかく も 寝込んで 学校 を 休んだ 事 さえ あった のです が 、それ でも 、病み 上り の から だ で 人力車 に 乗って 学校 へ 行き 、学年 末 の 試験 を 受けて みる と 、クラス の 誰 より も 所 謂 「できて 」いる ようでした。 じぶん||こども||ころ||びょうじゃくで||ひと||ふた|||ひと|がくねん|||ねこんで|がっこう||やすんだ|こと|||||||やみ|のぼり|||||じんりきしゃ||のって|がっこう||いき|がくねん|すえ||しけん||うけて|||くらす||だれ|||しょ|い||| I have been sickly since I was a child, and I often skipped school in bed for one or two years, or even for the first grade. When I went and took the exam at the end of the school year, I seemed to be more "finished" than anyone else in the class. からだ 具合 い の よい 時 でも 、自分 は 、さっぱり 勉強 せ ず 、学校 へ 行って も 授業 時間 に 漫画 など を 書き 、休憩 時間 に は それ を クラス の 者 たち に 説明 して 聞か せて 、笑わ せて やりました。 |ぐあい||||じ||じぶん|||べんきょう|||がっこう||おこなって||じゅぎょう|じかん||まんが|||かき|きゅうけい|じかん|||||くらす||もの|||せつめい||きか||わらわ||やり ました Even when I'm in good physical condition, I don't study at all. Even when I go to school, I write comics during class, and during breaks, I explain it to my classmates and make them laugh. Did it. また 、綴り 方 に は 、滑稽 噺 こっけい ば なし ばかり 書き 、先生 から 注意 されて も 、しかし 、自分 は 、やめません でした。 |つづり|かた|||こっけい|はなし|||||かき|せんせい||ちゅうい|さ れて|||じぶん||やめ ませ ん| Also, I wrote only humorous stories about the spelling, and even though the teacher warned me, I didn't stop. 先生 は 、実は こっそり 自分 の その 滑稽 噺 を 楽しみに して いる 事 を 自分 は 、知っていた から でした。 せんせい||じつは||じぶん|||こっけい|はなし||たのしみに|||こと||じぶん||しっていた|| I knew that Sensei was secretly looking forward to his own comic story. 或る 日 、自分 は 、れい に 依って 、自分 が 母 に 連れられて 上京 の 途中 の 汽車 で 、おしっこ を 客車 の 通路 に ある 痰 壺 たん つぼ に して しまった 失敗 談 (しかし 、その 上京 の 時 に 、自分 は 痰 壺 と 知ら ず に した の では ありません でした。 ある|ひ|じぶん||||よって|じぶん||はは||つれ られて|じょうきょう||とちゅう||きしゃ||おし っこ||きゃくしゃ||つうろ|||たん|つぼ||||||しっぱい|だん|||じょうきょう||じ||じぶん||たん|つぼ||しら||||||あり ませ ん| One day, on a train en route to Tokyo, my mother took me to Tokyo, and I ended up peeing in a spittoon in the aisle of the passenger car. Sometimes I didn't realize I was a spittoon. 子供 の 無邪気 を てらって 、わざと 、そうした の でした )を 、ことさら に 悲し そうな 筆 致 で 書いて 提出 し 、先生 は 、きっと 笑う と いう 自信 が ありました ので 、職員 室 に 引き揚げて 行く 先生 の あと を 、そっと つけて 行きましたら 、先生 は 、教室 を 出る と すぐ 、自分 の その 綴り 方 を 、他の クラス の 者 たち の 綴り 方 の 中 から 選び 出し 、廊下 を 歩き ながら 読み はじめて 、クスクス 笑い 、やがて 職員 室 に は いって 読み 終えた の か 、顔 を 真 赤 に して 大声 を 挙げて 笑い 、他の 先生 に 、さっそく それ を 読ま せて いる の を 見とどけ 、自分 は 、たいへん 満足でした。 こども||むじゃき||てら って||||||||かなし|そう な|ふで|いた||かいて|ていしゅつ||せんせい|||わらう|||じしん||あり ました||しょくいん|しつ||ひきあげて|いく|せんせい||||||いき ましたら|せんせい||きょうしつ||でる|||じぶん|||つづり|かた||たの|くらす||もの|||つづり|かた||なか||えらび|だし|ろうか||あるき||よみ||くすくす|わらい||しょくいん|しつ||||よみ|おえた|||かお||まこと|あか|||おおごえ||あげて|わらい|たの|せんせい|||||よま|||||みとどけ|じぶん|||まんぞくでした I did that on purpose, out of interest in the child's innocence." I followed him gently, and as soon as the teacher left the classroom, he picked out his own spelling from among the spellings of the other classmates, and started reading while walking down the hallway, chuckling. Eventually, I went into the staff room and finished reading it, laughing out loud with a bright red face. did.

