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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第三の手記 一 (3)

第 三 の 手記 一 (3)

そういう 時 の 自分 に とって 、幽 かな 救い は 、シゲ子 でした。 シゲ子 は 、その頃 に なって 自分 の 事 を 、何も こだわら ず に 「お 父ちゃん 」と 呼んで いました。

「お 父ちゃん。 お 祈り を する と 、神様 が 、何でも 下さるって 、ほんとう?

自分 こそ 、その お 祈り を したい と 思いました。

ああ 、われ に 冷 き 意志 を 与え 給え。 われ に 、「人間 」の 本質 を 知ら しめ 給え。 人 が 人 を 押しのけて も 、罪 なら ず や。 われ に 、怒り の マスク を 与え 給え。

「うん 、そう。 シゲ ちゃん に は 何でも 下さる だろう けれども 、お 父ちゃん に は 、駄目 かも 知れ ない」

自分 は 神 に さえ 、おびえて いました。 神 の 愛 は 信ぜられ ず 、神 の 罰 だけ を 信じて いる のでした。 信仰。 それ は 、ただ 神 の 笞 むち を 受ける ため に 、うなだれて 審判 の 台 に 向 う 事 の ような 気 が して いる のでした。 地獄 は 信ぜられて も 、天国 の 存在 は 、どうしても 信ぜられ なかった のです。

「どうして 、ダメな の?

「親 の 言いつけ に 、そむいた から」

「そう? お 父ちゃん は とても いい ひと だって 、みんな 言う けど な」

それ は 、だまして いる から だ 、この アパート の 人 たち 皆 に 、自分 が 好意 を 示されて いる の は 、自分 も 知っている 、しかし 、自分 は 、どれほど 皆 を 恐怖 して いる か 、恐怖 すれば する ほど好かれ 、そうして 、こちら は 好か れる と 好か れる ほど 恐怖 し 、皆 から 離れて 行か ねば なら ぬ 、この 不幸な 病 癖 を 、シゲ子 に 説明 して 聞か せる の は 、至難の 事 でした。

「シゲ ちゃん は 、いったい 、神様 に 何 を お ねだり したい の?

自分 は 、何気無 さ そうに 話 頭 を 転じました。

「シゲ子 は ね 、シゲ子 の 本当の お 父ちゃん が ほしい の」

ぎょっと して 、くらく ら 目 まい しました。 敵。 自分 が シゲ子 の 敵 な の か 、シゲ子 が 自分 の 敵 な の か 、とにかく 、ここ に も 自分 を おびやかす おそろしい 大人 が いた のだ 、他人 、不可解な 他人 、秘密 だらけ の 他人 、シゲ子 の 顔 が 、にわかに そのように 見えて 来ました。

シゲ子 だけ は 、と 思って いた のに 、やはり 、この 者 も 、あの 「不意に 虻 あぶ を 叩き 殺す 牛 の しっぽ 」を 持って いた のでした。 自分 は 、それ 以来 、シゲ子 に さえ おどおど しなければ なら なく なりました。

「色 魔 し きま! いる かい?

堀木 が 、また 自分 の ところ へ たずねて 来る ように なって いた のです。 あの 家出 の 日 に 、あれほど 自分 を 淋しく さ せた 男 な のに 、それ でも 自分 は 拒否 でき ず 、幽 か に 笑って 迎える のでした。

「お前 の 漫画 は 、なかなか 人気 が 出て いる そう じゃ ない か。 アマチュア に は 、こわい もの 知ら ず の 糞 度胸 くそ どきょう が ある から かなわ ねえ。 しかし 、油断 する な よ。 デッサン が 、ちっとも なって や し ない んだ から」

お 師匠 みたいな 態度 を さえ 示す のです。 自分 の あの 「お化け 」の 絵 を 、こいつ に 見せたら 、どんな 顔 を する だろう 、と れい の 空転 の 身 悶 み もだえ を し ながら、

「それ を 言って くれる な。 ぎ ゃっと いう 悲鳴 が 出る」

堀木 は 、いよいよ 得意 そうに、

「世渡り の 才能 だけ で は 、いつか は 、ボロ が 出る から な」

世渡り の 才能。 ……自分 に は 、ほんとうに 苦笑 の 他 は ありません でした。 自分 に 、世渡り の 才能! しかし 、自分 の ように 人間 を おそれ 、避け 、ごまかして いる の は 、れいの 俗 諺 ぞく げん の 「さわら ぬ 神 に たたり なし 」と か いう 怜悧 れい り 狡猾 こう かつ の 処 生 訓 を 遵奉 して いる の と 、同じ 形 だ 、と いう 事 に なる のでしょう か。 ああ 、人間 は 、お互い 何も 相手 を わから ない 、まるっきり 間違って 見て い ながら 、無二 の 親友 の つもり で いて 、一生 、それ に 気 附 かず 、相手 が 死ねば 、泣いて 弔 詞 なんか を 読んで いる ので は ない でしょう か。

堀木 は 、何せ 、(それ は シヅ子 に 押して たのまれて しぶしぶ 引受けた に 違いない のです が )自分 の 家出 の 後 仕末 に 立ち合った ひと な ので 、まるで もう 、自分 の 更生 の 大 恩人 か 、月下 氷 人 の ように 振舞い 、もっともらしい 顔 を して 自分 に お 説教 めいた 事 を 言ったり 、また 、深夜 、酔っぱらって 訪問 して 泊ったり 、また 、五 円 (きまって 五 円 でした )借りて 行ったり する のでした。

「しかし 、お前 の 、女 道楽 も この へんで よす んだ ね。 これ 以上 は 、世間 が 、ゆるさ ない から な」

世間 と は 、いったい 、何の 事 でしょう。 人間 の 複数 でしょう か。 どこ に 、その 世間 と いう もの の 実体 が ある のでしょう。 けれども 、何しろ 、強く 、きびしく 、こわい もの 、と ばかり 思って これ まで 生きて 来た のです が 、しかし 、堀木 に そう 言われて 、ふと、

「世間 と いう の は 、君 じゃ ない か」

と いう 言葉 が 、舌 の 先 まで 出 かかって 、堀木 を 怒ら せる の が イヤで 、ひっこめました。

(それ は 世間 が 、ゆるさ ない)

(世間 じゃ ない。 あなた が 、ゆるさ ない のでしょう?

