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太宰治『人間失格』(No Longer Human by Osamu Dazai), 第 三 の 手記 二 (1)

第 三 の 手記 二 (1)

堀木 と 自分。

互いに 軽蔑 けいべつ し ながら 附 き 合い 、そうして 互いに 自 みずから を くだらなく して 行く 、それ が この世 の 所 謂 「交友 」と いう もの の 姿 だ と する なら 、自分 と 堀木 と の 間柄 も 、まさしく 「交友 」に 違い ありません でした。

自分 が あの 京 橋 の スタンド ・バア の マダム の 義 侠心 ぎ きょうしん に すがり 、(女 の ひと の 義 侠心 なんて 、言葉 の 奇妙な 遣い 方 です が 、しかし 、自分 の 経験 に 依る と 、少く と も 都会 の 男女 の 場合 、男 より も 女 の ほう が 、その 、義 侠心 と でも いう べき もの を たっぷり と 持って いました。 男 はたいてい 、おっかなびっくり で 、お ていさい ばかり 飾り 、そうして 、ケチ でした )あの 煙草 屋 の ヨシ子 を 内縁 の 妻 に する 事 が 出来て 、そうして 築地 つ きじ 、隅田 川 の 近く 、木造 の 二 階建て の 小さい アパート の 階下 の 一室 を 借り 、ふた り で 住み 、酒 は 止めて 、そろそろ 自分 の 定った 職業 に なり かけて 来た 漫画 の 仕事 に 精 を 出し 、夕食 後 は 二 人 で 映画 を 見 に 出かけ 、帰り に は 、喫茶 店 など に はいり 、また 、花 の 鉢 を 買ったり して 、いや 、それ より も 自分 を しん から 信頼 して くれて いる この 小さい 花嫁 の 言葉 を 聞き 、動作 を 見て いる の が 楽しく 、これ は 自分 も ひょっとしたら 、いまに だんだん 人間 らしい もの に なる 事 が 出来て 、悲惨な 死に 方 など せ ず に すむ ので は なかろう か と いう 甘い 思い を 幽 か に 胸 に あたため はじめて いた 矢先 に 、堀木 が また 自分 の 眼前 に 現われました。

「よう! 色 魔。 おや? これ でも 、いくらか 分別 くさい 顔 に なりや がった。 きょう は 、高 円 寺 女史 から の お 使者 なんだ が ね」

と 言い かけて 、急に 声 を ひそめ 、お 勝手で お 茶 の 仕度 を して いる ヨシ子 の ほう を 顎 あご で しゃくって 、大丈夫 かい? と たずねます ので、

「かまわ ない。 何 を 言って も いい」

と 自分 は 落ちついて 答えました。

じっさい 、ヨシ子 は 、信頼 の 天才 と 言いたい くらい 、京 橋 の バア の マダム と の 間 は もとより 、自分 が 鎌倉 で 起した 事件 を 知らせて やって も 、ツネ子 と の 間 を 疑わ ず 、それ は 自分 が 嘘 が うまい から と いう わけで は 無く 、時に は 、あからさまな 言い 方 を する 事 さえ あった のに 、ヨシ子 に は 、それ が みな 冗談 と しか 聞きとれ ぬ 様子 でした。

「相 変ら ず 、しょって いやがる。 なに 、たいした 事 じゃ ない が ね 、たまに は 、高 円 寺 の ほう へ も 遊び に 来て くれって いう 御 伝言 さ」

忘れ かける と 、怪 鳥 が 羽ばたいて やって 来て 、記憶 の 傷口 を その 嘴 くちばし で 突き破ります。 たちまち 過去 の 恥 と 罪 の 記憶 が 、ありあり と 眼前 に 展開 せられ 、わ あっと 叫びたい ほど の 恐怖 で 、坐って おら れ なく なる のです。

「飲もう か」

と 自分。

「よし」

と 堀木。

自分 と 堀木。 形 は 、ふた り 似て いました。 そっくりの 人間 の ような 気 が する 事 も ありました。 もちろん それ は 、安い 酒 を あちこち 飲み 歩いて いる 時 だけ の 事 でした が 、とにかく 、ふた り 顔 を 合せる と 、みるみる 同じ 形 の 同じ 毛並 の 犬 に 変り 降雪 の ちまた を 駈 け めぐる と いう 具合 い に なる のでした。

その 日 以来 、自分 たち は 再び 旧交 を あたためた と いう 形 に なり 、京 橋 の あの 小さい バア に も 一緒に 行き 、そうして 、とうとう 、高 円 寺 の シヅ子 の アパート に も その 泥酔 の 二 匹 の 犬 が 訪問 し 、宿泊 して 帰る など と いう 事 に さえ なって しまった のです。

忘れ も 、しません。 むし暑い 夏 の 夜 でした。 堀木 は 日 暮 頃 、よれよれの 浴衣 を 着て 築地 の 自分 の アパート に やって 来て 、きょう 或る 必要 が あって 夏 服 を 質 入 した が 、その 質 入 が 老母 に 知れる と まことに 具合 い が 悪い 、すぐ 受け 出したい から 、とにかく 金 を 貸して くれ 、と いう 事 でした。 あいにく 自分 の ところ に も 、お 金 が 無かった ので 、例 に 依って 、ヨシ子 に 言いつけ 、ヨシ子 の 衣類 を 質屋 に 持って行か せて お 金 を 作り 、堀木 に 貸して も 、まだ 少し 余る ので その 残金 で ヨシ子 に 焼酎 しょうちゅう を 買わせ 、アパート の 屋上 に 行き 、隅田 川 から 時たま 幽 か に 吹いて 来る どぶ 臭い 風 を 受けて 、まことに 薄汚い 納涼 の 宴 を 張りました。