お 茶目。 |ちゃめ A mischievous eye.

自分 は 、所 謂 お 茶目に 見られる 事 に 成功 しました。 じぶん||しょ|い||ちゃめに|み られる|こと||せいこう|し ました I succeeded in being seen as the so-called mischief. 尊敬 さ れる 事 から 、のがれる 事 に 成功 しました。 そんけい|||こと|||こと||せいこう|し ました I succeeded in getting away from being respected. 通信 簿 は 全 学科 と も 十 点 でした が 、操 行 と いう もの だけ は 、七 点 だったり 、六 点 だったり して 、それ も また 家中 の 大笑い の 種 でした。 つうしん|ぼ||ぜん|がっか|||じゅう|てん|||みさお|ぎょう||||||なな|てん||むっ|てん||||||うちじゅう||おおわらい||しゅ| I scored 10 points in all subjects on the report card, but only in maneuvering, I scored 7 or 6 points, which was another source of laughter in the house.

けれども 自分 の 本性 は 、そんな お茶 目 さん など と は 、凡 およそ 対 蹠たいせき 的な もの でした。 |じぶん||ほんしょう|||おちゃ|め|||||ぼん||たい|せき たいせき|てきな|| However, my true nature was the complete opposite of such a mischievous person. その頃 、既に 自分 は 、女 中 や 下 男 から 、哀 かなしい 事 を 教えられ 、犯されて いました。 そのころ|すでに|じぶん||おんな|なか||した|おとこ||あい||こと||おしえ られ|おかさ れて|い ました By that time, I had already been taught sad things by maids and servants and had been violated. 幼少 の 者 に 対して 、そのような 事 を 行う の は 、人間 の 行い 得る 犯罪 の 中 で 最も 醜悪で 下等で 、残酷な 犯罪 だ と 、自分 は いまでは 思って います。 ようしょう||もの||たいして||こと||おこなう|||にんげん||おこない|える|はんざい||なか||もっとも|しゅうあくで|かとうで|ざんこくな|はんざい|||じぶん|||おもって|い ます しかし 、自分 は 、忍びました。 |じぶん||しのび ました But I persevered. これ で また 一 つ 、人間 の 特質 を 見た と いう ような 気持 さえ して 、そうして 、力無く 笑って いました。 |||ひと||にんげん||とくしつ||みた||||きもち||||ちからなく|わらって|い ました I even felt like I had seen yet another human trait, and I was laughing helplessly. もし 自分 に 、本当の 事 を 言う 習慣 が ついて いた なら 、悪びれ ず 、彼等 の 犯罪 を 父 や 母 に 訴える 事 が 出来た の かも 知れません が 、しかし 、自分 は 、その 父 や 母 を も 全部 は 理解 する 事 が 出来 なかった のです。 |じぶん||ほんとうの|こと||いう|しゅうかん|||||わるびれ||かれら||はんざい||ちち||はは||うったえる|こと||できた|||しれ ませ ん|||じぶん|||ちち||はは|||ぜんぶ||りかい||こと||でき|| If I had gotten into the habit of telling the truth, I might have been able to accuse my father and mother of their crimes without feeling ashamed, but I also blamed my father and mother. I couldn't understand the whole thing. 人間 に 訴える 、自分 は 、その 手段 に は 少しも 期待 できません でした。 にんげん||うったえる|じぶん|||しゅだん|||すこしも|きたい|でき ませ ん| Appealing to man, I had little hope for that means. 父 に 訴えて も 、母 に 訴えて も 、お 巡 まわり に 訴えて も 、政府 に 訴えて も 、結局 は 世渡り に 強い 人 の 、世間 に 通り の いい 言い ぶん に 言いまくら れる だけ の 事 で は 無い かしら。 ちち||うったえて||はは||うったえて|||めぐり|||うったえて||せいふ||うったえて||けっきょく||よわたり||つよい|じん||せけん||とおり|||いい|||いいまくら||||こと|||ない| Whether you appeal to your father, your mother, your neighbors, or the government, in the end, all you will get is a well-publicized argument from someone with a strong sense of public perception.

必ず 片手 落 の ある の が 、わかり切って いる 、所詮 しょせん 、人間 に 訴える の は 無駄である 、自分 は やはり 、本当の 事 は 何も 言わ ず 、忍んで 、そうして お 道化 を つづけて いる より 他 、無い 気持 な のでした。 かならず|かたて|おと|||||わかりきって||しょせん||にんげん||うったえる|||むだである|じぶん|||ほんとうの|こと||なにも|いわ||しのんで|||どうけ|||||た|ない|きもち|| I knew that there would always be a one-sided fall, and that it would be futile to appeal to people who are just pawns.