(そんな 事 を する と 、世間 から ひどい めに 逢う ぞ)

(世間 じゃ ない。 あなた でしょう?

(いまに 世間 から 葬ら れる)

(世間 じゃ ない。 葬 む る の は 、あなた でしょう?

汝 なんじ は 、汝個 人 の おそろし さ 、怪奇 、悪辣 あくらつ 、古 狸 ふる だ ぬき 性 、妖婆 よう ば 性 を 知れ! など と 、さまざまの 言葉 が 胸中 に 去来 した のです が 、自分 は 、ただ 顔 の 汗 を ハンケチ で 拭いて、

「冷 汗 ひやあせ 、冷 汗」

と 言って 笑った だけ でした。

けれども 、その 時 以来 、自分 は 、(世間 と は 個人 じゃ ない か )と いう 、思想 めいた もの を 持つ ように なった のです。

そうして 、世間 と いう もの は 、個人 で は なかろう か と 思い はじめて から 、自分 は 、いま まで より は 多少 、自分 の 意志 で 動く 事 が 出来る ように なりました。 シヅ子 の 言葉 を 借りて 言えば 、自分 は 少し わがままに なり 、おどおど し なく なりました。 また 、堀木 の 言葉 を 借りて 言えば 、へんに ケチ に なりました。 また 、シゲ子 の 言葉 を 借りて 言えば 、あまり シゲ子 を 可愛がら なく なりました。

無口で 、笑わ ず 、毎日 々々 、シゲ子 の おもり を し ながら 、「キンタ さん と オタ さん の 冒険 」やら 、また ノンキ な トウサン の 歴然たる 亜流 の 「ノンキ 和尚 おしょう 」やら 、また 、「セッカチピンチャン 」と いう 自分 ながら わけ の わから ぬ ヤケクソ の 題 の 連載 漫画 やら を 、各社 の 御 注文 (ぽつりぽつり 、シヅ子 の 社 の 他 から も 注文 が 来る ように なって いました が 、すべて それ は 、シヅ子 の 社 より も 、もっと 下品な 謂 わ ば 三流 出版 社 から の 注文 ばかり でした )に 応じ 、実に 実に 陰 鬱 な 気持 で 、のろのろ と 、(自分 の 画 の 運筆 は 、非常に おそい ほう でした )いま は ただ 、酒 代 が ほしい ばかりに 画 いて 、そうして 、シヅ子 が 社 から 帰る と それ と 交代 に ぷい と 外 へ 出て 、高 円 寺 の 駅 近く の 屋台 や スタンド ・バア で 安くて 強い 酒 を 飲み 、少し 陽気に なって アパート へ 帰り、

「見れば 見る ほど 、へんな 顔 を して いる ねえ 、お前 は。 ノンキ 和尚 の 顔 は 、実は 、お前 の 寝顔 から ヒント を 得た のだ」

「あなた の 寝顔 だって 、ずいぶん お 老け に なり まして よ。 四十 男 みたい」

「お前 の せい だ。 吸い取ら れた んだ。 水 の 流れ と 、人 の 身 は あ サ。 何 を くよくよ 川端 や なあ ぎ い サ」

「騒が ないで 、早く お やすみ なさい よ。 それとも 、ごはん を あがります か?

落ちついて いて 、まるで 相手 に しません。

「酒 なら 飲む が ね。 水 の 流れ と 、人 の 身 は あ サ。 人 の 流れ と 、いや 、水 の 流れ え と 、水 の 身 は あ サ」

唄い ながら 、シヅ子 に 衣服 を ぬが せられ 、シヅ子 の 胸 に 自分 の 額 を 押しつけて 眠って しまう 、それ が 自分 の 日常 でした。

して その 翌日 あくる ひ も 同じ 事 を 繰返して、

昨日 きのう に 異 かわら ぬ 慣例 しきたり に 従えば よい。

即 ち 荒っぽい 大きな 歓楽 よろこび を 避 よけて さえ いれば、

自然 また 大きな 悲哀 かなしみ も やって 来 こ ない のだ。

ゆくて を 塞 ふさぐ 邪魔な 石 を

蟾蜍 ひきがえる は 廻って 通る。

上田 敏 訳 の ギイ ・シャルル ・クロオ と か いう ひと の 、こんな 詩 句 を 見つけた 時 、自分 は ひと り で 顔 を 燃える くらい に 赤く しました。

蟾蜍。

(それ が 、自分 だ。 世間 が ゆるす も 、ゆるさ ぬ も ない。 葬 む る も 、葬 むら ぬ も ない。 自分 は 、犬 より も 猫 より も 劣等 な 動物 な のだ。 蟾蜍。 のそのそ 動いて いる だけ だ)

自分 の 飲酒 は 、次第に 量 が ふえて 来ました。 高 円 寺 駅 附近 だけ で なく 、新宿 、銀座 の ほう に まで 出かけて 飲み 、外泊 する 事 さえ あり 、ただ もう 「慣例 しきたり 」に 従わ ぬ よう 、バア で 無 頼 漢 の 振り を したり 、片 端 から キス したり 、つまり 、また 、あの 情 死 以前 の 、いや 、あの 頃 より さらに 荒 す さん で 野 卑 な 酒飲み に なり 、金 に 窮して 、シヅ子 の 衣類 を 持ち出す ほど に なりました。

ここ へ 来て 、あの 破れた 奴 凧 に 苦笑 して から 一 年 以上 経って 、葉桜 の 頃 、自分 は 、また も シヅ子 の 帯 やら 襦袢 じゅばん やら を こっそり 持ち出して 質屋 に 行き 、お 金 を 作って 銀座 で 飲み 、二 晩 つづけて 外泊 して 、三 日 目 の 晩 、さすが に 具合 い 悪い 思い で 、無意識に 足音 を しのばせて 、アパート の シヅ子 の 部屋 の 前 まで 来る と 、中 から 、シヅ子 と シゲ子 の 会話 が 聞えます。

「なぜ 、お 酒 を 飲む の?