自分 たち は その 時 、喜劇 名詞 、悲劇 名詞 の 当てっこ を はじめました。 これ は 、自分 の 発明 した 遊 戯 で 、名詞 に は 、すべて 男性 名詞 、女性 名詞 、中性 名詞 など の 別 が ある けれども 、それ と 同時に 、喜劇 名詞 、悲劇 名詞 の 区別 が あって 然 る べきだ 、たとえば 、汽船 と 汽車 は いずれ も 悲劇 名詞 で 、市電 と バス は 、いずれ も 喜劇 名詞 、なぜ そう な の か 、それ の わから ぬ 者 は 芸術 を 談 ずる に 足ら ん 、喜劇 に 一 個 でも 悲劇 名詞 を さしはさんで いる 劇作家 は 、既に それ だけ で 落第 、悲劇 の 場合 も また 然り 、と いった ような わけな のでした。

「いい かい? 煙草 は?

と 自分 が 問います。

「トラ。 (悲劇 トラジディ の 略)」

と 堀木 が 言下 に 答えます。

「薬 は?

「粉薬 かい? 丸薬 かい?

「注射」

「トラ」

「そう かな? ホルモン 注射 も ある し ねえ」

「いや 、断然 トラ だ。 針 が 第 一 、お前 、立派な トラ じゃ ない か」

「よし 、負けて 置こう。 しかし 、君 、薬 や 医者 は ね 、あれ で 案外 、コメ (喜劇 コメディ の 略 )なんだ ぜ。 死 は?

「コメ。 牧師 も 和尚 おしょう も 然り じゃ ね」

「大出 来。 そうして 、生 は トラ だ なあ」

「ちがう。 それ も 、コメ」

「いや 、それでは 、何でも か でも 皆 コメ に なって しまう。 では ね 、もう 一 つ お たずね する が 、漫画 家 は? よもや 、コメ と は 言えません でしょう?

「トラ 、トラ。 大 悲劇 名詞!

「なんだ 、大 トラ は 君 の ほう だ ぜ」

こんな 、下手な 駄洒落 だじゃれ みたいな 事 に なって しまって は 、つまらない のです けど 、しかし 自分 たち は その 遊 戯 を 、世界 の サロン に も 嘗 かつて 存 し なかった 頗 すこぶる 気 の きいた もの だ と 得意 がって いた のでした。

また もう 一 つ 、これ に 似た 遊 戯 を 当時 、自分 は 発明 して いました。 それ は 、対義語 アントニム の 当てっこ でした。 黒 の アント (対義語 アントニム の 略 )は 、白。 けれども 、白 の アント は 、赤。 赤 の アント は 、黒。

「花 の アント は?

と 自分 が 問う と 、堀木 は 口 を 曲げて 考え、

「ええっと 、花月 と いう 料理 屋 が あった から 、月 だ」

「いや 、それ は アント に なって いない。 むしろ 、同義語 シノニム だ。 星 と 菫 すみれ だって 、シノニム じゃ ない か。 アント で ない」

「わかった 、それ は ね 、蜂 はち だ」

「ハチ?

「牡丹 ぼたん に 、……蟻 ありか?

「な あんだ 、それ は 画題 モチイフ だ。 ごまかしちゃ いけない」

「わかった! 花 に むら雲、……」

「月 に むら雲 だろう」

「そう 、そう。 花 に 風。 風 だ。 花 の アント は 、風」

「まずい なあ 、それ は 浪花節 なにわぶし の 文句 じゃ ない か。 お さと が 知れる ぜ」

「いや 、琵琶 びわ だ」

「なお いけない。 花 の アント は ね 、……およそ この世 で 最も 花 らしく ない もの 、それ を こそ 挙げる べきだ」

「だ から 、その 、……待てよ 、な あんだ 、女 か」

「ついでに 、女 の シノニム は?

「臓物」

「君 は 、どうも 、詩 ポエジイ を 知ら ん ね。 それ じゃあ 、臓物 の アント は?

「牛乳」

「これ は 、ちょっと うまい な。 その 調子 で もう 一 つ。 恥。 オント の アント」

「恥知らず さ。 流行 漫画 家 上司 幾 太」

「堀木 正雄 は?