なんだ 、人間 へ の 不信 を 言って いる の か? |にんげん|||ふしん||いって||| へえ? お前 は いつ クリスチャン に なった ん だい 、と 嘲笑 ちょうしょう する 人 も 或いは ある かも 知れません が 、しかし 、人間 へ の 不信 は 、必ずしも すぐに 宗教 の 道 に 通じて いる と は 限ら ない と 、自分 に は 思わ れる のです けど。 おまえ|||くりすちゃん||||||ちょうしょう|||じん||あるいは|||しれ ませ ん|||にんげん|||ふしん||かならずしも||しゅうきょう||どう||つうじて||||かぎら|||じぶん|||おもわ||| Some may sneer and ask, "When did you become a Christian?" I think it is. 現に その 嘲笑 する 人 を も 含めて 、人間 は 、お互い の 不信 の 中 で 、エホバ も 何も 念頭 に 置か ず 、平気で 生きて いる では ありません か。 げんに||ちょうしょう||じん|||ふくめて|にんげん||おたがい||ふしん||なか||||なにも|ねんとう||おか||へいきで|いきて|||あり ませ ん| In fact, humans, including those who ridicule them, live happily amid mutual distrust, ignoring Jehovah or anything else. やはり 、自分 の 幼少 の 頃 の 事 で ありました が 、父 の 属して いた 或る 政党 の 有名 人 が 、この 町 に 演説 に 来て 、自分 は 下 男 たち に 連れられて 劇場 に 聞き に 行きました。 |じぶん||ようしょう||ころ||こと||あり ました||ちち||ぞくして||ある|せいとう||ゆうめい|じん|||まち||えんぜつ||きて|じぶん||した|おとこ|||つれ られて|げきじょう||きき||いき ました 満員 で 、そうして 、この 町 の 特に 父 と 親しく して いる 人 たち の 顔 は 皆 、見えて 、大いに 拍手 など して いました。 まんいん||||まち||とくに|ちち||したしく|||じん|||かお||みな|みえて|おおいに|はくしゅ|||い ました 演説 が すんで 、聴衆 は 雪 の 夜道 を 三々五々 かたまって 家路 に 就き 、クソ ミソ に 今夜 の 演説 会 の 悪 口 を 言って いる のでした。 えんぜつ|||ちょうしゅう||ゆき||よみち||さんさんごご||いえじ||つき|くそ|みそ||こんや||えんぜつ|かい||あく|くち||いって|| After the speech, the audience gathered in groups of threes and fives down the snow-covered night roads and went home, cursing badmouths about tonight's speech meeting. 中 に は 、父 と 特に 親しい 人 の 声 も まじって いました。 なか|||ちち||とくに|したしい|じん||こえ|||い ました Some of the voices were from people who were particularly close to my father. 父 の 開会 の 辞 も 下手 、れいの 有名 人 の 演説 も 何 が 何やら 、わけ が わから ぬ 、と その 所 謂父 の 「同志 たち 」が 怒声 に 似た 口調 で 言って いる のです。 ちち||かいかい||じ||へた||ゆうめい|じん||えんぜつ||なん||なにやら|||||||しょ|いちち||どうし|||どせい||にた|くちょう||いって|| My father's opening remarks were not very good, and my father's speeches by famous people were incomprehensible. そうして その ひと たち は 、自分 の 家 に 立ち寄って 客間 に 上り 込み 、今夜 の 演説 会 は 大 成功 だった と 、しん から 嬉し そうな 顔 を して 父 に 言って いました。 |||||じぶん||いえ||たちよって|きゃくま||のぼり|こみ|こんや||えんぜつ|かい||だい|せいこう|||||うれし|そう な|かお|||ちち||いって|い ました Then they stopped by their house and climbed into the drawing room, telling their father with a happy face that tonight's speech was a great success. 下 男 たち まで 、今夜 の 演説 会 は どう だった と 母 に 聞か れ 、とても 面白かった 、と 言って けろりと して いる のです。 した|おとこ|||こんや||えんぜつ|かい|||||はは||きか|||おもしろかった||いって|||| Even my younger sons were asked by my mother how they liked tonight's speech, and they were all quite happy, saying that it was very interesting. 演説 会 ほど 面白く ない もの は ない 、と 帰る 途 々 みちみち 、下 男 たち が 嘆き 合って いた のです。 えんぜつ|かい||おもしろく||||||かえる|と|||した|おとこ|||なげき|あって|| On the way home, the servants were lamenting that there is nothing more interesting than a public speech.