「お 父ちゃん は ね 、お 酒 を 好きで 飲んで いる ので は 、ない んです よ。 あんまり いい ひと だ から 、だ から、……」

「いい ひと は 、お 酒 を 飲む の?

「そう で も ない けど、……」

「お 父ちゃん は 、きっと 、びっくり する わ ね」

「お きらい かも 知れ ない。 ほら 、ほら 、箱 から 飛び出した」

「セッカチピンチャン みたい ね」

「そう ねえ」

シヅ子 の 、しん から 幸福 そうな 低い 笑い声 が 聞えました。

自分 が 、ドア を 細く あけて 中 を のぞいて 見ます と 、白 兎 の 子 でした。 ぴょ ん ぴょ ん 部屋 中 を 、はね 廻り 、親子 は それ を 追って いました。

(幸福な んだ 、この 人 たち は。 自分 と いう 馬鹿 者 が 、この 二 人 の あいだ に は いって 、いまに 二 人 を 滅 茶 苦 茶 に する のだ。 つつましい 幸福。 いい 親子。 幸福 を 、ああ 、もし 神様 が 、自分 の ような 者 の 祈り でも 聞いて くれる なら 、いち ど だけ 、生涯 に いち ど だけ で いい 、祈る)

自分 は 、そこ に うずくまって 合掌 したい 気持 でした。 そっと 、ドア を 閉め 、自分 は 、また 銀座 に 行き 、それっきり 、その アパート に は 帰りません でした。

そうして 、京 橋 の すぐ 近く の スタンド ・バア の 二 階 に 自分 は 、また も 男 め かけ の 形 で 、寝そべる 事 に なりました。

世間。 どうやら 自分 に も 、それ が ぼんやり わかり かけて 来た ような 気 が して いました。 個人 と 個人 の 争い で 、しかも 、その 場 の 争い で 、しかも 、その場で 勝てば いい のだ 、人間 は 決して 人間 に 服従 し ない 、奴隷 で さえ 奴隷 らしい 卑屈な シッペ が えし を する もの だ 、だ から 、人間 に は その 場 の 一 本 勝負 に たよる 他 、生き 伸びる 工夫 が つか ぬ のだ 、大義 名分 らしい もの を 称 と なえて い ながら 、努力 の 目標 は 必ず 個人 、個人 を 乗り越えて また 個人 、世間 の 難解 は 、個人 の 難解 、大洋 オーシャン は 世間 で なくて 、個人 な のだ 、と 世の中 と いう 大海 の 幻影 に おびえる 事 から 、多少 解放 せられて 、以前 ほど 、あれこれ と 際限 の 無い 心遣い する 事 なく 、謂 わ ば 差 し 当って の 必要に 応じて 、いくぶん 図 々 しく 振舞う 事 を 覚えて 来た のです。

高 円 寺 の アパート を 捨て 、京 橋 の スタンド ・バア の マダム に、

「わかれて 来た」

それ だけ 言って 、それ で 充分 、つまり 一 本 勝負 は きまって 、その 夜 から 、自分 は 乱暴に も そこ の 二 階 に 泊り込む 事 に なった のです が 、しかし 、おそろしい 筈 の 「世間 」は 、自分 に 何の 危害 も 加えません でした し 、また 自分 も 「世間 」に 対して 何の 弁明 も しません でした。 マダム が 、その 気 だったら 、それ で すべて が いい のでした。


第 三 の 手記 一 (3) だい|みっ||しゅき|ひと Third Epistle I (3) 세 번째 수기 一 (3) Terceira Nota 1 (3) 第三注1 (3) 第三註1 (3)

そういう 時 の 自分 に とって 、幽 かな 救い は 、シゲ子 でした。 |じ||じぶん|||ゆう||すくい||しげこ| シゲ子 は 、その頃 に なって 自分 の 事 を 、何も こだわら ず に 「お 父ちゃん 」と 呼んで いました。 しげこ||そのころ|||じぶん||こと||なにも|||||とうちゃん||よんで|い ました Around that time, Shigeko called herself "Father" without being particular about anything.

「お 父ちゃん。 |とうちゃん お 祈り を する と 、神様 が 、何でも 下さるって 、ほんとう? |いのり||||かみさま||なんでも|くださる って|

自分 こそ 、その お 祈り を したい と 思いました。 じぶん||||いのり||し たい||おもい ました

ああ 、われ に 冷 き 意志 を 与え 給え。 |||ひや||いし||あたえ|たまえ われ に 、「人間 」の 本質 を 知ら しめ 給え。 ||にんげん||ほんしつ||しら||たまえ Let us know the essence of "human". 人 が 人 を 押しのけて も 、罪 なら ず や。 じん||じん||おしのけて||ざい||| Even if people push people away, it's not a sin. われ に 、怒り の マスク を 与え 給え。 ||いかり||ますく||あたえ|たまえ Give us the mask of wrath.