この 辺 から 二 人 だんだん 笑え なく なって 、焼酎 の 酔い 特有の 、あの ガラス の 破片 が 頭 に 充満 して いる ような 、陰 鬱 な 気分 に なって 来た のでした。

「生意気 言う な。 おれ は まだ お前 の ように 、繩目 の 恥 辱 など 受けた 事 が 無えんだ」

ぎょっと しました。 堀木 は 内心 、自分 を 、真人 間 あつかい に して い なかった のだ 、自分 を ただ 、死に ぞ こない の 、恥知らずの 、阿 呆 の ばけもの の 、謂 いわば 「生ける 屍 しかばね 」と しか 解して くれ ず 、そうして 、彼 の 快楽 の ため に 、自分 を 利用 できる ところ だけ は 利用 する 、それっきり の 「交友 」だった のだ 、と 思ったら 、さすが に いい 気持 は しません でした が 、しかし また 、堀木 が 自分 を そのように 見て いる の も 、もっともな 話 で 、自分 は 昔 から 、人間 の 資格 の 無い みたいな 子供 だった のだ 、やっぱり 堀木 に さえ 軽蔑 せられて 至 当 な の かも 知れ ない 、と 考え 直し、

「罪。 罪 の アントニム は 、何 だろう。 これ は 、むずかしい ぞ」

と 何気無 さ そうな 表情 を 装って 、言う のでした。

「法律 さ」

堀木 が 平然と そう 答えました ので 、自分 は 堀木 の 顔 を 見直しました。 近く の ビル の 明滅 する ネオンサイン の 赤い 光 を 受けて 、堀木 の 顔 は 、鬼 刑事 の 如く 威厳 あり げ に 見えました。 自分 は 、つくづく 呆 あきれかえり、

「罪って の は 、君 、そんな もの じゃ ない だろう」

罪 の 対義語 が 、法律 と は! しかし 、世間 の 人 たち は 、みんな それ くらい に 簡単に 考えて 、澄まして 暮して いる の かも 知れません。 刑事 の いない ところ に こそ 罪 が うごめいて いる 、と。

「それ じゃあ 、なんだい 、神 か? お前 に は 、どこ か ヤソ 坊主 くさい ところ が ある から な。 いや味だ ぜ」

「まあ そんなに 、軽く 片づける な よ。 も 少し 、二 人 で 考えて 見よう。 これ は でも 、面白い テーマ じゃ ない か。 この テーマ に 対する 答 一 つ で 、その ひと の 全部 が わかる ような 気 が する のだ」

「まさか。 ……罪 の アント は 、善 さ。 善良なる 市民。 つまり 、おれ みたいな もの さ」

「冗談 は 、よそう よ。 しかし 、善 は 悪 の アント だ。 罪 の アント で は ない」

「悪 と 罪 と は 違う の かい?

「違う 、と 思う。 善悪 の 概念 は 人間 が 作った もの だ。 人間 が 勝手に 作った 道徳 の 言葉 だ」

「うる せ え なあ。 それ じゃ 、やっぱり 、神 だろう。 神 、神。 なんでも 、神 に して 置けば 間違い ない。 腹 が へった なあ」

「いま 、した で ヨシ子 が そら 豆 を 煮て いる」

「あり が て え。 好物 だ」

両手 を 頭のう しろ に 組んで 、仰向 あおむけ に ごろり と 寝ました。

「君 に は 、罪 と いう もの が 、まるで 興味 ない らしい ね」

「そりゃ そう さ 、お前 の ように 、罪人 で は 無い んだ から。 おれ は 道楽 は して も 、女 を 死な せたり 、女 から 金 を 巻き上げたり なんか は し ねえ よ」

死な せた ので は ない 、巻き上げた ので は ない 、と 心 の 何 処 どこ か で 幽 かな 、けれども 必死の 抗議 の 声 が 起って も 、しかし 、また 、いや 自分 が 悪い のだ と すぐに 思いかえして しまう この 習 癖。

自分 に は 、どうしても 、正面切って の 議論 が 出来ません。 焼酎 の 陰 鬱 な 酔い の ため に 刻一刻 、気持 が 険しく なって 来る の を 懸命に 抑えて 、ほとんど 独り ごと の ように して 言いました。

「しかし 、牢屋 ろうや に いれられる 事 だけ が 罪 じゃ ない んだ。 罪 の アント が わかれば 、罪 の 実体 も つかめる ような 気 が する んだ けど 、……神 、……救い 、……愛 、……光 、……しかし 、神 に は サタン と いう アント が ある し 、救い の アント は 苦悩 だろう し 、愛 に は 憎しみ 、光 に は 闇 と いう アント が あり 、善 に は 悪 、罪 と 祈り 、罪 と 悔い 、罪 と 告白 、罪 と 、……嗚呼 ああ 、みんな シノニム だ 、罪 の 対語 は 何 だ」

「ツミ の 対語 は 、ミツ さ。 蜜 みつ の 如く 甘し だ。 腹 が へった なあ。 何 か 食う もの を 持って来い よ」

「君 が 持って 来たら いい じゃ ない か!

ほとんど 生れて はじめて と 言って いい くらい の 、烈 しい 怒り の 声 が 出ました。

「ようし 、それ じゃ 、した へ 行って 、ヨシ ちゃん と 二 人 で 罪 を 犯して 来よう。 議論 より 実地 検分。 罪 の アント は 、蜜 豆 、いや 、そら 豆 か」


第 三 の 手記 二 (1) だい|みっ||しゅき|ふた Third Memorandum 2 (1) Tercera nota ii (1). 제 3의 수기 2 (1) Terceira nota ii (1). Üçüncü not ii (1). 第三注2 (1) 第三註2 (1)

堀木 と 自分。 ほりき||じぶん

互いに 軽蔑 けいべつ し ながら 附 き 合い 、そうして 互いに 自 みずから を くだらなく して 行く 、それ が この世 の 所 謂 「交友 」と いう もの の 姿 だ と する なら 、自分 と 堀木 と の 間柄 も 、まさしく 「交友 」に 違い ありません でした。 たがいに|けいべつ||||ふ||あい||たがいに|じ|||||いく|||このよ||しょ|い|こうゆう|||||すがた|||||じぶん||ほりき|||あいだがら|||こうゆう||ちがい|あり ませ ん|