しかし 、こんな の は 、ほんの ささやかな 一例 に 過ぎません。 ||||||いちれい||すぎ ませ ん But this is just one small example. 互いに あざむき 合って 、しかも いずれ も 不思議に 何の 傷 も つか ず 、あざむき 合って いる 事 に さえ 気 が ついて いない みたいな 、実に あざやかな 、それ こそ 清く 明るく ほがらかな 不信 の 例 が 、人間 の 生活 に 充満 して いる ように 思わ れます。 たがいに||あって||||ふしぎに|なんの|きず|||||あって||こと|||き|||||じつに||||きよく|あかるく||ふしん||れい||にんげん||せいかつ||じゅうまん||||おもわ|れ ます Deceiving each other, and strangely enough, none of them were hurt, and they didn't even realize that they were deceiving each other. It seems to be filled with けれども 、自分 に は 、あざむき 合って いる と いう 事 に は 、さして 特別の 興味 も ありません。 |じぶん||||あって||||こと||||とくべつの|きょうみ||あり ませ ん However, I have no special interest in deceiving each other. 自分 だって 、お 道化 に 依って 、朝 から 晩 まで 人間 を あざむいて いる のです。 じぶん|||どうけ||よって|あさ||ばん||にんげん|||| I myself use my clowns to deceive people from morning till night. 自分 は 、修身 教科 書 的な 正義 と か 何とか いう 道徳 に は 、あまり 関心 を 持て ない のです。 じぶん||しゅうしん|きょうか|しょ|てきな|せいぎ|||なんとか||どうとく||||かんしん||もて|| 自分 に は 、あざむき 合って い ながら 、清く 明るく 朗らかに 生きて いる 、或いは 生き 得る 自信 を 持って いる みたいな 人間 が 難解な のです。 じぶん||||あって|||きよく|あかるく|ほがらかに|いきて||あるいは|いき|える|じしん||もって|||にんげん||なんかいな| For me, it's difficult to understand a person who, while deceiving each other, lives a pure, bright, and cheerful life, or who has the confidence to live. 人間 は 、ついに 自分 に その 妙 諦 みょう てい を 教えて は くれません でした。 にんげん|||じぶん|||たえ|てい||||おしえて||くれ ませ ん| それ さえ わかったら 、自分 は 、人間 を こんなに 恐怖 し 、また 、必死の サーヴィス など し なくて 、すんだ のでしょう。 |||じぶん||にんげん|||きょうふ|||ひっしの|||||| If only I had understood that, I wouldn't have been so afraid of humans, and wouldn't have been desperate to provide service. 人間 の 生活 と 対立 して しまって 、夜 々 の 地獄 の これ ほど の 苦し み を 嘗 なめ ず に すんだ のでしょう。 にんげん||せいかつ||たいりつ|||よ|||じごく|||||にがし|||しょう|な め|||| Perhaps they have been in conflict with human life and have not licked this much suffering of hell at night. つまり 、自分 が 下 男 下 女 たち の 憎む べき あの 犯罪 を さえ 、誰 に も 訴え なかった の は 、人間 へ の 不信 から で は なく 、また 勿論 クリスト 主義 の ため でも なく 、人間 が 、葉 蔵 と いう 自分 に 対して 信用 の 殻 を 固く 閉じて いた から だった と 思います。 |じぶん||した|おとこ|した|おんな|||にくむ|||はんざい|||だれ|||うったえ||||にんげん|||ふしん||||||もちろん||しゅぎ|||||にんげん||は|くら|||じぶん||たいして|しんよう||から||かたく|とじて|||||おもい ます In other words, the reason why I didn't even accuse the servants of that hateful crime was not because I distrusted humans, nor was it because of Christianity, but because humans were like Yozo. I think it was because I had tightly closed my shell of trust towards myself. 父母 で さえ 、自分 に とって 難解な もの を 、時折 、見せる 事 が あった のです から。 ふぼ|||じぶん|||なんかいな|||ときおり|みせる|こと|||| Even my parents sometimes showed me things that were difficult for me.

そうして 、その 、誰 に も 訴え ない 、自分 の 孤独 の 匂い が 、多く の 女性 に 、本能 に 依って 嗅 かぎ 当てられ 、後年 さまざま 、自分 が つけ込ま れる 誘因 の 一 つ に なった ような 気 も する のです。 ||だれ|||うったえ||じぶん||こどく||におい||おおく||じょせい||ほんのう||よって|か||あてられ|こうねん||じぶん||つけこま||ゆういん||ひと|||||き||| And that scent of loneliness that appeals to no one seems to have been picked up by many women by instinct, and later became one of the temptations to take advantage of them in various ways. I feel like that too.

つまり 、自分 は 、女性 に とって 、恋 の 秘密 を 守れる 男 であった と いう わけな のでした。 |じぶん||じょせい|||こい||ひみつ||まもれる|おとこ||||| In other words, he was a man who could keep the secret of love to a woman.

[#改頁] かいぺいじ