「うん 、そう。 シゲ ちゃん に は 何でも 下さる だろう けれども 、お 父ちゃん に は 、駄目 かも 知れ ない」 しげ||||なんでも|くださる||||とうちゃん|||だめ||しれ|

自分 は 神 に さえ 、おびえて いました。 じぶん||かみ||||い ました 神 の 愛 は 信ぜられ ず 、神 の 罰 だけ を 信じて いる のでした。 かみ||あい||しんぜ られ||かみ||ばち|||しんじて|| 信仰。 しんこう それ は 、ただ 神 の 笞 むち を 受ける ため に 、うなだれて 審判 の 台 に 向 う 事 の ような 気 が して いる のでした。 |||かみ||ち|||うける||||しんぱん||だい||むかい||こと|||き|||| 地獄 は 信ぜられて も 、天国 の 存在 は 、どうしても 信ぜられ なかった のです。 じごく||しんぜ られて||てんごく||そんざい|||しんぜ られ|| Even though hell was believed, the existence of heaven was never believed.

「どうして 、ダメな の? |だめな|

「親 の 言いつけ に 、そむいた から」 おや||いいつけ||| "Because I disobeyed my parents' instructions."

「そう? お 父ちゃん は とても いい ひと だって 、みんな 言う けど な」 |とうちゃん|||||||いう||

それ は 、だまして いる から だ 、この アパート の 人 たち 皆 に 、自分 が 好意 を 示されて いる の は 、自分 も 知っている 、しかし 、自分 は 、どれほど 皆 を 恐怖 して いる か 、恐怖 すれば する ほど好かれ 、そうして 、こちら は 好か れる と 好か れる ほど 恐怖 し 、皆 から 離れて 行か ねば なら ぬ 、この 不幸な 病 癖 を 、シゲ子 に 説明 して 聞か せる の は 、至難の 事 でした。 |||||||あぱーと||じん||みな||じぶん||こうい||しめさ れて||||じぶん||しっている||じぶん|||みな||きょうふ||||きょうふ|||ほどよかれ||||すか|||すか|||きょうふ||みな||はなれて|いか|||||ふこうな|びょう|くせ||しげこ||せつめい||きか||||しなんの|こと| It's because I'm deceiving you, I know I'm being favored by all the people in this apartment, but I'm scared of how much I'm afraid of everyone. The more they like you, the more you like them, the more you fear them, and you have to move away from everyone. It was about

「シゲ ちゃん は 、いったい 、神様 に 何 を お ねだり したい の? しげ||||かみさま||なん||||し たい|

自分 は 、何気無 さ そうに 話 頭 を 転じました。 じぶん||なにげな||そう に|はなし|あたま||てんじ ました

「シゲ子 は ね 、シゲ子 の 本当の お 父ちゃん が ほしい の」 しげこ|||しげこ||ほんとうの||とうちゃん|||

ぎょっと して 、くらく ら 目 まい しました。 ||||め||し ました I was startled and dizzy. 敵。 てき 自分 が シゲ子 の 敵 な の か 、シゲ子 が 自分 の 敵 な の か 、とにかく 、ここ に も 自分 を おびやかす おそろしい 大人 が いた のだ 、他人 、不可解な 他人 、秘密 だらけ の 他人 、シゲ子 の 顔 が 、にわかに そのように 見えて 来ました。 じぶん||しげこ||てき||||しげこ||じぶん||てき||||||||じぶん||||おとな||||たにん|ふかかいな|たにん|ひみつ|||たにん|しげこ||かお||||みえて|き ました Whether I was Shigeko's enemy, or whether Shigeko was my own enemy, in any case, there was a frightening adult here who threatened me. I came to see it that way.

シゲ子 だけ は 、と 思って いた のに 、やはり 、この 者 も 、あの 「不意に 虻 あぶ を 叩き 殺す 牛 の しっぽ 」を 持って いた のでした。 しげこ||||おもって|||||もの|||ふいに|あぶ|||たたき|ころす|うし||||もって|| 自分 は 、それ 以来 、シゲ子 に さえ おどおど しなければ なら なく なりました。 じぶん|||いらい|しげこ||||し なければ|||なり ました Since then, even Shigeko has had to be timid.

「色 魔 し きま! いろ|ま|| いる かい?

堀木 が 、また 自分 の ところ へ たずねて 来る ように なって いた のです。 ほりき|||じぶん|||||くる|||| あの 家出 の 日 に 、あれほど 自分 を 淋しく さ せた 男 な のに 、それ でも 自分 は 拒否 でき ず 、幽 か に 笑って 迎える のでした。 |いえで||ひ|||じぶん||さびしく|||おとこ|||||じぶん||きょひ|||ゆう|||わらって|むかえる| On that day of runaway, even though he was such a lonely man, he still couldn't refuse and greeted him with a laugh.

「お前 の 漫画 は 、なかなか 人気 が 出て いる そう じゃ ない か。 おまえ||まんが|||にんき||でて||||| "Your manga seems to be quite popular, isn't it? アマチュア に は 、こわい もの 知ら ず の 糞 度胸 くそ どきょう が ある から かなわ ねえ。 あまちゅあ|||||しら|||くそ|どきょう||||||| Amateurs have the guts to be fearless. しかし 、油断 する な よ。 |ゆだん||| デッサン が 、ちっとも なって や し ない んだ から」 でっさん|||||||| Because the drawings don't get any better."

お 師匠 みたいな 態度 を さえ 示す のです。 |ししょう||たいど|||しめす| 自分 の あの 「お化け 」の 絵 を 、こいつ に 見せたら 、どんな 顔 を する だろう 、と れい の 空転 の 身 悶 み もだえ を し ながら、 じぶん|||おばけ||え||||みせたら||かお|||||||くうてん||み|もん||||| I wondered what kind of face he'd make if I showed him that "ghost" picture of myself, writhing in a writhing state.