自分 が あの 京 橋 の スタンド ・バア の マダム の 義 侠心 ぎ きょうしん に すがり 、(女 の ひと の 義 侠心 なんて 、言葉 の 奇妙な 遣い 方 です が 、しかし 、自分 の 経験 に 依る と 、少く と も 都会 の 男女 の 場合 、男 より も 女 の ほう が 、その 、義 侠心 と でも いう べき もの を たっぷり と 持って いました。 じぶん|||けい|きょう||すたんど|||||ただし|きょうこころ|||||おんな||||ただし|きょうこころ||ことば||きみょうな|つかい|かた||||じぶん||けいけん||よる||すくなく|||とかい||だんじょ||ばあい|おとこ|||おんな|||||ただし|きょうこころ|||||||||もって|い ました I clung to the chivalrous spirit of that Kyobashi stand-up madam (a woman's chivalrous spirit is a strange way of using words, but according to my own experience, it's a little less than that. In the case of both men and women in the city, the women had more of that chivalrous spirit than the men. 男 はたいてい 、おっかなびっくり で 、お ていさい ばかり 飾り 、そうして 、ケチ でした )あの 煙草 屋 の ヨシ子 を 内縁 の 妻 に する 事 が 出来て 、そうして 築地 つ きじ 、隅田 川 の 近く 、木造 の 二 階建て の 小さい アパート の 階下 の 一室 を 借り 、ふた り で 住み 、酒 は 止めて 、そろそろ 自分 の 定った 職業 に なり かけて 来た 漫画 の 仕事 に 精 を 出し 、夕食 後 は 二 人 で 映画 を 見 に 出かけ 、帰り に は 、喫茶 店 など に はいり 、また 、花 の 鉢 を 買ったり して 、いや 、それ より も 自分 を しん から 信頼 して くれて いる この 小さい 花嫁 の 言葉 を 聞き 、動作 を 見て いる の が 楽しく 、これ は 自分 も ひょっとしたら 、いまに だんだん 人間 らしい もの に なる 事 が 出来て 、悲惨な 死に 方 など せ ず に すむ ので は なかろう か と いう 甘い 思い を 幽 か に 胸 に あたため はじめて いた 矢先 に 、堀木 が また 自分 の 眼前 に 現われました。 おとこ|はたいて い||||||かざり|||||たばこ|や||よしこ||ないえん||つま|||こと||できて||ちくち|||すみた|かわ||ちかく|もくぞう||ふた|かいだて||ちいさい|あぱーと||かいか||いっしつ||かり||||すみ|さけ||とどめて||じぶん||てい った|しょくぎょう||||きた|まんが||しごと||せい||だし|ゆうしょく|あと||ふた|じん||えいが||み||でかけ|かえり|||きっさ|てん|||||か||はち||かったり||||||じぶん||||しんらい|||||ちいさい|はなよめ||ことば||きき|どうさ||みて||||たのしく|||じぶん|||||にんげん|||||こと||できて|ひさんな|しに|かた||||||||||||あまい|おもい||ゆう|||むね|||||やさき||ほりき|||じぶん||がんぜん||あらわれ ました

「よう! 色 魔。 いろ|ま おや? これ でも 、いくらか 分別 くさい 顔 に なりや がった。 |||ぶんべつ||かお||| Even this made her look somewhat sensible. きょう は 、高 円 寺 女史 から の お 使者 なんだ が ね」 ||たか|えん|てら|じょし||||ししゃ||| Today is a messenger from Ms. Koenji."

と 言い かけて 、急に 声 を ひそめ 、お 勝手で お 茶 の 仕度 を して いる ヨシ子 の ほう を 顎 あご で しゃくって 、大丈夫 かい? |いい||きゅうに|こえ||||かってで||ちゃ||したく||||よしこ||||あご|||しゃく って|だいじょうぶ| と たずねます ので、 |たずね ます|

「かまわ ない。 何 を 言って も いい」 なん||いって||

と 自分 は 落ちついて 答えました。 |じぶん||おちついて|こたえ ました

じっさい 、ヨシ子 は 、信頼 の 天才 と 言いたい くらい 、京 橋 の バア の マダム と の 間 は もとより 、自分 が 鎌倉 で 起した 事件 を 知らせて やって も 、ツネ子 と の 間 を 疑わ ず 、それ は 自分 が 嘘 が うまい から と いう わけで は 無く 、時に は 、あからさまな 言い 方 を する 事 さえ あった のに 、ヨシ子 に は 、それ が みな 冗談 と しか 聞きとれ ぬ 様子 でした。 |よしこ||しんらい||てんさい||いい たい||けい|きょう|||||||あいだ|||じぶん||かまくら||おこした|じけん||しらせて|||つねこ|||あいだ||うたがわ||||じぶん||うそ||||||||なく|ときに|||いい|かた|||こと||||よしこ||||||じょうだん|||ききとれ||ようす| In fact, I would like to say that Yoshiko is a genius of trust. It wasn't because he was a good liar, and even though he sometimes spoke bluntly, Yoshiko could only take it as a joke.

「相 変ら ず 、しょって いやがる。 そう|かわら||しょ って| "As always, I hate it. なに 、たいした 事 じゃ ない が ね 、たまに は 、高 円 寺 の ほう へ も 遊び に 来て くれって いう 御 伝言 さ」 ||こと|||||||たか|えん|てら|||||あそび||きて|くれ って||ご|でんごん|

忘れ かける と 、怪 鳥 が 羽ばたいて やって 来て 、記憶 の 傷口 を その 嘴 くちばし で 突き破ります。 わすれ|||かい|ちょう||はばたいて||きて|きおく||きずぐち|||くちばし|||つきやぶり ます たちまち 過去 の 恥 と 罪 の 記憶 が 、ありあり と 眼前 に 展開 せられ 、わ あっと 叫びたい ほど の 恐怖 で 、坐って おら れ なく なる のです。 |かこ||はじ||ざい||きおく||||がんぜん||てんかい|せら れ||あっ と|さけび たい|||きょうふ||すわって|||||

「飲もう か」 のもう| “Would you like a drink?”

と 自分。 |じぶん

「よし」

と 堀木。 |ほりき

自分 と 堀木。 じぶん||ほりき 形 は 、ふた り 似て いました。 かた||||にて|い ました そっくりの 人間 の ような 気 が する 事 も ありました。 |にんげん|||き|||こと||あり ました もちろん それ は 、安い 酒 を あちこち 飲み 歩いて いる 時 だけ の 事 でした が 、とにかく 、ふた り 顔 を 合せる と 、みるみる 同じ 形 の 同じ 毛並 の 犬 に 変り 降雪 の ちまた を 駈 け めぐる と いう 具合 い に なる のでした。 |||やすい|さけ|||のみ|あるいて||じ|||こと||||||かお||あわせる|||おなじ|かた||おなじ|けなみ||いぬ||かわり|こうせつ||||く|||||ぐあい|||| Of course, that was only when they were walking around drinking cheap alcohol, but anyway, when the two of them met face to face, they instantly changed into dogs of the same shape and the same coat and ran around the streets in the snow. I was going to be

その 日 以来 、自分 たち は 再び 旧交 を あたためた と いう 形 に なり 、京 橋 の あの 小さい バア に も 一緒に 行き 、そうして 、とうとう 、高 円 寺 の シヅ子 の アパート に も その 泥酔 の 二 匹 の 犬 が 訪問 し 、宿泊 して 帰る など と いう 事 に さえ なって しまった のです。 |ひ|いらい|じぶん|||ふたたび|きゅうこう|||||かた|||けい|きょう|||ちいさい||||いっしょに|いき|||たか|えん|てら||しずこ||あぱーと||||でいすい||ふた|ひき||いぬ||ほうもん||しゅくはく||かえる||||こと||||| From that day onwards, we rekindled old friendships, going to that little bar in Kyobashi together, and finally, the drunken two at Shizuko's apartment in Koenji. My dog even came to visit me and stayed overnight.

忘れ も 、しません。 わすれ||し ませ ん むし暑い 夏 の 夜 でした。 むしあつい|なつ||よ| 堀木 は 日 暮 頃 、よれよれの 浴衣 を 着て 築地 の 自分 の アパート に やって 来て 、きょう 或る 必要 が あって 夏 服 を 質 入 した が 、その 質 入 が 老母 に 知れる と まことに 具合 い が 悪い 、すぐ 受け 出したい から 、とにかく 金 を 貸して くれ 、と いう 事 でした。 ほりき||ひ|くら|ころ||ゆかた||きて|ちくち||じぶん||あぱーと|||きて||ある|ひつよう|||なつ|ふく||しち|はい||||しち|はい||ろうぼ||しれる|||ぐあい|||わるい||うけ|だし たい|||きむ||かして||||こと| Horiki came to his apartment in Tsukiji in the early evening, dressed in a shabby yukata. I'm sorry, I want to receive it right away, so please lend me the money anyway. あいにく 自分 の ところ に も 、お 金 が 無かった ので 、例 に 依って 、ヨシ子 に 言いつけ 、ヨシ子 の 衣類 を 質屋 に 持って行か せて お 金 を 作り 、堀木 に 貸して も 、まだ 少し 余る ので その 残金 で ヨシ子 に 焼酎 しょうちゅう を 買わせ 、アパート の 屋上 に 行き 、隅田 川 から 時たま 幽 か に 吹いて 来る どぶ 臭い 風 を 受けて 、まことに 薄汚い 納涼 の 宴 を 張りました。 |じぶん||||||きむ||なかった||れい||よって|よしこ||いいつけ|よしこ||いるい||しちや||もっていか|||きむ||つくり|ほりき||かして|||すこし|あまる|||ざんきん||よしこ||しょうちゅう|||かわせ|あぱーと||おくじょう||いき|すみた|かわ||ときたま|ゆう|||ふいて|くる||くさい|かぜ||うけて||うすぎたない|のうりょう||えん||はり ました Unfortunately, I didn't have any money either, so I ordered Yoshiko to take Yoshiko's clothes to a pawn shop to make some money, and even though I lent it to Horiki, I still had some money left over. With the rest of the money, I made Yoshiko buy some shochu, went up to the roof of my apartment, caught the occasional faint whiff of wind from the Sumida River, and set up a really dingy summer party.