「それ を 言って くれる な。 ||いって|| ぎ ゃっと いう 悲鳴 が 出る」 |ゃっ と||ひめい||でる

堀木 は 、いよいよ 得意 そうに、 ほりき|||とくい|そう に

「世渡り の 才能 だけ で は 、いつか は 、ボロ が 出る から な」 よわたり||さいのう||||||||でる|| "If you only have worldly talent, someday you'll be a rag."

世渡り の 才能。 よわたり||さいのう worldly talent. ……自分 に は 、ほんとうに 苦笑 の 他 は ありません でした。 じぶん||||くしょう||た||あり ませ ん| 自分 に 、世渡り の 才能! じぶん||よわたり||さいのう しかし 、自分 の ように 人間 を おそれ 、避け 、ごまかして いる の は 、れいの 俗 諺 ぞく げん の 「さわら ぬ 神 に たたり なし 」と か いう 怜悧 れい り 狡猾 こう かつ の 処 生 訓 を 遵奉 して いる の と 、同じ 形 だ 、と いう 事 に なる のでしょう か。 |じぶん|||にんげん|||さけ||||||ぞく|ことわざ||||||かみ|||||||れいり|||こうかつ||||しょ|せい|さとし||じゅんほう|||||おなじ|かた||||こと|||| However, those who fear, avoid, and deceive humans like themselves follow the wise and cunning precepts of the proverb, ``If you don't touch the gods, don't attack them.'' Does it mean that it is the same shape as the one you are doing? ああ 、人間 は 、お互い 何も 相手 を わから ない 、まるっきり 間違って 見て い ながら 、無二 の 親友 の つもり で いて 、一生 、それ に 気 附 かず 、相手 が 死ねば 、泣いて 弔 詞 なんか を 読んで いる ので は ない でしょう か。 |にんげん||おたがい|なにも|あいて|||||まちがって|みて|||むに||しんゆう|||||いっしょう|||き|ふ||あいて||しねば|ないて|とむら|し|||よんで|||||| Ah, human beings don't know each other at all, they see each other completely wrong, but they think they're best friends, never realizing it for the rest of their lives, and when someone dies, they cry and read condolences. Isn't it because you're in Japan?

堀木 は 、何せ 、(それ は シヅ子 に 押して たのまれて しぶしぶ 引受けた に 違いない のです が )自分 の 家出 の 後 仕末 に 立ち合った ひと な ので 、まるで もう 、自分 の 更生 の 大 恩人 か 、月下 氷 人 の ように 振舞い 、もっともらしい 顔 を して 自分 に お 説教 めいた 事 を 言ったり 、また 、深夜 、酔っぱらって 訪問 して 泊ったり 、また 、五 円 (きまって 五 円 でした )借りて 行ったり する のでした。 ほりき||なにせ|||しずこ||おして|たのま れて||ひきうけた||ちがいない|||じぶん||いえで||あと|しまつ||たちあった||||||じぶん||こうせい||だい|おんじん||げっか|こおり|じん|||ふるまい||かお|||じぶん|||せっきょう||こと||いったり||しんや|よっぱらって|ほうもん||とまったり||いつ|えん||いつ|えん||かりて|おこなったり|| Horiki, after all, (because of Shizuko's insistence, he must have accepted the offer reluctantly) is someone who witnessed the end of his life after he ran away from home, so it's as if he was already a great benefactor of his own rehabilitation. He acted like an ice man under the moonlight, pretending to be plausible and said things that seemed to be preaching to himself. I would go and borrow it.

「しかし 、お前 の 、女 道楽 も この へんで よす んだ ね。 |おまえ||おんな|どうらく|||||| "But you also do your female hobby here, don't you? これ 以上 は 、世間 が 、ゆるさ ない から な」 |いじょう||せけん||ゆる さ|||

世間 と は 、いったい 、何の 事 でしょう。 せけん||||なんの|こと| 人間 の 複数 でしょう か。 にんげん||ふくすう|| どこ に 、その 世間 と いう もの の 実体 が ある のでしょう。 |||せけん|||||じったい||| けれども 、何しろ 、強く 、きびしく 、こわい もの 、と ばかり 思って これ まで 生きて 来た のです が 、しかし 、堀木 に そう 言われて 、ふと、 |なにしろ|つよく||||||おもって|||いきて|きた||||ほりき|||いわ れて|

「世間 と いう の は 、君 じゃ ない か」 せけん|||||きみ||| “You are the world, aren’t you?”

と いう 言葉 が 、舌 の 先 まで 出 かかって 、堀木 を 怒ら せる の が イヤで 、ひっこめました。 ||ことば||した||さき||だ||ほりき||いから||||いやで|ひっこめ ました I didn't want the words to go on the tip of my tongue and anger Horiki, so I withdrew.

(それ は 世間 が 、ゆるさ ない) ||せけん||ゆる さ|

(世間 じゃ ない。 せけん|| あなた が 、ゆるさ ない のでしょう? ||ゆる さ||

(そんな 事 を する と 、世間 から ひどい めに 逢う ぞ) |こと||||せけん||||あう| (If you do such a thing, you will be treated badly by the world.)

(世間 じゃ ない。 せけん|| あなた でしょう?

(いまに 世間 から 葬ら れる) |せけん||ほうむら|

(世間 じゃ ない。 せけん|| 葬 む る の は 、あなた でしょう? ほうむ|||||| You'll be the one to bury it, right?