自分 たち は その 時 、喜劇 名詞 、悲劇 名詞 の 当てっこ を はじめました。 じぶん||||じ|きげき|めいし|ひげき|めいし||あて っこ||はじめ ました At that time, we began to guess comedy nouns and tragic nouns. これ は 、自分 の 発明 した 遊 戯 で 、名詞 に は 、すべて 男性 名詞 、女性 名詞 、中性 名詞 など の 別 が ある けれども 、それ と 同時に 、喜劇 名詞 、悲劇 名詞 の 区別 が あって 然 る べきだ 、たとえば 、汽船 と 汽車 は いずれ も 悲劇 名詞 で 、市電 と バス は 、いずれ も 喜劇 名詞 、なぜ そう な の か 、それ の わから ぬ 者 は 芸術 を 談 ずる に 足ら ん 、喜劇 に 一 個 でも 悲劇 名詞 を さしはさんで いる 劇作家 は 、既に それ だけ で 落第 、悲劇 の 場合 も また 然り 、と いった ような わけな のでした。 ||じぶん||はつめい||あそ|ぎ||めいし||||だんせい|めいし|じょせい|めいし|ちゅうせい|めいし|||べつ||||||どうじに|きげき|めいし|ひげき|めいし||くべつ|||ぜん||||きせん||きしゃ||||ひげき|めいし||しでん||ばす||||きげき|めいし||||||||||もの||げいじゅつ||だん|||たら||きげき||ひと|こ||ひげき|めいし||||げきさくか||すでに||||らくだい|ひげき||ばあい|||しかり|||||

「いい かい? 煙草 は? たばこ|

と 自分 が 問います。 |じぶん||とい ます

「トラ。 とら (悲劇 トラジディ の 略)」 ひげき|||りゃく (Abbreviation for Tragedy Tragedy) "

と 堀木 が 言下 に 答えます。 |ほりき||げんか||こたえ ます

「薬 は? くすり|

「粉薬 かい? こなぐすり| 丸薬 かい? がんやく|

「注射」 ちゅうしゃ

「トラ」 とら

「そう かな? ホルモン 注射 も ある し ねえ」 ほるもん|ちゅうしゃ||||

「いや 、断然 トラ だ。 |だんぜん|とら| 針 が 第 一 、お前 、立派な トラ じゃ ない か」 はり||だい|ひと|おまえ|りっぱな|とら||| Needles come first, aren't you a splendid tiger?"

「よし 、負けて 置こう。 |まけて|おこう しかし 、君 、薬 や 医者 は ね 、あれ で 案外 、コメ (喜劇 コメディ の 略 )なんだ ぜ。 |きみ|くすり||いしゃ|||||あんがい|こめ|きげき|||りゃく|| 死 は? し|

「コメ。 こめ 牧師 も 和尚 おしょう も 然り じゃ ね」 ぼくし||おしょう|||しかり|| The pastor and Osho are the same. "

「大出 来。 おおいで|らい そうして 、生 は トラ だ なあ」 |せい||とら||

「ちがう。 それ も 、コメ」 ||こめ

「いや 、それでは 、何でも か でも 皆 コメ に なって しまう。 ||なんでも|||みな|こめ||| では ね 、もう 一 つ お たずね する が 、漫画 家 は? |||ひと||||||まんが|いえ| よもや 、コメ と は 言えません でしょう? |こめ|||いえ ませ ん|

「トラ 、トラ。 とら|とら 大 悲劇 名詞! だい|ひげき|めいし

「なんだ 、大 トラ は 君 の ほう だ ぜ」 |だい|とら||きみ||||

こんな 、下手な 駄洒落 だじゃれ みたいな 事 に なって しまって は 、つまらない のです けど 、しかし 自分 たち は その 遊 戯 を 、世界 の サロン に も 嘗 かつて 存 し なかった 頗 すこぶる 気 の きいた もの だ と 得意 がって いた のでした。 |へたな|だじゃれ|||こと|||||||||じぶん||||あそ|ぎ||せかい||さろん|||しょう||ぞん|||すこぶる||き||||||とくい|||

また もう 一 つ 、これ に 似た 遊 戯 を 当時 、自分 は 発明 して いました。 ||ひと||||にた|あそ|ぎ||とうじ|じぶん||はつめい||い ました それ は 、対義語 アントニム の 当てっこ でした。 ||たいぎご|||あて っこ| It was the guesswork of the antonym Antonim. 黒 の アント (対義語 アントニム の 略 )は 、白。 くろ|||たいぎご|||りゃく||しろ Black ant (abbreviation of antonym antonym) is white. けれども 、白 の アント は 、赤。 |しろ||||あか 赤 の アント は 、黒。 あか||||くろ

「花 の アント は? か|||

と 自分 が 問う と 、堀木 は 口 を 曲げて 考え、 |じぶん||とう||ほりき||くち||まげて|かんがえ

「ええっと 、花月 と いう 料理 屋 が あった から 、月 だ」 ええ っと|かげつ|||りょうり|や||||つき| "Well, there was a restaurant called Kagetsu, so it's the moon."

「いや 、それ は アント に なって いない。 むしろ 、同義語 シノニム だ。 |どうぎご|| 星 と 菫 すみれ だって 、シノニム じゃ ない か。 ほし||すみれ|||||| アント で ない」

「わかった 、それ は ね 、蜂 はち だ」 ||||はち||

「ハチ? はち

「牡丹 ぼたん に 、……蟻 ありか? ぼたん|||あり| "Are there ants in the peony peony?

「な あんだ 、それ は 画題 モチイフ だ。 ||||がだい|| ごまかしちゃ いけない」

「わかった! 花 に むら雲、……」 か||むらくも

「月 に むら雲 だろう」 つき||むらくも|

「そう 、そう。 花 に 風。 か||かぜ 風 だ。 かぜ| 花 の アント は 、風」 か||||かぜ

「まずい なあ 、それ は 浪花節 なにわぶし の 文句 じゃ ない か。 ||||なにわぶし|||もんく||| お さと が 知れる ぜ」 |さ と||しれる|

「いや 、琵琶 びわ だ」 |びわ||

「なお いけない。 花 の アント は ね 、……およそ この世 で 最も 花 らしく ない もの 、それ を こそ 挙げる べきだ」 か||||||このよ||もっとも|か|||||||あげる|

「だ から 、その 、……待てよ 、な あんだ 、女 か」 |||まてよ|||おんな|

「ついでに 、女 の シノニム は? |おんな|||

「臓物」 ぞうもつ

「君 は 、どうも 、詩 ポエジイ を 知ら ん ね。 きみ|||し|||しら|| それ じゃあ 、臓物 の アント は? ||ぞうもつ|||

「牛乳」 ぎゅうにゅう

「これ は 、ちょっと うまい な。 その 調子 で もう 一 つ。 |ちょうし|||ひと| 恥。 はじ オント の アント」

「恥知らず さ。 はじしらず| 流行 漫画 家 上司 幾 太」 りゅうこう|まんが|いえ|じょうし|いく|ふと Trendy cartoonist boss Ikuta "

「堀木 正雄 は? ほりき|まさお|

この 辺 から 二 人 だんだん 笑え なく なって 、焼酎 の 酔い 特有の 、あの ガラス の 破片 が 頭 に 充満 して いる ような 、陰 鬱 な 気分 に なって 来た のでした。 |ほとり||ふた|じん||わらえ|||しょうちゅう||よい|とくゆうの||がらす||はへん||あたま||じゅうまん||||かげ|うつ||きぶん|||きた|

「生意気 言う な。 なまいき|いう| おれ は まだ お前 の ように 、繩目 の 恥 辱 など 受けた 事 が 無えんだ」 |||おまえ|||なわめ||はじ|じょく||うけた|こと||むえんだ

ぎょっと しました。 |し ました 堀木 は 内心 、自分 を 、真人 間 あつかい に して い なかった のだ 、自分 を ただ 、死に ぞ こない の 、恥知らずの 、阿 呆 の ばけもの の 、謂 いわば 「生ける 屍 しかばね 」と しか 解して くれ ず 、そうして 、彼 の 快楽 の ため に 、自分 を 利用 できる ところ だけ は 利用 する 、それっきり の 「交友 」だった のだ 、と 思ったら 、さすが に いい 気持 は しません でした が 、しかし また 、堀木 が 自分 を そのように 見て いる の も 、もっともな 話 で 、自分 は 昔 から 、人間 の 資格 の 無い みたいな 子供 だった のだ 、やっぱり 堀木 に さえ 軽蔑 せられて 至 当 な の かも 知れ ない 、と 考え 直し、 ほりき||ないしん|じぶん||まこと|あいだ|||||||じぶん|||しに||||はじしらずの|おもね|ぼけ||||い||いける|しかばね||||かいして||||かれ||かいらく||||じぶん||りよう|||||りよう||||こうゆう||||おもったら||||きもち||し ませ ん|||||ほりき||じぶん|||みて|||||はなし||じぶん||むかし||にんげん||しかく||ない||こども||||ほりき|||けいべつ|せら れて|いたる|とう||||しれ|||かんがえ|なおし

「罪。 ざい 罪 の アントニム は 、何 だろう。 ざい||||なん| これ は 、むずかしい ぞ」

と 何気無 さ そうな 表情 を 装って 、言う のでした。 |なにげな||そう な|ひょうじょう||よそおって|いう|

「法律 さ」 ほうりつ|

堀木 が 平然と そう 答えました ので 、自分 は 堀木 の 顔 を 見直しました。 ほりき||へいぜんと||こたえ ました||じぶん||ほりき||かお||みなおし ました 近く の ビル の 明滅 する ネオンサイン の 赤い 光 を 受けて 、堀木 の 顔 は 、鬼 刑事 の 如く 威厳 あり げ に 見えました。 ちかく||びる||めいめつ||||あかい|ひかり||うけて|ほりき||かお||おに|けいじ||ごとく|いげん||||みえ ました 自分 は 、つくづく 呆 あきれかえり、 じぶん|||ぼけ|

「罪って の は 、君 、そんな もの じゃ ない だろう」 ざい って|||きみ|||||

罪 の 対義語 が 、法律 と は! ざい||たいぎご||ほうりつ|| しかし 、世間 の 人 たち は 、みんな それ くらい に 簡単に 考えて 、澄まして 暮して いる の かも 知れません。 |せけん||じん|||||||かんたんに|かんがえて|すまして|くらして||||しれ ませ ん 刑事 の いない ところ に こそ 罪 が うごめいて いる 、と。 けいじ||||||ざい||||

「それ じゃあ 、なんだい 、神 か? |||かみ| お前 に は 、どこ か ヤソ 坊主 くさい ところ が ある から な。 おまえ||||||ぼうず|||||| いや味だ ぜ」 いやみだ|