汝 なんじ は 、汝個 人 の おそろし さ 、怪奇 、悪辣 あくらつ 、古 狸 ふる だ ぬき 性 、妖婆 よう ば 性 を 知れ! なんじ|||なんじこ|じん||||かいき|あくらつ||ふる|たぬき||||せい|ようばあ|||せい||しれ など と 、さまざまの 言葉 が 胸中 に 去来 した のです が 、自分 は 、ただ 顔 の 汗 を ハンケチ で 拭いて、 |||ことば||きょうちゅう||きょらい||||じぶん|||かお||あせ||||ふいて

「冷 汗 ひやあせ 、冷 汗」 ひや|あせ||ひや|あせ Cold sweat. Hiya, cold sweat.

と 言って 笑った だけ でした。 |いって|わらった||

けれども 、その 時 以来 、自分 は 、(世間 と は 個人 じゃ ない か )と いう 、思想 めいた もの を 持つ ように なった のです。 ||じ|いらい|じぶん||せけん|||こじん||||||しそう||||もつ|||

そうして 、世間 と いう もの は 、個人 で は なかろう か と 思い はじめて から 、自分 は 、いま まで より は 多少 、自分 の 意志 で 動く 事 が 出来る ように なりました。 |せけん|||||こじん||||||おもい|||じぶん||||||たしょう|じぶん||いし||うごく|こと||できる||なり ました シヅ子 の 言葉 を 借りて 言えば 、自分 は 少し わがままに なり 、おどおど し なく なりました。 しずこ||ことば||かりて|いえば|じぶん||すこし||||||なり ました To borrow Shizuko's words, I became a little selfish and less timid. また 、堀木 の 言葉 を 借りて 言えば 、へんに ケチ に なりました。 |ほりき||ことば||かりて|いえば||||なり ました また 、シゲ子 の 言葉 を 借りて 言えば 、あまり シゲ子 を 可愛がら なく なりました。 |しげこ||ことば||かりて|いえば||しげこ||かわいがら||なり ました

無口で 、笑わ ず 、毎日 々々 、シゲ子 の おもり を し ながら 、「キンタ さん と オタ さん の 冒険 」やら 、また ノンキ な トウサン の 歴然たる 亜流 の 「ノンキ 和尚 おしょう 」やら 、また 、「セッカチピンチャン 」と いう 自分 ながら わけ の わから ぬ ヤケクソ の 題 の 連載 漫画 やら を 、各社 の 御 注文 (ぽつりぽつり 、シヅ子 の 社 の 他 から も 注文 が 来る ように なって いました が 、すべて それ は 、シヅ子 の 社 より も 、もっと 下品な 謂 わ ば 三流 出版 社 から の 注文 ばかり でした )に 応じ 、実に 実に 陰 鬱 な 気持 で 、のろのろ と 、(自分 の 画 の 運筆 は 、非常に おそい ほう でした )いま は ただ 、酒 代 が ほしい ばかりに 画 いて 、そうして 、シヅ子 が 社 から 帰る と それ と 交代 に ぷい と 外 へ 出て 、高 円 寺 の 駅 近く の 屋台 や スタンド ・バア で 安くて 強い 酒 を 飲み 、少し 陽気に なって アパート へ 帰り、 むくちで|わらわ||まいにち||しげこ||||||||||||ぼうけん|||||||れきぜんたる|ありゅう|||おしょう|||||||じぶん||||||||だい||れんさい|まんが|||かくしゃ||ご|ちゅうもん||しずこ||しゃ||た|||ちゅうもん||くる|||い ました|||||しずこ||しゃ||||げひんな|い|||さんりゅう|しゅっぱん|しゃ|||ちゅうもん||||おうじ|じつに|じつに|かげ|うつ||きもち||||じぶん||が||うんぴつ||ひじょうに|||||||さけ|だい||||が|||しずこ||しゃ||かえる||||こうたい||||がい||でて|たか|えん|てら||えき|ちかく||やたい||すたんど|||やすくて|つよい|さけ||のみ|すこし|ようきに||あぱーと||かえり Taciturn, non-smiling, day after day, while carrying Shigeko's weight, he performed ``Kinta-san and Ota-san's adventures,'' and ``Non-ki Osho,'' a clear sub-style of the non-kid Tousan, and ``Sekkachi Pin-chan. I started to receive orders from companies other than Shizuko's company for serialized comics with the title of "depraved," which I don't understand, but all of them came from Shizuko's company. (My strokes were very slow.) I just wanted to pay for the sake, so when Shizuko came home from the shrine, I took turns going out and drinking cheap strong sake at a stall or stand bar near Koenji station. Drink, cheer up a little and go back to the apartment,

「見れば 見る ほど 、へんな 顔 を して いる ねえ 、お前 は。 みれば|みる|||かお|||||おまえ| ノンキ 和尚 の 顔 は 、実は 、お前 の 寝顔 から ヒント を 得た のだ」 |おしょう||かお||じつは|おまえ||ねがお||ひんと||えた|

「あなた の 寝顔 だって 、ずいぶん お 老け に なり まして よ。 ||ねがお||||ふけ|||| 四十 男 みたい」 しじゅう|おとこ|

「お前 の せい だ。 おまえ||| 吸い取ら れた んだ。 すいとら|| It sucked me out. 水 の 流れ と 、人 の 身 は あ サ。 すい||ながれ||じん||み||| The flow of water and the human body are the same. 何 を くよくよ 川端 や なあ ぎ い サ」 なん|||かわばた||||| What are you thinking about, Yanagiisa Kawabata?”

「騒が ないで 、早く お やすみ なさい よ。 さわが||はやく|||| それとも 、ごはん を あがります か? |||あがり ます| Or would you like to finish the meal?

落ちついて いて 、まるで 相手 に しません。 おちついて|||あいて||し ませ ん He's calm and doesn't seem to care.

「酒 なら 飲む が ね。 さけ||のむ|| 水 の 流れ と 、人 の 身 は あ サ。 すい||ながれ||じん||み||| 人 の 流れ と 、いや 、水 の 流れ え と 、水 の 身 は あ サ」 じん||ながれ|||すい||ながれ|||すい||み|||

唄い ながら 、シヅ子 に 衣服 を ぬが せられ 、シヅ子 の 胸 に 自分 の 額 を 押しつけて 眠って しまう 、それ が 自分 の 日常 でした。 うたい||しずこ||いふく|||せら れ|しずこ||むね||じぶん||がく||おしつけて|ねむって||||じぶん||にちじょう|

して その 翌日 あくる ひ も 同じ 事 を 繰返して、 ||よくじつ||||おなじ|こと||くりかえして

昨日 きのう に 異 かわら ぬ 慣例 しきたり に 従えば よい。 きのう|||い|||かんれい|||したがえば| You just have to follow the same conventions as yesterday.

即 ち 荒っぽい 大きな 歓楽 よろこび を 避 よけて さえ いれば、 そく||あらっぽい|おおきな|かんらく|||ひ|||

自然 また 大きな 悲哀 かなしみ も やって 来 こ ない のだ。 しぜん||おおきな|ひあい||||らい|||

ゆくて を 塞 ふさぐ 邪魔な 石 を ||ふさ||じゃまな|いし| A stone that blocks your way

蟾蜍 ひきがえる は 廻って 通る。 ひきがえる|||まわって|とおる The snails go around.

上田 敏 訳 の ギイ ・シャルル ・クロオ と か いう ひと の 、こんな 詩 句 を 見つけた 時 、自分 は ひと り で 顔 を 燃える くらい に 赤く しました。 うえた|さとし|やく|||||||||||し|く||みつけた|じ|じぶん|||||かお||もえる|||あかく|し ました

蟾蜍。 ひきがえる

(それ が 、自分 だ。 ||じぶん| 世間 が ゆるす も 、ゆるさ ぬ も ない。 せけん||||ゆる さ||| 葬 む る も 、葬 むら ぬ も ない。 ほうむ||||ほうむ|||| No burial, no burial. 自分 は 、犬 より も 猫 より も 劣等 な 動物 な のだ。 じぶん||いぬ|||ねこ|||れっとう||どうぶつ|| 蟾蜍。 ひきがえる のそのそ 動いて いる だけ だ) |うごいて||| It's just moving)

自分 の 飲酒 は 、次第に 量 が ふえて 来ました。 じぶん||いんしゅ||しだいに|りょう|||き ました 高 円 寺 駅 附近 だけ で なく 、新宿 、銀座 の ほう に まで 出かけて 飲み 、外泊 する 事 さえ あり 、ただ もう 「慣例 しきたり 」に 従わ ぬ よう 、バア で 無 頼 漢 の 振り を したり 、片 端 から キス したり 、つまり 、また 、あの 情 死 以前 の 、いや 、あの 頃 より さらに 荒 す さん で 野 卑 な 酒飲み に なり 、金 に 窮して 、シヅ子 の 衣類 を 持ち出す ほど に なりました。 たか|えん|てら|えき|ふきん||||しんじゅく|ぎんざ|||||でかけて|のみ|がいはく||こと|||||かんれい|||したがわ|||||む|たの|かん||ふり|||かた|はし||きす|||||じょう|し|いぜん||||ころ|||あら||||の|ひ||さけのみ|||きむ||きゅうして|しずこ||いるい||もちだす|||なり ました Not only around Koenji Station, but also going out to Shinjuku and Ginza to drink and even stay out. In other words, he became even rougher and more vulgar than he was before his death, or even more so than those days.

ここ へ 来て 、あの 破れた 奴 凧 に 苦笑 して から 一 年 以上 経って 、葉桜 の 頃 、自分 は 、また も シヅ子 の 帯 やら 襦袢 じゅばん やら を こっそり 持ち出して 質屋 に 行き 、お 金 を 作って 銀座 で 飲み 、二 晩 つづけて 外泊 して 、三 日 目 の 晩 、さすが に 具合 い 悪い 思い で 、無意識に 足音 を しのばせて 、アパート の シヅ子 の 部屋 の 前 まで 来る と 、中 から 、シヅ子 と シゲ子 の 会話 が 聞えます。 ||きて||やぶれた|やつ|たこ||くしょう|||ひと|とし|いじょう|たって|はざくら||ころ|じぶん||||しずこ||おび||じゅばん|||||もちだして|しちや||いき||きむ||つくって|ぎんざ||のみ|ふた|ばん||がいはく||みっ|ひ|め||ばん|||ぐあい||わるい|おもい||むいしきに|あしおと|||あぱーと||しずこ||へや||ぜん||くる||なか||しずこ||しげこ||かいわ||きこえ ます

「なぜ 、お 酒 を 飲む の? ||さけ||のむ|

「お 父ちゃん は ね 、お 酒 を 好きで 飲んで いる ので は 、ない んです よ。 |とうちゃん||||さけ||すきで|のんで|||||| "My dad doesn't like alcohol because he likes it. あんまり いい ひと だ から 、だ から、……」

「いい ひと は 、お 酒 を 飲む の? ||||さけ||のむ|

「そう で も ない けど、……」

「お 父ちゃん は 、きっと 、びっくり する わ ね」 |とうちゃん||||||

「お きらい かも 知れ ない。 |||しれ| ほら 、ほら 、箱 から 飛び出した」 ||はこ||とびだした

「セッカチピンチャン みたい ね」

「そう ねえ」

シヅ子 の 、しん から 幸福 そうな 低い 笑い声 が 聞えました。 しずこ||||こうふく|そう な|ひくい|わらいごえ||きこえ ました I heard a low, happy laugh coming from Shizuko.