「まあ そんなに 、軽く 片づける な よ。 ||かるく|かたづける|| も 少し 、二 人 で 考えて 見よう。 |すこし|ふた|じん||かんがえて|みよう これ は でも 、面白い テーマ じゃ ない か。 |||おもしろい|てーま||| この テーマ に 対する 答 一 つ で 、その ひと の 全部 が わかる ような 気 が する のだ」 |てーま||たいする|こたえ|ひと||||||ぜんぶ||||き|||

「まさか。 ……罪 の アント は 、善 さ。 ざい||||ぜん| 善良なる 市民。 ぜんりょうなる|しみん つまり 、おれ みたいな もの さ」

「冗談 は 、よそう よ。 じょうだん||| しかし 、善 は 悪 の アント だ。 |ぜん||あく||| 罪 の アント で は ない」 ざい|||||

「悪 と 罪 と は 違う の かい? あく||ざい|||ちがう||

「違う 、と 思う。 ちがう||おもう 善悪 の 概念 は 人間 が 作った もの だ。 ぜんあく||がいねん||にんげん||つくった|| 人間 が 勝手に 作った 道徳 の 言葉 だ」 にんげん||かってに|つくった|どうとく||ことば|

「うる せ え なあ。 それ じゃ 、やっぱり 、神 だろう。 |||かみ| 神 、神。 かみ|かみ なんでも 、神 に して 置けば 間違い ない。 |かみ|||おけば|まちがい| 腹 が へった なあ」 はら|||

「いま 、した で ヨシ子 が そら 豆 を 煮て いる」 |||よしこ|||まめ||にて|

「あり が て え。 好物 だ」 こうぶつ|

両手 を 頭のう しろ に 組んで 、仰向 あおむけ に ごろり と 寝ました。 りょうて||ずのう|||くんで|あおむ|||||ね ました

「君 に は 、罪 と いう もの が 、まるで 興味 ない らしい ね」 きみ|||ざい||||||きょうみ|||

「そりゃ そう さ 、お前 の ように 、罪人 で は 無い んだ から。 |||おまえ|||ざいにん|||ない|| おれ は 道楽 は して も 、女 を 死な せたり 、女 から 金 を 巻き上げたり なんか は し ねえ よ」 ||どうらく||||おんな||しな||おんな||きむ||まきあげたり|||||

死な せた ので は ない 、巻き上げた ので は ない 、と 心 の 何 処 どこ か で 幽 かな 、けれども 必死の 抗議 の 声 が 起って も 、しかし 、また 、いや 自分 が 悪い のだ と すぐに 思いかえして しまう この 習 癖。 しな|||||まきあげた|||||こころ||なん|しょ||||ゆう|||ひっしの|こうぎ||こえ||おこって|||||じぶん||わるい||||おもいかえして|||なら|くせ

自分 に は 、どうしても 、正面切って の 議論 が 出来ません。 じぶん||||しょうめんきって||ぎろん||でき ませ ん 焼酎 の 陰 鬱 な 酔い の ため に 刻一刻 、気持 が 険しく なって 来る の を 懸命に 抑えて 、ほとんど 独り ごと の ように して 言いました。 しょうちゅう||かげ|うつ||よい||||こくいっこく|きもち||けわしく||くる|||けんめいに|おさえて||ひとり|||||いい ました

「しかし 、牢屋 ろうや に いれられる 事 だけ が 罪 じゃ ない んだ。 |ろうや|||いれ られる|こと|||ざい||| 罪 の アント が わかれば 、罪 の 実体 も つかめる ような 気 が する んだ けど 、……神 、……救い 、……愛 、……光 、……しかし 、神 に は サタン と いう アント が ある し 、救い の アント は 苦悩 だろう し 、愛 に は 憎しみ 、光 に は 闇 と いう アント が あり 、善 に は 悪 、罪 と 祈り 、罪 と 悔い 、罪 と 告白 、罪 と 、……嗚呼 ああ 、みんな シノニム だ 、罪 の 対語 は 何 だ」 ざい|||||ざい||じったい||||き|||||かみ|すくい|あい|ひかり||かみ||||||||||すくい||||くのう|||あい|||にくしみ|ひかり|||やみ||||||ぜん|||あく|ざい||いのり|ざい||くい|ざい||こくはく|ざい||ああ|||||ざい||ついご||なん|

「ツミ の 対語 は 、ミツ さ。 ||ついご||みつ| 蜜 みつ の 如く 甘し だ。 みつ|||ごとく|あまし| 腹 が へった なあ。 はら||| 何 か 食う もの を 持って来い よ」 なん||くう|||もってこい|

「君 が 持って 来たら いい じゃ ない か! きみ||もって|きたら||||

ほとんど 生れて はじめて と 言って いい くらい の 、烈 しい 怒り の 声 が 出ました。 |うまれて|||いって||||れつ||いかり||こえ||で ました

「ようし 、それ じゃ 、した へ 行って 、ヨシ ちゃん と 二 人 で 罪 を 犯して 来よう。 |||||おこなって|よし|||ふた|じん||ざい||おかして|こよう "Let's go, then, let's go and sin together with Yoshi-chan. 議論 より 実地 検分。 ぎろん||じっち|けんぶん 罪 の アント は 、蜜 豆 、いや 、そら 豆 か」 ざい||||みつ|まめ|||まめ|