自分 が 、ドア を 細く あけて 中 を のぞいて 見ます と 、白 兎 の 子 でした。 じぶん||どあ||ほそく||なか|||み ます||しろ|うさぎ||こ| ぴょ ん ぴょ ん 部屋 中 を 、はね 廻り 、親子 は それ を 追って いました。 ||||へや|なか|||まわり|おやこ||||おって|い ました

(幸福な んだ 、この 人 たち は。 こうふくな|||じん|| 自分 と いう 馬鹿 者 が 、この 二 人 の あいだ に は いって 、いまに 二 人 を 滅 茶 苦 茶 に する のだ。 じぶん|||ばか|もの|||ふた|じん|||||||ふた|じん||めつ|ちゃ|く|ちゃ||| An idiot like myself has gotten in between these two and is about to mess them up. つつましい 幸福。 |こうふく humble happiness. いい 親子。 |おやこ 幸福 を 、ああ 、もし 神様 が 、自分 の ような 者 の 祈り でも 聞いて くれる なら 、いち ど だけ 、生涯 に いち ど だけ で いい 、祈る) こうふく||||かみさま||じぶん|||もの||いのり||きいて||||||しょうがい|||||||いのる

自分 は 、そこ に うずくまって 合掌 したい 気持 でした。 じぶん|||||がっしょう|し たい|きもち| そっと 、ドア を 閉め 、自分 は 、また 銀座 に 行き 、それっきり 、その アパート に は 帰りません でした。 |どあ||しめ|じぶん|||ぎんざ||いき|||あぱーと|||かえり ませ ん|

そうして 、京 橋 の すぐ 近く の スタンド ・バア の 二 階 に 自分 は 、また も 男 め かけ の 形 で 、寝そべる 事 に なりました。 |けい|きょう|||ちかく||すたんど|||ふた|かい||じぶん||||おとこ||||かた||ねそべる|こと||なり ました And so, I found myself lying down on the second floor of the stand bar near Kyobashi, again in the form of a man.

世間。 せけん どうやら 自分 に も 、それ が ぼんやり わかり かけて 来た ような 気 が して いました。 |じぶん||||||||きた||き|||い ました Somehow, I felt like I was beginning to vaguely understand it myself. 個人 と 個人 の 争い で 、しかも 、その 場 の 争い で 、しかも 、その場で 勝てば いい のだ 、人間 は 決して 人間 に 服従 し ない 、奴隷 で さえ 奴隷 らしい 卑屈な シッペ が えし を する もの だ 、だ から 、人間 に は その 場 の 一 本 勝負 に たよる 他 、生き 伸びる 工夫 が つか ぬ のだ 、大義 名分 らしい もの を 称 と なえて い ながら 、努力 の 目標 は 必ず 個人 、個人 を 乗り越えて また 個人 、世間 の 難解 は 、個人 の 難解 、大洋 オーシャン は 世間 で なくて 、個人 な のだ 、と 世の中 と いう 大海 の 幻影 に おびえる 事 から 、多少 解放 せられて 、以前 ほど 、あれこれ と 際限 の 無い 心遣い する 事 なく 、謂 わ ば 差 し 当って の 必要に 応じて 、いくぶん 図 々 しく 振舞う 事 を 覚えて 来た のです。 こじん||こじん||あらそい||||じょう||あらそい|||そのばで|かてば|||にんげん||けっして|にんげん||ふくじゅう|||どれい|||どれい||ひくつな||||||||||にんげん||||じょう||ひと|ほん|しょうぶ|||た|いき|のびる|くふう|||||たいぎ|めいぶん||||そや|||||どりょく||もくひょう||かならず|こじん|こじん||のりこえて||こじん|せけん||なんかい||こじん||なんかい|たいよう|||せけん|||こじん||||よのなか|||たいかい||げんえい|||こと||たしょう|かいほう|せら れて|いぜん||||さいげん||ない|こころづかい||こと||い|||さ||あたって||ひつように|おうじて||ず|||ふるまう|こと||おぼえて|きた| It's a battle between individuals, and it's a battle on the spot, and it's good if you win on the spot.Humans will never submit to humans. That's why humans can't find any way to survive other than relying on the one-off game on the spot.Even though we call it something that seems to be a good cause, the goal of effort is always to overcome individual and individual. Also, the individual, the world's esoteric, is the individual's esoteric, and the ocean is not the world, but the individual. I have learned to behave somewhat impudently in response to, so to speak, immediate need, without needless consideration.

高 円 寺 の アパート を 捨て 、京 橋 の スタンド ・バア の マダム に、 たか|えん|てら||あぱーと||すて|けい|きょう||すたんど|||| I left my apartment in Koenji and became a stand-up madam in Kyobashi.

「わかれて 来た」 |きた "We came apart"

それ だけ 言って 、それ で 充分 、つまり 一 本 勝負 は きまって 、その 夜 から 、自分 は 乱暴に も そこ の 二 階 に 泊り込む 事 に なった のです が 、しかし 、おそろしい 筈 の 「世間 」は 、自分 に 何の 危害 も 加えません でした し 、また 自分 も 「世間 」に 対して 何の 弁明 も しません でした。 ||いって|||じゅうぶん||ひと|ほん|しょうぶ||||よ||じぶん||らんぼうに||||ふた|かい||とまりこむ|こと|||||||はず||せけん||じぶん||なんの|きがい||くわえ ませ ん||||じぶん||せけん||たいして|なんの|べんめい||し ませ ん| Suffice it to say, that was enough, in other words, a one-game match was decided, and from that night onwards, I was forced to stay overnight on the second floor, but the "world" that should have been terrifying, I did no harm to myself, nor did I make any excuses to "the world." マダム が 、その 気 だったら 、それ で すべて が いい のでした。 |||き||||||| If Madame was willing, then all would be well.